それでは最終話をどうぞ。
天の神の『撃退』。それは、大社からの連絡によりしっかりと果たせたと知らされた。
そう、撃退。
天の神の討伐は、不可能だった。
どうしてかと聞いてみれば、結構簡単に答えは大社の方が出してくれた。
天の神とは、自然発生した神。つまり、自然の信仰により成り立っている神であり、神樹様は人の信仰と自然の信仰が大体八対二くらいで成り立っている神であるが、天の神は自然の信仰により発生した神なので、例えどれだけボコボコにしてもそれを無意識に信仰している自然……強いてはこの星が存在する以上、完全に滅する事は不可能である。
それこそ、同格の神の直接的な攻撃によりその存在そのものを吸収されない限りは。
しかし、代わりにと言っては何だが、神樹様は一つ手を打ってくれた。
その手とは天の神の封印。力がかなり弱まり、最早勇者一人分以下にまで削られた天の神を神樹様が己の力で封印を施したという。その年数は正確には分からないが、恐らく数千、数万年以上。
中立神と呼ばれていた天の神、神樹様のどちらにも属さない神々が勇者の勝利により神樹様側に付き封印を手伝った事が決め手だったらしい。
数千数万も年を越せば、確実に勇者達は寿命で死んでいるし、なんだったら人類はこの地球からの進出を果たしているかもしれない。そのため、事実天の神は討伐されたと言っても過言ではなかった。
それは樹海化により世界が停止し戦いの結末を見届けることができなかった一般人にも広く報じられ、人類は勇者の手により未来を掴み取る事ができたという事実が口伝でもネットでも広がっていき、一気に人類は勝戦ムードに包まれた。
勇者達が無言で骨付き鳥を食べていた店の店員はその報告が来るまで、もしかしたら勇者は負けて不貞腐れて何か食べに来たんじゃ、なんて勘違いしていたそうだが。
「まぁ、なんだ。勝ったな……」
「そうだね~……」
「まっさか人生で二回も神様と戦うなんてねぇ。もう二度とやりたくないわ……」
「同感です……わたし、思いっきり勇者パンチした時の衝撃で軽く筋肉痛……」
「わたしもだよ結城ちゃん……無茶しすぎたせいで腕が上がらない……」
「そろそろスペックに限界を感じ始めたけど戦いが終わってよかったわ……いやマジで」
「ズラは頑張ったよな……アタシなら万回は死んでそうな劣化勇者システムでよく頑張ったよ……」
という事で、その日は勝ったぞー。とは言ったものの疲れ切ったせいでテンションが上がり切らず、また明日改めて、という事で勇者達はそれぞれの寝床に帰って就寝した。
勿論神世紀勇者達は自分達の手でぶち抜いた道からしっかりと帰還し、自分の家に帰った。ちなみに亜耶がぽいっと西暦に送り込まれた理由は、戦っている間ずっと気を張り詰めて祈っていたら急に空中に切れ目ができて、そこから高嶋らしき人が出てきたと思ったら自分を担ぎ上げて切れ目の中に放り込んだ、との事。
まぁ、あの神様のちょっとしたサービスなのだろう。そう決め付け、それ以上は触れないようにした。
閑話休題。
そして次の日に勇者達はもう一度西暦の時代、丸亀城のいつもの教室で集まったのだが、そのテンションは低い。
若葉達西暦勇者は連日の戦いによる体の疲労がたった一晩では抜けきらず、結果的に疲れたまま朝起きる羽目になり余計に疲れを感じ、神世紀勇者達もなんやかんやで一日で西暦の時代で天の神と相対し、神世紀に強制送還され、そこからもう一度過去に行くための道を自分達で切り拓き、更に一度天の神に敗北し、そこから更に天の神を倒すというウルトラCを決め込んだため、こちらの方も一日で疲労が抜けきらず、翌日まで引っ張りテンションが下がる羽目になった。
「まぁ、いつまでもダラーっとするのはみっともないし、少しはシャキッとしましょうか」
だが、西暦の時代がお祭りムードなのにこっちの気分が沈んでいてはちょっと損だ。という事で口にした風の言葉で無理矢理テンションを平常に戻した。
