最終決戦の所をゆゆゆの方で書いた展開と辻褄合わせるために一気に書いて色々と辻褄合わせた結果、三話書き溜めする形になったんですよ。いやー、プロット無しで書くのはやっぱ駄目っすね(当たり前)
では続きどうぞ。
「はい、アタシとズラの特製うどんお待ち」
「ちょっくら凝って作ってみたぜ」
三ノ輪家の引っ越しの手伝いは終わった。
今は銀が手伝ってもらったお礼にと特製うどんを振舞い、そのうどんの調理をハゲ丸が手伝った。鉄男と金太郎の二人は疲れたのか寝てしまっており、今は隣の寝室で二人仲良く寝ている。きっと起きたらお腹が減ったと言いながら銀に縋り付くのだろう。
もう夕日も落ちかけており、外を見れば空はもう黒く染まりかけている。正しく今は夕食時。腹を空かせた少女と少年がうどんを囲んでワイワイするには十分な時間だった。
「やっぱ夜ご飯はうどんだよね~」
「お昼もうどんだったような気はするけど……まぁ、うどんなら仕方ないわね」
「ついでに新しく雪見だいふくの天ぷらと、材料あったからショートケーキ作っておいたから。ジェラートも新しく作ったから腹に余裕あるなら食ってくれ。あ、鉄男くんと金太郎くんの分のショートケーキとジェラートは冷蔵庫と冷凍庫に入ってるから後で食べてくれや」
「やべぇ、ズラの女子力が高すぎて笑えない。ってか何か別に作ってんなぁって思ったらケーキ作ってたのかよ」
「風先輩以上ね……」
「ズラっちをパティシエとして雇ったら毎日幸せな気がしてきたよ~」
「是非とも雇ってくれ。乃木家専属のパティシエなら将来安泰だ」
「パティシエハゲの想像が容易すぎるわ……!」
「ってかアタシの最後の雪見だいふく……」
「後で買ってやるから今は我慢してくれって」
色々と話はするが、ちゃんと体は動いて配膳やらなにやらはパパっと終わる。その間に何やらハゲ丸の将来が決まってしまいそうな発言があったものの、それがどうなるかは数年後の立場によるだろう。
四人で適当にテレビで今日のニュースを見ながらうどんを啜る。ほぼ一日中動き続けた疲れをいい感じにうどんが癒し、銀&ハゲ丸特製うどんは気が付けば半分ほどまでその量を減らしていた。中学生が食べるにしては少し多いくらいの量を作ったのだが、どうやら残す心配は不要だったようだ。
「そういえばさ。こうやって四人で物食うのってひっさびさだよな」
「あ、確かにそうね。今日で二年ぶりかしら」
「何だか昔の事思い出してたから久々って気がしなかったよ~」
昔の階層をしていたからあまり気にはならなかったが、よく考えればこうやって四人で一緒の物を食べるのは二年前の十月より前。須美と園子の最後の共闘の少し前が最後だ。ハロウィン一色に染まった街並みを一緒に歩いて、そして一緒に物を食べて。
そして最後の決戦が始まったのを、覚えている。
「……二年前か。まさか携帯ポイ捨てされるなんて当時は思ってなかったよ」
「あんなズラっちを戦わせるなんて無理だもん」
「結局、私とそのっちがビクビクしてたって話なんだけどね」
「え? なに、なにがあったん?」
「えっとね~」
そして回想は、最後の佳境に入る。
****
ハロウィンの街並みは、日本の街並みとは思えないくらいにオレンジが似合う街並みとなっていた。
ジャック・オー・ランタンやお化けに蝙蝠。それらをデフォルトしてマスコットみたいにした様々なキャラクターが、周りを見渡せば少なくとも一体が目に付くようになった。
それは、時がそれ相応に過ぎたという事。夏祭りからハロウィンが似合う季節にまで、時が過ぎたという事だ。
桂の記憶は順調に燃やされていき、しかし体の傷は十分に完治し、銀も地力で歩いたり走っても問題ない程度には回復した。リハビリにはそこそこの時間を費やしたが、しかし体の方の問題はすでに消えていた。
「わぁ、外国のお祭りだ~!」
「カボチャか……カボチャジェラートなんてどうだ?」
「なんでもジェラートにすりゃいいってもんじゃないからな?」
桂はその間にジェラートを作り始めた。
