ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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最近ビルドファイターズ見始めました。ロボット同士のカッコいい戦い、いいですね。

で、今回はですけど、予想以上にちーちゃん(小)IFの内容が長くなりそうで、息抜きに描いていた若葉IFが先に書きあがってしまったのでこちらを先に投稿します。

さて、若葉IFですが、若葉は西暦の時代で地位がある人の一人ですのでちょっと悩んだのですが、ウチの野武士ならこの位軽い方がらしいかな、と思ったらそのまま息抜きで結構書けまして。

ちーちゃん(小)IFが書きあがるのにはもう少し時間がかかりそうなのでそれまでの箸休め的な感じで若葉IFを先にどうぞ。


IFストーリー2
若葉IF:若葉の打算


 それはとある日、西暦の時代に遊びに行った藤丸に対し、偶々二人きりとなった若葉が口にした事が発端だった。

 

「うん、そうだな。おい藤丸」

「ん? どうした若葉」

「お前、私と結婚しろ」

「…………………………は?」

 

 高校生になりいよいよ乃木家専属のパティシエへの道が見えてきた藤丸だったのだが、そんな彼に対して若葉は唐突に結婚しろと告げた。

 正直に言えば意味が分からない。ゲームの事かそれとも冗談か、なんて笑いながら言ってみれば、違うと若葉は首を横に振った。

 

「お前の戸籍はどうとでもするから、私と結婚しろ、藤丸。どうせ恋人も居ないんだろう? ならいいじゃないか」

 

 どうやら若葉は本気らしい。

 そんな事をしたらタイムパラドックスが、と一瞬思ってしまったが、そもそもこの時代の天の神を撃退している時点でタイムパラドックスとか起きまくっているので今さらだ。

 恋人がいないからいいだろう? なんて言われても、唐突に交際を越えて結婚とか考えられないし、まず藤丸はまだ十六歳なので結婚なんてできない。一応、若葉は結婚できる歳ではあるが、それでも結婚を決めるには早すぎる。

 そもそも恥ずかしがることもなく真正面から言ってくる辺り、好意なんてきっと持ち合わせていない。友人として好きだが異性としては見ていない。そんな気しかしない。

 

「い、一応理由を聞かせてくれるか?」

 

 だが、若葉は何も結婚なんて言う人生を左右すると言っても過言ではないイベントをそう簡単に口にするほど色々な部分が緩い少女ではない。それどころか、そう言ったイベントには誰よりも真剣に考える生真面目さすらあると言ってもいい。

 ある程度千景のせいでその生真面目さも取れて俗っぽい事大好きな子にはなったが、それでも根はクソ真面目だ。故に、何か理由があるのだろう。そう踏んだのだが、どうやら若葉にはそれを口にした理由がやはりあったようで。

 

「理由か? あぁ、それならな」

 

 若葉はそう言えば理由言ってなかったな、と言わんばかりに彼の言葉に答えた後、どうして藤丸に求婚するに至ったかを説明し始めた。

 

「私はこう見えても少し良い感じの家柄の出身でな。お前は知らないだろうが、こう見えてもお嬢様みたいな感じなんだぞ? 風雲児とか野武士とかの方がよく言われるが」

「あぁ、それは一応園子から聞いてる。昔から格式高かった家だって。そこに勇者としての業績もあって大赦のトップになったとも」

「そうだ。だからこそなんだが、大社や実家経由でお見合いの話が凄いんだ。格式高い家であり、世界を救った勇者だ。そんな女を自意識だけはトップクラスのプライドだけ高い奴らが野放しにすると思うか?」

「…………いや、思わない」

 

 園子にはそういうお見合いやら何やらの話はまだ来ていないらしいが、若葉の方には既にそう言った話が多数来ているらしい。

 試しにもう少し掘り下げて聞いてみれば、勇者を率いたリーダーであり乃木家の御令嬢である若葉を引き入れ自分の立場を強化したい、という人間が殆どらしく、大体の人間は会った時点で名声狙いなのだという事が透けていたとか。

 本当に若葉の事が気になってお見合いを組んだ若葉と同年代位の少年や少し年上の大人も居たらしいのだが、やはり若葉にはお見合いで出会ってそのまま婚約……というのは肌に合わなかったらしい。

