ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回はちょっとしんみりと。まぁ、偶にはね?


しんみりハゲ

 一応、とは先頭に付くが、ハゲ丸も勇者部の一員である。そのため、彼にも勇者部としての活動をする義務……とは言わないが、風の命に応じて活動に参加する権利がある。

 元々彼は自分のハゲを治すために勇者部に入ったわけではあるが、いつの間にか彼の周りも彼自身もハゲ丸は勇者部の一員であるという意識が芽生えているため、今さら参加は拒否するなんて言えないし言わない。そのためか、彼が勇者部に入り、そして勇者というお役目に彼以外の勇者部四人が選ばれてから早二週間。バーテックスの進行は今のところ連日に起きた二回のみとなっており、勇者部は今まで通りの活動を行っていた。

 

「で、何で俺だけ力仕事なんすか」

「いやぁ、やっぱハゲてるとは言っても貴重な男手だしね。バンバン働いてもらうよぉ?」

「まぁいいですけど……」

 

 多分、今までの自分ならそんなこと面倒だからやりたくないと一蹴していただろうが、何故かこうしてボランティア活動に精を出していると、どこか落ち着くというか、これも自分のお役目なのだなと納得してしまう自分がいた。それに、自分の周りは美少女ばかり。役得眼福と思えばボランティア活動も苦ではなく寧ろ楽しいものであった。

 それに、こうして勇者部の活動に参加してから、親がそれは良い事だと笑顔で言っては夕食分の小遣いを毎回くれるようになり、彼女らとうどんを食べに行くことも出来るようになったし、月の小遣いも少し増えた。休日ゴロゴロするという事はなくなったが、それでも十分に楽しく充実した毎日になった。小遣いも増えたし。

 そんな勇者部の活動の中で、ハゲ丸が参加しているのは主に力仕事や日曜大工の仕事だ。納屋の屋根の修理だったり家具の修理だったり。今まで女の子がやるには少し重労働だった事をハゲ丸はするようになった。

 それに、ハゲ丸はどうやら記憶がなくなるまで筋トレをしていたらしく、そこそこの筋肉もあったため、勇者部の中では力のある方である友奈よりも重い物を持てるというアドバンテージを活かして基本的に力仕事に勤しんでいる。

 そんな彼の今日の仕事は、日曜大工ではなく、明日行う劇のセット作りだ。

 背景だったり小道具だったり。そういった物をハゲ丸が作り、その間に他の勇者部員が他の依頼をこなす。そして時々ハゲ丸も、どうしてか息ぴったりな東郷と共に依頼に出る。

 

「どっこい、っと。で、これどこに置いときます?」

「おぉ、力持ちねハゲ丸。じゃ、そこの隅に置いておいて」

「うっす」

 

 今日は風がフリーなため、風と部室で共にセットの作成に赴いている。

 絵心が壊滅的であり、東郷とハゲ丸から画伯と呼ばれている彼女は、ハゲ丸の指示でセットの色だけを塗り、ハゲ丸が接着剤やボンドを使って色の塗られたそれを組み立てたり、時々家から持ってきたエアスプレーを使って細かい塗りをする。

 男の子の嗜みとしてプラモデルの組み立てもよくやる上にそれの塗装もよくしているハゲ丸にとってはこうした組み立て作業や塗装作業は男心を擽られ、最近の放課後、休みの日の楽しみになりかけている。

 

「いやぁ、なんか悪いわね。最初はハゲを治すから仮入部させる、って話だったのに、こうして本格的に入部してもらって色々と手伝ってもらうなんて。ハゲも治ってないのに」

「んー……俺自身、それでハゲが治るとは思いませんでしたし。勇者部が俺の中の唯一の希望だったってだけで」

「重っ!? 予想以上に責任重大だった!?」

「いや、気にしなくてもいいっすよ。それに、ハゲのお陰で犬吠埼先輩みたいな美少女とお近づきになれたらって思うと得ですし」

 

 なんやかんや言って、風も美少女だ。確か、去年あたりに告白されたという情報をどこかで聞いたこともあるし。

 だからそれをポロっと口走ったが、風は数秒ほど固まったのち、咳払いをしてハゲ丸の背中を叩いた。

 

「いやぁ、いい事言ってくれるじゃない。アタシはちょっと嬉しいわよ~?」

「はいはい。分かりましたからとっとと進めましょうや。あとちょっとなんですし」

「それもそうね。んじゃ、とっとと終わらせてみんなを迎えに行って、うどん食べに行くわよ!」

「ういっす」

 

 そして再び聞こえる作業の音。その中で風は一旦手を止めてからハゲ丸に話かける。

 

「そういえば。アタシの事は風でいいわよ? アンタ、いっつも全員の事苗字呼びじゃない」

「え? あぁ、まぁ、そりゃぁ。一応異性だったりとか慣れてなかったりとかありますから……」

「でも犬吠埼先輩、なんて長いし呼びにくいでしょ? だから、アタシの事は風でいいわ」

「……まぁ、先輩がそう言うなら。後でやっぱ無しでとか言わないでくださいよ、風先輩」

「あいよ。あー、なんか苗字で呼ばれるよりも名前で呼ばれた方が落ち着くわ」

 

