ついでに更新遅れて本当に申し(ry
代わりに今日から明後日まで連続更新するから許してヒヤシンス
ヴァルゴ・バーテックス戦。
三体のバーテックス戦後すぐに来たそれは、須美と園子が生傷を増やしながらも撃退を果たした。その際に桂も樹海に呼び出されたが、決して変身せずに動くなと凄い顔で言われたので流石の桂も動くことができず、結果的に須美と園子は全身に傷を増やした。
桂にとって、それは悔しい事だった。
守りながら戦えたのに、彼女たちの心の安寧と体を天秤にとって、心の方を取った結果がこれだ。もしヴァルゴ・バーテックスが貫通力のある攻撃をしてきたら。それでもし彼女たちの体に穴が空いてしまったらと思うと、どうしてもやりきれない心にしかなれなかった。
もし銀と自分が戦えていたらと思う。
銀が居れば、一体のバーテックス程度、一時間もかからない内に倒せただろう。自分が居れば、彼女たちに傷の一つも負わせずに戦いを終わらせることができただろう。
だが、それができない。それが歯がゆくて、悔しくて。
先生からも、仲間からも戦う事を禁じられ、歯を食いしばるしかできなかった。
樹海が解除され、病室の外に投げ出されて、戦いの終わりに気が緩んでそのまま気絶した二人を介抱しながら安芸先生の迎えを待って、病室に戻って。それがヴァルゴ・バーテックス戦の動きだった。
「……やっぱさ、悔しいよ。こんな所で無事を祈ってるしかできないなんて」
「俺もだ。戦ってるのを見ているしかできないなんて」
もうすぐ入院期間も終わる。
その間にあった戦いは一回だけ。それから一月近く経ってもバーテックスは来ず。だが、二人の気は徐々に落ちて行く。何かあれば二人を見送る立場になってしまったこと。そして二人が傷つくのを想像して、しかし動けない自分を想像して。
大好きな特撮を見ても、気は晴れなくて。イケメン特集なんて書かれた雑誌を読んでも特に惹かれなくて。二人して外を見て、溜め息を漏らす。
「はぁ……次は、ネクサスでも見るか。まだ一周しかしてなかったしな」
「おいズラ。それ、一回みた」
「え? あ、あぁ……そうなのか。おかしいな、銀とネクサスは見てなかったと思うんだけど。じゃあガイアを」
「それも見た」
「じゃあティガ」
「それも見た……おい、ズラ。本当に大丈夫かよ」
桂は次々とブルーレイを取り出していくが、それは全部桂が入院してからすぐに銀と共に見た特撮だった。
それをまた見ようとするという事は、つまり、彼の中でその記憶すら既に燃やされてしまったという事だ。故に、銀の言葉は自然と刺々しい物になるし、同時に彼女の表情は本当に桂を心配する物へと変わる。
取り出したブルーレイを全部しまって、桂は立ち上がる。
「どこ行くんだよ」
「風に当たってくる。ちょっと……気分が優れない」
彼はそのまま病室を出ていった。
気分が優れないというのは、あながち間違っては無いだろう。
だが、同時に彼は泣きに行ったのだ。記憶が徐々に消えていっているという自覚を持ってしまい、共有できる思い出が無くなっていき、そして最後は孤独になってしまうのではないかという恐怖に。みんなを覚えていられず、自分すら忘れてしまったらという恐怖に怯え、泣きに行ったのだろう。
そっと窓を開ければ、外からは桂の啜り泣きが聞こえてくる。
涙を見せないのは、桂の強がりだ。女の子に涙を見せたくないというプライドがそうさせる。その泣き声を聞いて、銀は持っていた雑誌を投げ捨てた。
「こんな時何もできずに、何がともだちだよ……!!」
そんな彼にかけるべき言葉は、思いつかない。
たかだか小学六年生の子供にとって、この現実は辛く重く。それを見る子供も、気の利く言葉なんて。彼を安心させる言葉なんて思いつくわけがなく。ただ、雰囲気を暗くして、心の中にちょっとずつ石が積みあがって、重く沈んでいく。
そんな時だった。二人の携帯に須美から遊びに行かないかというお誘いが来たのは。
****
あくる日。
銀は家にあった浴衣に身を包み、桂は適当な私服で浴衣の須美と園子の迎えを待った。
そして合流し、行った場所は夏祭りの会場だった。
「それにしても園子。よくアタシ等の外出許可なんて取れたな」
「そこは権力なんよ~。代わりにミノさんは車椅子って条件はあったけどね~」
園子が銀の乗る車椅子を押し、それを後ろから須美と桂が歩いて追従する。
