ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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これ書いてる途中にメモ帳が強制終了する珍事件が起きました。結果データが途中で消し飛びました。

ぜってぇ許さねぇ!!(カチドキィ)


トムなハゲ

 薄暗い部屋の中。二人の男女の吐息だけが響き渡る。

 

「はぁ……はぁ……」

「ズラっち、落ち着いて……大丈夫だから……」

「んな事言われても……!!」

 

 少年が手に握る物が、自然と動いてしまう手のせいでちょっとずつ振動している。対する少女は表面上は落ち着きながらも内面はかなり焦り緊張しながらもその時を待っている。

 汗が額を、頬を伝っていき、少女がそっと視界の邪魔になる前髪を払いのける。対して少年はその様を直視せずにただ一点を見つめるだけ。少女の赤が入った頬が段々とその色を濃くしていく。しかし、それは薄暗い部屋にいるせいでよく見えない。

 足を細かく動かし、腰と顔を動かして覗き込みながら荒い息を隠すことなくただただ目の前を見つめる。

 この先を考えると、その快楽に今この瞬間を放り捨ててその快楽すら台無しにしてしまいそうになる。しかし、それでも緊張によって張り詰めた糸だけは絶対に切らない。

 そして、時が来る。

 

「いくぞ、園子……!」

「うん……いいよ」

 

 二人が同時に息をのみ、そして手を素早く動かす。

 暫しの無言が続き、そしてその十秒ほど後に。

 

「入った……! 入ったぞ!!」

「いたっ!?」

「そ、園子!?」

「うぅ……ズラっち……」

「っ……ごめん! けど、俺は!!」

 

 そして、ようやくその時は来る。

 目的を全て遂行し、そして選ばれし者だけが手にすることができる栄光を。勝者の証を。

 

「……っしゃあ!! デュオで初ドンカツゥ!!」

「やった!! やったよズラっち!! 冷房の設定ミスって蒸し暑くなったのに続けた甲斐があったよ!!」

 

 そう、その名はドンカツ。

 百人の敵を倒した者のみが獲得することができるソレは、園子の操るキャラの死亡と代わるかの如くハゲ丸の操るキャラに与えられた。

 最後の四人。それをハゲ丸が超精密なフラググレネードにより一網打尽にしたかと思われた。だが、実は一人が裏から回り込んでおり、園子のキャラをフラググレネードによる爆発と同時に撃破。味方三人の犠牲の代わりに一対一を勝ち取った相手ではあったが、僅差でハゲ丸のキャラがアサルトライフルの弾丸で相手のキャラを撃ち抜き、そのままドンカツとなった。

 決してR-18な事をしていたワケではない。この二人は特にあり得ない。

 

「いやぁ、二人でドンカツってやれるモンだな。八時間かかったけど」

「朝から病室でパソコンに向き合った甲斐があったんよ~。あ、スクショしとこ」

「俺も俺も」

 

 園子が自分の体の下に置いてしまったせいで変な設定になってしまった病室の冷房の設定をいつも通りに切り替えてから現在のパソコンの画面のスクリーンショットを撮る。ハゲ丸も同じように撮ってからドンカツの画面を一度消した。

 朝から八時間。園子の無駄にあるコネと権限で病院の面会時間をぶっちぎってもハゲ丸がここに居れるようにちょっとした圧を掛けてから挑んだデュオでドンカツするまで眠れま10。ソロや野良の四人小隊でドンカツをする事はあってもデュオでドンカツをした事はなかった。ならするしかない! と簡単な気持ちで挑んだデュオドンカツだったが、その結果は物欲センサーやら緊張やらによる八時間にも及ぶ戦闘。その末に勝ち取ったドンカツだ。嬉しくないわけがない。

 ハゲ丸は目じりを抑えながら椅子の背もたれにもたれかかって背筋を伸ばす。凝り固まった背筋と肩から心地いい音が鳴り響き、思わずほぅ、と息が漏れる。

 

