ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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時々ハゲ丸を桂って書きそうになる。二か月ずっと桂って書いてたからね、仕方ないね。


幕間-鷲尾須美の章~勇者の章-
家事代行ハーゲス


 受験勉強を経験しなかった者、というのは日本中を見て回ったとしても一割も存在しないだろう。九割近い人間は何か受験のために手を打っていた事だろう。

 そんな、若者の精神と体力を一気に削ぎ落していく試練は神世紀になっても変わらず、四国に存在する中で自身の力が及ぶ中でもトップクラスにいい高校へと行こうとする。そのためには睡眠時間も削りひたすらに努力し、そして時には知り合いの力も借りる。

 

「風先輩、飯できたんで一旦勉強止めてください」

「んー……おっけー……」

 

 その最たる例として存在するのは風だ。

 彼女には妹以外の家族が存在しない。なので、風は受験勉強のさながら家事をして学校にも行って……と中々に多忙な生活を強いられていた。もし妹である樹が人並みに家事ができたらその負担も半分近くにまで削減できるのだろうが、彼女の妹の女子力兼家事力は下限をぶっちぎっていた。

 そのため風はハゲ丸を雇った。ハゲ丸の分の食費を出すから休みの日、暇なときは家事をしてほしいと。ちょっと人を雇うにしてはナメた報酬かとは思ったが、ハゲ丸はそれを笑顔で了承。この前の銀の引っ越しの手伝いのような時以外は基本的に犬吠埼家に入り浸っている。

 この日もハゲ丸は朝から犬吠埼家にお邪魔し、このままじゃ昼までぐっすりコースな樹を叩き起こし、起きてすぐに勉強を始めた風のためなるべく音を立てない様に家事を始めた。

 そして今はお昼時。丸眼鏡をかけてちょっと知力アップなんてしていた風は一度眼鏡を外し背筋を伸ばしてからいい匂いのする居間に歩いた。

 

「あ、お姉ちゃん。お疲れ様」

「うーい。いやー、今までの遅れを取り戻すって言葉じゃ簡単だけど辛いわねぇ」

「まぁ、しゃーないっす。今日のお昼は肉ぶっかけうどんですので、これ食って頑張ってくださいよ」

「おぉ~。こりゃ頑張るしかないわね!」

 

 テーブルの上に置いてあるのは、三人前のうどん。樹の、年頃の女の子っぽく少なめなうどんと、風の樹よりも二倍近い量があるうどん。そして、ハゲ丸の標準的なうどん。

 風は今までの疲れを払しょくするかのように一気にうどんを啜る。うどんは女子力を上げると常日頃豪語している彼女は樹が半分ほどうどんを完食する前に自分の分のうどんを完食した。かなり早いが、それでも味わっているのはハゲ丸も分かっているので、満足げに一息ついた風の元へデザートを持ってくる。

 

「今日はウチで作ってきたアイスケーキでもどうぞ」

「あ、アイスケーキ!? ハゲ丸、あんたとんでもない物作るわね……」

「自作アイスケーキなんて初めて見た……」

 

 本日のデザートはアイスケーキ。疲れた脳には糖分が必要なので、ハゲ丸はいつも何かしらのデザートを食後に持ってくる。毎度毎度趣味の域を越したような物を作ってくるのがお約束なのだが、今日は店で売っていてもおかしくない物を持ってきた。

 前の日は美森に教えを請いながら作ったらしいぼた餅だったが、今日のは余計に気合が入っているような気がする。

 

「しかもウマっ……あんた、もう料理人にでもなったらどうよ」

「それ考えてるんすよね。園子に専属パティシエにならないかって先日言われまして」

「園子……あぁ、この間言ってた先代勇者の? 確か乃木家の子だから……えっ、そんな子に専属にならないかって言われたの!?」

「えぇまぁ」

「ハゲ先輩のくせに凄い事になってる……」

「くせにってなんだくせにって」

 

