ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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死亡フラグ建築しまくりな所は大胆にカット! 回想だからこそできる手段!

というわけで今回は遠足編。どうぞ


悪戯な風に攫われるズラ

「それで結局、全員が同じ場所に集まっちまったんだよな」

「そうそう。園子が即迷子になって須美と俺が探しに行ってさ」

「いきなり乃木園子です乃木園子ですって。最初は何事かと思ったけど、まさかいきなり迷子になっているとはな……」

 

 引っ越しの準備は八割方終わらせることができた。

 その間話していたことは、休暇の最後の日。全員が自由時間としてその日を謳歌していた時の事だった。銀は家族と出かけて、園子はその辺をブラブラ。須美と桂は家で適当に時間を潰す予定だったが、ブラブラしているがただの迷子だと言う事が判明した結果、須美と桂が全力で園子を捜索に当たり、偶然銀とも合流。結局全員が集まってしまったという珍事についてを話していた。

 結局その話はただの笑いごとなのだが、もしも園子がそのままどこか変な所へ行ってしまっていたらと思うとちょっとゾッとしてしまう。何か事案に巻き込まれる、という事は確実にないが、それでも心配な物は心配だった。

 

「で、その後は……」

「遠足、だな。ある意味ではアタシ等の今後を決めた」

 

 そう。小学生が楽しみなイベントの中に含むような輝かしいイベントの一つ、遠足。

 図らずしもその日は四体目……そして、五体目と六体目のバーテックスの襲来が起きた日であり、桂が全勇者の中で初めて満開を使い――

 ――銀が勇者ではなくなった。四人が揃って戦う最後の日だった。

 

 

****

 

 

 遠足にはしおりというのが存在する。

 遠足の日程やその日にやる事。移動の時間やお昼の時間等を記し、そして遠足で育むための志やら何やらを書いたお約束とも言える物だ。

 それを作ってきたのは先生……ではなく須美だったという小さな珍事が起こった。

 

「わ、わっしー、なぁにこれぇ」

「しおりよ」

「俺の知ってる遠足のしおりってもっと薄かったような……」

「すげぇよこれ。鈍器だよ鈍器」

 

 園子の机に積みあがった三つのしおり。

 最早ハードカバーの小説数冊分にまでなったしおりはとてもじゃないが当日背負っていくリュックサックには入らないような厚さだ。ついでに言えば重さも数キロあるため、こんな物入れたリュックを背負ってしまっては大人であろうと肩が痛くなってしまうだろう。

 だがこの四人は腐っても勇者。これ一冊を背負う程度ならまだ何とかなってしまうのだった。

 

「うっわ……台詞が無い分小説より読みにくい……」

 

 須美が栄養ドリンクを飲んで徹夜までして作ったしおりは、正直に言うとかなり文章が硬く、読みやすいか読みにくいかと言われれば読みにくいに十割の軍配が上がってしまうような。そんな完成度だった。

 思わず桂が眉間を抑えるほどの文章量。ついでに片手で持っていると手がプルプルしてくる。それに厚すぎるせいで読みにくいったらありゃしない。だが。

 

「読まなかったらお灸よ」

 

 そう言って須美が取り出した、片手に山盛りのお灸を見てしまうとどうしても見なきゃならないと思ってしまう。

 

「んなモンどこで売ってたんだよ……」

「イネス」

「流石イネス」

「っていうかこれ、色が茶色なら完全にうん」

 

 その瞬間、笑顔の園子からそれ以上言うなと言わんばかりの拳が飛んできた。

 

「こぉ!!?」

「ズラっち? あんまり汚い話はNGだよ~?」

 

 園子の言葉に謝る桂。

 それに、そのお灸は一体どこから取り出したのかを聞きたくなったのだが、多分仮面ライダーのベルトみたいに異次元にでも収納していたのだろうと勝手に納得してしおりを一つ抱えた。遠足の準備の他にこの分厚くて思わず頭痛がしてしまうような文章量のしおりを読んでこないといけないという謎の課題も発生した。

 

