つまり、この話は途中の花結いの章などを経由した先にある最終回となります
この話こそが、ハナトハゲの最終回です
それでは、本作の大満開の章を……勇者たちの四年後を、どうぞ
いつまでも、ずっと続く平和な世界
結城友奈を始めとした勇者部、そして防人部隊たちの最後の戦いから四年。
勇者達は再び戦いに巻き込まれ……る事は無かった。
「いやー、それにしても結構遠くまで来たよねぇ。変身できた頃なら跳ね飛んで移動してたのに、バイクだとすっごい時間かかってなんか新鮮」
「それに加えて道が使えない所もあるから、迂回路探しに時間がかかってるって部分もあるわね」
友奈と美森の二人は、バイクに乗って四国……ではなく、本州を走っていた。
美森が運転し、友奈がその後ろに乗るバイクは二人が軽くサバイバル可能なほどの物資がバイク本体に括りつけられている他、サイドカーにも詰め込まれている。
このためだけにと言っても過言ではないが、免許を取ってから一年ちょっとしか経過していない美森にとって、中々ハードなバイク旅ではあるが、それでも二人は笑顔で自分たちの進む先を見ていた。
「さて、そろそろ道の確認をしなきゃいけないわね。友奈ちゃん、ついでに夏凛ちゃんへの定期通信をお願い」
「はーい。ちょっと待ってねー」
サイドカーからアンテナを取り出し、携帯の電波を使用可能にしたのち、夏凛へ向かって電話をかける。
本州の設備は色々と死んでいるため、仕方ないっちゃ仕方ないのだが、通話のために一々アンテナを立てなきゃいけないのは少し面倒でもあった。
電話をかけてすぐに夏凛はそれに出てくれた。
『もしもし友奈? そっちは順調?』
「もしもーし。うん、こっちは順調だよ。今、ちょっと道を確認しているところ」
『なるほどね、はいはい。若葉たちが作ってくれた最短ルートの地図も使い物にならない以上、道の確認も中々面倒そうね?』
「あはは。でも、こんな長旅したことないから楽しいよ?」
『ならよかったわ。あたしの方は船で待機だからちょっと退屈だけどネ』
「それは……わたしにはどうしようもないかなぁ」
『別に気にしなくてもいいわよ。長い休みって事にして漫画読んでるし。まぁ、そっちは調査頑張りなさいな』
「はーい」
友奈と美森が本州を旅している理由。それは本州に人が住めるのかどうか。本州にあった原発が問題を起こしていないか等々の様々な調査……その前哨戦とも言える物だった。
調査の本腰は再編成された防人部隊が行う手筈となっているのだが、友奈と美森はその前に本州が本当に無事がどうかをある程度確認し、ルートを確立するための調査であった。
どうしてそんな危険なことをわざわざ友奈と美森がしているか、というと。
『ある程度のマージンは確保されているとはいえ、注意しなさいよ? 精霊バリアは使えるとはいえ、勇者システムは園子からの許可がないと使えないんだから』
「分かってるよぉ。大丈夫、わたしだってもう大人なんだから」
『どうだか』
友奈と美森、そして夏凛を始めとしたかつての勇者たちは、未だに勇者システムを保持しているからだ。
西暦での戦いを乗り越えた友奈たち勇者は、その勇者システムを保持し続けることとなった。
しかし、勇者システムはいくら友奈たち善良な勇者たちが持っているとはいえ、それ一個で四国を滅ぼすことだって可能な力だ。故に、一つのロックがかけられた。
それが、園子からの承認。
大赦のトップとなった園子の権限による、ロック解除がなければ勇者たちは再びあの装束を身にまとう事はできない。ちなみに園子のロックは勇者部員全員と安芸先生、現上里家当主からの許可がないと解除できないというガッチガチのロックになっていたりする。
しかし、精霊バリアは使えるので、友奈と美森は何があろうと死ぬ事は無いし健康を外的要因で害されることもない。
故に、友奈と美森を始めとした勇者部員たちは、なんやかんやで危険があるかもしれない本州探索の前哨にぴったりだったのだ。
「にしても、結構遠くまで来たよねぇ……みんな、今頃何してるかな?」
『いつも通りよ、いつも通り。まぁ、大赦組が忙しそうだけどね』
「あー……わたし、あっちに行かなくてよかったって心底思ってるよ」
『まぁ、半大赦組みたいな感じだけどね』
友奈と通話先の夏凛は苦笑し、今も死にそうになっているであろう大赦組……というよりも前から若干過労死気味ではあったとある二人の事を頭に思い浮かべた。
****
「つ、疲れた~……この服、見た目の割に思いから大変だよ~……」
「んじゃ、次は上里家当主との会談の後に大赦の定例会議、重鎮たちとの幹部会議と今後の方針を決めるための会議と……」
「予定入れ過ぎだよミノさ~ん!!」
「これでも減らしてんだよ! アタシだってお前に付き合わされるんだから残業時間が面白いことになってんだからな!!?」
「わたしなんてそもそも残業って言う概念すら最近無くなってきたから泣き言の一つや二つ言いたいんよ~!!」
大赦……ではなく、丸亀城の天守閣。そこに作られた待機スペースでは、園子と銀が仲良く喧嘩する声が響いていた。
周りの大赦幹部たちはそれをガン無視。一度同情すればそのまま自分の残業時間がマッハなのを知っているがために、こういう時の園子様は無視する、というのが大赦職員間での暗黙の了解となっていた。
