友奈が拳を握り立ちはだかる。美森は頭の中では友奈を倒し全てを終わらせないといけないと分かっているのに、友奈を排除するための手を動かせない。
満開勇者としていない勇者。どちらが強いかと聞かれれば、前者だ。現に、犬吠埼姉妹と銀は不意打ちだったとはいえ満開した美森の一撃で吹き飛びそのまま強制的に変身を解除させられている。そして立ち上がった風はもう限界だったのか再び倒れ、銀も樹を引っ張り上げてからそのまま倒れている。流石に一度変身解除まで持っていかれると体の負担も大きいらしい。
が、それでも友奈は諦めない。一人でも美森を止めてやると。
だが、そうして一人立ちはだかる中、美森の後ろの獅子座のバーテックスが双子座のバーテックスのように爆弾を友奈と、そして美森へ向けて飛ばしてくる。
邪魔だ。だが、迎撃しながら出ないと近づけない。歯噛みしながら友奈は拳を構える。
「友奈! お前はあのクソレズの所へ行け!!」
だが、友奈は一人じゃない。まだ満開しているハゲ丸がここには居る。
きっと、自分じゃ空気をギャグ風味にして美森の説得はできないと踏んだハゲ丸は完全にバックアップに回って友奈を美森の元へ導く役割を引き受けた。爆弾程度、今のハゲ丸にとっては迎撃できないものではない。友奈はそれに頷き、美森へ向けて飛び立つ。
「友奈ちゃん……」
美森は一人、悲しそうな表情を浮かべながら友奈を迎撃しようとビームを放つ。
が、そのビームをハゲ丸は利用して辺り一面の爆弾を爆破して見せる。そして、その中を友奈は拳を携えた状態で飛び、美森へ組み付こうとする。が。
「あのまま眠っていれば……!!」
美森の攻撃は一切収まらない。
別に美森にとってこの爆弾はいくらでも破壊されていいのだ。本命は、後ろの獅子座のバーテックス。いや、友奈とハゲ丸を倒し、後ろから無限に湧いてくるバーテックスを誘導すること。時間は美森の味方をしているのだ。だから、美森が攻撃を休める理由にはならない。
友奈は近くの爆弾は全部自分で迎撃しながら、自分の後ろで時々鏡を足場にさせながら爆弾を迎撃しきっているハゲ丸を信じ、一度鏡を足場にして大きく跳躍。そのまま美森へ向けて拳を向ける。
「眠っているうちに全部終わったのに!」
だが、美森はそれを自身の船の砲身で打ち払い、友奈を一気に突き放す。
ガードしながら吹き飛ぶ友奈だったが、すぐさま友奈は自身の切り札でもあるソレを切った。
「満開ッ!」
満開。
満開には満開。ハゲ丸がやったように、友奈もそれをやってみせる。それを見て思わず唾を飲む美森。
これで、友奈はまた一つ、身体機能を失う事が約束されてしまった。それも、美森自身の起こした事のせいで。全て友奈が寝ている間に。友奈が戦えない間に終わらせるつもりだったのに、勇者部がそれを邪魔して。その結果友奈を苦しませる羽目になった。
ダメだ。これでは友奈が救われない。
満開の光を纏いながら星屑を振り払い、友奈は易々と獅子座のバーテックスの前まで躍り出る。やはり、満開した勇者は通常時とは比べ物にならないほど強い。それを友奈は実感しながらバーテックスを殴る。
それだけで御霊が露出するバーテックス。
いける。確信と共に炎に包まれた星屑に囲まれながらも友奈は拳と、それに追従する巨大な腕を振りかぶり。
「駄目っ!!」
「あぁっ!?」
横から星屑に紛れ迫ってきていた青色の砲撃に吹き飛ばされた。
樹海を削りながら地に転がる。ハゲ丸は最早自分の自衛だけで精一杯となっており、友奈の防御に鏡を回す余裕がなかった。どうやら友奈が満開した辺りから、もう彼に余裕はなかったらしい。
満開したとは言っても彼の勇者としての性能は最底辺を突き抜けている。満開しても後衛型の樹に一対一でようやく互角程度には、だ。だから、星屑に囲まれてしまえば彼は手数の全てを鏡で補うしかない性質上、どうしても捨て身のバックアップをするか自身の身を守るしかできなかった。
それを確認してから殴りに行かなかった自分を馬鹿だと少し自嘲しながら、立ち上がる。
まだ、戦える。満開できている。なら、まだ殴れる。蹴れる。友達を助けることができる。
「どうして……」
そうして立ち上がった友奈に美森は問う。
「どうして、こんな……見も知りもしない人のためにボロボロになりながら戦えるの!?」
