「バーテックスの生き残りが確認されたわ。だから、みんなにこの端末が返される事になった」
海へ行ってから夏休みに入り、それからも勇者部の活動は続き面々は部室へと集まっていた。
そんな中、風が唐突にトランクケースを取りだしその中身を見せてから、告げた。バーテックスの生き残り。十二星座をモチーフとしたバーテックス達がすべて倒されたのにも関わらず返ってきた勇者システムを積んだ端末は、まだ大赦が、神樹様が戦いを望んでいる証だった。
風の視線に、全員がそれぞれの端末を手にする。風は既に自分の端末を取っておいたようで、五つあった端末は五人の手が伸びた時点でトランクケースから勇者部達の手に収まり、トランクケースは閉じられ風が適当に放り投げた。そのまま空いている窓から地面に落ちていき、なんかトンでもない音が聞こえてきて喧騒が聞こえてきた。風が顔を青くして勇者部の面々がそっとそっぽを向く。
「……ねぇ、どうしよ」
『勇者部五箇条一つ、成せば大抵何とかなる。勇者部五箇条一つ、なるべく諦めない』
樹の端末から棒読みボイスが流れる。この額を流れる汗はこの蒸すような暑さだけではないだろう。現に風は今暑さよりも寒気を感じている。
そんな風と、姉に構う樹を放って二年生カルテットが顔を見合わせ会話を続ける。
「別に今さらバーテックスの一体や二体、楽勝よね」
「あの獅子座みたいなのが出てこなきゃ数の暴力で潰してやるよ」
「ホント、一体二体なんて今さらだものね」
「勇者部五人の力、見せつけよう!」
「待って友奈。サラッとアタシをハブらないで。ここで先生に引きずられてリタイアとかじゃないから。ねぇ、聞いて」
どうやらなるべく諦めないという五箇条はもう諦められたようだ。
風はいい先輩だった。しかし、学校にとってはいい三年生ではなかったのだろう。顔を青くして震える風はもう居ないものとして捉えられているらしい。確かに、ここで変に関わって罪を擦り付けられたりでもしたら風に本気で殺意を抱くだろう。
誰も相手してくれない寂しさと、これから恐らく説教される恐怖に風がガタガタと震える。そして、最後の頼みである樹へ視線を向けると、樹までそっと視線を逸らし口笛を吹いた。声は出なくても口笛はできる。それを体現した樹ではあったが、風にとってその口笛は死刑宣告と同じようなものだった。
そして、勇者部の部室の扉が少し乱暴に開けられる。
「勇者部の皆さん。先ほどトランクケースを投げた方は誰ですか?」
全員が風を指さした。
「あ、ちょ、これはその、違くて!! 色々と不幸な事故が重なった結果でしてお願いだから話を聞いて助けてみんなこっち向けよ薄情者共ぉぉぉぉぉぉ!!」
そして風が部室から消えた。
きっと帰ってくるのはこれから一時間後とかだろう。それに、風も教師陣の中では悪い生徒としては広まっていないしお役目の事もあるので、あのトランクは事故だと風が言えばそれで軽い説教で終わることだろう。南無、と全員が合掌し、さて、と美森が口を開いた。
「じゃあ今日やることを確認しましょうか。ハゲはかめやの手伝い。他は……あら? 全員ここで劇の準備ね」
「うげ、俺ソロかよ。まぁいいけど」
「ハゲ丸くんなら料理も上手いし大丈夫って風先輩は判断したんじゃないかな?」
「まぁ、一応それには同感ね。アンタ、妙に料理が上手いし」
「よせよ照れる。んじゃ、俺もう行くから、あとは女子陣で頑張ってくれや」
そう言うとハゲ丸がかめやの手伝いのために離席しそのまま学校の外へと歩いていった。そして教室に残ったのは二年生トリオと樹の四人。
今日やることは、本来風が先導して劇に使う背景だったり小道具だったりの作成だった。しかし、風がいないとそれも中々に進まない。こういう時にバーテックスが来たのなら樹海で風に何をするのか聞いてから彼女を再び説教部屋に叩き込んで作業再開するのだが、来てほしい時に来ないで来てほしくない時に来るのがバーテックスだ。とりあえず分かる範囲で作業してしまおうと全員が決め、そして各々が作業に手を付けようとした時だった。
ブツン。なんて音と共に部室を照らしていた電気、部室に涼しい風をもたらし夏の暑さと戦う元気をくれていた扇風機、そして美森が作業していたパソコンが急に息を引き取ったのは。
