樹ちゃん後輩がネタに振り切った感じの戦い方をします(ネタバレ)
巨大バーテックス、つまりは星座型と神世紀勇者の戦いは熾烈を極めると西暦勇者達は予想していた。
しかし、そんな事はない。神世紀勇者達にとって星座型バーテックスは一度戦った相手。攻略法などが既に分かっているバーテックスだ。そんな物を相手に今さら手間取る勇者達ではない。
「樹、夏凜! あいつの攻撃方法、覚えているわね!?」
「もちろん! 忘れるほど印象薄い相手じゃないからね!」
「そんじゃ、あたしが封印を担当するわ! 攻撃封じは樹が、御霊破壊は風に任せるわ!」
「よし乗った!」
タウラス・バーテックス。それは樹にとっては最も嫌悪感を持つと言っても過言ではないほどのバーテックスだ。
音を武器とするバーテックス。そんな存在、音楽が好きな樹にとっては存在するだけで万死に値する存在。それの自由を、拘束や妨害、サポートを得意とする樹が許すわけもなく、ベルを雁字搦めにして音を封じる作戦に出――
「ワイヤーを纏めてそのクソみたいなベルに! これがわたしの!
拘束や妨害、サポートを得意とする樹が許すわけもなく、ベルを雁字搦めにして音を封じるという作戦に出た、のかと思いきや、まさかの物理。
ワイヤーを纏めて腕の形にしてから自分の腕で一度ベルを殴る。その一撃で一瞬ベルが鳴るが関係あるかと言わんばかりに右腕に作り上げた緑色の剛腕によってまさかのベルを物理で粉砕玉砕大喝采。
樹の
まさか物理で行くとは思っていなかった風と夏凜はその光景に呆然とするが、すぐに気を確かに持ち、攻撃手段を無くした……というか、多分まさか物理でベルを破壊されるとは思っていなかったためか困惑しているであろうタウラスの前で夏凜が双剣を地面に突き刺す。
「よ、よく分かんないけど封印開始! 出番よ、名誉部長!」
「任せなさい!!」
そして、封印開始。夏凜の言葉と同時に御霊が飛び出すが、タウラスは御霊の破壊によって倒したことは無い。アレは、レオ・スタークラスターの素材となったバーテックスだ。
まさか御霊が何もしてこない、というわけがない。故に、それを待ってから行動に移る……のではなく、既に風は跳躍して御霊が出るであろう場所に向かって落下しつつ巨大な大剣を構えている。
「何かさせると思ったか死ねぃ!!」
そして、御霊が出現すると同時に大剣の腹で押しつぶしながら。
「その御霊にも!
更に樹の
風の結構マジでドン引きした感じの「えぇ……」という言葉が聞こえてから暫くして樹も地面に着地。
「やっぱり横格特格派生こそが最も気持ちいい格闘……!!」
「あんたの妹は何言ってんのか説明してくんない?」
「さ、さぁ……アタシも樹の事全部知ってるわけじゃないし……」
もしかして友奈の勇者パンチ並みの破壊力してるんじゃ……という二人の想像を他所に樹はシャゲダンして消えていくタウラスを煽り、タウラスが完全に消えた辺りで西暦勇者の援護に飛ぶのであった。
そして一方、アリエス組は。
「一番槍乃木園子! いっくよ~!!」
まずは園子のチャージが開戦の合図となった。アリエスはその図体と体積を使い園子のチャージを質量の暴力で押し退けようとするものの、その程度で紫のエネルギーを纏った園子をどうにかできるわけもなく、園子のチャージはアリエスを貫通。
しかしアリエスは再生、増殖特化型。穴が空いた箇所から再生をはじめ、更に巨大になるために再生した箇所を増殖させ始める。
アリエス・バーテックスは特に勇者達にとっては印象が深くないバーテックスだ。故に、まずは一撃浴びせてどんな能力だったかを思い出す事にしたのだが、その結果がこれだ。やっちまった、と一瞬だけ園子が苦笑するが、すぐに自分の失態は自分で取り戻すために槍を両手で握る。