問題は山積みであり、更に問題が増えている昨今。既に大赦は今の人員で仕事を回していくことすらギリギリとなってしまったため、その皺寄せが園子と銀に降りかかってしまっている。まぁ、一部サボっている輩もいるので、そういった無礼者は後に園子様からの鉄槌が下る手筈になっているが……
「乃木さん、三ノ輪さん。そろそろ移動しないと間に合いませんよ?」
駄々をこねる園子と半ギレの銀の元に、先程まで共にマスコミの前に姿を現していた安芸先生がやってきた。
彼女たちの恩師である彼女は、今や立派な園子様の右腕だ。地位は上がったが残業時間も比例して増えていったのは、彼女にとって面白くないことであったり。
「安芸せんせ~!! もうわたし限界だよ~!!」
「はいはい。こういう時、彼がいてくれればいいサンドバッグになったかもしれないのに……まぁ、仕方ないわね」
最近よくかまされるようになった突撃まがいのハグを受け止め、ちょっと雑に頭をなでる。
昔はもっとしっかりしていたのにどうしてこうなったのか。恐らく普段しっかりしている時間が増えてしまったことによる弊害だろうか。
最も、彼女もこんなことをするのは安芸先生くらいなので、彼女も多めに見て園子の事は受け止めるようにしている。
銀とは小競り合いしながら背中合わせ。そして安芸先生には甘える。それが今の園子様だった。
「あいつ、仕事が忙しくなる直前にさっと抜けやがったからな……これならあんな許可するんじゃなかった……」
遠くを見ながらわなわなと震える銀。
園子と共に歩き、彼女を支えることを決めた銀は大赦内で言えばナンバー3とも言える立ち位置となっている。トップとナンバー2はもちろん乃木家と上里家なのだが、銀はかつて勇者を務めたという経歴と世界を救ったという功績、更に園子からの推薦と彼女の後押しがあり、無事大赦ナンバー3の地位を獲得した。
獲得したのだが……おまけとして付いてきた大量の仕事は、彼女の額に青筋を浮かべるには十分だった。
誰もなりたがらない、半分生贄みたいな地位で彼女は今日も頑張っている。
ちなみに最近あったハゲそうな事は、弟二人に先に恋人を作られたことだ。彼女の弟、鉄男と金太郎は二人とも現在彼女持ち。金だけはある姉にデート代をせびってはボコられている。
「もう一人人身御供がいれば絶対楽になったのに~!!」
「まぁ、彼は仕事の処理スピードに関してはあなたたち程ではありませんでしたし……彼は鷲尾さんと同じように堅実にやるタイプよ」
先代組はスピードと勢いの銀、万能型の園子、堅実なハゲ、堅実すぎて丁寧なレズの四人組なのである。
確かに園子の言う通り、もう一人生贄がいれば楽になる事は間違いないのだが、アレが居たら仕事がよっぽど早く片付くかと言われればノーだ。
むしろ、パティシエという職業なのに本業ではなく書類仕事をさせていた数か月前までが異常だったのだ。それを思い返してしまえば、文句を言う口もふさがり、代わりに園子のほっぺたが膨らんでいく。
幾つになってもやることなすことが可愛らしいのは、この宗主様のいい所の一つだろう。思わず安芸先生も口元が緩んでしまう。
「それじゃあ、上里家に行きましょうか。ほら、乃木さん。機嫌直して」
苦笑しながら可愛い教え子兼上司のほっぺたをこねくり回す。
安芸先生の立ち位置も、銀同様かなり上になった。ナンバーで言えば、4くらいに。そんな安芸先生の年齢もすでに面白いことに。そろそろ婚期を逃しそうだ。
果たしてこの三人が婚期を逃さず結婚できるときは来るのか。
まぁ、無理だろう。行き遅れ確定だ。
「むにゅ~! 今日は早く仕事終わらせて家でおさ」
「乃木さん?」
「け……じゃなくて………………タコパ! タコパするんよ!!」
「必至だな……じゃあ、アタシもちょっと気合い入れますか!」
実はまだ二十歳じゃない園子様が気合を入れて天守閣から出ていく。その後ろを追う銀。そんな二人を、後で説教かしら、と呟きながら追いかける安芸先生。
彼女たちが定時退社をできる日は果たして来るのか……! こうご期待。
なお、この日は無事定時を逃すくらい残業した模様。
****
場所は変わって、大赦直営の研究所。
そこでは、神樹様の亡骸からエネルギーを抽出し、少しでも今の生活を楽にするための研究が行われている。その研究所に風は属していた。
元々勉強は苦手ではない……むしろ優等生である彼女は、勇者という神に選ばれた少女という立場もあったため、もしかしたら神樹様の亡骸に関する研究をしたらいい事が起こるかも、という園子の直感と紹介と提案によって、研究者となっていた。
「……こっちの方はいい反応が出ていますね。そっちの方は?」
「いやー、あんまり。にしても、犬吠埼さんが関わる研究はどれもいい成果が出るね。何か秘訣でも?」
「あー……昔、大赦関連のお役目をしたことがあるんですよ。そのせいかも」
「神樹様に気に入られたとか? そういえばこの研究、女性の方がちょっとだけいい反応を出せたりするから、神樹様に気に入られた女の子ならいい反応を見せやすいとか、そういう関係があるのかもしれないね」
「いやいや、男性の方とどっこいどっこいですよ。今のメンツだと、いい反応が出せる女性が多いってだけで」
「そうだっけ? まぁ、なんにせよ、この調子なら従来より早く育つ作物とかを神樹様の亡骸から作れるかもね。そうすれば、今の物資が高騰し続ける世の中も変わるかもしれない」
「そのためにも私達が頑張らなきゃ、ですね」
この世界の神樹様は、化石燃料以外にも様々な物資を残してくれた。
