今回、ゆゆゆ&わすゆ組からは園っち(入院中)とハゲ丸のみの出演。他はくめゆ組です。
ただ、原作を一からやると一期並みに時間かかりそうだし勇者が混ざるのは無理があったので途中からの参戦です。スポット参戦です。
あ、時系列に関しては適当な所で起こったとだけ認識しておいてください。自分も詳しい事は決めてないので()
P.S ぐんちゃん……やっぱお前もやべーやつの一人だわ(ゆゆゆいのイベントストーリーを見て)
勇者のお役目、という物はもう終わった。これにより勇者部は本当に慈善活動を行うだけの中学生らしい部活となった。
ただ、そうやって勇者部がどこにでもありそうな部活に変わった反面、ハゲ丸にはいくつかの懸念があった。
まず、二年前から続く一連の戦い。鷲尾須美、三ノ輪銀、乃木園子。そして桂と当時名乗っていた藤丸が戦った、先代勇者と今は呼ばれる者達の戦い。そして、今回の結城友奈、東郷美森、犬吠埼風、犬吠埼樹、三好夏凜。そして、藤丸。この六人の勇者達の戦い。それらは辛くも勝利を収めこの世界を守りきった。
だが、そもそもの根本。バーテックスの発生源とも言える天の神を叩けていないのだ。勇者達が行ったのはあくまでも延命だけであり、根本的な解決というのをしていないのだ。
つまり、また戦いが起こる可能性がある。自分達が巻き込まれるか、それとも知らない誰かが巻き込まれるかのどちらかの、人類の存亡をかけた戦いが。
「って感じで予想したんだけどさ、実際のトコどうなんだ?」
「大体当たってるんよ?」
というのをハゲ丸は園子に向かって話していた。
園子は未だに散華の影響が完全に治りきっていない。もう四肢は動くようになっているが、ハートロスト状態だったり胃袋が無かったりと、まだ人間としては不可思議その物な状態のままだ。故に、彼女はまだ入院している。
本人曰く、あと一週間もしたら治るらしいが。
「だよなぁ。だって元凶叩いてねぇからなぁ」
と、呟くハゲ丸の手には漫画版マヴラブオルタネイティブの最終巻が。この話の最後を見て、ハゲ丸はもしかしたら自分達も行えたのは延命だけなのでは? と思った次第だ。
それは当たり。手元の漫画で言うなら、自分達は相手の湧きポイントを一個潰しただけに過ぎないのだ。地球上から人類皆殺し計画を立案実行中の憎きあんちくしょう共は消えていないのだ。
だが、園子はそんな調子でテンションを落とすハゲ丸にいつものトーンで話しかける。
「まぁ仕方ないよ。天の神にわたし達が何かしても怒りを買うだけなんだから」
「そりゃそうだけどさぁ……もっとこう、無いの? 神殺しの武器とかさ」
「髪殺しのレーザーならこの病院にもあるよ?」
「レーザー脱毛勧めんじゃねぇよ。いや、してもしなくても同じだけども」
もう彼は頭から髪の毛が生える現象を諦めかけている。だって全身からちょっとずつ毛が生えてるのに髪の毛だけは何も変化ないんだもん。
ハゲ丸は、カツラのおかげで今はフサフサな頭を撫でながら、先程よりも深い溜息を一つ。そして話は戻るが、と一つ付け加えてから園子との会話を再開する。
「結局さ、現状バーテックスは進行止めたワケじゃん?」
「そうだよ。ズラッち達が頑張ってくれたからね」
「なんかなぁ……そうすると壁の外どうにかして天の神もどうにかしちゃいたいって思うんだよなぁ」
相手の攻撃が無くなったのだから今度は人類の番。人類を無礼るなとでも叫びながら天の神をメッタメタにしてやりたい気分だったが、勇者システムが無い今それは不可能だ。というか、あったとしても無理だろう。
園子が笑いながら無理だよーなんて言っているが、それはハゲ丸も分かっている。
だが、このまま束の間の平和を噛みしめるだけでは駄目だというのだけは分かる。分かってはいるのだが、そこからどうにかこうにかする、という辺りまでは手が動かない。動かない。
「でも、わたし達の代わりに動いてくれてる子はいるんよ?」
だからか。その言葉は若干意外性があった。
自分達の代わりに……勇者の代わりにこの世界のために戦おうとしている者達が居るのは。
「え? そうなのか?」
「うん。えっとね――」
園子が口にしたのは、防人と呼ばれる者達の事だった。
防人は現在もゴールドタワーを本拠地とし壁外の調査を主に行っているらしい。その数は三十二人だが、勇者システムの劣化版。量産型勇者システムである防人システムを纏って戦っている。
