ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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原作よりもかなり派手に暴れております

そして髪の毛というワードがギャグとなることが判明したのでちょっと気を付けたけど多分ギャグになった。というかシリアスくんが耐え切れなかった。

というかみんな東郷さんの髪の毛で笑いすぎぃ!!(残当)


愛と勇気と悲しみと

『勇者達の精神状態が不安定になっています。三好夏凛、あなたが勇者たちのメンタルケアを行いなさい』

 

 そんなメールが夏凜の携帯に届いた。

 そういうのは大赦の役目というか、少なくとも同じ勇者の役目ではないだろう。夏凜は大赦の無責任とも言える行動に溜め息を吐きながらも、軽い呆れを飲み込みながら仲間であり友達でもある勇者たちのメンタルケアのためにその足を動かしている。

 向かう先は犬吠埼家。友奈は、恐らく大丈夫だ。美森とハゲ丸は大丈夫だ。となれば、あと不安なのは犬吠埼姉妹。風は大丈夫だとは思うが、樹の方が夏凜は心配だった。樹は姉である風についていく形でなし崩しに勇者となった子であり、自分たちの中でも最年少だ。だからこそ、彼女のメンタルが夏凜は一番心配だった。

 なし崩しに勇者になり、そのまま風についていき、戦った結果今、声を失っている。だから、多少は彼女の愚痴とも言える物を聞いてやっても罰は当たらないだろうと。神樹様もそれを許してくれるだろうと。だから、まずは樹を呼び出しに犬吠埼家へと向かい、そしてその前まで着いた。

 あとは愛車である自転車(にぼし号)を駐輪場へ止め、そのまま犬吠埼家を訪ねるだけ……のはずだった。

 

「大赦を潰すッ!! 潰してやるッ!!」

 

 そう叫びながら部屋の窓を彼女の武器である大剣で破壊しながら外へと飛び出した風を見るまでは。

 急ぎ夏凜が自転車を止めてスマホを見ずに操作。勇者へ変身し降り注ぐガラスを精霊バリアで弾き、誰かが踏んでも怪我をしないようにガラス片を踏み砕きながら空を舞う風を見る。そして、その表情を見てゾッとした。

 彼女の目は、本当に憎悪と殺意と憎しみだけを込めたかのような。復讐者そのものとも言える目をしていた。 

 あれは、放っておけば人すら殺す目だ。それが、夏凜の頭に刻み込まれた勇者としての思考回路で理解できてしまった。故に、夏凜はすぐさま愛用の双剣を抜刀し自身の愛車が壊れるのも構わず自転車を足場に飛び立ち、そのまま風へ追いついて足蹴にして思いっきり近くの建物の屋上へ叩きつける。

 

「風! あんた何する気!!?」

 

 このまま落下し風に馬乗りになってそのまま問い詰める。そのために自由落下に入るが、風が屋上へ叩きつけられてすぐに。痛みを感じていないかのように立ち上がりながら自身の上を舞う夏凜を睨みつけ、夏凜の想像を超えた速度で突っ込んでくる。

 

「邪魔を……するなァ!!」

「ぐぅ!!?」

 

 初めてその身で感じる風の全力。足場のない空中ではどうしようもできず、そのまま夏凜は高度を更に稼ぐ。それの追い打ちにと風は大剣を巨大化させ、そのまま空中の夏凜を引っかけるように斬り、そのまま地面へと叩きつけた。

 

「大赦の犬が!! 寝てろッ!!」

 

 精霊バリア有りだったとは言えその途轍もないと言える衝撃はいくら完成型勇者と自負する彼女であってもすぐに立ち直れるようなものではなかった。

 強い。いや、強すぎる。

 そう考え、すぐにそれが違うのだと理解する。

 彼女は、ただいつも通り戦っているだけだ。そこに殺意が乗っているか乗っていないかの違いだ。

 殺す気のない剣と殺す気の剣。どちらが強いかと言われれば、確実に後者だ。今の夏凜は前者であり、風は後者。故に、風に後れを取っているのだ。

 だが、その結果が、導き出した答えが、夏凜の背筋に冷たい物を走らせる。

 今、確かに風は自分を殺す気で斬ったのだと。それぐらいに風は、その目を負の感情で曇らせているのだと。

 

「ぐっ……はぁっ!!」

 

 息を強く吐きながらなんとか上半身を起こして立ち上がる。

 ダメだ。あれを放っておいてはダメだ。止めなければ。なんとしてでも止めなければ、彼女は勇者として。いや、人としてやってはいけないことをやってしまう。

 

