ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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さぁ、二回目の散華が描写されなかった夏凜の散華内容の発表でございます。


メリケンハゲ

 落ちる夏凜。その夏凜を追った友奈は夏凜の墜落した地を何分か捜し歩き、そしてようやく夏凜を発見する。勇者装束すら解除され寝ている夏凜は、気絶でもしているのか友奈が何度呼び掛けても反応しなかった。

 

「夏凜ちゃん!!」

 

 すぐさま友奈が夏凜の元へと駆け寄り、彼女を抱え起こす。

 が、そうしてようやく見た夏凜の顔を見て、思わず夏凜を落としてしまいそうになり、更にその無情さとあまりにも酷い的中率に友奈は泣きそうになってしまう。

 だが、そんな事しない。もしかしたら気が付いていないかもという希望を持って夏凜に呼びかける。が、夏凜は一向に反応しない。目は開いているのに。その目が友奈を見ていない。どうして、と言いたくなって。すぐにその理由が頭を過った。

 

「友奈、なの? ごめんね、何も見えないし聞こえないの……」

「何も……って、そんな!?」

 

 一度目の満開は右腕を持っていた。三回目の満開は聴力を持って行った。そして四回目の満開は、彼女の視力を持って行った。そして、二回目の満開は。

 

「でも、よかった……それなら夏凜ちゃん、自分の頭がハゲてるって気が付いてなさそう……」

 

 そう。二回目の満開は、夏凜の髪の毛全部を持って行った。つまり、彼女もハゲ丸と美森の仲間入りである。とてもじゃないが同じ女性としてこの仕打ちは惨すぎると友奈は思った。というか、こんなシリアスな空気なのに夏凜の頭が未だにテカっているせいで友奈が何度か笑いそうになっている。折角あんなにカッコいい見せ場を作って満開無双を披露したのにその結果がこれである。あーもう滅茶苦茶だよ。

 そんな夏凜はもう体力の限界なのか、今にも眠ってしまいそうである。いや、寝ないと狂ってしまうと思ったから寝ようとしているのかもしれない。

 何も見えない。何も聞こえない。完全な無。夏凜はその中に一人取り残されている。その恐怖は、とても図り知れるモノではない。

 

「友奈。あんたは、あたしの最高の友達よ」

「かりん、ちゃん……」

「だって、ハゲたあたしをこうやって抱きしめてくれてるんですもの。優しすぎて涙が出そうになるわ」

 

 一瞬友奈が動揺した。

 まさか、気が付いていたのかと。だが、よく考えれば戦っている最中に毛が抜けたのだから気が付かない方がおかしいとも言えるだろう。

 夏凜は逆に友奈を抱き返し、友奈の髪をそっと触った。きっとそれが、今自分を抱きしめている少女が友奈かを確認する方法だったのだろう。友奈はそれを一切拒絶しなかった。

 

「友奈。ありがと。こんなあたしと友達になってくれて……」

「かりんちゃん……!!」

 

 夏凜がそれだけ告げてそっと目を閉じる。

 彼女はもう、目も耳も効かない。起きても二度と光も、音も聞くことはできないのだ。

 だが、そうまでしてでも戦う理由が夏凜にはあった。それだけの理由があった。それが、夏凜が一言呟いたお礼に全て詰められていた。

 ありがとう。ただのお礼。だが、それでも夏凜はそれを伝えるため、それを伝える友を作ってくれた世界を守るために戦ったのだ。夏凜の将来の全部を犠牲にしてでも、夏凜は世界を守るため。友奈を守るために戦ったのだ。それが嬉しくないわけがない。悲しくないわけがない。

 戦わない理由になるハズが、ない。

 

「……そうだ」

 

 友奈が立ち上がる。

 折れた心は、夏凜が支え補強した。

 ならば、戦える。

 

「わたしは勇者だ! 勇者なら!!」

 

 花が咲き乱れる。

 もう、迷いはない。

 

「間違った友達を見捨てるなんて、できるわけがない!!」

 

 今再び、勇者は立ち上がる。その胸に勇気をもって。

 

 

****

 

 

