ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回は前回も書いた通り、防人組の出番です。

多分、雀と夕海子がメインに出張ってくるのは久しぶりか初めてのレベルですね。これからは二人の出番もなるべく増やしていきたい所。なんやかんやで二人ともいいキャラしてますからね。


防人組出陣

 偶々その日はバーテックスが進行をしてきた。

 あの三体のバーテックスが出てきてからという物、バーテックスの攻撃は止まっていたのだが、北と南と四国で倒された分の戦力の補充が完了したのか、バーテックスは再び四国への進行を始めた。

 しかし、あの時と同じように神世紀の勇者達が全員揃っているわけじゃない。戦力的にはダウンしてしまっているが、相手の数は巨大バーテックス。つまりは星座型が一体。

 今回の星座型はレオ。火球と巨体が厄介なバーテックスだが、レオ・スタークラスターにでもならない限りは神世紀勇者が二人も居れば十分に倒せる相手だ。

 

「アレは見た事が無いな……」

「確か、獅子座ね。レオ・バーテックス。園ねぇ達が北海道と沖縄の援軍に行った時についででロードキルされた哀れなバーテックスよ」

「レオ……園子先生たちが持ってきてくれた資料には、他のバーテックスとは一線を画すって書いてありましたね。それをわたし達だけで……」

 

 この場に居る神世紀の勇者と呼べる存在は四人のみ。レオ単体の戦力がどれほどなのかは分からない。園子達神世紀組の勇者もレオ単体との勝負は一度も経験した事が無く、スタークラスター以下である事しか判明していない。

 故に、戦力は未知数として警戒をするために一線を画す、と資料には記載した。

そんな相手が来ようと、神世紀勇者の数に関係なくやる事は変わらない。

 

「だが、やらねばなるまい。私達で雑魚の排除。肝心のデカいやつは」

 

 西暦の勇者はスペックこそ上がったが、それでも切り札を使わずに進化体を倒せる程度で止まってしまっている。劇的なスペックアップを果たしてはいるものの、巨大バーテックスを相手にするには切り札無しでは火力が低すぎる。しかも、封印の儀ができない。

 そのため、西暦勇者達は自分達の生存を最優先にしつつの援護。そして、肝心のレオ・バーテックスを相手にするのは。

 

「今回は防人組で担当するわ。一応、わたし達も封印の儀ができるように調整はしてもらったから、何とかなる筈よ」

 

 防人組。つまりは芽吹、雀、夕海子、しずくの四人だ。

 防人組のシステムも全員分にアップデートが入っており、諏訪で戦った時よりも芽吹達のスペックはアップしている。先代に並ぶかそれ以下という感じのスペックだが、しかし四人一組の防人達はチームワークによってその戦力を神世紀勇者一人分。いや、二人分。いや、それ以上に上げる事ができる、一番カタログスペックで戦力を測る事ができない戦力だ。

 銃剣を二本手に持つ芽吹が仲間達の方へと振り返る。

 

「ちょ、勇者部が居ないのにアレを相手にするのなんて無理だよメブー!!」

「うっせぇなぁ! オレ達だってスペックアップしてんだ! あんなデカブツなんてただの的だっての!」

「その通りですわ、雀さん。それに、あなたの役割はメイン盾。危ないと思ったら盾を構えるいつも通りをしてくれていれば十分ですの」

「そのいつも通りが怖いんだよぉ!!」

「……まぁ、安心するレベルでいつも通りね」

 

 雀が情けない事を言っているが、この中で一番生存能力があるのは誰か、と言われれば確実に雀だ。

 彼女はタワーシールドを手に持っているため自分とその周辺しか守れないという特性があるが、もし彼女に神獣鏡を持たせれば、下手をするとハゲ丸と同程度がそれ以上の盾性能を発揮する程だ。