「神樹様……! あたしに友達を、仲間を止める力を貸してください!!」

 

 夏凛にしては珍しく神樹様へと願う。

 殺意をそのまま力へと変える風を止めるために、祈りを力に戦う。

 勇者としての力をフルに使い、再び飛び立つ。そして辺りを見渡し、風がいないことに気が付いてからすぐに地を道路交通法なんて無視して走るタンクローリーを見つける。

 間違いない、あれだ。あれには風が乗っている。そう確信し夏凜はタンクローリーを止めるべく全力で飛び、そのままタンクローリーに食らいつき運転席を見る。

 いた。

 

「あんた、何してんのか分かってんの!!?」

 

 元の持ち主に心の中で謝りながらガラスを叩き割り、風の胸倉を掴み上げながら叫ぶ。

 が。

 

「黙れ!! じゃないと二度と立てなくなるまで叩きのめすわよ!!」

 

 風は逆に夏凜の胸倉を掴み上げ、そのまま息ができなくなる位に夏凜の首を絞めあげる。

 きっと、この説得を友奈を初めとした、最初から風と共に戦っていたメンバーなら、風もここまで乱暴な手には出なかっただろう。だが、今の風に夏凜は、大赦から派遣された勇者はただの敵にしか見えていない。それぐらいに、風は大赦が憎かった。最早関係ないとも、同じ被害者とも言える夏凜にここまで乱暴をするぐらいには。

 だが、それでも夏凜は風を見捨てない。それが勇者だから。それこそが大赦から派遣された完成型勇者。いや、風の仲間なのだと自分を振るい立てて、胸倉を掴む手を逆につかみ、叫べるくらいの余裕を確保してから叫ぶ。

 

「ッ……! あんた、それでも勇者部の部長なの!!?」

 

 勇者を率いるリーダーじゃなかったのかと風を責め立てる夏凜。

 そうだ。風は勇者部の部長として今まで頑張ってきたのだ。だから、こう言えば少しは頭を冷やすんじゃないかと思った。

 だが。

 

「そんなの知った事か!!」

 

 彼女は、その誇りすらも投げ捨てた。

 

「あんな部活、作らなきゃ良かったんだ!!」

 

 最早風にとって、勇者部は忌まわしい部活と化していた。

 みんなを、自分よりも年下の子達の未来を奪ったとも言える部活だ。それが忌まわしくないわけがない。

 全部、自分一人でやればよかった。

 一人で満開して、一人で後遺症を背負って、一人で全部やって。一人で世界を救って、日常の中で笑う彼女たちを見て、自分の散華は友奈の、東郷の、樹の、藤丸の、夏凜の笑顔を守った証なのだと。そう言えればよかった。それだけで風の勇者となった理由は達成できたのだ。復讐も、それで終わったのだ。

 勇者部は、勇者を集めた部活だ。

 風の私怨で作った部活だ。

 つい昨日までは、誇らしかった。世界を救った部の部長なのだと。勇者たちを引っ張ったリーダーなのだと言えた。

 だが、今はその称号すら憎い。

 

「それなら友奈も東郷も樹も藤丸も!! みんなこんな苦しい思いしなくてよかった!!」

「苦しい思いって――」

「満開の後遺症の事よ!! あんなのがあるならアタシは勇者部なんて作らなかった!! 二度と治らない後遺症があると知ってるなら、全部アタシが背負っていた!!」

「なっ……!? あ、あんた何を……!!?」

 

 夏凜が驚愕する。

 が、すぐに夏凜は気が付く。風が前を向いて運転していないことを。タンクローリーの先は、そろそろ車の通りが多い道路だという事を。

 そこからは咄嗟だった。近くの、誰も居ないであろうアパートの一階へ向けて夏凜は思いっきりハンドルを蹴って進行方向を変えた。夏凜の目論見通りタンクローリーは進路を変えてアパートに激突する。

 その衝撃をものともせずにそのままタンクローリーから離脱する風。それに遅れ追う夏凜。

 そして建物を駆けあがり建物の屋上を飛ぶ二人が激突する。

 

「その言葉!! あの子らの前でも言えるの!!?」

「言える!! 言えるに決まっている!!」

「このっ……堕ちるとこまで堕ちたわね!!」

 