「まぁ、そうだな。で、風さん。神世紀側は本当に謝礼などは何もいらないんだな? 大社としても西暦の勇者代表としても、神世紀の皆には多いに助けられた。だから、用意できる事、やれる事なら全部引き受けるつもりだったが……」
そして平常に戻してすぐに口にするのは、今回の戦い。何年も続いた天の神と人類との戦いの後始末的なものだ。
西暦側の一般人は誰も知らないが、神世紀勇者達がもたらした物は途轍もない物だ。
いや、この結末すら神世紀勇者達が居たからこそ迎えられたと言っても過言ではない。もしも神世紀勇者が来てくれなければ、若葉達西暦勇者は彼女達の過去に存在した同一人物たちと同じ最期を辿っていただろう。
それを神世紀勇者達は回避した。回避してくれた。勇者達が再び普通の女の子として生きていける未来を勝ち取ってくれた。もう罪もない人々が無情にも殺されるあの光景を二度と見ないでいいようにしてくれた。
だからこそ、大社も勇者も、その事に礼がしたかった。
だが、返ってきた言葉は、何もいらない。
強いて言うなら時々うどんをご馳走してくれと。たった、それだけだった。
「いいのいいの。人助けにそんな物期待してたらいつかバチ当たっちゃうわ。それに」
それに、と言いながら、風は自分と身長がほぼほぼ並んだ一番年下だったはずの後輩の頭に手を乗せた。
「みんなの後輩兼妹ポジションの子と、その仲間達を助けるのに報酬なんか要らないわよ。それに、アタシ達はもう仲間でしょ? 仲間が仲間を無償で助けることに何も疑問なんてないはずよ」
一々言う事がイケメンだな、この人は。
なんて、若葉が柄にもない事を想い、それもそうかと頷けば、そうですね、とひなたも苦笑しながら頷いた。
端から謝礼なんて受け取る気が無かった仲間達に謝礼の事なんて口にする方が無粋だった。だが、こちら側は恩義を感じっぱなしなので言われた通り、いつでも最上級のうどんくらいは出せるよう構えておく程度が無難だろう。
それを頭の中で考え、後で大社の伝えておくことのリストに纏めた。
「ちなみに、既に最高級うどん一年分を礼として用意してあったりもするのだが」
「それはありがたくいただくわ」
なお、香川県民はうどんに勝てない。なので最高級うどん一年分はありがたく貰う事になった。
「んじゃ、次はこっちから質問だけど。もう勇者って必要なくなったのよね? 若葉達はこれからどうする気なの?」
「その事か。それならもう大社とは話し終えていてな」
風が話題に出したのは、勇者達のこれからについて。
それについては昨日の時点で暫定的に大社から勇者全員に話があった。
「まず、高校卒業までは寮暮らしを継続し、ここに通学する事。これは確定らしい」
「その後は基本的に自由ですね。法に触れない範囲でやりたい事をやりたいだけやってもいいとしっかりと言質を取りました」
そのこれからは、自由に溢れた物だった。
元々全員がそのつもりだったが、勇者達は高校卒業までの残り数年はこの丸亀城で前までと同じように過ごす事。そして、高校卒業後は一般人として大学に通い、どこかに就職し、普通の女性として生きていくもよし。自分の夢を叶えるのもよし。
人を殺したいだとか、そういうサイコパス的な事を考え実行しない限りは基本的に勇者の好き勝手にしてもいい、との事だった。
「まぁ、世界を救ったんだからその程度は、って事かしら?」
「らしい。一応私とひなたは高校を出たらどこかで一緒にひっそりと隠居生活決め込んで、働く事なく二人でニート生活するかと決めている」
「若葉ちゃんと二人暮らしなんて今から考えただけでもワクワクします」
今、この世界の政治などをやりくりしているのは大社だ。その大社が勇者達の寿命まで好き勝手出来る程度の金は出してくれるらしい。
そもそも、今から数年前までの世界を取り戻すのは気の長い話だ。それこそ、何百年単位での気の長い話。その内の半世紀間、十人分の人間が好き勝手する程度の金と権力は用意できる。してみせる、との事だった。