 しかし、親や大社が言うには、やはり一人くらいは勇者の血筋を残す人がほしい。だから誰かは結婚してほしい、なんていう意見が専らだ。

 そう言われると、確かに西暦勇者の中でマトモに結婚しそうなのは将来大社とは関係なくなるであろう雪花か棗くらい。高嶋は友奈と同じ感じになってきているし、それを狙う千景も居る。その他の四国メンバーは、まぁ大体予想通り。

 それに、若葉は引き込む事ができれば勇者としての名声と乃木家の地位まで獲得できるという、一粒で二度美味しい感じの立場になってしまっているのだ。

 それを西暦の腹黒共が見過ごすわけもなく。更にそこから乃木若葉とならお見合いできるという情報まで広まって色々と縁談が組まれていって。

 

「まぁ、そう言う事だ。こう見えても空いた時間は縁談やらお見合いやらで忙しくてな……ひなたがある程度弾いているらしいのだが、それでも私に直接来る話は多い。というかひなたにまで縁談が行っている始末だ」

「そうなのか……ん? となるとちーちゃんにも」

「あぁ、沢山来てるな。本人がボイコットしまくってるというか知らないように対処こそしているが」

 

 一瞬雰囲気が怖くなった藤丸だったが、若葉の特に動じない言葉によってその雰囲気を収めた。どうやらこの兄代わりはまだ妹ポジションが男にそういう目で見られるのが我慢ならないらしい。

 もう千景も十七歳だと言うのに、こいつは今後しっかりと千景離れできるのか、と思わず溜め息を吐いた若葉ではあったが、一度咳払いをして逸れ始めた会話を元に戻す。

 

「で、だ。藤丸。理由も聞いて私と結婚する気になったか?」

「いや、どうしてそれで俺に結婚しろと言ってくるのか理解できないんだが。もしかして風除けか?」

 

 藤丸の頭の中に浮かんだのは、藤丸という男を婚約者として置いておくことでお見合いを全カットするという裏技染みた物。

 婚約者がいるという盾があるのなら、自分に降りかかるお見合いの話は大体無くなってくれるだろう。藤丸はそう推理したのだが、若葉から返ってきたのはそれもそうだが、という藤丸の言葉を肯定しつつの言葉だった。

 

「それもそうだが、色々と考えてな」

「考えてって?」

「別に風除けを作るだけならお前じゃなくて大社から適当に見繕うさ。それこそ、私とひなたはデキている、なんて噂を流したっていい。同性愛者だと噂が流れ、更に既にデキているのなら縁談なんて確実に無くなるだろう?」

「まぁ、確かにそうだが」

 

 実際、風除けを作るのなら、若葉とひなたが互いにデキていると噂を流すだけでいいのだ。

 元より大赦内ではひなたが若葉に対して気があるのは最早周知の事実だし、何より勇者と連れ添い大社の中でも相当の立場に居るひなたが若葉の相手として務まらない訳がない。

 多少のブーイング。それこそ、この産めや増やせやの時代で同性愛なんて、という言葉も出てくるだろうが、勇者と巫女が組んで脅してきたらそれを止めるだけの力は有権者や良い所生まれの人間には無い。

 故に、風除けを作るだけならそれが一番。

 それをしないのは、理由があったから。

 

「まず前提として私はお前を異性としては見ていない。だが、親友として見ている」

「そ、そうか……久しぶりに真正面から論外扱いされたな……」

「すまんな。だが、私と結婚生活をできるような男、なんてのはお前しかいないんだよ、藤丸。共に天の神と戦った唯一の男であるお前しか、な」

「お、おう?」

「ひなたが好きな同性愛者、なんて評価はそもそも私は要らん。それに、婚約者をとっかえひっかえする女、という立場も嫌だ。だから、もう思い切って気心知れたお前を婿に迎え入れてしまえ、というのが私の考えだ。実家にも大社にも、お前は未来の勇者である事は知れ渡っているからな。勇者同士の結婚という名目がいい感じに後ろ盾になってくれるさ」

 

 こうも思いっきり本音で思惑を語られると思わず感心してしまう。

 実際、お見合いで知り合った腹の内も全部知らない奴と妥協して結婚するよりかは、気心知れた相手と結婚する方が楽だろう。それに、藤丸の存在……というか神世紀勇者の存在は勇者関係者には知れ渡っているし、何なら西暦勇者達の事も神世紀の勇者関係者には知れ渡っている。

 故に、時代を越えて恋愛したとしても、じゃあどっちの家で同棲する? だとか戸籍どうする? 程度で問題は済んでしまうのだ。若葉の場合は居なくなるとちょっと問題があるので藤丸にこちらに来てもらう事にはなるのだが。