しかし、残された食料はすでに底をつき、ライフラインは神樹様が残した化石燃料の他、様々な燃料で補えているが、食料に関してはこの四年で異常とも言える高騰を見せていた。
限られた土地で、限られた作物しか育てられない以上、仕方のない事ではあったが、それでもうまくやっていくしかない。そんな現実に一石を投じる研究をしているのが、風であった。
既に小麦に関しては、神樹様の亡骸を基に神の力を抽出し作成した神樹様印の小麦によって、四年前と変わらぬ物価を維持できている。うどん県民が本気を出した結果だ。
「それじゃあ次は……あっ!?」
今残っている研究を更に進めるために風が目の前の試験管に手を伸ばした時、ふと風の視界に時計が入ってきた。
その時間を確認し、風の顔色が若干青くなった。更に手首の腕時計を確認してみれば、室内の時計は一切間違うことなく正確な時間を刻んでいる事が確認できた。
そう、この時間は。
「す、すみません、アタシ、これから用事あるので!!」
「おっ、そういえば今日は早退すると言っていたね。気を付けて行くんだよ」
「すみませんお先に失礼しまーす!」
風が狭い研究室内を走っていく。途中、なにやら物にぶつかったが、まぁ彼女は結構頑丈なので心配することもないだろう。
白衣を着たまま走る風の目的地は、研究所から比較的近い場所だった。
そこに行く理由はただ一つ。
「えーっと……よし。皆さん、今日はわたしの路上ライブに来てもらってありがとうございます。最近は普通にライブしたりテレビに出させてもらったりもしてましたけど、こうやってギター持って立つと、なんだか初心に帰った気分になれますね」
マイクを片手に、大勢……というほど人はいないが、十数人の人の前でそんな事を語るのは、風が愛して愛してやまない彼女の妹、樹だった。
彼女は既に歌手としてデビューし、そこそこの時間が経った。
そんな彼女がデビュー当初よく行っていたのは、路上ライブだった。
とにかく最初は色んな人に歌を聞いてもらいたい。そんな思いから始めた路上ライブは、時折彼女が大きく予告もせずに突発的に行う気まぐれライブとしても若干有名になっていたり。
そんな彼女の突発的路上ライブに参加できたのは、今樹の前に立つ人たち十数人と、あらかじめ妹から全てを聞いていた風だけだった。
「今日この日まで、本当に色々とありました。まさかわたしも、生きているうちに神樹様が消えて、世の中が結構大変なことになるなんて思ってもいませんでした。ですけど、きっと頑張ればなんとかなります」
どこか大雑把な彼女の言葉に、路上ライブに集まった人たちに笑顔が生まれる。
「それじゃあ、あまり話していても寒いだけだと思うので……聞いてください。『地平線の向こうへ』」
樹自身が奏でるギターに合わせ、彼女の歌が響く。
知らない人たちの前で、立派に歌う彼女の姿を見て、風は思わず笑顔を漏らす。
そんな風の笑顔と同じように、集まった人たちの表情も自然と笑顔になっていくのであった。
****
防人部隊。
かつて、使い捨てとすら言える扱いをされていた量産型勇者部隊。そんな彼女たちは戦いを重ねる中で友情を育み、いつしか本当の勇者と謙遜無い存在となっていた。
そんな彼女たちは、全ての戦いが終わった今、かつての戦いを繰り広げた仲間達と共に再び召集された。
その理由は、ただ一つ。
「まさかわたし達がまた集められて、壁外調査に駆り出されるなんてね」
「年に数回集まって皆さんでバカ騒ぎするのが精一杯かと思っておりましたが……今度は全員呼び出されるのは、意外でしたわね」
「これ、もしかして、あややとしずくは知ってたり……?」
「あはは……まぁ、園子さんもよくウチに来てこの計画漏らしてましたから、それなりには」
「乃木も自分が自由に動かせる私設部隊を欲しがってたし、わたしもなんやかんやで職探してたし……」
「扱いとしては公務員みたいな感じだしねぇ。将来安泰だよ~」
「わたしもなんやかんやで元の大赦所属に戻った感じですね~」
その理由は、壁外調査だ。
現在友奈と美森が先んじて行っているそれの後詰めを行うのが、芽吹を始めとしたかつて防人として戦った少女たちの役目だった。
防人たちの新たな扱いとしては、園子の私設部隊のようなものだ。園子が自分の権力一つで動かせる、完全な私設部隊。それに壁外調査の役割を被せ、防人という部隊名を与えたのが今の防人だった。
もちろん、今の防人たちがかつての防人たちであることは他の大赦職員は分かっているし、彼女たちも勇者という称号を得た四国を守るための戦いに準じた少女たちであるがために、そんな彼女たちを園子が囲うのは誰も文句を言わなかった。
「さて、じゃあ今日は移動用ワゴンに大赦のマークだけ塗って、今度の壁外調査のルート確認するわよ。弥勒さん、過去から送ってもらったデータ、ちゃんと印刷してあるわよね?」
「もちろんですわ。球子さん達が送ってくださったデータは印刷して保管済みですわ」
「流石。よし、じゃあさっさと今日の仕事終わらせて今日は早く上がっちゃうわよ!」
『おー!』
「……一応、定時までは残らないといけないんだけどね」
「まぁ、園子さんも今後大変な仕事を振るからちょっとくらいの我儘は許してくれてますから」
「雇い主があまりにも寛大すぎる」
芽吹と夕海子と雀が率先して仕事にかかり、しずくと亜耶もそれに続いて自分の仕事に入る。
防人たちは自分たちの雇い主とも言える園子様が仕事に殺されそうになっているのを知る由もなく、自分たちの仕事を定時前に終わらせて自由時間に入るのであった。
