今回はアニメや原作の話ではなく、結城友奈は勇者部所属一巻の巻末に描かれたおまけストーリー、鷲尾須美は勇者であるAnother storyからのお話です
わすゆ組とゆーゆって、勇者部所属と勇者行進曲を含めると二回出会ってるんですよね。
ちなみにこの話がのわゆ編を書ける! と思った切欠でもあります
うどんを啜る音が三つ、部屋の中に響く。香川県ではあまり珍しくはない三重奏ではあるが、それを奏でている三人は、少し珍しい組み合わせだった。
「なんだかわたし達三人で集まるって珍しいよね? 初めてかな?」
「そうですね。基本的に東郷先輩かお姉ちゃんがいますから」
「二人きりはよくあるけど、三人は確かに記憶にないわね」
それは友奈、夏凜の二年生組に加えて唯一の一年生である樹の三人だった。
この三人が一同に介するというのは実は珍しい事であり、顔こそよく合わせて話すが、この三人で集まること。強いてはプライベートで集まる事は珍しい。いや、初めてだった。
どうしてこうなったかと言うと、その理由は単純明快。
友奈が美森に宿題の分からない部分を教えてもらおうとした結果、美森は用事があるとそれを断腸の思いで断った。次いでハゲ丸にも連絡はしたが、彼にも用事があり断念。その結果、友奈の白羽の矢は夏凜に立った。風でも良かったのだが、彼女は今や受験生。勉強の邪魔なんてできるわけが無く、夏凜に頼みに行くのは極自然の流れだった。
夏凜はそれを了承。早速友奈は夏凜の部屋へと移動を始めたのだが、その最中に一人で出かけていた樹を発見。風は前日の内に勉強を張りきりすぎたらしく、昼近くになるこの時間になっても起きなかったという。
なので樹は眠る姉をそのままに外食を決行。したのだが、その先で勉強道具を片手に持った友奈と会い、会話していく内に夏凜の家でうどんを作り一緒に食べようという事に。そして二人が夏凜宅へ押し寄せ、樹のメシマズを直す面目を含めた昼食作りを経て今に至る。
「基本的に樹が風と一緒に居るからっていうのもあるわね」
「あ、確かにそうですね。でも、Hi-ν先輩はハゲ先輩とよく絡んでませんか?」
「なんやかんや気が合うのよ。それに、あたしは友奈や東郷と一緒にいる時間の方が多いわよ?」
「教室だと、ハゲ丸くんって同性の友達の所にいる事が多いけど、部室だと夏凜ちゃんや東郷さん。あとは風先輩と一緒にいるよね」
へぇ。と呟きながら樹は自分で作ったうどんを啜る。若干紫が混ざった麺ではあるが、なかなかどうして味は普通のうどんだ。きっと二人の手立てがなければ今頃このうどんはスペシャルうどん、もしくはうどんだった物に変貌を遂げていただろう。
Hi-ν先輩と呼ばれ慣れてしまった夏凜は後輩お手製のうどんを啜り、そんな感じよ。と友奈の言葉を肯定する。
が、恐らく彼が勇者部の中で一番一緒に居ることが多いのは、旧友である美森とジェラート試食機である友奈だ。
「けど、ハゲ丸も災難よね。ハゲてなければ絶対にモテてたわよ?」
「性格よし、家事万能、子供の相手も得意でオマケに根性あり」
「天は人に二物を与えずですねぇ」
まだ恋愛についてはよく分からない友奈、初対面のインパクト故に面白い先輩から印象の動かない樹、もう異性ではなく同性の友人みたいに接してしまってる夏凜。ハゲ丸は周りには恵まれているが、本人の頭皮だけがその恵みを弾いてしまっている。
なんとも可哀想なハゲ丸。元気っ子からお気楽、クール系に姉系先輩、妹系後輩と、属性だけなら大当たりが沢山いる勇者部面々と一切合財フラグが建たないのは最早才能と言えるだろう。
「ちなみにハゲ先輩って成績はどんな感じなんです?」
「いい方じゃなかった?」
「そうね。一応学年トップクラスらしいわよ? まぁ、神樹館に居たらしいし納得よね」
ハゲ丸の成績は美森や夏凜といった規格外レベルのトップクラスよりは下ではあるが、一般的に見れば優秀と言えるラインになっている。元々彼は四国の中でもトップクラスに知名度のあると言ってもいい神樹館小学校に二年間籍を置いていたのだ。神樹館で普通だとしても讃州中学でなら十分優秀な部類だ。
成績よし、性格良し、家事万能、子守も得意、そして根性ありで運動までできてしまう。抉らせた中学生が想像する理想像を爆走しているような彼ではあるが、ハゲという無情な真実がそれ以上を許してくれない。
「誰かあの人のために髪の毛生やす奇跡起こしてあげてくださいよ。ハゲてるせいで全部台無しじゃないですか」
「それもハゲ丸らしいけどね」
しかし、髪の毛が生えてもハゲ丸は不細工ではないがイケメンでもない。ザ・一般人みたいな顔なのでモテたか、と言われればそれは彼の行動次第としか言えない。
