ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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ちーちゃん(小)IFに詰まったからちょっと若葉IFに似たような感じで、出も違うような感じの対になる感じのひなたIFでも書いてみるかとか思ったら書きあがってしまい、ちーちゃん(小)IF書きあがるまでは温存しようかと思いましたが別にいいやと思ったので投稿します。

ひなたIFは他のどの子よりも毛色の違うIFになりましたので、結構苦戦こそしたのですが、このような形となりました。中島みゆきの曲聞きながら書いたからかな……

という事で最初は若葉IFの対になるように書いていましたがなんか途中からそんな事無いな? とか思ったひなたIFです。どうぞ。


ひなたIF:ひなたの確信

 どうしてこうなったかと言えば、それは大人が組み上げた子供には逆らう事ができない流れによる物だった。

 藤丸は恐る恐る、紋付き袴に身を包んだまま隣を歩く女性を見る。

 横には、かつて共に天の神と戦い……そして、恋人として成立するには関りが少なかったはずの女性が。この西暦の時代で最も格式が高く、そして神樹様のお気に入りとも言える巫女、上里ひなたが居る。

 どうしてこうなった、ともう一度頭の中で考える。

 少なくとも、藤丸は彼女、ひなたと恋仲になるようなことなど一度もした事は無い。デートなんて一度も行った事が無ければ、事故でラッキースケベ、なんて事も一度も無い。言ってしまえば、彼女を異性の友人としては見ていても、将来のパートナーとして狙っているなんて事は一度も無かったのだ。

 だが、現実に彼女は隣にいる。隣で白無垢に身を包んで歩いている。

 その姿に綺麗だ、なんて思ってから。

 俺、今日の晩にでも殺されて居なかった事にされないよな? と未来に恐怖するのだった。

 

 

****

 

 

 どうして藤丸がひなたと。西暦の時代の巫女であるひなたと結婚する事になったか。その原因はある日、西暦の時代に遊びに来た時の事だった。西暦の時代でも電話が通じるようにと改造を施した端末にかかってきた電話。この時代でかかってくるなんて、相手は千景が、それとも暇になった若葉か球子辺りか。なんて思いながら端末を手に取ってみれば、相手はなんとひなただった。

 これまた珍しい。ひなたから藤丸へと電話がかかってくる事は本当に、珍しい。

 彼女は基本的に若葉と一緒に居るか、巫女仲間である水都や亜耶。もしくは偶々出会った神世紀勇者と一緒に居る事が殆どで、藤丸に対して特別な用事など基本的には発生しないためひなたから直接藤丸に電話がかかってくる、なんてことは殆ど無いのだ。

 故に、どうしてまた。と思いながらも電話に出てみる。

 

『もしもし。藤丸さんで大丈夫ですよね?』

「あぁ、大丈夫だけど。なんかあったか?」

 

 もしも緊急事態なら走ってでもそこへ向かったのだが、ひなたの声色からしてそんな事はないらしい。

 じゃあなんで。と思いながらも、とりあえず要件を聞いてみる。

 すると、ちょっと歯切れが悪そうに少しだけ言い淀んだ後、いつも通りなひなたの声を聞いた。

 

『あの……どうしてか大社が藤丸さんに来てほしい、と言ってきまして。しかもわたしも一緒に、と』

「俺とひなたの二人で? どうしてまた」

『さぁ……? ですが、重要な話だから、と。どうしてなんでしょうか?』

「いや、俺に聞かれましても……じゃあ、大社に行けばいいのか?」

『ですね。一応、こちらから迎えを送りますので、大社で合流しましょう』

「分かった」

 

 ひなたもどうして大社に藤丸と共に呼び出されるのか。その理由が分かっていないようだったが、とりあえず来て欲しいと言っているので藤丸も彼女に迷惑をかけないためにも行かない訳にもいかず、自分の今いる位置を教えて大社からの迎えを待つ。

 大社からの迎えはそれから五分以内には到着し、如何にも重要人物を乗せていますと言わんばかりの黒いリムジンに乗せられた。

 リムジンに乗る事は初めてではない。数年来の親友であるお嬢様が使うリムジンに何度か乗った事はあるので特に何をされるまでもなく乗り込んだが、やはり園子がよく使用するリムジンとはちょっとばかり内装やら何やらが違って、ついでに周りに見知っている人が居ないので少しは緊張する。

 そんな風にちょっと緊張しながらも大社への道を窓から呆然と眺めて居れば、あまり時間が経たない内に大社本庁へと到着する。

 到着し、駐車場へとリムジンが止まった後に運転手に扉を開けてもらい外に出てみれば、すぐにひなたがこちらを見つけて歩いてきた。

 

「藤丸さん。急にお呼び立てしてしまいすみません」

「いや、別に俺は暇だったし気にしてないけど……何で俺は呼ばれたんだ? それもひなたとセットでなんて」

「わたしもまだ何も聞いてないので……とりあえず、大社のお偉いさんたちが呼んでますから行きましょう」

「お偉いさんが? 俺達なんかしたっけ……?」

「この間球子さんを縛って杏さんの部屋に一緒に放り投げたくらいですよね……? でもその時は千景さんと園子さんも居ましたし……」

「後は……寝ている歌野にご自由にどうぞって紙を張りつけて水都に攫われるのを観察したくらいか。その時も若葉とクソレズが居たし……」

 

 コイツ等結構好き勝手やってやがる。リムジンの運転手は会話を聞いてそんな事を思ったが、口には出さなかった。プロ故に。

 そして二人は大赦のお偉いさんとやらが待つらしい場所へと足を運ぶ。

 足を運んだ場所はただの会議室のような場所だったが、そこには私語の一つも口にせず書類を見て待っている大社の重鎮たちが。ひなたに道すがら聞いたのは、この人たちは大社のトップではあるが霊的な事はオカルト程度にしか信じていないらしく、神樹様も大社による政権を確立させるための材料としてしか見ていなかった、という。

 基本的にこの大人たちがやっているのは書類仕事で、それを実行したり作戦の立案などをしているのはその一個下か二個下の立場の人、なのだとか。

 要するにお飾りのトップだ。

 

「来てくれたか。早速だが話を進めよう。適当な席に座ってくれ」

「適当なって……」

「藤丸さん、こちらに」

 

 適当な席、と言われたが、見た所空いている席はあまり多くない。上座やら下座やら、そこら辺気にした方がいいのかと思っていたらひなたに手を引かれたので、それに従ってひなたの座った席の隣に座る。

 座ったのは下座。ひなたがすみません、と苦笑しているが、何もひなたが気にする事じゃない。

 だが、一体何を……と思っていると、上座に座る役員の一人が口を開いた。

 

「では、勇者藤丸様。それと、巫女のひなた様。お二方はお忙しい身であるので、単刀直入にこちらからの要件を伝えさせていただきます」

「は、はぁ……」

 