「いやー、ありがとねズラっち。付き合ってもらって」

「構わんよ。それに、今まで会えなかった分楽しまないとだしな」

 

 このデュオドンカツ。ハゲ丸を巻き込んだのは、園子の我儘だった。

 今までずっと銀と一緒に居た。だけど、そこにハゲ丸と美森はいなかった。二人が欠けた二年間。その埋め合わせをしたいという園子のささやかな願望による今回のデュオドンカツ。きっとハゲ丸が応じなかったら銀が生贄となっただろう。

 なんやかんやで壁の外のバーテックスを大体排除したためバーテックスの進行が一旦止んだ。世界を救った。だから、海へと遊びに行くだけじゃなくてもうちょっとご褒美があってもいいんじゃない? と。園子の満開の事隠してたんだからちょっとはお詫びがあってもいいよねぇ? という内心が透けた、大赦側からしたら恐怖でしかない笑顔を見た大赦から送られた現状最高スペックを誇るノートパソコンを進呈されたハゲ丸とのデュオドンカツ。楽しくない、なんて嘘でも言えるわけがなかった。

 

「うん。でも、予想以上に時間かかっちゃったね……」

「もう外真っ暗だ」

 

 病院の売店で食事は確保してきたし、親にも今日は帰るの遅れるか、最悪泊りになると告げたハゲ丸にとっては特に痛手ではないが、外が暗くなってしまうと病院の外に出て何かするという遊びの選択肢が失われてしまう。とすると、やれることと言えば目の前にあるパソコンでゲーム、程度なのだが。

 先ほどゲームは呆れるほどやった。具体的には八時間程やった。やったがために、今ゲームをやるという選択肢は湧いてこなかった。単純に疲れた。

 

「……なぁ、園子」

「ん?」

「銀とは、いっつもこんな感じだったのか?」

「んー……そだね。でも、こんなになるまでゲームはしなかったかな~」

 

 そりゃ、銀だって自分の家族があるしな、とハゲ丸は苦笑した。

 と口にしたところで一つ気になったことがある。

 銀の家族。両親もそうだが、銀がよく口にしていた鉄男と金太郎の事だ。美森と園子はあまり銀の弟とは関係を持っていなかったが、ハゲ丸は鉄男と金太郎とは同姓という事。ついでにハゲ丸が特撮やロボットアニメ等を当時からよく見ていたという事もあり、銀が何かしらの用事で家を空けるときは二人の面倒を見るために三ノ輪家にお邪魔した事が何度かあった。

 ここ二年間会っていないが、まだ赤さんだった金太郎や、銀にどこか似て腕白だった鉄男の成長が気になって久しぶりに会いたくなってきた。

 

「……ねぇ、ズラっち」

「ん?」

 

 小腹が減ったため売店で買ってきたにぼしを二人で摘まんでいると、唐突に園子が声をかけてきた。

 無視する理由もないので一言返事だけする。

 

「小学六年生の最後の戦いの時。来てくれて、ありがとね」

「……あぁ」

 

 最後の戦い。

 一度目のプロト満開により小学四年生から六年生の記憶を半分ほど虫食い状態で奪われたハゲ丸が、それでもと立ち上がりもう一度プロト満開を行い園子と共に戦ったあの時。

 攻撃力が園子の数十分の一な事に加えて半分の記憶を失った結果、万が一に備え練習していた園子と二人きりの状態でのコンビネーションすらも忘れてしまったハゲ丸が、それでもと食い下がり、園子に向かう攻撃を防ぎながら戦ったあの時。

 ハゲ丸は最終的にプロト満開の効果が切れ、完全に記憶が失われると同時に気絶し、次に目が覚めた時、彼は桂から藤丸に戻った。

 だが、もしもハゲ丸のプロト満開が無ければ、園子の満開回数はもっと増えていた。そして、彼女は植物状態とほぼ変わらない状態にまでなってしまっていただろう。だから、彼女がこの二年間を左手の軽い麻痺と片足の自由の喪失以外の四肢で自由に趣味も遊びもできたのは、ハゲ丸のおかげでもあった。