 欠点としては弱気すぎる部分。いざという時は腰が引けてしまう点がハゲ丸と比べて劣っていると言える点だが、彼女の盾性能は勇者内でも最上位。しかも生存本能で攻撃が来ない場所や逃げていい場所を瞬間的に把握してそこに逃げるという逃げ性能までもを持っている。

 そんな彼女を無理矢理前に出せて尻を叩ける芽吹が居る時点でレオと相対する防人達の安全は確保されたも同然。

 この勝負、万が一にも負ける未来はない。

 

「こうして肩を並べるのは初めてだが、共に頑張ろう」

「えぇ、若葉さん。初代勇者であるあなたとこうして戦える事、誇りに思うわ」

「そんな事、止してくれ。私はただの乃木若葉。齢十五の小娘さ。そんなに恐縮されるとやりにくいったらありゃしない」

「それもそうね。なら、仲間として頼りにしているわよ。背中は預けるわ」

「ならばその背中、預けられた。思いっきり暴れてこい」

「戦友を守るためにも、言葉の通り存分に暴れてくるとしますか。さぁ、防人組! 出陣よ!」

「やっぱ帰ろうよメブー!! あんなの相手にしたら死んじゃうってばぁ!!」

「つべこべ言わずに行けオラァ!!」

「ぎゃふん!?」

「こらこらシズクさん。文字通りお尻を蹴ってはいけませんわ。はしたないですわよ?」

 

 なんかもう勇者部並みにシリアスな空気をぶっ壊しながら雀を先頭に防人組がレオへと向かって距離を詰めていく。

 その後ろを西暦勇者達も追従し、レオの周辺に居る星屑を倒すべく後方からの杏の指示に従って軽くチームアップし別れて走っていく。

 若葉、歌野、棗、雪花のチームと千景、高嶋、球子のチーム。この二つのチームが接敵の数十秒前に防人組の後ろから飛び立ち、防人組がレオと交戦する前に星屑との交戦に入る。

 

「体が軽い! これが未来の技術を使った勇者システムか!」

「この力なら、やれる」

「進化体だってタイマンで倒せるわね!」

「こりゃバーテックス倒す手にも力が入るってモンですわ!」

 

 若葉達が思い思いに自身の纏う力の感想を口にしながら自由に動きながら星屑を殲滅していく。

 この四人は少し前まで一人で戦い続けていた勇者達にタイマン性能が高く前線指揮官として向いている若葉を組み込むことによりアドリブ性能を極限まで高めた個人特化型チーム。一人で何とかしつつ何とかならない仲間が声を上げた瞬間、アドリブで自分の身を守りながら仲間の身を守れる。そんなコンセプトのチームだ。

 対して千景達の方は。

 

「一気に殲滅、行くわよ!」

「了解!」

「合わせるぞ!」

 

 西暦勇者というよりも四国の初代勇者チーム特有のチームワークを主体とした、多対多を基本とするチームであり、その中でも群を抜いて性能が高い千景を主軸に置いた連携主体のチーム。

 更に千景の神獣鏡と球子の旋刃盤による防御も硬い。故に、三人でありながらも殲滅力は四人である個人特化チームに引けを取らないほどだ。

 

「土居さん、行くわよ!」

「合点! それっ!」

「高嶋さん!」

「うん! せーのっ!!」

 

 千景の声に合わせて球子が星屑の大軍へと向かって旋刃盤を投げる。それに千景が神獣鏡を合わせて飛ばし、高嶋に槍を投げ渡し、高嶋がそれを神獣鏡へと向かって投げる。

 投げられた槍は紫のエネルギーを纏い、星屑を貫きながら神獣鏡へと当たり、神獣鏡が槍を反射。旋刃盤へと槍が当たり、反射する。更にそれを神獣鏡が反射し、更に旋刃盤が反射。更に千景が空中の神獣鏡を操作し、球子もワイヤーを腕に巻きつけた、踏んでから足に絡みつけて引っ張り、更には口で引っ張り、まるで舞うように投げた後の旋刃盤を巧みに操作する。

