ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回はカプリコーン・バーテックス戦。アニメだと数分程度で凄く短かったのに色々と付け加えて文字にするだけでここまで文字数がかさばるとは……


あだ名ハゲ

 新たなバーテックス、カプリコーン・バーテックス戦は思ったよりも早くに来た。

 毎度の事勇者側の事なんて知った物かと言わんばかりに訪れるバーテックスであるが、今回出現した時間は何とも空気の読めない時。尾行していた須美と園子が桂と銀に合流してイネスのジェラートを食べている最中だった。これから色々と話をしようとしたところでのご来日。イラッとしないわけがなかった。

 

「……なぁ、俺のジェラートが動かなくなったんじゃが」

「え? アタシ等のジェラートは普通に動くぜ?」

「早く食べなきゃ!」

「空中で不退転決め込んでるんですけど……」

 

 なお、桂のジェラートは空中で時間停止を決め込み一切動かなくなってしまった。悲しいがこれもまた、神樹様のご選択なのである。銀の提案によって醤油ジェラートという新境地を開拓したため味わってジェラートを食べていたのが仇となった。

 これからイネスに通っていつでも醤油ジェラートを食べれるように家でジェラート作成に取り掛かろう、と心の中で決め、世界は樹海へと包まれる。

 

 

****

 

 

「ちょっと待ちなさいハゲ。もしかしてあなたがジェラートを作り始めたのって……」

「マジでこれが切欠だぜ?」

「……食べ物への執念はなんとやらね」

 

 

****

 

 

 樹海へと包まれた世界の中、すぐさま勇者装束を身に纏った四人が大橋へと飛ぶ。

 大橋の向こう側からは既に今回の相手、カプリコーン・バーテックスがゆっくりと神樹様へ向けて迫ってきており、その巨体と大きな足から醸し出す威圧感は勇者四人に若干の圧力を加えてくる。

 

「なんかビジュアル系な見た目だね~」

「ビジュアル……?」

「園子って時々不思議な事言うよな……」

「不思議ちゃんなんだぜ」

「自称すんなや……」

 

 なんか正面から見ると笑顔浮かべてね? なんて桂が園子に話しかけ、園子が笑顔だ~なんて無邪気に言葉を返す。そして銀は隊長が呑気にそんな事言っているだけあって何だか気乗りがしないようだった。

 だが、須美だけは違う。そんな三人の呑気な言葉には飲まれずに敵を、カプリコーン・バーテックスを見据えている。まだ銀や園子は接敵範囲内に入っていない。だが、須美の射程範囲内には既に入っている。故に、須美の攻撃ならもう届く。

 だから自分がやらないと。そう心に決めた須美が弓を構えてカプリコーン・バーテックスにその矢を向ける。

 しかしそれは既にカプリコーン・バーテックスに割れているようで。須美が弓を構えエネルギーを溜め始めた瞬間、カプリコーン・バーテックスは急に地に降りて四本足の中心から生えている器官を地面へと叩きつけた。それがカプリコーン・バーテックスの能力の一つ、地震の発生。

 急に衝撃が地面を伝い、そのまま須美の体を揺らす。そのため弓の照準がズレて須美は弓を下げざるを得なくなった。

 急がないと。誰にせかされたわけでもないのに焦燥感が須美の手を震わせ、照準がそれだけでズレ始める。

 

「落ち着け、須美」

「みんなで倒そう?」

 

 だが、それを銀と園子が止める。振り返れば二人は桂が巨大化させた鏡の上に乗っているらしく、地震の影響は一切受けていなかった。

 その言葉を聞いて、三人を見てから須美は先ほどまでの焦りを一度消してから鏡の上に乗る。桂自身も乗っている鏡は魔法の絨毯と言える程乗り心地は良くなかったが、それでも乗って移動する分には十分な性能をしていた。もっとも、操作にはかなり集中力が必要なようで桂は先ほどから汗を浮かばせながら鏡を動かしてカプリコーン・バーテックスにゆっくりと接近している。

 

「ズラっち、もっと速くできない?」

「重量オーバーでございますよ、お嬢様」

「つまりわたし達が重いって? ミノさん、殺ってしまいなさい」

「応ともさ」

「おまっ、そりゃひでぇぜ!!?」

 

