ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回からもう一気にわすゆ編を終わらせにかかりたい(願望)


入院するハゲ

「あの時は本当に死んだなって思ったよ」

「よく出血多量で死ななかったよな、俺達」

 

 なんやかんやで銀はあの激戦を生き残った。代償は腕一本と少なくない犠牲ではあったが、そうしなければきっと今日この日々は存在しなかった。

 大赦を、バーテックスを恨まなかったと言えばウソだ。だが、もし自分がやらなくて誰かが代わりに傷ついていたのだとしたら。銀はこの選択を悩まずに取る。誰かが傷つくくらいなら自分が傷ついてみんなを守る。その精神と意識が彼女の行動原理とも言えるからだ。

 対してハゲ丸は銀ほど大怪我ではなかったが、散華は勿論起こった。

 その散華の内容は、記憶の半分の消失。しかも虫食い状態で記憶が消えていった。唯一の救いは虫食い状態であるため人の名前は忘れなかったことと、前後の記憶が存在しているのならそこから何が起こったのかを理解できることだった。

 最も、桂の散華……まだまだ不安要素が大きかったプロト満開を使った代償はそれだけでは済まなかったのだが。

 

「で、銀さんや。俺達めっちゃ矢刺さったじゃん? でも傷跡ないじゃん? なんでか分かる?」

「そりゃお前。大赦の謎技術だよ」

「謎技術って……」

「だって三百年前から技術の進化はない癖にあんなトンでも武器作るんだぜ? 炎が出たり矛先が浮いたり巨大化したり」

「……あぁ、それもそうか。つまり考えたら負けなんだな」

「そういうこと」

 

 若干メタを含んだ会話ではあったが、傷跡が残らなかったことは良い事だ。特に銀に関しては。

 まだ嫁入り前の少女の体に消えない傷があったら色々と困ることが出てきてしまうだろう。特に銀は顔にまで傷ができていたのだから、それが残ってしまっていたらきっと銀は将来苦労する事になっただろう。

 

「まぁ片腕無いから体中に傷あってもあんまり変わんないんだけどな!!」

「って急に自虐止めろって。俺の心が潰れる」

「隻腕な嫁を貰ってくれる旦那さん募集」

「立候補」

「まず髪を生やしてこい。あとイケメンになってこい。もしくはスキンヘッドが似合うナイスガイになってこい」

「やっぱつれぇわ……」

 

 そして回想はその後に……若干所ではない暗さを纏った話へと突入する。

 

 

****

 

 

 銀と桂はなんとか生還し、樹海化が解けてからも何とか意識を繋ぎとめていたが、どこから二人が重傷だという事を聞きつけたのか分からないが急に湧いてきた大量の大赦仮面による応急処置とすぐにやってきた救急車内での治療。そして更に大きな病院での緊急手術によって何とか命をつなぎとめた。

 銀は出血死とショック死の二つをしないのが不思議だと言われるほどの重傷であり、桂も矢が思いっきり内臓を傷つけていたらしく、何でこれで意識を保っていられるのかが分からないと言われるほどだった。

 だが手術は成功して二人の体は傷跡一つ残らないレベルで回復することが約束された。

 あの死線を生き残ったのは確かに良い事ではあるが、銀も桂も入院は一か月以上。しかも退院しても激しい運動は数か月は控えるようにとまで言われた。妥当な事だろう。そんな二人ではあるが。

 

「ズラー、ひまー」

「言われましても……」

 

 入院中とっても暇していた。

 銀は隻腕となってしまったため満足に携帯も使えなければ本も読めない。食事も、かなり辛そうだ。だがそれを持ち前の明るさでカバーしているためか同室で入院している桂もあまり気に負ってはいない。

 対して五体満足な桂ではあるが、家族にレンタルしてもらい持ってきてもらった、まだ見れていない特撮作品を片っ端から見ている。そのおかげもあり桂はあまり暇していなかった。寧ろ溜まっていた特撮を一気に見るいい機会だと割り切る程だった。

 

「だから一緒に見るかって聞いたんだよ。絶対に暇になるから」

「だってアタシ、あんまり特撮興味ないし」

「勿体ねぇなぁ。特撮はいいぞぉ。生きていくうえで必要な事全部詰まってるからな」

「でも俳優はカッコいいから若干興味ある」

「面食いめ……」

 

 最初はあまり興味ないからと桂が見ている特撮は特に見ていなかった銀。

 しかし一日二日もすれば。

 

「なぁズラ。アギトとファイズ、カブトにウィザードって結構余裕もって戦ってね?」

「カブト以外は結構必死だぞ?」

「え? カブトは?」

「アレは本当に余裕だから」

 