 風を罵倒しながら得意の連撃で風を攻める夏凜。だが、それを風はものともしない。

 いや、精霊バリアだけで夏凜の攻撃を防ぎながらすべての攻撃を夏凜の急所へ向けて叩き込んでくる。それを夏凜はなんとかして防いでいるが、連撃特化の夏凜とパワー特化の風ではとてもじゃないが相性が悪い。しかもその連撃もすべて精霊バリアで防がれている始末。とてもじゃないが夏凜には止められない。

 これが友奈ならと思うが、それでも今、彼女を止められるのは自分だけだと。夏凜は踏ん張りの効かない空中で経験と勘だけで風の攻撃を全ていなしていく。

 

「あの子達は、勇者部を誇りのように思っている!! なのに部長のあんたがそれじゃ立つ瀬が無いでしょうが!!」

「無くていい!! もう二度と、あの子たちは戦わなくていい! いや、戦わせない!!」

「勇者部にはッ!!」

 

 その時、初めて夏凜が風の攻撃を退けた。

 

「それ以外にも沢山の物があったでしょうがぁぁぁぁ!!」

 

 脳裏で想起される勇者部との思い出を腕に込めてそのまま風を斬り飛ばす。勿論、峰で。

 吹き飛んだ風は難なく着地しそのまま夏凜へと向かってくるが、その剣筋は多少だが制度を欠いていた。風の脳裏に今浮かんでいる、勇者部として活動している時の樹達の笑顔が、風の剣筋の制度を悪くしていた。

 

「それでもッ!!」

 

 風の剣戟が夏凜を押す。

 

「アタシのせいで、みんな後遺症を負った!!」

「でも、それは治るって……」

「治らない!! 先代勇者は二年経った今でも治っていない!!」

「えっ……!?」

「それも分からない犬が口を挟むな!!」

 

 風の言葉に夏凜の剣戟が止まり、そのまま夏凜が精霊バリアごと地面にたたきつけられる。

 夏凜はなんとか立ち上がり風に食らいつくが、風同様、その剣戟は若干制度を欠いている。

 治らない。

 後遺症が治らない。

 前例がある。

 そんなはずはない。大赦は、大赦は。

 居たとは聞いている先代勇者を、その最後を、夏凜は知らない。その最後が、もし満開による身体機能の喪失での離脱なら。

 もう、友奈の味覚も東郷の髪も樹の声も。

 治らない。

 

「そ、そんな馬鹿な話が!!」

「あった! 現に友奈と東郷と藤丸がそれを見て聞いている!!」

「そんな、馬鹿な……」

 

 二人が同時に着地する。

 そこは、偶然にも既に大破した大橋の前。友奈と美森と藤丸が満開の真実を知った場所だった。

 

「あんな苦しい思いして!! 怖い思いして!! 必死に戦って勝って世界を救ってッ!! その結果がこれだ!! その結果がこの惨状だ!! 樹が夢を諦めなきゃならない理不尽だ!! 友奈がもう二度と味を感じることができない悲哀だ!! 東郷が一生隠し事をして生きていかなきゃいけない恐怖だ!! 藤丸が希望を失った現実だ!!」

 

 思わず夏凜が一歩退く。

 祈りを込めた一撃は、もう放てそうにはなかった。

 信じていた大赦は嘘を吐いていた。そしてそれの信仰する神樹へも、不信感が生まれてしまった。

 もう夏凜は、さっきほどの強さを発揮できない。

 

「だから、邪魔をするな!! アタシがあのクソみたいな組織を破壊するのを、邪魔するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 風の剣が頭上から振り下ろされる。

 ダメだ、止められない。夏凜が目を閉じ衝撃に備える。

 だが、想定していた衝撃も痛みも、来なかった。ゆっくりと目を開けば、そこには『紫』があった。

 

「ったく、ズラから頼まれて来てみれば。結構酷い事になってんなぁ、後輩諸君?」

 

 紫の槍を振るって風の大剣を弾き飛ばした少女は、呆れ半分、ため息半分の表情を風に向けていた。

 まるで知っていたとでも言うべきか。精霊を携え立つ彼女からは、勇者部の誰よりも勇者らしいと思える雰囲気を感じた。

 

「……誰よ、アンタ」

 

 風が大剣を手に聞く。

 少女は、片手しかないのにも関わらず器用に槍を振り回し、構えながら答えた。

 

「三ノ輪銀。先代勇者だ」

「先代、勇者……!?」

 

 紫の装束に身を包んでいるのは、銀だった。

 園子の勇者システムを借り、力を得た彼女は、復讐に燃える風の前に恐れる事無く立ち、槍を構える。

 