「っていうかこれ持ってると鍛錬でできたマメが痛い件」

「分かるマン」

「さっきからずっとじんじんするんよ~……」

 

 なお、その課題にはこのマメの痛みを耐えなければならないという、我慢との勝負も付属してくるのだった。

 

「ん? 美少女のマメ……閃いた」

「わっしー、投げて」

「了解」

「ニ゛ャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 そして下ネタをぶちかました桂は園子の命を受けた須美の手によって、気持ち悪い悲鳴を上げながら人の神経を逆撫でするような表情を浮かべて窓から飛翔し、地面に突き刺さった。もちろん無事ではあった。

 

 

****

 

 

 その日の夜。銀は金太郎が眠った後に遠足の準備を進めていた。

 須美謹製のしおりは適当に読み飛ばし、結局リュックの中に入りきらなかったしおりは、明日までに持っていく手段が無ければ置いていく予定だ。しおりなんて先生達が用意してくれた薄いしおりが一つあれば間に合ってしまうのだから。

 先生達の用意したしおりに書いてある必要な物だけをリュックの中に入れ、銀は携帯でいつもの四人のグループを開いた。

 

「えっと……こちらの準備は終わりましてよっと」

 

 そんな銀の発言にはすぐに返信がついてくる。

 

『こちらも終わりましてよ』

『ビニール袋を忘れてはいけなくてよ?』

『しおりが入るリュックが存在しなくてよ』

「うわっ、ズラのこの口調キモッ」

『キモイよズラっち』

『キモイわハゲ』

『キモイぞズラ』

『ちょっと泣いていいかな』

 

 もちろんおふざけの言葉なのだが、桂がいい反応を返してくれるのが悪い。おう泣け泣け、と一言打ってから銀は携帯を充電コードにさした。

 もう夜も更けている。早く寝ないと明日の遠足に支障が出てしまうだろう。

 それに、もしもバーテックスが襲来したとして、寝不足でふらついて戦えませんなんて間抜けな姿を晒せるわけがない。銀はいつの間にか寝付いてしまっている鉄男を見てから着替えて眠りにつくのであった。

 明日の遠足は楽しくなりますようにと祈って。

 

 

****

 

 

 翌日の遠足で向かう場所はバスで一時間もたたない場所にあるアスレチックコースやバーベキューなんて物もできてしまう公園だった。

 そこそこ広いその公園は神樹館小学校六年生全員が遊ぶには最適とも言える広さであり、普通に公園で遊ぶのもよし、アスレチックコースで遊ぶのもよしな場所だった。

 勇者四人は勇者だから何処へ行け、等の制約は特になく自由に楽しんで来いと言われ各々が行きたい場所へ……のはずだったのだが、なんやかんやで全員がアスレチックコースへ突入した。所詮公園にあるアスレチックではあるのだが、それでも小学生がテンションを上げるには十分な作りをしており、勇者四人は一からアスレチックの攻略に向かった。

 

「ほい、ほいっと。まぁ普段の訓練からすればこの程度楽勝だよな」

「そうっ、ねっと。ふぅ。訓練する前なら多少なりとも疲れたんでしょうけど」

 

 しかし勇者四人は大人顔負けな訓練を行ってきている。人間を超越した存在と日夜戦う彼女等がこの程度で根を上げるわけがなかった。

 のだが、園子はタイヤ潜りのアスレチックの中で中途半端な場所で止まっていた。後ろの桂が若干不服そうに欠伸をしている。

 

「どうしたのそのっち」

「いや、こうね……ここから落ちたら下は奈落だと思うとスリルが……」

「ハゲにお尻を視姦されてるわよ」

 

 その瞬間、園子の足が後ろの桂の顔面に突き刺さり、園子は猫もビックリな身体能力を発揮しそのままタイヤから飛び出して銀の腕の中にスッポリと収まった。今回桂くんにかけられたのは事実無根の冤罪である。

 