 美森と銀の戦闘。それは膠着しているようにも思えた。

 だが、その実は銀の方が若干不利の状態であった。戦闘の経験や槍という武器を片手で二年間も使い続けて。それでもなお、銀は美森に押されている。

 その理由は、手加減だ。

 美森は一切の手加減をしていない。対して銀は、美森に大怪我を与えないように慎重に攻撃を繰り返している。大技とも言える物を一切放てていないのだ。美森は全力の攻撃を銀に飛ばしているのに、だ。

 

「ぐっ……! こういうときにズラがいてくれりゃ楽だったんだけどな!!」

 

 矛先を傘のように変形させて自分を守りながら銀は愚痴る。

 不意打ち十割コンボで一気に気絶させられたハゲ丸は未だに沈黙している。それに銀は歯噛みし、どうやって美森を沈黙させるかを考えて。むくりと起き上がったハゲ丸を見て笑みを浮かべた。

 

「あぁ……なんか頭がスッキリしたよ」

「ず、ズラ! 起きたんなら早く加勢を……」

「チッ! ならもう一回ボコして……」

 

 銀にとっての大チャンス。美森にとっての大ピンチ。

 一対一が一体二になるだけでも大分違う。特に、防御特化のハゲ丸が銀についたのなら、形勢は一気に逆転する。そのため銀は笑い、美森は歯噛みする。

 これじゃあみんなを救えないと。美森は思いながらも自分の武器の中で一番火力のあるライフルを取り出して。

 

「なぁ、クソレズ。俺、お前に協力するよ!!」

『はぁ!!?』

 

 次にハゲ丸が口にした言葉を受けて仰天した。ハゲ丸、まさかの寝返りである。

 これには流石の美森もビックリ仰天。しかし、すぐに笑みを浮かべた。

 勝った。自分とハゲの二人なら、どんな相手でも負けやしない。特に対人戦なら防御特化と遠距離特化の自分が居れば誰であろうと確実に封殺できると。ゆっくりと爽やかすぎる笑みを浮かべながら近寄ってくるハゲ丸を歓迎する。

 が、銀はその笑顔を見てあっ。と呟いた。あの笑顔は、相当ヤバいやつだと。

 

「ハゲ、あなたも私の考えていることがようやく理解できたのね。なら、二人でこの世界をこわ」

 

 美森がハゲ丸を歓迎し、武器を下す。

 その瞬間だった。美森の二の句も聞かずにハゲ丸が駆けだしたのは。

 やっぱり、と銀が顔を抱える。だって、あの笑顔は。

 

「と思わせての不意打ちオルルァッ!!」

「ぐはぁ!!?」

 

 ハゲ丸がガチギレした時の笑顔だ。

 というか相手を騙した上で完璧なる不意打ちの拳をアッパーの形で叩き込むなんて最早外道としか言いようがない。いや、この場合は相手に合わせたとも言えるだろう。だって最初にやってきたのは美森なのだから。

 

「よくもやってくれたなクソレズゥ!! だぁれがお前なんかに協力するかってんだ!!」

「だ、騙したのね!!? 卑怯な!!」

「今さら卑怯もラッキョウも構ってられるかってんだよ!! ここからはずっと俺のターンだ!!」

「ならもう一回ボコして」

「その前にその足代わり片結びだオラァ!!」

「あぁ!!? 何すんのよクソハゲ!!」

「黙れクソレズ!! ここからはずっと俺のターンだって宣言しただろうがヴァカめ!!」

 

 足代わりの触腕を片結びにされて動けなくなる美森。すぐに銃で倒れながらも応戦しようとするが、ハゲ丸はいい笑顔で巨大化させ自分がすっぽり隠れるように調整した鏡を構えながら接近してくる。流石にここで撃てば自分に当たってしまう。匍匐前進で逃げようとする美森だったが、その前にハゲ丸が近づき銃を蹴っ飛ばしてから美森の両腕を踏んで馬乗りの状態になる。

 さぁ、ムッシュムラムラだ。

 

「待ちなさい」

 

 という所で、美森がハゲ丸を止める。

 拳を握ったハゲ丸は一応辞世の句は聞いてやろうとその拳を一旦止めた。

 

「あなたは男子。わたしは女子。それも美少女よ」

「つまり?」

「顔をグーは止めなさい」

 

 その言葉を聞き、ハゲ丸は自分の拳を見た。

 あぁ、そういうこと、とハゲ丸は笑顔で頷き、その拳を解いて一度下げた。美森はそうそう、と頷く。そう、これでいい。これでハッピーエンドだ。ここからは暴力フェイズではなく対話フェイズだ。