「悪いね。ズラ……藤丸からちょっと頼まれてね。あと二人ほど役者が来るまで時間稼いでくれってさ」

「藤丸、から……? いや、だとしても!! アタシは大赦を許さない!!」

「うん、分かるよその気持ち。でも、抑えなきゃ。あれ、潰してもゴキブリみたいに増えるから。消すと増えるよってやつ?」

「っ……! だとしても潰す!! 虱潰しに!!」

「それができたらあたしも園子も簡単に大赦を中から変えれたんだけど……まぁ、お話はストレス発散しながらしようや。なに、そう簡単にあたしは沈まないから、全力で来たまへ」

 

 槍を持った手で挑発する銀。

 風は若干困惑しつつも、きっと彼女は大赦が藤丸の名を騙って送り込んできた先代勇者だと。

 だから、倒す。この場で、叩き潰す。大剣を横向きに構え、薙ぎ払う様に振るう。相手は片手しかない。だからそれで吹き飛ばしてそのまま追撃で倒せると。

 だが。

 

「まぁ、なんだ。あんた、一人で全部抱え込んだらよかったって思ってるだろ?」

「なっ!?」

 

 二つの意味での驚愕。

 自分の内心を覗き見られたかのような言葉と、自慢の片手を難なく止められた事による。二つの驚愕。

 

「でもさ、それで全部抱えたら……あんたの妹はどう思う?」

「くっ!!」

 

 風が構わずに連撃を開始する。銀は、一度たりとも反撃をしてこない。

 だと言うのに。銀は一度も反撃してこないのに、一度たりとも攻撃が通らない。それどころか、風が一歩二歩と後退している。単純にそれが、銀が守りながらこちらへと歩いてきているのだと知るのに、たっぷり十秒以上かかった。

 

「まぁそんな事言っても解決にはならないけどさ……でも、今のあんた、凄くカッコ悪いよ? 妹に見せれる背中してる?」

「そ、んな事! 今は関係ない!」

「いや、ある」

「何が!!」

「妹にいつでも誇れる背中すんのが姉だろ。妹が、お前の姉ちゃんどんな人? って聞かれたら即答で誇ってくれるように振舞うのが姉ってもんだろ」

「そ、れは……」

 

 風の手が止まる。

 今の自分が樹に見せられたモノではないと自覚しているからこそ、手が止まる。

 

「あたしも、弟が二人いる。だから分かるよ、その気持ち。でもさ、だからって憎しみで動いちゃ駄目だ。復讐は何も産まないとかは言わないけど、そうやって張り切ったのにやった事無駄になったら虚しいぜ? だからもうちょっとだけ穏便に行こうぜ?」

「穏便って……」

「あたしと一緒に大赦に直談判しに行くとかさ。何、ちょっとお偉いさん一発二発殴るだけだから怖くナイヨ」

「おいやること変わってねぇぞ先代勇者」

 

 思わず夏凜がツッコんだ。だってそれ、風の襲撃と何も変わらないから。

 

「ははは、冗談冗談。でもさ、きっとあの子らは知っていても満開したよ。あたしの仲間も、そうやって満開したから。後遺症を知った後も、友達を守るために戦ったから」

「……」

「だろ? そこの後輩」

「えぇ。今バーテックスが来て、ピンチになったなら、あたしはすぐに満開するわ」

「……でも、樹は。勇者部なんて作らなかったら」

 

 三好夏凜は勇者である。勇者であれと教育を受けた、生粋の勇者である。

 結城友奈は勇者である。勇者になるために産まれてきたとすら言えてしまう程、勇者にふさわしい少女だ。

 だが、犬吠埼樹は違う。

 彼女は、風についていく形で勇者になった、勇者になるべきではなかった少女だ。だと言うのに、風が私情で巻き込み結果夢を諦める羽目になった。

 その事実はどうしても風の中から変わらなかった。

 

「ねぇ樹。あんたの姉さん、こんな事言ってるわよ? 言い返してやんなさい」

 

 え? と風が声を出した。

 そして夏凜の言葉を待ってましたと言わんばかりに樹が、そっと風を抱きしめる。その後ろには、息を切らして膝に両手を置いている友奈。

 

「ぜぇ……ぜぇ……十キロ先から樹ちゃん担いできました……!!」

「あぁはいはい、お疲れ様」

 

 夏凜がそっと友奈と銀を連れて離れていく。

 ここからは、姉妹の時間だ。

 

「樹……」

『もうわたしたちの戦いは終わったんだよ。だから、もう何も失わない』

 

