ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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番外と言うか後日談一発目です。

今回の話は前回ご好評(?)だった修羅場時空リターンズです。前回は園子、銀(付き合う前)、須美、樹、友奈、東郷の六人だけの修羅場時空でしたが、今回はしずく、亜耶、夏凜、風の四人も加えてドッタンバッタン大騒ぎ。被害者というか前回の夏凜枠はちーちゃんが引き継いでおります。

時間軸的にはちーちゃんが過去に戻って勇者となる前の話なのですが、まぁここにぶち込んでしまえと言う事で最新話の後日談枠として投稿します。

という事で、本編どうぞ。


幕間-乃木若葉の章~花結いの章ちゅるっと!-
修羅場再びなハゲ


 修羅場。それは様々な事を指すが、よく指すのは何股かをかけた男と股をかけられた女による壮絶な現場の事だろう。

 自分にも周りにも恐らく無関係であろうこの言葉がどうしてこの単語が出てきたかと言えば、だ。

 

「どうして……どうして……」

「絶対! ぜーったい渡さないよ!」

「相手がそのっちだろうと平行世界の事だから関係なかろうと、桂は私のよ!」

「ざけんな! ズラはアタシのだ! 折角告白も成功したってのに渡せるか!!」

「藤丸さんはわたしのですから!! もう決定事項ですから!!」

「藤丸は、わたしの……!!」

「あはは……いや、流石に二回目となると笑うしかないよね」

「全くね。あーあー、一人増えてとうとう四肢に加えて首まで……」

「微笑ましいというかそろそろ藤丸先輩の命が危ないと言うか……」

「ほー。そっちは大学時代に。なんつーか、アンタ結構恋愛にゃ奥手なのね。予想はしてたけど」

「うっ……それ言われると何とも言えないわよ……」

 

 さぁて、どういう状況だこれは。

 いつも通り安芸先生の授業を終えて部活に顔を出した小学生の千景なのだが、ガラガラと部室のドアを開けて中に入ってみれば、そこには四肢を園子、美森、樹、銀に掴まれ、更にしずくに首まで掴まれて体から伸びる物全部を引きちぎられそうになっている藤丸の姿と、そんな様子を見て呆れたような笑顔を浮かべる友奈と何故か分裂している美森。

更にはそんな藤丸が死んでしまわないか少し心配している亜耶と、ちょっと離れた所でコーヒー片手ににぼしを食ってる夏凜と夏凜に言い負かされたのか沈んでいる風の姿が。

 なんというか、修羅場とそうじゃない部分の空気の差が激しすぎる。

 思わず部室のドアを開けた状態で一歩退いたが、それに亜耶が気が付いて近寄ってきた。

 

「あっ、千景ちゃんだ。わー、この時はまだちっちゃいんだ~」

「えっ、えっ、あ、亜耶さん?」

「こっちだといつの間にか大きくなってたから、ちっちゃい千景ちゃんと会うのって結構久しぶりだな~」

「は、はぁ……?」

 

 笑顔を浮かべながら何故か頭を撫でてくる亜耶に違和感があるが、感じる雰囲気は亜耶そのままなので脳内がバグる。思考回路がバグって言葉が出せていない千景の存在にようやく気が付いた友奈と美森が呆れたような笑顔からいつも通りの表情に戻して千景を出迎えた。

 

「あっ、ぐんちゃん。ごめんね、ちょっとうるさくて」

「多分一日くらい経ったらいつも通りになっているからそこら辺で座ってていいわよ。にしても、私より背の小さい千景ちゃんなんて久しぶりね」

「言われてみると確かに。気が付いたら大きくなってたしね」

 

 いつもよりも雰囲気がおっとりとしているというか、落ち着きがあると言うべきか。いつものような元気いっぱいの笑顔ではなく、どこか大人っぽさを感じる笑顔を浮かべる友奈とクソレズの気配を感じない美森に迎え入れられ、そのまま夏凜と風の座っている席へと案内された。

 案内された先でようやく千景の存在に気が付いた夏凜と風は、やはり友奈と美森のような雰囲気ではなくちょっと大人びた雰囲気で千景を迎え入れ、夏凜は千景ににぼしを手渡した。

 

「あっちに混ざんないって事は千景は対象外って事ね。しっかし、この時代に意識が飛んだ時はあの時の再来かと思ったらまさか増えてるなんてね。アイツもなんやかんやで女誑しの才能あるんじゃないの?」

「いやいや、何言ってんのよ。無数の平行世界があってこれよ? 逆に少ない方だと思わない?」

「それ言われると確かにそうね。あいつが無量大数以上にある平行世界の中であんだけしかフラグ建築できてないって思うと逆に哀れよね」

 

 急に情報量が多い出来事を叩き込まれた千景はどういうことか一切理解ができず首を傾げて受け取ったにぼしを齧るだけ。

 笑いながら夏凜は胸ポケットに手を伸ばして何かを探るように手を動かしたが、胸ポケットに何もない事に気が付くと溜め息を吐きながら首を振った。

 

「って、気が付いたらヤニ吸う癖ついちゃてるわ……風、煙草持ってたりしない?」

「この時代のアタシ達が持ってると思ってんの?」

「そりゃそっか。ヤニ切れって感じじゃないのにいつも吸ってるもんがないって結構辛いわね」

 

 ヤニ。つまりは煙草の事。

 まさかあの夏凜が、というかこの時代の人間がそんな若い頃から喫煙なんて言う犯罪を犯すとは思っても居なかった千景はあり得ない物を見る目で夏凜の方を見る。その視線を受けて夏凜がちょっと焦ったような表情を浮かべた。

