ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回からたかしーの心の闇をどうにかしに行きます。

正直、最後の場面あたりからの話が書きたかったからわざわざのわゆの最序盤からたかしーに闇埋め込みました。

反省も後悔もしていません。


闇の露出

 高嶋友奈という少女にとって、神秘と言うのは身近なモノだった。

 高嶋にとっての遊び場は公園や学校もそうだったが、近所にあった神社もそれにあたった。隠れる場所がいっぱいあって、広くて、なんだか空気も美味しく感じれて、神主も幼い子供である高嶋が笑顔で境内を駆けまわるのを多めに見てくれていた。

 そうやって毎日とは言わないが、かなりの頻度で神社に遊びに行っていたからなのだろうか。高嶋は、この四国においては神性の権化とも言える勇者となった。

 バーテックスは、怖かった。だけど、自分の拳が誰かを守れるんだと。何も無い普通の女の子だったけど、みんなを守れる『勇者』になったんだと。もう誰も傷つける事無く守り通せる最高最善にて最強の存在になったのだと。四国に来たばかりの頃は、そう思っていた。

 だが、現実は違った。

 たった一人の少女すら、守り切る事なんてできなかった。

 謂れのない悪意をぶつけられ、冤罪を押し付けられた彼女。そんな事態を巻き起こしたのは、紛れもなく高嶋だった。

 だって、大丈夫だって思った。勇者だから。彼女も勇者なのだから、そんな悪意をもうぶつけられることは無い。彼女の両親も、きっと勇者となり故郷を離れてから一度も顔を見せない彼女を心配している。だから、会いに行った方がいい。だって、もう悪意をぶつけてくる存在なんていないのだから

 そんな思惑から提案した行動は、彼女に悪意をぶつける結果となった。

 気にしていない。大丈夫。そう言うが、そうやって自分の心を偽る事なんて、高嶋は何度だってやってきた。バーテックスと戦って、怖くないから。戦い抜いて体を痛めても、居たくないよ。もう疲れたでしょ? と聞かれて、疲れてないよ。

 そうやって偽り続けて戦い抜いた高嶋だからこそ、きっと彼女は自身を偽っている。そう、思い込んだ。

 だから守りたかった。

 守って守って守り抜いて。例えどれだけ自分を傷つける事があっても、もう二度と彼女を傷つける事が無いようにと。そのために握った拳を散らされたのは、何度目か。

 しかし、やっと手に入れた。

 やっと気が付いた。

 最強の力、鬼の力に。使うなと言われていた理由はその身によく染みた。だけど、それ以上にその力に身を包むと全能感を感じる事ができた。

 なんでも守れる。なんでも倒せる。何度でも戦える。

 バーテックスという理不尽に弾き飛ばされていた高嶋にとって、鬼の力とはそれほどまでに崇高で最高で至高で、最強だった。

 だから、守れる。

 なんでも、何度でも、何があっても。

 一度傷つけてしまった彼女、千景を。これから先、ずっと、酒呑童子の力なら。

 

『それじゃあ、自分が何をすべきか。それってよーくわかるんじゃない?』

 

 声が聞こえる。

 甘い、甘い。まるで果実のようで、しかし酒のように体の内側へと浸透していく甘美の声が。

 

『ぐんちゃんを傷つける人は、みーんな殺さないと。じゃないと、あれは何度だってぐんちゃんを傷つけるよ?』

 

 あの村の人間だ。

 そして、マスコミだ。

 バーテックスだってそうだ。

 全部、全部殺さないと。

 潰して潰して、何もかもを壊さないと、人間は何度だって愚行を繰り返す。何度だって同じような事を叫ぶ。

 そうだ、バーテックスを信仰する人間も全部殺さないと。

 アレがいつ本格的に動いて千景を攻撃するかなんてわからない。だから、表面に出てくる前に潰さないと。

 全部、潰さないと。

 

『そうそう、それでいいんだよ。自分の事なんてどうでもいいんでしょ? じゃあ早くしないと。ほら、またそこら中からぐんちゃんを傷つける声が聞こえてくる。待っている時間なんてないんじゃない? 丁度大社の人も来たんだし。勇者システムと天の逆手の在処、吐かせないと』

 

 そうだ。

 全部、全部壊さないと。

 だから、そのために。

 

「高嶋様。伊予島様の命により、これより病院を移させてもらい」

「……どこ」

「はい?」

「わたしの携帯と、天の逆手。どこ」

「携帯と、天の……? いえ、それは高嶋様であれど教えられませぬ。今は一刻も早く傷を」

 

