一年前から盗撮写真館となった部屋の中、美森は自分のパソコンを何も言わずに見つめていた。
パソコンに写っているのは、友奈。彼女の親友で、重すぎる愛をぶつけ続けている相手だ。部屋の壁一面を彼女の盗撮写真だらけにするほどの愛情を持つ美森だったが、そんな彼女が最愛の人物の写真を見る表情は重く暗い。
「……違うわ」
写真の中の友奈は笑顔だ。だが、他の盗撮した写真に写る友奈はもっと笑顔だ。
ずっと気が付いていた。いや、見ないふりをしていた。友奈に限って何か隠しごとをする訳が無いと言う、ある意味の信頼があったからこそ、美森はいつか暗い笑顔は明るい笑顔に変わってくれると信じていた。
だが、一向に彼女の表情はよくならない。それどころか段々と暗くなっていき、終いには体調まで悪くなってきているのか具合が悪そうにしていることが多い。
何の、とは言わないが周期すら把握している美森がその程度、気が付かないわけがない。誰よりも早く彼女は友奈の異変に気が付いていたが、誰よりも友奈を信用していたからこそ何も言わなかった。だが、もう我慢の限界だ。これ以上放っては置けない。
「……また説教されるかもしれないけど、構わない。友奈ちゃんのために私は動く」
彼女の友奈を想って行う行動の一切に曇りはない。彼女にとって友奈のために動くことの全ては正義だ。
友奈は何かを隠している。それは友奈が口にできない、しない事だ。
ならば、暴けばいい。そのための力を彼女は持ち合わせてしまっている。恐らく一番持ってはいけない人種である彼女が。
「という訳でまずは寝顔撮影と同時にお部屋を漁らないと。ついでに友奈ちゃんの使用ず」
その瞬間、美森の携帯に着信が。
誰からだと思えば園子からだった。
「……はいもしもし」
『あんまりやり過ぎるとお仕置きだからね? あと、やることやったらフーミン先輩の部屋集合で』
「……うっす」
全部バレてた。
「……と、とりあえず寝顔の撮影とお部屋の捜索よ!!」
園子からの折檻は普通に怖いので変態的行為は今回はせず、友奈の部屋を漁り友奈が何を隠し通しているのかを暴く。そのために美森は端末で勇者に変身、有り余る身体能力を活かして友奈の部屋のベランダに着地した。
カーテンを閉め、しかしながら電気は付いている友奈の部屋。しかし友奈の事を知り尽くしている美森は友奈がこの時間既に寝ていることを知っている。電気が付いていても本を呼んでいたり携帯を見ていたりで結果的に寝落ちしているという事も。
故に、美森は自分の唯一の精霊となった青坊主に指示を出し、念のためにカーテンの隙間から友奈が寝ているのを確認させてから短距離の転移を使わせて窓の鍵を開錠させると、音を立てないように少しだけ窓を開けそこから自分の体を滑り込ませ――
「あ゛っ……」
メガロポリスな胸がつっかえて大きな音が鳴った。
もう少し開けておけばよかった、と自分の無駄に慎重な行動を後悔しながら美森は友奈の部屋への不法侵入を成し遂げた。僅か数秒、勇者だからこそ成せる立派な不法侵入だ。良い子は真似してはいけない。
友奈の精霊、牛鬼はこういう時だろうとマイペースで完全にただのマスコットとなっていることは既に計算内。故に今も起きてサンチョとかなり似た猫みたいなぬいぐるみのような枕のようなもの、アミーゴを齧っていても作戦の支障にはならない。
不法侵入を果たした美森はなるべく痕跡を残さないようにまずは友奈の学習机を漁る。しかし、何も見つからない。何かを書いた後なのか筆箱とシャーペンが散乱しているがその程度だ。
次に美森は本棚を見ながら友奈の寝顔を撮る。ドラゴンボール全巻だったり未来悟飯が登場するテレビスペシャルのブルーレイだったり少年漫画、少女漫画問わずに漫画が沢山置いてあるが、美森が目をつけたのはその中の一つ。
