ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回は休暇に入ったわすゆ組の話。着せ替え人形にされてる銀はクッソ可愛かったなぁと。


休暇ハゲ

「どっこいしょっと……これどこに置けばいい?」

「あ、じゃあ廊下に置いてくれないか?」

「あいよー」

 

 銀の言葉に従って物を詰め込んだダンボール箱を廊下に置く。なんやかんやで銀と同年代の中では唯一の男手であるハゲ丸はかなり重宝されていた。

 何せ、銀や園子も人よりは力があるとは言っても男であるハゲ丸と比べれば、まだハゲ丸の方が体力もあるし全体的な力も大きい。それに、園子はつい最近まで入院していたし銀も片手が義手だ。だからこそ、ハゲ丸はかなり重宝されている。

 

「ってか、なんかそこそこ入り浸った家の家具がこうして消えるのって……結構違和感みたいなのあるよな」

「ズラには鉄男と金太郎の世話、結構頼んでたからなぁ」

 

 勇者として忙しいころ。そして、銀が片手を失って須美と桂が記憶を完全に失うまでの僅かな間。桂は三ノ輪家にそこそこ入り浸り鉄男と金太郎の世話をしていた。もう戦うなと言われ、記憶が虫食い状態という恐怖に襲われながらもなお立ち上がり戦ったあの時まで。桂は銀の代わりに鉄男と金太郎の遊び相手になっていた時があった。

 そこには銀を無傷で帰せなかったという罪悪感もあったのだが、今となってはその罪悪感は消えている。銀が気にしていない様にしているんだから自分がこれ以上気にしても仕方が無いだろうと振り切ったから。

 そんな事もありそこそここの家には入り浸っていたのだが、だからこそこうして物がダンボールの中に消えていく三ノ輪家に違和感を感じる。

 

「確か二度目にここに来たのって、須美と園子が迎えに来るのを待つ時だっけか」

「そうだな。初めて休みを貰った時だな」

 

 それはカプリコーン・バーテックス戦から暫く経った時。大赦の施設で特訓をしていた時から始まる。

 

 

****

 

 

 桂の持った槍と園子の槍がぶつかり合う。

 その後ろでは桂が動かす鏡を的に斧を動かす銀と、大赦側が用意した的に走りながら矢を放つ須美。そして、安芸先生の声がかかると同時に桂が槍を手放し、近くに置いてある双剣を拾い上げ斬りかかってきた銀と切り結び、園子は鏡を的に槍を動かす。

 これが常日頃から行っている勇者四人の特訓だ。桂の特訓は、万が一にも園子や銀が倒れてしまった際、その穴埋めをするための近接戦の特訓。園子と銀は大振りの得物でも小さい獲物を逃さないための攻撃の精度や威力を高める特訓と、人型のバーテックスが現れても問題なく対処するための特訓。そして須美は矢を確実に外さないための特訓。

 桂、ハゲ丸のこの特訓により槍と双剣は一流並みには使えるようになっている。が、園子や銀はそれを超える技量を手に入れている。現状、桂は二人の得物よりは軽いという特性と、自分の養った得物での受け流しを使って性能的には自分よりも遥かに上をいく二人にくらいついている状態だ。が、近いうちに桂は特訓にて二人に蹂躙される事になる。

 

「そこまで!」

 

 安芸先生の声が響き、全員が武器を下す。桂は鏡を回収して右手に装着し、安芸先生の前に立つ。

 息が上がっている桂と平然としている園子、銀、須美。ここにも勇者としての性能の差が出ているのだが、誰も桂がだらしない等とは言わない。寧ろ初代勇者システムに毛が生えた程度の性能で彼女たちと実戦形式の特訓をして息が切れる程度で済んでいる事が凄いのだ。

 

「最初と比べれば大分良くなっています。四人とも、よく頑張ってるわね」

 

 そんな四人にかける言葉は、率直な称賛の言葉。

 これはおだてているのではなく、安芸先生の本心だ。小学六年生の少年少女が大人顔負けの腕を持っているのだ。それを称賛しないわけがない。四人はそれに笑顔を浮かべる。

 

「では、次の任務を言い渡します」

 

 だが、次の言葉に四人の顔は引き締まる。

 任務。つまり、勇者としての仕事だ。それを聞き逃すわけにはいかないと。全員が気を引き締め顔を引き締めるのだが、安芸先生の告げた任務はそれを崩す形となった。

 

「全員、しっかりと休んで疲れを取る事。それが次の任務です」

「え? じゃあ……」

「次のバーテックスの襲来までは時間があるわ。だから、それまでお役目は休憩。しっかりと休むこと」

 

 安芸先生が伝えた任務は、率直に言えば休暇だった。

 訓練や勇者の事は忘れて子供らしくしっかりと休むこと。それが四人に言い伝えられた成すべき事だった。それに笑顔で頷かないわけがなく、先ほどまでの大人顔負けの迫力を出していた子供たちとは思えない程はしゃぎながら四人は訓練室を出ていく。