「ズラっちの変態!!」

「あ、あの……事実無根な罪を押し付けてくる上に割とマジな罵倒止めてくんない? 流石に傷つくんだけど……」

「でもそのっちのお尻を見ていたのでしょう?」

「そりゃ前に居たし」

「ミノさん! ズラっちをそこの坂から投げ捨てて!!」

「はいよ」

「いやちょっ、流石に今回ばかりは俺の言い分だって……ニャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?」

 

 そして坂からぶん投げられて転がっていく桂。無駄にキモい猫の声真似は暫くすると聞こえなくなった。そしてその様子を偶々見ていたしずくが居たそうな。彼女は本当に勇者と言う存在がこんなのでいいのか疑問に思っていたが、その疑問は恐らく二年経っても解決しないだろう。

 連日仲間からポイ捨てされる桂くんではあるが、完全防御特化勇者である桂はそれでも特に大きな怪我なし。そこら辺の力加減はできるお年頃なのである。

 桂は数分後には自力で戻ってきており、すぐに三人と合流した。暫し園子からの目線が汚物を見るような目に変わったのは言うまでもないが、なんやかんやで仲直り自体はすぐに終わった。

 

「ミノさん、ズラっちが怖いよ~」

「おーよしよし。変態に見られて怖かったねぇ」

「しまいには泣くぞ。なぁ、そこの君。俺が泣く姿みたいか?」

 

 銀にじゃれつく園子。そんな園子を甘やかす銀。そして桂はスケベの罪を擦り付けられ、なんとなく自分たちを見ていた女の子に話を振った。しずくだった。

 しずくはいきなり話を振られて思考が完全に停止。したのだが、小さく声を捻りだした。

 

「み、みっともないと思う……」

「うん、みっともないよな。だから泣かせないでくれ」

「なんつー懇願だよお前。ってかそこの子、この変態に絡まれたら視姦されるから離れとけよ~」

 

 その言葉を聞いてしずくはそそくさと離脱していった。その行動に桂くんの純粋はーとに若干の傷が入ったのは言うまでもないだろう。

 しかし、そろそろ止めにしておかないと本気で桂が拗ねそうなので一応ふざけすぎたとだけ謝っていつも通りに振舞う事に。桂だって視姦したくて視姦したわけではないのだから、この程度のおしおきで許してあげてほしい。

 許された桂は若干復讐を考えていたが、銀に甘えるのが羨ましかったのか二人の間に無理矢理顔を突っ込む須美と、それを受け入れる銀と園子を見てどうでもよくなった。美少女三人が微笑ましく触れあっているのは桂の中にあった黒い思考回路を一瞬で浄化したのだ。

 そんな一幕が過ぎ、時間も同時に過ぎていく中、勇者達のアスレチック攻略は順調に進んでいく。

 そして壁のぼりのアスレチックにて。

 

「んじゃ、アタシが一番槍だ!」

「槍だったら園子じゃね?」

「いいんだよ、いつもアタシが一番槍切ってんだから!」

 

 銀が壁から垂れているロープを握り、自分の足を壁に付けそのまま少し上る。が、やはり銀にとっては簡単すぎたようで、すぐに両手ではなく片手で登り始める。

 

「これなら片手でも楽勝だな! いやー、優秀なのがつれーわー」

 

 一体誰に向けているのか分からない謎の煽りをしながら銀が壁を上っていく。その様子を見て須美と桂が苦笑し、純粋に園子が銀を応援する。

 しかし、銀がロープを握りなおしたその瞬間。銀の手にできたマメが痛み、彼女は咄嗟に痛みを防ごうと反射で動いてしまったがためにロープを放した結果、体が落下する。

 危ない、と誰かが言った。園子と須美が同時に動いた。

 そして、桂がそれよりも前に。銀がロープを握って顔を顰めた瞬間に動いていた。

 

「滑り込みぃ!!」

 

 スライディングをして一気に銀の落下地点に滑り込む桂。そんな桂の人体の中で柔らかい部分、腹に銀の尻がそのまま落ち、桂の両手が銀の背中と膝裏をキャッチした。

 

「ぐぼぉ!!?」

「あっ……ってズラ!? 大丈夫かズラ!!?」

 