 まだ社会人ではないし礼儀も知らない藤丸は困惑したように声を漏らす。しかし、ひなたは何も言わない。一応、礼儀やら何やらは巫女となってから叩き込まれたのでこういう場では無闇に口を挟まない事は承知している。

 なので相手からのアレコレが全部出てきてからちょっとした質問を挟む程度にしようと思っていたのだが。

 

「お二人には婚姻を結んでもらい、子を成してもらいたい。勇者藤丸様には要求ではございますが、巫女ひなた様に対しては命令となります」

 

 飛んできた言葉に、藤丸の思考は停止した。

 同時にひなたも思考が停止していたが、それからたっぷり十秒ほど経ってからひなたが口を開いた。

 

「なっ……な、なにを急に!? わたしには若葉ちゃんという心に決めた人が居るんです!! だと言うのに急に!!」

 

 何を急に世迷い事を。

 それがひなたの頭に浮かんだ言葉だった。

 ひなたには既に心に決めた人……というかなんと言うか。昔から大好きだった幼馴染が居る。正直に言えば若葉と結婚して若葉の子供を産むか若葉に子供を産んでもらって将来を穏やかに過ごしたい。そう思っている。

 だからこそ、今後の事を考え二人で隠居する事を視野に入れた計画を既に立て、後は時間が経てばその計画は実行に移される、という最早計画は秒読みとも言える段階に入っていた。

 だと言うのに。

 だと言うのに、何だこれは。

 

「そもそもそちらにはもうわたし達に命令する権利はないはずです! わたしだってまだ高校を卒業せず大社の管轄内であるから巫女という役職にはなっていますが、それでもわたしに命令する権利はもうない筈です!」

 

 ひなたが役員に向かって声を荒げるが、しかし相手側は表情を変えない。

 

「勇者藤丸様は聞いた所に寄れば未だに将来を添い遂げる相手が居ないと。巫女ひなた様では不服ですかな?」

「え、俺? い、いや、別にそんな事は……」

「ならば、決定ですな」

「わたしの話とわたしの意思!! どっちも聞いてください!! 燃やしますよ!!?」

「何を!? 落ち着こうひなた! 話せば分かってくれるだろうから一度落ち着こう!!」

 

 なんか懐からチャッカマンと筒状のナニかを取り出したひなたを取り押さえる藤丸。恐らく大社を、なのだろうが、流石に友人を急に放火魔にするわけにはいかないのでひなたを羽交い絞めして何とか動きを止める。

 

「これは大社及び神樹様の意思です」

「神樹様がそんな事言うんならまずわたしに神託が来るはずです!」

「そうですかな? 何も巫女ひなた様だけに神託が行くわけではありますまい。これは神樹様からの、勇者の血筋を受け継いだ子と神樹様と最も相性のいい巫女であるひなた様との子を後の世に残す事でもしも新たな外敵が現れた際の対抗策とするべきだという神樹様からの御意志と大社の方針による決定です。何か問題でも?」

「今時政略結婚とかそう言うのは時代遅れなんですよ!! 本当に燃やしますよ!!? あのロリコンクソウッ」

「待て! ひなた待て! ステイ!! それ以上いけない!! お前仮にも神樹様の巫女だろ!!? 流石にそれだけは言っちゃいけない!!」

 

 全力で不敬な言葉を止める藤丸。神様が大体はロリコンだと言う事には藤丸も異論はない……というか、自分の時代でも勇者が大人じゃなくて子供が選ばれている時点で何となく察しが付いている事だが、流石に神樹様には色々と恩があるのでそういう事は言っちゃいけない。神樹様は確かに人間の味方だが感性は神様故に神様主観で色々と提案した結果大人たちがそれを採用してこっちを苦しめてきただけなのだから。

 筒状の物を取り上げチャッカマンも取り上げた所で今度はマッチを取り出しやがったのでそれも没収し、息切れしているひなたを何とか落ち着かせる。

 

「よし、落ち着け? いいな、その若葉の写真を見て一度落ち着け、な? よし、落ち着いたな? じゃあちょっと黙ってろ? えっと……で、俺とひなたが結婚って話でしたっけ?」

「何か異論でも?」

「有るに決まってるじゃないですか。俺はそもそも神世紀の勇者で、ひなたは西暦の巫女。生きている時代が違う。そういう問題もあるし……何より、そういう結婚やら何やらは当人同士の気持ちが大事だろ。ひなたが全力で拒否してるのにそれを無視するなんてできないっての」

「では、勇者様とならばどうでしょうか? 巫女であるひなた様との子を成してもらえないのは残念ではありますが、勇者同士の子供というのも」

「あの、俺の話聞いてます?」

「ならばこちらの写真の子などはどうでしょうか。ウチの巫女です」

「えっ……あっ、結構可愛い子が沢山……オーケーひなた。分かってる。分かってるから背中になんか筒状の物突きつけんな。何でお前ソレ持ってんだよ。え? クソレズから借りた? 分かった分かった。だから下げような? な?」

 

 今にも藤丸を殺害しそうなひなただったが、冗談だから落ち着け、という藤丸の言葉に手に握っていた青色の筒状のアレをそっと懐に仕舞った。彼女の懐には一体どれほどの物が入っているのだろうか。

 

「既にそちらの大赦とは連絡が付いております。戸籍などはご心配なさらず。意中の相手が既に居るのでしたら、こちらの勇者様か巫女と子さえ成してもらえれば良いのです」

「だからって言っても……俺はそういう政略的なのはお断りなんだが」

「断られてもこちらから策を仕掛けますが。外堀って、案外簡単に埋めれるのですよ?」

「おっと? なんか急に脅されたぞ?」

 

 そりゃあ男なのだからこの中から好きな女の子選んでいいよ、とか言われたらちょっとは心が揺らぎますとも。だが、それで選んでしまえば相手側の女の子は大人達と自分の我儘のために将来を捨てる事になる。

 それだけは許せない。故に、こんな形で将来のパートナーを決める気はないと抵抗を始めるが、なんか急に脅され始めた。

 だが、今日帰りさえすれば園子に頼んでこんな事態はどうとでもする事ができる。園子様だって事情を聞けば権力を振るう事を躊躇ったりはしないだろう。

 

「こちらとしてはひなた様か他の勇者様と子を成していただければそれで良いのです。もっとも、ひなた様は断固拒否の姿勢なので、他の勇者様と……例えば乃木若葉様と子を成してもらう事になりますが」

 

 その言葉にひなたが少し反応した。

 が、藤丸は溜め息を吐く。

 

「だからぁ……俺はそういうの御免だっつってんだろ。そもそもそうやって産んだ子に何されるかも分かんないのに、そんな種馬みたいな真似できるわけが……」

「――いいですよ」

「ほら、ひなたもこうやって……え?」

 