 が、その中で唯一桂だけが手招きされて残った。

 

「えっと……な、なにか俺やらかしました?」

 

 先生に一人だけ残される、というのは若干の恐怖だ。何せ、これから説教が始まるかもしれないから。

 桂もその恐怖に若干顔をゆがめてしまっている。が、安芸先生は顔を横に振り、彼の緊張やら恐怖を払しょくした。

 

「桂君。あなたの勇者システムには乃木さん達の勇者システムとは先行して二つ、新しい機能を実装する事になりました」

 

 だが、桂は別の意味で気を引き締めた。

 勇者システムに新たなる力が宿る。桂は中間パワーアップだな! とか思ったが、それは表情に出さず機能の説明を聞き逃さないために意識をちゃんと会話に向ける。

 

「新しい機能……?」

「はい。勇者としての力を劇的に増加させる機能、満開。そして勇者の戦闘をサポートする存在、精霊。その試作品の実装です」

 

 満開。精霊。それの試作品。

 つまりはプロト満開とプロト精霊。それが桂の勇者システムに宿る新たな力だった。後に悲劇すら呼んでしまう、新しい力。だが、当時の桂にそれが分かるわけがなく、仮面ライダーによく出てくる主人公ライダーのプロトタイプみたいなものになるんだな、と内心ワクワクしていた。

 

「満開の詳しい機能はアプリの方に説明が記載されます。精霊に関しては今説明しますね」

「はい」

「精霊は本来、何かしらの実態を持つ物となる予定でしたが、今回はそのプロトタイプという事で精霊の力だけがあなたに宿ります」

「精霊の力……?」

「どのように現れるかはまだ分かりませんが、精霊はバリアを張って勇者を守ると同時に新しい力を与えてくれます」

 

 なお、その力は生身状態ならハゲが光り輝き、神獣鏡を持っている場合はどちらでも光り輝かせる事ができるという形で発言するのだが、当時の桂はまだそれを知らない。きっと、なんか凄いカッコいい物が発現するんだろうなぁ、とかしか思っていない。

 

「バリアにはエネルギーが存在します。本来はエネルギーなんて気にしないでもいいのですが、試作品ということでまだ機能が安定していません。こちらの不手際ですが、なるべく攻撃は避けるように」

「まぁ、そんな無限に張れるバリアとかチートですから。防御特化ですし、そこらへんは頑張ります」

 

 なお、その後実装される精霊バリアは無限に張れる模様。

 

「今日報告するのはこれだけです。さ、乃木さん達に置いて行かれない内に行ってきなさい」

「あ、はい! じゃあお疲れ様です!」

 

 安芸先生から聞くことを聞いた桂は先に言った園子達を追いかけて走っていく。安芸先生が暗い表情を浮かべているのに気が付かず。

 

 

****

 

 

「え? お前、そん時から満開使えたの?」

「おう。でも、お披露目はピンチになった時に! それまでは通常フォーム! っていうのがお約束じゃん? だからお前を助けるときに初お披露目したんだよ」

「……まぁ、満開は使わないに越したことはないけどな」

「当時は知らなかったし仕方ない。安芸先生も上からの命令で憎まれ役買おうとしてたんだろうし」

「安芸先生悪くねぇもんな。悪いのは大赦だ」

「改革はよぉ。腐った上層部改革はよぉ!」

「それは園子に言ってくれよ。アタシは園子のストレス解消役なんだからさ」

 

 

****

 

 

「おっす銀、数日振り。鉄男くんと金太郎もな」

 

 休暇になってから一日目。桂は銀の家にお邪魔していた。

 とは言う物の、桂が銀の家に来た理由は、迎えに来る園子……を乗せている大赦職員である運転手の負担を減らすため、銀と桂は一緒の場所で待とうという事になった。

 

「あ、桂兄ちゃん!」

 

 そんな彼を出迎えた銀ではあったが、同時に家から飛び出してきた鉄男も桂を出迎えた。

 先日、桂がゲームやらブルーレイを、一々持って帰るのが面倒だからと鉄男にそのまま貸して帰ったところ、なんだか鉄男は桂に懐いた。現金な事だとは思うが、それでも鉄男は結構桂への好感度を上げたらしい。ついでに、今銀に抱えられている金太郎も桂には懐いたらしく、常に桂の頭へ手を伸ばしている。

 桂は笑顔でそっと頭を抱えながら退く。鉄男の目の前でズラを剥ぎ取られるのだけは避けなければならないからだ。

 

「園子達、もうすぐで着くってさ」

「お、マジで? なら銀も準備だけしちまったらどうだ?」

「いや、アタシはもう準備できてっから。今は園子と須美待ち」

 

 そんなわけで銀と桂が話しながら須美と園子を待つこと十数分。三ノ輪家の前に黒色のリムジンがいきなり止まった。リムジンなんて物、滅多にお目に懸かれるものではないのでビックリした銀、鉄男、桂ではあったが、すぐに窓が開いてそこから身を乗り出してきた園子を見て安心した。