 これならまだ亜耶ちゃん後輩の方が万倍可愛げがあったわ。なんて呟くハゲ丸。しかし毒を吐いてきた後輩も何気に歌手の卵という凄い立場にいるため、風は現在、もしかしたら将来凄い立場になる可能性のある二人に囲まれていた。

 歌手になるかもしれない樹と、乃木家という神世紀でツートップの家の専属パティシエになるかもしれないハゲ丸。ちょっとだけ嫉妬心は湧いてくるが、代わりに誇らしげな気持ちが湧いてくる。

 そんな二人の先輩が高校受験失敗しましたなんて笑えないため、もっと頑張ろうと改めて気合を入れてアイスケーキを食べ終えて立ち上がる。

 

「うっし、気合充填完了! ハゲ丸、残りの家事と夕飯頼んだ!」

「任されました、隊長」

「うむ。しっかりと励みたまえよ」

 

 ふざけながら風は自室に入り、度が入っていない丸眼鏡をかける。

 さぁ、勉強の時間だ。二人が誇ってくれるいい先輩になるために頑張らなければ。

 

 

****

 

 

 風を見送ったハゲ丸は、アイスケーキにフォークを刺し、口に運んだ。我ながらいい出来だと感心する。

 

「お姉ちゃん、ハゲ先輩が家事をしてくれてから大分余裕出てきてますよ」

「そうなのか?」

「ハゲ先輩が来る前は疲れ果ててましたから……」

「ふぅん……ってか樹ちゃん後輩が家事手伝えばよかったんじゃね?」

「紫がでてきますよ」

「スペシャルうどん……うっあたまが」

 

 紫の錬金術師こと樹に付けられた傷は大きい。きっと彼女はハゲ丸渾身の料理にひと手間かけるだけであっという間に料理の色を紫に変える事ができてしまうだろう。

 流石にそこまでのメシマズは将来苦労しそうなので今のうちに矯正しておきたいものだが、この間友奈と夏凜と共に作ったらしいうどんは、友奈と夏凜が一緒に居たのにも関わらず紫が混ざっていたらしいので、彼女のメシマズというか紫をどうにかするには相当時間がかかるのを覚悟する。

 

「樹ちゃん後輩は真顔で米を洗剤で磨ぎそうだよな」

「え? 違うんですか?」

「……ごめん」

「何で謝るんですか? 別に何も……へ?」

 

 これは本気でどうにかしないといけないな。きっとこれから先、今まで洗剤で磨いだ米を食ってた風の愛情を超える愛情を見る事はそうそうないだろう。いや、美森なら友奈がそうやって炊いた米も笑顔で食べそうだ。

 

「さて、そろそろ掃除するから、部屋の中の見られたくない物隠しとけよ~」

「はーい」

 

 自分の分のアイスケーキを食べ終えたハゲ丸は掃除をするために立ち上がり、樹に自分の部屋の見られたくない物を隠しておけとだけ言って部屋の隅に片付けてある掃除機を手にする。

 風の勉強を騒音で邪魔する事にもなってしまうが、こういう時に掃除をしないと近所迷惑にもなってしまう。窓を開けて埃が舞っても外に出ていくようにしてから掃除機をなるべく静音の状態でかけ、先ほど使った皿が全部水に漬けてあるのを確認してから掃除をしていく。

 ちゃんと掃除のし忘れている場所がないのを確認してから樹の部屋にノックしてから入る。

 

「おっ、結構片付いてるな。関心関心」

「年頃の女の子の部屋に入ってそれって、枯れてるんですか?」

「ははは、子供の部屋に入ってドギマギするわけないだろうが」

「ちょっと誰のどこが子供か言ってくれませんか?」

「うーん、その手に持ったカッターを置いてくれないと話せないかなぁ」

 

