結構早めに帰ってきた風による行くぞぉ! という若干ストレスがこもってそうな声と、その返事かのように樹が携帯から流したデッデッデデデッカーンとかそんな感じのBGMを背景に改めて勇者達が変身する。
相変わらずな樹に笑いつつも勇者達は光に包まれ、園子の方から焼鳥と書かれた鶏が飛んできたり樹がウインクしたり友奈が思いっきり決めポーズしたり銀が久方ぶりに両手に得物を持って自身に纏わりついていた光を双斧で叩き割る。久しぶりに変身シーン見たなぁ、とハゲ丸はボソッと呟きながら、今にもストレスで窓枠を破壊しそうだった風の後ろに続いて外へと飛び出していく。
園子の新しい勇者システムの詳細な説明を受けながら人目も憚らず空を舞う勇者達。その頭には精霊が乗っていたり、約一名スパイダーマンのようにワイヤーでウェブスイングしたりと案外フリーダムだが、その表情は険しいままだ。
「ったく、ひっさびさに犬神をストレス解消代わりにモフりたいのに……東郷の奴め……」
「牛鬼も、後でお菓子あげるからね」
「烏天狗もね~」
「木霊は……また一緒にお風呂に入ろっか」
精霊をペットみたいに扱っている四人の言葉を聞きながら、人型の精霊故にペット扱いができていない夏凜、実態が無いためそんな事言えないハゲ丸、初めて己の精霊に触れたからかそこまで思い入れの無い銀は会話に混ざれていない。しかも銀の精霊は鈴鹿御前。つまりは人型なのでどっちにしろこの会話には混ざれそうになかった。
片手間で鈴鹿御前の耳を弄ったりしている銀だったが、もうすぐ壁に差し掛かる頃になると誰からともなく表情を引き締めた。
「ミノさん」
「ん?」
そんな中、先陣を切っていた園子が一旦スピードを落として銀に声をかけた。
話題は美森の事ではなく、銀の勇者システムについての事だった。
「ミノさんの勇者システムは一応今の勇者システムをベースに作られてるからわたし達と基本的には一緒だけど……ミノさんの分の勇者システムは本来作れない……作っちゃいけない物だったの」
「……勇者運用の上限値か」
銀も園子にくっついている内に勇者システムのあれやこれについて知る機会があった。一応大赦側の勇者なら知らないわけではない事実ではあるが、勇者システムは神樹様への負担を減らすために同時運用できる上限が決まっている。
本来同時運用できる上限は六。讃州中学勇者部の分に加え、園子の分。そこにハゲ丸の出力が低い勇者システムを加えて本当にギリギリの運用だった。そこに正規勇者システムと出力差がほぼない銀のシステムが加わればこの先どうなるか分からない、というのが園子の弁だ。
だから、急に何が起こってもおかしくない。大赦は問題ないとは言ったが、備えあれば何とやらだ。それを園子は簡潔に伝えた。対する銀の答えは。
「まぁ何とかなるべ」
というあいまいな答えだった。
しかしその答えは信用できると園子は知っているからこそ、そうだね、と笑顔で返せた。
それに、銀には確信があった。何かあっても園子やハゲ丸は守ってくれる。だからこそ、猪突猛進で前線を引っ張る事ができる。そんな確信が。そんな自分の心に従えば、銀の答えは二人を、勇者部を信じているからこその答えだった。
園子と銀の談笑を傍らに、漁船の屋根を踏んで海を一っ飛びで超えてしまえば勇者達は壁に着地できた。ハゲ丸だけ出力不足ゆえに落ちかけたがしっかり樹がワイヤーでキャッチした。
「じゃあ、ここからは気を引き締めて」
「おい。その先は地獄だぞ」
「地獄を見た。いずれ辿る地獄を見た」
「はいはい、そこのハゲとラブリーマイシスターはここでボケないの」
だが、そのボケのおかげで部員達にあった少なくない緊張はある程度ほぐれた。急にネタをぶち込んでくるハゲ丸と樹に勇者達は苦笑したが、士気は落ちていない。
行ける。行くしかない。その言葉を胸に七人は武器を構えながら壁の外へと歩を踏み出した。
歩んだ先にあったのは炎の地獄。煉獄という言葉が一番似合いそうな灼熱によって包まれた災厄の光景。そこで飛び交うのは星屑達。
「あった……東郷さんの反応、あったよ!」
その地獄の中、友奈の声が響く。
彼女の端末には美森の位置がしっかりと示されており、園子の読みは当たっていた事を示していた。
それに安堵する一同だったが、こんな敵だらけの地獄の中、一体美森はなにをしているのかと。ふと美森の反応がある方向へと視線を投げて、誰からともなく絶句した。
視線の先には渦があった。
真っ黒で、何もかもを引き込んで食らいつくしてしまいそうな闇。星に詳しい者でもそうでなくても一度は聞いたことがある地上からは決して見る事の出来ない現象。
「ぶ、ブラックホール……?」
「うわー……夏休みに肌黒くなってた奴は見たことあるけどブラックホールになってた奴は初めて見たわ……」
「ツッコミ所ありすぎだろ……」
