ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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散華の時間だゴルァ!!


ハゲとハゲ

 満開を使用しレオ・スタークラスター。最後のバーテックスを撃破した勇者部は大赦の人間の手によって病院へと緊急搬送された。何でも、バーテックスとの戦いや満開を使い限界を超えて戦ったため、何かしら体に異常が起きているかもしれないという懸念から、一旦勇者部は検査入院をすることになった。

 果たしてその検査入院に意味はあったのかと言われれば、十分にあった。

 何故なら友奈、風、樹、ハゲ丸の四人が体に異常を感じたからだ。まず、友奈は味覚の消失。続いて風が左目の視力の大幅低下。樹は声が出なくなった。この中で一番辛い症状が出たと言えるのは、友奈と樹だ。この二人に関しては趣味ややりたい事、好きな事と失ったものが上手い具合に重なってしまった。

 医者は限界を超えて戦い続け、更にそれが終わったため体が今までの疲労をドッサリと引き受けてしまい、その結果五感等に異常が出てしまったという。そう説明されると、納得せざるを得なかった。

 何せ、勇者として飛んだり跳ねたりして満開なんて物を使って無茶までした。そうして世界を守って戦い、守り抜いたのだ。体がその疲労に折れてしまうのも仕方がない事だろう。ただ、そうして世界を守り抜いた後も夏凜は特に異常が見受けられなかった。彼女の完成系勇者という自称はあながち間違ってはいなかったのだろう。もしくは、体が疲労に気が付いていない程体が馬鹿なのか。

 

「いやー、きっちりばっこりと血を抜かれましたよ。お肉食べたいです」

「抜かれた分増やさなきゃだしね」

 

 病院内の休憩室のような場所で集まった友奈、風、樹の三人が既に祝勝会の会議をしている。声を出せない樹は先ほどから相槌を打っては何かを携帯で調べているようだった。

 ちなみに、勇者部の携帯は大赦で回収され、新たなスマホを手渡されている。勇者システムの入った端末はもう必要ないし、何かしらが原因で外部に漏れたりしないように回収したのだろう。代わりにNARUKO以外の全てのデータを移行した最新型の端末を配布されたためそれを使っている。

 そうして色々と話している中、両手いっぱいにお菓子の袋とジュースを持った夏凜が合流する。

 

「よーっす。ついそこで大赦の人からお菓子とジュース貰ったから食べない?」

「おっ、気が利くじゃない」

 

 どうやら夏凜は少し大赦の人と話をしていたらしい。そしてここへ戻ってくる途中ですれ違った大赦の人からお菓子やらジュースを、みんなで食べてくれと貰ったとか。恐らく、世界を救ったご褒美的な物なのだろう。夏凜はそれを机の上に広げた。

 そうしてそのまま菓子を食べながら話し合い、と思ったところでふと友奈が気が付いた。

 

「あれ? 東郷さんは?」

「あっ。そういや検査入院してから見てないわね」

「あとハゲ丸も見てないわね」

 

 そういえば、美森がいない。

 彼女も体の方に異常が出たらしいのだが、それ以外美森については何も聞いていない。

 ついでに言えば、ハゲ丸も居ない。彼も何かしらの症状が出たとは言っていたが、その症状が何かも聞いていない。無事とは聞いているが、やはりその姿を見ないと完全に安心できない。

 じゃあどうするかと顔を見合わせ少し話した結果、まずはハゲ丸の病室に突撃して様子を見ようという事になった。最近、東郷とハゲ丸に対する遠慮が無くなってきている勇者部であった。

 

「じゃ、とっとと行ってハゲ丸と東郷を引っ張ってきましょうか」

 

 その風の言葉に従って四人はゾロゾロと部屋を出ていく。

 友奈、夏凜、樹はハゲ丸と東郷の病室を知らなかったが、風は勇者部の部長という事で一応大赦の人間から二人の病室がどこにあるかを聞いている。

 そんな風がハゲ丸の病室へと三人を誘導し、そのままノックしてハゲ丸の病室に入ろうとした時だった。

 