「あれは……友奈ちゃんが四月に入学したときご両親から買ってもらったけど結局一度も目を通していない大量の百科事典の内一冊に動かされた跡がある……!!?」
最早ここまで来ると気持ち悪いや頭おかしいという感想を通り越して褒めたくなってしまうが、最早ただの変態を凌駕した美森はカメラを仕舞うと物音を一切立てず友奈のベッドの奥にある本棚から百科事典を抜き取ると、カバーから中の百科事典を抜き取った。
しかし、出てきたのは百科事典ではなかった。
「勇者御記……!? どうして友奈ちゃんがこんなものを……!!?」
勇者御記。大赦ではなく勇者本人が書く記録。園子が一時期書いていたというのは本人からチラッと聞いた覚えがあるが、今代の勇者は誰も勇者御記を書いていなかった筈だ。だと言うのに、友奈がこれを持っている。
まさか友奈が昔からこれを隠れて書いていたのか、と一瞬疑ったがそんな事はあり得ない。何故なら美森は友奈の部屋は車椅子時代からどこに何があるのか手に取るように分かっていたのだから、当時から書いていた事は絶対にありえない。
だとすると、友奈がこれを書き始めたのは確実に最近から。
「……ごめんね、友奈ちゃん。これ、借りていくから」
寝苦しそうにしている友奈に一言だけ謝って美森は窓から出ていった。
なお、彼女は出ていく寸前、タンス……それも下着の類が入っている棚をジッと見ていたのはきっとどうでもいい事だろう。
****
「そういうわけで友奈ちゃんの部屋から借りてきました。きっとこれに友奈ちゃんが何を隠しているのかが書いてあるかと」
「真顔で言ってるけどお前、友奈の部屋に不法侵入した事は隠しようもない事実であり犯罪の暴露だからな? その辺覚えておけよ?」
「私と友奈ちゃんの仲だからいいのよ」
「なわきゃねぇだろ」
平然と不法侵入という犯罪をカミングアウトした美森。それに対してツッコミを入れるハゲ。そんな二人が他の勇者部と共に集まったのは深夜の犬吠埼家だ。
そろそろ美森が動くという直感めいたものを感じた園子、銀により美森が来る前に集められた面子は美森がやってきて勇者御記を机の上に置いた瞬間、顔色を変えた。勇者御記の存在は一応知らない事はない、程度の認識だった勇者部ではあったが、それが友奈の部屋から出てきたという事実に驚愕した。
まさか友奈が、と心の表面上では思う裏で、やっぱり何か隠していた……と自分たちが内心でまさかと思いながらも考えていた物が当たったという事実に少しばかりの困惑を覚えた。
サラッと犯罪の申告をした美森にツッコミを入れたハゲではあったが、これ以上漫才をやっても事態は進展しないため、勝手に動いた美森の事は今は不問、という事にしておいた彼女の犯罪行為で友奈の悩みが詰まっているであろう一冊を確保できたのだから。
「……これを見れば、友奈の悩みが分かるんだな」
「うん」
ハゲ丸の言葉に肯定の言葉を返したのは園子だった。
彼女はクリスマス付近から友奈の異常に対してのアクションを裏で起こしていた。この中で一番権力を持っている彼女は既に友奈の異常は何なのかという答えを既に掴んでおり、その異常がこの勇者御記には書かれていると知っている。
「わたしもゆーゆがおかしい事に気が付いて前から動いてたんだ。わたしの権力ならほとんどの情報が閲覧可能だからね」
「権力! それが僕の求めていたちかぐぼぉ!!?」
どうしてハゲ丸の言葉に肯定の言葉を返せたのか。その理由を園子は説明した。そしてふざけてきたハゲの腹に思いっきりヤクザキックを叩き込んで無理矢理脱線しかけた空気を戻してからもう一度説明をしようとして。
「……まさかそのっち。その権力ってわたしも知らない友奈ちゃんのあれやこれげぶぅ!!?」
「黙ろうか、二人とも」