 

「そういう訳だ。どうせお前は身内からも論外扱いで他に親しい女友達も居ないんだろう? なら唾付けさせろ」

「唾付けさせろって……そりゃあ俺は若葉みたいなのと結婚できるんなら嬉しいけどさ。でも、本当にそんな簡単でいいのか?」

「むしろそれしか選択肢が無い、とも言えるんだ。お前、私の立場で考えてみろ。立場と金を狙ってくる女か、自分のケツを狙ってくる男友達か、よく知らん女か、親友か。この中から選べと言われて自分のケツを狙ってくる男友達やよく知らん女を取るか? あぁ、選ばないって選択肢は無しな」

「…………ごめん」

 

 言われてようやく事態の深刻さというか、どれだけ選択肢が狭いかがようやく分かった。

 確かにその選択肢を突き付けられたら親友に縋り付くだろう。じゃないと男友達からケツを掘られるかもしれないと叫びながら。

 という事は。

 

「若葉、実は結構必死か?」

「ははは、ようやく気付いたか? 私の処女がひなたに奪われる前に助けて」

 

 そりゃあ必死にもなるか。

 若葉に残された選択肢は実質ひなたか藤丸か、だったのだ。それなら男である藤丸を取るに決まっている。

 若葉だって幼馴染に貞操を奪われたくはないのだ。若葉にだって、結婚して子供を作って将来をほのぼのと暮らしたいという願望があるのだ。

 

「……そ、そっか。まぁ、別にそっちがそう言うんなら……俺は。結婚諦めてた節あるし……」

「私もしないつもりだったんだがな。まぁ、なんだ。のんびりとやろうじゃないか」

 

 何ともまぁ、妥協に満ちた婚約だろうか。

 本当にこれでいいのか……? と首を傾げる藤丸だったが、そんな彼にポイっと若葉が何かを投げ渡した。

 何かと思って確認してみたら、それは指輪。それを確認してから若葉の方を見てみれば、若葉は若葉で同じような指輪を左手の薬指に付けていた。

 

「これで婚約成立だな」

「こんなんでいいのか……?」

「男女の婚約に仰々しい書類など要るものかよ。婚約を示すものなんてコレで十分だ」

「はいはい。っつか、こんなんで生涯のパートナー決めちまっていいのか俺……?」

「私じゃ不満だったか? 不満なら指輪、返してくれてもいいんだぞ」

「そう言われると返せないでしょーが」

「だろうな。こんないい女の婿になれる事を光栄に思うがいいさ」

 

 そうですね、と生返事を返して左薬指に指輪を通す。

 少し大きめの指輪でピッタリとは言えないが、それでも日常的に付ける分なら十分だろう。

 

「……どこで俺の指の太さを?」

「ん? 目測」

「そうか……」

 

 それ人間にできる芸当なのか……? と思いつつも藤丸は何とも言えない表情で自分の左薬指で光る指輪を眺めるのであった。

 

 

****

 

 

「まぁ、この指輪はそういう訳。若葉からお前も日常的に付けて唾付けられた事を示しとけって言われてな……」

「そんな理由でご先祖様と婚約したの!? いや、それどころじゃなくて……っていう事はズラっちがわたしのご先祖様になるって事!?」

「落ち着け園子。あの若葉の未来は俺達じゃないのは分かってるだろ?」

「えっ…………あっ、い、いや、それは分かってるけど……えっ、なに、これからズラっちも乃木って事……?」

「そうなるんじゃね? 多分婿入り養子だろうし」

「い、嫌だ……」

「割と傷つくからガチで嫌だって言うの止めて欲しいかなぁ……!!」

 

 割とマジな拒否の言葉に傷つく藤丸。

 どうして婚約の事を園子に伝えたかと言えば、それは単純。目立たないように左手を使って生活していたのだが、園子に偶々左手を、しかも指輪を見られてしまい、その指輪どういう事!? と鼻息荒く問い詰められた結果だ。

 その結果は藤丸が若葉と婚約した事による、藤丸の乃木家入りが確定したという現実に対する園子のガチの拒否の言葉だ。

 別に本当に拒否するほどではないが、流石に親友が急に身内になると言われたら困惑する物だ。しかも困惑ゆえに一瞬、あの若葉は自分達の時代に繋がらない若葉だと言う事を忘れてマジで自分の中に彼の遺伝子があるんじゃ……と思ってしまったほどだ。

