ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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まだまだ続くよ最終決戦。

どうしてもこうなるとハゲが空気になってギャグくんが虫の息になってしまう……

まぁハゲが空気なのはこの際仕方ない事ですけど。で、この作品って誰が主人公なんだっけ? あぁ、ちーちゃん達か。


希望到来

 天の神の襲来から一週間。

 バーテックスは依然として襲い掛かってくる。しかし、最近はそのペースが徐々に落ち着いてきた。神樹様の神託としては、徐々に徐々に神樹様への攻撃の方へと力を割いてきているため、バーテックスの供給がその分落ち着いているのだという。

 しかし、神樹様と天の神の見えない戦いが終わるという事は、確実に天の神と勇者の最終決戦が始まるという事だ。

 それを、今の勇者がどうにかできるとは到底思えない。

 

「一週間の戦い詰めかぁ……こりゃちーっとばっかり……きっついねぇ」

「大口を叩いた手前、もう少しは頑張りたいと思ったのだがな……」

 

 勇者達の休憩スペースとなった丸亀城の天守閣で座り込んだ雪花と棗の声が響く。

 いくら勇者でも、一週間不眠不休では戦えない。故に、この場所は勇者達が交代で休憩を取るスペースとなっているのだが、今は奇跡的にバーテックスの進行が無く、八人の勇者全員が腰を落ち着かせる事ができていた。

 単独で戦っていたという経験から比較的に雪花、棗、歌野の三人は他の勇者と比べてまだマシな状態だったが、それ以外の勇者は大分参ってしまっている。

 特に切り札を使い戦場を飛び回っていた若葉と数を増やして常に戦い続けていた千景はかなり疲労しており、休憩に入ってからすぐに倒れるように用意された布団の上に寝転がり、そのまま寝息を立てた。

 そして常に後方から援護と作戦指揮をしていた杏も頭を休めるために寝込んでおり、傍らには頭を働かせるための糖分として用意した飴が転がっている。球子も切り札を使い旋刃盤の上に乗って飛び回っていたため、精神的な疲れによって今もうとうととしている。

 歌野も休憩時間を無駄にしないため、水都の膝を枕にして寝ており、高嶋も精神的な疲れが酷いせいか俯いた状態で息を荒げている。

 

「奴さんも諦めてくれりゃいいのに……人間はしぶといのなんて分かってるくせに」

「そこまで言われると、同感だな。いい加減、ここはもう放っておこうと思ってくれていいのだが」

 

 もう放っておいてくださいと声を荒げたい。

 しかし、天の神はどうしてか人類滅却に力を入れまくっている。そこまで目の敵にされると何かしたのかとこっちが聞きたくなってくる。

 ――まさか天の神が掲げる人間根絶の理由が、人間が神に等しい力を持つかもしれないから、なんてクソみたいな理由だとは一切考えてはいないのだが。

 しかし、こうもしつこく攻撃が続くと、息切れをするのはこっちだ。

 勇者達も今はダウンしているが、その勇者達に信託や伝令を届けるための巫女であるひなたと水都もかなり疲弊してしまっている。

 神託を受ける際はその重要性や大きさによって巫女自身にもかなりの負担がかかる。それをかなりの頻度で一週間も受け続けたひなたと水都は片方が働いている間は片方が休んで何とか信託係を回している。

 その信託の量によって既に水都の頭は限界であり、もう何度頭をカチ割ったら楽になれるのかな、なんて考えたことか。というか、ひなたは一度我慢ならずに机の角に思いっきり額を叩きつけたせいで額が割れた。そして血を流しながらスッキリしました、なんて言って今も働いている。

 傷は残らないらしいが、横に居た水都はその光景に思わず声を失った。

 人間、案外やろうと思えば狂えるものである。

 狂っちゃいけないけど。

 