「そんなの、決まっている! わたしが……」
勇者だからだ。勇ましき者であるからだ。
叫ぼうとした。が、友奈が口にしようとした言葉は、美森の口から紡がれた。
「勇者だから!? 勇者だから、味覚もなくなって、声も失って、目も見えなくなっても、戦うっていうの!?」
その言葉は、美森の慟哭でもあった。
背景と化していた星屑たちが獅子座の元へと集まるが、それでも友奈は上げた拳を構えることができていない。
「記憶も失って足も動かなくなって! 大切な人との思い出を全部忘れてまで他人のために戦う必要なんて!!」
銀と園子との記憶。
美森はそれを失った。失ってまで戦った。戦ってしまった。
その結果感じたのは、虚無にも等しい感情だった。
記憶を失い、友を失い。そうして当時十二年の記憶の内六分の一の記憶をなくして。
「忘れない!!」
だけど、その中で光をくれたのは。虚無を埋めてくれたのは。
「東郷さんの事、絶対に忘れない!! 例え何があろうと! わたしが東郷さんを守って、何もかも忘れずに何があっても!! 絶対に守って、忘れないッ!!」
「っ……」
友奈の強さとも言える物だった。
足の自由を失ってからまだあまり時間が経っていない時から。まだ、足の自由を失った生活に慣れていない時から、友奈は一切の翳りを見せず共に居てくれた。それに救われないわけがなかった。
だから、今の彼女の言葉は、どうしてか本当に信じることができてしまいそうで。
「というか、東郷さんみたいなキャラの濃い人、絶対に忘れられないから!! 記憶失っても絶対に心のどこかで覚えてるから!!」
「あらっ」
だけどちょっとズレてる所も、友奈のいいところなのだろう。
美森は足が動かないのにずっこけたように感じたが、それは気のせいだろうと咳払いをしてから。
「ついでに一年くらい前にわたしの着替え中にスマホで写真撮ってた時とか、わたしの寝顔撮ってたりとかも絶対に忘れない!!」
「それは忘れてぇ!!?」
同時にビーム。友奈さん吹っ飛ばされた。
まさか盗撮に気付かれていた。というか、友奈がそれを気にしていないだけだった。美森は急いで自分の携帯のアルバムを確認して友奈の寝顔写真をいくつか確認するが、よく見るとちょっと起きていそうな感じがしそうなのが幾つか。
まだ撮影技術が未熟な時に撮った物だったので気づけなかった。もし友奈がそういう事に疎くなかったらきっと今のような関係にはなっていなかっただろう。ついでに着替え中の友奈の下着姿写真に至っては視線がこっち向いている。
「でもっ!」
もうシリアスな空気が半分くらい壊れた中で、それでも友奈が叫ぶ。
「わたしは、それも含めて全部! 東郷さんとの思い出を全部忘れない!! 東郷さんと作った物全部、一生忘れないッ!!」
だが、そうしてシリアスな空気を壊してまで告げた事実すら、友奈にとっては思い出なのだ。
美森と共に紡いだ。二年にも満たない時間ではあるが、その時間を共に紡いできたのだ。それを忘れるなんて、できない。美森との思い出は、もう結城友奈という少女を構成する要素の一つとなっているのだから。
鷲尾須美が乃木園子と三ノ輪銀との思い出を忘却し東郷美森となったように、結城友奈も東郷美森との結晶のようにキラキラとした思い出がなくなれば。勇者部との暖かい陽射しのような毎日を忘れれば、きっと結城友奈は結城友奈ではない何者かになってしまう。
だから、忘れない。絶対に、忘れる事なんてできない。
「……
でも、美森は。須美は。
「でも、忘れてしまった! 抗えなかった!!」
絶対に忘れないと強く誓った物全部、忘れてしまった。満開という、大赦から何も言わずに与えられた力を使い、そのまま忘れてしまった。
満開は、自分から何もかもを奪った原因なのだ。
「今は……今はもう、悲しいって事しか覚えてない!!」
涙を流しながら叫ぶ。
「涙を流す意味すら分からない!! それが怖いの!! 一人になって友奈ちゃんに忘れられて、藤丸に忘れられて! 風先輩に忘れられて樹ちゃんに忘れられて夏凜ちゃんに忘れられて!! 私もまた忘れてしまう事が!!」
藤丸に忘れられた。自分が忘れた。
その二つが、今の美森の行動を作った。