 しかし、園子ももうすぐ大人だ。故に、何とか自分を落ち着け、改めて事実を嚥下して受け止める。

 

「……えっ、ご先祖様正気なの~?」

「正気、じゃねぇの? まぁ、若葉にだって考えがあったとは思うけど」

「そりゃそうだろうけど……人間が何も考えずにズラっちと結婚なんてするわけがないし」

「おっと、サラッとディスるの止めろ?」

「っていうかズラっちはそれでいいの!? そんな簡単に決めていいの!?」

「まぁ流れとは言え受けちまったからな……受けちまった以上は責任果たすつもりだぞ? 若葉だってある程度は葛藤があったろうし、俺も将来の相手が未定だしな。俺としてはあっちがいいならって感じか」

「む、無駄に責任を感じてるせいでうっせぇ別れろって言えない……!!」

「お前なぁ……」

 

 一応、藤丸だって婚約を受けてから帰ってしばらく考えた。

 指輪を返すべきか。自分以外のいい男を探せと言うべきか。色々と考えた結果、若葉だってあんなに軽く言っているが生涯のパートナーを決める以上、少なからず葛藤はあったはずだから、半分流される形で受けたとはいえ、受けた以上は責任を取るべきだという結論に至り、あちらからやっぱり無しで、と言われない限りは行く所まで行く、というのをしっかり考えたうえで決めた。

 まぁそうやって決めてから部屋を出てすぐにしずくと亜耶、ついでに両親には自分の左薬指の指輪に気づかれ、一から十までその事を教える事にはなったのだが。

 

「……あれ? ちょっと待って。じゃあズラっちって将来は……」

「んー、多分こっちで働くけど、家は西暦の方って事になるんじゃないか? 今更だけど大丈夫だよな?」

「別にそこら辺はわたしの権力で簡単にどうにかできるけど~……まさかズラっちがご先祖さまと……」

 

 こっちだってなんでこうなったのか一から十まで理解できてねぇよ、と答えてから自分の左薬指をもう一度見る。

 何というか。

 実感沸かないなぁ。

 

 

****

 

 

 一方その頃西暦では。

 

「まぁ、そういう事だ、ひなた。私は藤丸と婚約したからそういう噂を大社内に流してくれないか?」

「え、嫌ですけど」

「何故」

「なんで若葉ちゃんがわたしとじゃなくて藤丸さんと結婚する流れになっているんですか!? 未来的にもわたしと若葉ちゃんは相思相愛で将来は同性婚して子供沢山作るのが園子さん的にも正解なんじゃないですか!!?」

「それはあっちの歴史だろ? 悪いが私はもうお見合いする日々は疲れた。藤丸なら私も信頼しているからな。家事もしてくれるだろうし、子供の世話も得意だから婿としては申し分ないだろう?」

「わたしにはあるんです!! 少なくともわたしには!! あるんですよ!!」

 

 ひなたさんがご乱心していた。

 そりゃあそうだろう。十何年も想い続けてきた幼馴染が唐突に左手の薬指に指輪なんて付けてきて、問い詰めてみれば数年前に出てきて普通に友人程度の関係しか築いていなかった男に求婚したなんて現実、そう簡単には受け入れられやしない。

 ずっと若葉は自分と結婚して子供を産むことを夢想しながら生きてきたのだ。それが唐突に打ち砕かれたらご乱心もするだろう。

 しかし若葉の方は同性愛者じゃないし、流石に同性の幼馴染と子作りなんて真っ平ごめんと思っていたのでご乱心されようと決めたことは撤回しない。

 

「あのなぁ……ひなたもそうだろ? 学校行ってお見合いある日はお見合い行って帰ってきたら寝て……最近千景達と遊べる日が少ないのに変な男と会う日が多くてな。ストレス溜まってるんだ」

「そ、それは……ほら、わたしとデキていたら!」

「いや、私レズじゃないが」

「いいえ、違います!! 若葉ちゃんとわたしは相思相愛の筈です!!」

「いやあのな」

「相思相愛なんですぅ!!」

 

 レズじゃないと何度も言っているのに幼馴染が発狂して聞きやしねぇ。

 しかし、ひなたからしたら錯乱するくらいには信じたくない現実なのだ。ずっと若葉と結ばれるために頑張ってきたのに、気が付いたらポッと出のハゲに若葉を奪われる。そんな無情な現実があってもいいのだろうか。

 いや、無いとひなたは言う。そうなっちまったんだろうが現実見ろや、と若葉は言う。

 