 ひなたからは拒否の言葉が飛んでくる……と思ったら、何故か肯定の言葉が飛んできた。

 振り返れば。

 

「若葉ちゃんが犠牲になる位なら……いっそわたしが……!!」

「いや、リアルで血の涙流しつつ唇噛んで血を流しながら言われても俺が嫌なんだが」

 

 血の涙を流し、唇を限界まで噛んだせいで血を流すひなたの姿が。

 自分以外の子にこんな大人の欲望が絡んだ汚い話が行くくらいなら。若葉がターゲットにされるくらいなら、と思い至ったひなたの言葉。しかし、その言葉を出すまでに至った血の涙は、ひなたの決心の表れとも言えた。

 が、流石に怖い。

 なのでそっと藤丸が懐からハンカチを取り出してひなたの血の涙を拭う。流石に可愛い女の子が血の涙を流していたら普通に怖い。

 

「いいから落ち着けって、ひなた。そんな事言わなくても、俺が未来に戻って園子に話を付ければいいだけだ。園子ならこんな事許さないって」

「……先ほど、あの人は大赦にも許可を取った、と言いました。大赦が園子さんの事を考えずにそんな事を許可すると思いますか?」

「いや、それは大赦の一部の上層部が勝手に……」

「だったら神世紀の皆さんを人質に取って園子さんにそれを成すように言うだけですよ。あちらとしても、園子さん程の素質を持つ方と勇者システムを纏える男性の混血児なんて欲しいに決まっています。それに、園子さんにも立場がありますから……将来的な政略結婚の相手が藤丸さんに変わるだけです」

 

 それを言われ、藤丸も口を閉じた。

 確かに、園子は神世紀の時代では唯一の初代勇者の血を継ぐ勇者だ。そして、神世紀一の権力を持つ乃木家の令嬢でもある。

 大社は、勇者と勇者の混血児か、勇者と巫女の混血児か。どちらかを選んだ結果、後者を取っただけなのだ。もしも後者が潰れれば、バックアッププランとも言える前者が出てくるだけだ。

 

「藤丸さん、この話はもうわたし達の管轄を超えてしまってるんですよ。できる事は、他の誰かに責任を押し付けるか、わたし達だけで対処するか。二択なんです」

「いや、でも、だったら誰かに相談したら……」

「それとも、わたしがお嫁さんじゃ不満ですか?」

 

 不満、ではない。

 不満なわけがない。

 ひなたのような人と結婚できるのなら。将来を共にできるのなら。そこに不満などある訳が無い。

 だが、そうじゃない。

 

「でも……!」

「藤丸さん」

 

 名前を呼ばれ、目を見る。

 決心が決まったその目は、藤丸が最早自分から断りを入れるには少しばかり真っ直ぐすぎた。

 仲間の事を思う目。悩んだら相談だと勇者部では何度も何度も言われているが、悩みを吹っ飛ばしこうも真っ直ぐにこちらを見られてしまっては、もうどうしようもない。

 

「……お前がそこまで言うんなら、分かったよ。俺も覚悟決めるから」

「それでこそ男の子ですよ」

「…………で、一つ聞きたいけど、それなら俺を亡き者にした方が全ての野望も潰えて簡単だ、とか思ってないよな? いや、念のためにそこら辺教えて欲しいんだけど……」

「……………………」

「……遺書書いとくわ」

 

 こうして、大社の思惑通りに西暦最高とも言える巫女であるひなたと唯一の男性勇者である藤丸の婚姻が決まったのであった。

 

 

****

 

 

 それからは早かった。

 藤丸の存在はかつての園子との契約により表に出る事は無かったが、大社内ではかなり迅速に広まり、勇者達の耳に入るまでの一週間弱でとっとと婚姻の準備が進み、藤丸がまだ十七歳だと言うのにも関わらず式を上げる事となった。

 大社が藤丸の戸籍を西暦側で作る際にサラッと十八歳に仕立て上げたのだ。その結果、年齢という壁は無意味になり、十八歳とされた藤丸と十七歳のひなたは結婚する事に。

 で、そのあらましを聞いた勇者達は。

 

「よし、大赦と大社潰すわよ」

「わたしの家に建物解体用のダイナマイトとかあるからみんなに渡すね~?」

「園子。そうじゃないだろ。ここは満開と切り札でだな」

「それと、今大赦と大社に居る人間は全員路頭に迷ってもらいましょうか。新生大赦&大社に旧大赦&大社の思想は要らないわ」

 

 まぁ、こうなる訳で。

 でも。

 

「いいんですよ。藤丸さんと結婚しても若葉ちゃんに子供を産んでもらう事はできるわけですし」

 

 笑顔でこうなって。

 

「ごめん藤丸。やっぱ普通に結婚してひなたを抑えてくれ。ホント頼む。私ちょっと北海道辺りで生きていくからコイツ抑えておいてくれ。多分そうしないと園子が生まれる」

「お、おう……」

「逃がしませんよ?」

「ひぇっ……」

 

 まぁ、こうなる訳で。

 若葉はもうひなたが大人しくなってくれるならこれでいいと思って藤丸に全部ぶん投げたが、他の勇者達はそう簡単に割り切れない。というか、藤丸が結婚しないと実害が出る若葉以外は、やはりこうやって無理矢理人の将来を捻じ曲げるなんてやり方は気に入らなかった。

 だが、それでもひなたが大丈夫だから、と全員を抑えた。

 

「わたしは大丈夫ですから。そもそもわたしは、どこの誰とも知らない人と政略結婚する可能性が一番高かった巫女ですから、藤丸さんっていう顔見知りと結婚するだけまだマシです。わたしはこう見えても納得しているから大丈夫ですよ」

 

 と、笑顔で言うので、どうにもここから大社を潰してから大赦を潰して……という気にはなれず。

 でも、大人たちの汚い陰謀に巻き込まれたのは事実なので園子が内部から大赦と、そこと連携している大社を変えていく事を約束し、もし耐えられなかったらいつでも言って欲しいとひなたに告げて。

 そして、その裏で藤丸にも、もしひなたが無理しているようならすぐに言って欲しい、と告げた。

 勿論藤丸もひなたを不幸にするわけにはいかないので、それに頷き。

 式は大社の上層部と大社関係者。それから上里家の両親だけが参加する小さい物となった。白無垢を着るひなたはひいき目なんて抜きにしても美しかったが、それでもいつ背中から刺されるか不安で仕方なかったのは藤丸がひなたの本当に大好きな人を知っていたからだった。

 そして、式も終わって、大社の上層部からの子供を期待しているという言葉を二人で受け流し、大社からこちらの要望に応えてくれた礼だと言って与えられたかなり大きな屋敷へと帰宅した。

 