****
防人たちの持つデータは、過去……つまり西暦の時代から送られてきた極秘データだ。
かつて未来からの勇者たちと共に共闘し、今もなお交流がある西暦勇者たち。彼女たちの人生も、四年という歳月が流れ変化していた。
「今日も平和ですねぇ、若葉ちゃん」
「そうだなぁ、ひなた」
西暦勇者のリーダーである若葉と、大赦内の巫女の中ではトップに近い立ち位置を持っていたひなた。
西暦勇者たちを引っ張ったこの二人は、あの死闘を潜り抜け、平和になった世界でどっぷりと日常に浸り、そのまま腑抜けていた。
既に若葉の剣技は全盛期と比べれば少し衰え、ひなたも勇者達の参謀的地位を務められるほどの頭の回転は鳴りを潜めていた。
世界を救うという偉業を成し遂げた勇者たちに与えられた報酬は大きかった。それ故に、若葉とひなたは既にちょっとした山奥に二人で住むのにはちょっとだけ大きい日本庭園風の屋敷を作ってもらい、そこで毎日ぬくぬくと生活していた。
ひなたが淹れたお茶と若葉が買ってきたお茶菓子。それが奏でる最高の日常。
暖かい日差しがさんさんと降り注ぐ縁側で、神世紀に繋がる歴史では未来に希望を残すため自分たちの平和をかなぐり捨て戦い続けた彼女たちは今日ものんびりほんわかしていた。
「しっかし、こうも平和な日々を暮らすことになるとはなぁ。バーテックスと戦っている頃は予想だにしていなかった」
「あの頃はいつ命を懸けた戦いに繰り出されるかって感じでしたからねぇ。ですが、若葉ちゃんがこうやってわたしと一緒にのんびりしてくれるようになったのも、全部千景さんのおかげと思うと、わたしとしては千景さんにはお礼を言っても言い尽くせないですねぇ」
「あいつのせいでわたしはこうやってニートを満喫することを楽しむ女になってしまった。ついでに、時折諏訪旅行と沖縄旅行に行くのも最高だ」
「若葉ちゃんは人気ですから、どこに行っても歓迎されてますよねぇ」
知能が溶けかけている二人は青空を見上げて今日もお茶を一口すする。
この光景を神世紀に霊となって人々を見守り続けた若葉が見たら、何と言ったか。もしかしたら自己鍛錬くらいはしろ、と怒るかもしれない。
しかし、それはもう絶対に起こらないこと。若葉とひなたは自分たちが勝ち取った、のんびりと生きるという人生を、今日も、明日も、何年後も、何十年後も、ずっと続けていくのである。
****
千景にとってゲームとは趣味であり、人生のようなものであった。
彼女が自信をもって打ち込んだと言えることは、恐らくゲームと勇者としての戦い。この二つ程度な物だろう。
しかし、後者のお蔭で千景はヒキニートしながらゲーマーするという生活を許されている。
ただ、ずっとヒキニートしていると流石に健康に悪いので、時折若葉の所に遊びに行ったり諏訪に遊びに行ったり球子の旅について行ったりと色々しているが。
そんな彼女だったが、今日の彼女は。
「高嶋さんって普段何しているのか謎だったけど、ボランティアなんてしてたのね」
「あはは。意外だった?」
「いえ。高嶋さん、時折勇者部の活動に混ざってボランティアしてたじゃない。まさか保育園で講演会みたいなものもしているとは思わなかったけど」
高嶋について行き、保育園のボランティアをしていた。
高嶋いるところに千景在り……とは言えないが、今日は偶々高嶋に暇かと聞いたら保育園でボランティアと返ってきたので、それに付き合うことにしたのだ。
そして肝心の高嶋だが、今は……特にこれといった事はしていなかった。
ボランティアがあったらそれにふらふら参加し、諏訪や沖縄、北海道の復興に人手が必要なら最近色んな意味できつくなってきた勇者装束を身に纏って重機役として参加し、近所のおばさんが営むお店の人手が足りなければ臨時の店員をやる。
ある意味では一番自由な生き方をしているのが高嶋だった。故に、実は身内で一番普段何をしているのかが不明な仲間という評価になっていたり。
「偶に保育園の先生から勇者の事について子供たちに話してほしいって言われるんだよね。でも、ぐんちゃんまで付き合う必要はないんだよ?」
「いえ、保育園でお話するのは経験あるもの。それに、子供たちも勇者が二人いれば喜ぶかもしれないし」
「そうだねぇ。まっ、今保育園に通ってる子ってバーテックスの事なんて覚えてない子ばかりだけどね」
「…………そう、よねぇ。そっかぁ……バーテックスを見たことない世代の子が育ってきているのね……月日の流れが速すぎて普通に吐きそう」
月日の流れを感じて千景が遠い目をする。高嶋も思うところがあるのか、遠い目をした。
「そもそも勇者ってなぁにって子が多いんだよね……大社が映像記録を撮っててくれてよかったよ。おかげですごーい、かっこいーって言ってくれてる子多いし」
世代の移り変わりって、怖い。
「……その内、勇者の事なんて特に知らない人たちが私の事を昔の威光に縋りつくヒキニートとか馬鹿にするんでしょうね……笑えない……」
「わたしもその内、定職に就かない頭あっぱらぱーとかに思われるんだろなぁ……」
『……はぁ』
果たして過去の威光に縋りつけるのはいつまでか。
確実にヒキニートやら定職に就かない残念女やら言われる未来を想像して、高嶋と千景は溜め息を吐いた。
しかし、だとしても。
これは自分たちが命懸けで勝ち取った未来だ。誰にも邪魔なんてさせない。例え笑われたって自分たちなら逆に笑い飛ばせる。