 その光景はまるで回転する二枚の盾の間をビームが反射し、次々と舞い込んでくる星屑を貫き続ける屠殺場。

 更に槍は反射されながらも矛先を分裂させ、徐々に徐々に増えながら空中に配置されて行く。

 

「高嶋さん! 後は!」

「行っちまえ!!」

「うん! これで決めるよ!」

 

 千景と球子の合図に合わせ、高嶋が屠殺場の下から空へ向かって跳躍する。

 それを見た千景が即座に神獣鏡の反射角度を調整し、槍を空中へ向かって反射。それを空中で掴んだ高嶋が地上へと向かって槍を構える。

 

「響いて集え! 静華鏡水陣!!」

 

 そして、投擲。

 紫のエネルギーを纏った槍が地面に着弾すると同時に爆発。更に分裂していた槍の矛先が動き、それでもしぶとく残っていた星屑達を一気に殲滅した。

 

「よし! やったね、二人とも!」

「ぶっつけ本番にしてはいい感じに動けたわね。特に土居さん、あんなに旋刃盤を複雑に動かせるなんて凄いじゃない」

「へへっ、タマだって成長してんだ! ワイヤーついてんならワイヤー引っ張って動かしゃいいだけだかんな!」

 

 とは言うが、実はぶっつけ本番だったりする。こんなコンビネーションやらない? とはずっと言っていたのだが、練習する機会が無かったので完全にぶっつけ本番後の祭り状態だった。

 それでもぶっつけ本番でどうにかこうにかしてしまう辺り、この三人の息はピッタリと合っている。なんやかんやでこの三人がキャンプに一緒に行く頻度が多いのも、ぶっつけ本番でコンビネーションを完成させた理由の一つだろう。普段から一緒に遊んでいた賜物だ。

 

「さて、それでもまだバーテックスは来るわよ。二人とも、怪我一つ負わないように慎重に倒すわよ」

「うん! 守って守られて! みんなで一丸になってバーテックスをやっつける!」

「任せタマえ! 今更こんな白玉如きに負けるタマじゃない!!」

 

 アップデートされた勇者システムは、この三人にとってはかなり大きい追い風だ。何せ、一人の力を二つ以上合わせて四人分にも五人分にもしてしまうコンビネーションの持ち主達の個々の力が上がったのだ。

 今まで星屑に対して流血沙汰はちょっとあったが、その程度で済ませてきた三人が星屑相手に負ける理由などなかった。

 だが、雑魚をいくら倒しても戦闘は終わらない。

 雑魚を掃討するのは重要な役目だ。それでも大物を倒さない限り、バーテックスは撃退したとは言えない。四国を守り抜いたとは言わない。

 その大役を任されたのは、防人の名を冠する勇者四人だ。

 

「弥勒さん、援護射撃を! わたし達三人で前に出るわよ!」

「了解ですわ! 弥勒の弾丸は尋常じゃないほど痛みましてよ!」

「へっ、そうでなくちゃな! 前は任せておきな!!」

「怖いよメブー!」

「とっとと行けメイン盾ァ!」

「いったぁ!? 今度はメブにお尻蹴られたぁ!! 最近メブまでバイオレンスだよぉ!」

 

 援護射撃が夕海子。その援護を受けながら残りの防人が前に出て意識を引きつけ、誰かがヘイトを買った所で封印の儀を開始し、攻撃に参加しない雀を除いた三人での近接による最大火力を叩き込み、御霊を破壊する。

 これが防人達が持つ、唯一の星座型への攻略法だった。

 火の玉を雀が避けるのを見てから同じ方向へと移動しながら避け、西暦勇者達がどうしても撃ち漏らしてしまう星屑達を夕海子の美森とはまた違う丁寧な狙撃が撃ち落としていく。