 なんてくだらない話でなんとか空気を明るくしているが、少しでも黙ってしまうと空気が質量を纏ってそのまま自分たちを押しつぶしてきてしまいそうな。そのレベルで空気は重い。

 それもそのハズだ。

 桂は記憶の半分が消し飛んだ。そして、銀は片腕を欠損した。この被害の中で黙っていても空気を重くするなと言う方がまず無理だ。

 しかも、被害はまだあった。

 

「で、ズラ。今日鉄男が来るんだけどさ」

「鉄男……? 鉄男……鉄男……あー、ごめん、誰だっけそれ」

「っ……あー、っと。アタシの弟だよ。ほら、この間ズラから玩具とDVD借りたろ? それ返しに来るってさ」

「玩具とDVD……あー、そういえばメビウスのブルーレイボックスが部屋から無くなってるんだったっけ。それ貸してたのか?」

「そうそう。それと、玩具の方も」

 

 桂の記憶は、未だに燃やされている。

 樹海が消える前、桂は確かに鉄男の事をしっかりと覚えていた。覚えていて、しかし彼との出会いは忘れていた。だが、彼はとうとう鉄男という存在そのものを忘れてしまった。この僅かな期間で。

 銀はそれが分からない。そして桂も忘れた事すら忘れるのだ。いや、元々知らない物だと思ってしまうからこそ、分からない。忘れているという事が分からない。だから、こうして些細な話からスレ違いが発生して、発覚して、銀が笑顔で既知の物を説明しなければならない。

 それがどれだけ苦痛であるか。共有した思い出が消えていく事がどれだけ辛いのか。それは当人にしか分からないが、少なくとも銀にとっては片腕を失った痛みよりも思い出を共有できなくなっていく今の方がとても痛かった。

 

「玩具は……あ、コンセレのディケイドライバーか。貸した覚えはあるけど……そっか、銀の弟が借りてたのか」

 

 そして、桂が消えていく記憶を探っていくのも。痛々しくて見ていられなかった。

 既に数日間、入院してから時間は経過した。その中で桂は頭の方を検査され、そして覚えている記憶を片っ端から思い出して。そうしてようやく判明したのは、桂があの激戦の後からこの二年間。つまり勇者になってからの二年間の記憶の内半分。つまりは合計一年分の記憶が綺麗さっぱり抜け落ちていた。

 その中には勿論須美、園子、銀との思い出もあり。そして斑のように抜け落ちているから、物事の起承転結の内、起と結を忘れている時もあれば起承転まで忘れている時も。そして起承転結全てを忘れている時まである。しかもそれは未だに続いている。

 それが痛々しくないわけがなく。でも直視しないといけない。それが銀にとっては辛かった。

 

「じゃ、じゃあさ。なんか見ようぜ。ほら、このまま話してても暗くなるだけだしさ」

「お、おう。じゃあ……ネクサスでも見るか!!」

 

 銀のトラウマが、また一つ。

 

 

****

 

 

 銀が桂によって見せられたネクサスの、ノスフェルの話でトラウマを植え付けられている中、須美と園子は安芸先生に呼び出され、病院内の人気のない場所で話を受けていた。

 それは桂の記憶。そして銀の勇者としての適性の事だった。

 

「……つまり、桂くんは今回の激戦による過労によって一時的に記憶を失い、そして三ノ輪さんは……もう勇者にはなれません。彼女はここで戦線を引いてもらいます」

 

 様々な説明を受け、そして最後に安芸先生は自分の心を押し殺して事実だけを告げた。例え途中の言葉が分からなくても、事実の理解だけはさせられるように。

 桂の散華は、未来の時と同じように過労で済まされた。そうとしか言えない。大赦でもそれしか分からないからと言って。

 彼女たちは、満開を見ていない。桂がどうやって銀と共に戦ったのか知らないのだ。だからこそ、過労で、一時的と付ければそれが満開の後遺症だと疑われない。桂と銀には既に大赦の職員が満開についての口封じ……満開について全てが分かるまで、混乱を招かない様に満開についてを一切口にしない事。そして、桂の記憶は恐らく過労による物だと。今は消えても後から復活する可能性があると。そう告げた。

 最も、勘のいい銀は確実に過労ではなく。そして失った記憶は戻ってこない確率の方が高いと気が付いているが。満開を知らない二人は過労の一言と希望を胸に抱かせることによって騙す事が容易だった。

 対して銀の方は。

 

「……ミノさんは、もう勇者として十分な力を持っていないから、勇者としての資格を剥奪される……そうなんですよね」

「はい。ですが、三ノ輪さんはその身を犠牲にして世界を守りました。先程の言い方こそ悪いですが、大赦も、そして周りの人も、彼女はお役目を立派に果たしたと認め、栄誉こそ得られるでしょう。代償こそ、大きい物ですが……」