そんな事を確信して、二人で顔を合わせて笑いあって、保育園側で用意された壇上に立つ。
「えーっと、わたしの事知ってるかな? わたしはみんなが産まれた頃に勇者っていうお役目で戦っていた高嶋友奈って言います!」
「同じく、勇者をしていた郡千景よ。勿論、私達の事は知ってるわよね?」
『しらなーい!』
『……時って残酷だぁ』
笑い飛ばせるかもしれないが……こうも無垢な視線と無垢な声を向けられると流石にグサッと来る高嶋と千景なのであった。
****
球子の趣味はアウトドア系全般。勇者時代からずっと元気っ子であり、戦いが終わった今もそれはずっと続いている。
そんな彼女を慕っている杏は本の虫であり、その本の虫っぷりは彼女が現在住んでいる場所にも関連していた。
「……しっかし、こんな広い図書館を杏が好き勝手してるって思うと、なんかすごいよなぁ」
「好き勝手はしてないよぉ。あんまり人の手を離れると本もボロボロになっちゃうから、わたしが文化保護の観点から国立図書館を保護してるんだよ」
「でも杏、保護って名目でここに住み着いてるだろ? 正直、今滅茶苦茶生きるの楽しいだろ」
「もう馬鹿みたいに楽しいですね。生きる天国とはこのことですよ」
杏は文化保護のため。そして国立図書館の管理のために、未だ人が住まない東京の国立図書館に一人居を構え、そこで生活をしていた。
国立図書館と杏の住処へのライフラインは最優先に引かれ、彼女は十分に人並みの生活を送れていた。
もちろん、数年内には東京の復興作業も開始され、徐々に人も移り住み始める予定となっているので、杏が一人なのはもう暫くの間だけだ。
「だろうな。ってかこれ、杏が生きている間に読み切れんの?」
「無理でしょうねぇ。でも、それでいいんですよ。所詮、人が生きている中で得られる知識、読める本なんてたかが知れてるんですから」
「ほーん。タマとしては自分の目で見て聞く方がいいから、ちょっと分かんねぇや」
「まぁ、そこは人それぞれですよね。それでタマっち先輩は今回はどこに行ってきたんですか?」
「今回は棗ン所行って絶景スポット回ってきた。やっぱ沖縄は綺麗だったぞ!」
そう言いながら、球子は自分のカバンからカメラを取り出し、撮ってきた写真を杏に見せる。
写真で見せれるのは、球子が歩いた旅路のほんの一部。球子が実際に沖縄の地を歩き、その目で見て感動した光景は写真で撮れた物の何倍もあった。
それを軽く興奮して伝える球子の語りは、杏にとって人生の楽しみの一つでもある。
やっぱりその内、自分の健康のためにも球子について行って実際に素敵な光景を目に収めるのもいいかもしれない。
そしてある程度話し終えた球子は、何かを思い出したのか、鞄の中から今度はノートパソコンを取り出した。
「パソコン? ……あっ、神世紀に送る資料?」
「そうそう。タマがそこら辺は一任されているからな。あっちも復興に手を付け始めるらしいし、ここは先輩であるタマ達が神世紀を手助けしないといけないからな」
「わたし達は命どころか世界を助けてもらいましたからね。これぐらいの恩返しはしないと罰が当たりそうですし」
「まぁ、タマとしてはあんずに手伝ってもらえると、ちょーっと楽になるんだけどなぁ」
「はいはい、分かったよタマっち先輩。資料つくり手伝ってあげる」
「流石はあん」
「代わりに一回抱かせて?」
「寄るなロリコン」
「あふん」
なんやかんやでこの二人はいい先輩後輩コンビとして、これからも末永い付き合いを続けていくのであった。
****
西暦の神樹様と土地神様、更にカムイと海の神は実はまだその姿を見ることができる。
かつて天の神との戦いの中でその力を大きく減らした、神樹様の中の神様を始めとする八百万の神々ではあるが、決着が迅速についたことから、その力にはある程度の余裕があった。
恐らく、時間にして後百年近くは顕現し続け、人々に恵みと称したライフラインや食料を供給することが可能だろう。ここまで余裕ができた理由は先程の通り、迅速な決着が上げられるが、もう一つに土地神様、カムイ、海の神が合流した事。それに加えて、壁を作る必要がなくなった事も挙げられる。
神々が力を合わせ、その力はさらに増えた。それに加えて壁を張り続ける必要もなくなったため、その力を人々のライフラインと食料などに使うくらいしか用途が無くなったため、力を回復しつつ使っていけば、神樹様達は百年……もしかしたらそれ以上の権限が可能となったのだ。
その恩恵を受けるのは、四国だけではない。
「うたのーん。これ、土地神様の恵みで出してもらった野菜の種。なんだかクシナダ印? のお野菜らしいよ?」
「あら、ニューフェイスの野菜ね。これは育てるのが楽しみだわ! ところで、クシナダ印って?」
「さぁ……クシナダヒメの事かな……?」
「どんな神様がいるのか分からないから、詳細がアンノウンなのがために傷よね……でも、土地神様のタネに外れ無し! 美味しい野菜育てるわよ!」
「うん!」
諏訪。
かつての総攻撃で破棄せざるを得なかったこの土地も、歌野と水都、二人の勇者と巫女が中心となることでかつての賑わいを取り戻す……まではできていないが、土地神様の力を借りれば自給自足の生活が可能となるほど、豊かさを取り戻していた。
二人はかつての希望通り、戦いが終わってから暫く経ったのち、超特急で高校で習う事を短期間で習いつくし、どこからか学んできた本格的な農業のやり方を使って諏訪の再開発に着手した。
