ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回からはわすゆ編です。基本的にはわすゆ組の回想という形でわすゆ編は進行していきます。


鷲尾須美の章
回想するハゲ


 三ノ輪家は、この四国の中ではどちらかと言えば裕福な家庭にカテゴリされる。

 両親が大赦勤めであること。また、銀自身が勇者であったがために多少の援助が大赦からあった事。要因は他にも色々とある事にはあるのだが、和風の家はそこそこ大きく、そして子供三人が問題なく生きていける程度の財産がある。昔の東郷家や藤丸家とはかなりの差がある、と思ってくれてもいい。

 

「ふぅ、まぁこんな所だろ」

「あー、じゃあ次こっちの方頼んでもいいか?」

「あいよー」

 

 だが、変な所で無駄な金を使うような人の家、という訳でもない。

 今の三ノ輪家は引っ越しの準備中。十何年も生きてきた家を売り、代わりに讃州の方へと引っ越すための荷造りをしている最中なのだ。

 

「まさか銀と園子が讃州中学に来るために引っ越しまでするなんてな……特に銀なんて家族全員で」

「中学生で一人暮らし決め込む園子の方がおかしいんだよ」

 

 銀の場合は家族総出という事で生活にも変化が訪れてしまうような物ではあったが、恐らく園子辺りがそっと脅しをかけたのだろう。銀の両親は讃州から近い場所に異動となり、引っ越しに多少の金銭的援助が大赦の方からなされた。既に三ノ輪家が住むための家がもう讃州には建っているという。

 そんな大規模な引っ越し準備にハゲ丸や園子、美森と言った銀の知り合いで仲間だった三人が引っ越しを手伝ってくれないかと銀に尋ねられた。

 その結果は快く了承。園子と美森はリハビリ代わりに。そしてハゲ丸は単純に頼まれたからという理由で銀の家へ訪れた。

 

「ってか、鉄男や金太郎の方は大丈夫だったのか? ほら、あいつらにも友達が居たろ?」

「それはアタシも思ったから聞いてみたけど、会おうと思ったら会えるから大丈夫だってさ」

「あー……俺達みたいな感じか」

「そういうこった」

 

 と告げる銀は両手で自分たちの私物が入ったダンボールを抱えている。

 そう、両手で。

 

「まぁ、気にしてないんならいいけど……ってかお前、義手あったのな」

「ん? あぁ、言ってなかったっけ」

「前付けてなかったし」

「あー……四月から十月辺りか。実は、ズラと会う時って毎回味噌汁溢して変な色付いてたり変な故障したり調子乗って片腕立てして壊したりって、ちょっとした不幸が重なってな」

「で、修理中だったと。ってか片腕立ては馬鹿だろ」

「テンション上がっちまってなぁ」

「豚もおだてりゃなんとやらと」

「違いない」

 

 銀の片腕。それは片方は生まれた時からずっと共に過ごしてきた腕だが、もう片方の腕は二年前の戦いで二の腕辺りから喪失してしまっている。

 まだ十代前半の少女が片腕を失ってこれからずっと隻腕生活。それは流石に可哀想だと思った大赦の中のごく少数の人間と園子からの口添えによって銀はハゲ丸と美森が記憶を失ってから大体二か月後に義手を受け取った。西暦から技術的には進歩していないこの世界ではあるが、それでも勇者の武器を作る技術などは発展してきた。

 それを応用した結果、銀は自分の意志通りに動く義手をゲットしたのだ。

 ゲットしたのだが、如何せん銀は不幸体質。言い換えれば勇者体質。行く先々で問題にかち合ったり銀自身が起こした問題やらで義手が故障し手元にない時がそこそこある。

 ハゲ丸と出会った時だったり最終決戦時はそうして義手が手元にない時だったのだ。

 完全にタイミングの問題である。

 

「しかし、懐かしいなあ。こうして銀と二人ってのは」

「そーだな。二年間会ってなかった訳だしな」

「小学六年生だもんなぁ……あの時も毎日が楽しかったモンだ」

 

 そう言いながら、ハゲ丸は段ボールの中に皿やコップと言った割れ物を詰めながら思い出す。

 小学六年生の四月。勇者のお役目に選ばれ、そして初めて戦ったあの時を。自分たちの時が動き始めたあの日を。

 

 

****

 

 

 お役目に選ばれてから、初のお役目に挑むまでの時間。桂と須美。それから園子と銀はあまり話したことがなかった。話す機会がなかったとも言えるが、それでも話す事と言えば大体が事務的な事か、お役目に関しての事。その程度であり、あまり私事を話し合うような仲ではなかった。

