ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回からは幕間の物語的にちょっとした小話をば。

前は夏凜を除く勇者部全員プラス銀ちゃんの五人をやったので、今回からは残りの夏凜&園っちのフェイトエピソードでも。


幕間-結城友奈の章~鷲尾須美の章-
刹那ハゲ


 思えば、ハゲ丸と夏凜が二人きりになることは今までなかった。基本的に友奈が夏凜と一緒に居るか風がついているため、夏凜と話そうと思えば基本的に三人か四人での会話になることが多かった。

 が、別に二人は仲が悪いわけではなく、クラスでも何かあれば普通に話す程度の仲は保っていた。命のやり取りを共にして、背中を預け合った仲なのだ。それが悪かったり片方が嫌いだったりという事はまず無いだろう。故に、夏の暑さが通り過ぎた部室で夏凜と二人きりになったハゲ丸と夏凜は特に話題に困るという事はなかった。

 

「それで、友奈からお笑いを勧められたんだけど……あたしはよく分かんなかったわ。何が面白いのかしら」

「まぁ、そこは人それぞれだかんな。三好さんも好きな番組を見つければいいよ」

 

 劇のセットの突貫工事。

 文化祭で使うセットの一部に不備及び不足が判明したため六人の中では力がある方の夏凜と、男手であるハゲ丸が部室に残りセットの突貫工事を行っていたため、二人は偶々二人っきりとなった。もう暑いというよりは涼しいと言う季節。特に暑さに文句をいう事もなく、仕事は早めに終わらせる主義である夏凜と、他人について行くのは人一倍なハゲ丸が揃えば陽の光が赤くなる前には指示された作業は全て終わっていた。

 故に二人は暇になった時間を適当に過ごすという事になり、結局夏凜は夏凜専用となったサプリ配合のにぼしジェラートを口に運び、ハゲ丸は備品でジャグリングしている。

 つい数週間前までは戦いに身をやつしていたとは思えないほどの呑気な平和ボケ。夏凜すら自虐を含めてそう思ってしまうくらいには、彼女はこの部室の風景に馴染みきってしまった。産まれてから暫くしてから戦うためだけに時間を割いてきた。そして勇者としての役目を勝ち取り、戦い、終わった。もう夏凜は戦う必要はなく、周りと同じように日常にその身を置くだけ。

 勇者としての夏凜は終わり、中学生としての夏凜が始まると言っても過言ではなかった。

 

「……ねぇ、ハゲ丸。あんた、先代勇者でもあるのよね」

「ん? あぁ。当時は桂家に養子入りしてたから桂って名前だったけどな」

 

 そしてハゲ丸は、二度勇者に選ばれた。いや、一度選ばれたときから戦い続ける運命だったのだろう。彼が勇者として戦った回数は三回。夏凜より少ないが、そこに男性勇者桂として戦った記憶が混ざれば、実戦経験は美森に次いで多い事になる。

 小学四年生から六年生まで訓練して、そこから半年近く戦い続け、勝って、記憶を失って。そしてまた戦って、勝って、全てを取り戻した。

 

「勇者として選ばれたとき……どんな気持ちだった?」

 

 約束された平和が破棄され、戦いの運命への道を歩んだ時。今の夏凜とは真逆とも言ってもいい境遇になった時。

 彼は拒否したかったんだろうか。それとも、お役目だと喜んだんだろうか。

 

「んー……まぁ、その時は色々とあったよ」

 

 ハゲ丸がそう口にしてから、時間があるからと紡ぎ始めたのは、当時の。勇者として選ばれた小学四年生の頃の記憶だった。

 

 

****

 

 

 小学四年生の頃。当時のハゲ丸は大赦に召集された。

 一体何があるのか。何をさせられるのか。それが分からないためハゲ丸は冷や汗だくだく。顔を青くして出迎えに来たリムジンに乗って震えていた。

 大赦、と言えばこの国……というよりも四国を実質的に統治している組織だ。それが、ハゲ丸を直接召集する。その意味が分からなかったし、怖くもあった。だが、それでも拒否するわけにはいかず、結局は大赦の指示に従ってハゲ丸は大赦の中のとある部屋に案内された。 

 部屋には既に三人の少女が待っていた。

 それが、当時はまだ東郷美森と名乗っていた後の鷲尾須美と、三ノ輪銀。そして、乃木園子の三人だった。

 三人は挨拶する間もなく、勇者として自分たちは選ばれたのだと。この四国を守るお役目を、神樹様から授かったのだと、仮面をかぶった大赦の職員から聞かされた。

 それを聞いて須美は愛国護国と拳を固め、銀はワクワクを現したかのように顔を緩ませ、園子は寝ていた。でも聞いていた。

 勇者としてのお役目を果たすため、これからの事を説明されたのも覚えている。

 美森は、東郷家が大赦に関連する家ではなかったため鷲尾家にお役目の間だけ養子入りする事を説明された。それに対して美森は少し不安そうではあったが、それでも了承を返した。銀と園子は既に大赦に関連する家だったため特になし。