 大社の人間のスーツの胸倉を掴み、そして引き寄せて額に向かって頭突きを一度叩き込んで無理矢理黙らせる。

 まさか彼も勇者である彼女が。勇者内では最も優しいであろう彼女が急に暴力を振るうなんて考えられなかったようで、痛み以上に驚きで呆然としている。

 

「どこにあるか吐け! じゃないと、お前も殺す!!」

 

 そう叫ぶ高嶋の形相は、鬼と呼ぶのがピッタリな程、彼女らしくない形相だった。

 

 

****

 

 

 球子と杏の検査は約半日かかった。しかし、それだけ時間をかけてじっくりと検査した甲斐もあり、大社は切り札の後遺症の詳細を突き留める事ができた。

 

「切り札の後遺症は、言うならば瘴気です。使う度に体内に妖怪由来の良くない物が溜まっていき、人の心に悪影響を与えます。人の精神の強さによって影響は千差万別ですけど、タマっち先輩ですら二回で結構キてます。多分時間が経てばある程度はどうにかなるとは思いますが……ただ、良くない物が溜まれば良くない事が起きるのは確かです」

 

 後遺症の正体は、瘴気。つまりは人間の精神にとって良くない物だった。

 大社による神秘を用いた調査により、それが顕著に出始めていた球子からそうした要素が見つけ出され、そこから連鎖的に千景、若葉までもが検査された結果、切り札の後遺症がようやく判明したのだ。

 現在高嶋は病院を移し、なるべく高嶋を刺激しない、人が少ないが勇者は面会が可能な病院で酒呑童子を使った事による怪我を治療している最中である。

 だが、後遺症は分かった。ならば、それ相応に対策を立てれるという物だ。

 

「まぁ、近い内に勇者システムのアップデートも入る。未来の勇者達も手を貸してくれているし、なんとかなるさ」

「切り札切り札とは言うけど、あたし達は使った事ないしどうでもいいけどねぇ。むしろこっちに来て携帯渡されてからスペックアップして、更にスペックアップだもん。切り札なんて使う事もなく乗り切ってみせますわ」

「そうだな。使ってみたい気はするが、危険な物には変わりないというのなら、使うのは控えた方がいい」

 

 高嶋と千景を除く西暦勇者達は、その言葉に頷いた。ちなみに巫女ンビはそんな後遺症があって若葉と歌野に変な事があったら嫌だから、と猛烈に頷いている。

 今までの切り札は、後遺症は怖いが使わなければどうしようもない時に咄嗟に使う、というスタイルで切ってきた。しかし、近々入る防人システムを解析した事による勇者システムのアップデートがあれば、きっと進化体だって西暦勇者の素のスペックだって倒せるようにはなる。

 星座型は切り札を使わなければ厳しいが、しかしそれを倒すのはこれから先、神世紀勇者達の仕事となる。今、未来の勇者達は自分達の生活のために一度未来へと戻っているが、もう数日後からは園子の手筈によりお役目という名義で二人から三人の神世紀勇者が西暦へと常に滞在する事となる。

 つまり、西暦勇者達が切り札を使うタイミングは失われるのだ。

 

「まぁ、それならいいんだけど……そういえば千景は? ずっと見ないけど」

「千景さんなら未来に遊びに行ってますよ」

「雪花さん達も、遊びに行きたかったら遊びに行っていいですからね。大社には既に園子さんが話を付けてましたから」

「それじゃあ、後で遊びに行く事にする」

「わたしも遊びに行ってきます!」

「あんずが今考えていることを当ててやろう。三百年後の本が読みたいです! だ」

「球子、正解だ。私と模擬戦をやる権利をやろう」

「いらね」

「は? キレそう」

「キレそうなのはこっちだよ野武士。体動かしたいんなら未来の誰かとやってスペック差で蹂躙されてろ」

 

 喧嘩するほど仲がいい。それを表すかのようにカチンと来た若葉と球子が互いに椅子から立ち上がって荒ぶる鷹のポーズで相手を威嚇する。

 そんないつも通りの光景に雪花と棗を除くメンバーはいつものいつもの、と茶を飲み、雪花はいいぞーやれやれー、と完全に野次馬モード。そして棗は歌野が用意していたそばを啜って完全に自分の世界に入っている。