 

 銀は勇者としての資格を、神樹様から剥奪された。

 彼女はもう、これから先足手まといにしかならないと思われてしまったのだ。だから、これ以上の戦闘を許されなかった。

 剥奪という言い方こそ悪いが、大赦は事情を知る者にその言葉を使う気は無い。三ノ輪銀は勇者としてのお役目を立派に果たし、そして英雄としてこれから先の未来、その名を歴史に刻むだろうと。それが大赦に残った人としての良心が出した結論だった。

 

「じゃあ、もう銀とは戦えないんですね……ハゲとも」

「少なくとも桂くんは容体が安定するまで勇者として戦わせる気はありません。もしもの場合は除きますが……」

 

 もしもの場合。つまり須美と園子が死亡。もしくはそれに限りなく近い敗北となった場合、未だに記憶を失い続けている桂は一人で戦う事となる。攻撃手段のない彼が、時間稼ぎの道具として。

 その言葉は安芸先生の本心ではない。しかし、大赦の意志である。故に、園子はこんな理不尽を押し付けてくる大赦を、そしてあの時気絶してしまった自分たちを恨み、歯噛みする。須美も、もう桂を戦わせるわけにはいかない。これ以上彼の記憶を消してたまるものかと、歯を食いしばる。そんな彼女たちを見て、自分はどうすることも出来ない安芸先生もまた、二人から視線を逸らし、自分の感情を殺す準備だけを済ませる。

 

「だったら、わたし達がバーテックスを全部倒します」

「ハゲと銀がこれ以上傷つかないように、戦います」

 

 こんな子供達に命を潰す覚悟を決めさせる。それが彼女たちを請け負う教員としてどれだけ辛い事か。

 子供達の背中を押し、夢へとその歩みを進めさせるのではなく、死地へと送り出さなければならない立場。

 自分が犠牲になればどれだけよかった事か。自分が勇者となってこの世界を守れればどれだけこの生を誇りながら死ねたものか。一教員として子供達の未来を守って戦う事がどれだけ誇らしい事か。

 それが叶わないからこそ。教員として失格とすら言える立場にあるからこそ、彼女は感情を、心を殺す。大赦の一員として、話を済ませる。

 

「神樹様も、それを期待しています」

 

 故に出た言葉は、頑張れ、でも死なないで、でもなく神樹様の名前。

 大赦としての言葉だった。

 

「ですが、これ以上の犠牲を出す事を神樹様は望んでいません。だから、勇者システムには近日中にアップデートが入ります」

「アップデート……強化、ですか」

「はい。まだ内容は未定ですが――」

 

 ――嘘だ。

 

「――恐らく次々回の戦いまでにはアップデートは完了するでしょう。ですが、次回の戦いには間に合いません。次回の戦いは今の勇者システムのまま、二人で切り抜けてもらう事になります。大丈夫ですか」

「やります」

「私とそのっちの二人で、やってみせます」

 

 その言葉に安芸先生は目を閉じ、では話は終わりですと告げ、背中を向ける。

 会話の場が自然消滅したことによってすぐに桂と銀の見舞いへと走る須美と園子。それを見届けず、安芸先生は一人携帯の電源を入れた。

 そこに映し出された画面は、既に決定した勇者システムのアップデート情報。

 二年後の勇者システムとほぼ差異の無い、勇者システム。満開と精霊を実装し勇者をこれ以上殺すこと無いように配慮し……そしてその身を削りながら戦うための、非人道的とすら言える勇者システムの内容だった。

 

「……」

 

 それを見て、彼女はそっと携帯の電源を落とし、ポケットにそれを入れた。

 きっと、自分が死後に行くのは天国などではなく、地獄なのだろう。そう思いながら、二人の病室から聞こえてくる阿鼻叫喚を無視して病院から出ていったのだった。




【悲報】ミノさん、ハゲの手によってトラウマを植え付けられる

ネクサスは本当にトラウマを植え付けてくるのが上手かったですよね……当時はまだ子供で、ストーリーがほぼ分からなかった自分は特に何も感じていなかったのですが、今見ると本当に怖いですよね

ノスフェルとかマジで怖い……というか、出番長すぎるしやる事が残忍すぎるしもう……

とりあえず、次回は……どうでしょう。まだ決めてませんが、恐らく話を一気に佳境に持っていくかと。原作だとここから三か月後にそのっちとリトルわっしーの最後の決戦ですが、めんどくさいと思ったらすぐに終わらせにかかるかも……w
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