 そう、対話フェイズ。

 

「それで止めると思ったか間抜けがァ!!」

「ぶっ!!?」

 

 対話(物理)フェイズだ。どこぞのクアンタも対話と言いながらよくゲームでライザーソードをぶちかましているので対話を物理的な攻撃で行う事は何らおかしい事ではないのだ。

 その結果、ハゲ丸は思いっきり美森の頬をぶん殴った。グーで。止めろと言われたグーで。美少女の顔を、思いっきり。

 だが、美森は芸人なので構わないだろう。

 

「さっき思いっきりぶん殴られたからなぁ!!? そりゃ俺だって同じことしなきゃ気が済まねぇよなぁ!!?」

「ごふっ!? ぐふっ!!? こ、このハゲ!! 美少女の顔は世界より重いのよ!!? それをグーで殴るなんて!!」

「それが世界壊そうとする人間の言葉かゴルァ!!」

「いだっ!!」

「どうせならこの際だ! お前のズラも剥ぎ取ってやるよ!!」

「あ、ちょ、止めなさい!! それだけは冗談じゃ済まないわよ!!?」

「知るか!! っしゃズラゲット!! 銀パス!!」

「……お、おう」

 

 仲間の凶行に流石の銀もドン引きである。

 その中でもハゲ丸の対話は終わらない。君が泣くまで殴るのを止めないというやつである。最も、今のハゲ丸は泣いても止める気はサラサラないが。

 そうしてハゲ丸が暴行を美森に加えている最中、犬吠埼姉妹がやってくる。

 彼女たちの方でも色々とドラマがあり、落ち込んで心が折れかけた風が樹の頑張りを見て復活すると言う感動ものの描写があったのだが、それは全部割愛された。大体がとある世界線(原作)と同じだったがための致し方ない犠牲。つまりはコラテラルダメージである。

 そして駆けつけた犬吠埼姉妹であったが、元凶である東郷に馬乗りになって顔面を殴りまくっているハゲ丸を見てドン引きしていた。銀と並んで。

 

「……ないわー」

 

 思わず風が呟いた。

 その呟きに気が付いたハゲ丸が犬吠埼姉妹と銀の方を向き、丁度良かったと口を開いた。

 

「樹ちゃん後輩! メリケンサック貸せ!!」

「いや、樹がメリケンサックなんて……」

 

 ハゲ丸の言葉を聞いて樹がメリケンサックを取り出してハゲ丸に投げた。あーもうどうでもいいやと風が後ろの方で満開しながら戦っている夏凜の観戦に入った。満開ゲージの溜まっていない彼女では夏凜の戦闘に混ざれなかったので致し方ない事だ。

 そして前面に指輪のような物が沢山ついたメリケンサックを装備したハゲ丸は拳withメリケンを美森の顔面に叩き込む。

 

「これが最後の希望じゃオラァ!!」

「ぶっ!!? ちょ、メリケンは反則でしょ!!?」

「グリップエンドで殴ってきた奴の言葉なんざ聞くかってんだよ!! オラ最後の希望(物理)じゃぁ!!」

 

 そして始まるハゲ丸の私刑を込めた処刑。樹はどこ吹く風と目を逸らして口笛を吹き、風はもう見てられないと空を仰ぎ、仲間のとんでもない外道行為を目の当たりにしている銀は顔を青ざめてドン引きしている。流石の銀もこれには他人のふりをしたくなるレベルだった。

 そしてエグい音が鳴り響く中、とうとう美森が攻勢に出る。

 

「このハゲ! 今度こそぶっ殺してやるわ!!」

「おうやってみろよクソレズ!!」

「満開!!」

「えっちょ」

 

 満開。もうこのままじゃ一方的に殴られる怖さと恐怖を教えられるだけだと判断した美森は切り札であるそれを切り、その際の衝撃でハゲ丸を吹き飛ばした。

 そして現れる美森の空中戦艦とも言える殺す気しかない船。それを見た犬吠埼姉妹が構え、銀も改めて構えた。

 樹も風も、まだ満開ゲージがあと一歩の所で溜まっていない。そして銀に関しても、満開ゲージが溜まり切っていない。だが、唯一満開ゲージが溜まっている者がここにはいる。

 