どうやら初代勇者達のシステムよりは防御面では優れているらしいが、それ以外はドッコイドッコイ位。ハゲ丸の男性用勇者システムよりも性能は劣っているという。ついでに精霊バリア無し。
「えっ。それ死ねるべ」
「でも死者は未だにないらしいよ? 数人怪我で交代したらしいけど」
そんな馬鹿な、と言いたかったがよく考えればハゲ丸も精霊バリア無しで銀と二人だけでバーテックス三体とやり合ってなんとか勝った記憶がある。一概に有り得ないとは言えない事だ。
それに、初代勇者も、防人システムに劣る勇者システムで、園子曰く
だから、多分防人である三十二人は相当優秀なのだろうとハゲ丸は何となく予想した。
「でも、やっぱり怪我は大なり小なりあるらしいよ?」
「だろうな。俺達だって精霊バリア無かったら生傷絶えない……どころか死んでるわ」
主に風と樹は乙女座戦で爆死、友奈は針で貫かれて死亡、美森は後を追っただろう。ハゲ丸もきっと巻き込まれてた。夏凜も一人では勝つのは不可能だっただろう。
そう思うと精霊バリア様々である。精霊バリア付いた結果満開も附属してきたと思うとちょっと喜びに翳りが混ざってくるが。
「わたし的にはこのまま防人の子達は誰も死なずにお役目果たしてくれたら嬉しいかなって」
「まぁ、そりゃな」
勿論、第一は誰も死ぬこと無くお役目を果たす事だというのは言わなくても分かっている。こんな世界の延命に命を奪われるのなら逃げてほしいと。そう思っている。
そして第二第三と他の理由が続いて、結構第一からは遠い理由に。
「だって作戦失敗すると皺寄せがわたしに来るんよ。ちょっと壁外でバーテックス一掃してきてって」
これが来る。
「うわっ、丸投げかよ……ってか園子、お前まだ勇者システム持ってんのか」
「まだ最終手段としての役割は健在なんだぜ」
流石現状最強勇者である。精霊の数も才能の数値もワケが違う。そして勇者システムについても大体を理解して飲み込んでいるからというのも未だに勇者システムを持っている理由だろう。
だが、そんな園子でも。いや、園子だからこそ、あまり戦いには行きたくないと思っている。園子が出向くという事は、誰かが死んだという事と同義だから。故に、園子も防人達に対しては色々とアプローチをかけようとはしたのだが、現状その全てが弾かれている。
例えば勇者である自分が出向くと言ったこともあった。だが、そんな事は恐れ多いと。ついでに、もしかしたら防人達が自信喪失してチームワークが乱れてしまうかも、と。なら防人にも精霊を、と言ったがそれは不可能。元々勇者に対するリソースを三十二分割したのが防人システムとも言える。故に、これ以上の強化は神樹様の方が持たないと。ならば根本的な強化を、とも言ったがそれも不可能。上記と同じ理由で弾かれた。
大赦を根っこから変えようとしている園子故にそこまで口が出せたが、できたのは口を出すことだけ。
「お前も苦労してんのな……ほれ、お疲れ様のジェラート」
「これだからズラッちに愚痴るのはやめられないんだぜ」
おい、とハゲ丸は口にしたが、それ以上は口にしなかった。ハゲ丸自身、園子を餌付けしている気分で楽しいからだ。
win-winな関係。いいではないか。
「まぁそんな訳でね、どうしたらいいのか……あっ」
園子がジェラートを口に運びながら何か声を漏らした。そしてハゲ丸を見て、自分の端末を見て、目をしいたけにした。
あっ、これ園子が何か閃いた時のだ。とハゲ丸は思うと同時に嫌な予感を感じた。
「ぴっかーん! と閃いた!」
あ、この台詞どこかで聞いたことある。と思った直後。ハゲ丸は目をしいたけにしてこちらを見る園子を見ながら、勇者部と両立してやらなければならない事が増えたような気がしたのだった。
****
園子が言った、防人をサポートできる上に勇者として動くための案は、一言で言えばこんな感じだった。
「改良された試作勇者システム片手にゴールドタワーに遊びに行ってきてよ! で、防人の子達が任務に行ったらそれについて行ってサポートしてきて! え? それじゃあわたしが行くのと変わんないって? ズラッち弱いからだいじょぶだいじょぶ!!」
お前ふざけんなよとハゲ丸は言ったが、園子がどこかへ電話をかけるとハゲ丸は後ろから誰かに首を絞め落とされて気が付いたら勇者システムの入った端末片手にゴールドタワーの入口付近に寝かされていた。
どうやら園子は防人の一人である加賀城雀と勇者部全員が顔見知りという事を利用し、ハゲ丸がその雀に会いに来たという体でゴールドタワーに叩き込むつもりらしい。というかそれを実行させられている。