「んじゃ、アタシはこれで。無事でよかった」

 

 大体友奈と夏凜と同い年くらいであろう少女が、ハゲ丸の病室から出てきた。それに風がビックリし、友奈達もそうしてビックリした風に驚いた。

 お? とその少女が四人を見て小さく声を漏らし、暫し呆けた後に笑顔を浮かべる。

 

「あ、ごめんな。驚いたか?」

「え? あ、いや、そうでも……」

「わりぃわりぃ」

 

 少女はそう言うと、風の前を通ってそのまま廊下へと躍り出た。

 その際、夏凜はふとその少女の方を見た。どうやらその少女は片手が無いそうで片方だけ服の袖に腕が通っていなかった。服の下で固定している様子もなかったため、事故か何かで失ったのだろうと何となく思った。

 

「あいつ等が須美とヅラの……」

 

 そうしてその少女を見送る際、何かを言っていた気がしたが風達には聞き取れなかった。

 だが、今それは関係ない。風は開きっぱなしのドアからハゲ丸の病室に侵入し、何故か強盗が被るようなマスクをかぶって目と口以外を全部隠したハゲ丸の元へと突き進んでいく。

 

「うおっ、風先輩!?」

「ハゲ丸! あの子何!? 彼女!? あんた何サラッと恋愛してんのよ!!」

「いやちょまっ、何勘違いしてんすか!? うおっ、胸倉掴み上げないで首絞めなくえー!!?」

『わー!!?』

 

 どうやらあの少女がハゲ丸の彼女だと勘違いしたらしい風がそのままハゲ丸を問い詰めようとしたが、それは事実無根。それを説明する前に風がハゲ丸の胸倉を掴み上げた後に首に手をかけガックンガックンと揺らし始めたので友奈と夏凜、それから樹が全力で風を羽交い絞めして止めた。

 それから大体五分ほどで友奈に羽交い絞めされ夏凜ににぼしを口いっぱいに突っ込まれた風がようやく沈黙し、ハゲ丸がようやくあの少女について説明できるようになった。

 

「アイツはこの間知り合った奴で、他の友達の見舞いついでに来てくれたらしい。その友達の病院、結構遠いんだけどな……」

「平日の昼間っから?」

「どうも学校が休みだったとか。結構暇してたらしいから、暇つぶしも兼ねてたんだろうな」

 

 少女、銀と実際に会って世間話をしたハゲ丸は銀本人がそう言っていたことを思い出す。

 友達というのは、確実にこの間銀に本のお使いを頼んでいた入院中の友達の事だろう。あの病院はこの病院から電車で一時間近く移動した場所にあったと記憶しているので、相当暇だったのだろう。どこでハゲ丸が入院しているという情報を掴んだのかは知らないが。

 そして見舞いの際に貰った本は、どうもその入院中の友達が持っていけと言ったのか、それとも彼女自身が影響されていたのか、彼女がそういう趣味なのか、どれかは分からないが、百合の花が咲いている感じの本だった。もちろんすぐに隠した。

 

「ふぅん。まぁアンタの交友関係がどうなってようが知ったこっちゃないけどね」

「そりゃそうだ」

「で、ハゲ丸くん。そのマスク何?」

「ファッションだ」

 

 嘘だ。友奈と夏凜は顔を見合わせて思った。

 絶対に何か隠している。そう思い、そっとハゲ丸のマスクを取ろうとするが、ハゲ丸はそっとそれを避ける。いつもなんやかんや言いながらヅラを取られるハゲ丸がここまで頑なに守ろうとしているのだから相当このマスクを取られたくないのだろう。

 ジリジリと見合っていると、そっとハゲ丸の後ろに回り込んでいた樹がハゲ丸のマスクを取った。

 

「あっ!?」

 