「……やっぱ俺の場違い感凄いな」

「そうですか? 藤丸さんも世界を救った勇者の一人なんですから、寧ろこれよりも大きなお屋敷に住んでいてもいいくらいなんですよ? むしろわたしの方が場違いです」

「俺からしたらひなたの方がこういう屋敷が似合うと思うけど……」

「そんな事無いですよ。わたしなんて若葉ちゃんとは違って普通の女の子ですよ?」

「ひなたが普通なら俺なんて村人Aくらいになるっての」

 

 既に荷物が運び込まれている屋敷に二人で入れば、一度それぞれの部屋へと向かう。

 三日ほど前に既にひなたも藤丸もこの新居に荷物を移してここで住む準備は進めていたため、何度かこの屋敷の中には入ったことがあるのだが、改めて同棲相手と一緒に、というのは少しばかり変な気になり、二人は互いの顔をあまり見ようとはせずに隣同士の私室に入り、着替える。

 藤丸も一応私服ではなく紋付き袴からスーツに着替えて居たし、ひなたも同じようにレディースのスーツに着替えていたので私服に着替えてから居間に向かったのだが。

 

「なんつーか……実感わかねぇなぁ」

「わたしもです。式まで挙げたというのに、どうにも実感が薄くて……まだあれから一週間しか経ってないから、でしょうか?」

「かもしれないな。とりあえずこの後は……飯は式場である程度食ったし、風呂入ってゆっくりしてから寝るか」

「お風呂入って……と言う事は……」

 

 新婚初夜。そして、自分達が結婚した理由。

 それを頭の中で想像し、ひなたの顔が赤くなる。その様子を見て藤丸も顔を赤くするが、彼は頬を掻いてから立ち上がった。

 

「いや、しねぇよ。ひなただって、嫌だろ?」

「え? で、でも……」

「俺だって明日は学校あるし、ひなたもまだ丸亀城で授業受けてるんだろ? なら早く寝ないと。明日平日だぜ?」

 

 こういう時男の人ってもっとがっつくんじゃ、と思うひなたではあったが、藤丸はどうやら違うらしい。

 

「結婚はしたけどさ、何もそれで自分の未来を諦めなきゃダメなわけないだろ? 俺は別にお飾りでいいからさ。ひなたは若葉を落とすなり何なり好きにしてくれ。俺だって、無理矢理とかそういうのは好きじゃないしな」

 

 笑顔を浮かべそう告げた藤丸は、そのまま風呂に入るためにまずは風呂を洗おうと、風呂場へと向かった。

 一人取り残されたひなたは手を振って風呂掃除へと向かった藤丸を見送ったが、一人になって居間に置いてある無駄に大きなテレビを付けて、ボーっとその画面を見て。

 

「……あれじゃあ、どっちが将来を棒に振ったのか分からないじゃないですか」

 

 今日は何となく、若葉をこれからどうやって落とそうかと考える気にはならなかった。

 

 

****

 

 

 本当に何もなかった……とひなたは朝早くに目を覚まし、既に自分よりも早く起きて朝食を作り学校へと出発した彼が用意した自分の分の朝食を口に運びながらボーっとしていた。

 ひなたもこの一週間で覚悟は決めていた。相手が若葉じゃない事は確かに嫌だったが、それでも腹を括ったのだから、と昨日の夜は手を出されても構わないと言う気持ちで一緒に床に着いてからは目を閉じていたのだが、気が付けば意識は落ちて朝。夜のうちにかけておいた目覚ましに叩き起こされ横を見てみれば既に夫となった彼の姿はなく、居間に行けば先に学校行くから、と書かれた置手紙とひなたの分の朝食が置いてあるだけ。

 まだ暖かかった事から、目覚ましで設定されている時間を見てひなたが起きる時間を把握して用意したのだろう。

 何とも気の利いた事を……と思ってしまったのはおかしくないだろう。

 

「……男の人ってもうちょっと盛ってるものだと思ったんですが」

 

 見慣れたニュースキャスターのニュースをある程度見てから、寝間着から制服に着替え、そう言えば今日から若葉ちゃんは一人で色々と用意をすると言っていましたが、大丈夫でしょうか? なんて考えながら学校へと向かう。

 昨日はこれじゃあどっちが将来を棒に振ったのか分からないとは言ったが、今日のこれを見るとどっちが嫁いできたのか分からない、と言いたくなる。いや、彼が婿養子という形で入ってきているのだから嫁ぐ、という言葉は正しくないのかもしれないが。

普段から若葉のお世話のために早起きしているひなたではあるが、お世話される側になるのは初めてだったので、なんだか物足りなさを感じる。

 そんな物足りなさと共に、もう通いなれた教室の中に入れば、苦楽を共にした仲間達が詰め寄ってくる。

 

「ヒ、ヒナちゃん! 昨日はその、色々と、大丈夫だった!?」

「あのハゲになんかされてないか!? なんかあるならタマが相談に乗るからな!」

「いや、もうこの二人は夫婦だから変な事って……」

「でも望まない結婚なわけだし。初夜で色々とあって後悔とかしてたら大変じゃん?」

 

 歌野、水都、棗は現在故郷の方に向かって復興などを行っているためこの場には居ないが、高嶋、球子、杏、雪花からの言葉にひなたは苦笑を浮かべ、一先ず幼馴染の姿を探す。

 が、居ない。

 いつもは自分と一緒に来ている若葉の姿が無い。あと、何故か千景も。

 

「あ、あの、若葉ちゃんはどこに……」

 

 いつもはこの時間には来ているハズですが……と言葉を付け加えると、四人はさぁ? と首を傾げた。

 その直後。

 

「だっしゃぁ!! セーフだな!? セーフでいいんだな!!? 助かった千景!!」

「全くもう、私の予感的中じゃない! 誰よ、上里さんが居なくても一人で大丈夫って言った馬鹿は!!」

「悪かった! 予想以上に駄目だった!!」

 

 若葉と千景がドアをぶち破りながら教室に滑り込んできた。

 また授業の開始までは余裕があるっちゃあるのだが、ここまで声を荒げているという事はここに向かおうと思った頃には既に歩いていたら間に合わないが走ったら余裕、という微妙な時間だったのだろう。

 だが、若葉は元気こそあるが髪はボサボサで制服もいつものようにしっかりと着れておらず、朝食も若葉の部屋の中に常備してある食パンを今も咥えている始末。

 

「あ、あの、若葉ちゃん? 一体何が……」

「この野武士、上里さんに強がっただけで自分で何もできてなかったのよ。自分の服の場所も靴下が入ってるタンスの場所も分からないし朝ご飯は作ろうとして失敗してるし髪の毛はボッサボサだし……! 私が様子を見に行かなかったら確実に遅刻していたじゃない」

「いや、その……何も言い返せない……いつもひなたにやってもらっていたから、私一人じゃどうする事もできなくてな……」

 