 しかも夕海子は時折レオの火の玉までもを狙撃し、爆破している。似非お嬢様だが周りを見る目、戦闘のセンスはやはり高い。弥勒の名は伊達ではない。

 それでも、一人での援護は火力不足の都合上、どうしても足らない部分が出て来てしまう。

 

「中々物量が激しいですわね……火力か連射力、どちらかを強化できればいいのですけれど……」

 

 と、言いながら何とか芽吹達の援護を行っている夕海子だったが、彼女が取りこぼした星屑を一筋の矢が貫いた。

 

「なら、わたしが手を貸します。幸いにも、あっちのバーサーカーズとタマっち先輩達はわたしの援護が無くてもどうにかなりそうですし」

 

 援護の主は、杏だった。

 自己完結型四人で構成された杏曰くバーサーカーズとコンビネーションで互いのカバーをし合う安定感抜群の球子とゆかいな仲間達は杏の援護が無くても自分達の持ち場を維持できそうだった。なので、早めに戦闘を終わらせるべく、微力ではあるが夕海子の援護射撃の増援としてやってきた。

 

「それはまた、心強いですわね。それでは、わたくし達の仕事は勿論お分かりですわよね?」

「芽吹さん達が開く活路を維持し続ける。楽な仕事じゃないですか」

「おや、そこまで大きな口を叩くのなら、わたくしのサポートを全て任せましてよ」

「それどころか夕海子さんの仕事も全部任される勢いでやっちゃいますからね。スペックで劣っていても戦闘センスと戦術でスコアを抜かして見せます!」

「上等ですわ! ならばこちらも誇りある弥勒家の一人として、映えある初代勇者に打ち勝ってみせましょう!」

 

 二人の闘争心に火が付いた。

 その瞬間、夕海子一人で捌ける攻撃と星屑の量の三倍以上が消し飛び始めた。急に厚さを増した弾幕と援護に思わず芽吹が後ろを向けば、夕海子と杏の二人が舞うように戦場を動きながら互いに互いを助け合い、自らヘイトを引いて星屑を集めつつ、今までの倍以上の援護を芽吹達の方へと飛ばすという荒業を披露していた。

 元々安定して手堅く強い夕海子と戦術を頭の中で組み、効率よく動く事ができる杏。二人が組めば手堅い夕海子とそれに合わせて手堅くなり続ける杏の二人が互いに互いを高め合い、助け合い、今までのスコアの何倍ものスコアを叩き出すのは最早自明の理。

 防人と初代勇者の真骨頂はコンビネーション。その意味合いでは防人である夕海子と初代勇者である杏の遠射型コンビの相性は完璧だった。

 

「弥勒さん、流石ね。雀、シズク。あっちの二人に負けないよう、こっちもやるわよ!」

「任せな! オレが前でお前も前! 攻撃を全部弥勒と伊予島が封じている以上、オレ達の独壇場だ!!」

「あ、じゃあわたしは後ろに下がってるんで」

「加賀城はとっとと封印の儀の準備しとけ!!」

「ぴぃっ! かしこまりましたかしこぉ!!」

 

 雀は戦闘時、防御という面では役に立つが攻撃という面ではあまり役に立てない。彼女の盾は質量こそあるので振り回せば星屑だって倒せる程度の威力を秘めているが、対バーテックス戦においては無意味だ。

 故に、雀は芽吹とシズクが一息で前に出れる位置にまで進行した時点で盾の後ろに隠れて封印の儀を行う。

 雀なら例え星屑の邪魔が入ろうと、御霊の抵抗が来ようとも絶対に負傷することなく封印の儀を行う事ができるので、防人内では唯一の安定した封印の儀を行える人員だった。それもこれも全部雀の生存本能が齎す異常なまでの生存能力に起因するのだが。

 しかし、下がれるのなら雀は喜んで下がる。無意識にバーテックスが雀の方を集中せず、ついでに星屑が絶対に自分の方へと来ない位置へと陣取ると、芽吹とシズクからの目線の合図に合わせて地面に盾を突き刺した。