「ぎゃーーーーー!!? ちょ、これマジでヤバいやつじゃない!? バックアップも取ってないし最悪ご臨終案件よこれぇ!!?」
「ちょ、扇風機先輩が息引き取っちゃったよ!? 一気に暑くなってきたよ!?」
「ええい騒ぐな暑苦しい!! いいから復旧まで待つのよ!!」
『ヤベーイッ!! ヤベーイッ!! ヤベーイッ!!』
ちょっと奮発してデスクトップにしたのが災いした美森。扇風機先輩の急なご臨終に色んな汗が噴き出してきた友奈。とりあえずどうしようかと部室を見渡す夏凜。ヤベーイッ!! を連発する樹。もうてんやわんやである。しかし、そうこうしている間にも扇風機のご臨終によって部屋の中の気温は徐々に上がっていく。ついでに外から聞こえてくるセミの声が体感温度を一気に上げていく。
なんとか復旧作業に入りたい美森。扇風機をどうにかして動かそうとする友奈。実は内心結構焦っている夏凜と、もうどうしたらいいのか分からないのでとりあえず椅子を三つくらい並べて寝転がりネットサーフィンをする樹。
「いや寝んなよ」
そんな樹の腹に夏凜が持ってきたハゲ丸のクーラーボックスが置かれる。きっと声が出たのなら「ぐえぇ!?」と声を出したであろう樹を無視して夏凜はハゲ丸のクーラーボックスを勝手に開ける。
彼自身、もうジェラートは食べたかったら勝手に食べていいと言ってクーラーボックスを置いてあるのだ。だから、こういう時にジェラートを頂くことは何も間違っていないだろうと夏凜は中にジェラートがあるのを確認してから人数分配膳する。
「とりあえずこれでも食って待ちましょう。幸いにも大量にあることだし」
夏凜は自分の分ににぼしジェラート(サプリ配合)、樹にメロン味、友奈にバニラ味、美森にチョコミント味のジェラートを渡すと、そのままジェラートに口を付けた。
ジェラートの冷たさがいい感じに体の内の暑さを中和してなんとなくの涼を与えてくれる。
この暑さだとジェラートの有無ですら決定的な違いだ。友奈は凄まじいペースでジェラートを食べ、美森は泣きながらジェラートを食べ、夏凜は樹の腹を椅子にしてジェラートを食べ、樹は現在進行形で夏凜の下でもがいている。最近ちょっとぷにってきた樹の腹は座り心地がよかった。
「今はジェラートがあるからいいけど、無くなったら地獄よ。それまでにどうしたらいいのか決めましょう」
「えー……そんなこと言われても」
「私の組んだプログラムが……」
夏凜が現状の打開案の提案を求めるが、友奈は特に思いつかず、美森は自分の組んだプログラムが消えている未来を予見して泣き、樹は何か携帯の画面を見せつけている。
と、そうして現状の確認をした夏凜がようやく樹が何かを見せているのに気が付き、携帯の画面を見る。
そこにはネットのスレッドが映されており、スレッドのタイトルは『室内での部活中に停電起きて部屋の中サウナなんじゃが』と書かれており、一番最初のレスには樹の物なのであろう『誰か助けてクレメンスwwwww』と書かれていた。
その下を見てみると、案の中には『そこに美少女をぶち込みます』と書かれていたが、それに対する樹の返答は『リアルJCなんじゃが。ついでに先輩方全員美少女な』と。直後に証拠うpとか自撮りうpとか書かれていた。
これの何が、と夏凜は呆れた表情を向けるが、樹が画面を動かしてもう一度夏凜に携帯の画面を見せる。その画面を友奈も覗き見る。
そこに書いてあったのは『まず服を脱ぎます』という一文。
え? と夏凜と友奈の声が重なり、次に樹が予め入力しておいたのであろう音声を流した。
『つまり水着だったり体操服だったり、涼しい服に着替えればいいんですよ! この制服を脱いで!!』
「……あぁ、そういうこと!」
「そうだね、水着なら涼しいかもだし!!」
そう言うと友奈は急なプールの清掃などがあった際に使うためにもってきておいたスクール水着を取り出した。制服と水着。どっちが着ていて涼しいかと言われれば水着だ。
それを頭で理解した勇者部はすぐにスクール水着へと着替えた。
「あ、これならまだ何とかなりそう……」
「プールでもないのに水着って、なんだか新鮮だね、東郷さん!!」
「そうね、普通室内で水着なんて……って、なんで夏凜ちゃんと樹ちゃんはこっち見てくるのかしら?」
「……いえなにも」
『ウルトラダイナマイト』