 

「あっ、違うのよ。実はここに居る全員、平行世界の同一人物の魂が入り込んじゃってるのよ」

 

 平行世界の同一人物。

 そんな事あり得るか、と言いたかったが、千景は現にこうして時を越えて神世紀の地に足を踏み入れている。故に、平行世界の同一人物と言われてもちょっと信じかけてしまう。

 だが、決定的な証拠がない。

 

「証拠は……あるんですか?」

「証拠……証拠かぁ……アイツがああやって女に牛裂きの刑に処されているってのが証拠にならないかしら? あと東郷が分裂してる事。あの二人、中身は東郷美森と鷲尾須美で別れてるっぽいのよ」

 

 そう言われて牛裂きというか、それ以上の刑に処されて今にも死にそうな藤丸を見ると、確かにあんな光景は普段なら絶対にありえないし、浮気とか二股とか彼氏とか、そう言った勇者部には一切縁の無かった言葉が聞こえてくる事から、確かにこの状況はドッキリというかは本当に平行世界の同一人物が中に入っていると思った方がいい。

 それに、亜耶、友奈、美森の三人があんな表情を浮かべられたのも、平行世界の同一人物だからと思った方がまだ現実味がある。

 だが、それはそれとして中学生の夏凜が煙草を求めたことには変わりない。

 

「でも、煙草は……」

「あー、それはあたしの中身はもう二十五歳だからよ。大赦の一般職員してるから」

「ついでに言うとアタシは大学生ね。で、あっちの友奈、東郷が夏凜と同じ二十五。亜耶が確か十八だったかしら? で、あっちはしずく以外は特に外見と変わらず、しずくだけは十六ね。あっ、樹は確か十四になったんだっけ……? あれ? まぁいいや。つまり、そう言う事だから夏凜が煙草吸おうと、友奈が酒飲もうと中身的には違和感なんてないのよ」

 

 その言葉を聞いて驚いた。

 外見と中身の年齢が一致していない。そんな馬鹿なと言いたくなったが、確かに二十五歳になって落ち着きを得た友奈と美森がアレだと思えば納得はできるし、亜耶も十八歳になってちょっと大人っぽくなったと思えば納得できる。

 それに、ヤニを求める夏凜と、そんな夏凜と話が合う風も確かに二人とも二十歳を超えていると思えば納得はできる。

 まさか……と急に起きた超常現象に驚きながらも、そうじゃ無い限りあり得ない、なんて思ってみれば何とか納得できた。なんとか。

 勇者部に常識なんて通じないのはとっくに理解している事だ。内心は困惑しながらも中身は冷静に、夏凜のコーヒーを奪ってそれを口に含んで何とか落ち着こうとして。

 

「んで、後は……あれかしら。ここに居る全員が藤丸と付き合ってる、ないしは結婚しているってくらいかしら」

「ブッ!!?」

 

 思いっきり吹き出した。

 それを見た風が、ちょっとお母さんっぽい表情を浮かべながら千景の口元を拭き、夏凜が何も言わずに机を拭いて事なきを得た。

 そこまでやってもらってようやく落ち着いて、息を一つ吐いてから夏凜の方をもう一度だけ見た。

 

「えっと……誰が、誰と付き合ってると……?」

「ここに居るあたし達全員が、藤丸と付き合ってる、ないしは結婚してるのよ」

 

 その言葉を聞いて千景が思ったのは、あり得ないの一言だった。

 だって、勇者部員は常日頃から彼の事を彼氏としてどうかと聞かれたら論外と笑顔で答えている。園子だってそう答えているし、あの友奈だって論外と笑顔で言うのだ。千景的には異性というよりかは兄として見ている側面が強いので、彼氏と言うよりかは名実ともに兄となってほしいと思っているので遠回しに言えば論外なのかもしれないが、それでも千景は勇者部員が彼の事を異性として全く見ていない事を知っている。

 だと言うのに、ここに居る全員が付き合っているという。

 端的に言ってあり得ない。そんな可能性があったなんて、と驚愕するほどに。

 特に美森。

 

「既婚者は確か東郷だけだったかしら? 友奈と亜耶が同棲中で、一応あたしもつい最近あいつと同棲を始めたわ」

「えっ、そうだったの? って事は二十越えて同棲してないのってアタシだけ? うわー……なんか凹むわー……」

「まぁアンタは樹もいるし、仕方ないことでしょ。基本的にアイツは大社職員するか喫茶店開いてるっぽいし、そうなったら転がり込みなさいよ」

「確かに、と言いたいけど樹を一人暮らしさせたら三日ぐらいで死にそうで……」

「あー……」

 

 夏凜と風が色々と話しているが、千景はかなり驚いている。

 特に美森がこの中で唯一の既婚者となっていることに。彼女こそ一番結婚とかそう言うのとは無縁だと言うのに、唯一この中で結婚を果たしている。あのレズの美森が。

 その事実にフリーズしている千景だったが、夏凜と風はその反応に大体予想がついていたようで、特に何も言わずにスルー。なお、十年前に一度修羅場の中に放り込まれた記憶を持っている夏凜はあー、またか……と思う程度だったが、風はその時の記憶がないので美森が結婚していることを聞いた時は声を出して驚いた。

 ちなみにこの中で唯一美森の結婚に驚かず、特に嫉妬もせずにおめでとうと言ったのは亜耶だけである。一応本職巫女である亜耶はこの世界に連れてこられる寸前に神様っぽい人から神託を超久しぶりに受けて事情を先んじて理解していたので、美森の事は平行世界の事として祝う事ができた。