 

「えっと、これで後は携帯に出てくる祝詞を読めば……」

 

 そしてやろうとしたことはまさかの気合を入れて叫べば読む必要のない祝詞を使っての封印の儀。

 これには芽吹とシズクの怒りも有頂天。

 

「ンなまどろっこしい事しないで叫べばいいだろうが!!」

「それ意味無いって言われたでしょ!!? とっとと封印しなさい!!」

 

 叫びながらも二人は雀の方へと攻撃が行かないように二手に分かれてレオへと斬り込み、その体へと傷を与えて注意を引き付ける。

 そんな二人の怒声にビビった雀はというと。

 

「ぴぃっ!? わ、わかったよぉ!! ふういんかいしぃ!!」

 

 気が抜ける感じの声で封印開始を行った。

 だが、それでもシステムは無事起動し、雀を中心に封印の儀が開始され、レオ・バーテックスの中から御霊が吐き出される。

 通常の御霊よりも遥かに大きい御霊。大きく、そして硬いが故に破壊しにくいために厄介な御霊だが、芽吹とシズクにとって大きいと言う事はそれだけ的が大きく破壊しやすいという事に繋がる。

 後ろの夕海子と杏がわざと残した星屑を足場にしながらレオ・バーテックスの二、三倍はありそうな御霊の上に陣取り、芽吹が両手の銃剣を構えながら落下し、シズクがその後ろから芽吹の援護のために銃弾を飛ばす。

 しかし、銃弾は弾かれる。

 

「チッ! やっぱ豆鉄砲じゃどうしようもなんねぇか!」

「十分よ、シズク! 今の銃弾の弾き方と音で核が分かった!」

 

 芽吹は大工の娘である。

 彼女の父はノミ一つで岩だって破壊できる。芽吹はその技を受け継いでいる。

 一回雀の前では見せたが、実戦で使うのは始めてだ。だって動かない的に向かって落下しながら剣を突き刺すなんて事はしなかったから。

 しかし、今のシズクの攻撃で物体の核は見えた。

 ならばそこを突くのみ。

 

「楠流! 打点破砕撃ッ!!」

 

 どこぞのハゲが一度だけふざけて使った技の本家本元版。

 それを御霊に見えた核へと叩き込む。

 甲高い音と何かが砕ける音が響き、戦場に一瞬の静寂が生まれる。その直後に芽吹が剣を突き立てた場所を中心に御霊全体にヒビが広がっていき、友奈だって破壊するのには数撃を要しそうな巨大で硬い御霊がたった一撃で破砕された。

 

「大工の娘を甘く見たのが間違いだったわね」

 

 御霊を破壊し着地した芽吹がそんな決め台詞を口にした。

 その様子を見ていた杏は。

 

「……いや、大工って物の破壊に特化した職業じゃなかったような」

 

 そんな感じで冷静にツッコミを入れたが、そのツッコミが芽吹の耳に入ることは無かった。

 ちなみにその後ろでは星屑を倒し終えた千景、高嶋が調子に乗って旋刃盤を動かしていたがために全身にワイヤーが絡まって動けなくなった球子を何とか救出しようと四苦八苦しているのだった。

 

 

****

 

 

「ぶっつけ本番だったけど何とかなるものね。まさか打点破砕撃が通じたのは予想外だったけど」

「アドリブだったんだ……」

「芽吹さんって凄かったんですね。御霊を一撃で破壊するなんて」

「そんな凄い事をしてたんですか? 流石芽吹先輩です!」

「大工の娘としての経験と勘の成果よ。特別な事じゃないわ」

 

 バーテックス撃退戦が終わり、対バーテックス戦初勝利の余韻をそのままに芽吹は暇していたしずくを連れ、ついでに途中でどこかに行こうとしていた千景と丸亀城の敷地内でポヤポヤしていた亜耶を捕まえ、手ごろな店でうどんを食っていた。