目が覚めたハゲ丸は寝転がったままゴールドタワーを見上げた。ゴールドと言う割には鏡張りで眩しいだけだ。というか現に眩しい。
「あー……床つめてぇ……」
見上げる空は憎らしい程に青かった。が、その青の中にクリーム色が混ざった。
「あの……大丈夫ですか?」
そのクリーム色が何かと目を細めれば、それは赤白の巫女服を纏った小さな少女であった。
樹とどこか似ているが、樹のような小悪魔っぷり……というか生意気な感じはしない。おっ、天使かな? とハゲ丸は一瞬思ってしまった。
「あぁ、うん。ちょっと知り合いに会いに来てね。園子から連絡来てない?」
「そのこさん、ですか……?」
一応上半身を起こしてから携帯を見てみると、いきなり園子からのメッセージが見えた。
なんでも、一応連絡はしたけど後のアドリブは任せるんだぜ!! との事。ぶち殺すぞヒューマン。とハゲ丸の携帯を握る手に力が篭った。
「……あ、も、もしかしてそのこさんって、乃木園子様の事ですか?」
「オッスオラ、園子の同級生の藤丸。ワクワクすっぞ」
「え? ワクワク……?」
ネタが通じない。つまりこの子は樹や東郷のようにそっち系の子ではないという事だろうか。
だが、まだそれで天使だと断定するのは早い。何故なら友奈という笑顔で無邪気に無慈悲に相手のハートを殴ってくる前例があるのだから。
「え、えっと……一応、お話はお聞きしてます。確か、雀さんに会いに来たんですよね?」
「そうそう。加賀城さん……だっけ? があれからどうなったのかって気になってさ」
二度目ではあるが、勇者部と加賀城雀には接点がある。
六月頃、勇者部には珍妙な客がやってきた。勇気を出す方法を教えてほしい。勇気が出したい。臆病な自分から脱出したいとわざわざ県を跨いでやってきた少女。それが加賀城雀だ。
そんな彼女に対し勇者部は真剣に向き合って、そして彼女の問題は一応の解決となった。それから一度足りとも彼女とは会ってないが、今回はそんな彼女に対する客としての来訪だ。それも、大赦のツートップとも言える乃木家ご令嬢である園子の手引による。
本来勇者と防人の接触は禁じられている。が、園子がただ会うだけだから! 勇者とは言っても防人とあんま変わんないから! と言って何とかかんとか防人である加賀城雀との面会をこぎ着けた。
そんな事をハゲ丸はいざ知らず、巫女服の少女の手を借りて体を起こしてからゴールドタワーをもう一度見上げる。眩しい。
「では、案内しますね」
「あ、うん」
「じゃあまずは……あっ、その前に。申し遅れました。わたし、ここに住んでる巫女の国土亜耶っていいます。好きなように呼んでくださいね」
「おっ、天使かな?」
「へ?」
彼女の爪の垢を煎じて樹ちゃん後輩に飲ましてやりたいわ、とハゲ丸は思うのだった。
****
「実は昨日、雀先輩から勇者の皆さんの事聞いたばかりなんですよ。藤丸さんの事も、その時にお聞きしました」
「ほー。って事はあの子は元気にやってるって事か? 亜耶ちゃん後輩よ」
「はい。芽吹先輩や、しずく先輩。それから弥勒先輩と一緒に頑張ってますよ」
「それならよかった」
亜耶とハゲ丸は色々と世間話をしながら歩いている。ゴールドタワーは三十二人の防人と数人の巫女が住んでる故に広く、そして生活感溢れるような形になっており、ハゲ丸の予想とは反する内装をしていた。
三百年前までは、ゴールドタワーは一般開放もされていたという。だから、もう少し観光客向けの施設が残っているのでは、と思ったのだ。
そんな事を亜耶と話しながら藤丸はゴールドタワーの中を歩いていく。ちなみに、亜耶を亜耶ちゃん後輩と呼ぶのは、最初に好きなように呼んでくれと言われた以上名字で呼ぶのも余所余所しい。かと言って初対面の女の子を名前で呼び捨ても、と考えた結果である。
「えっと、今ならまだここに皆さんいますので」
「おう、ありがとな」
亜耶の案内に従ってやって来た食堂のような場所に繋がるドアを開き、再び亜耶の案内で食堂内にいるであろう雀の元へと歩いていく。
亜耶の歩の先を先に見てみると、そこには四人の少女がワイワイ……とは言わないが何か話していた。そして、やってきた亜耶を見た少女がビックリをそのまま表したかのような表情を浮かべる。続いてその視線の先を見た三人の少女の中には、どこかで見たような気がする顔と、つい半年近く前にあったばかりの少女の顔があった。