「グルグルっと!」
増殖するのなら、それ以上の速さで切り刻んでしまえばいい。両手で握った槍をブン回し、そこに自身の満開ゲージのエネルギーを二割乗せることにより巨大な斬撃の竜巻を発生させる。
その斬撃の竜巻がアリエスの体を再生と増殖以上の速さで切り刻み、一切の自由を与えない。
最早一方的な蹂躙とも言える光景だが、しかし星座型は御霊を破壊するか全身を細切れにして粉砕するか、御霊ごと全身を破壊するか。少なくとも、勇者一人だけでは封印の儀を使わないとそこそこ苦戦する相手だ。
だからこそ、封印のために一人がソレを見上げながら地面に武器を突きさす。
「封印の儀、やるぞ!」
「おうよ! 後は任せな!」
完全防御特化故に精霊バリア有りの状態ではあまり役に立てないハゲ丸。彼が自身の武器を地面に突き刺し、封印の儀を開始する。適材適所の役割分担。攻撃に参加できないのなら、攻撃役を引き立てるためのサポートに入ればいい。
ハゲ丸の声に呼応しシステムが起動し、封印の儀が開始される。
再生、増殖を繰り返していたアリエスだったが、封印の儀によって御霊を露出させられたことにより一時的に体の再生、増殖がストップ。更にそこから御霊が動きを見せようとするが、園子の斬撃の竜巻がそれを許さない。
「ここは友奈に習って! 勇者ァ! スラッシュッ!!」
そこに精霊バリア任せに割り込んだ銀の炎の斬撃が御霊をバツ字に斬り裂く。
直後、園子が槍を振り回すのを止め、全力で槍を御霊の上空へ向けて投擲。それを跳躍で追いかけ空中で掴み、余剰エネルギーを纏いながら空中で加速しつつの落下。
「おまけだよ!」
落下した園子はそのまま御霊を貫き、地面に着弾。紫の光の柱を生み出し、その中から軽やかに園子が飛び出し生還する。
「我らが隊長様はやる事が派手だねぇ」
「見てて惚れ惚れする暴れっぷりだな」
「これでも最終兵器なので~」
最早園子に勇者としての常識は通用しない。かつて自身の力と同義である精霊は烏天狗一体のみになってしまったが、それを補うセンスと戦闘スタイルが未だに園子を最終兵器たらしめている。
マトモな星座型バーテックス戦なんて三年ぶりになるのに、相も変わらずお強い隊長とハイタッチをした先代組三人は、休憩の時間なんて惜しいと即座に少し遠くで戦う西暦組の援護のために駆けるのだった。
そして、最後のバーテックス、アクエリアスの方は。
「友奈ちゃん、水球の方は私に任せて全力で走って!」
「了解! それじゃあ遠慮なく行くよ!!」
両手両足に炎を纏わせ駆ける友奈と、その後ろから弓を構える
アクエリアスの攻撃方法は、美森の記憶の中で未だに残り続けている。
勇者を捕らえそのまま溺死させる、味が七変化する水球。そして、消防車なんて目じゃないほどの放水。シンプル故に強力なその攻撃を使い分けるアクエリアスは地上戦を行う勇者にとっては戦いやすいとは言えない相手だ。
しかし、美森からしたらアクエリアス戦は累計三回目。友奈だって二回目だ。今さら初見殺しでしかないそれに負ける程二人は弱くない。
故に、アクエリアスが飛ばしてくる勇者を捕らえ溺れさせるための水球を、美森はエネルギーを完全にチャージした矢を放ち、それを水球の寸前で爆散させる事により水球を吹き飛ばす。
「私とあなたの相性が悪いって事なんて、とっくに知ってるのよ。まぁ、だからと言ってむざむざと友奈ちゃんに傷を付ける程弱い女ではないのだけどね」
しかし、弓矢のエネルギーチャージにはスペックアップがあるとはいえ約三秒ほどの時間が必要となる。それを待っていては、いつか相手の水球の物量差に負けて友奈が水の中に捕らわれてしまう。
いつかの意趣返しは成功に終わったので、弓矢は一度消し、今度はライフルを取り出す。