 それでも髪がボッサボサで制服もちょっと乱れているのは、そこに構う時間が無かったから、という事なのだろう。

 もう、若葉ちゃんったら。なんて言いながら笑顔で若葉を座らせ、櫛を手に若葉の髪の毛を梳き始める。その光景を見て千景は溜め息。

 

「全く、この野武士は……ごめんなさいね、上里さん。私じゃこれをどうする事もできなかったわ」

「それはいいんですけど……これじゃあ私は寮に住んでいた方がよかったですかね?」

「かもしれないわね。どうせ、寝る場所は一緒でも藤にぃから手を出されてないんでしょう? 同棲とかせめて上里さんが高校を卒業してからでいいのに……」

 

 手を出されていない。その言葉に年頃の少女達は視線を向ける。確かに友達が政略結婚に近い物をした、というのはあまり好ましくない事だが、それでも夜の事情と言うか、結婚した人の生活と言うか、男女の仲的な物については気になる訳で。

 その視線を受け、周りを見て、えっと……と苦笑する。

 

「た、確かに藤丸さんは何もしてきませんでしたけど……どうして分かるんですか?」

「藤にぃの事よ。あの人は下世話な事を制御する術を身に付けてるから、上里さんと恋愛結婚をしていない以上は手を出さないだろうって思っただけ。多分、上里さんがかなり無理矢理誘わない限りは一切手を出さない筈よ」

 

 部員の誰かを一瞬でも性的な目で見ようものなら即死の状況にあった藤丸の理性は伊達ではない。

 式も藤丸側の要望で和風となったが故に誓いのキスもなかった。故に、ひなたは結婚したのにも関わらず初夜はスルーし、キスすら一度もした事が無いという身なのだ。

 

「……藤にぃ、東郷さんから神社での結婚式ならキスする必要がないって隠れて教えてもらってたらしいわよ」

「えっ、そうなんですか?」

「上里さんが望んでいない結婚だからって事で結構色々と聞いてたみたい。好きでもない相手とキスするのも嫌だろうしって」

「へぇ~……あいつ、ちょっとは浮かれてんだろうなって思ったら色々と考えてたのか」

「藤にぃは異性に対する事は結構慎重な人だもの。ヘタレ、とも言うけど」

「あー、確かにヘタレだよね、あのハゲ。あたしも北海道に居た頃とか同級生から結構変な目を向けられたりしたもん。そういうのが一切無いから藤丸とは結構気分よく話せるんだよね。まぁ、もうちょっと自分の欲望を表に出してもこっちは気にしないけどさぁ」

「というか、女の子として見られているのか分からない時がありますよね」

「そうか? タマは女の子なんだから、とか結構言われるぞ?」

「色々と努力してるのよ、あの人」

 

 なんだか急に人の夫の談義が始まったが、ひなたはそれに参加せず、若葉の髪を梳く。

 まぁ、何はともあれ。

 

「まだわたしは清い体ですから、若葉ちゃんを狙い続けますからね」

「助けてクレメンス……」

 

 まだしばらくは、若葉に園子を産んでもらう事を考えるとしよう。

 そう思い、その日は若葉のお世話をして、放課後になったら帰って。帰ってきた藤丸と今日は何があった、何をした、というのを色々と話し、ついつい若葉の話題でひなたが暴走したが藤丸は文句ひとつ言わずにそれを聞き入れ、夕食を一緒に作って一緒に食べて、別々に風呂に入って寝付いて。

 そして起きたらまた朝食が用意されていて。この日はちょっと早めに出て若葉の朝の身の回りの世話をして一緒に登校して。そして帰ったら一緒に夕食食べて風呂に入って寝て。

 朝起きて、学校行って、帰ってきて、趣味をして、風呂に入って、寝て。起きて学校行って帰ってきて何かして風呂入って寝て起きて学校行って――

 

「あの人本当に男の人なんですか!!?」

 

 大体一ヵ月ほど経った頃、昼休み中にひなたが声を荒げた。

 急に教室の外に連れ出されたと思ったら目の前で叫ばれビックリする千景。うるさっ……と呟いてから渋い表情を浮かべる千景だったが、そんな千景を無視してひなたがまた叫ぶ。

 

「確かに手を出されないなら出されないでこちらは都合良いですけど、一ヵ月ですよ!? 男の人ってほら、溜まるとは言うじゃないですか! だと言うのに一切手を出す素振りもせず……わたし、こう見えても男性受けする体だとは自負してますよ!?」

「えぇ、そうね。背は小さい方だけど、胸は大きい物ね。少しくらいくれてもいいじゃない」

「そういうのは錬金術師にでも言ってくださいって、そうじゃなくて! 流石にこうも何もされないとわたしにもプライドって物が!!」

 

 一か月間、ひなたは藤丸の隣で寝ていた。一緒のタイミングで布団に入って、最初の一週間はいつ手を出されてもいいようにと目を閉じたまま考え事をして意識をなるべく保っていたが、二週間目からは熟睡するようになり、今やひなたが先に寝付いて後から藤丸が寝室に入ってきて就寝。そして起きたら朝食が用意されているので美味しく召し上がって若葉の世話を焼きに行く毎日である。

 どっちが嫁だ。

 

「最近はちょっとこの生活いいかもなぁ、とか。藤丸さんとならこのまま名実ともに結婚しても普通に上手くやれそうだな、とか思っちゃう自分がちょっと怖いんですよ!」

 

 何と言うか。どうせ男なんて結婚したら……と心の奥底で思っていたのにいい方向に裏切られ、更に女としてのレベルは他のメンツと比べれば低い方だろうが、神樹様に選ばれる程なのだから平均よりは上だろうと自負していたのにも一切手を出されないからそっちのプライドはズタボロにされて、軽く情緒不安定なのである。

 しかしそれをぶちまけられる千景からしたら普通にいい迷惑だ。うるさいうるさいと耳を抑えて嫌そうな顔をする千景の手を無理矢理耳から退けようとするひなた。

 最終的に千景が思いっきり手を振り払った。

 

「ふんっ! で、何よ。結局藤にぃに手を出してもらいたいの?」

「そ、そういう訳じゃないですけど……でも、千景さんにも分かる筈です! この男の人に一切見向きされず、変な目で見られないのは嬉しいですけどどこか悔しい感情が!」

 

 男性受けする体だとは自負している。だけど手を出されたくない。しかし、出されなかったら出されなかったで悔しい。

 だって毎日横で寝ているのにも関わらず、朝起きれば手出しどころか体のどこかを触られた形跡もなく、風呂上りだって嫌らしい視線を一切向けずに世間話に興じる始末。流石に一ヵ月も女として見られないと藤丸ED説よりも女として見られない事に悔しさを覚えてしまう。

 