故に、若葉とひなたはどこかで好きな事をしながらのんびりと早めの隠居生活をして生きていく事を選択した。もしかしたら数年の間に変わるかもしれないが、基本的にはそんな感じだろう。
「暇に殺されないならそれでいいのかな? あっ、高嶋ちゃんはもう考えてるの?」
「うーん……特に考えてないかなぁ。多分、普通に生きてるかも」
高嶋はまだ決めてない。
けれど、頭の中には普通に生きて普通に就職して普通に結婚して普通に生きていく未来が思い浮かんでいるので、恐らくそうやって生きていく事になるだろう。
きっと、彼女もそれを望んでいるはずだから。
あの戦いの直後にその存在が天へと昇っていった自分の可能性を想い、高嶋はそう考えている。
「じゃあちーちゃんは……って、何となく予想は付いてるけどな」
「えぇ。ゲーマーとして生き続けるわ。合法的ヒキニートよ!」
そして千景は、何と言うか、まぁ予想通りと言うかなんというか。
とりあえず好きにゲームして好きに生きていく事を選択した。
どれだけゲームをし続けても怒られない夢のようなヒキニート生活を合法的に、誰にも叱られる事無く行うのだ。
最も、ゲームに課金などをする場合は一定額以上は自分で働かなきゃ出さない、とは先手を打たれたが。そこら辺は下手に青天井にするとどうなるか分からなかったので仕方なかった。
「ちーちゃんはちーちゃんだねぇ~。じゃああんずんは~?」
「わたしですか? わたしは既に将来、国立図書館のすぐ横に家を建ててそこで延々と国立図書館と家を往復して本を読み続ける約束を取り付けました! 一生かかっても読み切れないであろう本を好きに読める……!! もうさいっこうじゃないですか!」
「わぁ~、すっごいあんずんが活き活きしてる~」
そして杏は、とうとう本の虫生活を合法的に送る事を決めてしまった。
杏の性格上、本を傷付ける真似はしないし彼女以上に貴重な資料庫でもある国立図書館の管理に適任な勇者も居ないので、杏には自分の本棚こと国立図書館は自分で守る事、という条件の元、国立図書館の真横に杏の家を建て、国立図書館へのフリーパスを与えるという事が確約された。
勿論それは東京の安全が完全に確立され、人が住んでも問題ないとなってからになるが。でなければ杏の身が危ないかもしれないから。
「杏さんは杏さんですね……えっと、球子さんはどうするんですか?」
「タマか? タマもあんま決めてないんだけどな……多分、世界中を旅するんじゃないかな。日本に世界に、色んな所に勇者の力で行って探検してキャンプする。タマにはそれぐらいしか思い浮かばないが、それがピッタリだ!」
球子も、自分の夢……いや、楽しい事を追い続けることを選択した。
世界中を旅して、色んな所でキャンプして。そうやって自分の知らない未知に心躍らせながら楽しみ続ける。
きっと誰も居なくなった世界はちょっと不気味で、よく分からなくて。
でも、そんな所を自分の手で探検して、未知を既知にして自然と触れ合う。そのための力も、手の中にある。
それが、球子の選んだ将来。冒険家としての道だった。
「球子らしい将来ね。なら、歌野は? まぁ、大体わかってるけど……」
「その通りよ、芽吹さん。わたしは大きな畑を作って、もう好きなだけ農業に打ち込むわ! 春夏秋冬あらゆる野菜や穀物、果てにはどこ産なのかよく分からない野菜までなんでも作ってなんでも食べる気よ! もちろん、みーちゃんも一緒にね」
「うん。あと、希望者を集めてもう一度諏訪に戻ろうって決めてるんだ。自給自足の生活になるけど、土地神様ももう一度諏訪に戻ってライフラインの確保を手伝ってくれるらしいから」
歌野と水都は、諏訪に戻る事にした。
諏訪に希望者と共に戻って畑を作り、そこで自給自足の生活をする。それが、歌野と水都が自分達で決めた責任の取り方でもあった。