弾薬無限、しかしボルトアクションを行わなければ撃てないライフル。ならば、高速で照準を合わせて撃ち、そして高速でボルトアクションによるリロードを挟めばいいだけの事。友奈を狙う水球に向かい一撃放ち、そして即座にボルトハンドルを持ち上げて引き、空薬莢が排出されたのを確認してからボルトハンドルを押し込み下げる。そして、一瞬で狙いを付けて銃撃。
ライフルのエネルギー弾により水球が弾け、アクエリアスはこれでは友奈を近づけるだけだと理解したのか、水をチャージし、それを放射して友奈を吹き飛ばさんとする。
それに気が付いた美森がライフルの照準をアクエリアス本体へと変えるが、友奈は美森へ向かって一度手を上げ、そして右側から回り込むようにハンドサインを送る。友奈の意図を理解した美森はライフルを消し拳銃を手に走り、友奈へ向かって圧縮された水が放たれる。
「迎撃の! 勇者キック!!」
それに対し友奈が行ったのは、回避ではなく迎撃。走る勢いをそのままに回転し、そのまま炎を纏った回し蹴りを射出される水へと放った。
炎と水のぶつかり合い。それを制したのは友奈の炎であり、数秒の拮抗の後に友奈の蹴りが水を打ち砕き、即座に友奈がアクエリアスへと距離を詰めにかかる。流石にマズいと思ったアクエリアスは第二射の準備をするが。
「二度目はないわよ」
美森の言葉と同時に、上空から拳銃の弾丸が降り注ぎアクエリアスを囲う陣となる。
即ち。
「封印開始!」
封印の儀の開始である。
弾丸を地面に打ち込むことによる封印の儀。ぶっつけ本番だったが、やっぱり気合を込めて叫べばどうにでもなってしまうらしい。その事実にやっぱり勇者システムって気合で何とかなるところ多いなぁ、なんて思いつつも自身は拳銃をもう一度構え、腕を振るいながら銃弾を放ってそれを遠隔操作し、御霊へと叩き込む。
だが、やはり硬い。削れる事には削れるが、ライフル並みの火力が無いと貫く事はできない。
仕方ない、と拳銃を下ろした美森はそのまま諦める……のではなく、大技の準備を終えた友奈へと視線を移し、行く末を見守る。
「何かされる前に、何かする!!」
叫びながら友奈が跳躍。そして飛び蹴りを御霊に叩き込み、御霊を文字通り蹴り飛ばす。
その御霊に炎を噴出して空中で追いつき、右腕に炎を纏わせながら蹴りで今度は空へと飛ばす。そして再び炎を噴出し、それに追いついてから蹴り飛ばし、更にソレに追いつき蹴り飛ばす。
例え何をされようとも関係ない。高速で移動しながら蹴りを浴びせ、そのまま友奈と御霊が空へと昇っていく。
御霊は破壊できないが、しかし友奈の右手は赤熱化し、真っ赤な光を纏った状態へと変貌する。明らかに触ったら火傷どころでは済まない程の火力。それを右手に携えたまま、仕上げのため御霊の上空を陣取り。
「燃え尽きろッ! ライジング、メテオッ!!」
そのまま回転し落下しながら炎により加速。そして踵落としを御霊へと叩き込み、そのまま地面へと御霊を叩きつける。
土煙が舞うが、しかし友奈には分かる。まだ御霊は破壊できていない。まだ足りない。
だからこそ、右腕の炎をぶつける。
土煙の中でも分かる程煌々と燃え盛る右腕を振りかぶり、そして落下のエネルギーを自身の拳の力に加えて。
「バニシングッ! 勇者パンチッ!!」
それを全力で叩き込む。
炎どころかマグマ。いや、それ以上の何かへと変貌した炎を叩き込まれた御霊はそのまま灰も残さず消え去り、そして樹海の中に超巨大な炎の柱が舞い上がる。舞い、煙となった土すらも燃やし尽くす炎の中から、友奈は悠然と歩いて姿を現した。
「やだ、友奈ちゃんカッコいい……」
そんな友奈にメロメロズキューンな美森。
もう完全にやってる事がスーパーロボット大戦とかそこら辺の友奈の技は確かにカッコ良かった。本人も結構ドヤ顔して決まった……! とか思っているくらいなのだから、それはそれはもう綺麗に決まった。