美森までなんかふざけてきたため彼女の腹にヤクザキックを叩き込んで黙らせ、すぐに心の底から冷えるかのような罵声を二人に浴びせた。親友のそんな声を聞いた二人は腹を抱え蹲りながら黙って頷き、暫くふざけるのは止めようと誓った。彼女がここまで暴力に打って出るという事はそこそこキレているのだから。
若干ヴァイオレンスになったそのっちは一度深呼吸して落ち着いてから今度こそ、と説明を再開しようとして。
「あ、もうちょっとでスカートの中が」
「こっちからならバッチリ見えるわ。流石そのっち、大人ね」
「双竜脚!」
『ぎゃん!?』
芸人二人がスカートの中を覗こうとしてきたので二人の頭で割と本気なサッカーをして確実に黙らせた。特にハゲは地面に転がったのちに思いっきり顔面を踏んで物理的に視界をゼロにした。
かなり話がそれたが、園子は芸人二人が黙ったのを確認してから三度目の正直として説明をやっとこさ再開した。
「簡単に事を説明すると、ゆーゆは天の神に祟られているんだよ」
天の神のタタリ。
そんな物、聞いた覚えがない。しかし、言葉からロクでもない物であるという事だけは理解できる。
「詳しい事までは分からなかったけど、このタタリはゆーゆ本人の口から伝えられるか、ゆーゆが書いた物を見るだけでも伝染する。質の悪いウイルスみたいな物なんだ」
その言葉に引っかかるものを覚えたのは夏凜だった。
夏凜は今日、友奈に悩んでいることを打ち明けてほしいと伝えても悩みは相談されなかった。だが、もしその悩みを相談したくないのではなく相談できないのだったら。それは相談してはいけない類の悩みだったら。
この勇者御記を読むことは、友奈が守ろうとしたものを壊す事に繋がる。友奈が必死に守ってきた物を打ち壊してしまう。
園子の言葉には、天の神のタタリをおっ被る心の準備はできているか、と聞くと同時に友奈が今まで隠し通してきた物をこんな、若干卑怯な手で見てしまってもいいのか、という質問が含まれていた。
だが。
「……なら読みましょう。友奈が苦しんでいるんだもの、放ってなんておけないわ」
それでも友奈を助けたい。
タタリなんて物をおっ被る程度で済むのなら、友奈を助ける事を選ぶ。夏凜の言葉に反対する者は居らず、全員が夏凜の言葉に頷く。
「じゃあ……覚悟はいいね?」
園子の問いに首を横に振るメンバーは居なかった。
「あ、ちょっと待って園子さん、俺の顔踏みつけたままだと俺何も見えな」
「え? 聞こえないよ~?」
「徐々に力入れないで頭が床に埋まるか俺の頭が砕けるから!! いでででででで!!」
首を横に振るメンバーは居なかった!!
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勇者御記に書かれていたのは友奈のタタリの詳細と、彼女がタタリを受けてからどれだけ苦悩して生きてきたかの日記。懺悔にも近い後悔の語りもあれば、タタリにより生命力を根こそぎ奪われ、春先まで生き残れないという友奈自身の現状。
齢十四歳の少女が受けるには過酷すぎるその運命が綴られた勇者御記は勇者部全員の心を痛めた。
「友奈……そんな事を……」
こんな事、相談できるわけがない。人一倍優しい彼女がタタリについて一切口を出せるわけがない。
相談してほしかった。夏凜は話を聞くまではそう思っていた。だが、その思いは話を聞いて御記を読めばどれだけ自分勝手で友奈の事を考えていない願いだったか。そんな自己嫌悪にも似た感情が沸いてきてしまった。
謝りたい。仲直りしたい。そんな言葉が綴られた今日の日記代わりの御記にはそんな事が書かれていた。
謝りたいのは夏凜の方だった。仲直りしたいのは夏凜の方だった。
「……俺、最低だなぁ」
そして自分が記憶を失った経緯からすぐに当時の状況が理解できるハゲ丸も、園子に顔面を踏まれながら自己嫌悪に陥っていた。
だが絵面が絵面なので誰も気にしなかった。