病室ではジェラートなんてお見舞いの品で持ってこられない限り食べられないため、銀がジェラート食べたいとブーブー言い出したのを聞いた桂が、わざわざイネスに通いつつ、料理の勉強も並行して行いながらジェラートを作り始め、最終的にはイネスのジェラートに比較的近い味のジェラートを作り出すことに成功した。なお、醤油ジェラートをいつでも食べれるようにするという計画を実行に移したとも言うが。
作れるジェラートの味はまだ少ないが、それでも十分お菓子作りや料理ができる分には腕は上がったし、ついでに須美からメッセージのやり取りでぼた餅の作り方も習った。須美にはまだ叶わないが、素人目なら十分に美味と言えるぼた餅を作ることは可能になった。
「これなら、料理教えるって約束を明日果たせるな」
「え? あ、あぁ……そう、だな」
「やっと料理教えてもらえるんよ~」
そしてなんやかんや全員の予定が合わず、予定の合うメンバーだけで行っていた園子への料理教室は、明日の昼から、ようやく四人そろって開始する運びとなった。
園子もそこそこ三人から料理を学んでは技術を吸収しているが、やはり四人で一緒に料理を作る、ないしは教えてほしいのか今まで以上に園子のテンションは上がっていた。上機嫌ですと言わんばかりにスキップして前を歩く園子を後ろの三人が苦笑しながら、何かしでかさないようにちゃんと視界に収めつつ歩く。
もしかしたら見られなかったかもしれない光景。片腕を失ってしまった銀こそいるが、それでも生きているだけで儲けものだ。
それに、二年後になればこの時のこともふざけてマモレナカッタ……なんて言いながら語れるくらいには思い出になっている。もし銀が死んでいたらそんな事口が割れても言えなかっただろう。だから、生きているだけで十分だし、儲けものだった。
「じゃじゃーん、ジャックオーランタンと化けたキツネのコスプレ~!」
「そ、そのっち……恥ずかしいわ……」
「そしてアタシはフランケンシュタイン!」
「三人とも似合ってんなぁ。ってか、美少女だから何着ても似合うな」
完全にハロウィン一色となったとある店でやっていた仮装大会のような所でそれぞれコスプレしてきた三人を見て桂が言葉を漏らす。ジャックオーランタン……と言うには何だかカボチャっぽくないゆったりとした仮装をした園子、かなり丈の短い白い着物を着てキツネ耳と尻尾、それから手を着けた須美と、片腕が無いのを隠さず白いドレスのような物を着て、先端に丸い玉が付いた棒を持つ銀。
「……ってかそれフランケンシュタイン? 俺の知ってるフランケンシュタインじゃないような」
「フランケンシュタインだろ。そうやって書かれてたし」
明らかに別の世界線というかフィクションの
そこに桂と銀も混ざり、最終的に桂が須美の拳を顔面にくらって撃沈したことによって須美撮影会は終わった。
時間だからと外に出てみれば、カボチャのオレンジに包まれていた街並みは、夕暮れのオレンジも混ざり、正しくオレンジ一色と言える風景になっていた。
「すっかり夕方だな」
「案外須美の撮影会に時間取られたな」
「日本っぽいからって選んだのは間違いだったわ……」
「すっごく可愛かったよ、わっしー」
四人で並んで歩けば、顔を赤くした須美が園子の肩を叩きまくり、園子は笑いながら走って須美から逃げ、それを追う須美を更に小走りで追う銀と桂。
バーテックスや勇者の事なんて一切忘れて今の平和を享受する。彼女達を見て誰がこの平和を守っている勇者だと気づけるか。今の四人は、普通の小学生で。戦いなんて一切知らない少年少女に過ぎないのだ。
しかし、そんな少年少女を戦いに誘う時は、やってくる。やってきてしまう。
「あっ……」
「鈴の音……」
鈴の音が鳴り響いた。
世界の時は止まり、勇者としての資格をはく奪された銀の時までもが止まる。
きっと、彼女からは自分たちはいきなり消えて、そして傷だらけで現れたように見えるのだろう。しかし、その止まった時の中で戦う者は違う。
ここから命のやり取りをしなければならない。
「……わっしー。これ持ってて!」
「え? そのっち……これって」
「わたしのリボン。そのリボンと一緒に、わたしがわっしーを守るから」
「……そういう事。分かったわ、私もそのっちを守るから。だから、この戦いが終わって、これが似合ってたら褒めてね」
その問いに言葉はいらなかった。