「あ、亜耶さん!? その方は!?」
「えっと、こちらは……」
「オッス、オラ讃州中学二年、勇者部所属の藤丸。ワクワクすっぞ」
「ゆ、勇者部……って事は!?」
四人の内二人がビックリ仰天の表情を浮かべ、一人が納得したような表情を浮かべ、そして最後に。
「あ、ハゲの人!!」
「貴様だけは許さない」
雀がぶちかました。すぐ様ハゲ丸は雀へと梅干しの刑を執行した。
「は、ハゲ……?」
「なんでもねぇから。なんでも」
「あだだだだだだだだ!! 助けてメブー!!」
ポカンと口を開く亜耶含めた四人。笑顔のハゲ丸。助けを求める雀。なんともカオスな光景だった。
それから五分程度で藤丸も改めて椅子に座り、見知らぬ三人から自己紹介を受けた。
どこか夏凜に似ているような少女、楠芽吹。お嬢様感バリバリの弥勒夕海子。大人しげな感じの山伏しずく。他にも防人はいるが、ここにいるのはその三人に雀を加えた四人だけだった。
だが、自己紹介後からはちょっと重い空気が漂った。主に芽吹が発生源だった。が、その中で夕海子が口を開いた。
「えっと、その……貴方は、もしかして勇者なのですか?」
防人達も、勇者には一人だけ男が混じっていると聞いたことがある。そして、雀からも勇者部には一人男が居たと。だから、もしかしたらと思っての事。いや、確信を持っての質問だった。
ハゲ丸はそれに何の気もなく頷いた。
「おう。先代勇者兼最新勇者である桂改めて藤丸だ」
「……よく小学校で大騒ぎしてた気がする」
「えっなんで知ってんの……ってあれ?」
どうして自分の小学校時代を知ってるのだろうかと疑問に思ったが、しずくの顔を見ると何となく記憶の片隅に引っかかるのだ。
そうして記憶を漁り、そして一人。しずくとよく似た少女が小学校時代、自分達の教室を覗いていたのを覚えている。というか銀と一緒に話した気がする。
一緒のクラスでは無かったが、最近小学四年から六年の記憶を思い出したばかりなので、思い出すのは容易だった。
「あー、確か隣のクラスに居たっけ。名前までは覚えてなかったけど」
もしかしたら銀なら名前まで覚えているかもしれないが、それは今更だ。藤丸とて彼女とは一度しか話してない……いや、マトモに話してすらないのだから思い出しただけ奇跡だろう。
「っていうか、先代勇者でもあったのですね……」
「あー、まぁね。色々あって続投された次第でありまする」
まさかこの場で満開で記憶ぶっとんだから大赦の陰謀によってワンモアセッ! と巻き込まれたとは言えなかった。巫女さんいるし。
「……三好さんは」
「ん?」
そしてそんな感じで質問に受け答えしていると、唐突に今まで口を開いてなかった少女、芽吹が口を開いた。
「三好さんは、どう?」
「三好……あぁ、夏凜の事か? 知り合いなのか?」
「……勇者の座を争っただけよ」
芽吹は最後まで最後の勇者の一枠を争っていた。そして、負けた。夏凜は強かったが、どうして夏凜だったんだと。自分じゃ駄目だったのかと。そんなコンプレックスに近い物を抱えている。
そんな彼女の脳裏には幾つもの言葉が渦巻いている。それらが邪魔していた結果、ようやく今言葉を出せた。
それが、これだ。
「夏凛なら、今日も勇者部で活動してんじゃないかな。確か……今日は友奈と樹ちゃん後輩と一緒に保育園の手伝いだったか」
その言葉に芽吹は一言。ありがとうとだけ言って会話を終わらせた。
今一瞬。自分と夏凜との決定的な差という物を思い知らされたような気がした。が、それを見て見ぬふりして。ただ自分の中にあるコンプレックス。自分と夏凜と。一体どこがそんなに違うんだと。会話を無かったように扱って先ほどまでの胸中にあった言葉をリフレインさせる。
ハゲ丸はそんな芽吹を見てふーん……と一言だけ言葉を漏らして改めて雀との会話を弾ませようとした。
が。
「みんな。もうそろそろ時間よ」
芽吹が唐突に立ち上がった。
時間、というのは何なんだろうか。こそっと亜耶にハゲ丸は聞く。
「えっと……今日は防人のみなさんと、わたしに任務があるんです」
「任務?」
「その……壁外に行って種を植えるんです」
そう言って亜耶はプラスチック製のシャーレを取り出し、中に入っている種を見せた。
どこにでもあるような変哲の無い種。だが、それをわざわざ壁外に埋めに行くと言うのは、何か大赦側に狙いがあるのだろうか。
だが、それを思うと同時に。