高卒認定を行った二人を見た一部の大社上層部は、まるで数年分の勉強を一瞬でしてきたようだ、と思ったそうだが、そんな事ができるわけもない。そう、多分。きっと。
そんな二人が先んじて諏訪に戻り、そして暫く経った頃。
彼女らに頼もしい援軍がやってきたのだ。
「おーい、こっちの畑も使えるからこっちに植えてもいいぞ~!!」
「こっちも大丈夫よ~!」
「ところでこっちの野菜、配給所に持っていっていいか?」
「ちょっと待って。まだここにいる人たちの分が分けれてないから。そっちの野菜は持って行っちゃって」
「おっと、ごめんごめん。じゃ、こっちのやつ持ってくな」
「誰かトラクターの修理手伝ってくれねぇか!? なんか煙吐いたんだけど!?」
「いや、どんな使い方したんだよ!? お前のトラクター使えないとみんなが困るから超特急で直すぞ!」
「なーんか周りがカオスになってるね、うたのん」
「まぁまぁ。これぐらい騒がしいほうが楽しいでしょ?」
「そうね。とりあえずこの種はあっちの畑に植えましょうか」
その援軍とは、かつて諏訪に住んでいた子供たち……あの日、大人たちの背中を見送り、生き残るという己の戦いを戦い抜いた者達であった。
その中でも、十八歳以上の元諏訪の子供たちが、様々なことを勉強して諏訪開発を行う歌野と水都の元へと参戦したのだ。
中には農業を習ったものが居た。中には畜産を習ったものが居た。中には重機について習ったものが居た。中には建築を習ったものが居た。
そうして、後々の諏訪のために専門的な事や様々なことを学び、帰ってきた諏訪の子供たちが歌野と水都を中心に今の諏訪をかつて、大人たちと共に大変だと思いながらも笑顔で生きてきた諏訪に戻し、その先へと行くために知識という力を使っている。
「こうして植えた種が芽吹くころには、諏訪の畑はどれだけ大きくなってるのかしら」
「その内、辺り一面畑になりそうだよね。というかもうなりかけてるよね……」
「そしてわたしが農業王となり、ここ、諏訪に農業王国をビルドするのよ!」
「まぁ、既にそうなりかけてるけどね。戻ってきた人たち、八割以上が農業と畜産の事習って帰ってきたもんね……」
「インフラはその内ここまで足を延ばすであろう大社がどうにかするわ! それまでは土地神様のありがいパワーでどうにかして、辺り一帯を畑に! そう、諏訪こそが神と人が手を結ぶ国となるのよ!!」
「凄い土地神様頼み過ぎる国だねそれ」
農業王の力はすさまじい。だって、現在諏訪に住んでいる者達が全く困らない程の野菜を生産する広大な畑を、ほぼ歌野と水都の二人で作ってしまったのだから。増産している畑は四国と沖縄、北海道への輸出用である。
「その内お米も作らないとね。で、その次は小麦よ!」
「あはは……でも、こうやってみんなで一から作っていくのって、楽しいね」
「えぇ! わたし、今がすっごい、すっごい、すーっごい楽しいわ!!」
歌野の笑顔に、思わず水都も笑顔になる。
まだまだこの先には困難が付きまとうであろうが、それでも二人は笑顔のまま開拓を続けるだろう。それが、農業王なのだから。
笑いあう二人の後ろには、諏訪の民のソウルフードである蕎麦の原料、四国に優先して輸出して着々とファンを増やしている歌野と水都印のソバの実が風に揺れているのであった。
二人のうどん派NTR計画は、水面下で進行中なのであったとさ。
****
日本の国の中で、本州とは海で分かたれた地がある。
代表的なのは、四国と北海道であろうか。
だが、その中にはもちろん沖縄も入っている。
そんな沖縄も、今、一人の勇者と様々な人たちの手で復興が進んでいた。
「ふぅ……この家はこんなものか。しかし、ライフラインの確保に食料の自給自足……歌野からある程度学んでは来たが、やはりやる事も学ぶこともまだまだ多いな」
沖縄出身の勇者、棗はかつて四国へと避難した沖縄の民の中から、復興に力を貸してくれる者達と共に沖縄の地へと再び降り立っていた。
復興に力を貸してくれたのは、四国へと避難した沖縄の民の内、なんと八割近くの者達が該当した。残りの二割の者は、四国で家族ができたり、やりたいことができたり……そういった、やむを得ない事情を持つ者達は四国へと残った。
しかし、それも仕方ない事。棗を始めとした沖縄復興委員会は四年前に破棄された沖縄の中で使えそうな物をかき集め、海の神から最低限の供給を受けた状態で何とか生活の基盤を築いた。
「やる事なんて考えたらキリがないよ~。いやー、にしても沖縄の暑さには慣れないねぇ」
「この暑さも、沖縄の魅力だぞ、雪花。ところで今回はどれくらいの日数滞在する予定なんだ?」
「んー、あと一週間くらい? 日本は北から南へ、更には過去から未来へ行ったり来たりする大社の犬も、実は結構暇でしてなぁ」
「だが、雪花のおかげで大社との連携も問題なくできている。いつも助かっているぞ」
「にゃはは。まっ、お礼は素直に受け取っておきましょうかね」
そして、北海道の勇者、雪花はこの日、沖縄に来ていた。
彼女は北海道に戻り、復興を手伝う……という事はしなかった。彼女はどこかに留まって復興を先導するよりも、大社の指示で北から南へ行ったり来たりといった、復興を先導する者達の連絡係として動いていた。
球子の作った資料を未来に住む園子の元へと届けるのも、雪花の仕事だ。
当初はそんな仕事よりももっと他の事を、と言われたが、これは彼女が望んだことだった。