流石に想像していなかった光景に思わず三者三葉に呟いていたが、まるでそれを待っていたのか、それともその言葉でようやく勇者達を補足したのか星屑達が勇者へ向けて突撃してきた。
「タダじゃあ通さないって訳ね……みんな、戦闘用意!!」
風の一声に拳を、槍を、ワイヤーを。それぞれの武器を構える。直後に接敵範囲内に入ってきた星屑へ向けて戦闘を開始した。
風の大剣が星屑を薙ぎ払い、友奈の拳が星屑を打ち砕き、樹のワイヤーが撃ち漏らしを貫き、夏凜と銀が共に前線で大暴れし、ハゲ丸がヘイトを引き付けて戦いやすい場を作り出し、園子が巨大化させた槍で目の前どころかその先に居た星屑を半径数百メートルという単位で全て塵に返した。
「いや、若干一名火力おかしくない!!? 一人だけスーパーロボットみたいなことしてない!!?」
「あー……まぁ、園子だし……」
若干巻き込まれかけた夏凜と銀だが、やはり切り札である園子の火力は凄まじいものがあり思わず銀とハゲ丸以外の全員の目が白黒していた。
精霊の差が勇者の戦闘力に直結するとはよく聞いていたが、まさかここまでとは思っていなかったので思わずと言った感じで呆然としてしまっていた。だが、風だけは少し違い、もしも園子の性格がちょっとでも違ったら、銀の代わりに園子が自分を止めに来たんだよなぁ、と考えて冷や汗を流した。あれが敵対したら勝てる気がしない。というか死ぬ。
「うーん……キリがないね~」
だが、そうやって園子が大暴れしたのにも関わらず星屑はその数を減らさない。
物量作戦で来られてしまうと、少数精鋭の勇者達にとってはジリ貧もいい所だ。それも、救出作戦として戦いに出向いている以上、耐えておけばいいという話ではない。どうにかしてこの星屑達を倒しながら進まなければこの場でずっと足踏みをしているしかないのだ。
それを数分の戦闘の内に理解した園子は銀と視線を合わせ、下がってきた銀と横並びになり考えた打開策を口にした。
『満開!』
満開。かつては代償が存在した勇者達の切り札を園子と銀は何の憂いもなく切った。
バージョンアップした勇者システムの満開は、代償を必要としない。しかし、満開が解除されたが最後、精霊バリアが張れなくなってしまい、前みたいな精霊バリアと満開のゴリ押しは不可能になった。
しかしそれは先代勇者達にとっては当たり前の事。故に、満開という切り札は簡単に切る事ができる。
「そ、園ちゃんに銀ちゃん!? 満開を使っちゃったらバリアが!!」
「昔はそれがデフォだったからね~」
「むしろ時限強化付いて実質強化貰ってるし。実質上方修正」
そうそう。と園子が同意するが、だからと言って命の保証がされている期間を時限強化に費やし、本来張れるバリアを張れなくするというのは中々に勇気が必要な事だ。
ハゲ丸も同じく満開をしようかと思いはしたが、自分の満開は万が一があった際に使う事にしようと二人を見てから決めてから近づく星屑を鏡で粉砕する。星屑程度なら強化された腕力を持ってすれば鏡の角を叩き込むだけで十分に粉砕することは可能だ。故に粉砕し続けていると、満開した銀が近づいて来てそのままハゲ丸を攫った。
「園子の方、四人で定員オーバーっぽいからお前はアタシとだ」
「ん、了解」
銀の満開も園子と同じように舟を展開する満開だ。
美森や園子のように大きな船ではないが、小型の船の両端に超巨大な斧を二つ携えた船であり、しかもそれが自由に動くという仕様なので園子以上に近距離戦での殲滅力が高い。正に夏凜の前身と言える満開だった。
そんな銀が展開した小舟にハゲ丸が乗ると、丁度銀の船は定員オーバーになった。園子の方も勇者達の搭載が終わり、寄ってくる星屑を蹴散らしながら船が飛んだ。
「この船はブラックホールわっしー直通だよ~!」
「進行上に立ったら躊躇なく轢いちまうからなぁ!」
そう叫びながらブラックホールへ向けて船を進める二人だったが、ここで少しばかり想定外の事……というよりも、まさかと思っていたがために予想外となってしまったことが起こった。
ブラックホール美森の周辺は本当に中心へ向かっての引力が働いており、その引力に捕まった園子と銀の舟はそのまま引き込まれる事は無くとも同乗している五人が全力でしがみつかないといけない程の引力を発生させていた。
「この様子だとあの中は本物のブラックホールみたいになってるかもね……」
「んなモンの中入ったら死ぬわ!!」
「でも入らないと東郷さんを助けられない!」
ブラックホールは重力の塊だとか、無限大の重力を持つとか言われている。ブラックホール美森はそこまで大きくないため本当のブラックホール程の力は無いと思われるが、少なくともあの中に入ろうと言う気は一切合切起きない。入ったら最後そのまま重力に押しつぶされて死にそうだ。