 桂に掴みかかる銀。そして一緒に笑顔で混ざる園子。途端に不安定になる鏡。

 だが、須美の表情だけは先ほどから一向に変わらない。早く倒さないと。樹海にこれ以上の影響が出る前に。誰かが大けがをする前に。早く、早く、早くと。ただバーテックスを早く倒す事だけに思考が行ってしまっている。扱いの分からない園子に、猪突猛進な銀に、攻撃手段のない桂。これを自分が動かしてバーテックスを早く倒さないと、と。

 それにいち早く気が付いたのは、またもや園子だった。

 

「わっしー。リラックス、だよ」

「リラックス……?」

 

 そんな事をしている暇はない、と叫びたかった。

 だが、気を張り詰めすぎて緊張し続けた結果がこれなのだと。そう思うと園子の言葉を振り払えなかった。

 

「焦ってもいい事なんて何一つ無いんだよ? だから、落ち着こう?」

「そうそう。焦ってたらできることもできなくなるぞ?」

 

 二人の言葉に言い返す事ができず頷く須美。

 園子はその態度にちょっと心配だなぁと思い頬を掻きながらもふと、カプリコーン・バーテックスが既に地震を止めていることが分かった。

 止まっているとなると、とすぐに園子は思考を入れ替え、正面を見る。そこには、今すぐにでもその足でこちらを攻撃しようと足を構えるカプリコーン・バーテックスの姿があった。

 

「ズラっち、わたし達の事を放り投げてあれを弾いて!!」

「ちゃんと着地しろよ!!」

 

 園子の言葉を聞いて、須美が意識を現実に戻す。

 直後、乗っていた鏡が荒々しく振り回され、須美、銀、園子がカプリコーン・バーテックスめがけて吹き飛んでいく。直後、自分たちの間を縫うように突き出された足が桂の鏡の激突し、弾かれる。

 

「桂!」

 

 着地した須美が叫びながら振り返る。

 今のをマトモに防御したのでは桂は後ろに吹き飛んで大怪我を負ってしまっているのではないかと。だが、その心配は杞憂で、桂も三人から少しだけ後ろに鏡を右腕に装着して着地していた。

 

「あんなのマトモにガードしないっての」

 

 そのトリックは単純明快。ただ巨大な鏡で足を一度受け流し、下から高速で鏡をぶつけて上へ弾いた。ただそれだけだ。だが、上方向へ弾いたのがマズかったのか。桂が三人に駆け寄る間にカプリコーン・バーテックスは上へ弾かれた足を追って空へと舞い上がってしまいそのまま全員の射程圏外へと行ってしまう。

 

「あっ、卑怯だぞ降りてきやがれ!!」

「制空権を取られた……!!」

 

 制空権が戦闘においてどれだけ重要かは、歴史マニアである須美にはよく分かっている。

 このままでは、一方的に地上を攻撃されてそのまま壊滅してしまうと。それが分かっているからこそ、焦りながら汗を浮かべる。どうすれば。どうしたらと。

 だが、園子は須美とは違う事を考えている。

 どうしたら勝てるか、ではなく相手がどんな手を切ってくるか、だ。桂と銀が並んでいる場所を目にして、すぐにもう一度上を向いて。四本の足がドリルのように纏まり始めたのを見て園子の背中に悪寒が走る。

 

「ミノさん、ズラっち!!」

「銀、お前は避けろッ!!」

 

 園子の叫び声。それを聞いた瞬間、桂は叫びながら銀の体を蹴り飛ばし、鏡を真上へ向けて構える。

 その一秒にも満たない時間の後。桂の鏡へ向けてカプリコーン・バーテックスの四本足がドリルのように落下し、鏡と激突して火花を散らす。

 

「ズラっち!!」

「ズラ!!」

「大丈夫だ! こっちは一分以上は持つからお前らはバーテックスを!!」

 

 攻撃を受け止めながら叫んだ桂の言葉は、須美からしたら強がりにしか聞こえなかった。あんな攻撃を受けて一分以上も持つはずがないと。

 桂の性能は自分よりも断トツで低い。だから、あんな攻撃、もう十秒も持ちこたえられないだろうと。そう決めつけてしまった。だが、園子は違う。

 桂の言葉を鵜呑みにして、信用した。桂が本当にダメだと察したときはもうちょっとみっともない姿を見せるだろうから、みっともなくない姿を見せている桂を信用した。

 