 だが、イレギュラーはハゲ丸の時に起こった。

 

「藤丸様。あなたは、選ぶことができます」

「え、選ぶ……?」

「勇者となり戦うか、それとも拒否し、勇者の事を誰にも言わないと誓って帰るか」

 

 ハゲ丸は、唯一選択肢を与えられたのだ。

 それは、大赦からの優しさとも言えた。

 

「藤丸様が纏う事となる勇者の力は、東郷様、三ノ輪様、乃木様の纏う事となる力と比べるととても脆弱です。最も戦死してしまう確率が高いと言えるでしょう。ですから、選んでください」

 

 戦うか、逃げるか。

 ハゲ丸が纏う男性用勇者システムは当時から性能が低かった。それも、当時は精霊バリアすらない、攻撃が当たれば確実に即死するレベルの。

 初代勇者の勇者システムに毛が生えた程度。それは、これから進行してくる御霊を持ったバーテックス相手に太刀打ちできない、という意味でもあった。が、戦力は多い方がいいという意見と無暗に勇者を減らすことはないと言う意見で、大赦は割れた。男性なのにも関わらず勇者としての適性があるハゲ丸の扱いに。

 

「戦うか、逃げるか……」

 

 もし横に並ぶ少女達がその選択肢を突き付けられたら、と思う。

 今のハゲ丸なら、全員がそれでもと勇者システムを手に取ったと断言できる。東郷美森は護国のために。愛国のために。三ノ輪銀は家族のために。友達のために。乃木園子は乃木家として。そして、二人が戦うなら共に戦うと、これから育まれるであろう友情のために。

 だが、当時のハゲ丸は分からなかった。

 でも、一つだけ胸の内に出てきた答えがあった。

 アニメや漫画、ゲームのキャラがこういう時にどんな行動をとるか、だ。

 

「……戦います」

 

 何故か?

 

「女の子が必死に戦おうとしてるんです。男である俺が、背中を向けるなんて……できません」

 ――女の子ばっかにいいカッコさせられませんから――

 

 当時から、ハゲ丸が戦う理由というのは一貫していた。

 女の子が戦っていて、自分には戦う選択ができるなら。見ているなんてできない。戦いは男の仕事だ。だから、後は任せたなんて言って背を向ける事は出来なかった。

 

「本当にいいのですか。これから藤丸様は、自分の住む場所を捨て、戦うためにその身を置くこととなります。平和とはかけ離れた生活をする事となります。それでも、いいのですか」

「構いません。男は、誰かのために強くなって、故郷の人たちのために戦うんです。怖い事には怖いですけど……だからって、知らないふりしてそっぽを向くなんて、俺にはできません」

 

 男なら。死にゆく男たちは。

 そんな歌詞が組み込まれた歌があった。どれも、子供であるハゲ丸が耳に挟めるような、子供向けの番組の歌だ。だが、子供向けであるからこそ、熱さがある。

 その熱さが、ハゲ丸が戦う理由となる。戦うだけの決意となる。

 そして、ハゲ丸は大赦からの指示で桂家へと籍を移し、二人目の父と母と共に暮らしながら、勇者として戦うために鍛え始めたのだった。

 

 

****

 

 

「まぁ、こんな感じだ。結論から言えば、怖い。でも女の子ばっかにいいカッコさせてらんねぇ、かな」

「ふーん……なんか古い思考ねぇ」

「俺の心のヒーロー達は古臭くてカッコいい兄ちゃんが多かったんだよ。ウルトラマンだったり、仮面ライダーだったり。それこそ、勇者ロボだったりな」

 

 懐かしむように過去を口にしたハゲ丸の顔は、少しだけ笑顔になっていた。

 失われていた思い出をこうして話せることが嬉しい、というのは余り共感されないだろう。だが、夏凜は口では古臭いと言っても、確かに彼は勇者なんだと思った。

 勇敢なる者。勇ましき者。怖い怖いと言っても女のために誰かのためにと力を手にして戦い抜いた彼もまた、勇者なのだろう。勇者となるべく努力してきた自分とはちょっと違った思想で。でも納得できる思想だと。夏凜はジェラートを食べ終えてから結論付けた。

 そして、思う。結局自分はこれを聞いてどうしたかったんだろうと。

 

「でさ。今はそれも終わって、いい思い出なんだよ。小学四年生から、この中学二年生までの間はさ」

「それは……そうね。あたしも、この生活はいい思い出よ」

 