 桂はいつものように登校して、もう教室に着いて居眠りをかましている園子を見て、それからそれを見て溜め息を吐いている須美を見て、教室の中に居るそこそこ仲のいいクラスメイトと話して時間を潰す。

 そして、朝のSHRが始まる直前。もしくは始まった直後になると銀が教室に滑り込んでくる。

 この時はまだ桂も須美も園子も、銀は時間にルーズなのかと思っていたが、今はそれが彼女の不幸体質兼勇者体質による物だと知っているため今同じことをやられても怒るような事はせずため息一つで済ませるだろう。

 そんな、この一か月でお約束となった光景を見ている時だった。大橋から鈴の音が鳴り響き始めたのは。

 

「ん……?」

 

 担任である安芸先生の言葉を流すように聞いていた桂は初めて聞いたが、しかし同時に既に知っていたその音を聞いてすぐに意識を現実へと帰還させる。

 この音は。すぐに振り返れば、須美も園子も銀も。勇者というお役目に選ばれた三人が顔を上げて周りを見渡していた。

 時が止まった。安芸先生も、クラスメイトも、鳥も、風も。何もかもの時が止まり、動いているのは勇者の四人だけ。それが示すものは、二年前から教えられてきた敵、バーテックスの襲来。その迎撃のための時間が来たという事だ。

 スマホは、ある。覚悟もある。

 ならば、あとは戦うだけだ。

 花吹雪が視界を覆い、気が付けば四人が立っている場所は教室ではなく樹海だった。

 

「おぉ、これが神樹様の結界かぁ!」

「わぁ! すっごいよ~!」

「まさか本当にこんな非現実な……」

「本当に教わった通りね……」

 

 四人がそれぞれの心情を思わず口から吐露する。

 小学六年生という、まだまだ夢を見る年代。だが、同時に現実を見始める年頃にこんな非現実を見てしまうと、勇者という力を纏っていた時以上に自分たちの中の心が燃え上がっていくと同時に、現実を見始めた心が恐怖心を多少なりとも与えてくる。

 こうして樹海が出てきたという事は、つまり本当にバーテックスが。人間を根絶しようと企む敵が現れたという事。そして、それに対抗できるのは自分たちしかいない。大人に頼らず自分たちの力だけでこの事態を解決しなければならないという事だ。

 

「でもって、あれが大橋か……あんま変わんねぇな」

「大橋はどこでも大橋なんだな」

「それ、どこでもドアみたいだね~」

 

 どこでも大橋とどこでもドア。どちらが便利でどちらが迷惑そのものかと言えば、言わずとも分かるだろう。

 園子のどこかズレた言葉に須美はちょっと頭を押さえながらも、しかしその視線を大橋から離さない。そして、携帯の写メのズーム機能を使ってようやく見える、と言った範囲にソレは見えた。

 青色の二つの球体を携えた怪物。後にアクエリアス・バーテックスと呼ばれるモノが。

 

「あ、あれが……!」

「おぉ、すげぇ! 写真撮っとこ。インスタ映えするかな」

「いえーい! 撮って撮って!!」

「ちょっ」

「あ、俺も撮ろっと。ほいそこの美少女三人、こっち向いてこっち向いて」

「いえーい!」

「やふー!!」

 

 機械的な音を出して須美、園子、銀の樹海をバックにした写真が桂の携帯の中に保存される。いきなりの事に須美の表情は驚きで固まっていたが、しかしすぐにその表情は憤怒に近い物に変わった。

 

「こら! 何呑気にしているの!? もう敵は来てるのよ!?」

 

 当時からお堅いと言える性格をしている須美。最近になるとお堅いどころかただの芸人に成り果ててはいるが、それでも当時はお堅い性格だった須美は遠足気分のような三人に声を荒げる。が、ここに居るのは天然、お気楽、ハゲの三人。その言葉に恐縮するような真似はせず、へらへらと笑っている。

 こうして初めての戦いでも笑顔を浮かべれる精神的余裕を持っているという点も、恐らく勇者らしいと言えるのだろう。

 

「まぁまぁ。お堅い事は言わずにさ」

 

 銀が須美の肩に手を回すが、鬱陶しそうな表情の隅に手を払われる。

 あらら、フラれちった。なんてまた呑気な事を言う銀に須美の溜め息が返され、須美が一人でスマホを取り出して構える。

 

「アメツチニ。キュウラカスハ、サユラカス」

 

 勇者装束と武器を発現させるための祝詞。それを唱えながらスマホの画面をタッチする。

 すぐに園子、銀、桂もスマホを取り出し、そして構え。

 

『ジョグレス進化ッ!!』

 

 そう叫んで変身した。

 

「はぁ!!?」

 

 思わず声を上げる変身済みの須美。というか一人なのになんでジョグレス進化なんだと声を荒げたくなった。しかもそれで変身ができてしまっている。

 