 そうやってやいのやいのとしていたせいか、若葉は自身の携帯が震えている事に気が付かなかった。高嶋が、勇者システムと天の逆手を強奪し、どこかへと向かったという大社からの緊急連絡に。

 

 

****

 

 

 一方その頃未来。

 ゴールデンウィークも終わり、いよいよ学校がまた始まったという日の放課後、千景は勇者部の部室に座り、ハゲ丸の作った菓子を食べていた。

 

「はぁ~…………ここに座って藤にぃのお菓子食べて東郷さんのお茶を飲むのがやっぱり一番落ち着くわ~……」

「まぁ、千景は最近頑張ってたからな。今日は依頼もないしゆっくりと休みな」

「やっぱりぐんちゃんも揃ってこその勇者部だよねぇ」

 

 ちなみに、千景がここに来るまでの間、学校内では急に見慣れない高校生が勇者部メンバーと共に来たという事で結構騒然としたが、そこら辺は園子さんがいい感じに全員言い包めてどうにかした。小学生の千景は愛媛の方に住んでいる祖父母の元へと引き取られ、今の高校生の千景は風の友人、という事になった。

 そうやって勇者部室に来る前に、一応千景はこの時代でお世話になった家庭教師こと安芸先生と、それから防人組にも顔を見せた。一週間ちょっとぶりに園子の部屋に顔を見せたら我が物顔でゲームをしていた千景を見て安芸先生は勿論ビックリしたが、すぐに事情を聞いて。

 

「乃木さん達だもの。そういう荒唐無稽な事をしてももう驚かないわ」

 

 と、言ってすぐに高校生の千景にも慣れた。

 安芸先生だって大赦の一員としてファンタジーに触れてきた人間だ。神様とか精霊とかある世界でタイムスリップは実在したんだ、と言われても、へぇ、そうなんだ程度で済んでしまう。

 故に、千景が実は三百年前の人間で、勇者で、三年間あっちで過ごしてきたので高校生になりましたと言われても普通に信じられた。

 

「それで、元の時代では元気にしてた? 勇者なんてロクな物じゃないけど、しっかりとやれてるの?」

「はい。この通り元気ですし、頼もしい仲間もできました。それに、安芸先生のおかげで勉強も何とかなってます」

「それなら良かった。教え子が元気で居てくれるのが、教師にとっては一番の幸せなんだから。バーテックスの相手は辛いでしょうけど、しっかりと自分達の幸せを勝ち取りなさい。それと、何かあったら私に相談しなさい。こう見えて私も大赦の職員で勇者の指導員をしていたのだから、微力にしかならないと思うけど、力になるわ」

「それじゃあ、その時は相談させてもらいます。安芸先生は、私の恩師ですから」

 

 安芸先生からしたら一週間程度だが、千景からしたら三年ぶりの対面。少し厳しい所もあるが、それ以上に優しい所が沢山ある安芸先生との会話は、やはりかなり弾んだ。

 それから暫くして千景は藤丸家にお邪魔した。どうやら防人組が今日は藤丸家に勢ぞろいしているらしく、それなら丁度いいという事で、なんやかんやでよく顔を合わせた防人組の元へと千景は顔を出した。

 勿論高校生になった千景を見て全員がビックリしたが、一応芽吹は夏凜からそこら辺の事情を聞かされており、しずく達も芽吹伝いでそれを聞いていたので、すぐに事情は理解した。

 

「そう、千景ちゃんはあっちで勇者をしてるのね。それに、話を聞いてる限りは諏訪の勇者さんも頑張ってるそうだし、元気そうなら何よりだわ」

「そうだよ千景ちゃん! 元気なら何よりだけど、怖かったら逃げていいんだからね! ちなみにわたしはめっちゃ逃げたから! 怖かったら逃げるのはいいんだよ!」

「それをしていいのは確実に逃げれる場所へと退避できる才能を持った雀さんだけですわ。にしても、三百年前……三百年前のカツオ料理なんて物も興味がありますわね!! 今度わたくし達も行かせていただきますわ!!」

「千景……美味しいラーメン、ある?」

「一応、この間来た北海道の勇者が、旭川ラーメンを作れるって聞いたわ。それに、ラーメンが大好物だって」

「旭川ラーメン……!! しかも同士まで……!! いつか絶対にラーメン食べに行く……!!」

「わたしは勇者や防人じゃないので応援しかできませんけど、頑張って応援しますね!」

「ありがとう、亜耶さん。今度、亜耶さんも西暦に遊びに来てちょうだい。巫女の仲間が二人いるの。きっと話が合うと思うわ」

「そうなんですか? なら、近い内に遊びに行きますね」

 