そこからハゲ丸の話題は出ることなく、普通の女子中学生みたいな会話が続いていたが、その中で友奈だけが首を傾げながら会話に参加していなかった。話を振られれば頷くが、それだけだ。
「どうしたのよ友奈。そんなに宿題が心配?」
そんな友奈を見て、夏凜は問いかけた。
友奈はその言葉に頷くのではなく、ちゃんとした返事を返した。
「そんなこと無いよ? だけどふと、わたしってハゲ丸くんや乃木さん達に会ったことあるような気がして……」
「そうなの? でも神樹館からここまでそこそこ離れてるわよ?」
「そうなんだけど……うーん……」
何だか記憶に靄がかかったようでよく思い出せない。
だが、友奈は少しずつ思い出していく。かつてあった、友奈と美森……いや、須美達との数時間足らずの出会いを。
****
それはまだ暖かかった季節だったのを覚えている。友奈達勇者部がハゲ丸を迎えて勇者のお約目を果たしながらいつも通りの日常に身を委ねる最中の話。
友奈は一人、迷子の子猫の探索を行っていた。他のメンバーは軒並み他の場所へと散っており、偶然友奈一人が子猫の探索をしていた。
どうしよう、見つからない。誰かに助けを求めた方が、と思った矢先だった。友奈が持つ写真に写された子猫とそっくりの子猫を見つけたのは。
「あ、居た!!」
友奈が思わず叫び、子猫はそれに反応して逃げだす。
追わないと。その一心で友奈は走り出した。その先にいきなり現れた四人組に気付かず。
「待てー!」
「へ?」
「といやー!!」
渾身の叫びと共に友奈が子猫に向かって飛びかかった。しかし、その手の中に収まったのは子猫ではなく友奈より少し小さな身長の子供。
「あれ? 逃しちゃった!?」
てっきり子猫を捕まえた気でいた友奈は手の中に収まった感触に戸惑いながらも前を走っていく子猫が視界から消えるのを見届けるしかなかった。
仕方ないか、と思いながら自分に押し倒された子をそのまま抱き上げ抱きしめていると、その子の友達らしい三人が戸惑いながらも口を開いた。
「あ、あの……お姉さんは一体何者……?」
「熱い抱擁なんよ〜」
「確かにそうだけど……」
困惑する子と、目をキラキラさせる子。そして呆れる男の子を見て友奈は立ち上がり、抱きしめていた、ヤケに抱き心地の良い子を解放する。
その際に自己紹介をした気がするが、抱きしめていた子の名前が須美という名だった事。そして男の子の名字が桂だった事しか友奈は覚えていない。
「あ! さっきの猫ちゃん!!」
そして一言謝った所でようやく友奈は自分が追っていた猫の存在を思い出した。しかし、その子猫がどこへ走っていったかをすっかり忘れてしまい、どうしようと落ち込む。
それに助け舟を出したのが桂だった。
「猫ならあっち行きましたけど……」
「ホント!? ありがと桂くん! じゃあわたしあの子を捕まえてこなきゃいけないから!!」
友奈は桂から聞いた方へと走り出そうとしたが、それを名前を覚えていない子の一人が声をかけて止めた。
それを無視するわけにもいかないので少し走った地点で振り返ると、四人が小走りで友奈の後ろをついてきた。
「アタシ等も手伝いますよ」
「元はと言えばわっしーのせいだしね〜」
「えっ、私のせい!?」
「常孝だろ、クソレズ」
「うるさいわよ何もしてないハゲのくせに!」
なんだか二人が口喧嘩しているものの、別に険悪な空気にはならないので、その口喧嘩は美森とハゲ丸のような物なのだろうと友奈は勝手に結論付け、四人と共に歩き出す。
須美と桂はどこかで見たことあるような。そして誰かに似ているような気がしたが、きっとそれは気のせいだろうと割り切って友奈は桂が指差していた方へと歩き出す。そうすれば自然と須美と桂の口喧嘩も止まった。
ここからは足での捜索になる。友奈が子猫を見逃さないように目を凝らしながら歩いていると、名前を覚えていない子の一人が友奈に質問を飛ばした。
「そういえば、さっき言ってた勇者部ってどんな事をする部活なんですか?」
さっき言ってた、というのは自己紹介の時だ。友奈は自分の事を讃州中学二年、勇者部所属と自己紹介したが、その際に出てきた勇者部という単語が引っかかったらしい。
確かに他には無いてあろうオンリーワンな部活だ。気になるのも無理はないだろう。
「勇者部はね、人のためになることを勇んで行って、困ってる人を笑顔にする部活なんだ!」
風曰く、勇者部という名の真意は他にあったらしいが、少なくとも友奈はこの勇者部に誇りに近い物を持っているため須美達にも笑顔でそう紹介できる。
そんな部活を行うから勇者。お役目で勇者をやっているが、友奈はどっちの意味の勇者も好きだ。
「だから、須美ちゃん達も勇者だね!」
そして、そんな友奈を助けるために動いてくれている須美達も勇者だ。