「壁外って……亜耶ちゃん後輩は戦えないんじゃ」
亜耶は巫女だ。防人でも、勇者でもない。
そんな彼女が壁外に出てバーテックスと星屑に囲まれてしまったら。きっと彼女は口で表すのも悍ましいような事にされてしまうだろう。思わずハゲ丸が立ち上がろうとして。ふと、防人達に目をやった。
そうか、そういう事かと。
「あぁ、そういう事……そのための防人、ね」
そのための防人。
防衛する人。防人。きっと今回は亜耶を守るために壁外へ向かうのだろう。
だが、その言葉は防人に。いや、芽吹には少し違う意味でとらえられていた。
「っ……行くわよ」
勇者が動く必要のない任務を行う人。ハゲ丸の言葉は、言外にそう言っているようにしか今の彼女には聞こえていなかった。
違う、と彼女の中の冷静な部分が言っているが、それでも先程の会話で熱くなってしまった部分がそれを勘違いさせていた。芽吹は雀の手を引っ張り、そして目線で夕海子としずくを引っ張りそのまま食堂を出ていった。ハゲ丸はそれを見送ったわけだが、結構な芽吹の眼力に「俺、何か気に障ること言った?」と顔を青くしながらまだ残っている亜耶に聞いた。
「えっと……そんなことはないと思いますよ? ただ、今回はちょっとタイミングが悪かったと言うか……」
芽吹がつい先日、勇者に対してのコンプレックス的な物を深くしたばかりの時に訪問して、芽吹が自爆するように質問して、そしてこの任務とハゲ丸の言葉。全てのタイミングが悪かったとすら言える。故に、亜耶は余りのタイミングの悪さに苦笑するほかなかった。
それならいいけど……とハゲ丸は言葉を飲み込みながら立ち上がる亜耶を見た。
「では、わたしも準備があるので」
「あ、そっか。頑張れよ、亜耶ちゃん後輩」
「はい」
そして亜耶も食堂を出ていく。
そんな亜耶を見送ってから、ハゲ丸は自分の端末を取り出した。
「さて……お仕事の時間だな」
端末片手にハゲ丸は立ち上がり、こそっとゴールドタワーを後にした。
****
壁外、というのは灼熱の地だ。生身の人間なら出てすぐに燃え尽きてしまう程の、灼熱の地。その中を防人達と亜耶は歩いていく。
目指すはかつて近畿地方と呼ばれていた地。そこを目指す道として、神樹様の一端であるこの種を植え、植物の道を作り近畿地方に陣を作る。そこから勇者がこの世界を取り戻すために。
つまり、防人はそのために命を懸ける。いわば露払い的な存在。それが神官の言葉から読み取れてしまったから、芽吹は勇者であるハゲ丸には少しキツく当たってしまった。そして変な勘繰りをしてしまった。ハゲ丸がそんな事を思うような人間ではないと、見ただけで何となく分かっていたのに。
「芽吹先輩、大丈夫ですか?」
「え? あぁ、うん。大丈夫。気にしないで」
完全な私事だ。戦いになれば持ち越さない。
それに、これは芽吹が勝手に思って勝手に落ち込んでいることだ。あとは勝手に反省して勝手に立ち直るだけ。それが分かったから亜耶はこれ以上何も言わなかった。
きっと、前の芽吹ならこうも行かなかっただろう。だが、防人のみんなが芽吹の中をちょっとずつ変えていった。その結果、彼女はある程度なら他人の事を推し量れて、自分で自分の欠点をある程度は分かるようになった。それでも、彼女はとんでもないと言葉が付くほどコミュ障でそれが勇者に選ばれなかった原因だという事は分かっていないが。
「亜耶。辛かったら無理はしないでね。すぐに守りながら壁内に戻るから」
「はい、ありがとうございます。でも、大丈夫です。芽吹先輩達が頑張ってるんですから、わたしも頑張ります」
亜耶の笑顔に芽吹も自然と笑顔になる。
現在、星屑もバーテックスもどきも現れていない。この調子ならきっと亜耶を無傷で壁内に返すことができる。この任務を、今回も犠牲ゼロで。
「ぎゃあああ!!? メブぅ~!! 星屑来たよぉ!!」
だが、そんな希望的観測もどうやら神は許してくれないらしい。当たり前か、と芽吹は銃剣を握りなおす。
「わたくしは盾の外で戦いますわ!!」
「俺も外で戦わせてもらうぜ! いいだろ!!?」
その直後に夕海子としずくからもう一つの好戦的な人格、シズクに変わっていたシズクが芽吹に意見を立てる。それを拒否する、というのは考えられなかった。
二人と、自分以外の性能が高い指揮官型の防人を前に出して道を切り開き、そこを盾を展開した防人達で進んでいき、最終的には目的地へ。
(こんな戦術、きっと勇者じゃ無理ね……防人だからできること……!!)