 声を上げるハゲ丸。

 そしてマスクを取られたハゲ丸を見て、友奈と夏凜は笑う……ことはできず、どんな反応したらいいのか困った。

 何故なら。

 

「……おい笑えよ。どうせなら笑えよ。おい。笑えってば。笑えよベジータ」

 

 ハゲ丸は、ツルッパゲだった。

 それも、頭だけじゃない。

 顔全部がだ。

 眉毛もまつ毛も、産毛程度だった髭も。全部が全部。顔から生える毛という毛が抜け落ちていた。

 惨い。あまりにも惨い。彼が何をしたというのだ。どうして彼の頭部は毛を生やすことをこうも頑なに拒否するのか。もうクリリンだよこれ。頭に六つくらい点があったらクリリンだよ、リアルクリリンだよ、なんて思いながらも。馬鹿にすることもできず、慰めることもできず、友奈と夏凜はただ。ただ、可哀想な物を見る目でハゲ丸を見ていた。

 

「笑ってくれよ。じゃないと悲しいだろ」

 

 涙目でそう言うハゲ丸に対し、マスクを取った張本人たる樹が、そっと彼の肩に手を置き、振り向かせた。

 そして振り向いたハゲ丸に対し、樹はすっごいいい笑顔でサムズアップした。

 ナイスハゲ。

 そんな樹の声が聞こえた気がした。

 

「……」

 

 ハゲ丸はそんな生意気後輩を梅干しの刑に処した。

 年上の男からやられる梅干しの刑は、風のよりも大分痛く、終わった後樹は地に伏した。

 

 

****

 

 

 樹が回復した後、マスクを追いはぎされて顔を隠せなくなったハゲ丸を仲間に入れた勇者部一行は美森の病室へと向かった。

 ハゲ丸は先ほどから表情が暗い。どうもマスクを着けて現実逃避していたが、どうしようもない現実に直面してしまったせいで現実に絶望しているのだろう。本人が最後の希望と言っていた顔の毛が全部抜け落ちたのだ。そりゃ絶望だってする。

 だが、それに対して迂闊にフォローなんてできない。髪の毛ふっさふさのこの四人が何か言っても絶対に嫌味と取られるか、もしくはハゲ丸に気を使わせるだけ。いや、確実に後者の方になる。勇者部の部員が嫌味でそんな事を言わないということはハゲ丸自身が分かっているため、確実に。

 だから、何も言えない。辛い無言の時間の中を歩き、なんとか東郷の病室にたどり着く。

 もうこの芸人をもう一人の芸人と会わせていつも通りのテンションに戻ってもらいたい。そんな気持ちで今度は風ではなく友奈が先頭に立ち、そのままドアをノックした。

 

『どなたでしょうか』

「友奈だよ、東郷さん。入ってもいいかな」

『え゛っ!!? ゆ、ゆーなちゃああああああああ!!?』

 

 病室の中がドッタンバッタン大騒ぎ。部屋の外に居る五人が思わずビックリするような物音が立った。

 もしかしてベッドから落ちたんじゃ、と思い友奈が入るよ! とだけ口にしてドアを開ける。

 そして部屋の中を視界に入れて、理解できたのは。

 

「ゆ、友奈ちゃん。げ、元気かしら?」

 

 ベッドから落ちた、ハゲ丸と同じようなマスクを被った美森だった。

 

『お前もかい!!』

 

 それに対してツッコミを入れる風と夏凜。

 だが、美森はそんなツッコミを物ともせずに一人でベッドの上に腕だけでよじ登り、落ち着く。

 

「な、何の用かしら?」

「いや、普通に東郷さんが心配だったから……」

「友奈ちゃん……ありがとう。でも、大丈夫よ」

「でもさっきベッドから……」

「大丈夫」

「それでも」

「平気だって言ってるでしょお!!?」

「えぇ……」

 