「まぁ、確かに親友だとは思っているぞ? 思っているが、同性と結婚とかそういうのは前々からノーセンキューだと言ってるだろ?」

「う、嘘です!! そんなの適当にでっち上げた嘘に決まっています!! 若葉ちゃんはわたしにメロメロなんですよ!!」

「駄目だこいつ、話を聞きやしねぇ」

 

 元々ひなたが結婚するからの一言で諦めるとは思っていなかったが、まさかここまで意固地だったとは。

 こっちは何度も同性婚の気はないとか色々と言ってきたのにも関わらずこれだ。どれだけ自分の妄想が現実になると信じてきていたのか。いや、そうなるとしか思えない現実が未来から来てしまったが故にこうなってしまったのだろう。

 園子に関しては、もう若葉でも何となく分かる。あの子は明らかに中身はひなたっぽく、外見は若葉っぽい。もしもひなたと子供ができたら……と想像したら、乃木園子の特徴は八割以上引っかかる。

 もしも天の神に敗北し、それでも生き汚く生に縋りついたとしたら。ひなたの提案を受け入れ、勇者と巫女のハイブリットとも言える子孫を未来に遺したかもしれない。だが、そんな縛りが無くなった以上、若葉だって普通に男と結婚して子供を産んで、一人の女としても生きていきたいと切に願っている。

 故に、ひなたはお断り。ノーセンキュー。

 

「だ、だったら!! そこまで若葉ちゃんが妄言垂れ流すんなら!!」

「妄言じゃねぇよ」

「わたしが藤丸さんが本当に若葉ちゃんのお婿さんとして相応しいのか判断します!! 少しでもアウトがあったら即刻婚約は破棄です!!」

「あのなぁ……」

「なのでまず外見! ハゲ! はいアウト!!」

「なぁ、ひなた。そこは止めておこう? あいつ多分ガチで泣くぞ?」

「あっ……じゃ、じゃあ外見はいいです! それ以外の所です!」

 

 ひなたもハゲは論外という思考は他の勇者や巫女と同じだったらしいが、流石にガチの陰口というか悪口は流石に藤丸に悪いので、ひなたもちょっと言いすぎたと思い言葉を改めた。

 若葉だってハゲは論外と言い続けてきた。だが、それは恋愛という面で、という意味。結婚して生涯を共にするパートナーとしては、勇者に選ばれた少年というのは即ち神に選ばれる程内面も整っている奴という事なのでこれ以上に相応しい男も居ない。

 本当にハゲという事を抜きにして考えれば、アレ程打算的な結婚を求める相手として相応しい奴はいない。

 まぁ、ひなたに求婚したら多分毎日自堕落に生きていても笑顔で全肯定してくるので同性でなければ真っ先に求婚していたが。

 

「今度のお休みの日に若葉ちゃんの部屋に藤丸さんを呼んでおいてください! そこでわたしが色々とチェックします!」

「別にお前が何と言おうと私は婚約を撤回する気は無いんだが?」

「覚悟の準備をしておいてください!! いいですね!!」

「ったく、この幼馴染は……」

 

 溜め息を吐いてどこかへ歩いていくひなたを見送る。

 何と言うか、難儀な幼馴染を持ってしまったものだ。とりあえず若葉はアレを無視すると多分もっとある事無い事吹っ掛けてくるので、それを収めるために藤丸には今週末にこっちに来てもらおうと思い、神世紀へと向かったのだった。

 

 

****

 

 

 幸いにも、婚約の事は園子とひなた以外には伝わる事は無かった。勇者達に知れたら確実に面倒な事になるので知られない事は幸運だった。

 なので未だに婚約の事が親友二人にしか知られていない若葉と藤丸は、ひなたの指示の元、寮の若葉の部屋に来ていた。

 

「では、これからわたしが藤丸さんが本当に若葉ちゃんのお婿さんに相応しいのかを直接チェックします!!」

「なぁ若葉。これ回避できない系のイベント?」

「回避できない系のイベントだな。ランダムエンカウント踏んだと思って諦めてくれ」

「はいはい」

 

 気心の知れた親友という距離感ではあるが、それでも婚約したんだし、と親し気に話す二人を見て更に憎悪の炎を燃やすひなた。最早藤丸は暗殺対象に入るほどの男だ。

 というか、暗殺については本気で考えたのだが、彼の耐久度と勇者としての力を鑑みると、明らかに巫女であるひなた一人では暗殺する事は不可能。恐らく簡単に返り討ちに合うだけだ。