「やっぱ俺はジョグレス進化よりもワープ進化の方がいいと思うんだけど」

「わたしはBeat hit! 好きだからジョグレス進化かな~」

「アタシは初代も02も好きかなぁ」

「ってかこの場合ワープ進化もジョグレス進化も違うような気がしてきた……」

「わたし達と神樹様でジョグレス進化だよ!!」

「あぁ、なるほど!!」

「はぁ……」

 

 そんなこんなで三人がデジモンの話をしていると、須美の溜め息がヤケにハッキリと聞こえた。どうやら本気で呆れかけているらしい。ちなみに須美はデジモンテイマーズ派だ。

 そんなこんなで神樹様とのジョグレス進化を果たした四人はそのままバーテックスを見据えるのだった。

 

 

****

 

 

「あー、最初ってそんなんだっけか」

「そうそう。ほら、当時の写真もここに」

「うわっ、俺等若いな。ってか園子ってやっぱ髪色変わった?」

「本人曰くストレス」

「園子……お前はストレスとは無縁かと思っていたよ……」

 

 

****

 

 

 アクエリアス・バーテックス。当時はその名もなく、ただバーテックスとだけ呼ばれていたソレはゆっくりと大橋を渡って神樹様へと向かっている。

 バーテックスが神樹様にワンパンすればこの世界は滅びてしまう。クソみたいなディフェンスゲームだが、それに対してウダウダ言っていても始まらないし何も変わらない。だから、戦うしかないのだ。この世界を、自分たちの平和と未来を守るためには。

 銀が飛び、園子がその後を続いて須美が追いかけ、桂が全力で走って飛んで三人を追う。

 

「桂くん、もっと速く行かないと~」

「お前らがサンダーボルト版サイコザクなら俺は旧ザクなんだから勘弁してくれよ!!」

 

 流石にそこまでの性能差はないが、それでも桂と他三人の性能には一個か二個壁があると言っても過言ではない。だが、それでも桂は三人と並んで戦える程度には機転が利くのだ。恐らく、メンバーの中では一番臨機応変に対応できると言ってもいい。

 まだ四人はそれぞれがどんな戦い方をするのか、一から十までは把握できていないが、どんな場面でも冷静で最も安定している須美、最も火力が高くて誰かの言う事を聞いて動くのが得意な銀、須美と同じように冷静さがあり柔軟性もある最も人の事を理解できる園子、何かしら不利な事が発生した際に一番にそれに対する対抗策をぶつける事ができる桂。それが、後に先代勇者と呼ばれる四人の戦闘スタイルだった。

 

「とか何とか言ってる間に大橋到着! さぁて、大暴れしてやりますか!!」

 

 その四人の中で一番最初にバーテックスとの接敵範囲に入ったのは銀だった。彼女は指揮者が居なかったら文字通りイノシシのように突っ込んでしまう気質だ。その気質が、今回は災いする。

 防御特化と遠距離特化の桂と須美が接敵範囲に入る前に銀は一人で地を蹴り、そのままアクエリアス・バーテックスへと無謀な戦闘を挑む。その結果は勿論――

 

「なっ!? これ、水……ぐぁ!?」

 

 迎撃される。

 水の質量爆弾。それを右手、そして腹に受けた銀はそのまま樹海へと墜落していく。見ていられない、と須美が弓矢を構え、銀の救助のために動いている園子の援護のために狙いを定め、弓矢を引き絞る。

 が、須美の弓矢は矢を引き絞ることによってエネルギーをチャージし、それを放つことで大ダメージを与える時間が嫌でもかかってしまう武器だ。故に、園子へ放たれた消防車の放水よりも遥かに協力な水のレーザーのようなものが園子を襲う。

 

「わぁ!?」

 

 間一髪で避ける園子。

 しかし、第二射のチャージは思ったよりも早く、体勢を整えようとした園子へ向かってもう一度水が放たれる。

 

「あっぶ!?」

 

 だが、それを園子は浮遊している槍の矛先を変形。傘のような物に変えてからそれを踏ん張りながら受け止める。

 

「こ、これぇ! 傘にもなるんだったぁ!!」

 

 桂が居ない戦闘を想定していた大赦が作った、少女勇者三人の中では唯一防御に回れる武器を持っているのが園子だ。だが、防御に特化というよりもとがった性能が無いと言える性能をしている園子にとって防御が得手ということはなく、徐々に水に体を押されていく。

 当たったら痛いんだろうなぁ、なんて冷や汗を浮かばせながら歯を食いしばる園子。だが、唐突に己の傘にかかる重さはゼロに等しくなった。

 