 もしもその事を先んじて神託で受け取っていなかったら、亜耶もあの修羅場六人の中に混ざっていたかもしれない。

 

「さて、じゃあそろそろあれを止めましょうか。じゃないと藤丸が死ぬわ」

「そうね。こっちのアイツの肉体が一番縁のない事で死なれる前に止めましょうか。友奈、東郷、亜耶。あれ止めるわよ」

『はーい』

 

 この五人の中では二番目に年下である風が仕切っているあたり、やはり勇者部のリーダーは風という事で彼女達の中では落ち着いているのだろう。

 友奈が園子を何とか引き剥がしてそのまま羽交い絞めにして動きを封じ、夏凜が銀の首根っこを掴んで引っ張り引き剥がし、風は樹を担いで引き剥がし、美森はもう一人の美森こと須美にコブラツイストを仕掛けてそのまま引き剥がし、亜耶はしずくの手を引っ張って近くの椅子に座らせ、その上に座る事で動けないようにした。

 なんか一人だけはっちゃけてる。というか体から顔まで何もかもが同じ人物が同じ人物にコブラツイストを仕掛けている図はかなり面白い。そして解放された藤丸はと言うと、千景の後ろに回り込んで隠れた。

 

「ち、ちーちゃんは特に別世界の記憶とか無いんだよな!? こっから俺また牛裂きに合わないよな!?」

「だ、大丈夫、だから……」

「よ、よかった……そうだよな、今の俺の頭の中にちーちゃんと付き合ってる世界線の記憶はないから大丈夫だよな……」

「どういう、事……?」

「いや、今の俺の頭の中にはあいつらと付き合ってる世界線の記憶が全部詰め込まれててさ……それもあって俺が浮気しているしてない、独占したいしたくないでああやって牛裂きに……俺なんも悪い事してないのに……」

「そ、その……ドン、マイ?」

 

 今回ばかりは藤丸は何も悪い事をしてない。本当にしていない。強いて言うのならこの現象を起こして今もどこからか覗いて腹を抱えながら大爆笑しているであろう某牛鬼が悪いのだ。ちなみに大爆笑している横では青い鳥が頭を抱えているのだが、それは言うまでもない事だろう。

もう霊体になってから三百歳にもなるのに未だに彼女の精神は十四歳相当なのである。

 そして他のメンツも、この時代の千景の後ろに隠れられたのでは何もできない、という事で何とか落ち着きを取り戻し、五人ほどが視線を飛ばし合ってバチバチとしているが、全世界共通の不戦地域でもある千景(小)の方に突撃したりはしていない。一応須美の世界や園子の世界と言った、付き合った後に千景が現れた世界線のメンツも、この時代の千景はこちらから暴力を振るってはいけない部分だと理解しているので、ぐっと堪えている。

 もしもこれが千景(小)も藤丸と付き合っている世界線から記憶を持ってこられていたら、確実にもっと凄惨な修羅場が巻き起こっていた事だろう。

 

「やっと落ち着いたわね。まぁ、気持ちはわからんでもないけど、少しは藤丸の事を考えてあげなさいな」

「うっ……そう言われると何も言えないですけど~……」

「でも自分の彼氏が違う女に取られるのはどうしても見過ごせないって言うか……」

「まぁ気持ちは分かりますけど……でも、今日みたいな非常識な時はもう少しだけ藤丸先輩の事を考えて上げた方が……」

「国土にそれ言われると割と傷つく……自分の愚かさというか猪突猛進さにというか……」

 

 ちなみにこの亜耶は某緑のせいでちょっと腹黒くもなっているので、当時の自分の評価を存分に使って周りの皆を落ち着かせようと、ちょっとだけあくどい事も考えていたりする。

 それに気が付いているのは、自分の世界で自分と藤丸のために裏で色々としたりセ〇クスしないと出られない部屋を本気で作ろうか頭を抱えていた亜耶を知っている友奈だけだったりするのだが、彼女も彼女で大人になってちょっと腹黒さや口の悪さが増したため何も言わなかった。

 

「……まぁ、ここは一旦落ち着きましょう。癪だけど、今日くらいは誰も桂にベタベタしないようにして、状況の把握ぐらいはしましょう。癪だけど」

「そうですね。癪ですけど、今日ぐらいは我慢しましょう。癪ですけど」

 

 須美と樹がバチバチと視線を飛ばして牽制しつつも、特にこの中だと依存度がヤバいというか、積極的に藤丸を奪いかからんとする須美が落ち着いた事であれが落ち着くなら……と園子、銀も落ち着き、しずくも亜耶の言葉で歯ぎしりしながらも落ち着いた。

 

「全くもう。アタシ達は一回目だけど、アンタ等はしずく以外二回目なんでしょ? 少しは落ち着いて物事を捉えなさいよ」

「それに、こうやって平行世界のみんなが集まったんだから少しは楽しもうよ。若い体でちょっとはしゃいでみるとか」

「そのネタが通じるのは多分二十歳以上組くらいよ、友奈ちゃん。亜耶ちゃんは多分若い頃の体は、とか全然思わないでしょ?」

「そうですね。でも、わたしってこの頃から一切成長せずにただ肩こりとか眼精疲労はいっちょ前に成長したんだなって改めて実感して……」

「亜耶ちゃんが合法ロリになるのは全世界共通なのね……」

 

 少なくとも風、夏凜、友奈、美森の世界線での亜耶はほぼ成長することがなく、中学時代の頃から殆ど容姿に変化がない。強いて言うなら髪が伸びて量がさらに増えたことだろうか。