「ふふーん! ちょっと張り切ってみちゃいました!」
「とってもカッコ良かったわ、友奈ちゃん! カメラで撮って映像で残しておきたいほど凄かったわ!」
「えへへ~。どんなもんだい!」
まぁ、なんやかんやで息はピッタリな親友コンビ。互いに笑いながら健闘を称え合い、そして暫くしてから視線を西暦勇者達の方へと移す。
「よし、じゃああっちもやっちゃおっか!」
「えぇ。私と友奈ちゃんのコンビなら、星屑だろうとなんだろうと瞬殺よ」
「もちろん!」
ならば、後は残った物を倒すだけ。ハイタッチし、二人はもう四分の一程度にまで減った星屑達と戦う西暦勇者と、それに混ざろうとする神世紀勇者達と合流し、星屑達を進化体にする事無く蹂躙するのであった。
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「なんというか……改めて見ると分かるが、未来の勇者システムはこれほどまで強化されているんだな」
「みたいですねぇ。映像で見てるだけですけど、なんというか、タダでさえファンタジーなのにもっとファンタジーになってる感じがします」
「結城さんのファイヤーなんて特に顕著よねぇ。あんなファイヤーピラー、初めてみたわ」
「無理に英語使わなくてもいいんだよ……? 確かに結城さんの火柱もそうですけど、園子さんの竜巻とか、樹ちゃんの拳とか、明らかに異次元レベルと言うか……」
神世紀勇者達の戦闘の記録は、大社の謎技術によりしっかりと録画されており、若葉、ひなた、歌野、水都はそれを若葉の部屋に備え付けてあるテレビで再生して確認していた。勿論大社もこっそりとそれを確認しており、なんとか解析して西暦勇者の力としようとしているらしいが、果たしてどうなる事やら。
一応若葉達も自分達が戦っている横で起きていた悲惨とも言えるバーテックス蹂躙劇を後学のため、そして星座型バーテックスの驚異を知るために確認していたのだが、未来の勇者達の力はそれを確認させる前に倒してしまう程だった。
能力差もあるが、しかし経験の差もある。伊達に一度世界をバーテックスから救っていない、という事だろう。
「うーむ……しかし、この封印の儀とやらはこちらでも使えるようにしておきたいな。未来の勇者達が居ない間の万が一もある」
そして、何よりも特徴的なのは封印の儀、だろう。
神世紀でさえ、先代組ではなく讃州組の代からでしか実装させる事ができなかったソレを西暦勇者が使えるようになれば、確かに強力な武器となる。個々でも集団でも負ける西暦勇者からしたら、弱点を露出させ、それを破壊する事で星座型の撃破が可能となる武器は魅力的だ。
だが使えるようになったからと言って、という部分もある。
御霊の硬度は明らかに異常とも呼べるほどだ。何せ、友奈のライジングメテオと称した一連の連撃をくらっても御霊は破壊されていないのだ。恐らく、進化体なら一撃目ですら粉砕されていてもおかしくないソレをくらっても、だ。
「でも、あのトライアングルを破壊できるかどうか……」
歌野のその言葉に若葉が唸り、巫女ンビもいい案は思い浮かばずに手を組んでいる。
源義経、一目連、七人御先、輪入道、雪女郎の五体の精霊に加えて歌野の精霊、覚、雪花の精霊、桂蔵坊、棗の精霊、水虎を使って八人の切り札攻撃を同時にぶつけてようやく壊れるか、という所。
高嶋の酒呑童子と、そして若葉と千景の使うなよ? 絶対使うなよ? と大社から全力で釘を刺された精霊の力を使えば、一人でだって破壊は可能かもしれないが、少なくともそれぞれが一度使った精霊の力では厳しい所があるだろう。