その言葉に照れたのか。それとも勇者である四人が面と向かって何も知らない人からそう褒められた事が嬉しいのか。顔を赤くしながら須美は少しビックリし、名前を覚えていない二人は照れまくり、桂は目を逸らしながら口笛を吹いている。その様子がおかしくて笑ってしまったのは仕方ない事だろう。
小学生四人組とそんな他愛もない話をしながら歩いていると、四人の中では目がいい方である須美が猫を見つけた。
「あ、木の上に」
しかし猫は木の上に登って降りられないのか震えていた。猫には時々あることだが、こうなると中々面倒な事になる。小学生組が曇り顔になる中、友奈はすぐに子猫を救出する案を出した。
「じゃあ合体してあの猫を助けよう!」
「合体……?」
その合体とは。
「さ、流石に重っ……!!」
「ズラ! 上向いたらぶっ殺すからな!!」
「そ、それよりも早くぅ〜!」
桂、友奈、銀の順で下の人の肩の上に立ち、縦に連結するという物だった。きっと桂が鍛えてなかったら成り立たない作戦だ。
だが、桂は根性で踏ん張り、友奈を支える。上二人はスカートなので上を見たら天国が待っているが、直後に訪れるのは地獄だ。きっと記憶を物理攻撃だけで消されて拳に対するトラウマを得ることになるのは明白だった。
故に頑なに上を向かず、ただ肩の重みに耐える。そんな中。
「あっ、降りてきた」
「キャッチ〜」
猫は銀、友奈、桂の手と背中を伝い降りてきて、そのまま園子の手の中に収まった。
合体は功を奏さなかったが、なんやかんやで猫の救出と捕獲は成功。合体をすぐ解き、友奈が子猫を受け取ってから五人はすぐに子猫を探していた依頼人の元へ向かい、子猫を手渡した。
「なんか凄いお礼を貰っちゃったわね……」
その結果、五人はビニール袋一杯のお礼のお菓子……ぼた餅にもなかにかりんとうを貰ったのだった。
別に勇者部の活動はこれと言った見返りは求めていない。ボランティアと言っても差し支えのない行為ではあるが、今までの頑張りがこうしたお礼を貰えるほどの人望や功績を産んでいる。
「いや〜、助かったよ! みんな、ありがとね」
「いえいえ。ウチの須美がご迷惑をおかけしました」
「やっぱ私のせいなのね……」
もう友奈の受け持った依頼はない。あとは部活メンバーと合流して報告をするだけだが、それまでの間このお礼を口にしてお話するのも良いだろうと思った頃だった。
友奈の携帯に風からの連絡が入った。恐らく、予想以上に手間取っていたせいで風が心配して電話をかけてきたのだろう。
「あ、急いで戻らないと! そのお礼はみんなで食べてね!」
友奈はすぐに讃州中学の方へと歩を変え、走り出した。それを須美達は一度止めようとしたが、友奈が一度振り返った事で引き止める言葉は出なかった。
「ありがとう! ちっちゃな勇者さん達!!」
それ以降、友奈は須美と桂。そして残りの二人とは一度も会っていない。
だが、どうしてだろうか。彼女達とは最近会った気がするのは。
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「結局気のせいだったのかな? その時会った子は須美ちゃんと桂くんって名前だったし」
「そうねぇ。でも、友奈が人の名前を忘れるなんて珍しいわね」
「うーん……なんでか思い出せないんだよね」
結局一通り記憶を思い出しても彼女達のフルネームを思い出す事はなく。ただ、四人ともどこかで会った誰かと似ていたような。そんな感じはした。
「そういえば、四人ともちっちゃな社を掃除した帰りって言ってたけど……ここら辺にちっちゃな社ってあったかな?」
「どうかしら……一応、今度友奈がその四人と会った近くを調べてみましょ。もしかしたらあるかもしれないわ」
「でも、それがもしも過去や平行世界のハゲ先輩だったら面白い話ですよね」
「そんなの……有り得そうね。神様が実在するんだから」
「あはは。まっさかー」
そうしてうどんを食べ終えた三人の姦しい会話は続いていく。
果たして友奈の出会った須美達は平行世界の須美達なのか。それとも過去の須美達なのか。それは――
「結城友奈さん、かぁ。あの時会った時と全く変わってなかったなぁ」
「ん? どうしたの、そのっち」
「ううん、なんでもなーい」
神様仏様銀様園子様のみが知るのだろう。
ゆーゆ視点なのでどうして須美達が二年後の世界に飛んだのか、分からない方も居たと思いますが、そこら辺は勇者部所属を購入して確かめてみてください(ダイマ)
次回からはまたわすゆ組に視線を戻します。次回は乃木園子です乃木園子です乃木園子ですか、そのまま遠足にイクゾー!か。全てはその時の気分しだい。
え? どうしてここでこの話を差し込んだかだって?
久々に樹ちゃん後輩とゆーゆが書きたかったんだよ()