 珍しいっちゃ珍しいが、なんやかんやでこの四人は藤丸家で結構な頻度で出会っていたのでそこそこ仲がいい。本来は園子とハゲ丸も加わる事が過半なのだが。

 

「そう言えば千景ちゃん、拾った時にどこか行こうとしていたけど、こっちに来ても良かったの?」

「えぇ、まぁ。土居さんにワイヤーが絡まって取れなくなったのをどうにかしようとしていただけなので」

「それ本当に大丈夫……?」

「どうしても駄目なら乃木さんがワイヤーをぶった切ると思うので」

 

 球子は全身に絡まったワイヤーを解く事ができず、杏に担がれて部屋へと連行された。本当に駄目な時はワイヤーを切断して後でワイヤーだけを新品に変えれば無問題なので千景は気にしていない。現在球子は全身ワイヤーでグルグル状態のまま杏に暇潰しがてらあやとり感覚でワイヤーを解かれている最中である。

 

「まぁ、それならいいのだけど」

「はい、別にいいんですけど……芽吹さんと雀さん、後は夕海子さん、学校の方は大丈夫なんですか? 今日、思いっきり平日ですよ?」

 

 球子の事は放っておいてもどうとでもなるので無視を決め込んでいいのだが、今日は平日。芽吹と雀、夕海子は本来学校に行っている時間帯である。

 勇者部は園子の手によりこっちにいる間は公欠という扱いになるため、出席日数やら何やらの心配はいらないのだが、芽吹と雀、それから夕海子にそれが適用されているという話は聞いた事が無い。

 彼女達は今日、朝からこっちにいるのでそこら辺がちょっと心配だったりするのだが。

 

「あぁ、それなら平気よ。大赦が上手い具合にやってくれたから」

「上手い具合って……」

「こちとら世界を一度救った防人部隊よ? 一度や二度のずる休みくらい公欠で済ませてくれるわよ」

 

 心配していたのだが、どうやら杞憂だったらしい。

 彼女達は世界を一度救った防人部隊。相応の報酬が払われている身である上に、住み家を射出された哀れな被害者でもある。そんな彼女たちのささやかなお願いが大赦に通じないわけが無く。

 とは言っても、あまり乱用したら普通に咎められるのでそう何度も使える手ではないが、その内園子の権力によって芽吹達も過去に来る際は自動的に公欠扱いになる事だろう。今回はちょっとばかり遊びに来るタイミングが早かった。

 

「わたしと国土の不登校も、住み家爆破からの家なき子化で許されてる事」

「家なき子って……」

「その、わたしと芽吹先輩達防人の方はゴールドタワーに住んでたんですよ。それがわたし達の私物ごと天の神に射出されてしまったので……」

 

 あの光景を防人組は一生忘れる事が無いだろう。

 自分達の家が天の神へ向かって射出されて爆発したのだから。亜耶を含めたゴールドタワー在住の防人&巫女が全員空を見て唖然としたのだから。

 流石にそんな事は知らず、ただしずくと亜耶は藤丸家に居候しているとしか聞いてなかったので、初めて知ったその真実に千景は驚いた。

 

「ついでに言うと、わたしはネグレクト受けて両親心中で天涯孤独パターンのせいでゴールドタワー無いとマジでホームレスだった」

「わたしも、物心ついた時から巫女としての訓練のため大赦の施設で暮らしてたので。大赦も大変だったので、藤丸先輩の所に行けなかったらホームレスでしたね」

「サラッと告げられた真実がとんでもないのだけど」

 

 それでも一応しずくは義務教育なので神樹館から適当な中学に進学しており、一年近くはそこに通っていたし、亜耶も義務教育なので名前も分からない小学校を卒業し、名前も分からない中学校に配属している扱いにはなっている。