「分からないでもないけど……藤にぃはそういう人だもの。多分、上里さんから言わないと絶対に手は出さないわよ? というか、言っても手を出さないんじゃないかしら。ヘタレだから」

「どんだけヘタレなんですか!? 横でわたしが寝ているんですよ!? 何されても抵抗できない女の子が世間的にも手を出していいって状況で寝ているんですよ!? 二週間くらいはEDなんじゃないかってひそかに思ってましたけど、明らかにそれ以前の問題だなっていうのはいくらわたしでも気づきましたよ!」

「まぁ、並の男なら確実に三日も持たないわね。でも、藤にぃって恋愛の末に付き合ったはずの友奈さんに数か月手を出してないって話だし……」

「え? 結城さんと……? それって一体どういう」

「あっ、気にしないで。これ別世界の話だから。ほら、平行世界って無数にあるじゃない? その中で二十五歳になった友奈さんと藤にぃが付き合ってる世界線もあるって事よ」

「何ですかその限定的な世界線は……いえ、一応平行世界だっていうのは分かりますよ? 前に一回平行世界のわたし達とこんにちわしましたし……」

「他にも東郷さんと結婚している世界線とか、風さんと付き合ってる世界線とか、何だったら中学時代に園ねぇと付き合ってる世界線だってあるのよ。気にしちゃだめよ」

「は、はぁ……でもなぜそれを千景さんが……?」

「……酷い、事件だったのよ」

 

 千景の脳裏に牛裂きの刑に処される藤丸の姿が浮かんできた。

 が、ひなたにはよく分からないので首を傾げるだけ。しかし、深入りしては何かマズい気がすると直感で覚ったので、それ以上掘り下げるのはやめた。

 しかし、千景の言葉から藤丸は手を出してもいいと言われた相手ですらヘタレて手を出せないほどの奥手……というかタダの凄いヘタレだと言う事がよく分かった。

 

「ふ、ふふ……なら、いいでしょう。何としてでも藤丸さんに手を出させてみせます!」

「上里さん? それでいいの上里さん? 乃木さんの事は?」

「ここで黙ってたら女が廃るんです!! わたしだって一人の女なんですから、藤丸さん程度手玉に取って見せます!!」

「あなたはどこへ向かっているのよ……目的と結末を何に設定したいのよ……」

 

 という事で。

 

「ただいまー。ひなた、晩飯の事だけど……」

「あっ、お帰りなさい藤丸さん。それならわたしがもう作ってますよ」

「おう、ありが……ぶっ!!? ちょっ、ひなた!? お、おまっ、エプロンはいいけど服は!!?」

「今日は藤丸さんも大好きなうどんですから、楽しみにしておいてくださいね」

「いや、だから服は!!?」

 

 まずは裸エプロン。

 しかし。

 

「裸エプロンはせめて火傷とかしないように気を付けながらしろよ。んじゃ、おやすみ」

「…………マジですか」

 

 藤丸、普通に途中で慣れて普通に食事して普通に就寝。確かに途中から裸エプロンじゃなくて普通に服を着ていたが、まさか途中から普通に対応されるとは思っていなかった。

 ならば次、という事で翌日。

 

「藤丸さん、お風呂あがりましたよ」

「あぁ、分かった。んじゃ次は……ってぇ!!?」

「ほら、早く入らないとお湯が冷めちゃいますよ?」

「ひなたさん!!? 服は!!? 何でバスタオル一枚!!?」

「着替えを忘れちゃいまして。それに、ちょっとのぼせちゃいましたから」

「だ、だからって、いや、ちょっ、何で詰め寄るの!!?」

 

 しかし。

 

「風邪引かないように早めに寝るんだぞ。んじゃ、おやすみ」

「…………なんでですか。くちゅん」

 

 藤丸、普通にその後風呂に行って普通に就寝。ひなたは風邪を引きかけた。

 まさか裸にバスタオル一枚だけというかなり扇情的な姿で目の前に現れたのにも関わらず、最初の十数秒狼狽えただけで後は普通に対応してきた。

 ED以前にもうあの人はホモなんじゃないか、という疑惑まで出てきたが、しかしまだひなたには手札が一つ残されている。

 次の日。この日は裸エプロンからのバスタオル一枚というコンボを披露した物の、何もされず。流石に風邪ひきそう。

だが、これで反応しないならば。

 

「藤丸さん。起きてください、藤丸さん」

 

 もう全裸で今にも寝ようとしている藤丸を真夜中に誘う。これしかない。

 

「んん……」

「藤丸さん。ほら、藤丸さん」

 

 今にも寝ようとしている藤丸の上に跨り、彼の体を揺すって起こそうとする。

 が。

 

「何で全裸なんだよ……風邪ひくから寝ろって……」

「え? あの……」

「全く。年頃の女の子なんだからもうちょっと恥じらいを持てっての……おやすみ……」

「いや、その、藤丸さん!!? 正気ですか藤丸さん!!? ちょっ、これで寝るって……ほ、本当に寝てる……!!?」

 

 ひなた、敗北。なんか自分の中のプライド的な物がへし折れた気がした。

 なので次の日。

 

「……千景さん、わたしって、そんなに女としての魅力無いですかね……?」

「そ、そんな事無いと思うわよ……? 藤にぃの理性が天元突破してるだけで……」

 

 ひなたはその日、学校をさぼって強制的に千景を拉致って学校をさぼらせ、近くのカフェで半べそかいていた。

 流石の千景も、まさかひなたが仕掛けた普通の男も理性が硬い男も確実に一発でノックアウトできる程の全力のお色気攻撃を防いでくるとは思っていなかったのか、かなり困惑している。というか最後に至っては全裸なのにどうしてそこまで理性的でいられたのか、千景は理解できなかった。

 まぁ、藤丸の鋼の理性が働いているのだとは思われるが、まさかそこまで鋼だとは千景も想っていなかったので、ひなたにこれ以上かける言葉が思い浮かばなかった。

 

「でも、裸エプロンにバスタオルってやってから最後はもう恥も何もかもを投げ捨てて全裸ですよ!!? すっごく恥ずかしかったですけど勇気出した結果がこれですよ!!? なんか普通に流されたんですよ!!?」

「そ、それぐらい藤にぃも必死って事なんじゃないかしら? 上里さんの意中の相手は他に居るのだから、手を出すわけにはいかないって」

「うぅ……そこまで思ってくれるのは嬉しいですけど……」

 

 確かに、こちらには意中の相手がいる。それを考えて意識しないように。手を出さないようにと頑張ってくれるのは嬉しい。思わず顔が赤くなる程度には。

 しかし、それじゃあ。

 

「……これじゃあ、本当にどっちが諦めて結婚を受け入れたか、分からないじゃないですか」

「上里さん……」

「本当はわたしが、若葉ちゃんの事も諦めて、皆さんのスケープゴートになろうと思って、大社の思惑に乗ったのに、ここまで気を使われたらわたしが藤丸さんを一方的に犠牲にしているみたいで……」