「さて……わたし達も寝るか。寝れる時には寝ておかないとな」

「そっすねぇ……ほら、タマちゃんに友奈。一緒に寝ましょうや」

「ぁー…………バーテックスって……うどんみたいだよな……」

「なんて??????」

「…………タマちゃん。あれ、うどんじゃないよ。味が無い豆腐だよ」

「友奈? 食べたの? ねぇ、食べたの? アレ食べたの?」

「……白くて、大きくて……つまりうどん……」

「おーい医療はーん!!? ちょっとこの人もう精神状態ヤバいよ!!? 至急カウンセリングしないと多分その内バーテックスを料理し始めるよ!!?」

「バーテックス……うどん……産地直送で好評発売中…………産地は…………そこらへん……」

「うぉーい!!? タマちゃん、自分が何言ってんのか分かってる!? っていうか眠いなら寝ようか!? これ以上あたしにツッコミさせないで!!?」

 

 球子&高嶋、既に限界。

 とりあえず二人を無理矢理布団の上に寝かせ、棗と雪花も布団の上で横になる。

 なんか杏が球子を寝たまま抱きしめて寝たまま尻やら胸やら揉んでいるが、球子も寝ているので気づかない。ついでに高嶋が横で寝ている千景を抱きしめ頬をもちもちと食べているが、当の千景は気づいていない筈なのにだらしない顔をしている。

 こんな戦場なのに気が緩んでいる……と思わないでもないが、こんな戦場だからこそ、こうして休める時に好き勝手しないと気が持たない。

 そうして神樹様が見えない領域で天の神と戦っている最中、ようやく勇者全員が休憩を取れた。

 寝れる時間が一時間未満だろうと、寝れればそれだけ回復できる。それをこの一週間で身を持って体験した勇者達は少しでも長く戦うために寝る。大社の職員も、細かい確認のために勇者の誰かと話をしようとやってきても、休んでいるのだからとそれを後回しにして、他に自分ができる事のために走り回る。

 そして、一時間、二時間と時間が経過していく。

 バーテックスの進行がぴったりと止まり、勇者の回復の時間がそれだけ伸びていく。

 大社の人間も、どうせならこのまま天の神が手を引いてくれれば、と祈り始める。

 それが無駄だと、一番分かっているのにも関わらず。

 

「…………はっ!? あ゛ッッッ!!? いっだいアタマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 そして三時間が経過した頃、唐突に水都が目を覚まし、同時に襲ってきた今まで以上の頭痛に思いっきり頭を抑えながら悶え始めた。ちなみに同時刻、ひなたも急に来た頭痛に頭を抱えながら地面を転がった。

 

「うぇぁっ!? な、なになに!? なにごと!? 敵襲!? みーちゃんのせいで貞操のデンジャー!?」

「ひ、ひにゃた……今日の目覚ましは……ヤバいぞ……」

「い、いや、そうじゃないぞ!? 大丈夫か、水都!」

 

 その声に一部の勇者達が目を覚まし、一部……というか棗以外の勇者が全員寝ぼけて何やら見当違いの事を言っているが、棗だけはキャラ崩壊している叫びをあげたのが水都だと気が付き、すぐに水都の介抱に入った。

 暫くの間水都は急に来た頭痛にびくんびくんと痙攣していたが、五分程経過した辺りで顔から出る液体全部出しながらなんとか落ち着き、その間に歌野も正気に戻り、他の勇者も目を覚ました。

 

「え、えっと、みーちゃん。大丈夫? 最初に顔拭きましょう……?」

「ご、ごめんねうたのん……できるならあまり見ないでもらえると助かるかな……」

「そ、そうね……」

 

 涙を流しながらヘッドシェイクしていた事はとりあえず忘れるとしよう。

 顔を拭き、ようやく色々と落ち着いたところで水都がかなり真剣な顔で勇者達の方を見る。

 

「実は、さっきのは神託なの。それも、かなりヤバい感じの」

「し、神託だったのか……なんか、ちょっとばかり巫女じゃなくてよかったと安心している私が居る……」

 