銀が何故車椅子に乗らないと外に出れなかったかというと、銀はまだ足と腹に深々と突き刺さった矢の傷が完治していない。ほぼ塞がりはしているが、ちょっとした衝撃で傷が開き大惨事になってしまう可能性があった。故にその可能性を考慮して、銀は車椅子での移動が義務付けられた。対して桂は傷口がほぼ開くことはないだろうという事で車椅子を逃れた。
こうして四人で集まってどこかに行くのは久しぶりだった。小学生にとって一月はとても長く、それが経過してしまった今日、四人の中には久しぶりに遊びに行くという感覚が強かった。
「しっかし、夏祭りかぁ……なんか久しぶりだな」
「前は来なかったの?」
「ん、あー、まぁ。去年は特撮見てたらいい感じになっちまってな」
「全く……ハゲは昔っからこうなのね」
「ははは。おっしゃる通りで」
そうは言うが、本当は去年の夏を忘却しているだけだ。
恐らく夏祭りには行ったが、しかしそれを覚えていない。だからそれを自分らしい言葉で紛らわせて、須美もそれ以上を詮索しない。それを詮索することが、この空気を悪くしてしまうのだと分かっているから。だが、それならそれでと会話の種は尽きない。
学校でのこと、病院でのこと。プライベートでのこと。それらを話のネタにして色んな事を話して。そして笑いあって。そして祭りの中でも何か食べたり買ったり。
「あっちち! くっそ、片手だと食いにくいなコレ!」
「もう、ミノさんったら。ほら、わたしが食べさせてあげるよ~」
「お、おう、わるいな」
「どうだ須美。このお面、いい感じだろ?」
「なんで仮面ライダーのお面がそんなに似合うのよ……」
銀が買ってきたお好み焼きを食べるが、膝の上に置いて片手で食べるというのは案外つらいようで、代わりに園子が食べさせるという光景が見えたり、ドヤ顔で桂が買ってきたお面を装着して須美に見せつけ、須美が呆れる。
まるでこの間の激戦なんて無かったかのような平穏。
仮初なのだとしても。もうすぐ壊れてしまうのかもしれない平和だとしても、それを最大限に謳歌する。この平和は壊れないのだと信じて。
今はそれが一番の事だから。
笑顔で語り合って笑いあって。今を精一杯生きて。
「あ、射的だ~! ちょっとやってくるね~」
「んじゃ、アタシ等は見学しますかね」
園子が射的屋を見つけ走っていく。それを三人が追って見学に入る。
その結果は散々なもので、一番上の段にある大きなぬいぐるみを狙った園子ではあったが、何発のコルク弾を使っても倒れる事はなく、野口さんを何人も消費し購入した弾を使い切るまで撃ってもぬいぐるみはびくともせず。
「なんてこった~……」
「うっわぁ……あれ固定されてんじゃねぇの?」
「されちゃいないだろうけど……ディスプレイじゃねぇかな、あれ。取る事想定してないんだろうよ」
銀と桂が後ろで話しているが、勿論誰にも聞こえない程度の声量なので園子も的屋のオッちゃんも気づいていない。だが、須美はその光景をよく観察していたようで、園子が残り一発の弾を片手にどうしようかと悩んでいる後ろからそっと園子の手を持ち、コルク弾を銃に詰めた。
「いい、そのっち。狙うのはあそこよ」
「ここ?」
「えぇ。調整は私がするから、力を抜いて指を絞る様にして……」
おっ? と銀と桂が声を漏らす。
そして、ポンッと軽い音と共に放たれたコルク弾はそのままぬいぐるみに当たり、先程まで一切動かなかったぬいぐるみの体を動かし、揺らし始めた。
「あとは気合! 後ろの二人も!」
「お、おう」
「須美って変な所で根性論だすよな~」
全くだ、なんて言葉を返しながら銀が二人に合わせて手のひらを向け、桂もそれに従って手のひらを向ける。
すると根性論が効いたのか、それとも物理法則に従っただけなのか。はたまた神樹様が無垢な少女の願いをかなえてくれたのかは分からないが、グラグラと揺れた人形はそのまま後ろへ倒れ落下。見事に景品獲得となった。
「やっふー! やった~!!」
「マジか……コルクじゃ倒れないレベルなんだがなぁ……」
「サラッと白状したぞおい」
「倒せたんだから大目に見ようぜ」
確実にただのディスプレイ……子供が狙って残念と言うためだけに置かれた物だが、落とされたのなら景品獲得には違いない。オッサンは苦笑しながらも人形を手に取って園子に渡そうとして。