 

「……どうせなら、銀も叩き起こして、クソレズ……須美にビンタの一発でも入れて連れて行くのがよかったかもな」

「それは流石に外道戦法すぎるよ~」

 

 照れ隠しで言った事だが、確かに片手が無くなって超貧血状態で全身真っ青にしながら気絶していた銀と記憶がロストして狼狽していた須美にビンタを叩き込んで連れてくるのはいくら何でも外道戦法が過ぎた。というか、銀に至ってはこの時には既に勇者にはなれない状態だった。

 二人で笑いあいながらふぅ、と一息。園子は涙が浮かんだ目尻を自分の指で拭った。

 

「んじゃ、時間も時間だし寝る……なんて事はせずに第二ラウンド行くか! 今度はフォートナイトな!!」

「お、いいねぇズラっち! じゃあやろっか!!」

 

 そして二人はなんだかんだ言ってもう一度ゲームの世界へと潜っていく。

 戦いによって二年という短いようで長い時間が奪われた。だが、その二年分の思い出は未来の思い出で埋めていけばいい。だから、未来に続くための今の思い出を二人は作っていく。

 のだが。深夜辺りまで騒ぎながらゲームをしていた二人は様子を見に来た当直の警備員に他に迷惑になると怒られるのであった。

 

 

****

 

 

 美森とハゲ丸がそっと構える。

 美森の手には杵。そして、ハゲ丸の手には何もないが、代わりにぬるま湯で濡れている。そして、二人の視線の先には、真っ白な炊き立てのもち米が入った臼。

 準備は良いか。その言葉を目線だけでハゲ丸が美森に伝え、美森が頷く。

 次の瞬間。

 

『はい! はい! はい! はい! はいっ!!』

 

 完璧に息の合った芸人二人の超高速餅つきが始まった。

 切欠は、部室での友奈の一言だった。

 劇のセットを作っている最中、小腹が減った友奈が何か食べたいね、と口にした。その言葉は徐々に他の部員へも感染していき、樹、風、夏凜の三人も小腹が空いたと口にしたのだ。

 ならば作るしかない。そう言って立ち上がったハゲ丸と美森は一度家に戻って道具を担ぎ、先生に頼んで家庭科室を開放してもらってからそこで餅つきを始めたのだ。

 ハゲ丸と美森の息は十分過ぎるほどに合っている。ましてや、鷲尾須美としての記憶を取り戻した美森と桂としての記憶を取り戻したハゲ丸なら、恐らく勇者部の中では二番目に息が合っているとすら言えるだろう。一番目は友奈の事を一方的に思っている美森だ。

 美森が高速で餅を五回突くたびにハゲ丸が広がった餅を中心に集めてもう一度美森が餅を突く。

 そうして餅の中にもち米の感触がなくなり完全に餅そのものとなったのを見計らい、ハゲ丸が最後に餅を中心に集めながら口を開いた。

 

「はいおわ」

「おっと、ダイナミック手が滑ったぁ!!」

 

 はい終わり! そう叫ぶのは美森にも分かっていた。

 分かっていたからこそ、美森は最後にハゲ丸が餅を纏めようとした瞬間を見計らって思いっきり杵をハゲ丸の指に叩き込んだ。避けられないハゲ丸。臼と杵にサンドイッチされる指。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?」

 

 次の瞬間、ハゲ丸が挟まれた手を抑えながらトムとジェリーのトムのような悲鳴を上げながら飛び跳ねた。それを見て思いっきり大爆笑する美森。

 が、美森の攻撃はこんなものでは終わらない。美森はそっとハゲ丸の側に移動してもう一度杵を構え。

 