 

 勇者と巫女の子、というのなら若葉とひなたの二人でもそれは成り立つ。

 未だ同性の間で子を成す方法は確立されていないが、産めや増やせやのこの時代、そういう技術が裏で開発され始めている、というのはひなたも知っている。故に、もしも藤丸がこのまま手を出さず、ひなたが若葉をレ〇プするなりして子を成せば、大社の思惑はどちらにしろ達成される事になる。

 そうなればひなたは自分の願望を叶え、夢が叶ったとまで言える未来が来る。しかし、そうなると藤丸はどうなる。

 若葉とひなたの子の親として振舞わなければならず。周りからはようやく子ができたと喜ばれ、本人はあたかもそうであるかのように振舞うだろう。そして藤丸はそっとフェードアウトし、ひなたと若葉が同居できるように計らうかもしれない。

 しかし、そうなれば藤丸はどうなる。それだけ頑張って、得られたものは。

 

「わたし、ちょっと自分の事過大評価してたんですよ。藤丸さんだって、わたしと結婚できるならちょっとは嬉しいだろうって。あの人、恋人を作るのを諦めている節があったじゃないですか?」

「えぇ、あったわね。というか、去年あたりからよく言ってたわね。どうせ俺は生涯独身だって」

「なんて悲しい事を千景さんにぶちまけてるんですかあの人……すみません、脱線しました。だから、わたしが相手でも結婚出来れば嬉しいんじゃないかって思って。わたし一人が将来を諦めれば、皆さんの将来が守れるって思ったんです。だから、結婚も受け入れて……」

 

 それが、ひなたがあの日に決断した物だった。

 切り捨てた物だった。

 だが、結果はどうだ。

 

「ですけど、これじゃあ藤丸さんが自分の欲しかったもの全部切り捨てて、好きでもないわたしのために時間を使っているようで……わたしは何も被害なんてなくって、藤丸さんだけが何かを犠牲にし続けて……」

 

 それが、ひなたが藤丸に手を出してもらおうという結論に至った思いでもあった。

 確かに女としてのプライド云々、と言うのもあった。だが。藤丸だけが不幸になるような未来じゃなくて、自分も。本来切り捨てようとしたものを切り捨てたくて。彼だけに重荷を背負わせたくなくて。

 これじゃあ、勇者達の武力行使を止めた意味が無い。寧ろ、武力行使をさせておいた方が藤丸は未来を犠牲にする事無く平穏な日々を手に入れていたかもしれない。

 そう思うと、自分のやってきた事は、ただ藤丸の未来を奪うだけで。

 

「……そうね。だって、藤にぃはそういう人だもの。例え自分が惚れていたとしても、相手が自分に惚れていない限りは絶対に手を出さないわ。上里さんが本当に藤にぃが好きじゃない限りは、ね」

 

 千景の言葉に、ひなたは何も言い返せなかった。

 ひなたは藤丸の事が好きではない。友人として。異性の友人としては、十分に好きというラインではある。だが、将来を共にする相手という段階に彼が立っているかと言われれば、違うと断言できる。

 彼は、いい友人だ。だが、そこで止まるのだ。惚れた腫れたの領域にまで彼の話題は出てこない。

 

「まぁ、お酒でも飲ませたら一発なんじゃないかしら? 理性を緩めさせてあげれば、手を出してくるとは思うわよ」

「お酒、ですか?」

「えぇ。でも、上里さんはそれでいいの? それで後悔しないの? そうやって無理矢理手を出させたんじゃ、藤にぃも、上里さんも。二人とも不幸になるだけよ。本当にそれがいいの?」

 

 いい、訳が無い。

 自分が不幸になるだけなら、まだ耐えられる。でも、そのせいで藤丸も。責める理由なんて何一つない彼がそれで不幸になってしまうのは、違う。彼は、抵抗しようとした。最後まで抵抗しようとして、ひなたが諦め、それに流されるように諭したから今もこうして流され。

 それでもひなたが不幸にならないようにと頑張っている。それをひなたは止めたいけれど、彼はひなたが心の底から惚れない限り、自分を犠牲にし続ける。

 それは嫌で。でも、結婚してしまった以上、その未来は変える事ができなくて。自分が犠牲になるのを止めれば、きっと他の誰かが犠牲になって。でも、彼はそれでも相手が犠牲にならないように犠牲になり続けて。

 どうしようもなく、詰んでいるように思えた。

 唯一の男と言う立場故に、傷を全て受け入れようとしているように見えた。

 

「私も、これ以上は何も言えないわ。だから、二人でしっかりと話し合った方がいいわよ」

「…………」

「……お代、先に払っておくわ。せめて、二人で話し合って折衷案を探す方が、良いと思うわ。無理に迫って関係を持つよりは、ね」

 

 優しい表情を浮かべた千景は伝票を持って行き、そのまま全額自分で払ってしまうと、そのまま外へ出て行ってしまった。

 それから暫く、ひなたはどうしても外へ行く気にはならず。結局、お昼近くまでそこに滞在してから、もう冷めきってしまったコーヒーを煽り、外へと出た。

 そのままぶらぶら、ぶらぶらと。適当に服を見に行ったり、本を見に行ったり。しかしどうしても気を晴らすことはできなくて、気が付けば誰かに相談したいと無意識のうちに思っていたのか、丸亀城に居た。

 もう時刻は放課後。どうやら真面目に授業を受けていたメンツとはすれ違いになったようだ。

 でも、丸亀城でやれる事なんてもうある訳が無く、溜め息を吐いてから帰ってしまおうと振り返って。

 

「勇者藤丸様。巫女ひなた様との生活は、如何ですかな?」

 

 そんな声が聞こえた。

 自分にかけられた言葉ではない。声が聞こえた方に気配を殺して移動してみると、そこには何故か藤丸がいて、大社の役員の一人が藤丸と対面していた。

 どうして藤丸が丸亀城に、と驚くひなただったが、足は動かず頭は冷静に、藤丸の様子を観察していた。

 

「如何って……俺、ちょっとひなた探して急いでるんで後でにしてもらっていいですか? 電話にも出ないし心配なんすけど」

 

 彼の言葉を聞いて、急いで自分の携帯を取り出してみれば、そこには何件かの不在着信が。詳細を見てみれば、全部藤丸から。放課後になった時間からつい先ほどまで、ずっと不在着信が続いている。

 それを見て、すぐにNARUKOで返信を打つ。

 ちょっと電話に出れない場所にいるけど、もうすぐ帰ります、と。それを送信したら、すぐに藤丸はそれを確認して安堵の息を吐いていた。

 

「なんだよ……心配させて。休んだのに誰も行先知らないから心配してたのに」

 