「切り札の後遺症が分かって、尚且つ対処が容易ならば切り札なんて使いたい放題なのだがなぁ……って、そういえば友奈はどうなった? あの後は確か球子と杏に縛られてドナドナされていったのしか記憶にないが」
「もちろん入院です。そして期間が伸びました」
「うん、まぁ……だろうなぁ。しかし、なんで友奈は急に変身して酒呑童子を使ってまで飛び出してきたのか……」
若葉の言葉に歌野はさぁ、と声を出し、ひなたもどうしてでしょう、と一言。
「もしかして切り札の後遺症って、心とか精神に異常を出すとか、そういうのなんじゃ……」
「それはないな。何故なら私がいつも通りだからだ。義経を使ったが特に異常はなかったぞ?」
「それもそうね。もしも精神汚染とかだったら若葉さんが今頃辻斬りになってるわ」
「おい歌野」
「若葉ちゃんならあり得ますねぇ」
「ひなた?」
「それもそうだね」
「水都? お前らまで私の事を野武士扱いか? というかとうとう辻斬り扱いか? なぁおい? いい加減私もキレるぞ? ん?」
なお、バチコリと水都の予想は当たっている模様。
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「うーん……」
「どうしたの? タマっち先輩」
「いや、なんかなぁ。あのデカいやつが出てきて、タマ達じゃもう勝てなくなってきたろ? 園子とかが来てくれたから何とかなってるけど、タマ達だけじゃ勝てないって思うとムカムカしてな」
「そうなの? いつものタマっち先輩ならこれなら安心だー、とか言いそうなのに」
「そりゃそうだけど、なんかこう、イライラすると言うか……変に劣等感を感じると言うか……あーもうむしゃくしゃする! 最近ずっとこんな感じだ! タマの空回りってのは頭では分かってんだけど、なんかこう、あーもう!!」
病院に高嶋を送り届けての帰り。杏はそんな球子の様子を見て、いっちょ前にそういう事考えてるんだ~、なんてちょっと微笑ましく思ったが、しかし球子の表情は本当にイライラしつくしているが、どこにそれをぶつければいいのか分からない。そんな感じだ。
言葉にできない感情に頭の中をしっちゃかめっちゃかにされて、神世紀からの援軍は素直に嬉しいし頼もしいが、それと同等程度に今までのように満足に戦えない。西暦の勇者だけじゃ世界を守れないという事実がどうしてか球子をむしゃくしゃさせる。
星屑達に神世紀勇者達の邪魔をさせない。多数を相手取る事が不得手な神世紀勇者達の代わりに自分達が多数を相手取る。そんな風に役割分担し、互いにwin-winの関係となっているのにも関わらず、球子の心の中はむしゃくしゃと。
「っつか千景も千景だ! あんな強い奴等と知り合いなら最初から連れてこればいいのに!」
「千景さんもそれは言ってたじゃん。自分だけが元の時代に置き去りにされて園子さん達と連絡を取る手段が無かったって」
「勿論分かってる! 分かってるから仕方ないって思ってるんだけど、それ以上に言わずにはいられないんだ! っていうかこうやって他人の悪口言っちまうタマ自身にもイライラする!!」
最早自分で自分の心の整理ができていない。自分の髪を掻き毟りながらとりあえず思った事を口にして叫ぶ球子の様子は、流石に杏から見ても異常と捉えられる物だ。
楽観主義で、楽しい事優先で、他人の喜びを自分の喜びのように感じ取れる球子がこうも他人と自分にイライラしている。確かに他人のやった卑劣な事や卑怯な事、嫌らしい事にイライラして怒る事もあったが、少なくとも今までの球子は今口に出した事にイラつくような性格ではなかった。
「まぁまぁ、タマっち先輩。偶にはそういう時もあるよ。だから落ち着いて?」
「うるさい! 落ち着いてられ……あっ」
そして、最終的にはそれを落ち着けようとした杏にすら怒鳴りつける。