 亜耶自身もそれは思う所があるようで、ちょっとだけ泣きそうな顔になっている。彼女だって女の子だからナイスバディーに産まれたかったと思う時が多々あったりするのである。

 

「そのせいで藤丸先輩に壊れ物扱いされてるのか、全然手を出してくれる気配がないですし……」

「あっ……」

 

 亜耶の言葉に約一名が察した。

 どうやら彼のヘタレっぷりは結構全世界共通らしい。

 

「え? そんなので悩んでるの? それなら酒でも飲ませておきゃいいのよ。アイツ、酒飲んだら結構理性ぶっ壊れやすいわよ?」

「夏凜ちゃん、そこら辺の話を詳しく」

「お、おう?」

 

 彼の方から積極的に手を出してきた……というか、手を出してきた結果付き合う事になったと言っても過言ではない夏凜が自分の経験を元にそんな事を言えば、あのラブホの件から未だに進んでいない友奈が食いついた。

 そして千景の横に座っている藤丸は友奈と亜耶の言葉に胸を抑えて突っ伏している。

 まぁ、友奈の方は友奈自身にもちょっとばかり問題がある上にここで聞いた話は元の世界に戻ったら忘れてしまうので意味が無いのだが。

 亜耶の方も亜耶の方で……とは一瞬友奈も思ったのだが、二十五になった彼女は結構度胸があると言うか、本気を出したら彼を押し倒してヤる事をヤりかねないのであっちはあっちで任せておくことにした。

 

「確かにズラっちって結構ヘタレるよね~。最初のデートの時にはあっちから手を繋いでくれたのに、それからは結構ヘタレてるし~」

「アタシん所は最初からヘタレてたけど。やっぱそこら辺は全世界共通なのか?」

「えっ? 桂ってそんなにヘタレてたかしら……? 私は結構くっ付きまくってるわよ?」

「う、羨ましいです……わたしなんて最近は事務所からの指示が……」

「…………確かに、結構勇気を出して色々言ってもはぐらかされる事が多い」

 

 ついでに彼がヘタレな部分は須美の世界以外ではかなり露見しているらしく、彼女達がそれについてを口にする度に藤丸の胸に言葉の槍が突き刺さりまくり、謝りながら半分泣きそうになっている。

 千景も一応彼の事を慰めてはいるが、ヘタレなのは彼自身の問題である上に八割の世界でヘタレているのでもうどうしようもなかった。

 彼がヘタレていない世界は恐らく須美の世界と美森の世界、夏凜の世界の三つである。

 須美の世界は二年越しに想いを伝えたと思ったらすぐに彼女が消失の危機に会ったがために桂の方が限界を迎えたという裏話があり、美森の方もなんやかんやでかなりヘタレた末にようやく手を出した形だし、夏凜の方は酒の力があった結果遠慮するもんも無くなったと言った感じだし。

 そもそも夏凜の世界の藤丸はちょっとばかり他の世界とは前提が違う上に一度彼女を作っていたからか、そこら辺の踏ん切りが付きやすくなっている、というのもあるが。

 というかそういう裏事情が無いと基本的にヘタレる辺り、藤丸がヘタレであるというのは根底から変わらないのだろう。

 それを十個の平行世界の記憶を持ち合わせている藤丸は実感し、ここまでヘタレなのかと気づき心が折れた。しかしここで自覚しても戻る頃には全部忘れているので意味が無いのであった。

 

「……藤にぃ、ヘタレ、なの?」

「いや、違うんだよ……こうさ、女の子って繊細じゃん……? だからこう、どうしたらいいのか分からないって言うか、変に暴走して傷つけたら嫌だから……」

「……それってつまりヘタレ」

「――――――」

「藤にぃ……? …………し、死んでる……」

 

 千景の確信を持った言葉に藤丸が死んだ。

 女の子はお姫様扱いされたいのは勿論願望としてあるが、時には男の人にちょっと乱暴に、と考える物なのである。乱暴すぎるのも駄目だが、逆に壊れ物扱いしすぎたら亜耶みたいにちょっと悩み始める子だっているし、愛想を尽かされたと勘違いする子もいるし、何だったらそれにイラついて愛想が尽きる子だっている。

 

「そういや銀って前は付き合ってなかったのに付き合えたのね。よかったじゃない」

「えっ? あ、いや、そりゃまぁ、どうも……」

 

 ちなみに銀が藤丸と付き合ったのは体感的には一週間前程度であり、幸せの絶頂だが互いにヘタレて距離感をどうしようか、なんて思っている間にこんな事が起こっていたりする。

 なので恋人っぽい事をしたかと言われたら手を繋いで一緒に帰った程度でそれ以上の事は何もできていない。

 

「前回は一人だけハブられてたもんね。前は東郷さん……じゃなくて、えっと……鷲尾さん? と園ちゃんと樹ちゃんがくっ付いてるのを遠目に見てただけだったもんね」

「なんか友奈ちゃんから鷲尾さん呼びって新鮮ね……でも、銀ってどっちかと言ったら恋愛弱者だから大変だったんじゃないの?」

「だ、誰が恋愛弱者だ!!」

「銀。あなたは恋愛弱者よ。二十五にもなって彼氏を一人も作れず処女どころか喪女を拗らせて人の旦那を目の前で寝とろうとする恋愛弱者なのよ」

「やべぇ今マジでコイツに殺意沸いたんだけど……」

「そのっちもだけど」

「は? キレそう」

 