 故に憎悪の炎を燃やすだけ。婚前交渉を未だ行っていないのは評価に値するが、男なんてケダモノばかりだ。いつ若葉に手を出すか分からない。

 

「ではまず、掃除からです! 藤丸さんには今から若葉ちゃんの部屋を掃除してもらいます!!」

「……なぁ、本当にこれ帰っちゃダメか? 今日は家事しようって思ってたんだけど」

「悪いな。明日手伝うから今日は勘弁してくれないか?」

「別にいいけど……これやらないと若葉が苦労すんだろ? ならやっちゃるわ」

「助かる。今度キスの一つでもしてやる」

「イチャつくんじゃありません! ほら、藤丸さん! 早く部屋の掃除!!」

「はいはい。若葉、見られて恥ずかしいモンとかは先に言ってくれよ?」

「大丈夫だ。見られて危ない物ならあるが恥ずかしい物はない」

「危ない物って?」

「剥き身のポン刀。鞘どっか行った」

「お前……まぁそこは気を付けるよ」

 

 将来のお嫁はずぼらな事で、と言いながら藤丸は普通に綺麗な若葉の部屋の掃除を始める。

 天気もいいし、と洗濯物も纏めて、掃除機かけて、ついでに大きなゴミはササっと袋の中に入れて、ついでにちょっと汚れていた窓も拭いて。あと、転がっていた剥き身のポン刀は暫く悩んだ後に布を買ってきてそれで包み、若葉の指示する場所に置いておいた。

 枕カバーやシーツ等も洗ってしまい、布団も天日干しに。埃なんかも残らないようにしっかりと掃除し、洗濯機で洗濯物が洗い終わったら下着は若葉に先に選別してもらい、触ってもいい服だけを手際よく干していく。

 

「ぐ、ぐぬぬ……!! どうして高校生の男子がこんなにも家事を……!!」

「そりゃウチにはしずくと亜耶ちゃん居るし、両親も忙しい方だからな。調べたり聞いたりしてやり方は学んだ。で、慣れた。っつかそれはひなたも知ってるだろうに」

「知ってますけど! 部室とかで見たことありますけど! でも若葉ちゃんの部屋でこうも平然と家事ができるなんて思わなかったんですよ!! 仮にも女の子の部屋ですよ!? 少しでも欲情したら蹴り飛ばしてやろうって思ってたのに!!」

「だって俺もしずくや亜耶ちゃんの部屋を掃除したり服を洗濯してるし、そもそも欲情とかそこら辺は周りに女の子ばっか居るせいで気を使っていく内に自分の性欲制御とか身に付いちまってな……モテないのに周りは女の子ばっかだから……」

「あっ……そ、その、ごめんなさい……」

「うん、いいよ……」

 

 亜耶は家事を結構手伝ってくれるが、しずくに関してはほぼニートだ。時々手伝ってくれるが、基本的には掃除機をかけている時もソファで寝そべって亜耶を抱き枕にしていることが多い。抱き枕にされている亜耶は何度も抜け出そうとしているが、八割くらいの確率で力尽きている。

 なので結構な頻度で家事をしている藤丸にとって、一人暮らしの、元々綺麗に片付いている少女の部屋の掃除なんて楽勝だった。着物等の普段触れない物に関しては簡単に調べて及第点位の片づけをしっかりとしているし、下着等の恥ずかしい物をなるべく見ないように配慮もできている。

 若葉は婚約したんだし別にいいが……と言っていたが、ひなたがそこら辺は若葉がやるようにと指示した。

 そして布団の天日干しも終わり、枕カバーなども洗い終えて干し、部屋の中も掃除も終わった。結果は。

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! 途中で雑談を挟んだのに指摘できる部分が……!!」

「藤丸の勝ちか。というか、本当に綺麗になったな。今度から定期的に頼めないか?」

「別にいいぞ。ただ、毎週とかは止めてくれよ? 俺も家の方で家事しなきゃならんし」

「分かってる。そこまでお前を拘束はしないさ」

 

 ひなた敗北。藤丸には既に若葉と共に暮らしていくために必要な掃除スキルが身についていた。実際に彼が掃除やら選択やらをするのを見るのは初めてだったので、侮っていたというのが正直なところだ。

 だが、掃除が駄目でも次がある。

 

「なら今度はご飯です! わたしと若葉ちゃんが満足するお昼を作ってください!!」

 

