ちょっと駆け足ですけど一期をこれで消化!
黒焦げになって落下していくハゲ。それを助ける素振りなんてみせず火の玉と化したバーテックスを銀を乗せた美森と友奈が追う。ここでハゲ丸を助けるくらいなら足止めをしないとそのまま世界が終わってしまう。
幸いにも、バーテックスの進行速度は満開勇者の飛行速度で間に合う程度であり、美森と友奈はバーテックスの前面へ回ると同時に自らの武器を盾代わりとしてバーテックスの進行を防ぐ。が、その威力は途方もない物であり、満開した勇者であっても二人で抑えきれない程だった。
「くっ、満開ッ!!」
そこで銀が即座に満開して二人の手助けに入る。
銀の満開。それは園子の満開と全く同じ性質を持つ。そのため、銀が満開すると同時に発現したのは、美森の軍艦を思わせる船とは違う、六枚羽の船。それが紫のエネルギーを纏い、バーテックスの進行を止めようとする。が、それでもバーテックスは止まらない。
三人の満開勇者の力を全て防御に回しても止まらない。
バーテックスの捨て身の特攻は、神の領域に近づく技を持ってしても止められないのだ。
「私、大変な事を……!!」
バーテックスを防ぎながら美森が呟いた。
これは、全て美森の責任だ。
美森が暴走しなければ、この攻防戦は起きなかった。そして、この攻防戦は今、防衛側が圧倒的不利な状況にある。それが分かってしまうからこそ、美森が呟いた。
が、それを友奈が否定する。
「そんな事ない! 東郷さんはなに、もっ……!?」
友奈の言葉が途切れた。
何事かと美森と銀が友奈を見れば、友奈は満開が解除された状態でバーテックスに吹き飛ばされ、そのまま変身が解除させられていた。
「友奈ちゃん!!」
「結城!!」
美森と銀が叫ぶ。が、バーテックスはそんな状況でも一切手を緩めない。
押され始める二人。三人ですらギリギリだったのに、それを二人でどうにかできるわけがない。ジリジリと押されて行き、もう神樹様まで数百メートル。このまま押し切られてしまえばバーテックスは神樹様を破壊し、全てを壊す。美森が二人の説得の末ようやく希望を持った世界が、壊されてしまう。
そんな事させない。させるわけがない。
が、力の差は思いだけで覆せるものではない。奇跡でも起きない限りは。
「もう、だめっ……!!」
もう満開を維持する力すら美森には残っていない。今満開を維持できているのはこの事態を起こした責任感と、友奈と銀への思い。それだけだ。
だが、美森は友奈よりも前に満開して友奈よりも力を使って戦った。もういつ満開が途切れてもおかしくない程だった。それは銀も同じであり、人生で初の満開であるこの満開が、定着の薄さ故にいつ途切れてしまっても可笑しくなかった。
夏凜は数分程度しか維持できなかった。須美と園子も、数回の攻撃で満開が終わった。それが自分の身にいつ起こっても不思議ではないのだ。
銀が歯を食いしばり、美森が全身の力で満開を維持しつつ、自分の船を前進させて。
『満開ッ!』
直後軽くなったバーテックスの重圧に驚いた。
「ったく、悩んだら相談しろっての……アタシもだけど、勇者部って悩んだら相談を守らないわね」
「犬先輩、自覚あったんすね」
「そりゃね」
横を見れば、そこには風がいた。そして樹もいて、黒焦げになったハゲ丸まで。
満開した三人が、共にバーテックスを押し返さんとしている。故に、感じていた圧も少なくなった。
「風先輩……樹ちゃん……ハゲ……」
「東郷、帰ったらお説教の時間よ。教頭先生並みにガミガミやるから覚悟しなさい?」
風が笑いながらお仕置きを決める。
だが、お仕置きがあるという事は。風はこの先の未来を信じている。未来があると、信じ切っているのだ。ここで敗北するという可能性を、万が一にも信じていない。その可能性を否定しきっているのだ。
それは、ハゲ丸も、樹も同じで。
「樹ちゃん後輩、お前も帰ったらこの馬鹿になんか言ってやれ。こいつ、昔っから暴走癖あるからさ」
ハゲ丸の言葉に樹が首を縦に振って応じる。
負けるわけがない。こんな火の玉如きにこの世界が壊せるわけがない。壊させない。
銀がいい仲間を持ったな、と美森にそっと呟く。それに首を横に振るわけがない。縦に振って、赤に染まった顔で肯定の言葉を口にする。
ハゲ丸ですら跳ね返せない火の玉を。風ですら一刀両断できない火の玉を。樹のワイヤーすら燃やされる火の玉を。美森の攻撃を飲み込む火の玉を。銀の全力を物ともしない火の玉を。