一人一人が戦闘力の高い勇者では、きっとこうやって防戦しながら攻戦を行うなんて真似はできないだろう。
いや、それ以上にこの仲間達とは統率が取れている。もう一個のチームとして完成しているのだ。自分が指揮を出し、それに従ってくれる仲間達。自分の指示にも意見を出し、そして最適解を見つけ犠牲ゼロを貫き通す。そんなチームが。一致団結したチームが悪いなんてわけがなかった。
「弥勒さんとシズクに戦闘を許可! 同じく番号一から六番までの戦闘を許可! 護盾隊と他の防人は国土亜耶を防衛しながら前に出る八人について行きなさい!! 今回も犠牲ゼロで、お役目を成し遂げてやりましょう!!」
その言葉に返ってくるのは否定の言葉ではなく了承の言葉。
それを聞き、芽吹はすぐさま組み立てられる盾の外へと飛び出し、銃剣片手に応戦を始める。後ろからの援護射撃を受けながら目に見える星屑を切り裂きながら前へ前へと進んでいく。
いける。勝てる。負けるわけがない。この仲間たちとなら。
ジリジリと前へと進んでいき、気が付けば場所は亜耶が種を植えるポイントまで来ていた。
「護盾隊、国土亜耶を覆って守りなさい!」
芽吹が指示を飛ばす。が、指示が飛んでくる前に護盾隊は亜耶を覆う様に盾を展開して星屑と応戦していた。
そしてその中心では亜耶が種を植え、祝詞を唱えている。この祝詞を唱え終えれば、後はもう逃げるだけ。任務はそれで達成だ。だから、あと少し。あと少しの辛抱だ。ここを耐え抜いて、戦い抜いて、そして帰る。
決意を胸に銃剣で星屑達を切り抜いて行けば、自分たちの立っている場所がいつの間にか緑で染まっているのが見えた。
「これは……!?」
振り向けば、その緑は亜耶を中心に生まれていた。
種が、芽吹いたのだ。つまり、任務は成功。ならばあとは逃げるだけ――
「うおぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
しかし、神は反逆者達を許さない。
シズクの声が響き、シズクが戦場からフェードアウトしていく。すぐに芽吹はシズクを助けようと足を動かしたが、シズクが吹き飛んだ原因を見て、思わず息を呑んだ。
「スコーピオン・バーテックス……!!?」
蠍座の名を冠するバーテックス。それが、目の前に現れた。
初代勇者を二人死に追いやり。そして、先代勇者を一人瀕死の状態にまで追い込んだ、勇者殺しとすら言えるバーテックス。今代の勇者も、きっとバリアなんてものが無ければ全滅まで有り得たような相手が、三十二人の防人の前に立ちはだかる。
犠牲を増やさないのなら、背中を向けて逃げる事が一番だ。
だが、そんなわけにはいかない。
「みんな、撤退を!!」
「メブは!?」
「シズクを助ける。私の部隊から、犠牲は一人だって出さない!! 弥勒さん、手伝ってくれるでしょ?」
「当然ですわ!!」
亜耶を連れて防人達が撤退していく。そして残るのは、芽吹と夕海子と。そして、撤退するようにと言った雀だった。
「雀、あなたは……」
「無理無理無理!! わたしはメブがいないと即死するから!! 逃げたところで死ぬからメブと一緒に居る!!」
言っている事は情けない事この上ないが、それでも残ってくれるのならありがたい。戦力が二人と三人では天と地ほどの差があるのだ。
この三人で、シズクを助けて撤退する。
「絶対に、全員生きて撤退する!!」
「だったら、戦力は一人でも多い方がいいだろ? 俺も協力する」
だが、決意を決めた言葉に異物が入り込んだ。
三人が同時に振り向いた。そこには、防人はいなかった。
だが、代わりに勇者がいた。
「藤丸……!?」
「オッスオラ藤丸。ワクワクすっぞ」
ハゲ丸だ。
ゴールドタワーからこそっと抜け出したハゲ丸は防人の上を浮かした盾に乗って見守りながら移動し、シズクが吹き飛ばされ防人が撤退を始めた所を見て飛び降りてきたのだ。
まさかハゲ丸が来るとは微塵も思わなかったのか、芽吹と夕海子の表情は驚き一色で固まっている。その隙を突いて尾で二人を貫こうとするスコーピオン・バーテックスだったが、それをハゲ丸は鏡で受け止めた。