 上手い具合にキャッチされた銀は全身のほぼどこにも痛みはなく。強いて言うなら桂の腹の上に乗った尻が痛いだけでそれ以外はほぼ痛まなかった。

 しかし、そんな彼女を受け止めた桂のダメージは結構深刻だ。何せ、先に銀の尻が腹に落ちてきたのだから、なし崩し的に腹で彼女の全体重を一度受け止めてしまった。その後に背中と膝裏を支えたとしても一度襲ってきた衝撃は決して消えない。

 すぐに銀は桂の上から退き、腹を抑える桂を覗き込む。

 

「あ、朝食ったモンと女子力が全部出そう……」

「馬鹿言ってる場合かよ! すぐ先生の所に……」

 

 明らかに朝食べたものを吐き出すどころの痛みじゃ済まないだろう。子守りをしている時に何度も自分の腹に走って突っ込んでくる鉄男を受け止めたりしているからこそ、銀は桂の痛みが相当な物だと分かる。

 だからこそ、彼を抱えてすぐに先生の場所へと連れていこうとしたのだが、桂がそれを止めた。

 

「大丈夫だ……俺を誰だと思ってる……?」

「でも!」

「俺だって攻撃受け止めるために鍛えてんだよ……この程度なら数分で回復するっての」

 

 桂は一人で立ち上がり、勝手に移動して誰の邪魔にもならない所で座り込んだ。すぐに須美と園子もその後を追い、銀が表情をそのままに桂を追う。

 

「ハゲ、本当に大丈夫?」

 

 須美が最近にしては珍しく桂に対して真面目な声をかける。

 その声を聞いた桂は須美が一切ふざけていないのを確認してから、頭の中で浮かべていたネタをいくつか消して真面目に回答する。

 

「平気だっての。ってか普段から二階からポイ捨てされてんのにこの程度で再起不能になるわけないだろ」

「そ、それは……そうよね、うん」

 

 昨日だって二階から須美の手によって投げられたばかりだ。だから今さらこの程度の痛みでどうこう言うような軟弱性を桂は持ち合わせていない。

 ついでにその言葉は三人全員を大丈夫だと納得させるのに最適な物だったらしく、一番桂を心配していた銀も表情を緩めるほどだった。二年後も変わらず窓から投げられたり銀に投げられたりしている桂だ。人を一人受け止めたところで再起不能になる方が不自然だ。

 

「ってか銀。俺を心配するんならもうちょっと気をつけてくれよ。流石にビックリしたぞ」

「はい……反省してます」

 

 そして話を振られた銀ではあったが、その表情がまた暗くなってしまった。やはり銀の性格からして罪悪感を感じてしまっているのだろう。

 それを見た桂は少しバツが悪そうに頬を掻き、園子にアイコンタクトを求めた。今からちょっとセクハラするぞ、と。

 園子が困ったように頷いたのを見てから、桂は笑顔を浮かべ、サムズアップを銀に向けた。

 

「ただ、美少女のお尻の感触を味わえたので満足です」

「死ね」

 

 銀の命を刈り取る形をした蹴りが桂の米神に突き刺さり、桂が倒れた。

 

「な、何考えてんだこの変態! スケベ! 色情魔!! 珍しくカッコいいと思ったら!! 信じらんねぇ!!」

 

 罵倒のオンパレードを桂に向かって吐いた銀は顔を赤くしながら大股でもう一度大壁の方へと歩いていき、それを須美が追った。

 そしてセクハラをして地面に倒れた桂は苦笑した園子の手でなんとか立ち上がり、蹴られたばかりの米神を抑えた。

 

「いてて……正直こっちのが痛いわ」

「最近、ズラっちの変態キャラが根付いてきたよね~」

「場を和ませるには程よい下ネタが一番なんだよ」

 

 園子が渡そうとしてくる濡れたタオルを手で制しながら桂が首を一度回し、調子を確かめてから大きく息を吐いた。

 多分、あのままだと銀は桂の上に落ちたことを気にしながら今日一日を過ごしたはずだ。だから、桂はそんな罪悪感にも似た感情を一切銀に持ってほしくないと思い、わざとあんなことを口にした。