水着に着替えた一同はジェラート片手に涼をとっていた。約二名の視線が美森のとある部位に注がれていたが、当の本人はそれに気が付いていないようだった。
夏凜と樹はお互いに顔を見合わせ、そしてもう一度美森のとある部位を凝視する。
デカい。説明不要。その二言で彼女のそれは説明できてしまう。本当に中学二年生なのかと問い詰めたくなるほどのそれはほぼ平野と変わらない樹と、わずかな起伏を起こす程度の夏凜にとっては色々とダメージが大きかった。友奈は特に気にしていないのか。もしくは自分もそこそこのお餅をお持ちであるからこその余裕なのか。特に美森のそれに視線を向けているという事はない。
「にしても暑いわね……ズラが蒸れるわ……」
「あ、あはは……」
そしてボソッと呟いた美森の言葉はそっとスルーした。
「でも、これじゃあ根本的な解決にはならないわね。換気扇回しても大差ないでしょうし」
「そうねぇ……誰かがこの停電を直してくれないとどうにもねぇ……」
水着になった。ジェラートを食べた。しかし、それもいずれ暑さに根負けしてしまう程度の涼だ。早いうちにこの煮えたぎるような暑さをどうにかしなければこちらが先に参ってしまう。
どうする、もう帰ってしまうか。そう視線で会話するが、劇の背景や小道具を作成できる時間というのはこれから先、あまり多くない。今日このまま帰宅してしまえばきっと明日以降に後悔する羽目になるだろう。そう思うととてもじゃないが帰る気にはならない。
「……先生に頼んでみるとか?」
「ダメ元でそれしかないわねぇ……ブレーカーが落ちているのかもしれないし」
だがそうなると、誰かが水着から制服に着替えなければならない。
扇風機がなく、水着の涼しさを知った今、制服に着替えるのは中々に勇気がいることだ。これには勇者をそのまま擬人化したような友奈であっても躊躇ってしまう。
水着美少女四人が構える。これは誰かを生贄にしない限り勝ちがあり得ない戦いだ。制服を着て、この暑い部室から更に暑い廊下を歩いて職員室へ行き、この惨状を伝えて、必要があるなら電気の復旧を手伝う。とても重労働だ。
だが、誰かがやらねば。
もうこうなったら物理で解決するしか、と暑さ故に思考がマヒしかけたその時だった。
「だぁあっちぃ……学校の方から停電したから復旧手伝えって言われて戻ってたわ。かめやの人には許可もらって戻ってきたからクソレズも手つ……」
時が止まった。
部室内で今にも物理的な手段を取ろうとする美少女四人。水着姿の仲間を見てどうしたらいいのか。これはラッキースケベに入るのか。というか逃げないとこれ死ぬよりひどい目に合うんじゃと顔を青くする、汗だくで工具箱を取りに来たハゲ丸。
そんなハゲ丸を、そっと友奈、樹、夏凜は手を引いて部室内に迎え入れた。
そして。
『鳥になって全部忘れろ!!』
「ちょおまっ、あんぎゃーーーーーーーーーー!!?」
そのまま美森も参加してハゲ丸を担ぎ上げ、思いっきり窓から投げ捨てた。ハゲ丸は抵抗できるわけもなくそのまま窓から飛び立ち、落下していった。ミンチよりひでぇや。
ハゲ丸を鳥にした四人はそのまま顔を見合わせ、頷いた。
――もう、四人で行った方がいいや――
この数十分後に停電は勇者部の手伝いもあり、割と早く直り、扇風機が息を吹き返した教室内で四人は特に何も問題なく作業を再開した。
ちなみに風はこの後帰る直前まで説教を受け、ハゲ丸はクーラーの効いた保健室で部室に入る前と入った後の記憶が消された状態で気絶していたそうな。
鳥になってるハゲ丸(この間普通に水着姿見せてたやんけ……)
風先輩迫真のシリアス(僅か数秒)。ハゲ丸くんのラッキースケベ(?)。なお代償は窓からフライハイ。しかもそのまま忘却というお話でした。割に合ってねぇなぁ……あ、ちなみに東郷さんのPCは無事でした。
この話、本来は四、五話辺りの話らしいんですけど無理矢理ぶち込みんでやりました。
そして樹ちゃん後輩がガノタでニチアサ見てて深夜アニメもリアタイ勢で更にネット民とかいうもう原作の純真無垢な樹ちゃんが欠片も残らない程キャラ崩壊しました。もうタグも犬吠埼樹(オタク)とかに変えようかな……
バイト中に熱中症になるわテストは近いわ古戦場やりたくねぇわで何かもう色々とキツいですけど頑張るぞい