園子がそれを止め、代わりに下の棚に並んでいる四つのちっちゃな猫に見えるナニかのキーホルダーと交換をした。それなら最初からそれを狙えばいいんじゃないか、と思ったが、そこは園子。常識外の事をしてくるのはいつものことで、三人はそれを苦笑して見届けるしかしなかった。
交換された四つのキーホルダーはそのまま四人それぞれの手に渡った。
赤、紫、空。そして、緑。
「俺って緑なイメージか……?」
「いいじゃない。目に優しい色よ」
「そりゃそうだが……まっ、いいか。一番優しい色として受け取っておくよ」
それぞれのパーソナルカラーに合った……というのは若干一名当てはまらない感じではあったが、しかし色に対するアレやコレは特になく。四人はお揃いで色違いのキーホルダーを手に笑いあう。
気が付けば時間はあっという間に過ぎていって、もうすぐ花火の時間。須美が予め割り出しておいた一番花火が綺麗に見える場所を先に陣取って四人で少しだけ待つと、花火はすぐに打ちあがった。まるで平穏を祝うかのように打ちあがる色とりどりの花は、真っ黒な空というキャンバスで綺麗に可憐に咲き、そして散っていく。
「きれい……」
「そうね……」
「すげぇ……」
他の人にとっては、毎年恒例。しかし、四人にとってこの花火は違う。
この世界を守り抜いた証。この花火を打ち上げるに相応しい平和を守り抜いて今へと繋げた証。
桂はちょっとふざけて「お前らの方が綺麗だよ」なんて言おうかと思っていたのだが、そんな言葉はすぐに飛んでしまって、気が付けば花火に目を釘付けられていた。
この花火は、たった十一年十二年の人生の中ではあるが、今まで見た中で一番綺麗だった。
それすらも忘れてしまうかもしれないという恐怖を、桂は抱えてしまうのだが。
「大丈夫だよ、ズラっち。思い出を忘れても、また作ればいいんだよ」
そんな不安を抱えた桂に、そっと園子が語りかける。
その言葉は、少しだけ桂に黒い感情を持たせた。簡単に言うなよ、と。忘れる辛さを知らないのに、と。
でも、それ以上に園子らしい言葉だな、と笑う。きっと、こんな状況の人間に告げる言葉としては百点満点の言葉だと、桂は思った。
「そうよ。人間五十年なんて昔は言ったらしいけど、今は六十年も七十年もあるわ。思い出は、また作ればいいのよ」
「何度忘れたって、アタシ等はお前を見捨てないからさ」
「忘れられても、何度でもわたし達は初めましてをするから。全部忘れても、わたし達はずっとともだちだから」
忘れるのは、怖い。忘れられるのは、怖い。
でも、それは逆らえない事だから。どうしてもそれは付き纏ってしまう事だから。
だから、その恐怖を和らげる事しかできないけど、その言葉は十分に救いとなる。
「あーあ……俺には勿体ないくらいのいい友達を持ったよ」
「あれ? ズラっち泣いてるの~?」
「ば、ばっか! 泣いてなんかねぇよ!」
だが、その言葉のお陰で、もう足踏みはしない。
思い出を共有できないという闇を怖がってどうする。もう決まってしまったことだ。
明日の自分はどうなるか、なんて考えていても仕方がない。
下向いて足踏みしているだけじゃ決して前には進めない。だから涙を流したって、また笑うために前を向いてしっかりと歩いていく。それがヒーローだ。
「ハゲの涙なんて初めて見たわね」
「男がメソメソしてんなよ~」
「お、おまっ、泣いてねぇってばよ!!」
しかし、それとこれとは別で泣いている所を見られたくはないのであった。
「でも……ミノさんとズラっちには、もうこれ以上辛い事を押し付けたくなんてないから」
「何かあれば、ハゲには全部忘れてもらって……辛かった事なんて全部忘れてもらって。私達が全部を背負わないと」
だが、園子と須美の心は、少しとは言えない程に傷ついているのを銀と桂は知らなかった。
二人が、もう戦えない二人の代わりに全てを背負う覚悟を決めているなんて。
わすゆ編完結までラスト二話。
わすゆ終わったら何人かとの単独の話を書いてから、勇者の章ですかね。
っていうか、マジでわすゆ編が長かった……
あ、話は変わりますがギル祭の高難易度全攻略できました。結局面倒くさくなってフィナーレで令呪切ったんですが、切った結果落ちる順番が変になって逆にピンチになるというギャグが起きましたw
あと、二度とジャガーマンとえっちゃんはやりたくありません