「多分そこおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そして、夏凜が切り裂けない火の玉を。
目も耳も効かず、そして女の命とも言える物を失った夏凜までもが満開しながら火の玉を押し返そうとする。
「夏凜ちゃん……ってその頭!!?」
「夏凜……あんたまで……」
「welcome to ようこそハゲ仲間の集い」
「何言ってんのか分かんないけどハゲは後でぶっ殺す!!」
「やだ、この子物騒……」
そっと樹が夏凜の頭にハゲ丸のズラを被せた。できる後輩はやることが違う。
だが、これで満開勇者が六人。先ほど離脱した友奈を除いた勇者が全員、ここに参加した。
負けなんてあり得ない。こんな状況で負けるわけがない。六人全員がそう確信しながら。だが、あと一歩。この火の玉に対する手を打てない。
押し返し、そのままトドメを刺すための最後の一手が。
「うあああああああああああああ!!」
その一手が、地上から飛び出す。
たった一回吹き飛ばされただけで折れるようなら、彼女はもうとっくに折れている。だが、彼女は未だに折れていない。折れていないからこそ、もう一度彼女は飛び立つ。
「行って、友奈ちゃん!!」
叫びながら無理矢理満開し空を駆ける友奈へ美森が叫ぶ。
「勇者部五箇条一つ!!」
風が吼える。
「なるべく諦めない!!」
夏凜が吠えたてる。
「――――」
声の出ない樹が。それでも口を開き虚無の声を張る。
「成せば大抵!!」
藤丸が告げる。
そして。
「なんとか、なあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁるッ!!」
友奈が空中から拳を構え急降下しながら、声高らかに最後の言葉を叫ぶ。
友奈の拳はそのまま火の玉の中へと入っていき、友奈の体も一気に炎の中へと吸い込まれるように入っていく。そして、友奈の体が見えなくなり、火の玉がひと際大きく膨れ上がる。
まるで超新星爆発のように一度大きく膨れ上がり、そのまま一気に縮小してその大きさを何十分の一にまで小さくした火の玉は、まるで花火のようにその場で崩壊する。
中心にあった御霊が破壊され、そこからあふれ出した虹色の光が勇者たちの視界を埋める。同時に満開の力が失われ、七人全員がそのまま地面へ向かって落下する。その光景を祝福するかのような樹海の光が空を、地を埋める。
「あー……しんどっ」
その光景を目に収めながら風が呟いた。
それを同意するかのようにうーい。とハゲ丸が声を出した。
「東郷。やっぱお説教面倒だから満漢全席ね」
「……中華は無理なので和食でお願いします」
「それで許そう」
「俺もそれで許すわ……」
「アタシもー……」
横を見れば、銀がいる。夏凜がいる。樹がいる。風がいる。ハゲがいる。
銀は満足げな表情で空を仰ぎ、夏凜は何が起こったのよー、誰か説明してよーとさっきから呟いている。樹は疲れたのかそのまま横になって眠っており、その足が見事にハゲ丸の鳩尾に突き刺さっている。そして風は大の字に寝転がって空を仰ぐ。女子力とやらは一体どこへ行ったのか。
だが、その中で唯一身じろぎ一つしない者がいる。
「……友奈ちゃん?」
友奈が、意識を失っている。
呼びかけても応じず、ただ死んでいるかのように眠っている。目は開いているのに、それがこの世界を見ていない。別の何かを見ているようで。
「友奈ちゃん……友奈ちゃん!!」
勝利を掻き消すかのような美森の悲鳴だけが響き、樹海は消えていく。
最後の勝利は、どうしようもない嫌な予感と共に訪れたのだった――
****
それから数週間が経った。
あれから勇者部の面々プラス銀は大赦の職員に即座に回収されそのまま病院へと叩き込まれ強制入院という前にあったような事の繰り返しをさせられた。
その際に新たな散華による身体機能の喪失も見られ、夏凜は右足。美森は右耳、風は右手、樹は左目、銀は左手。そしてハゲ丸が出血大サービスで下半身と上半身の毛全てを持っていかれた。全身脱毛されたハゲ丸を見た銀は思わず「キモッ……この世の生物じゃないみたい……」と呟きハゲ丸の精神を一瞬にして叩き折った。ハゲ丸はその日、ずっと泣いていた。
だが、その散華は一時的な物で二日もしない内に元通りとなった。そのまま一週間も経過すると今までの散華すら徐々にその形を潜めた。
「という訳で声が出るようになりましたよ、ハゲ先輩!」
「お前久々の台詞だからって俺の事ハゲって呼ぶの止めろお!!?」