 なんて軽口を叩きながらもちゃんとやる事はやっていく。

 一応見られて恥ずかしい物はちゃんと隠してあるので、特に樹も見られて恥ずかしい物はない。強いて言うなら同年代の男子が自分の部屋に入ってきたのに何も思ってないのが癪に障る程度だろうか。

 ハゲ丸も意識こそしないが、あまり年頃の女の子の部屋にいるのもデリカシーがないだろうとなるべく手早く掃除機をかけ、ちゃっちゃと樹の部屋を出ていく。あとは風の部屋の掃除だが、それは風が自分でやっているので特に手は付けない。

 そして掃除機をかけ終えれば皿を洗い、片付けてから風呂を洗って今日の風呂をいつでも沸かせるように準備する。

 

「うし。じゃあ、樹ちゃん後輩。洗濯物、俺が触ってもいい範囲まで取り込んでおいて」

「はいはーい」

 

 そこまで終われば一旦休憩。洗濯物の取り込みを樹に頼んで見られても大丈夫な範囲まで洗濯物を取り込んでもらう。

 流石に彼女達の下着などをハゲ丸が取り込むのはどうかと思ったので、下着類や見られたくない洗濯物は樹に頼んで干してもらって、そして取り込んでもらっている。そしてその間ハゲ丸は。

 

「ん? 電話……はいもしもし?」

『あ、藤丸先輩ですか?』

「おう、久しぶり、亜耶ちゃん後輩」

 

 偶々かかってきた亜耶からの電話に出る。何やら大きなお役目を背負っているらしいが、そのお役目の日になるまでは結構暇があるそうなので、時々亜耶からはこうして電話がかかってくる。

 大抵、しずくが時々口にしている小学六年生時代の事について質問してくるか、芽吹達と遊びに行く場所の相談だったりが話題になる。

 

『その、藤丸先輩って、学校の窓から投げ飛ばされてたって聞いたんですけど、本当なんですか?』

「本当だよ? ってか今も時々部室から投げられてる」

『ほ、本当なんだ……』

『他にも展望台から飛び降りてた』

『よく生きてるものね……』

 

 亜耶からの質問に答えると、後ろからそれを聞いていたらしいしずくと芽吹の声も聞こえてくる。今日はこの三人で集まっているらしい。何となく珍しい構成だな、とは思い、恐らくしずくが自分をダシにして話しているのだろうと推測もしながらも会話は続ける。

 なお、回想していて思い出したが、しずくは案外自分たちの事を見ている。というか、偶々見てしまってドン引きしている。一度こちらから話しかけたし。

 だが、芽吹達とも話せるのなら話の種は広がる。自分の視界の外からの樹の合図を聞き、スマホにイヤホンを付けて肩と耳とで挟まなくても両手を使い通話できるようにしてから洗濯物を取り込む。

 

『さっきの声、女の子?』

『彼女……?』

「いんにゃ、後輩。ちょいと訳ありで家事代行しててな」

『藤丸先輩、家事とかできるんですか?』

「まぁまぁな。一応一通りできはする」

『藤丸先輩、凄いんですね! わたし、男の人は家事がそこまで得意じゃないのかなって思ってたので凄いと思います!』

「そうやって純粋に褒めてくれるの、亜耶ちゃん後輩だけだよ……」

 

 風は慣れてしまったのか特に何も言わないし、樹も女子力高いですね程度にしか言ってくれなかった。友奈は大袈裟に色々言ってくれるが、夏凜なんて冷めたものだし、美森なんて何言ってくるのか分からない。罵倒してくる事だけは確かだ。

 そんな環境だからこそ、亜耶の言葉は新鮮だった。友奈と夏凜を除く黄緑青のノンストップ信号機トリオに彼女の詰めの垢を煎じて飲ませたい。切にそう思う。友奈と夏凜の赤信号コンビはあれで十分なので除外する。

 