「乃木さん! これは俺が防ぐから乃木さんは三ノ輪さんを助けてくれ!!」

 

 何故だと顔を上げれば、そこには桂が立っていた。

 園子ですら耐えるのが精いっぱいだった水の照射を、桂は一瞬で割り込んで右手の鏡を斜めに構え水を受け流しているのだ。神樹様の力さえあれば絶対に砕ける事のない儀礼鏡、神獣鏡。それに加えて桂の二年間にも及ぶ鏡を使った防御術と反射神経が可能とした神業とも言える防御だった。

 

「か、桂くんは大丈夫なの!?」

「カッコつけたいけどあと十秒が限界だ! だから!!」

 

 だが、それでも衝撃を完全に殺せるという訳ではない。もし桂に園子並みの身体能力があればあと三十秒は余裕だったかもしれないが、劣化勇者システムでは十秒が限界だった。

 しかし、十秒もある。園子は頷きすぐに銀を助けようと走る須美の元へと合流し、桂は鏡を右腕から外し、空中に浮遊させてからその場を離脱。自分が安全圏に行ってから鏡を呼び戻し、照射を無傷でやり過ごす。

 

「だぁ畜生! 結構しつこいな!!」

 

 そして、いつの間にか復帰していた銀が水球を避けながら須美と園子と合流。そして桂が鏡を巨大化させて水球を防ぎながら三人に合流。銀が巨大化している鏡を上から叩いて鏡を地面に突き刺し、即席の壁としたそれに四人後ろに隠れる。

 

「いやー、初戦から大ピンチっすわ」

「近づけないもんねぇ」

「というよりもあなた達が突出しすぎてるのよ……」

 

 攻撃が来ない事をいい事に四人で鏡の裏で軽い談笑。しかし須美は溜め息ばかりついている。

 

「はてさて、どうするべきか」

「鷲尾さん、試しに矢を射ってみてよ」

「試しにって……まぁいいわ」

 

 園子からの提案に須美が先程から引き絞っていた弓矢を、一度虚空へ向けて構え、水球の勢いが若干弱くなった瞬間に鏡から顔と腕を出して一瞬で狙いを定めて矢を射る。

 しかし、フルパワーの矢は途中で四つの水球につかまりそのまま勢いを完全に殺されて落下してしまった。

 

「駄目かぁ……」

「遠距離攻撃でハメれたら楽だったんだけどなぁ」

「いや、まずバーテックスは再生するし、矢は一度射るとちょっと時間をかけないともう一回射れないから無理ね」

 

 この中で一番火力のある銀は近づけず。唯一近づけるかもしれない桂は火力が皆無に等しく、一方的に攻撃できる須美は攻撃が通らず、更に再装填に時間がかかる。

 どうしたものか、と更に激しくなるバーテックスの攻撃の音を聞きながらも四人で頭を捻り。

 

「……あっ!」

 

 園子がいきなり声を上げた。

 なんだ、と三人が園子へ視線を向けると、彼女は目をしいたけにしてこう言った。

 

「ぴっかーん! と閃いた!!」

 

 つまり、園子がこの膠着状態をどうにかする起死回生の案を思いついたのだろう。おぉ、と三人が声を出して園子の案を聞こうとする。

 のだが。

 

「あっ、ちょ、鏡が倒れる!?」

「やべっ、押し込みが甘かった!?」

『あんぎゃー!!?』

 

 それを話す前にバーテックスの攻撃で鏡が倒れてきて四人が下敷きになってしまったのだった。四人中二人が芸人というこの編成。真面目に話が進むことの方がおかしいのである。

 

 

****

 

 

「思えばあの頃からか……俺達のやる事成す事大抵グダグダになるのって……」

「グダグダでも最終的には纏まってるけどなぁ……ってかズラと須美が基本的にグダグダにしてるんだろうが」

 

 二人の昔話はまだまだ続く。




園っちが目をしいたけにして「ぴっかーんと閃いた!」って言うシーン大好きすぎる。

という事で。わすゆ編はこんな感じで回想という形で進めていきます。
改めてわすゆを思い返すと、銀ちゃん強すぎですよね。一人でバーテックスの体を八割近く削れるんですから。やはり戦いの素質は一番であったか……

そして銀ちゃんは現在義手装着中。義手の接合部も完全に消える大赦渾身の出来上がりでしたが、銀ちゃんの使い方が荒いのと味噌汁をよく溢すため結構な割合で修理に出されている模様。もっと大事に扱いなさい。

次回からも引き続きわすゆ編。本来ならくめゆ編みたいに短くする予定だったのに全然そんな気がしないぞ間抜けぇ……


あ、これは全く関係ないんですけどアクエリアス・バーテックスって正面から見ると完全に金た(大赦検閲済み)

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