 さっきまでのキャラ崩壊っぷりを見ていた若葉は、自分が巫女じゃなくて良かった、とちょっとばかり安心した。

 しかし、そうやってふざけている場合じゃない。

 この信託は、かなり大事な物だ。

 

「……もうすぐ、天の神の直接攻撃が始まります。神樹様がもう、持ちこたえられません」

 

 天の神の直接攻撃。

 それを聞き、一瞬で勇者達の気が引き締まる。

 とうとう、あの規格外との直接対決が始まるのだから。

 

「直接攻撃が始まったら、すぐに神樹様が樹海を作るけど……周りの被害は、気にしちゃダメ。きっと天の神は一瞬で樹海を燃やすから、それどころじゃなくなると思うけど……この樹海は、みんなが負けるか天の神が負けるかまで、ずっと展開され続ける。だから、本当にこれが最終決戦。負けたら、もう未来は……」

 

 樹海が焼かれれば、その分だけ現実にもフィードバックが発生する。

 しかし、もうそれを気にしながら戦える状況ではない。樹海が焼かれても戦わなければならない。じゃなければ、この地そのものが燃やされ、樹海を燃やされた事によるフィードバックよりももっと酷い惨状となってしまうのだから。

 そして、樹海はどちらかの敗北が決するまで、絶対に解かれない。

 死ぬか、勝つか。それが勇者達に与えられた最後の選択だ。

 

「皆さん、先ほど神託が……って、そう言えば水都さんがこちらにいらっしゃるんでしたね……」

 

 丁度そこでひなたも天守閣にやってきた。

 彼女もかなりの頭痛で地面を転がっていたのだが、どうやら顔から出る液体は女子力で抑えたらしい。しかし、かなり酷い汗をかいている。

 

「だとすると、水都さんから最終決戦が始まるともう知らされていると思います」

「えぇ。さっき顔から出る液体全部出しながら発狂していた水都さんからしっかりと聞いたわ」

「わ、忘れてよぉ……」

 

 まぁ、水都の場合は寝ている所を急に、だったので顔から出る液体全部出しながら発狂しても不思議ではないだろう。いつ神託が来てもいいようにと構えていたひなたとは違うのだから。

 だが、ふざけている暇はもう残り少ない。

 

「きっと、もうすぐ戦いは始まります。逃げる事もできない最後の戦いが」

 

 樹海化が始まれば、負けは許されない。

 負ければ、そのまま人類の滅亡が決定する。

 勝てば、人類の存続が決定する。

 この戦いは逃げることは許さない。今までもそうだったが、敗北が確定したその瞬間、もう死ぬしかなくなるのだ。

 

「ですから、皆さん……どうか、どうか。勝ってください。人類の事なんて本当はもうどうでもいいんです。皆さんが生き残ってくれれば、それでいいんです。もし、逃げられるのなら逃げてください。もし、生き残る術ができたなら、生き残ってください。もうわたしにとっては、見知らぬ人々の命よりも、皆さんの命の方が大事なんです。ですから……どうか、生き残ってください」

「わたしも、同じだよ。本当なら、天の神なんて規格外とは戦わずに逃げて欲しい。でも、それができないから戦うしかない……でも、でも、逃げれるんなら。生き残れるんなら。勝ちなんて捨てて、生き残って」

 

 天の神に勝てるなんて、思っていない。

 信じているが、勝てるとは思わない。

 彼女達は神樹様から送られてくる神託のイメージにより、それを理解している。アレは人間が勝てるような相手じゃない。勇者なんてちっぽけな存在が戦っていい相手じゃないと。

 だが、それでも彼女達は戦わなくてはならない。人類の最終防衛ラインとして。

 でも、それを投げだせるなら。今からでも生き残すために醜く足掻けるのなら、足掻いて欲しい。

 だから、だから。

 

「大丈夫だ、安心しろ。逃げるなんて真似はしないさ。武士の恥だからな。ちょっくら神に喧嘩売ってその首跳ね飛ばしてくるだけだ。だから、お前はどっしりと構えてぱーちーの準備でもしておいてくれ」