笑顔で頷けば、それだけで済んだ。
きっとこの戦いは今までよりも大変な戦いになる。それを感じ取った園子の言葉と、そして園子の言葉の真意を見出した須美は顔を合わせて笑いあい、そして桂を見て、世界は樹海に包まれた。
リボンを手にした須美と、髪を解いた園子が、樹海の世界でそっと桂に歩み寄る。
「ズラっち。携帯貸して?」
「え? あ、あぁ……」
園子の言葉に桂は何の疑いもなく従う。
懐から出した、勇者システムがインストールされた携帯を園子に渡すと、今度は須美が語り掛けてきた。
「ハゲ。あなたはどこまで忘れてるの?」
「え? どこまでって……」
「もう殆ど覚えてないんじゃないかな。わずかに残った記憶から、わたし達を覚えているだけで」
その問いに答える事は出来なかった。
桂のこの二年間の記憶は、もう八割以上が消えている。その僅かに残った二割の記憶から、彼女たちの事をどう思っていたかを知って、そしていつも通りを心掛けて接している。
だが、いつも一緒に居た園子と須美。そして銀なら分かる。毎日少しずつ変わっていく桂の態度と言葉に、もう彼は殆どの事を覚えていないのだと。桂だけが時の中に置き去りにされているような気がして、そこから判断出来てしまう。何も言っていないのに。
「ズラっちが会話を合わせようとしてくれてるのは分かるけど……でも、もうズラっちはわたし達との特訓も、約束も、思い出も……ほとんど忘れてるんだよね」
「そ、んな事は……」
「いいんだよ、ズラっち。全部忘れても」
きっと攻められる。
そう思って目を閉じたが、返ってきたのは優しい言葉だった。
忘れてもいい。その言葉の真意が分からず、桂は戸惑う。だが、次の瞬間園子が取った行動が、彼女の言葉の真意を分からせた。
「えい」
小さな掛け声と一緒に、園子は桂の携帯を樹海へと投げ捨てた。
「なっ、園子!?」
「もうズラっちは戦わなくていいんだよ。全部忘れて、いいんだよ」
「こんな辛い事忘れて、勇者なんて辞めていいのよ」
二人の優しい言葉に、何も言えなくなる。
彼女たちは、これから二人で戦う気だ。そして、全部忘れた桂と、また一から友達になろうとしている。
だから。
「ふ、ふざけんな! 俺は、俺はお前らを守るために!! お前たちを守りたいから戦ってるんだよ! だから――」
自分の心を暴露してでも彼女達を止めようとして、それを笑顔で止められる。
「ねぇ、ズラっち。もし忘れちゃうんだとしても。わたしは、忘れないよ。ズラっちのジェラートも。ズラっちとした特訓も。だから……ズラっちは忘れていいんだよ。ズラっちは、勇者になる前に戻るだけだから。あとは、わたしとわっしーに任せて、ね?」
「あなたは、元々戦うべきじゃなかったのよ、ハゲ。あの時……戦うか戦わないか。選べと言われて、あなたは戦う事を選んだ……でも、もういいのよ。勇者の記憶なんて忘れて、寝ていなさい。後は私達が……もう戦えない銀も、あなたも。二人が守った世界を、守るから」
そして、須美の握った拳が、桂の腹に突き刺さる。
思わず膝を付く桂。そんな彼を、二人は見下さない。背中を向けて、これから襲ってくるであろうバーテックスの方を向く。
「だから、全部終わったら」
「この戦いが終わったら」
『また、ともだちになろう?』
「す、み……その、こ……」
最後に振り返って見せた二人の笑顔を見て、桂はそのまま意識を失った。
****
「おいクソレズ。あん時の腹パン、クッソ痛かったんだからな?」
「記憶にございません」
「こいつっ……!!」
「ってかお前ら樹海の中でそんな事してたのかよ」
「あはは……まぁ、わたし達も当時は若かったのだよ~」
「まぁでも、なんやかんやでその後起きる辺り、ハゲもかなり丈夫よね」
「防御特化ナメんなっての」
サラッと人の家にある食材からケーキとかスイーツを作り出すハゲ。将来は乃木家専属のパティシエになるかもしれない。そしてフランちゃんのコスプレした銀ちゃん見てみたい。
という訳で最終決戦の直前。実は携帯ポイ捨てされた挙句わっしーに腹パンされて寝ていた桂くんでありました。ここら辺、ギャグ盛り込めないのが辛かった……
次回はわすゆ編ラストです。