 数分後。

 

「できたぞ。きつねうどんと、とろろうどん」

「うん、美味い」

「うどんに嘘は吐けない……!!」

「だろうな」

 

 即落ち二コマ並みの速さでひなた敗北。

 悔しそうな顔をしながらも美味しそうにうどんを啜るひなたというのはもはやギャグだったが、それでもひなたは認めざるを得ない。うどんに嘘は吐けないから。

 悔しい美味いと言いながらうどんを食い終わったひなたは一息つき、それなら……と自分しか藤丸に勝てない事を考える。

 そして、見つけた。

 

「では次は! 耳かきです!! 若葉ちゃんの!! 耳かき!!」

 

 こればっかりは彼も勝てやしない。何故なら若葉の弱い所を知り尽くしているひなただからこそ、耳かきだけで若葉をアヘ顔にできるのだ。

 故に、勝てるわけがない。そんな思いを込めた渾身のドヤ顔。それを見た二人は顔を見合わせた。

 

「それは……無理じゃね?」

「無理だな。藤丸じゃひなたを越えられない」

「あ、あら?」

 

 これで現実を思い知らせてやる! と鼻息荒くしていたひなただったが、まさかの全面降参というか、白旗と言うか。初めから勝てないと言う二人に何だか拍子抜けした。

 ここはもうちょっと張り合う所じゃないのか? と。

 

「というか、私の耳かきに関しては生涯ひなたに任せるつもりだったのだが……まさか藤丸と結婚するとひなたはもう一生してくれないのか?」

「えっ、あ、いや、そんな気はないですけど……」

 

 そう言われるとひなたは下がるしかない。若葉の甘い言葉にはどうしても弱いのだ。

 まだ可能性はありそう。そんな希望と、でも若葉ちゃんってこういう時は意固地だし……という絶望。二つの葛藤が混じり合い、もうしてくれないのか? とちょっと悲しそうな表情を浮かべる若葉を見て。

 

「わ、若葉ちゃんのいけずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 ひなたは自分の心にその場で折り合いをつけることができず、逃亡した。

 若葉はそれを呆然としながら見送る事しかできず、藤丸と顔を見合わせ、何だったんだ? と言わんばかりに首を傾げたのだった。

 なお、藤丸は駆けていったひなたの姿を見て非常に気まずそうな苦笑を浮かべていた。なんだか自分が百合の間に挟まる男みたいな立場に思えて、本当にこのままでいいのかな……と若干疑問を抱いたので。

 

「全く。ひなたにも困ったものだ」

「俺はもうお前に流されることにするよ。なんか、深く考えるだけ無駄な気がしてきた」

「おいおい。人生の最大分岐点をそんな風に流していいのか?」

「流すように仕向けたのはどこの乃木若葉だって話になるが?」

「それはひどいな。どこの乃木若葉だ?」

「お前だよ乃木若葉」

「失敬失敬」

 

 とりあえず溜め息を吐きながら、藤丸は先ほど使った食器類を片付け、若葉はそれをベッドに座りながら楽し気に見つめるのであった。

 

 

****

 

 

「……で、本当の所はどうなのよ?」

「何がだ?」

 

 若葉と藤丸の意外な婚約は、一週間も経たない内に身内に知れ渡り、大社内でも勇者のリーダーである若葉が神世紀の唯一の男勇者と婚約をした事でかなり話題となった。

 勇者と勇者の子。それがどれほどの力を持つかなんて想像もつかない。もしかしたら勇者の力を素の状態でも発揮できるような子になるかもしれない、なんて予想や、最も神に近い人間となるのではないか、なんて憶測も飛び出す程。

 ただ確実に言えるのは、その子が将来大社の中でも特別な地位に立つのは確定している、という事だ。勇者と勇者の子なんて存在を見過ごせる程、大社は人員が豊富ではないのだから。

 そんな大社に比べて勇者達はかなり色々と盛り上がったが、結局はいつもの若葉の突拍子もない言葉から出た誠なのだと言う事で、まぁ本人たちがそれでいいのなら……と約二名を除いて全員が一応頷く事となった。

 頷いていない二名の内一人はひなたである事は最早語るまでも無いが、もう一人については意外な事に、今、若葉の横で釣り竿を握っている千景が該当した。

 千景は騒動が落ち着いてから若葉を呼び出し、かつてのように釣竿を彼女に貸してから共に近くの湾で座りながら釣り糸を垂らしていた。釣果はあまり振るっていないが、それでも夕食に味噌汁にして食べるくらいの大きさはあるカサゴが既にクーラーボックスの中に入っている。