「また手が滑ったぁ!!」

 

 思いっきりハゲ丸の足に杵を叩き込んだ。

 

「ヲ゛ゥヲ゛ゥオッホホホゥ!!?」

「あっはははははは!! ざ、ざまぁないわねハゲっ! ははははは!!」

 

 もう一度ハゲ丸がトムのような悲鳴を上げながら飛び跳ね、美森が腹を抱えながら大爆笑する。

 そしてハゲ丸が手足を抑えながら地面でビクンビクンと痙攣し始めたのを見てから美森は満足した様子で先に丸めておいた餡子を手のひらで広げ、餅を餡子で包んでいく。

 だが、それは明確な隙だ。ハゲ丸はそっと自分の鞄から安全ピンを取り出してそれを曲げ、人に十分に刺さるようにすると、それを構えた。

 

「ふっ!」

 

 鋭く息を吐きながら針が投げられる。 

 美森はそれに気づかず、針はそのままハゲ丸の狙い通りに飛んでいき、そのまま美森のスカートを貫通して尻に突き刺さった。

 

「イ゛ィィィ!!? ィィィア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?」

 

 そして美森がトムのような悲鳴を上げながら飛び跳ねる。その際に美森の手からフライアウェイしたぼた餅はしっかりとハゲ丸がキャッチして先に用意しておいたバットの上に置いた。

 

「な、何すんのよハゲ!! うら若き乙女のお尻に針を刺すなんて!!」

「最初に明確な意思を持って杵を叩きつけてきた奴が何言いやがる!!」

 

 拳を構えるハゲ丸と美森。

 最早一触即発。

 

「今回ばかりは我慢ならないわ! 覚悟しなさい!!」

「もう許せるぞオイ!!」

 

 そして、叫びながら二人が同時に駆けだす。

 拳を引き、互いに拳の射程圏内に入った瞬間、足を踏み込んで拳を更に握りこみ、拳で与えられる最大ダメージを叩き出せるように一瞬でその準備を整え、同時に振りかぶった拳をこれまた同時に振り抜く。

 

『必殺! クロスカウンター!! ごふぅ!!?』

 

 そして互いの顔面に叩き込まれる互いの拳。というかクロスカウンターとか言っている時点で拳を叩き込まれる準備が万全である。

 だが、互いに互いの拳の威力を甘く見ていたのか二人はそのままダウン。目を回しながら気絶した。

 結局その日は中々戻ってこない二人を心配した友奈が気絶する二人を発見し、三人でぼた餅を作ることで無事にぼた餅は届けられたのだが、例え記憶が戻ってきたところで二人がやることはいつもこんな感じである。

 芸人と芸人は昔の記憶が戻ろうと、結局は芸人なのだ。




なんだかしんみちな園っちとハゲ丸くんと、記憶が戻っても芸人は芸人な東郷さんとハゲ丸くんでした。

ハゲ丸くんと東郷さんの悲鳴に関してはついこの間Twitterでトムの悲鳴がバズってたので懐かしくなって使いました。トムの悲鳴ホント笑える。というか、老若男女問わず笑える悲鳴ってホントに凄いと思うの。
そういえば、トムとジェリーってちょっと前にトムとジェリーテイルズ、とかやってましたよね。あれって当時の悲鳴とか聞けるのかな……

あと、現状確定しているハナトハゲのこれからですが、まず最初にくめゆ編をちょっとだけやります。その次にわすゆ編、勇者の章と続くのは前回言いましたが、その後にプロットが完成してちゃんと話の流れがしっかりとしていて、無理が無かったらのわゆ編も書こうと思います。
くめゆ編はハゲ丸だけが参戦、のわゆ編は勇者部全員を参戦させる予定となっております。え? それは無理だろうって?
わすゆAnotherで、わすゆ組が未来のゆーゆと出会うっていうエピソードがあってじゃな……

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