雪花自身、あまり表立って動くよりも裏方で動く方が好きであり、復興の先導をするのもキャラが違う。更に若葉たちのようにニートするのも落ち着かないという事で、自ら裏方を引き受けたのだ。
こんな勇者が一人は居たっていいだろうと。
その結果、北海道、沖縄、諏訪、四国は電話が繋がらず、通信機が繋がらなくてもしっかりと連絡が取りあえている。
「まぁ、あんなドデカい船を家代わりにしながら全国旅できるしね。こうしてお礼も言われるなんて、ほんと役得だよ」
その理由の一つとして、彼女が大赦から与えられた一つの装備が起因している。
それこそが、本来は防人部隊に与えられるはずが、間に合わずにお蔵入りとなった船の事だ。
この船、驚くことに空を飛ぶ。満開と強化装束の技術を流用した、十人程度は乗れる船なのだが、それが空を飛び、飛行機程とは言わないが十分な速度で移動できる。
雪花は現在、本来船室がなかったそれに船室を作り、そこに私物などを置き自分の第二の家にしてあっちに行ったりこっちに行ったりとおつかいをしている。
自分の家はもちろん四国にあるが、最近は棗の復興の手伝いもするためそこそこの頻度で滞在している沖縄に居を構えてしまおうかと思っていたりいなかったり。
「役得でも、そんな事を率先してできるのは雪花のいい所でもある。誇っていいんだぞ」
「いやー、棗さんにそう言われるとなんか胸がくすぐったくなりますわ」
「そうか? まぁ、今回は一週間滞在するのだろう? 思う存分羽を伸ばしてくれ。海で遊ぶのもいいかもしれないな」
「棗さんが行くんならお供しますよ」
「そうか……なら、今日の仕事はサクッと終わらせて、一緒に遊ぶか」
「さっすがなっちぃ! 話分かるぅ! んじゃ、あたしも全力で仕事終わらせますかね!」
「遊ぶんなら、連れていきたい場所があるからな。今日はへとへとになるまで海を楽しませてやる」
「上等!」
北海道と沖縄の勇者。本来、他の勇者たちと交流を持つことなく、戦い、死んでいった二人の勇者は今日も沖縄の青い空の下、未来のために一歩を踏み出す。
過去も未来も、それぞれが明日へと向かって……人の意志で、世界を進めていくのだ。
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神世紀。園子様が住んでいると噂のアパートの近く。
そこには、真新しい喫茶店があった。
OPENと書かれた札が吊るされているドアを開くと、この店のたった一人の従業員にして店主が顔を見せた。
「いらっしゃいませ……って、珍しいな、こんな時間から。まぁ、今日はお客も少ないし話しながら仕事する分にはちょうどいいな。ほら、そこに座ってくれ」
店の中は清潔感に溢れており、所々に高級そうな装飾がつけられている。
ふと壁の方を見れば、店主である彼が歌手である樹と映っている写真や、大赦の新たな宗主である園子と映っている写真。ハーレムかと言いたくなるくらいの女所帯の中に映っている写真が飾られていた。
店の中で流れている曲をよく聞いてみれば、これまた樹の曲である。特撮オタである彼が珍しいものであった。
「ほら、お冷とメニュー。今日は新鮮な果物を仕入れてきたから、季節の果物のフルーツパフェなんかがお勧めだぞ。あの園子様だって笑顔になるほどの逸品だ」
流石は宗主様に腕を買われたパティシエである。
それと紅茶を頼んでみれば、彼は笑顔で頷いた。
「注文承りました……ってね」
彼が厨房の奥へと消えていく。
この店は本業としての仕事よりも書類仕事を任せることが多くなってしまった彼が、このまま腕を鈍らせるくらいなら店を持ちたいとのことで、ローンを組んで作った店なのだという。
その店名は『喫茶シャルモン・ブラーボ』。彼が尊敬するパティシエにちなんだ名前らしい。
そんな事を考えていれば、曲が切り替わる。この曲は、確か彼が好きな仮面ライダーの曲だ。案外喫茶店で流れていても、あまり音量が大きくなければおしゃれに感じる。
「お待たせしました。こちら、季節の果物のフルーツパフェになります。そしてこちら、紅茶になります。お砂糖、ミルク、ジャムはご自由にどうぞ」
彼の接客態度は、まるでプロと言わんばかりのそれだ。
「はは。そりゃ、高校の頃師匠にしごかれたからな。あの頃は厳しかったぜ? 少しでも未熟な点があったら裏で説教だ。でも、ただ りつけるだけじゃなくて何がいけなかったのかとか、どうしたらいいとかのアドバイスとか、しっかりした上での説教だからな。おかげで接客態度もこの通りさ」
彼は高校三年間、近所の高級な喫茶店でアルバイト……というよりも弟子入りをしていた。
そこで彼は接客態度から菓子の作り方、紅茶、コーヒーの淹れ方など、様々なことを詰め込まれた。普通のアルバイトにはそこまで厳しくしないのだが、園子様に仕えるから、と言うとそれはそれは鬼のように厳しくなった、とは彼の談だ。
だが、そのおかげか彼の接客態度も、出てくるお手頃価格のスイーツや紅茶、コーヒーは間違って高級店に入ってしまったのかと思うほどだ。確かにこれを書類仕事で使い潰すのは勿体ない。
「……そろそろかな。すまんが、俺はこの後の団体客を迎える準備があるから、そのままゆっくりしていてくれ」
彼は腕時計で時間を確認するとそういって店の奥に消えていった。
そうなれば、後は彼の作ったパフェと紅茶を楽しむだけ。
時間をかけてゆっくりとそれを味わいつくし、立ち上がれば彼もそれに気づいてレジに立った。