もう忘れたくない。忘れられたくない。自分を覚えていてほしい。覚えていたい。でも、このお役目は。勇者として戦うという使命はそれを許してくれない。きっといつか、記憶をまた持って行って。誰かの記憶が消えて。戦いを終えてまた会った時に、みんなから忘れられているのが。みんなが忘れているのが。
とても、とても怖い。
「だったら!!」
でも、その中で。
「アタシが覚えていてやる。何があっても覚えていてやる!!」
目を覚ました銀が叫んだ。
勇者装束を纏いながら飛び、そのまま美森の乗っている船に足を付けて。
「確かにアタシは今まで須美を……いや、東郷をほったらかしにしちまった。でも、これからはしない。何度東郷が記憶を失おうと一緒に居てやる。忘れても忘れきれないくらいに、一緒に居てやる」
今までは、大赦からの圧もあり接触できなかった。偶然藤丸と出会て、藤丸と馬鹿をやるしかできなかった。
でも、これからは違う。何があろうと、美森と共にいる。失った記憶と友情を、また育む。小学六年生の時の記憶はもう戻ってこなくても、また何度でも。何度でも友情を育む。
「……ウソよ。そんなの、できるわけが」
「できる。いや、やる。やってやる」
藤丸とできたのだ。だから、美森とできないわけがない。片腕だけで美森を抱きしめながら銀が囁く。
そんな彼女たちを、そっと友奈も抱きしめる。
「うん。絶対に、忘れないから。忘れられないくらい、一緒に居るから」
「……ウソ」
『嘘じゃない』
「できるわけない」
『できる』
「……どうして、言いきれるの?」
「わたしが、そう強く思ってるから」
「アタシが、そう決意したから」
いつだって、奇跡を起こしてきたのは神ではなく人である。そうして歴史を動かしてきたのは、人間なのだ。
神世紀と呼ばれる今でさえ、ここまでの歴史を作ってきたのは人間だ。神の力を借りた少女たちが、今日この日までの明日を紡いできたのだ。
この世界に残った全人類の未来を守ると言う大役を果たしてきたのだ。記憶を失わないなんて事、造作もない。奇跡を起こして失った記憶を取り戻す事さえできるかもしれない。散華なんて蹴飛ばして、明日を守ったと言う事実だけを噛みしめることができるかもしれない。
そのために必要なのは、人間の輝かしい程の意志だ。強固なまでに固められた感情だ。それがあったからこそ、人間は奇跡を起こしてきたのだ。奇跡で人類史を紡いできたのだ。歴史には一つたりとも必然はなく、そこにはいくつかの奇跡による軌跡があったのだ。
「ゆう、なちゃん……ぎん……」
「ごめんな、今までほったらかしにして。でもこれからは一緒に居てやれるから。その涙、何度だって拭ってやるから」
「何度涙を流しても、何度でもその涙を拭って一緒にいてあげるから」
泣き崩れる美森を、そっと銀と友奈が支える。
それをハゲ丸は見ていた。あそこに混ざるのは無粋だと。何か太陽のようなものに照らされながら、いい話だと鏡を携えて。
ジリジリと自分を焼いてくる陽射しのような物。その光の範囲外で抱き合う少女達。
「……ん?」
そこでようやくハゲ丸は疑問を感じた。
太陽って、そんな局所的に気温を上げてくるような物だっけと。というか、なんか明るくね? と。
嫌な予感と共にハゲ丸が振り返った。
そこには、まるで太陽のような巨大な火の玉に変化した獅子座のバーテックスがあった。
「あっ」
その瞬間、その火の玉は高速で動き出し、その直線上にいたハゲが焼かれた。
「……ん? あっ!? ズラが焼かれた!!?」
黒焦げになって吹き飛んでいくハゲ丸を視認した銀が思わず声を上げ、それに友奈と美森が気が付く。
どうやら、まだ波乱は終わらないようだった。
ハゲ丸、火の玉に轢かれて焼かれる(生きています)
最近、FGOの引き運がヤバいです。この一週間でシグルド、デオン(三枚目)、タマキャ(三枚目)、ドレイク、槍ヴラド(二枚目)が出ました。福袋ではAMKSとゴルゴーンでした。
信じられるか? これ、全員狙ったキャラをすり抜けてきたんだぜ……?
今日になってバトオペ2(チュートリアルでハイパーハンマー)始めたのでちょっと最後らへん投げやりになりましたけど、次回に続きます。FGO二部二章さっさとやって同時進行でバトオペ2やってゆゆゆいのイベントストーリー読んでグラブルでンナギ捕まえないといけないので。