 一部の食に貪欲な人間が軽くハッスルしているが、勇者部に比べたら可愛いものなので普通に千景もその中で会話に華を咲かせていた。

 そんなこんながあり、朝と昼の時間を潰して千景は勇者部室へとやってきた。やはり夕方になると勇者部室で部活動に励むのがルーチンになっていたので、勇者部室に来るとなんだか落ち着くのだ。

 風が高校生になっても勇者部室に来るのと同じ原理……なのかもしれない。ちなみに風はまだ授業中で部室には来ていない。

 朝早くに起きて過去から未来へと向かい、園子の部屋から藤丸家、そして勇者部室と今日は移動尽くしだったので疲れたが、こうしてハゲ丸の菓子を食べながら美森が淹れる茶をシバくのがなんやかんやで一番落ち着くのである。

 

「しかし、千景もマスコット枠だったのに立派になったなぁ。やっぱアタシと須美の武器持たねぇ? 先代勇者フルセットでさ」

「だったらわたしの手甲も!」

「じゃああたしの双剣もどう?」

「そこまでいったらわたしのワイヤーとお姉ちゃんの大剣も……」

「どこまで私をフル装備にする気なの……普通に使えないから遠慮します」

「大丈夫だよ千景ちゃん! レッドフレーム改みたいな感じにすれば!」

「なら全部纏めて一つのタクティカルアームズにしてくれないと」

 

 と、言いながら千景は樹に近づき、そのまま樹の手を取ると流れるような動作でコブラツイストを決めた。体格差ゆえにかなり決まりやすかった。

 

「いだだだだだ!!? なんで!!?」

「この間のお返しよ! 私はこの倍くらいは腹が痛かった!!」

 

 そして結局はいつも通りの勇者部になる。前と違う所は、マスコット枠だった千景も遠慮なく物理技を繰り出すようになった、という所だろうか。

 友奈はそんな様子を見て笑いながら美森のぼた餅を食べながらお茶を飲み、いつも通りが戻ってきたなぁと騒がしさに若干しんみりとしていると、ふと視界の端にピンク色の光が見えた気がした。

 ぼた餅を食べながらそっちを向くと、そこには。

 

「……牛鬼?」

 

 一年前から約一年間、苦楽を共にした牛鬼の姿があった。

 牛鬼は背を向けたままで、一度だけ友奈の方を振り向くと、そのまま勇者部室を出て行った。それを見た友奈は慌ててぼた餅をお茶と一緒に飲み込むと、みんなの視線がプロレスを開始し始めた千景と樹に吸われているのを確認し、こそっと勇者部室を出て牛鬼を追い始めた。

 

「牛鬼! 待って牛鬼!」

 

 少なくとも友奈は精霊を呼び出していない。しかし、牛鬼はそこに居る。とにかく今は牛鬼の事が何となく気になるので牛鬼を追うが、結局追いつく事はできず牛鬼はそのまま学校の屋上へと向かい、そして空を飛んでどこかへと向かい始める。

 空を飛ばれてはどうにもならないので、あーあ、行っちゃった、と思い友奈は牛鬼を追うのを諦め勇者部員達にそれを相談しようとしたが、牛鬼は空中で振り向くと、ジッと友奈の方を見つめる。後ろに下がると牛鬼はちょっと追いかけてきて、逆に牛鬼を追いかけると牛鬼は距離を離す。

 

「……もしかして、追ってほしいの?」

 

 まさか、と思いながらも牛鬼に話しかけてみれば、牛鬼はそれに頷いた。

 理由は分からないが、牛鬼は友奈をどこかへと誘導しようとしている。ならば、それを無碍にするわけにもいかない。

 友奈の言葉に頷いた牛鬼は早く早くと言わんばかりに友奈に近づいてきてそのまま手を引っ張り、友奈は先に勇者部員達に相談しようか、それとも牛鬼に従おうか迷い。

 

「わ、わかったよ! とにかく、ついて行けばいいんだよね?」

 

 先に牛鬼の指示に従う事にした。

 屋上で誰も居ないのを確認してから変身し、牛鬼が空を飛んでどこかへと向かい始めたのを見てから友奈も火車の力で空を飛んでそれを追う。下から見られないように相当高い場所を飛んで移動し、そして牛鬼に案内された先は。

 

「あれっ、ここって過去に行くための……」

 