 第一、あの瞬間銀のお尻の感触を感じれたわけがなく、感じたのは銀の体重とそれが落ちる衝撃だけだ。

 

「まぁ、あれで銀は大丈夫だろ」

「だね。でもズラっちの好感度は落ちたと思うよ~?」

「いいんだよ。それで銀が心の底から笑えるんなら」

 

 桂の視線の先では、先ほどとは違いちゃんと両手で大壁を上りきった銀がいた。そこにすぐ須美が追いつき、自分たちを見ている二人に気が付くと、ちょっと苦笑してから手を振った。

 それに手を振って返し、桂はさて。と呟いた。

 

「んじゃ、そろそろ銀に適当に謝ってアスレチックに戻りますかね、隊長さん」

「うん、そうだね~」

 

 そろそろ戻らないと二人も歩を進めないだろう、と思い歩き出す二人。

 アスレチックに戻るまでの僅かな間、園子は桂にしか聞こえない程度の声量で質問を飛ばした。

 

「ズラっち、なんであんなに早くミノさんが落ちるのに気が付けたの?」

 

 それに桂はすぐ答えを返す。

 

「そりゃ俺はお前らの盾だからな。守る事に関しちゃ、目敏いんだよ」

「……ズラっちって時々カッコよくなるのに、普段の言動だったりハゲてるせいで色々と損してるよね」

「そうでもないさ。お前らみたいな最高の友達と出会えたんだから、損なんざしてねぇよ」

 

 その言葉に対する園子の返事は、顔を少しだけ赤くしながら放たれた肩パンだった。

 なお、その肩パンが割と本気だったらしく、桂が割と本気で痛がったのはどうでもいい事だろう。

 

 

****

 

 

 それから昼食はグループごとに分かれてバーベキューとなった。

 食材は小学生達が切って調理するため、基本的にグループに一人は他称料理ができる子供がいる。勇者グループも勿論料理ができる人材はしっかりと抱えており、勇者達の顧問とも言える安芸先生も加わって計五人での調理となった。

 

「くぅぅ、この匂いは絶対に美味しいやつだって! なぁ、ズラ!!」

「そうだなその通りだ! だからこそ、俺はここでうどん麺を召喚! 焼きそばに加えて焼きうどんを作らせてもらう!!」

「かーっ! 分かってんじゃねぇかズラ!!」

 

 しかし、この五人のうち二人。特に銀と桂は普段から多少なりとも料理をするという事もあり、自由に調理していいと言われたこの場では無双状態にあった。ちなみに銀と桂は特に言葉もなくいつも通りのテンションでつるんでいたため、何かしらの謝罪イベントとかはなかった。

 対して須美は。

 

「ならデザートのぼた餅は任せなさい! もしもの時に備えて四人分はいつも持ち運んでいるのよ!!」

 

 まさかのぼた餅である。この勇者達、フリーダムすぎる。

 本当なら学校が用意した食材を使い焼きそばやバーベキューを楽しむ場のハズが、フリーダムな勇者達のせいで焼きうどんに加えてぼた餅までもが昼食にねじ込まれた。安芸先生も他と差が出てしまうからと注意しようとは思ったのだが、自分たちで食材を持ってくる分には大丈夫だと言ってしまった手前、そういう事を口にする事ができなかった。

 それに、周りのグループもちらほらとパンを持ってきて焼きそばパンにしていたり米と合わせてそばめしなんて物も作っていたりするので、どっこいどっこいだろうと見守ることにした。

 したのだが、ふとここまで特に目立ったことをしていない園子を安芸先生は目に付けた。

 恐らくこの中だと一番考えが読めない上にフリーダムな園子が何かしないわけがないと安芸先生は視線を向けたのだが……

 

「見てみて~。巨大カブトムシ~」

 

 全身にカブトムシをくっ付け、無数のカブトムシが園子という素体を使い巨大なカブトムシを作り上げていた。

 それを見た虫嫌いの須美は。

 