「若葉ちゃん……ぱーちーって言い方、もう死語ですよ……?」

「みーちゃんも。絶対に天の神なんて信仰の欠片も無さそうなファッキンゴッドを倒してくるから。別に、あのファッキンを倒してしまっても、構わないんでしょう?」

「それ死亡フラグだよ、うたのん! 割とマジな死亡フラグだよ!?」

 

 はっはっは、と笑いながら若葉と歌野が肩を組む。その様子を見た勇者達が顔を見合わせて苦笑しながら溜め息を吐き、巫女達もなんだか心配するのが馬鹿らしいと思ってしまい、苦笑する。

 そんな風に笑いあう勇者達の携帯が、鳴る。

 今まで聞いた事が無い、音割れて罅割れて不快感を催すようなアラート。その音が、天の神の襲来とそれに伴う樹海の生成をする物だと気が付き、気が引き締まる。

 

「……それじゃあ、行ってくる。全部終わったら、パーティーと洒落こもう」

「はい……どうか、神樹様のご加護を……」

「そんじゃ、ちょっと神様とファイトして勝ってくるわ。だから明日は、畑仕事は一旦お休みにして、思いっきり遊びましょう?」

「うん、うたのん。だから、絶対に帰ってきてね……――」

 

 そして、時が止まる。

 祈るひなたと、泣きながら笑う水都が勇者達の戦う時から切り離され、樹海の中へと呑まれて行く。

 変身して丸亀城から出てみれば、そこは見慣れた樹海で。

 しかし、空を見上げてみれば、そこには罅割れた空からこちらを見下す赤色の鏡……天の神が。

 

「……さぁ、やるか。レベル上げは済ませたな? 最強装備で身を固めたな? 仲間にし忘れたパーティメンバーは居ないな? アイテムの補充は済ませたな? 宿屋で回復もしたか? セーブはしっかりとしたな? 異世界転生の準備もどうだ?」

「大丈夫よ。セーブと異世界転生の準備以外はしてきたわ。だって、初見討伐でイベントを進めるんだもの。それに、こういう時ってラスボスは形態変化をするんだから、第一形態の時に体力を削り取ってしまえば楽しょ――」

 

 その瞬間、天の神が地面に向かってビームを放ち、勇者達の視界が真っ白になった。

 

 

****

 

 

「いや死ぬわ!!?」

「リアルで目の前真っ白になるのなんて初めてだったわよ!!?」

「初手!! 初手の規模!!」

「お前ラスボスならもっとラスボスっぽい事してこいよ!!」

「っていうか、よく無事でしたね、わたし達……」

「なんか知らんけど無事だったわね」

「無事って言う割には全員ひっくり返ったりしてるけど」

「無傷ならヨシ」

 

 リアル目の前が真っ白を経験した勇者達はなんかすっごい熱かったが、衝撃と熱風に吹き飛ばされるだけに終わり、地面に埋もれたりひっくり返ったり樹海の木に思いっきりめり込んだ者の、なんとか全員無事だった。

 しかし、天の神の初手の規模が大きすぎたせいで樹海がかなり消失し、辺り一帯も勇者達がめり込んだ木などを除けばほんの少ししか木は残っておらず、ほぼ焼け野原状態だった。

 まさかの初手であんな規模の攻撃をしてくるとは思わなかった勇者達は口々に文句などを言いながらも立ち上がり、武器を構える。

 

「よし、とりあえず全員生き残ったな! なら話は早い! やるぞ!!」

 

 しかし、その瞬間に天の神が何か光る物をチャージし始める。

 それを見たゲーム脳と小説脳は一瞬でそれが何かを判断する。

 あれ、ビームじゃね?