 過去に行くための社だった。

 鳥居を潜ればそのまま千景の時代へと繋がっている場所。どうしてここに、と友奈が首を傾げるが、そんな友奈を置いて牛鬼は鳥居を潜り、過去へと行ってしまった。

 

「ちょっ、待ってよ牛鬼! えーっと、どうしよ……と、とりあえず皆に過去に行く事だけ知らせてっと!」

 

 まさか牛鬼を置いて部室に帰る訳にも行かないので、友奈は携帯を取り出し部員達で構成されたグループに過去に行ってくる、とだけ告げるとそのまま鳥居を潜り、そのまま牛鬼を追い始めた。

 

 

****

 

 

 全部壊さないと。全部倒さないと。全部殺さないと。

 そんな思いを胸にしたまま、高嶋は勇者システムを起動することなく、タクシーを呼んで千景の故郷の村の近くまで向かわせていた。勇者システムを起動したら大社に気付かれる可能性がある。そのため、大社の職員から端末と天の逆手の場所を聞き出し、回収した後に高嶋は携帯の電源を切り、タクシーを呼んで千景の故郷の村まで行くように指示した。

 勿論金は大社払い。タクシーを使った時にどうしたらいいのかは大社から言われて覚えているので、それを悪用するまでの事。

 移動にはかなりの時間がかかったので、恐らく脱走には気づかれている事だろう。だが、村人を全員殺す事なんて、十分もあれば事足りる。千景を害する虫を殺すのに、そう時間はかからない。

 後はタクシーや徒歩で移動しながら捕まらないようにして、片っ端から千景を傷つける存在を殺す。まずは結界内の掃除が最優先だ。

 

「着いたよ、お嬢ちゃん」

「ありがとうございます。お金は、言った通りに」

「大社ねぇ……まぁ、いいけども。ここら辺はあんまり人気ないし、気を付けるんだよ?」

 

 運転手からの親切な言葉に高嶋は特に何も返さず、村の方向へと歩いて行く。

 暫くしてタクシーが引き返したのを確認してから高嶋は袋に入れていた天の逆手を手に装着し、勇者システムを起動。そして強化された身体能力を駆使して車よりも速く地を駆け、そして辿り着く。

 殺さなければいけない存在が渦巻く場所へ。

 勿論、そんな勢いで走ってきた高嶋の存在は目立つ。すぐに高嶋は同い年くらいの少女とすれ違った。

 

「あれ、勇者様? なんでここに?」

 

 少女の問いに高嶋は何も答えず、代わりに質問を飛ばす。

 

「ねぇ、郡千景ちゃんって……知ってる?」

「こ、郡さん……し、知ってます、けど……わ、わたしは何もしてませんよ?」

 

 それは暴露と同じだ。

 目が泳いでいるし、何も聞いていないのに何もしていないなんて言ったという事は、自分は千景に何かしましたと言っているのと同じ。

 殺さないと。

 徐々に周りに人が集まってきているが、多分集まってきた人間全員が千景に対して何かした人間だ。千景を傷つける要因となる存在だ。

 殺さないと。排除しないと。

 

「まぁ、君がぐんちゃんに何したのかなんてどうでもいいんだけどさぁ」

 

 言いながら、高嶋は拳を握ってゆっくりと近づく。

 ゆらゆらと。そして、薄ら笑いながら。

 明らかに異常なその様子に少女はゆっくりと後退していくが、まさか勇者が人を傷つけるわけないだろうと思い、高嶋の接近を許し。

 

「死んじゃえよ」

 

 唐突に振るわれた高嶋の拳が、頭の上を通過した。

 少女は悪運が強かった。高嶋が拳を振るった瞬間、その場で尻もちをついて偶然にも高嶋の拳を避ける事ができたのだから。

 

「ひぃっ!?」

「あーあ……避けられちゃった。まぁいいけどさ」

 

 いつもの高嶋を知る者なら、今の高嶋がどれだけ異常かなんて、一目でわかっただろう。

 明るい声は鳴りを潜め、殺意を秘めた暗い声に。表情も、優しい笑顔ではなく見る者全員に恐怖を与えるような底冷えする無表情。そして、人を人と思わない程の冷たい目。これが高嶋友奈であると言われても、全員が全員違うと言ってしまうくらいには、今の高嶋は異常だった。

 一撃目を避けられたが、構わない。少女の胸倉を掴みあげ、片手だけで少女を持ち上げる。

 