「きゃあああああああっ!!? ゴキブリにしか見えないぃぃぃぃっ!!」

 

 全力で園子から距離を取った。

 しかしそれを園子は逃がさない。

 

「逃がさないよ~。トランスフォーム!!」

 

 カブトムシを巧みに操り、カブトムシの形から本当にゴキブリの形にカブトムシアーマーの形状を変えると、そのまま走って須美を追う。

 

「ぎゃああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「待て待て~」

「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 最早なりふり構わず逃げる須美。それを笑顔で追いかけまわす園子。そんな園子を見て阿鼻叫喚の地獄絵図となる調理場。

 その中で桂と銀は。

 

「俺は更なる食材、米と卵、そして元からあった肉と野菜の数々を投入する! これで炒飯の完成だ!!」

「ならアタシはこの場にある調味料を使いうどんの汁を錬成!! さぁズラ、うどんの麺をぶちこめ!!」

「流石だ銀! これで!!」

『うどんの完成だぁ!!』

 

 炒飯と、まさかのうどんを錬成していた。

 安芸先生は空を仰ぎ、このフリーダムな勇者達をどうしたらいいのか悩みながら、そっとピーマンを自分が食べる分から桂の分へと放り込んでいた。

 ちなみに、うどんやら炒飯やらは勇者達が責任をもって胃に収めました。

 

 

****

 

 

 そうこうして時間は過ぎていき、昼食の時間は終わりアスレチックも全制覇。

 清々しい気分で四人は街が一望できる展望台に来た。

 

「おぉ~! イネス見えるかな!!」

「流石に見えないだろ。ってか銀って本当にイネス好きだよな」

「そりゃな! だってイネスの中には……」

「公民館まである!」

「あちゃ。もうパターン読まれ始めたな」

 

 高い所というのは、高所恐怖症でもない限りテンションが少なからず上がる物だ。その最たる例は銀であり、見える風景を一望してイネスを探していた。

 が、イネスが見えるはずがなく、少し銀のテンションは落ちてしまった。それでも少し程度なので、まだ普段と比べればハイテンションに見えるテンションだ。

 

「あ、じゃあわたしは~?」

 

 そしてイネスが見えるか見えないか、から銀のパターンが読まれたという話になり、園子が自分のパターンは読めるかを聞く。

 しかし。

 

「そのっちは、読めない」

「がーん……」

 

 清々しい表情を浮かべた須美が明後日の方向を見ながら読めないと告げた。

 園子の内心を読めるようになればその人はきっと、どんな人の内心も読めるようになるだろう。シリアスな時くらいは分かるが、いつものフリーダムな園子のパターンなんて誰も読めるわけがない。

 

「でも今のそのっちくらいなら分かるわよ」

「目に見えて落ち込んでるからな」

 

 こういう時を除いて、だが。

 

「ホント!? やったぜふうぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 そしてこういう時も、だ。

 園子はなんやかんやで色々と表に出やすい面もあるため、こういうテンションが上がったり下がったりした時、彼女がどんなことを考えているか。いや、どんな気持ちかは分かる。園子のパターンも。

 

「ってか園子飛んでね?」

「園子だからな」

「それもそうか」

 

 園子が嬉しさのあまり飛び跳ねてたいるのだが、そのまま園子が両手を振って飛んでいるように見えたのは、きっと園子のパターンの一つなのだろう。

 強いて言うなら、あまり褒めすぎると空を飛びます。注意しましょう。だろうか。

 例えよく分からない現象で飛んでいても園子だからの一言で片付いてしまうような細かい現象だ。園子だからの一言でそれ以降特に気にしなくてもいいのだろう。

 

「ちなみに、須美についてはもう取説できるレベルで詳しくなったぜ」

 

 と、銀。

 

「へぇ。ちなみに、最初のページには?」

 

 と、挑発するような表情の須美。

 

「結構大変な物なので、注意して取り扱いください」

「そして可愛い女の子を近づけないでください、襲い掛かります」

「終いにはぶち殺すわよ、ハゲ」

 