特に樹は声が出たことが嬉しくて仕方がないのか、ハゲ丸を弄る……というよりも毒舌で心を折りまくっていた。ちなみにハゲ丸の全身の毛は徐々に生えてきているが一気に生えては来なかった。
が、美森と夏凜は。
「あ、なんか頭が急にムズムズと!!? ちょ、これすっごく気持ち悪い!! なにこの感覚……あっ、髪生えたぁ!!?」
と、こんな感じで失った毛が復活し、ついでに美森に関しては足が動くようになって記憶も戻り始めた。そして夏凜も目と耳が徐々に効くようになり、一足先に退院した風と樹が見舞いに来るたびに「光と音と髪があるっていいわね……」と呟いている。ハゲ丸の全身の毛だけはちょっとずつしか生えてこない。
ついでに。
「色々と治ったから歩いてきちゃった乃木さん家の園子さんなんだぜ!!」
「ふぁっ!!?」
入院中に園子がハゲ丸の病室にサプライズ訪問してきたりと、色々とあった。
色々とあった。
もう勇者部の、友奈を除いた全員が退院できるくらいには、色々と。
だが、友奈は目を覚まさなかった。何度見舞いに行っても、何度声をかけても、何度美森が「起きないとキスして処〇奪うわよ!?」と脅しても。何度も何度もやっても駄目だった。
友奈が言い出した文化祭の劇も徐々に時間が迫ってきて。それでも友奈は目を覚ますと信じて彼女の役はそのままにしておいて。徐々に緑だった葉が黄に染まる頃になっても。友奈は目を覚まさなかった。
「……ねぇ、友奈ちゃん。今日はね、キレた樹ちゃんがハゲを冷蔵庫に収納してちょっとした事件になったのよ」
いつものように彼女を車椅子に乗せて病院の庭に出てきた美森が友奈に話しかける。
もうすっかりと車椅子を押す側と押される側が逆転してしまった。園子と銀とハゲ丸との友情を思い出し、そして足も取り戻した美森だったが、まだその心は充実しきっていない。充実するわけがなかった。
友奈がいないのだから、充実するわけがない。
「それで、助けられたハゲが樹ちゃんの悪口をボソッと言ったら今度は風先輩がハゲを焚火で丸焼きにしようとしてね。夏凜ちゃんに助けられたんだけど、その時に夏凜ちゃんに流石ハゲ仲間だって言う物だから、重りを付けてプールに沈められたのよ? 多分まだ沈んでるでしょうけど……死にはしないでしょうね」
だが、そんな日常の場面に。
「……でも、友奈ちゃんがいないの。友奈ちゃんだけがいないの」
友奈はいない。友奈だけが、あの騒がしい勇者部の中にいない。
「……嫌だよ。このまま友奈ちゃんがいない日が続くなんて!」
勇者部として暮らす日々は楽しい。だけど、そこに友奈がいないと楽しみきれない。
「一緒にご飯食べて、一緒に台本読んで演劇の練習して、一緒に笑って、一緒に歩きたい……一緒にいたいよ!! 友奈ちゃんともっと、もっと一緒に!!」
でも、言葉は返ってこないのだと。美森は顔を伏せ涙を流しながら現実を噛みしめようとして。
「――うん。一緒にいるよ」
聞こえてきた声に顔を上げた。
もしかして幻聴なのかと、ゆっくりと友奈の方へと顔を向ける。そして、ようやくそれが幻聴でないのだと知る。
降り注ぐ太陽の日差しの中で、彼女はいつもの笑顔を浮かべながら。美森と同じように涙を流しながら友奈は意識を取り戻していた。
「やくそくしたもん。一緒にいるって」
「ゆうな、ちゃん……」
「聞こえたよ。東郷さんの声。聞こえたから、戻ってこれたんだ」
そっと美森を抱きしめながら友奈が囁いた。
小さな声だが、それでもしっかりとその言葉は聞こえてくる。か細くても、しっかりと友奈がそこにいるのだと認識できる声が聞こえてくる。
涙を流す美森を抱きしめる友奈は、そっと呟いた。
「ただいま、東郷さん」
「うん……うん! おかえり、友奈ちゃん……!!」
遠くから聞こえる仲間達の声を聞きながら、それでも二人は抱き合う。
勇者部は、不滅だ。何があろうと、どんな敵が立ちはだかろうと。
勇者部が引き裂かれる事なんて、絶対にないのだから――
果たしてハゲが次の日まで沈んでいたかはあなたの想像次第。
ということで一期終わり! 次回からはなるべくギャグ短編挟んでいきますぞ。でも、まだくめゆ読んでないんで、もしかしたらくめゆ要素も次回辺りからちょっとずつ組み込んでいくかも……?
その後の園子とかは持ってないのでそこら辺の話は書けませんが……まぁ、にわかなので許してちょ。でも体験版のゲームの話は幾つか見たのでラブレター辺りはやってみたい感あります。
次回はちょっと遅くなるかも。テストで禁欲状態でしたし、やりたい事が色々とあるんぢゃ……