「美味かったか?」
聞かれ、頷けば彼は満足げな笑顔を浮かべた。
「よかった、ならお会計はこんだけだ。現金でいいか? おっと、カードか。んじゃ、カードを預かります。ではカードお返しします」
クレジットカードを受け取り、店を出る。
「またのお越しをお待ちしています。じゃっ、元気でな」
彼の声を背に、清々しい気持ちで店から離れる。
すると。
「いやー、ギリギリで間に合ったよ~。東郷さん、途中凄い飛ばしてたよね」
「そりゃ、せっかくみんなで集まれるんですもの。飛ばせるんなら飛ばすわ」
「その気持ちは分かるけど、ちゃんと無事故は徹底するのよ?」
「夏凛、これがそんなへまするわけないじゃない。友奈が後ろに乗ってんのよ?」
「確かに言えてるけども……まぁ、東郷さんなら事故っても友奈さんを庇いながら無傷で生還しそうですよね」
そんな事を話しながらどこかへと向かう、服装がちぐはぐな五人組とすれ違った。
そのすぐ後に。
「わっしぃぃぃぃぃぃ!!」
「わっ、そのっち!? どうしてそんな仰々しい服装なの!?」
「ンなもん、さっきまで昨日の仕事してたに決まってんだろ……太陽がまぶしい……」
「えぇ……」
なんかテレビで見たことある気がする二人が走ってきた。
更に。
「こうしてあいつのスイーツ食べるのも久しぶりね。ところで、全員で行っても大丈夫なのかしら? 普通にあいつ、パンクしそうだけど」
「作り置きがあるのではないでしょうか? まぁ、いざとなったらこの弥勒家公認の持参の新鮮なカツオを!」
「うげっ、なんか生臭いと思ったらカツオ一匹持ってきたのぉ!?」
「弥勒家公認って……ただ買ってきただけでしょ……」
「あはは……ま、まぁ、美味しそうですから……」
なんかカツオを抱えた残念美人と、それに対して呆れた表情を浮かべる四人組とすれ違った。
なんだったんだろうか、あのカツオ。
「いやー、ずっと家にいるといかんな。曜日感覚がなくなる」
「カレンダー見ても今日が何日か分からないんですよね~」
「その気持ち、すっごい分かります。わたしもタマっち先輩が呼びに来なかったら今頃図書館ですよ」
「気持ちは分からんでもないけどな……タマには日付確認しろよ……」
「あははは……にしても、こっちに来てハゲ丸くんのお菓子食べれるなんて久しぶりだね」
「そうね。しかも、みんなで藤にぃの所に集まるなんてそうそうないものね」
「確かにそうですが……わたしも一緒に来てよろしかったのでしょうか? 仕事が残ってた分、罪悪感が……」
「そんな事気にしないの、花本ちゃん!! 折角のお休みだし、美味しいもん食べて騒がないと!!」
今度はなんか教科書で見たことあるような気がしないでもないような、した気がするような、というかさっき同じ顔見たような気がする女性たちがわらわらとシャルモン・ブラーボへと向かっていた。
「いやー……久しぶりに畑のない所に来ると違和感がスーパーね」
「四国に来るとき以外はずっと畑だからね」
「わたしも、海がないとなんかこう……発作が」
「発作て。まぁ、今日は久々にみんなで集まってお菓子食べてワイワイしましょうって日だし、発作なんて起こしてたら勿体ない勿体ない!」
そして今すれ違ったやけに農家っぽい服装の人と海の匂いがする人達はなんだったんだろうか。
気にしないようにして帰り道を歩くが……
『いらっしゃいま……って全員で来たのか!?!』
『みんなちょうどこの時間帯に到着したみたい!』
『お菓子寄こせズラっち~!!』
『うわっ、せめて着替えてから来いよ園子ォ!! ったく、お前ら一旦座れ!! 今日は無礼講で特別に酒だって用意してんだからな!! 飲みたい奴は飲め! 帰りたくない奴は二階に布団敷いてるからそこで寝ろ!!』
『よぉし! 勇者部一同! 今日は楽しみつくすわよ~!!』
『『おーっ!!』』
喫茶店の方から凄いにぎやかな声が聞こえてきた。
喫茶店なのにあんなにはしゃいで大丈夫かと思ったが……あれが、彼の仲間だ。
きっと、彼はあんな感じで彼女たちにこれからも、ずっと振り回されていくのだろう。
大人になっても、まだやべー奴ら感がする彼の部活仲間達に苦笑しながら空を見上げれば、綺麗な青空が広がっている。
そこを六色の光がふわふわと飛んでいき、喫茶店の方に行った気がしたが……多分気のせいだろう。
神樹様の消えた世界はどこか不安定な気もするが……それでも明日はきっといつもと変わらない日常が繰り返されるのだろう。
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そうして、世界は続いて行く。
誰かが守った、退屈で素晴らしい日常が続いて行く、神の信じた世界が――
という事で、本作は途中、どんな話が挟まろうとこの話が最終話となります。
今までは完結状態で続きをだらだらと続けていましたが、この話こそがハナトハゲという作品の最終回です。
これにて、本当にハナトハゲのストーリーの本編は以上となります。
今後も後日譚的な話として花結いの章の話を投稿していくと思いますが、その話も投稿してから一週間ほどで、この最終話の前に移動させます。この話が最終話なのですから、この話が最後に来るようにし続けます。
本作を完結させたときのあれこれは、乃木若葉の章完結時に色々と語っているので、ここでは多くを語りません。
それでは、さようなら。どこかでまた、お会いできたらお会いしましょう。