「ぐっ……でもパワーは本来のバーテックス以下みたい、だな!!」
男性勇者でも十分に対抗できる程度の力。それなら、とハゲ丸は鏡を装着した右手を振り払い、自分の満開ゲージを見る。
男性勇者システムにのみ実装されている次世代勇者システム、そのプロトタイプ。
精霊バリアと満開ゲージのエネルギーは完全に共有。満開ゲージは最初から全部溜まり切っており、それを消費することで精霊バリア、満開を使用することができる。満開は、副作用はなくなっている。
が、満開の解除。もしくは精霊バリアの使用しすぎによりエネルギーを使い切った場合は精霊バリアすら張れなくなってしまう。だが、それは先代勇者にとってはディスアドバンテージにはならない。
ハゲ丸も、精霊バリアが無い上に今以下の性能の勇者システムで戦っていた勇者だ。バリアがあるだけマシだ。
「ゆ、勇者がどうしてこの任務に……」
「へ? 任務? そんな事知らんけど……」
ハゲ丸がもう一度迫ってきた尾をはじき返し、その尻尾の付け根に鏡を叩き込む。
「困ってる奴がいるなら助ける! それが勇者ってやつだろ?」
鏡は尻尾を切断するまでには値せず、弾かれた。
だが、今の状況はバーテックスを倒すことが第一優先ではない。人命救助が第一優先だ。
「楠さんだったか。俺もアンタの指揮下に入る。存分に使ってくれ」
「え? 指揮下って……そんなこと」
「俺は防御特化勇者だ。それに、基本は指揮下に入って戦ってきたタイプだからさ。引っ張ってくれると嬉しい」
まさか勇者が、と口を開く芽吹。
しかし、ハゲ丸の内心はドッキドキだ。彼はリーダーという職務からは遠く離れた人間であり、園子の指揮下に入っていた時も。風の指揮下に入っていた時も、指示を受けてから戦う人間を守りながら戦ってきたのだ。だから、指揮があった方がやりやすいのだ。
「……わかった。今は頼りにさせてもらう」
芽吹がハゲ丸の後ろで銃剣を構える。それを見てからハゲ丸はもう一度鏡を構えた。
「これでこちらは四人……それに一人は勇者! 今ならバーテックスすら倒せる気がしますわ!!」
「あ、ごめん。見ての通り俺って攻撃力皆無だから。それに勇者システムも劣化版だし、防人三人の方が強いかと」
「えっ、何それ使えない」
「ならあれとタイマンしてて。ほら、勇者サマなら性能が低くても大丈夫でしょ?」
「え? ひどない?」
軽口を叩きながらハゲ丸がもう一度鏡でスコーピオン・バーテックスの尾を弾く。
「冗談よ。じゃあ、雀と一緒にあれの気を引き付けて。私と弥勒さんでその間にシズクを助ける!」
「わかった。防御特化勇者の名は伊達じゃないって事教えてやあああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
そしてハゲ丸がかっこいい事を言おうとした瞬間だった。
横から飛んできた、スコーピオン・バーテックスの尾ではない何かがハゲ丸の横っ腹に激突し、ハゲ丸はドップラー効果を残しながらスコーピオン・バーテックスの方へと吹き飛んでいく。
飛んでいくハゲの立っている場所に入れ替わる形で着地したのは、芽吹達が助けようとしていた、頭から噴水のように血を噴出し、全身を真っ赤に染めたシズク本人だった。
「ありゃ。間違った」
なんてシズクは軽く言っているが、助けようとしていた人物から不意打ちをくらって吹き飛ぶなんて冗談じゃないだろう。
呑気なシズクの言葉とは裏腹に。蹴られたハゲ丸はと言うと、一人で修羅場を迎えていた。
シズクの蹴りの威力が強すぎたのか、ハゲ丸がスコーピオン・バーテックスに刺さっているのだ。頭から。
その結果、ハゲ丸は窒息。抜け出そうともがき、対してスコーピオン・バーテックスは体に刺さったハゲ丸を抜こうとするが尾が絶妙に届かず、かと言って他にやれることはないが抜きたいという理由からか、バグったNPCのようにその場で回転を始めた。
「え、えっと……どうしますの?」