防御特化のハゲ丸でも恐らく全方位からかかるであろう重力をどうにかする術はない。
つまり、誰かがあの中に入ってあの中に居るであろう美森を助けてこないといけないのだ。それを理解した瞬間、誰かが思わず唾を飲んだ。
少なくとも満開勇者はもう精霊バリアを使えないため任せられない。だから、必然的にこの場は満開していない勇者達が行く事になる。
「……わたしが行く」
その役を引き受けたのは、友奈だった。
思わず全員が引き留めようとしたが、ここで引き留めても事態は好転しない。それどころか二人の満開の時間が切れてしまい全員でブラックホールの中にご招待だ。そうなってしまっては園子と銀は確実に死んでしまう。
だから、誰かが行くしかない。その誰かは、きっと友奈が適任だ。彼女なら、絶対に美森を連れ帰るという確信めいたものが全員の中にはあった。だから、風が代表して口を開く。
「なら、絶対に東郷を連れて帰ってきなさい。帰ってこなかったらあの世で百年くらい説教したげるわ」
「そうよ、友奈。だから、何度言われても懲りない馬鹿を助けてきなさい」
「ゆーゆ、わっしーをお願いね」
三人からの声を受けて友奈はしっかりと頷いた。
「うん。約束するよ、園ちゃん」
既に友奈の覚悟は決まっている。一度深呼吸をしてから牛鬼を呼び出して抱えると、もう一度だけ勇者部のみんなの方を見てから行ってくるね、とだけ口にして友奈は舟にしがみついていた手をその場で離した。
瞬間、友奈の軽い体は引力に引き寄せられ、そのまま極力精霊バリアを無駄使いしないために体を丸めて一直線にブラックホールの中心へと引っ張られて行った。
「園子、アタシは友奈の回収のためにここに残る! 園子は下がって安全を確保しておいてくれ!」
「でもミノさん、もし満開が解除されたら……!」
恐らく、この場で一番機動力があるのは銀だ。
彼女の舟は小型でハゲ丸一人しか搭載していないため三人を乗せている園子よりも機動力がある。だが、代わりに銀の満開はあまり持続しない。まだ片手の指で数えられる程度の満開しかしていない彼女では園子の数分の一程度しか満開を維持できない。
だから、もし解除されたらと園子は最悪を想像するが、銀は笑って隣に乗っているハゲ丸の背中を叩いた。
「コイツがいる。大丈夫だ」
ハゲ丸は一瞬惚けた顔をしたが、彼を見て一瞬で園子の中の最悪の想像は消えた。
彼の戦闘力は一番下だが、守る力だけならこの中で一番だ。そんな彼が銀と自分をみすみす殺すわけがない。だからこそ、安心できる。安心して園子は下がる事ができる。
「……うん、そだね。じゃあわたしは一旦下がって安全の確保に集中するね」
園子の舟が下がっていき、代わりに射出された槍の矛先が銀の周りにも居たバーテックスと星屑、そして視界内に入る敵という敵を全て殲滅していく。流石の殲滅力に言葉も出ないが、銀は強大な引力に負けないように何とか舟を踏ん張らせている。
恐らく銀はこの中では満開した回数は最底辺に連なる。故にまだ満開の力が定着しきっていない上に慣れていない満開の力そのものに振り回されかけているが、何とか歯を食いしばってそれを堪えている。
「ったく……こんなことさせやがって。須美のやつ、帰ってきたらアタシからも説教してやる」
「俺も事情をしっかりと聞いてから説教してやらないとな……ん?」
あまり友奈の美森救出が長引かないように願いながら踏ん張っていた銀と、いつでも満開できるように待機していたハゲ丸だったが、ふと異変に気が付いた。
引力が徐々に弱まってきているのだ。初めに気付いたのは銀の舟にしがみついていたハゲ丸で、すぐに銀も舟にかかっている引力が弱まっていることに気が付いた。それに気が付き銀が舟を動かしたその瞬間、ブラックホールは一気に収縮し、消えると同時にその中心から気を失った友奈と美森が落ちてきた。
「銀、友奈は任せろ!」
「分かった!」
そのまま炎へ向けて落ちて行く二人を、ハゲ丸が友奈を拾い、銀が美森を拾った所で何とか一息ついた。
中で何があったのかは不明だが、それでも友奈はしっかりと美森を救出して戻ってきた。それだけでもう十分だ。これ以上ここに留まる意味はない。
「よし撤収! とっとと帰んぞ!!」
「園子ぉ! こっち終わったから帰って説教の時間だ!!」
そしてブラックホールが消えたからか、一気にワラワラと迫ってきたバーテックスを撃退しつつ勇者達は壁内へと戻っていくのだった。
まぁこういう原作とほぼ同じなイベントはカットしていかないとわすゆみたいにとんでもなく長くなってしまうので仕方ないよね。そしてミノさんの勇者システムはしっかりと持続するのか……!!
次回は東郷さん説☆教ですね。今回ミノさんも説教に加わると言っていましたが果たして合計三人での説☆教となってしまうのか。東郷さんの精神は崩壊を免れるのか……!!