 しかし、今さら学校に馴染めないしずくとどこの中学校に所属しているのかすら分からない亜耶はどうしようもにどうする事もできず、結局は大赦に我儘言って不登校&居候を決め込んでいるわけだが。

 

「しずくさんが同類に近い人だったり、亜耶さんの家庭事情が予想以上に闇なのは置いておくとして……やっぱり勇者すると多少の我儘は聞いてもらえるようになるんですね」

「そりゃあ大人の代わりに体張って世界を救ってるんですもの。多少の我儘は聞いてもらわないと」

 

 もっとも、神世紀の勇者達は表立って世界を救ってはいないので、大赦から受けられる恩恵とも言える物は目立たない程度の物だが。

 しかし西暦の勇者達はメディア露出までして世界を救う戦いをしていますと宣言して戦い抜いているので、世界を救った後の恩恵はかなり大きくなるだろう。それこそ、天寿を全うするまでニート生活だとか、大社のトップとなって世界で一番と呼べるほどの権力を手にするとか。それぐらいしても罰は当たらない程度の事をしているのだ。

 

「何にせよ、早いとこバーテックスは片付けておかないと。天の神に対抗する手札も考えないといけないし」

 

 とは言っても、それは天の神を打倒できた後の事だ。

 天の神の強さは芽吹達もよく知っている。満開エネルギーを使用した攻撃をも超える一撃を放てる千景砲を使ってすら傷らしい傷を与える事ができず、満開した勇者が数人がかりで挑んでもまるで児戯のようにあしらわれる始末。

 それを打倒するのは簡単な事ではない。

 

「……そんなに天の神って強いんですか?」

「強いなんてレベルじゃないわね。アレは人間が倒せるような敵じゃないわ」

「神殺しとか無理」

 

 勇者としての適性が高い友奈の因子を持ち、天の逆手の呪詛を持ち、新たな天の逆手を生み出し、御姿となり神との適合率も高く、大満開という奇跡まで起こした友奈ですら不意打ち気味の一撃で撃退が精いっぱいだったのだ。

 大満開をこの時代でも使えるか分からない上、大満開のスペックはそれを纏った友奈ですら理解しきれない程であり、大満開を戦略に組み込んで真正面からぶつけたとしても天の神に勝てるかなんて分からない。

 故に、簡単に勝てる敵ではない。むしろ、勝てないとすら呼べる敵だ。

 

「でも、何とかなるわよ。今までもそうやって何とかなったんだし」

 

 ちょっと前までの芽吹ならこんな不確定な事は言わなかっただろう。

 だが、彼女も徐々に勇者部の思考に侵されてきている。故に、あまり凝り固まった思考でアレコレ考える前にとにかく当たってみればどうにかなるかもしれない。そんな事を考えれるようになった。

 だから、きっと今回も大丈夫だと告げる。確証なんてどこにもないけれど。

 

「……そうですね。なんやかんやで今まで何とかなってきましたし」

「何するものぞ、天の神ってね」

 

 芽吹と千景は笑い、まぁ諦めなければなんとかなるだろうと勇者部らしい思考を浮かべながら目の前のうどんを啜るのだった。

 今日も元気だうどんが美味い。




封印の儀を覚えたスペックアップ済みの防人組にとってバーテックスなんて傷一つなく倒せる雑魚同然でしたというお話。

できればうひみの要素も出したいなーと思いましたが、単行本がいつ出るのか分からないので書けないと言う。真鈴と花本ちゃんはもしかしたら出番ないまま終わるかも。でも真鈴と安芸先生を出会わせるのも面白そうかも。

とりあえず、また次回、お会いしましょう。



……いつもゆゆゆいでしずくの私服が気になってるんですよね。あのタイツなのかニーソなのか分からないもの、すっげぇ柄だなぁって。シャツの謎モンスターもそうですけど、しずくの私服センスって独特だなぁって
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