 

「退避です、全員退避!!」

「どこの星を軽く壊す光線よ!!」

 

 杏が叫びながら退避を則し、そして千景が近くに居た高嶋と球子を担いで逃げ出す。

 それと同時に他の戦闘民族系勇者が一目散にその場を離れるが、一人殺せば残りの二人も一緒に殺せるだろうと踏んだ天の神が千景を狙ってビームを放つ。

 

「させないわよ!」

 

 叫びながら神獣鏡をアタッチメントから外し、盾として展開する。

 が、神獣鏡がビームと拮抗できたのは一瞬。千景達が直撃を免れるくらい移動できたところで神獣鏡は弾き飛ばされ、ビームが地面に着弾。同時に大爆発を起こし、千景達の軽い体が宙を舞う。

 

「千景! 友奈! 球子!」

「大丈夫よ、クリーンヒットは避けてる!! それに、今こそがチャンス!!」

「歌野さんに合わせます!」

 

 宙を舞った三人を心配する若葉だったが、直撃を免れたのを見た歌野と、そんな歌野の動きを見た杏が同時に銃剣とクロスボウを構え、空の天の神へと向けて弾丸と矢を連射する。

 しかし、その攻撃全てがキャンサーが使っていた反射板を召喚された事により簡単に跳ね返され、歌野と杏の元へと返ってくる。

 

「嘘っ!?」

「そんなっ!?」

 

 まさかバーテックスの能力を使ってくるとは思わなかった二人はなんとかその場を動いたものの、跳ね返された際に何倍にも引き上げられた弾丸と矢の威力により、吹き飛ばされる。

 だが、生きている。生きているなら、問題はない。

 

「くっ、遠距離攻撃が通じないのか……!」

「遠距離メタがあるのにあっちが空に浮いてるって、どんな反則だっての……!!」

「ならば、直接叩くだけだ。行くぞ、二人とも!」

「あぁ、乃木の底力、見せてくれる!」

「脳筋戦法だけど、乗った!」

 

 直後に天の神が空からスコーピオンの尻尾を大量に召喚し、それで若葉達を串刺しにしようとそれを伸ばしてくる。

 その串刺し攻撃の初弾を避けた三人がほぼ同時にスコーピオンの尻尾を足場にし、天空の天の神の元へと己の足で駆けていく。そんな三人を迎撃しようとする尻尾の攻撃を避け、更には足場にし、着々と三人が空へと登っていく。

 

「これならば、届く!」

「届かせて見せるっての!」

「人を虐げる悪しき神よ、花により散れッ!」

 

 そして、天の神までの距離は跳躍一回分。ここからならば迎撃も間に合わないだろうと踏んだ三人が同時に跳躍し、天の神へと迫る。

 一撃与えられれば、それを繰り返せばいずれ殺せる。

 そんな希望を込めた一撃。

 天の神はそれを、簡単にへし折る。

 天の神本体から鳴り響いた、不快な音色。その音が音波となり、質量を持って空気を揺らし、空中に居た三人の体が地面へ向かって射出されるように押し返される。

 

「ぐっ……! 力を貸せ、義経ッ!!」

 

 このまま地面にダンクされたら死ぬ。それを悟った若葉が切り札を使う。

 義経の八艘飛びの力で空中を駆け抜け、そのまま雪花と棗を回収。追撃の針を躱しながらなるべく衝撃を殺して着地。二人を地面に降ろす。

 

「すまない、助かった」

「今のは死んだと思った……」

「礼は勝った後だ」

 

 天の神を仰ぎ、生太刀を構える。

 そんな若葉の隣に、ようやく復帰した勇者達が並ぶ。千景も、高嶋も、球子も、杏も、歌野も。全員が攻撃の余波だけで少なくない傷を負っているが、それで怯んではいられない。

 

「さっきまでで通じないのなら、切り札を切るまでだ。五人で行くぞ!」

「えぇ! 七人御先!」

「一目連!」

「輪入道!」

「雪女郎!」

 

 四国組の五人が切り札を切り、装束が変化する。

 六人の千景が一斉にその場を飛び立ち、天の神の錯乱にかかる。そして杏が空へ向かってクロスボウを構える。

 

「道は作ります!!」

 