 そんな穏やかな釣り日和の中、千景は若葉に対して急にそんな事を切り出した。

 本当の所は? と。

 

「いや、あいつらに語った事が全部さ」

 

 そう、それが全部だ。

 若葉はただ打算で彼と婚約を結んだ、と。

 それが、若葉の打算の全て。

 

「嘘言いなさい。あなたがそんな妥協で生涯のパートナーを決める程、軽い人間な筈ないじゃない」

 

 若葉が語ったのは、打算だ。

 本心ではない。

 思わず固まった若葉だったが、溜め息を一つ吐くとバレたか……と言わんばかりに空を見上げ、餌を取られた竿を引き上げた。

 

「そうさな……語ったのは、確かに打算だ」

「でしょうね」

「それとは別に想う所があるとするなら」

 

 座りながら餌のゴカイを針に付け、海に針を投げ入れる。

 

「あんな風に神を前にしても誰よりも前に出て全てを守ろうとする馬鹿みたいな男を、私が気に入らないとでも思うか?」

 

 誰よりも一番に前に出て、誰よりも痛い立場に立って。だけど誰よりも誰かを大切にして、守るために戦う。例え力が足りなくても、その力不足が原因でいつ死ぬか分からなくても、それでも守るために誰よりも前に出る。

 どこぞの猪武者の隣に置くにはこれ以上ない逸材ではないか。

 

「……そう言う事?」

「あぁ。私はアイツの事を気に入っている。どうやら私は、守られる男よりも守る男というのを好く性質らしい。お見合いの話が出るとアイツの事をついつい考えてしまう程度には、な」

 

 つまりそれって。

 

「何よ。少なくとも好き以上の感情はあるじゃない」

「そうなのか? 私には惚れた腫れたがよく分からんからな。好きと言うのなら、打算で想い人をゲットできたという事で困る事は何もない。寧ろいい余生のスタートを切ったと言っても過言ではないのではないか?」

「はいはい。いい男を捕まえられた我らがリーダーは人生楽しそうですね」

「そりゃ楽しいに決まっているだろう。外敵を打ち倒し、友と共に過ごせる未来を勝ち取り、将来を約束した男を傍に置いて。これほど楽しい人生があると思うか?」

「否定できないわ。じゃ、藤にぃに愛想尽かされないように頑張りなさいよ、お義姉さん?」

「…………止めてくれ。お前に義姉とか言われるとマジで違和感がすごい。というかお前はアイツの義理の妹でも何でもないだろうが」

「ふふふ、そうね」

 

 そして二人が同時に笑うと共に、若葉の竿の先が動く。

 どうやら魚が釣れたようだ。

 今日はこの魚をアイツに捌いてもらうか、なんて考えながら、バレないように魚を取り込んで。

 そんな会話があった事を彼女の婚約者は知ることなく、今日もまた愛が重そうな巫女に包丁片手に追われているのであった。

 なお包丁片手に追ってきた巫女は訓練をしていた婚約者に勝つことなどできず、そっと包丁を奪い取られた後に鏡に乗せられ数時間ほど高高度に放置された。なおそれでも落ちてきては追ってきたが。どうやらレズが人間を止めているのはどの時代も共通事項で間違いないらしい。




という事で色んな打算を含めて初手ブッパした若葉さんでしたとさ。
多分この世界線の三百年後にそのっちは居ない。悲しいなぁ……でももしかしたらその次の世代でちょっと一風変わったそのっちが……この話題は止そう。

若葉とのIFは打算がキーワードでしたので思いっきり初手ブッパしました。この野武士、こうやって結構単純に婚約者決めそうだな? とか思ったらそのままある程度書けちゃったので、後は肉付けしていったらこうなりました。IFなのにこいつら打算しかねぇ。

あと、今までのIFは神世紀(犬吠埼姉妹を除く)は社会人、防人は高校~大学、先代は小~中、犬吠埼姉妹はイレギュラー、という形で話を作ってきましたが、恐らくちーちゃん(小)というイレギュラー以外は基本的に防人組と同じ高校~大学での話となると思います。恐らく次はちーちゃん(小)のIFになりますが、その次は特に決まっていませんので末永くお楽しみを。もしかしたらしずくIF2(シズクIF)になるかもですけど。

それではまた次回、お会いしましょう。
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