あの日、大人たちの犠牲で生き延び、今日に至った。だからこそ、あの地に戻って戦いに勝ったことを。その先に平和があった事を自分達の姿と共に示す。あの日散った英雄達が笑顔で見守ってくれる、あの日の諏訪をもう一度作るために。
「そっか。それだとちょっと寂しくなるかもしれないわね。そうすると……雪花も北海道に?」
「いんにゃ、あたしは四国に残るよ。北海道も好きっちゃ好きではあるんだけど……まみんなこの近辺に居るんでしょ? なら、一人離れるよりはこっちで馬鹿やってたり、どっかに出かけるならそれに付いてく方が楽しいからさ。一応、里帰りは偶にするけどね?」
雪花は、四国に残る道を選んだ。
何をするかは未定だが、多分特に定職には付かずぶらぶらとやりたい事をやって生きていく。もしかしたら山に籠って自給自足しているかもしれないし、どこか職についているかもしれないし、素性を隠して誰かと結婚しているかもしれないし。
けれど、それをやるのは仲間達が居る四国内でだ。何をやるにしても、仲間がいなければつまらない。それを雪花は知っているから。
例え絶望的な状況でも仲間達とならそれに立ち向かえたのだから。
「なんつーか、結構予想通りな所があるわね……棗は、多分」
「あぁ。風の思っている通り、沖縄に帰るつもりだ。おばば達が愛した沖縄の地で、わたしも生きていきたい。なに、会おうと思えばいつでも会える。そんな世界を作る手伝いを風達がしてくれた。だから、寂しくなんてない。会いたいと思ったらすぐに会いに行くさ」
棗は、最も遠い沖縄の地へ帰る。
あの日沖縄から四国へと避難した者達の中から希望者を集め、沖縄へと帰還する。
きっと、あの日別れた老人たちは天国へと逝ってしまっている。でも、あの人達が愛した沖縄の地は、空は、今も残っている。
愛した人たちが愛した地を、共に愛して生きていく。あの日見捨てるしかなかった地をもう一度踏みしめ、あの人達を見守り続けたお天道様にもう一度見守られて。
それ以上に満たされた生き方は存在しないだろう。
「もちろん、神世紀のみんなもこの世界に気軽に遊びに来てくれ。やりたいことがあったら、是非ともやってくれ。その程度の権利はあるからな」
「そうするよ、若葉。っつか、なんやかんやでまだアタシはお前と手合わせしてないから、色々と落ち着いたら一度どっちが強いか勝負するぞ」
「ふっ。銀如きに負ける程、私も気を抜くつもりはない。いつでも来い面食い」
「おうやってやるよ要介護JC」
「おい誰が要介護JCだ貴様。流石にそこまでひなたにされてるつもりはないぞオイ」
そして何故かほぼ零距離でガン飛ばしながら中指を立てる銀と若葉に全員が苦笑し、ちょっとだけ存在したシリアスな空気が霧散する。
これこそが、勇者達が真に掴み取った未来だ。
明日に希望を見出し、笑いあえる日々を信じてやまない希望に満ちた日々。
丸亀城で少女達の笑い声が響き、時々怒声が響き、結構な頻度でハゲが空を飛ぶ。そんな、当たり前のようでどこか違っている笑える日々。
神世紀の勇者達は自分達の時代に帰り、時々遊びに来る。そして西暦の勇者達も時々神世紀に遊びに行き、名誉勇者部員として活動して。
そんな様子を、空からもう必要なくなった存在達が見下ろし、時々ちょっかいかけに遊びに行って。
そうやって、神世紀と西暦の時間は流れていくのであった。
****
それからも、神世紀と西暦の交流は続いた。
時々西暦の元勇者達が神世紀に遊びに来て、神世紀の勇者達も西暦の時代に遊びに行く。既にあの時の最終決戦は過去の笑い話となり、神世紀勇者三年生組の受験も徐々に徐々に近づいてくる。
それを西暦勇者達が笑い、自分達には無縁の事だからと笑いの種にして。
そうやって、毎日を笑顔で過ごして。
「よし、今日は神世紀の方に遊びに行くか。なんだかあっちは受験勉強で依頼の消化が滞っているらしいからな」
「案外三百年後だと見知った場所がちょくちょく変わってるしな。タマ的には依頼をしつつ見て回るのが結構楽しいぞ」