 殆どの平行世界で行き遅れと化している銀&園子に向かって事実で喧嘩を売った美森。しかし友奈も夏凜も風も、確かにそうなりそうだよね、と満場一致で頷き、思わず二人が斧と槍を取り出す。

 千景にとって勇者部が唐突に武器を取り出す事は慣れたことなので特に何もせずににぼしを齧っている。

 しかしここで殺傷沙汰になったらこの体の持ち主に問題が起きかねないので、滅茶苦茶歯ぎしりしながら武器を仕舞って座った。

 

「まぁ、諦めなさい。アンタ等二人は大抵恋愛弱者ポジなのよ。でも、そっちだと藤丸と付き合えてるんでしょ? ならそこまでカッカしなくてもいいじゃない。例え普段が恋愛弱者でもそっちの世界じゃ既に恋愛強者よ」

 

 ついでに二人を煽てるような感じの夏凜の言葉を聞いて照れ照れと顔を赤くしながら満更でもない表情で座った。

 美森はそんな夏凜を見てボソッと一言。

 

「夏凜ちゃん、口先が上手くなったわね」

「クソ上司の下で働いて時々煽てる事を覚えりゃこんなもんよ。東郷はそういうので苦労とかしなかったの?」

「してないと言えば嘘になるけど……最近はあまりなかったわね。あの人と結婚してからはそのっちの庇護下に居るって思われてるっぽくて、逆にあっちが頭を下げる事が多いくらいね。事実ではあるけど」

「へぇ、あの普段から血を吐きそうなほど疲れてる園子はそういう面でも助けてくれてるのね」

「血……? こっちのそのっちは最近定時帰りが多いから婚活頑張ってるそうよ?」

「えっ、マジ? 意外だわ……こっちの園子は点滴しながら仕事したり血反吐吐きかけたりしてるわよ……?」

「お願いだから助けてあげて……」

「もうそのつもりであたし達も動いてるけど……園子の奴が抱えすぎた仕事が膨大すぎて散らばすのにも一苦労なのよ……」

「大赦勤めも辛いのね……」

「全くよ……」

「……あっちの方から聞きたくない会話が聞こえるのって無視した方がいいのかな~?」

「言うな。アレは多分アタシ達の未来の可能性だ。しかも結構な割合を占める可能性なんだ……!!」

 

 その言葉に友奈と亜耶もちょっと視線を逸らした。

 何せ友奈の時代の園子なんて仕事が辛すぎて勤務中の真昼間から居酒屋に逃げる程だし、亜耶の世界の園子も仕事で首がこれ以上回らないらしいと聞いている。というか、藤丸がシャルモン・ブラーボを開いている時点で園子は仕事がヤバいと言う事なので、つまりそう言う事である。

 夏凜の世界に関しては最早藤丸をそのように自由にさせる程の余裕すらも無いという過労死一歩手前なのだが。ちなみに銀も同じように点滴をしながら仕事をしている。というかぶっ倒れた経験もある。

 だが、多分園子の世界線の彼女はもう少しマシというか、どちらかと言えば美森の世界に近い生活ペースとなるだろう。家庭が無い上に仕事が多いから過労死一歩手前になっているのであって、家庭があって愛する夫が居るのなら園子様も鬼になって自分がやる仕事を働かない重鎮共にばら撒くだろう。

 銀の世界や樹の世界、しずくの世界に関しては、諦めた方がいい。後で救出するのが恐らく正解だ。

 

「本当ならここでアドバイスとかしてあげたいんだけど……残念なことに戻ると全部忘れちゃうのよね」

「こっちに来ると思い出すけど、そんな簡単に思い出せないからね。多分これの原因って十中八九……」

「たかしーだよね~……」

「千景がちっちゃい以上、これ以上は言えないけど……まぁ、確実にアレの仕業ね。というかこの時代のあたしってそこら辺全部聞いてたから正解としか言えないわね……」

 

 本当なら、もっとアドバイスとかがしたい。

 特に園子が死にかけている世界線の夏凜に藤丸がどうやって彼女と銀を救出したのかとか、その他にも彼をどうやって扱うのが正解かとか。

 この中では唯一の既婚者である美森は夫婦で行う事は一通り済ませており、本来の彼女の体は妊娠数か月で腹も大きくなってきている所なので、特に中学生組や高校生組は色々な話を聞きたい所だろう。

 各世界に影響が出ないように、というあの神の配慮なのだろうが、そこら辺はちょっと融通してほしかった。

 

「まぁ、こういう暗い話は置いておきましょうか。そう言う事を考えないし考えたくない年頃の子達も居る訳だし」

「……なんか私から子供扱い受けるのはちょっと癪と言うかなんというか」

 

 美森の言葉に唯一須美だけがちょっとだけ苦い顔をする。

 やはり、自分自身とも言える美森に年上面をされるのがちょっと違和感になっているらしい。ついでに言えば須美的にはもう周りの目なんて放っていて桂とくっ付きたいのに、当の桂は千景の後ろに隠れている。

 普段なら千景も交えてくっ付いたりしているのだが、それもできない以上ちょっと色々と物足りなく感じてしまう。

 

「まぁ、肉体年齢的には同い年だもんねぇ。というか、わたしとしてはちょっと体を思いっきり動かしたい気分。こんなに体が軽いのなんて数年ぶりだからね」

「友奈のそれ、マジでわかるわー。あたしもデスクワークばっかりで肩こり腰痛眼精疲労が酷すぎたから、この体のあたしがどれだけ健康だったかもうちょっと噛みしめたい」

「そう言われると私もそうかしら。最近はお腹も大きくなって派手に動けなかったし」

「そういや東郷は妊婦だったわね……けど、動きたいってのは同感ね。アタシも若い頃の体ってすげーって思ってたし」

 