 決め顔の桂が須美からアルゼンチンバックブリーカーをくらい、必死にズラが落ちないように頭を押さえる。

 今にもそのまま真っ二つになりそうな桂ではあったが、誰も助けない。これがいつもの事だと分かっているから、放っておいても大丈夫だと、二人の共通の説明書には書いてあるのだ。

 

「でもいいじゃん。アタシはきっと街中に貼ってあるチラシ並みに薄いぞ~?」

「一枚じゃねぇか」

 

 桂くんの冷静なツッコミは、特に誰も反応しなかった。

 

「そんな事ないわよ。書くことはいっぱいあるわ」

 

 ツッコミは無視されたが、代わりに銀の言葉を訂正するような言葉が飛んできた。

 

「例えば、中身は乙女チックです、とか」

「家事万能です!」

「大変な美少女です」

「そして時々イケメンです」

「落とされないように注意しましょう」

「そして大変家族思いの優しい子なので優しく接して……」

「もうその辺で止めてくれぇ! 背中がむず痒い!!」

 

 顔を赤くして三人からの口撃を止める銀。

 そんな銀をニヤニヤしながら揶揄い成功と言わんばかりにハイタッチする須美と園子。そして解放された桂。

 銀は単純に褒められる事に慣れていない。褒める事には慣れているが褒められる事には耐性が全くと言っていい程無いのだ。人のいい所を見つけ、それを伝えられるというのは大変いい事であり、彼女が勇者らしいと言える事でもあるのだが、如何せん仕返しにはめっぽう弱い。

 礼を言われる事にも慣れて、人のいい所を見つける目もよく。しかし褒められる事には滅法弱い。一方的に何かを貰う事に慣れていないが故に、そこが可愛いと人に言われてこうして顔が赤くなる。

 

「ホント、銀は無条件の親切が苦手だな」

「ほっとけぃ」

 

 はいはい、と桂が銀の言葉に応じて、それ以上は誰も銀を揶揄わなかった。あまり揶揄うと彼女は爆発して仕返しをしかけてくるのが、三人の頭の中にある説明書にキチンと書かれている事だ。

 

「……ちなみに俺は?」

『馬鹿で変態でハゲなので適度に触れ合いましょう』

「俺は動物か何かか!!?」

 

 なお、桂の方はその一行で終わってしまうようだった。もちろん、そんなことはないのではあるが。

 桂の溜め息と三人の笑い声が空に消え、気が付けば四人で街を見ている。

 自分たちが守っている世界。それを見る気持ちと言うのが暗いわけがなく、四人の表情は少し歳相応とは言えないが、立派な物だった。

 

「……あ、急に風が」

「うおっ……って俺のズラがぁ!!? この、待ちやがれ!!」

「ちょ、ハゲ、ここ展望台だから飛び降りたら……」

「ニャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛……」

 

 そして桂はいたずらな風に攫われたズラを追って展望台から飛び降りた。

 三人はどうしようかと一瞬顔を合わせ、桂の事を忘れてからもう一度街の光景をその目に焼き付けるのだった。

 なお、桂は数分後に無傷で戻ってきた模様。本人曰く猫の気持ちになるですよで何とかなったらしい。




桂くん、今回だけでわっしーから教室の窓から投げられ、アルゼンチンバックブリーカーをされ、そのっちに顔面を蹴られ肩パン(全力)され、ミノさんに坂から投げ飛ばされ、ミノさんを受け止め、そして側頭部を思いっきり蹴られる。しかもその後に展望台から飛び降りる。

これで無傷なのも全部ギャグ補正ってやつの仕業なんだ。

最近FGOとグラブルの周回がえげつない程時間を毟り取ってきて大変です。FGOの方は孔明マーリンが居るんで高難易度も令呪使わない程度には楽なんですけど、グラブルはまだ全然なので周回一つが辛いです。

では次回ですが、いよいよあの問題の戦闘ですね。果たしてミノさんはどうやって生き残るのか……!! 桂くんは果たしてキモい猫の鳴き真似をせずに生還できるのか!!

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