 雪女郎の力を使った冷気の矢。それを連射し、矢の軌跡に存在する空気そのものを凍らせ空へと伸びる氷の道を作る。そして更に強大な一撃を放つために構える杏を背に、千景と高嶋が氷の道を駆け、若葉と球子がその横に随伴するように切り札の力を使い飛行する。

 道中の天の神の片手間の迎撃を若葉と球子が払い退け、氷の道の先端で千景と高嶋が飛び、その横に若葉と球子が並び、攻撃を仕掛ける。

 

「散りなさい!」

「これでッ!!」

「決めるぞ!」

「タマ達の、勝ちだッ!」

 

 千景の紫に光る槍が、高嶋の拳が、若葉の刀が、球子の炎が天の神へと迫り、更に最高のタイミングで杏の渾身の力を込めた矢が飛んでくる。

 この一撃さえ通れば。

 そんな希望を背負い、攻撃を放つ。

 だが、それは無情にもたった一撃。天の神から放たれた高水圧の放水だけで弾き飛ばされた。

 

「がぁぁっ!!?」

「まずっ……あっ」

「このっ……!」

「止まれっての!!」

 

 若葉が水の中でもがきながら何とか空を駆けて抜け出し、千景が地面に叩きつけられ地面の染みに変わるが、すぐに復活して槍と鏡を回収する。そして高嶋は地面を殴って衝撃を殺して着地し、球子はなんとか旋刃盤のコントロールを取り戻し、地面スレスレで復帰する。

 

「くっ、五人でも通じんか……大丈夫か、千景!」

「えぇ、何とか。うわ、地面の染みになってるわね……」

「よく自分の末路をそんな簡単に見れるよね……」

「まぁ、千景だし……」

「そんな事言ってる場合じゃないです! 五人で駄目だったから……」

「なら、今度は八人よ!」

「こっちも切り札を使って!」

「いや、待て! なんだ、あれは……!!」

 

 五人で駄目だった。なら、今度は八人で。

 そう気合を込めて勇者達が構えたが、棗が様子がおかしい事に気が付いた。

 天の神の周囲の空間が、揺らいでいる。どうして、と考え始めてから数秒後。その原因に気が付いた。

 揺らいでいた空間から火球が出現する。それも、一つじゃない。何十、何百もの火球が出現した。しかもその大きさは、一週間前に高嶋が気合で防いだものよりも遥かに大きい。あの時絶望した攻撃が、何十何百も出現し、こちらに矛先を向けたのだ。

 もしもこれが全て着弾したら。例え千景でも、恐らく一瞬で七人同時に燃え尽きて死ぬだろう。

 他の勇者ならば、どうなるか。考えるまでも無い。

 

「……はははっ。笑うしかないな。パワーバランスがおかしすぎるだろ」

 

 直後、樹海が火に呑まれた。

 

 

****

 

 

「――……て、点呼……」

「生きてるわ……」

「おなじく……」

「奇跡的に……」

「死ぬかと思いました……」

「帰りたい……」

「無理でしょあれ……」

「うみにかえして」

 

 しかし、勇者達はしぶとく生きていた。

 高嶋が地面に向かって拳を放って地面を隆起させ壁にし、更に球子がそれを一瞬で焼き固め、杏が氷の壁を自分達の周りに展開し、千景が目で追える範囲の火球を神獣鏡で防ぐ。そこまでやって生き残ったが、満身創痍だ。

 傷が無い部分を探す方が難しい。そのレベルで全身に火傷と傷を負った勇者達。しかし、心に刻まれた絶望は大きい。切り札を使うのが間に合わなかった歌野、雪花、棗は特に傷が酷く、棗からは普段聞かない弱音が聞こえてくる。まさかの土壇場でキャラ崩壊である。

 しかし、帰りたいと言っても帰れない。天上の神を討伐するまでは。

 

「……はぁ。だから私は言ったんだ。異世界転生する準備はいいかと。きっと異世界転生したらあれだぞ。チートを持って私TUEEEEEして世界救ってなろう系主人公になれるんだ……そうに違いない……」