 そう口にして、ようやく夏凜は自分がどうしたかったかが分かったような気がした。

 これからどうするべきか。それが夏凜には分からなかったのだ。

 勇者部を続けていって、それからが分からなかった。平和ボケした今をどうやって享受すべきかが分からなかったのだ。だから、自分と同じように戦いに長年身をやつして、そして今に至る彼に聞きたかったのだ。

 

「じゃあさ。そんな過去があって、全部終わって……今は何がしたいのよ」

 

 戦う時は終わった。

 なら、その次は。

 

「今、か……んー、そうだな」

 

 ハゲ丸はジェラートを夏凜の空いた皿に盛りつけながら考え、そして出てきた答えを口にした。

 

「勇者部で楽しい思い出作る事、かな。こうやって三好さんがジェラート美味しそうに食ってくれるだけで、十分に楽しいし、いい思い出なんよ」

 

 ありゃ。園子の口癖移っちまった。なんてハゲ丸はその後呟いてから、夏凜にジェラートを手渡した。

 ハゲ丸特製のジェラートはにぼし色で。所々にサプリの色なのか、カプセルの色なのか。赤だったり黄色だったりが混ざっている。

 ここに来たばかりなら、きっとその答えを一蹴しただろう。くだらない、何が思い出だ。勇者としてもしかしたらに備えなさいと。

 でも、今の夏凜はそれを否定できなかった。

 否定するには、いささか思い出を作りすぎた。

 

「そうね……んじゃ、あたしもそうやって生きていきますかね」

「おっ、三好さんも刹那主義になったか」

「刹那主義て……まぁ、いいわ。今が楽しければ、きっと明日も明後日も楽しいんだろうし。その刹那を続けていけば、延々と楽しい刹那主義の完成よ」

「そりゃ刹那主義なのかね。俺ぁ分かんねぇわ」

「言葉なんていいのよ。楽しく生きていく方法に名前なんて必要かしら?」

「そりゃそうだ。楽しく生きていきゃそれでいいんだからな」

 

 結局、自分も現在を生きる年頃の少女だった、という話だ。

 なんだかスッキリした夏凜は新たな気持ちでにぼし色のジェラートを乗せたスプーンを口に運んだ。にぼしの味と、ほのかな謎の味が広がる。

 ジェラートは刹那という時間で消え、そして後味が残る。こうやって、刹那を楽しんで後味を楽しみながら、また刹那を楽しむ。これの繰り返しで、人生というのは一気にバラ色だ。ただ味を楽しむだけでは間違えるかもしれないから、食べながら言葉を交わして、その刹那も楽しんで。

 勇者というお役目が外れた人生。目一杯自分が勝ち取った平和を享受しなければ捧げた数年も報われないという物だろう。

 

「あぁ、あと」

「ん?」

「三好さん、なんて他人行儀は止めなさい。夏凜でいいわよ。だってあたし達――」

 

 ――勇者仲間で、刹那主義仲間でしょ? と笑顔を浮かべて聞けば、それもそうかと言葉が返ってくる。

 それからというもの。結局二人きりの空間は特に何かが変わるという事もなく。ただおすすめのテレビ番組やアニメを教えたり、いい鍛錬方法やおすすめサプリを教えたり。そんなどこにでもありそうで無さそうな会話が続くだけ。

 ただ、唯一変わったとしたら、少女を勇者仲間兼刹那主義仲間と認めた少年が彼女の事を名前で呼び始めたという事だけだろうか。




ちょっとだけわすゆ時代の事も触れてみました。そして夏凜ちゃんは原作よりもちょっと素直なのでハゲの言葉を受け入れて刹那主義という名のナニかを胸に毎日楽しもうと決意したようです。

さぁ、にぼっしーもボケに組み込む用意ができたぞぉ……!! さぁ風先輩、ツッコミの時間だ……!! ゆーゆもわっしーもいっつんもにぼっしーもミノさんも園っちもハゲも十分ボケに走ることが可能だぞぉ……!!

で、次回は園っちと適当に駄弁るって感じですかね。


あと、ここからは私事ですが、くめゆ全部読みました。いやぁ、面白かったです。亜耶ちゃん天使。そんな子を生贄にしようなんて天の神も神樹様も大赦もぜってぇ許さねぇ!!(カチドキィ)
という事で、多分ちょっとだけくめゆ編もやります。詳しい時系列分かんないんで、一話か二話で纏めれる程度で書いて、それを時系列不明って感じで投稿します。その後かその前かにわすゆ編も投稿して、ちょっとぐだぐだするか、キンクリして一気に勇者の章ぶちかまします。
花結は……あっちの方がそもそも完結してないんで、ストーリーは追わずにテキトーにやるかも。まだ先の事なので特に決めてませんが。
のわゆはそもそも無理。けどぐんちゃんとタマっち先輩と杏ちゃん助けたい……助けたくない?

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