「さぁ消し飛べハゲ!!」

「おうそっちがその気ならやってやろうじゃねぇか!! 満開ッ!!」

 

 ハゲ丸だ。

 美森が戦艦から特大のビームを撃った直後に満開したハゲ丸は精霊を神獣鏡に宿し美森のビームを美森へ直接跳ね返して見せた。自分のビームで焼かれて死ね! とハゲ丸が鏡の後ろでわっるい笑顔を浮かべる。

 が、しかし。

 

「それを待ってたのよ!!」

 

 美森はそれを待っていた。

 満開によるパワーをほぼフルに使ったビームを跳ね返された美森はすぐさま横へとスライド。そのまま自分のビームをハゲ丸に照射し、それを跳ね返すことによって壁を破壊するという手に出たのだ。

 その目論見は、成功。美森が壁を背負っていたという事もあり、壁は簡単に崩壊した。しかし、バーテックスはなだれ込んでこない。代わりに、一体の巨大なバーテックスが今まさに壁を抜けようとしていた。

 

「やべっ!?」

「チッ! ズラ、須美を頼む!! アタシ等であのデカブツを――」

「させるか! メガ粒子砲、撃てェ!!」

『しまっ、あばー!!?』

 

 その巨大なバーテックスを銀と風、そして樹が倒そうと動くが、その前に美森が、ビビったハゲ丸が反射できないのを確認してからビームを放ち一気に銀と犬吠埼姉妹が立っていた場所を焼き払った。その際に飛んできたズラをキャッチして美森はハゲを隠した。

 そして三人は吹き飛び、勇者装束が解除され生身になってしまう。しかも樹に関しては樹海に頭から刺さった。死ぬのも時間の問題でしょう。

 

「ぐっ……! このクソレズ……!」

「さぁフィナーレよ、ハゲ。あなた達はよく頑張ったわ。でも、あと一歩、私の愛に届かなかったのよ!!」

 

 そして美森が小さなビームを巨大なバーテックスへ向けて放つ。

 それを受けたバーテックスは、神樹様を背負う美森を敵として認識し、巨大な火の玉を作り出し放とうとする。ハゲ丸がそれを防ごうとするが、その前に美森が放っていたビットのようなものがハゲ丸に直撃し、ハゲ丸を吹き飛ばした。

 これではハゲ丸は間に合わない。

 

「私が憎いでしょう? 殺したいでしょう? ならそれを撃ちなさい。それが私の勝利よ」

「くそっ……止めろッ!!」

「いや、これでチェックメイト。世界は燃え尽きる!!」

 

 そして火の玉は放たれ、美森がそれを避ける。

 火の玉が向かうは神樹様。この攻撃が神樹様に当たれば、確実にこの世界は崩壊する。駄目だ、間に合わないと、端末を改めて構え変身した風と、樹を引き抜こうとする銀と、ビットに足止めされているハゲ丸は諦めかけた。

 だが、その中で唯一諦めていない者が。動ける者がいた。

 

「勇者ッ!! パァァァァァァァンチッ!!」

 

 桜色の光を纏いながら樹海から飛び立ち、拳を火の玉へ叩き込みそれを爆散させる。

 誰もが諦めていた中で。絶望的な状況下で、その状況を一気に覆す。正しく勇者。

 

「わたしは、もう迷わない! みんなと一緒に居たいから、この世界が好きだから! だから、東郷さんを止めるッ!!」

 

 友奈の復活だった。




最後の希望(物理)を容赦なく女の子の顔面にマウントを取ってから叩き込み続ける外道主人公がいるらしいですよ? ハゲ丸って言うんですけど。

騙してからアッパー叩き込んでマウント取って顔面を殴り続けるとかもう蛮族以上の蛮族過ぎて……まぁ芸人だしね。仕方ないね。

そしてフーミン先輩と樹ちゃん後輩は……まぁ、今まで散々暴れてたから今回くらい出番を剥奪されてもいいでしょう。というか、流石に三つの視点切り替えながらやるのは疲れるんぢゃ……

で、今日まで連続更新を続けてきたわけですが、もうテストが近いのでしばらく更新はできません。書く暇あったら勉強します。でももしかしたら息抜きで書いて投稿するかも。

それではまた次回。テスト終わったら投稿できるといいなって

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