 そんな須美を他所に、二十歳以上のメンバーが自分の体についての感想を述べた。

 特に友奈と夏凜はよく動いていたからか、当時の肩こりや眼精疲労なんていう社会人なら標準装備されていると言ってもおかしくはない症状が存在しない体に軽く感動している。

 美森や風は胸に大きい物があるので当時から肩こりは酷かったのだが、そこら辺を口にすると樹や銀から殺意が飛んでくるので何も言わない。

 しかし、自分達の元の体と比べれば動きやすいのは事実。特に美森は妊娠数か月で激しい運動ができない上に寝る時も若干苦しく思えるくらいには既に腹も膨らんでいたので、軽くて動きやすくてどれだけでも動ける今の体にちょっとばかり感動している。

 

「そっか~。わっしーってあっちだと妊婦さんなんだ~……わ、わたしもその内ズラっちの…………うぅ~」

「や、やめろよ園子……こっちまで想像しちまうだろ……」

「そ、そうよ。私だって、その……色々と、あの……」

「そんな事言われたらもうふざけて精神崩壊カ〇ーユみたいなこと言えないじゃないですか……」

「中学生組は初心」

「あ、あはは……そ、そうですね……」

「国土……? まさか十八にもなってまだそんなにピュアな……」

「い、いえ、わたしだって色々と分かってますよ!? も、もう大人ですもん!」

 

 園子の言葉が切欠で中学生組と、樹の手により知りたくも無かった事まで知ったが根っこはピュアな亜耶が顔を赤くする。

 彼は確実に浮気なんてしないし二股なんてかけないのは分かっているので、このまま付き合い続けて年月が経てばそうなるのは分かっている。ヘタレだが、いつか手を出してもらえるというのも、美森でよく分かっている。

 いつかは子供を産んで幸せな家庭を、と想像するが、そこに至るまでのアレコレがある訳で。

 

「そう言えば、東郷さんには……手を、出せたのね」

「そういう生々しい事言うの止めようぜちーちゃん……? いや、まぁ、美森とは付き合い始めて五年だしな。そんだけ経てばこっちにも色々とあるんだよ」

「東郷さんが、二十五で……二十歳から?」

「そうだな。一応夏凜の方でも俺と美森が付き合う事になったアレが起きてるけど、そこら辺の分岐は多分俺がシャルモン・ブラーボを開店してるかしてないかの違いだな」

 

 藤丸の中にある未来組の世界線では、様々な相違点がある。

 友奈が教職に就いていたり、風が樹のマネージャーになっていたりデザイナーになっていたり。美森は恐らく唯一とも言ってもいい職業が固定されている人物だが、そんな彼女も夏凜の世界では大赦のスパイであったりと、様々な相違点がある。

 そう言った相違点を重ね合わせていけば、例えば友奈と付き合う事になるのはシャルモン・ブラーボを開いている上に大赦の過激派が動く事が条件となる。美森の場合は、夏凜の世界でも起こった友奈レ〇プ事件が起きた際にシャルモン・ブラーボがある事が条件となる。夏凜の場合は夏凜と藤丸が共に大赦内で働いていることが条件になるし、過去に目を向ければ須美と付き合う場合は桂が須美を慰めるか慰めないかで世界が分岐したりと、本当に些細な事でフラグの建築ができるかできないかが変わってくる。

 

「しっかし、そういう些細な相違点でこうも将来が分岐するって事は……もしかしたらちーちゃんと付き合ってる世界線、ってのも本当にあったりしてな」

「あるかも、しれないけど……藤にぃ、フラグ管理は、慎重に……ね?」

「フラグ管理って……」

「もしかしたら、ハーレム世界……なんて、あるかもだから」

「いやいや。俺はそんなラノベ主人公みたいなことはしないさ」

 

 ただ、平行世界は無数にある。もしかしたら彼が神世紀ではなくバーテックスが存在しない西暦の時代に勇者部の面々と共に存在して謎の撮影に参加した結果、バスの中に入ってきた全裸の男にズラを落とされてハゲバレする世界だってあるかもしれない。

 故に、もしかしたらハーレム主人公みたいな事になっている世界線や、彼が闇落ちしている世界線、果てには特撮に興味が無くごく普通の少年として生きて勇者として戦う世界なんてのも、もしかしたらあるのかもしれない。

 恐らくハーレム時空だけは絶対にありえないが。

 

「よし、じゃあ大人組でバッセンでも行こっか!! 若い体なんだから思いっきり動かして楽しまないと!!」

「それもそうね。よし、ホームラン連発するわよ!!」

「そういうのも偶には良さそうね。私も参加するわ」

「ならアタシだって混ざるわ! アンタ等にゃ色々と聞きたい事もあるしね!!」

 

 そんな事を千景と藤丸が話していると、大人組はどうやら体を思いっきり動かして遊ぶことに決めたようで、四人で話を完結させるとぞろぞろと出ていった。

 恐らく美森は前と同じように夏凜の部屋に泊まる事になるだろうから、分裂している事には誰も気が付かないだろう。

 だが、大人組が消えた、という事はだ。

 中学生組としずくのストッパーが居なくなった、という事である。

 

「じゃあズラっち、わたしと一緒にデート行こ?」

「いやいや、ズラはアタシとデートだから」

「そればっかりは許せないわね。桂は私とデートするのよ」

「わ、わたしとです! 先輩達には譲りません!」

「藤丸、デート」

 