「それに、偶に依頼人の人から本の話を聞く事もできるので楽しいんですよね」
なんて事を駄弁りながらその日の授業が終わった西暦勇者達は神世紀へと向かう。
未だに西暦の時代は勝戦ムードであり、勇者の仕事は凱旋の他にもインタビューだったり写真撮影だったりと、なんだか半分アイドルみたいな事になりかけているが、そのせいで街に出ても誰かに囲まれて気が休まない。
なので遊びに行くときはもっぱら神世紀となっている西暦勇者達と巫女ーズはいつものように十人で神世紀へのゲートを潜った。
潜った……のだが、その瞬間、西暦勇者達の目の前が花吹雪に包まれる。
「なっ!?」
「これって!?」
「何事!?」
潜った瞬間にそれに包まれた勇者達と巫女達は思わず声を上げ、花弁が口の中や目に入らないように顔を背けながら目を閉じるが、それはあまり意味が無かったようで、花吹雪自体は数秒もしない内に止まった。
いきなり何が、と困惑しながら顔に当てていた腕を退ける。
すると、目の前には。
「あれっ、若葉ちゃん!?」
「っていうか、西暦組が全員いるわね……」
「な、なんだったのよさっきのは……」
神世紀の仲間達の姿があった。
勇者部員達八人に加え、防人四人と亜耶。合計十三人の仲間達が急に起きた花吹雪と、急に目の前に仲間達が現れたことに困惑している。
仲間達が居る事に安堵しながらも、若葉は周りを見渡す。
そこは若葉には見覚えのない場所だった。
「ここは……樹海に似ているが……どこだ?」
そこは若葉達の知る樹海ではないが、しかし樹海に似ている場所。それを西暦勇者達は興味深そうに見渡すが、神世紀の勇者達はその光景を見て驚愕した。
「ここって……わたし達が戦っていた樹海!?」
そう、この光景は。
いや、この地は、かつて神世紀の勇者達がバーテックスと戦った地。つまり、神樹様が作り出した樹海だった。
それを聞いた若葉達が驚くも、即座に全員が端末を取り出す……が、ここに武器を持ってきていないがために変身できない事に気が付き、勇者達が巫女二人を囲んで周囲の警戒に入った。
「まさか、今度は神世紀の方にバーテックスが来たとでもいうのか!?」
「いや、そんなハズは……そもそもあたし達の世界の神樹様は既に散華して消えているのよ。だってのに、樹海が発生するわけが……」
若葉の言葉に夏凜が答え、同時に神世紀の勇者達と防人が変身する。
この樹海は、異常だ。神世紀に神樹様が居ない以上、樹海化が発生するわけがない。だと言うのに、今、自分達が踏みしめているこの地は間違いなく見知った樹海だ。
分からない、の文字が頭の中を過る。
だが、もしも新たな敵が来たと言うのなら、戦わなければならない。構えながら西暦勇者達をどんな不意打ちでも守れるように立ち回り。
「うぅ……何よ、今のは……」
「なんか急に樹海化したよな……園子、ズラ、いるか?」
「いるよ~。でも、何が起きたんだろ~?」
「分かんねぇけど、樹海化したってんならバーテックスが来たんじゃないのか? 知らんけど」
第三者の声が聞こえ、全員の視線がそっちを向いた。
というか、普通に聞き覚えのある声だったので、全員が自分達の近くに居るその声の持ち主の方を一度見てから、第三者の方を向いた。
そこに居たのはだいたい小学生くらいの子供たちだった。
制服は、神樹館小学校の物。人数は、四人。
その四人を見た勇者達が目を見開き、そして仲間四人の方へと視線が向く。
そして視線を向けられた四人が叫んだ。
「わ、私が居るっ!!?」
「うぉーい!!? なんか知らん間に分裂してるんだがぁ!!?」
「えっ……えっ? いや……えっ? アニメじゃないんだからさ~…………えっ、マジ!?」
「おのれディケイドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! いや、多分こういう時はジオぉぉぉぉぉぉぉぉぉウッ!!」