『そういえば藤丸。この間勧められたHGデンドロビウム、作ってみたわ』

「お、どうだったよ」

『置き場所に困るわ。よくもあんなの勧めてくれたわね、とても満足できた』

「恨み節口にしたいのか礼したいのかどっちだよ。だが満足したなら何よりでそうろう」

『おっきくてカッコいいですよね!』

『この純粋無垢な笑顔……私、亜耶ちゃんの笑顔にいつか浄化されるかもしれないわ』

「分かる」

『へ? なんでですか?』

『国土は知らなくていい事』

 

 そんなくだらない会話で亜耶が天使であることを再確認している間に洗濯物は畳み終わり、ちゃんと樹の服と風の服で分けて置いておく。置いておけば彼女たちはちゃんと自分でそれを持って行ってタンスの中に入れる。

 とりあえずは、これでハゲ丸が関与する家事は一通り終わりだ。後は夕飯の仕込みをして、作って、それを食べてもらったらお風呂を沸かして、夕飯の買い物のために財布とエコバック片手に玄関に立つ。

 

「そんじゃ、夕飯の買い物してくるんで」

「いってらっしゃーい」

『気ぃつけなさいよ~』

 

 通話している防人と巫女に一言断ってから部屋の中の二人に声をかけ、外に出る。最早完全に主夫している気分だ。

 それは通話先の三人も思っているらしく、同棲でもしてるのか? と芽吹はふざけて聞き、亜耶はそういうのは大人になってからで~、とピュア全開な事を言って、しずくはそんな事よりおうどん食べたい、なんてふざけている。なんというか、しずくがかなりフリーダムだ。

 

『あ、そうそう。今日聞きたかったこと、もう一つあるのよ』

「もう一つ?」

『もし結界内にバーテックスが攻めてきて、樹海化が起こらなかったら何を武器にしようって話してて』

「なんつーこと話してんだよお前ら。ちなみに、現案は?」

 

 そんな事絶対に起こらない。きっと起こらないが、なんか面白そうなので話を聞くことにした。

 

『えっと、わたしは防人の皆さんを応援するしかできないかなって』

『とりあえず無人在来線爆弾』

『市民全員に銃を持たせて銃剣突撃よ』

「とりあえず楠さんがウチのクソレズ(問題児)と似通った思考してるのはわかったよ」

 

 最も、これは冗談で笑いごとなのでツッコミは入れつつも笑う。あっち側もそれは理解しているので笑いながら言っている。

 万が一バーテックスが攻めてきたのに樹海化が起こらなかったとしても、芽吹の案やしずくの案は絶対に採用されないだろう。第二次世界大戦末期の日本やゴジラに攻められた日本でもあるまいし。

 それを聞き、ハゲ丸は考えた。

 そして、ふざける事にした。

 

「ゴールドタワーを射出してぶつけようぜ!!」

『面白い』

『いいわねそれ』

『そ、そんな事したら後が大変ですよ~!』

 

 まぁこれが現実になるなんてありえないんだし。とハゲ丸は笑う。

 ――しかし、彼らは知らない。このふざけた会話をとある大赦仮面が聞いてしまい、この後に起こる本当の最終決戦でゴールドタワーだけが何故か樹海化から逃れ、そして天の神へ向けて飛んでいくかもしれない可能性がこの時産まれてしまったことを――




とりあえず犬姉妹とくめゆ組が書きたかった。それだけ。

最後のゴールドタワー云々は……まぁ、ネットでくめゆの画像見てたらなんかそんな感じのネタが書かれた画像を見つけたんで、とりあえず使ってみただけという。これが本当になるかはその時の気分ですかね。気分次第では飛びます。レッツゴーゴールドタワー! 千景殿に名前が変わった時には既に千景殿跡地になっているかもしれないけどコラテラルダメージだから仕方ないよね!!

なんかわすゆ編でシリアスばっかやってたせいかちょっとギャグ書く感覚が鈍った気がする。何とかして取り戻さなければ……

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