「ミノさん、わっしー! 今のうちに仕留めるよ!!」

「でも乃木さん、桂が!」

「大丈夫。大丈夫だから、今はわたし達が動いて、バーテックスを倒す!!」

 

 園子の真っ直ぐな視線に気圧される須美。そんな彼女の肩にそっと銀が手を置いた。

 

「須美、ズラなら本当に大丈夫だから。ほら、あっち見てみろ」

 

 銀の言葉を聞いて須美が桂の方へと視線を飛ばす。

 その先では。

 

「お前ら談笑してるんなら早くやってくれない!? なんか結構きついからさ!! 案外腕疲れるんだよこれ!! ほら、分かったらとっとと本体をやってくれ! やってよぉ!! やってってばぁ!! 鏡から飛び散ってる火花熱いんだからさぁ!!」

「あ、それもそうね」

「だろ?」

 

 案外桂は余裕そうだった。防御特化勇者はこういう時に役立つのである。

 

「という訳で行くよ!!」

 

 そして勇者達の攻勢が始まる。

 

 

****

 

 

「まぁそんな感じだったよなぁ」

「もう止めて……! あの頃は少し黒歴史も混ざってるのよ……!!」

 

 その後は園子が槍で足場を作り、それを上りなんとかカプリコーン・バーテックスを射程圏内に入れた須美が足の接合部を狙撃。そのまま足を分離させ、足での攻撃を完全に無力化。落下してくる須美を解放された桂が拾い、そのまま落ちてきたカプリコーン・バーテックスを園子がチャージで貫通。そのまま落下する所を桂がなんとか回り込んで体で受け止め、最後に銀が相手の体を九割ほど削り取ってから桂の上へ落下。そのまま鎮花の儀となった。

 あの頃の須美……美森は、一言で言うなら自意識過剰だった。銀と園子を比べて、自分の方がリーダーに向いていると思い込んで、凝り固まったそれを解す事無く実戦に挑んで足を引っ張った。今の他人の言う事を聞いて戦闘をする美森からしたら黒歴史とも言える行動であった。

 なお、他人の言う事を聞くのは戦闘時くらいの物でそれ以外の事は基本的に話を聞かない、現在進行形での黒歴史生産機でもあるのだが。特に壁の件。

 

「あの後が一番可愛かったんだよなぁ、須美ちゃんは」

「こ、このハゲッ……! 自分にそこまで黒歴史が無いからってマウントを……!!」

「もう黒歴史の回想は終わってるんでね!!」

 

 なお、ハゲ丸の一番の黒歴史はズラを取られて拗ねていた期間である。

 

 

****

 

 

 カプリコーン・バーテックスとの戦闘は、攻勢に入った勇者達の攻撃によってそのまま撃退。鎮花の儀の発生をもってカプリコーン・バーテックス戦は無事終了したのだった。

 樹海が消え、四人が放り出されたのはどこか見た事のある公園の木の下だった。

 強制的に空を仰ぐように寝かされた四人はそのまま空を見上げる。今日も無事戦い、勝利した。その勝利に曇りはなく、生傷を負ったのは三人を回収するときに彼女らの全体重を自身で受け止めた桂くらいだった。

 

「あー疲れた……お前らもうちょっと自分の身を可愛がれよ……」

「テンションが上がっちまったんだぜ」

「だからって勢い余って貫通して地面に墜落って……」

「まぁまぁ。ズラの怪我だけで終わったからいいじゃないか」

「よくねぇよ。腰に大負担だっての」

 

 そんな三人の会話を聞きながら須美は一人反省していた。

 園子がリーダーとして選ばれたとき。彼女は家柄だけでリーダーに選ばれたと思い込んだ。思い込んで、自分の方がリーダーに相応しいとも同時に思い込んで。そして、その結果息を合わせず一人で全部やろうとして、空回りして、焦って。

 もしも最初から園子達と息を合わせていればと考えてしまうと、確実にもっと早くバーテックスを倒せていた。だと言うのに。だと言うのに、くだらない凝り固まった思考でチームの輪を乱してしまった。