「イラつくんだよ。ぐんちゃんを傷つけた奴らがのうのうとぐんちゃんの苦悩も知らずに生きてるのが!」

「く、くるし……!」

「お、おい! あんたは勇者だろ! なんで俺達に攻撃してくんだよ!」

「その子を離してバーテックスとでも戦ってこいよ!」

「黙れ」

 

 そして、ヤジを飛ばしてきた男達に向かって少女を投げつける。勿論勇者の力で投げられた人間を男二人で止められるはずもなく、二人は少女に巻き込まれて倒れ伏した。

 

「お前達全員、皆殺しだ。全員、ぐんちゃんを苛めた事を後悔して懺悔しながら死んじゃいなよ!!」

 

 そして、高嶋は拳を振りかぶり、まずは倒れ伏す少女と男達にトドメを刺すため拳を振るい、まずは三つの肉塊を――

 

「させない!!」

 

 作る事は、できなかった。

 急に割り込んできた桜色の影が、高嶋の拳を止めたからだ。

 

「っ……! 離せ!」

 

 しかし、高嶋とて戦闘の経験はある。故に、止められてからすぐにそれを振り払ってバックステップを数回挟んで距離を取った。高嶋の人なんて簡単に殺せる威力を秘めた拳を止めたのは、確かに人だ。

 だが、高嶋と同種の人間でもあった。

 

「何を考えてそうしたのかは分からないけど、させない。勇者の力は、人を傷つけるためにあるんじゃないから」

「結城、ちゃん……!」

 

 そう、友奈だ。

 彼女が振るわれた拳の間に入り、そのまま高嶋の拳を受け止めて見せたのだ。

 

「牛鬼に案内されてここに来たときはどうして、って思ったけど……ようやく分かった。牛鬼は、高嶋ちゃんを止めてほしかったんだ」

 

 友奈がここに来た理由は、いたって単純だ。

 牛鬼が、ここに案内したのだ。過去へと向かった友奈は牛鬼の案内によりこの村まで来て、そして高嶋が人を襲っているのを見て全力で止めに入った。既に牛鬼の姿はどこかへと消えているが、それ以上に放っておけない状況が目の前にはある。

 どうして高嶋が人に向かって拳を振るうのかは分からないが、高嶋は今、確実に人として間違ったことを犯そうとしている。

 ならば、止めねばならない。勇者として以前に、友人として。仲間として。

 

「邪魔をしないでよ! ぐんちゃんを守るためにそいつらは殺さないといけないのに!!」

「よく分からないけど、嫌だ!!」

「退け!!」

「嫌だ!! 高嶋ちゃんが何を考えてるか分からないけど、これだけは言える! これを見逃せば、高嶋ちゃんはいつか絶対に後悔する!! ぐんちゃんだって、高嶋ちゃんを止められなかった事を後悔する!! 悲しい事の連鎖が起こる! だから、嫌だ!!」

 

 その言葉を聞いた高嶋は、もうこれ以上の対話は無駄だと感じたのか友奈に向かって殴りかかる。

 だが、その愚直な攻撃を友奈は避け、お返しにと高嶋にボディーブローを叩き込んでから手を掴み、背負い投げをする。地面に叩きつけられた高嶋だったが、即座に立ち上がりバックステップで距離を取る。

 

「分かったよ、高嶋ちゃん。喧嘩しよっか。女の子なんだし喧嘩の一つや二つしないとね」

「うるさい!! 黙ってそこを退けぇ!!」

「黙らないし退かない。ほら、来なよ。全力で叩き潰すからさ」

「戯言をほざくな!! 来い、酒呑童子!!」

「じゃあちょっとキツい事言わせてもらうけど……戯言を言ってるのは、そっちだ!! 火車! 一緒に高嶋ちゃんを殴って蹴って止めるよ!!」

 

 そして、二人の友奈がぶつかり合う。




かつてやらかした友奈、ゆーゆと現在進行形でやらかしている友奈、たかしーの真正面からのぶつかり合い。

ぐんちゃんや若葉ちゃんを出した方が、ともちょっと考えたのですが、結局自分が友奈対友奈を書きたかったのでこうなりました。元々たかしーの暴走はゆーゆに止めてもらう予定で色々と書いてましたし。

という事で次回はゆーゆVSたかしー。
……一話一万文字で二話近く使うって、五千文字投稿時代だと確実に話数が倍近くになってるし十話投稿したらラノベ一冊分の文量って……うん、考えないようにしよう!!
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