 樹は、もう満開の後遺症……散華について聞いている。

 だが、聞いてもなお彼女の心は折れなかった。

 悲しかったことには悲しかった。楽しいと思えたことを楽しめなかった。これから先の生活は不便になるだろう。

 だけど。その代わりに勇者部のみんなと一緒に居れるのなら。苦楽を共にできる仲間がいるのなら、まだ耐えられることだったから。

 だから、樹は思いを声ではなく携帯の画面で表す。メールの画面に文字を打ち込んで、風に思いを伝える。

 

『だって、勇者部がなかったらこの夢も持てなかったから。ずっとお姉ちゃんの後ろで怯えているだけだったと思うから』

 

 そっと、樹は思いを綴る。

 その言葉は、風の心にある憎悪を少しずつ消していく。

 悲しい。悲しいが、樹がそれを止めろと。勇者部を無かった方がよかったものだと言うのは、嫌だと言ってくる。

 風よりも辛い樹自身が、そう言うのだ。

 

『だからわたし、勇者部に入ってよかった。勇者部が、大好きだよ』

「いつ、きぃ……!!」

 

 涙を流す風。それを抱きしめる樹。

 

「ごめん……ごめんね……!! なさけないおねえちゃんで……!!」

 

 その言葉に樹はそっと首を振った。

 情けなくなんて、ない。自分のためじゃなくて、人のために怒れるのなら。人を思い泣き、怒れるのなら。それだけで立派な行為だ。それだけで、誇れるのだ。

 

「お姉ちゃんは、誰かのために怒って泣いてくれる、優しい人なんだよ」

 

 そうやって、誰かに誇れるのだ。

 だから、情けなくなんてない。人のためになる部活を作った風が、情けないなんて事はない。

 ――犬吠埼風と犬吠埼樹は、勇者である。

 人のために泣き、人のために怒り、人のために戦う。妹のために泣き、妹のために怒り、妹と共に戦う。姉のために泣き、姉のために怒り、姉の隣で戦う。

 そんな彼女たちが、勇者でないわけがなかった。

 既に風は、根っからの勇者だったのだ。戦う理由が復讐であれど、その理由の中に誰かのために、誰かと共にという理由も少なからずあるのなら。勇気がそこにあるのなら、その人は勇者なのだ。

 

「ふぅ……まぁ、これで一件落着かしらね」

 

 ボロボロの夏凜が溜め息を吐きながら呟く。

 しかし、友奈は若干重苦しい表情を浮かべている。

 そんな中、だった。

 

「え?」

 

 夏凜が唐突に言葉を漏らすくらいには唐突に。

 全員の携帯からアラームが鳴り響く。画面を見れば、樹海化警報とは違う文字が。

 『特別警報発令』。そんな文字と共に、今までとは違う、本能から事態を恐怖してしまうかのような。そんなアラーム音が鳴り響いた。しかもそれは、鳴りやまない。

 それを見て、銀が一つ溜め息を吐いた。

 

「まぁ、そうだよな。止められないよな。あたしまで樹海に招待されるような事は、さ」

「なにか、知ってるの?」

「藤丸がここに居ない原因だよ。まぁ、止められなくても仕方ないさ。多分、止められるのは……」

 

 銀は、友奈を一度見てから、槍を改めて構えた。

 樹海化の光は、もうすぐそこだ。

 

「これが最終決戦だ。もしかしたら、これで奇跡が起こったりするかもな」

「ちょ、それってどういう――」

 

 樹海化が始まる。

 そして、最後の決戦が始まる――




ということで原作以上にブチ切れていた風先輩とそれを楽々凌いだスポット参戦な銀ちゃん。次回からも一緒に戦うゾ。

あと、風先輩の乗っていたタンクローリーは単純に風先輩がそれを大赦に突っ込ませて神樹様に叩き込んだ後爆破して神授様ごと大赦を崩壊させる気でした。割とマジで殺意のみで動いていたり。そこまで描写しきれなかった……というか爆発させる場所が思い浮かばなかった自分の文章力というか構想力を恨む。

樹ちゃん後輩……なんだこの清楚な美少女!? いっつも汚れ役と言わんばかりにギャグに走っていたのに……

そして参戦しなかったハゲ丸くん。彼は今どこへ……? その答えは……まぁ分かっているでしょうが次回へ。次回もシリアス。さぁ仲間割れパート2だ。集まるたびに内ゲバを何度も繰り返す某アベンジャーズよりも内ゲバ回数少ないとはいえ質ではこっちも負けてないぞぉ……!!

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