『うわっ!!?』
もう本当に思い思い叫んだ。
その結果、視線の先に居た小学生たちがこっちを見る。
そして。
「えっ、私達以外に勇者が!?」
「しかもなんかどこかで見たような……園子、ズラ、お前ら兄弟居たの?」
「い、居ないよ~。っていうか、それを言うんだったらミノさんにもお姉さんいるのって話になるし~」
「……なるほど、大体わかった。分かってないけど大体わかった。とりあえず叫んでおこう。おのれディケイドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
約一名、同じことを叫んだが、思いっきり困惑した。
何故なら、そこに居たのは。
「や、やっぱり、ちっちゃい東郷さん達だよね、あれ!」
「というか先代勇者達の現役時代……かしら?」
「た、多分……わたし、一度見たことあるから分かるけど、あれは小学生の時の東郷達で間違いない」
神世紀の時代の更に三年前にバーテックスと戦っていた小学生時代の先代組。つまりは鷲尾須美、三ノ輪銀(小)、乃木園子(小)、桂の四人だった。
「と、とりあえずあなた達誰ですか!? まさか、人型のバーテックスだったり……!!」
「違うわよ! 説明はできないけど……多分、あなたは私、私はあなたよ! 過去と未来の同一人物!」
「私があなたみたいな見ただけでやべー奴だと分かるような人になるわけがないじゃないですか!!」
「捻り上げるわよこのクソガキッ!!」
「と、とりあえず何がどうなってんだこれ……?」
「さぁ。けど、多分お前はアタシだ。えっと、腕は……おっ、生身。んじゃあの時より前のアタシか」
「ど、どういう事っすか……」
「えっと~……こういう時ってどう言えばいいんだろ~」
「わたしはあなた、真なるあなた……ということでシャドウ園子! とかそういうのじゃなくて多分タイムスリップでもしたんじゃないかな~?」
「あっ、なるほど~。つまり考えてもよく分からないって事ですね~」
「そう言う事~」
『おのれディケイドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! …………よし、間違いなくお前は俺だな!! だってこんなハゲは俺しかいない!! ……やべぇ、言ってて悲しくなってきたしなんかすげーシンクロしてるし……』
須美の言葉に美森がガチギレして銃を突き付けそれを後ろから友奈に羽交い絞めで止められ、銀は銀(小)がもう自分である事は確定しているため、自分の腕の有無で銀(小)が大体どこら辺から来たのかを察し、園子と園子(小)はよく分からないから一旦そう言う事で納得しておこうと勝手に納得し、ハゲとハゲは共鳴していた。
まさか勇者が四人も増えるとは思っていなかった西暦組はポカンとしているが、なんか一人だけ息が荒い。
お前の事だぞ伊予島。
「ま、まぁなんというか……とりあえず今は戦力が増えたという事にしておこう。だが、これは一体なんなんだ? 樹海と言うからには敵がいるのが常識だが、敵も来ないのはどうにも不気味だな……」
今にも須美、銀(小)、園子(小)に飛び掛かりそうな杏が高嶋のチョークスリーパーにより今にも沈みそうになっているのを尻目に、敵がいつ出てきても動けるように警戒しながら呟く。
樹海は敵が進行してきたときに展開されるのは過去も未来も同じだ。
だが、いつまで経っても敵は出てこない。というか味方が出てきた。
もうよく分からないが、何が起こってるのか説明してほしいと思ったその時。
「それならわたし達が一から説明するね」
今度は小学生組が出てきた方とは逆の方から声が聞こえてきた。
全員でそっちに振り替えり、そこにいる人を……三人組を、視界に収める。
その三人組は、今まで見た事が無い。だが、内一人は友奈と高嶋にどこか似ている。似ているが、胸の大きさと肌の色的にちょっと違和感がある。約二名ほど巨乳になった第三の友奈を見て心が揺れ動いた。