「……結局私のせいじゃない! 私が壁を壊したせいで私だけじゃなくて友奈ちゃんに!!」
「わっしー!」
美森の慟哭は園子によって止められる。
彼女のやった事は悪い事ではない。不幸故に起きてしまった事故と同じように勇者部の中では処理されたが、美森にとってはそう簡単に切り離せる問題ではない。故に、こうして友奈が自分の代わりに生贄となっている事実にどうしようもなく腹が立ち、切腹してでも友奈に詫びたい。今はそんな気分だった。
それを園子が止め、銀は溜め息を吐いた。
事の真相は銀の予想以上だった。今回のタタリを解決するには、つまるところ……
「……また大赦は黙ってたのよね。この事を分かっていながら」
「風先輩、落ち着け。確かに大赦は黙ってたけど、今回ばかりは仕方ないっすよ」
風の声には怒りが含まれていたが、それを銀が宥める。
今回の大赦のだんまりは仕方ない事だ。もし大赦が変に勇者達にそれを話して被害が拡大してしまったら、もしかしたら勇者が全滅していたかもしれない。然るべき時に自分たちを動かして事態の収束に務める事ができなかったかもしれない。
今回ばかりは勇者達を守るために黙っていた。故に風も黙っていた事に怒りは感じつつも、仕方のない事だとグッと堪えた。
銀は今回の問題の解決方法を一旦忘れ、勇者御記を閉じた。
「……原因が分かってもアタシ達にできる事は少ない。いや、無いって言ってもいい。暫くは友奈にこれがバレたって事を悟られないようにしよう」
「そんな事……友奈が苦しんでるのに見て見ぬふりなんて……」
「友奈のために見て見ぬふりをするんだ。知られたら友奈は動揺する。冗談じゃなくマジで心が折れる可能性もある。友奈はアタシ達を守るために嘘を吐いていたのに、その嘘が剥がれたと知ったらどんな事をするか分からないぞ」
少なくとも暫くは水面下で行動をしなければならない。
いや、この事態を解決する方法はきっと一つしかない。その一つを成し得る方法を探り当てるまで、友奈を気遣い守りながら、友奈に守られなければならない。
既に日は一月中旬。長く見繕っても友奈の命は残り二か月半。もしかしたら一か月もないかもしれない。その僅かな間にこのタタリをどうにか消す方法を、友奈の笑顔を取り戻す方法を探らないといけない。
「……銀の言う通りね。暫くは気づいていない振りをして過ごしましょう。乃木と夏凜、それから銀とアタシの大赦組で大赦の方で色々と調べてみるわ」
「じゃあわたしとハゲ、それから東郷先輩で友奈さんに気取られないように動きましょう」
「俺も知り合いに巫女とか大赦に近いヤツらがいるからそいつらに色々と頼んで動いてもらってみる」
時間はもう残りわずかだ。故に、打てる最善手を打ち続けなければならない。
勇者達の友奈に悟られないように友奈を救うための作戦が静かに幕を開けた。友奈の笑顔を取り戻すために。
――しかし、その作戦は二日後には意味をなさなくなる事を、勇者達は知らなかった。二日後に本当の最終決戦が起こることを――
まさかあの不法侵入が勇者の章でトップクラスのファインプレーになるとは見ていた当時は思わなかったよ。あれなかったら詰みまでありましたからね……
という訳でハゲがほぼ出ないが故にあまりオリ展開にならなかった今話。というか勇者の章でハゲを差し込める隙が無いので最終決戦直前とかにならないとハゲを使えないかも……このハゲ、メイン盾になるしか用途が存在しないような……
とりあえず次回から五話突入。物凄いスピードで勇者の章を消化していってますが恐らく天の神戦でかなりの文字数を使うかと思うので、勇者の章の話数は恐らくわすゆと同程度になるかと。
勇者の章が終わったら今度はのわゆ。恐らく神世紀勇者全員ぶち込んでのわゆハッピーエンドとかこの作品でしかやらないような事だと思うのでちゃんと話纏められるか既に不安ですぞ!!