これには流石の弥勒家の夕海子さんも狼狽。だって一番の懸念が一番の戦力と一緒にバグっているのだから。
額に手を当てた芽吹はため息一つ。どうすべきかを考え、そして口にする。
「あー……撤退」
「ちょ、見捨てるの!?」
その判断には流石の雀もビックリ。
「いやだって……アイツ、私のチームじゃないし……」
「確かにそうだけど!?」
なんというか、もう面倒になってしまったのだ。
何せ、これから真面目にやろうという時にこんなギャグ的状況を叩きつけてくるような男だ。もう放っておいてもギャグ補正で生き抜くんじゃないかな、なんて思ってしまうのも全く可笑しくない事だろう。
「と、とりあえず引き抜いたほうがいいのではなくて?」
「引き抜いた結果こっちに攻撃が来そうな……」
今、スコーピオン・バーテックスは挙動がバグっている。故に逃げるチャンスではあるが、もしも彼を引き抜いたら今度は攻撃がこっちへと飛んでくる気がバリバリするのだ。だったら、このままハゲ丸を信じて後ろへ向かって全速前進するのがいいだろう。こっちの目的はもう果たしているワケだし。
芽吹は夕海子と雀の声を聴きながらちょっとずつ後退していく。二人に気付かれない感じで、小脇にシズクを抱えていつでも戦線離脱をできるように。
もしもスコーピオン・バーテックスのバグが修正されたら即座に逃げれるように。
しかし。
ハゲ丸とて勇者の中では二番目に実戦経験が多い勇者だ。性能こそ低いが、それ故に機転が利く。というか利かなかったら今頃墓の中。故に、ハゲ丸は即座に切り札を切った。
「満開ッ!」
満開。
シズクの蹴りはどうしてか精霊バリアが発生しなかったため今のハゲ丸は満開ゲージがマックス。故に、満開は容易だった。
埋まりながら満開した結果、満開の反動でスコーピオン・バーテックスは内部から爆散する。ガクアジサイの花を纏いながら爆散したスコーピオン・バーテックスを見下ろし、再生……どころか御霊が存在しなかったためそのまま消滅していくスコーピオン・バーテックスを尻目に空中を飛び、芽吹達を巨大化させた神獣鏡の上に乗せてから撤退を始める。
「えっ……えっ?」
一瞬で回収された防人四人は目を白黒とさせている。
というか、目の前でバーテックスが爆散したことがにわかに信じられなかった。それに、ハゲ丸が空を飛んでいることも。
「おら帰んぞ~。亜耶ちゃん後輩が心配してるだろうしな~」
「いや、そんな簡単に……って、星屑がついて来れないくらい速い……」
「っていうかそれ何!? チート!?」
そんな感じでグダグダになってしまったが何とかハゲ丸と防人四人は壁内に帰還。シズクは即治療室送りとなった。
そしてハゲ丸も雀の様子を見るという名目が終わってしまったため、亜耶から礼を言われつつゴールドタワーを後にし、自宅へと戻ったのであった。
結局、今回もハゲ丸は果たして必要だったのかと自分自身で首をひねったが、あまり被害を出さずにシズクを救出できたため、まぁいいでしょう。と自己完結してそのまま帰宅したのであった。
ちなみに、亜耶とは帰りに連絡先を交換して、時々連絡を取り合っている。
最初の方は良い感じだったのに結局最後はグダグダになるという。
くめゆ勢はゆゆゆ勢と絡むことが大赦から禁じられてたのでどうやって絡ませようかと思った結果が園っちの権力でした。権力……僕の求めていた力!
ここに強引にくめゆをねじ込んだのは、単純に亜耶ちゃんが書きたかったからとも。彼女は某ちゃん後輩のようにキャラ崩壊しませぬぞ。綺麗なままの君でいて……
ちなみにくめゆ勢のお気に入りは亜耶ちゃんと、しずく(シズク)ちゃんです。二人とも可愛いんじゃあ~
まぁ、そんな感じで今回は本編中にくめゆ勢をそれとなく絡める事ができる免罪符作成となったので、次回でくめゆ編を終わらせてそのままくめゆ組も時々出演するような感じにしていきますぞ。
こんな中途半端な所にくめゆ編組み込んだ理由って、亜耶ちゃんをもっと本編に絡ませたいからなんですけどね
ただ、もしかしたらですけど、くめゆ編がこのまま終了する可能性もあるのでそこはご容赦をば