 友奈が情緒不安定気味な美森に若干引いている。というか、どう対応したらいいのか分からないのだろう。

 流石のコミュ力モンスターも情緒不安定な人間に対しては確実なコミュニケーションなんて取れないのだろう。どうするべきか。一旦出直すべきか。友奈が風に視線を合わせて問う。

 が、その際に気が付いた。一番後ろにいたハゲ丸がいつの間にかいない。

 まさか。友奈が振り返ると、美森の後ろ。先ほどの樹のようにいつの間にか回り込んでいたハゲ丸が、そっと美森の後ろについていた。

 

「はい御開帳!!」

 

 そして、そのまま一瞬にして美森のマスクをはぎ取った。

 その瞬間、病室内の時が止まった。いや、誰も何も言えなかったというのが正しいか。

 まず、美森の顔。普通だ。体、普通だ。傷、特にない。頭、異常しかない。

 頭が、肌色なのだ。

 本来なら彼女の美しいまでの黒髪に守られている頭皮が、丸見えなのだ。

 つまりどういう事か。それはどういう意味を指しているのか。

 考えなくてもわかる。わかってしまう。何故なら前例がその後ろにいるから。その前例がそれを晒した時はまだ笑えたが、彼女の場合は違う。シャレになっていない。ハゲ丸は男だ。男ならいつかハゲるかもしれない。だから、まだ笑いごとにできた。だが、今回は違う。彼女は将来、絶対にそんなことにはならないと言えるから、シャレになっていない。

 

「笑いなさいよ」

 

 美森が口を開いた。

 

「笑いなさいよ。笑えよベジータ」

 

 美森の目は、悲しみで溢れていた。

 どうしてか。言わなくてもわかるだろう。

 彼女の頭は。髪の毛は。この激闘のストレスや疲労で。

 完全に。一本残らず、抜け落ちていたのだから。

 これにはハゲ丸すら何も言えない。だが、笑えよと言われたのだから。笑って誤魔化してくれと言われたのだから。そうするしかないだろう。

 

「……ははっ」

 

 小さく笑った。

 どうだ、これで満足かと。これで、この件は笑いごとにできるんだなと。

 だが。

 

「笑うなァッ!!」

「理不尽ッ!?」

 

 どうやら八つ当たりの免罪符が欲しかっただけらしい。ハゲ丸は美森のアッパーをモロにくらい、そのまま病室の窓を割って落ちていった。死んだんじゃないの~?

 

「と、東郷、さん……」

 

 その中で、コミュ力モンスターが口を開いた。

 美森は、地獄兄弟みたいな目をして友奈を。正確には、友奈の髪の毛を見た。羨ましい。恨めしい。そんな感情が美森の目には渦巻いていた。

 そんな視線を受けながらも、友奈は精一杯の笑顔を浮かべ、美森に歩み寄り、そのまま美森を抱きしめた。

 

「カツラ……今度、見に行こっか……」

 

 抱きしめられながら、美森は頷いた。

 こうして、四国は。この世界は。一時的に友奈の味覚と、風の視力と、樹の声と。そして、ハゲ丸の頭部の毛全てと、美森の髪の毛を犠牲に、救われたのであった。




友奈、風、樹→変わらず
とーごーさん→髪の毛
ハゲ丸→頭部の毛全部

以上が散華内容でした。女の子がハゲるって割と洒落にならないと思っていますが、某銀河天使でもツルッパゲですわってやってたので別にいいかなって。

きっと東郷さんをハゲにした二次作品は前にも後にもこれだけになるでしょう……

今回はしんみりしていましたが、次回からはいつも通りのテンションに戻ります。これでもうハゲ丸くんの事をハゲって呼び捨てにできないね、東郷さん!!

次回からの東郷さんはヅラです。ハゲ丸くんも付けまつ毛付け眉毛ヅラのフル装備となります。あと、精霊バリアはなくなりましたがこの作品のキャラはギャグ補正が切られない限り窓から投げ捨てられたり埋まったりしても死なないのでご安心を。

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