「一応味方という事を示すために先んじて自己紹介しておくよ。わたしは赤嶺友奈。神世紀七十二年出身だよ」
「弥勒は弥勒蓮華。友奈と同じく神世紀七十二年の人間よ」
「そんでもってウチが桐生静! 静じゃない静と覚えてや!」
三人組の名は、友奈似の者が赤嶺友奈、黒髪が弥勒蓮華、銀髪が桐生静と名乗った。
桐生静、という人間については聞き覚えが無い。だが、他の二人の名は聞き覚えがある。
赤嶺と弥勒、という事は、だ。
「ま、まさか、ご先祖様ですの!!?」
「あら、弥勒の事を知っているの? あなたの名は?」
「わ、わたくしは弥勒夕海子ですわ! まさかこんな所でお会いできるとは……光栄の極みですわ!!」
「あら。まさか弥勒の子孫が居るなんて。これは流石の弥勒も予想外」
「な、なんだか予想以上にキャラが濃いですわね、ご先祖様……」
「そう? 弥勒さんのご先祖様らしいじゃない。あの人を大体百倍以上希釈して水に溶かしてろ過したのが弥勒さんって感じね」
「馬鹿にしてますわよね!!? ご、ごほん。それと、そちらの方は赤嶺と名乗った……という事は、つまりあの盟友の赤嶺家の方という事でございますわね!」
「め、盟友……? まぁ、確かにわたしとレンちは仲間だよ。色んな修羅場潜り抜けてきたしね」
そう、彼女達も勇者に連なる存在で間違いないという事だ。
かつて赤嶺と弥勒はとある事件の解決に尽力したと言う。彼女達はその当事者であり、夕海子が何度も語る伝説を残した張本人である可能性が高い、という事だ。
というか、先ほど彼女達が口にした年代的にもドンピシャだろう。
まさかそんな人達までもが来るとは思っていなかった勇者達は呆然としてしまう。そんな呆然とした勇者達を見て、赤嶺はいけないいけない。と口にして一度話を区切った。
「それじゃあ簡単にこの状況を説明するけど、簡単に言うとわたし達は神様の暇潰しに巻き込まれたんだよ」
「ひ、暇潰し……?」
神様の暇潰し。
なんかそう聞くと一瞬脳裏に二回も戦ったあの悪辣な神が思い浮かぶが、一旦それは置いておく。
「どうやらこの神世紀三百年代の神様達の間でちょっとした喧嘩が起こっちゃったらしくてね。もしも両者共に事情を知っている状態で勇者対バーテックスの陣取り合戦が始まったらどっちが強いかって論争で、勇者側とバーテックス側で意見が分かれちゃったんだ。ぱっくりと」
「…………お、おう」
風の困惑した声が聞こえた。
「という事で、実際にやってみようってなっちゃったらしいんだ。過去と平行世界から勇者達を連れてきたドリーム勇者チームVSバーテックスチームの陣取り合戦を」
「や、やる事が派手だね~……」
何ともまぁ、はた迷惑な話だろうか。
思わず全員が呆れ困惑しているが、説明している赤嶺や蓮華、静はちょっと楽しそうだ。
「で、期間は無制限で、場所は神世紀の土地と西暦の土地の二つ。この二つはゲートみたいなので行き来できるみたいだね。それに加えて人をコピーした二つの世界が戦いの場所だよ。交戦時期とかも特に無制限のままで、勇者達もそこに送られて、なんと何年経っても歳は取らないまま普通の生活を送る事もできるみたい。で、勇者チームの勝利でみんなが元の場所に戻った際には記憶を消すか残すかを選べるという特典付き! ついでにうどん一生分が商品で付きます」
うどん一生分。
その言葉を聞いた瞬間、一部の勇者以外のハートに火が付いた。
「っしゃあ!! 勇者一同!! バーテックスぶっ潰してうどん一生分山分けよ!!」
『おおおおおおおおおおおおお!!』
うどんが商品ならば戦わない理由はない。芽吹&シズク以外の防人と巫女ーズ、歌野、雪花、棗以外の全勇者が血気盛んに叫び、一応その他の面子も気後れしない程度の声を上げた。
「あっ、それと、もしも戦闘中に死亡判定をくらったら、陣取り合戦中は変身こそできても戦いには混ざれないから。まぁ、死んでも特に問題ないってだけだし、気楽にやろーよ」