 おっと。

 藤丸の顔色が悪くなる。同時に千景が距離を取った。

 そして。

 

「ズラっち」

「誰と」

「デートに」

「行くんですか?」

「返答によっては……」

 

 五人が詰め寄ってくる。

 表情は笑顔だが、目が笑っていない。勿論誰と一緒に来るか分かってるよね? と言わんばかりのその目に、藤丸が顔色を悪くしながら苦笑する。

 

「い、いや、その、俺は、あの、正直この状況になるとどうしようもないと、言いますか……あの、今日くらいはそういうの抜きにしてみんなで遊びに、行きま……せん? って、あの、その、言いたくて、ですね……いや、その、はい。だからその、牛裂きに関しましては、えっと……やめていただけると、この世界の俺の体も、あの、無事で……」

「選べないの?」

「って事は」

「力づくで」

「奪うのが」

「大正解……!!」

「あっ、死んだなこれ」

 

 次の瞬間、再び藤丸が牛裂きの刑に処された。

 意図しないというか、彼の信条的に元の世界じゃ絶対に起こらない藤丸の取り合いという光景に千景は苦笑しつつ、巻き込まれないように亜耶に回収された。

 

「えっと、亜耶さんは……混ざらない、の?」

「わたしは元の世界でいっぱい甘えるし、ああやって年下の子に好かれてる藤丸先輩を見るとちょっと和むというか……」

 

 と、言いながら亜耶が藤丸の方に視線を飛ばした。

 藤丸は死にそうな顔で四肢と首を掴まれて五方向に引っ張られていた。

 

「…………ごめんね、和まないや。というか、本でしか見ないような修羅場が目の前で起きてるとちょっと引くというか」

「あぁ……気持ち、分かります」

「あははは……じゃあ、二人でお茶でも行く?」

「えっと、じゃあ、はい。行きましょう」

「たしゅ……たしゅけて……」

 

 そして亜耶と千景は藤丸を放置しお茶に行った。

 この後藤丸がどうなったか。それを知る者は、この世界には存在しなくなったのだった。

 

 

****

 

 

 藤丸が死にかけている頃、大人組。

 大人組はバッセンで体の若さを実感した後、帰らないなら帰らないで家に連絡を入れないといけないというのを友奈が途中で気が付き、どうせなら泊まりで語り明かそうと言う事で夕食も四人一緒に食べてから夏凜の部屋に泊まる事にした。

 そんな訳で夕食を食べに来たのだが。

 

「なんというか、バッセン行った後についついいつものノリで来ちゃったけど」

「この歳で居酒屋来るのはちょっと違ったわね。お酒なんて飲めないのに」

 

 まさかの居酒屋である。

 いつものノリというか、休日に友達と遊んだノリでそのまま誰も違和感を持つことなく居酒屋に来たのだが、入ってからさぁ飲むぞ、といつも通りの思考に入ったところで、風から酒はパス、という言葉を聞き、彼女の方を見たことでようやく酒なんて頼めない事に気が付いた。

 だから店員からの視線が痛かったのか、とも改めて気が付いた。

 

「煙草も吸えないものね。何かやった後に居酒屋来るのは大人としての癖みたいな物よね」

「まぁ、頼めないモンは頼めないって事で、適当になんか食べましょうか。ついでに色々と話しましょ」

 

 と、言いながら風が水を一口。

 友奈達もメニューを見つつ喋り始める。

 

「そうですね。じゃあ夏凜ちゃん。藤丸くんにお酒を飲ますと手を出される件について」

「お、おう……なんつーか、苦労してんのね、友奈。あっ、あたし焼き鳥の皮」

「まぁ、私に関しては互いに手を出すまで数年かかったし、ここは夏凜ちゃんが最適よね。ちなみに私はキスまで一年かかったわ。私は唐揚げで」

「よくそんだけ関係が保てたわね……あー、そういや油物も問題なく食えるんだったわね。じゃあアタシはハムカツ」

「案外惰性の末に結婚するとこうもなるんですよ。互いに別れるなんて言いにくいし、言おうと思っても言う程生活が苦ではないし、寧ろ楽だしって思うと、別れるなんて選択肢が無くなって、最終的には付き合ってるし……の一言でどちらからともなく手を出し始めるんですよ。お刺身頼んでいいですか?」

「なんか大人ね……刺身ね。はいはい」

「東郷ん所はそんな感じなのね。あたしの方はあれよ。記憶ぶっ飛ぶまで飲んだらそのまま朝チュンからの交際よ。ガバガバが極まった感じね。卵焼きも追加で」

「か、夏凜ちゃんの方も大人だよぉ……それに比べてわたしなんて、藤丸くんもわたしもヘタレて……うぅ、お酒飲みたいぃぃ!! わたしうずらの卵!!」

「飲まなきゃやってられないってのは分かるけど、落ち着きなさい友奈……この体でそんな事叫んだら漏れなく補導よ……あと春巻き追加で」

「そういう風先輩はどうなんですか! 付き合い始めてこう、いい雰囲気になったりとか!! わたし飲み物シンデレラで!!」

「えっ、あ、アタシ!? いや、アタシはほら……まだそういうのって早いと言うか……もうちょっと期間を開けてからというか……あっ、飲み物はサイダーで……」

「じゃあ風先輩もヘタレじゃないですか!! わたしの世界の藤丸くんと同じような事言ってますよ!!? そんな事になると本当にあの人、手を出してくれませんからね!! あとサラダも一つ!!」