「その世界に上里さんは居ないわよ」

「マジかよ異世界最悪だな」

「だから異世界転生じゃなくてセーブ&ロードよ。それでパーフェクトコミュニケーションしてハッピーエンド目指すのよ」

「わー、二人が壊れた」

「そりゃ壊れるだろ。だって勝てねぇもん。あれに」

「死ぬくらいならタマっち先輩を無理矢理レ〇プしとけばよかった」

「おいあんず。今なんつった? タマをレ〇プつった? おい?」

「順調にみんな壊れてるわね。ワロスワロス」

「あたし、死んだらラーメン神の元でラーメンに生まれ変わるんだ……」

「わたしが死んだら海に骨を沈めてから世界の中心で愛を叫んでくれ。そうしたら成仏できる」

 

 全員のキャラが崩壊した。

 だが、崩壊しなきゃやってられない。天上でこちらを見下す天の神には、もう逆立ちしても勝てっこない。まだ切り札を使ってない三人が居るが、きっと三人が切り札を使っても焼け石に水。

 それが、先ほどの攻撃で分かってしまった。

 こっちの攻撃が一度通じる間に、恐らくこっちが万回死ぬ。しかも与えられるダメージは、きっと蚊に刺された程度。

 理不尽だ。このバランスを考えた奴を直接殴りたいくらいのクソバランスだ。

 そして、そうこう言っている間にも天の神は第二弾を仕掛けてくる。しかも、第二弾の火球の数は、明らかに先ほどよりも増えている。

 どうしろと言うんだ、こんなチート。

 

「はぁ……もう立てないというのに、奴はオーバーキルする気満々だぞ。どうする?」

「どうしようもないでしょ。奇跡でも起きない限り、ね」

 

 そして、火球が降ってくる。

 もう終わりだ。

 つまらない人生だった、という事は無い。が、短い人生だった。

 こんな事なら、もっと好きなように生きていれば、と思わないでもない。

 まるで死の恐怖を最大限まで与えるようにゆっくりと迫ってくる火球に対し、目を閉じて――

 

『諦めないで!!』

 

 声が、聞こえた。

 頼もしい仲間達の声が。

 だが、その姿はどこにもない。だから、幻聴だと思って。

 

『まだ終わってない! それは、みんなが分かってるはず!!』

 

 幻聴じゃない。

 この地面から響く声は。

 この、世界そのものを揺らす声は。

 

『勇者は、根性!! 根性があれば!!』

 

 ――そして、鏡が割れるような音が響いた。

 同時に、千景達が倒れる場所の傍の地面がまるで鏡のように砕け、そこから光が溢れ出る。

 

「世界だって、越えられるッ!! そしてこれが!! わたし達の!!」

『満開ッ!!』

 

 飛び出した光が枝分かれし、その先で花が咲き誇る。

 満開。その言葉がぴったりなほど、光の先に花が咲き乱れ、その光が火球をかき消す。

 

「讃州中学勇者部!!」

「防人部隊総勢四人!!」

『見参ッ!!』

 

 そこに居たのは、未来へと送り返されもう二度と会えない筈だった頼もしい仲間達だった。




という事で神世紀勇者&防人が到着。勝ったな風呂入ってくる(フラグ)

で、昨日の続きについてちょっとだけ。
もしものわゆが終わるまでに赤嶺友奈の章がゆゆゆい内で全話配信されていたら赤嶺友奈の章にちょっと出番が少なかった雀&夕海子とハゲを送り込んで雀IFと夕海子IFの口実を作ろう、とか思ってたんですが、半年前に一話が配信されたっきりなので、完結という形を取る事に決めたのです。

ただ、その代わりにゆゆゆいのショートアニメが放映されるので、そっちに関連した話を短編で一話だけ……とかはやるかもしれません。

もしも六箇条の最期がゆゆゆ三期! とかだったら絶対に三期のストーリーはやりますのでそこはご安心をば。
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