途中で我に返りやってしまったと言わんばかりの表情を浮かべ、そのまま視線を右往左往させてから俯く。
「……ご、ごめん。やっぱ今のタマ、どこか変だ」
それは杏から見ても分かる事。
だからこそ、大丈夫だよ、と杏は球子に笑う。そして、ついでに。
「ちなみにタマっち先輩がそうやってイライラし始めたのって、いつから?」
「んー……多分、園子達が来てから。なんかそこら辺から急にイライラし始めて口数も減るし……楽しい時は楽しめるんだぞ? だけど、ふと考えるとイライラし始めて……」
球子が自身でそういう苛立ちを自覚し始めた時期を聞き。
「ちなみに、夢見が悪かったりは?」
「え? そういえば、そこら辺からほぼ毎日変な夢見てる。その前は時々見る程度だったけど、なんでわかったんだ?」
「なんとなーくかなぁ……」
なんとなくで質問してみたが、まさかのビンゴ。
球子がちょっとした事にイライラし始めたのはここ最近の戦闘。つまり、二回目の切り札を使ってから。そして、夢見が悪いというのは千景が切り札を使った後に口にした言葉だ。本人はあんまり気にしていないようだったが、杏は特に夢見が悪いとかは無かったので気にすることは無かった。
と、いう事は、だ。
「切り札の後遺症は、やっぱり人の内面に出てくるって感じかな……」
少なくとも、切り札の後遺症は人体に影響を与えるものではない。杏だって十秒ほど切り札を使ったが、その十秒は莫大な疲労感を生んだ。その疲労感が切り札の後遺症なのではないか、とも思った事はあるが、それでは力の割に合わない。
そして、それは表面にあらわれるものではない。となれば、内面に影響を与えると考えるのが一番いいだろう。
とすれば。
「それじゃあタマっち先輩。一度大社が管理してる精神病院行こうか」
「ん? 喧嘩か? よし買ったぞ。どこでバトる? あんずにゃ負けんぞ?」
「あ、ごめん、普通に言葉不足だった。とりあえず、切り札の後遺症が精神状態を悪化させてるかもだから、一度検査に行こうってだけだよ。多分、普通の検査じゃ分からないと思うけど、一応ね?」
「え? あー……あー。そういう事か。それでバチ当たりしてる気がする」
「どうだろうね? わたしもとりあえず検査してもらうから」
野武士と陰キャは……まぁ、多分検査しても特に異常なしと出るので、多分球子を連れて行くのが一番いいだろう。
だが、もしも精神状態を悪化させる。つまりは負の感情を刺激するというのが切り札の後遺症だったとしたら。今の杏の考えがバッチリと当たっているとしたら。
普通の切り札よりも更に強力故に肉体への負担も大きかった酒呑童子を、短期間で二回も使った高嶋の精神状態は。そう考えると、一刻も早く切り札の後遺症を突き留め、必要であれば高嶋を精神病院の一角に隔離する必要まであるかもしれない。
少し残酷な事を考え始めている自分の思考回路は、果たして切り札の後遺症によるものなのか、それとも元来の物なのか。少し、杏は本来の自分が分からなくなった。
あんずん「タマっち先輩の精神状態おかしいから病院行こ?」
タマっち「は? キレそう」
最後は大体こんな感じ。
何気に切り札の影響が軽い感じで出ていたタマっち。まぁ、本人が言わなきゃそこら辺分からないからね、仕方ないね。でも普段が結構楽しいからイライラしている所はあんまり表に出ませんでした。
そして改めて神世紀勇者達の対星座型戦への特化っぷりに驚く西暦の面子。更に切り札の後遺症をみーちゃんがバチ当たりさせるの巻。何気に鋭いレズ。
次回からはいよいよたかしーの件が表に出初めて終わり始めます。
決着は……まぁ、ずっとここら辺の展開は考えてたので、あの人にやってもらいます。
今のたかしーと真正面から殴り合えるのなんてあの子だけだからね。