「友奈ちゃん、ステイステイ。注文はこんなものでいいかしら? 私は飲み物はオレンジジュースでいいけど」

「友奈も大変なのね……あっ、あたしはリンゴジュースで」

 

 喋りながら食べるものを一通り口にした四人は、一旦夏凜が友奈を鎮めて美森が注文。風は赤くなった顔を落ち着けるために水を飲んだ。

 

「うぅぅ……東郷さんに負けてるなんて正直考えたくも無かったよ……」

「私はほら、惰性の末だし、二十歳から付き合ってたから。友奈ちゃんはこの間からでしょう? あの人と付き合ってる期間が一番長いのも私だし、手を出されるまでが長かったのも私なのよ? キスまでに一年よ?」

「逆にアンタが一年であいつにキスってのが驚きではあるんだけど」

「最初は確かにあり得ないって思ってたけど、付き合ってるって名目で一緒に暮らしてると、徐々に認識も変わってくるのよ。このまま付き合い続けるのも悪くないから始まって、付き合ってるならもう少しくっ付こうってなって、同棲してるんだし部屋が分かれてるのもおかしいから一緒に寝ようってなって、それから暫くして変な気分になってキスよ」

「変な気分って?」

「そりゃあ……あの人だって男だし、私だって一応溜まる物は溜まるもの。キスして半年位経った頃にようやくこっちから手を出すように言ったわ」

「あいつ、よくもまぁ東郷と一緒に寝て半年以上も持ったわね……並の男なら一晩持たないでしょ」

「というか、東郷さんの体で半年って……じゃあわたしは……」

「わ、私が言いたいのは、勇気を出して誘えば大丈夫って事よ? 早く寝た日も、くっ付いてちょっと手を触って囁けば流石にあの人も飛び起きるし、そのまま理性の枷が外れるわ」

「むしろそれで外れない男なんて居ないわよ」

 

 なんというか、殆どが美森の無自覚な惚気ではあったが、友奈からしたら一応勉強にはなっている。何せ、世界が違うとはいえ同じ男に手を出させているのだから、そりゃあ勉強にもなる。

 彼だって一応男だ。性欲だってある男だ。そんな彼が一緒に寝ている可愛い彼女からそんな事を言われたら、もう我慢ならないだろう。特に風の所は藤丸がべた惚れなのだから、ちょっと言えば確実に手を出してくる。友奈の方だって、彼が勇気を出して友奈がヘタレなければ十分に目的は達成できる。

 夏凜の方は既に手を出されているというか、朝チュンを起こしているし、その後もヤる事はヤっているので、東郷の世界の彼の話を聞いてちょっと楽しんでいる。

 と、そうやって話していると店員が飲み物と注文した料理を幾つか持ってきた。

 

「それじゃあ、飲み物も来て摘まみも来たし、食べましょっか。奇跡的な出会いにかんぱーい」

『かんぱーい』

 

 グラスをぶつけ合い、飲み物を一口。

 うん、美味い。

 

「さて、話題も尽きない事だし、色々と話しながら食べましょっか」

「お酒が無いのがほんっと、残念ですけど」

「……そう言えば、私の家ってお神酒とかあったような。あとお父さんのビールとか」

「それを言うならわたしの家にもビールは……」

「……こういう時くらい、ハメ外すのもいいわよね!!」

「そうだね!! もうわたし達だって子供じゃないんだし!!」

「ふっ。あたしは止めないわ。そこら辺の後片付けはこの世界のあたしにお任せよ」

「これが神樹様信仰が無くなって大人になった勇者共の成れの果てなのね……」

 

 この後、居酒屋で適当に食べた後に友奈と美森が家からビールや日本酒をかっぱらってきて夏凜の部屋でめちゃくちゃ酒盛りした。

 その後なのだが、夏凜は部屋の惨状から何があったのかを大体予想し、珍獣どもを呼び寄せるとそのまま首根っこを掴んで神様パワー的な何かで飲み会の後の惨状をどうにかしてもらったとか。

 ちなみに藤丸は何とか生きていた。生きていたが、四肢に加えて首が猛烈な痛みを発したため珍しく学校を欠席したのだった。唯一その理由を知る千景は、この日の事を誰にも言わない秘密として胸の内に留めておくのだった。




という事で修羅場時空でした。修羅場って言う割には修羅場してるのは中学生組+しずくだけで、亜耶ちゃん以降の年代の方々はみんな大人として振舞っておりました。

書いてて思ったのですが、東郷さんのIFって今思うと回想でちょっとずつ語っただけなので、もっと本格的に二人が付き合っている間の事とか書いた方がいいですかね? それからの二人のIF3を求める声は結構ありますが、その前の事を見たいって声はあまり聞かないので。

どちらかと言えば大人組がメインだった修羅場回でしたとさ。

お話の要望などがありましたら、ハナトハゲについてを書いた活動報告にてそれらを受け付けておりますので、妄想をぶつける的なノリでこんな事書いて欲しいと言われたらもしかしたら書くかも。

それからハゲは完結に伴いフリー素材と化しましたので、ハゲを使いたい方が居ましたら使ってやってください。この作品の名前か自分の名前を出してくだされば使っちゃって大丈夫です。

それと、ハーメルンさんの新機能としてここすき、という文章をダブルクリックしてから表示されるボタンを押すだけでここの文章が好き、というのを作者に知らせる事ができる機能が付いたようなので、この部分が好き! というのがあったらやっていただけると個人的に凄く嬉しいです。

それでは次回は未定ではありますが、またお会いしましょう。
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