 それが恥ずかしくて、申し訳なくて。

 

「うぅ……くぁぁ……」

「うわっ!? どうしたんだ須美! いきなり泣いて!!」

「もしかしてズラっちに変な所触られた!? もしもしポリスメン!!」

「いや触ってねぇからな!? おまっ、マジで通報すんのヤメロォ!!?」

 

 なんだか的外れな心配をする三人であったが、今の須美にそれを受け入れる余裕はなかった。

 ただ、謝りたくて。最初に独断専行をし続けてしまって、足を引っ張ってしまう結果を残してしまったことを。

 

「ちがう、の……! わたし、れんけいをみだしてぇ……!!」

 

 その言葉にぎゃーぎゃー騒いでいた三人が口を閉じた。

 あまりふざけている空気ではない。そう思ったから。そして、彼女の自分の心と行動の暴露に茶々を入れる物ではないと分かっているから。

 

「ごめん、なさい……! つぎからは……ちゃんといきをあわせるから……!! がんばるから……!!」

 

 須美の謝罪。それを聞いて、三人はちょっと呆気にとられた。

 別に三人は、須美が足を引っ張っているとか息を合わせていないとか、そんな事は思っていなかった。ただ、須美は真面目だから現実世界への影響を考えてちょっと焦ってしまっていただけなのだと。そう思っていた。

 見ただけでは分からないが、三人も焦ってはいたのだ。それをふざける事でなるべく抑え込んで考えないようにして。空気を和ませて焦りを消そうとしていた。その結果が、戦闘中での漫才みたいな言動だ。それを怒られるくらいは覚悟していた。

 だから、謝罪をされてもちょっとパッとしなかった。

 だけども、須美がそれを謝るのなら、受け入れないわけにもいかない。

 

「……あぁ、頑張ろうな」

「四人で一緒に、ね」

 

 銀も園子も。万が一があっても連携は乱さず、四人で生還することを。

 銀はアタッカーとして。園子は隊長として。須美も遠距離アタッカーとして。桂はディフェンダーとして。それぞれが息を合わせて生きて帰るために。勝って、生きて帰るために。

 

「うん……そのっち、ぎん」

「っ! あぁ、頑張ろうな!!」

「うん! 一緒に頑張ろう!!」

 

 須美、園子、銀が手を重ねて頷く。それを桂は横から見守る。

 こういう時、男が一人混ざるのはちょっと空気が読めないと思ったので静観していた桂ではあったが、なんやかんやでいい感じにまとまったのを見てから痛む体に鞭打って立ち上がった。

 

「さて! 須美、祝勝祝いにうどんでも食おうぜ」

「……うん、桂」

「ったく、こういう時はあだ名か下の名前で呼べっての」

「……じゃあハゲ。あだ名はハゲ」

「ちょっ……はぁ。まぁいいよ。お前だけ特別な。今日は頑張ったで賞って事で」

「じゃあわたしもハゲっちって呼ぶね!!」

「いや、そこはいつも通りズラっちで頼むわ……」

 

 こうして四人の仲はまた深まったのであった――

 

 

****

 

 

「あー……そんな感じだったわね。あんたをハゲって呼び始めたの」

「まぁな。ってか……あれだけ素直で可愛かった須美ちゃんがよくもまぁここまで捻じれ尽くしてしまったモンで……」

「うっさいハゲ。これが素の私よ」

「はいはい。じゃ、そろそろ銀と園子も戻ってくるし作業再開するか」

「えぇ、そうね。サボるんじゃないわよ、ハゲ」

「そっちもな、クソレズ」




わっしーがハゲ丸くんをハゲと呼ぶ理由回でした。さて、こうしてリトルわっしーが心を許した所で次回はわっしーの本能覚醒!! わっしーは芸人と言われる原因ともなったギャグパートですぞ。

わすゆ三話見返してみるとわっしーの鼻血の吹き方で毎回笑ってしまう。しかもあの鼻血の吹き方、勇者部所属ぷにっとでもやってましたね……

とりあえず、リトルわっしーがズラっちをハゲ呼びし始めたので本能覚醒には十分。次回で本能覚醒できたらいいなぁ

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