 が。

 

「ヘイミノさんズラっち!! レッツエンジョイ!! キャガワラァイフッッ!!」

『え、なんて?』

 

 グラサンをかけた園子がハイテンションにそんな事を言った。ついでに声が軽く裏返っていたうえに甲高かったため何言ってるのか微妙に分からなかった。恐らく香川ライフと言ったのだろうが、それについても結構意味不明だ。だが、それでも何も言わずにはよ乗れと促してくる辺り、相当テンションが上がっているのだろう。

 窓の隙間から見える園子の隣の席には、やったかたーやったかたーと腕を振っている須美の姿まである。一体全体何があったのだろうか。二人は若干引きながらもそっとリムジンに乗り込んだのであった。

 

 

****

 

 

「あったなぁそんな事……!」

「なんつーか……あの時辺りから全員のキャラが崩れ始めたよなぁ……!」

 

 

****

 

 

 リムジンに揺られてたどり着いた先は園子の家、の中にある衣装部屋。どうにも今日は銀と須美を着せ替え人形にして楽しむ気らしい。

 須美、銀、桂が園子の家に圧巻されている間に園子がササっと銀を拉致って桂の居ない部屋で銀を着替えさせた。

 

「ちょぉ!?」

「どうわっしー、ズラっち! ミノさん可愛くない!!?」

 

 着替えてきた銀は、銀らしくないとも言えるがどこか銀らしいとも言える、可愛らしい服装に着替えていた。髪飾りも彼女らしく牡丹の花が目立つ髪飾りだ。

 桂は素直に感嘆の声を口にした。銀クン、なんてふざけて呼ばれるような彼女ではあるが、着飾ればなかなかどうして。女の子らしさが前面に出てきてくれている。そんな銀を見て須美は。

 

「いい!! いいわよ銀!! とっても似合ってるわッ!!」

 

 鼻血を文字通り噴出しながらスマホで写メを撮っていた。

 思わずうわぁ、と園子と桂が引く。普通鼻血ってそんな風に出ないよね、とも園子はついつい漏らした。桂は純粋に引いた。流石に友人のこんな場面……それこそ須美のような普段は落ち着ている、クールとも言える知り合いのこんな場面なんて見たくなかった。

 思わず額に手を当てて溜め息を吐く桂。対してヒートアップしていく須美。

 

「銀! 今度はこれ! これ着ましょう!!」

 

 鼻にティッシュを詰めるというもう女の子としてどうなんだと思う程の。風なら女子力が減る! と叫びそうな事をしてから須美は次々と銀を着せ替え人形にしていく。まさか須美が一番興奮するとは思わなかったのか園子も若干引いている。

 が、そんな事知った物かと須美の着せ替えは白熱していく。森ガールのような服からワンピース。他にもいつものような活発系とも言える服だったり、様々な服に着せ替えられた銀は最終的に何とも言い難い独特なセンスの塊とすら言えるような服に身を包み、髪の毛の上から赤髪のカツラまで被せられる等。もう完全に銀はタダの着せ替え人形と化していた。

 

「いや、流石にこれはナシだろ!!?」

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!」

「アリーヴェデルチ」

「さよならだ」

 

 鼻血を垂れ流しながらどこから取り出したのか分からない一眼レフで銀を激写する須美。そしてそんな須美の発した言葉を聞いてついついネタに走った桂と、同じくネタに乗る園子。決めポーズまでしたのに結局誰にも見られていないのは果たして悲しい事なのだろうか。

 

 

****

 

 

「……この時からクソレズはクソレズだったなぁ」

「いらん事思い出すなや……!!」

 

 

****

 

 

 その後も着せ替えは続いた。

 対象が銀ではなく須美になる事によって。

 須美本人は困惑していたが、しかし銀と園子。果てには桂まで混ざって須美の服装をコーディネート。須美は途中から何だか「こんなの大和撫子として相応しくないぃぃぃぃ!!」と叫びながらどこかへ走っていってしまったが、その内園子の家のお手伝いさんに捕まって連れてこられるだろう。

 と、なるとだ。次に着せ替え人形にされるのは。

 

「……ズラっちは何だか普通だしいいや」

「おい」

 

 誰でもなく、この後はみんなでイネスに行きましたとさ。

 ちなみに、須美はそれから一時間後、どうしてかイネスで発見された。




FGOはなんとかイベ礼装凸できるくらいポイント貯めて終わりました。周回怠すぎる。古戦場? 知らんなぁ。そんな物よりシンフォギアだ!!

ラタもちょっとずつ進めているんですけど、ようやく四章までいきました。どうして前作キャラは弱いんだろう……強い魔物スカウトしないと

次回も休暇の話。アニメ的には三分の一超えましたし、早く勇者の章までやってしまいたい。

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