「気楽ぅ? 甘い、甘いぞ赤嶺!! うどん一生分がついて来るんだぞ!! 死ぬ気で勝ち取るに決まってるだろ!!」
「うわー凄い気迫……レンち、シズ先輩、これどうしよう?」
「いいんじゃないかしら? 士気が高い方が後々いい方向に傾くわ」
「そうそう。まぁ、楽しそうやしええやん。ウチらもこれぐらい楽しんで先輩後輩と一緒に遊ぼうやないか」
「まぁ、それもそっか。そんじゃ、陣取り合戦はまた後日から。今日は神樹様が舞台を作ってくれるから、小学生組とわたし達は自分達の住む場所とか通う場所とかを確認してから陣取り合戦開始だよ。という事で、今日はこれにて解散!」
「うどんッ!! 一生分ッ!! なんとしてでも勝ち取るわよッ!!」
『よっしゃああああああああああああ!!』
「あっ駄目だ聞いちゃいねぇ」
急に始まったドリーム勇者チーム対バーテックスによる四国陣取り合戦。
実はこの裏には、今まで頑張った勇者達の青春期間を延長して好きなだけ遊んでもいいよ、という神様側からのご褒美が含まれているという裏話があるのだが……果たしてうどん一年分を商品に出された勇者達が暴走しまくって一日で陣取り合戦を終わらせてしまわないか、若干不安になってきた神様達はそっと裏で新ルールを作り出すのだった。
そんな感じに勇者達のテンションが上がり切った叫びとこれが先輩と後輩なのかぁ……と至極嫌そうな顔をする赤嶺、何を考えてるのか分からないが多分ロクな事を考えてない蓮華と静達の、長いのか短いのか先は分からない新たなドタバタした日常が始まるのであった。
という事で、花結い編突入……というのは名ばかり。今後短編を書く際は多分この花結い(笑)時空で書くと思います。やっぱ赤奈ちゃん達も書きたいから多少はね?
ただ、IFは花結い時空か花結いが起きなかった時空のどちらかを書くと思います。
という事で、本話を持ちまして、ハナトハゲの本編は完結とさせていただきます。
いやー、長かった。書き始めてから丁度二年と数日。まさかこれを書き始めた時はここまで長くなるとは……というか、自分の連載史上最大話数になるとは思ってもいませんでした。それもしっかりと完結という。
ゆゆゆを知って、ハマって、プロットもないまま設定を数行だけ書いて書き始めた作品がまさかここまで長くなるなんて。当時は大学三年だった自分もいつの間にか社会人。まさかエタらずに書き上げられるとは当時は思ってもいませんでした。
というか設定もプロットもロクにないせいで酷いキャラ崩壊を起こした人が数人いましたね……樹ちゃん後輩とかそのっちとか……ついでに迷言も幾つか生まれ、青いのとか頭勇者部とか明らかに当時の自分酔っぱらって書いただろとしか思えない頭悪い単語の数々に。
いやはや、本当に長くて濃い作品でした。
そんな作品の本編もこれにて終わりです。二年という長い期間、見守ってくださり本当にありがとうございました。完結したという事もあり、今後はかなりローペースでの更新となると思います。
一応、現状投稿が確定しているのは銀IF2、千景(小)IFの二つです。次点で樹IF2、しずくIF2、亜耶IF2の三つがあります。銀IF2と千景(小)IFは書きあがり次第、投稿します。それ以外は本当に書くかどうかもわかりません。
一応、活動報告の方に完結という事でもうちょっとハナトハゲについて語る物を作る予定なので、話の希望などがございましたらそちらの方で誰のIFを希望とか、こういう話を書いてほしいとか書いていただけると、もしかしたら書くかもしれません。
それでは、またいつか。たまーにこの作品の事を思い出して、こんなのあったなぁと笑いながら見ていただけると幸いです。
-追記-
銀IF2が連続投稿期間の間に書き上がりましたので明日投稿します。
よろしければそちらも蛇足的な感じでお付き合いください。
それでは、二年と少しの間、本当にありがとうございました。