 これで、藤丸がこの場から足早に去る事は無い。

 ひなたも居ないのだから、恐らく本音であの役員と話をする事だろう。ひなたも知らない本音で。

 

「で、えっと……ひなたとの生活がどうか、でしたっけ?」

「えぇ。そろそろ子を成したかと」

「はぁ……してねぇっての。俺からする気は、ない」

 

 子を成したのか。その答えは、していない。する気も無い。結婚生活そのものを否定するかのような言葉。

 

「……あなた様がひなた様と婚姻成された理由、忘れたわけではありませんな?」

「あぁ、忘れちゃいねぇよ。でも、ひなたには本当に好きな奴がいる。だってのに俺が横からそれをかっ攫って不幸にすんのはちげぇだろうが」

「あなた様の役目は」

「種馬って言いてぇんだろ? 分かってんだよンな事。けどな、アンタ等大人の都合で女の子泣かせる訳にゃいかねぇだろうが。女の涙ってのはな、嬉しい時以外に流させたら駄目なんだよ。そうさせんのが男の役目ってモンだろうが」

「……今すぐにあなたをひなた様から引き剥がして他の誰かを宛がう事もできるのですよ?」

「やってみろよ。それを外部にぶちまけられた結果、お前等の世間体がどうなるか知ったこっちゃねぇけどな。それに、俺は俺の仲間達以上に……いや、あんな風に仲間のために自分を盾にできる子よりもいい女を知らない。だってのに後から来たよく知らない女なんか抱けるかよ。いいか、俺はひなたを絶対に泣かせやしない。守り通してやる。あの子が笑顔を浮かべるその日まで、何が何でも守り通してやる。例え何言われようとも、俺があの子の風除けになる。防御特化勇者ナメんじゃねぇぞ、クソ野郎」

 

 それだけ吐き捨てると、藤丸はどこかへと歩いていった。そして役員は舌打ちをすると、ひなたの方へと歩いてくる。

 慌てて隠れてやり過ごしてから、一度震えた携帯を見てみれば、じゃあ夕食作って待ってるから、と彼からのメッセージが。それを見てから、一度携帯を抱え込んで。そして、懐に仕舞って。

 

「……あんなこと言われたら、ちょっと嬉しいに決まってるじゃないですか」

 

 赤い顔をなんとかして冷ますために、再び歩き始める。

 確かに彼は、自分を犠牲にしてでも、と考えていた。だけど、そこには意地とプライドで固めた強い意志があった。

例え幸せになれなくても、守り通した女の子が幸せなら、それは自分の幸せになるんだと。自分を犠牲にしようとしたひなたを、絶対に守り通して幸せにしてみせるという決心があった。

 そんな彼の心に、応えたいと思って。

 そして、確信も沸いてきて。

 彼が夕食を作り始める前に。彼が帰って、一息ついた頃はきっと今だろうと思う頃に帰宅する。いつもはひなたが帰宅した後に藤丸が帰ってきているため、ひなたを彼が出迎えるのは少し新鮮だった。

 

「おかえり、ひなた。ごめんな、俺もさっきまで外に居たからまだ夕食できてないんだ。一緒に作るか?」

 

 そう聞いてくる彼に答える事無く、靴を脱いで距離を詰めて。

 何で何も言わないんだと首を軽く傾げる彼の頬を両手で包んで、ちょっと自分の方に寄せて。

 背伸びして、自分から顔を近づけ、唇を少しだけ合わせる。

 

「…………え?」

 

 なんの予告もなくされたソレに呆然とする彼。

 ひなたはそんな彼を見て、顔を赤くしたまま笑う。

 

「わたし、確かに若葉ちゃんの事が好きです。大好きです」

 

 でも、と続けて。

 

「わたしも普通の女の子ですから、あんな事をわたしのためだけに言ってくれるような優しい人は好きになっちゃうかもしれないんです。だから、わたしに嬉しい時に流す涙、流させてくださいね」

 

 悪戯成功、と言わんばかりに笑ってみれば、彼の顔は直接誘惑した時なんかよりもすぐに、そして更に赤くなる。

 それが、あの会話が聞かれていたことによる羞恥なのか。それとも、軽く唇を合わせるだけのキスが恥ずかしかったのか、どちらかは分からない。

 彼の気持ちは分からないが、それでも自分の気持ちはわかる。絶対にこうだという、確信があった。

あんな風に自分のために犠牲になるなんて知った事かと言って、幸せを与えようとしてくれるような優しい人には、応えてあげたいなって。こういう人なら、きっと何もしていなかったとしても時間と共に勝手に好きになっていくんだって。

 そんな想いが芽生えたことは、分かっちゃったんです。




という事でひなたIFでした。多分数か月後には結婚はいいですよぉ……! って全勇者にマウントを取り始めるひなたさんが居る事でしょう。
ちなみにひなたIFは大社からの命令が下った時に全力拒否してサモンそのっち&西暦勇者ーズをすると一瞬で大社が手のひら返すギャグ展開になったりもします。

で、今回のひなたIFの場合は若葉のような心の奥底にあった事から派生した打算ではなく、第三者の打算による望まない結婚からのスタートという、他のIFと比べて少しダークな始まり方でした。
ちなみに、藤丸くんはひなたが結婚を受け入れた時には既に一切手を出さずひなたの好きにさせてあげる事を心の中で誓ったりしています。

で、大社側の目的は、言ってしまえば西暦版そのっちを産みだす事ですね。
勇者×巫女による、神樹様とかなり相性がいい戦闘特化型の勇者の確保がしたかったというのと、もしかしたらそのっち+わっしーのような存在も上手く行けば誕生するんじゃないか、という打算からの命令であり、その勇者+巫女の力を持つか、勇者としての力が他の勇者よりも強い勇者を使い大社の地位を更に盤石なものにする……というのが狙いでした。

そんな打算から起こった婚姻の末、ひなたは藤丸のような自分の事をあんなにも考えてくれる人なら好きになれると確信したので、夫婦の仲は今後円満な物になっていくでしょう。
ひなたを直接守った勇者ってこれまで若葉ちゃんだけでしたから、ゆーゆと同じように吊り橋効果が働いた、と言えますね。

まぁ、その後は多分二人の子供も産まれるんでしょうが、この世界線の大赦&大社は数年後に大赦のトップに立ったそのっちとその手先のミノさん、更に仲間達を政略に使われる事を望まないひなたが神託を使い立ち回る事で見事綺麗に漂白して子供が地位固めのための武器に使われる事は無くなるので問題はありません。

次回こそはちーちゃん(小)IFを完成させたい……! まぁ、普通にあんずんとかタマっち先輩とかのIFが思い浮かばないんで既に一万文字近く書けているちーちゃん(小)IFが必然的に先に投稿できるとは思いますが……
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