 まぁ、いつもみんなからは名前で呼ばれてますしね、とハゲ丸が返してから、声はなくなった。

 その代わりにと、部室の中には段ボールを切る音、張り付ける音。そして、絵の具を塗る音が響き、放課後の時間はゆっくりと過ぎていった。

 

 

****

 

 

 劇は大成功で終わった。

 ハゲ丸はセットを移動させる係と、後ろで色々と動き回る黒子のようなものをしていた。

 前は人形劇を行っていたらしいが、今回からは部員も増えたという事で本格的な劇を行うようになった。脚本は風、演者は風と友奈。そしてモブと黒子がハゲ丸であり、美森と樹がナレーションだ。美森と樹の声は優しい感じなので園児達にとっては聞き取りやすく、安心できるナレーションとなり、友奈と風はかなり派手に動き回れるので園児達がそれを見て歓声を上げる。そして、ハゲ丸の迫真のやられ芸に園児たちは劇にのめりこんでいく。

 そうして終わった劇は大成功。保育園からはまたお願いしますと笑顔で頼まれるほど。

 そして打ち上げ代わりのかめやのうどんを食べてから、その場で現地解散という流れになった。

 

「んじゃ、アタシ等買い物とかあるから」

「お先に失礼しますね」

「くっ……どうして今日に限って私も用事が……!!」

 

 そして風と樹は明日の食料の買い物へ。美森も今日はどうしても行かなければならない用事(週刊戦艦大和の購入)があり、友奈とハゲ丸は途中まで道が同じなのでいつもとは違う感じの帰りとなった。

 

「いやぁ、今日は楽しかったね、ハゲ丸くん!」

「そうだな。劇とか初めてだったけど、予想以上に楽しかったよ」

 

 初めての劇で熟練のやられ役のような悲鳴だったりスタントを繰り広げたハゲ丸は、役としては散々な立ち回りではあったがかなり楽しんで劇を行うことができた。それに、自分のハゲをヅラと言い張り、ヅラを取ってわざとへっぽこな感じのやられ役を演じたのも彼のやられ役としての完成度を高めたのかもしれない。

 ヅラを被ればどこにでもいそうな没個性な少年であるハゲ丸は風でヅラが持っていかれないようにヅラを抑えながら友奈と並んで歩く。

 

「そういえば、ハゲ丸くんと二人きりって珍しいよね」

「ん? あー……確かにな。いっつも結城さんと一緒に帰ると東郷もついてくるしな」

 

 もう勇者部に所属して二週間近く。帰り道は友奈と美森と同じなためいつも三人で帰っているのだが、今まで二人きりで帰宅という事はなかったためどこか新鮮な感じがあった。

 無言で時が流れる帰り道。空を見上げながら歩く友奈と、そんな彼女を時々目に収めながら自分の荷物を片手に前を向くハゲ丸。

 

「まだお星さま、見えないね」

「夕方だしな。でも、あっちの方に一番星は見えてるぞ」

「あ、ホントだ!」

 

 空に散らばる星屑は未だ太陽の明かりによって見えない。しかし、目を凝らせば一番星が目に入ってくる。

 いつもはこんなことをしないのだが、ふとそんな気分になった友奈は空を見上げながらハゲ丸の隣を歩く。だが、そうして空を見上げながら歩いていたせいか。ふとした拍子に足が絡まり、バランスを崩す。

 

「あぶねっ」

 

 それを間一髪、彼女の手を掴んでハゲ丸が防ぐ。

 

「うわっ!? ご、ごめんね、ありがと」

「いや、別にいいよ。これからは気を付けてくれれば」

「うん。ちゃんと前向いて歩くね」

 

 えへへ、と恥ずかしそうに笑う友奈の手をそっと離し再び二人で歩く。

 もしも東郷が居たら「友奈ちゃんに触るなんて言語道断! 死ねハゲェ!!」と言いながらハゲ丸に襲い掛かってくる所だが、今回はそんな彼女はいない。二人でゆったりとした時間の中を一緒に歩く。

 その中で、友奈がハゲ丸に囁く。

 

「……わたしね、ずっとハゲ丸くんの事が気になってたの」

「えっ」

 

 思わず荷物を落としながらハゲ丸が返事を返した。

 それって、どういうこと。それを口にする前に友奈が口を開く。

 

「ハゲ丸くんも、東郷さんと同じで記憶喪失でしょ? だから、その、もしかしたら東郷さんとハゲ丸くんって昔は知り合いだったんじゃないかなって」

「あぁ……そういう」

 

 まぁ、そりゃそうかとハゲ丸は一瞬浮かれてしまった自分に反省しながら荷物を拾い上げる。

 

「確かに、俺と東郷は同じ期間、同じ時に記憶喪失になったし、同じ学校に転校してきたけど……それはないよ。親に聞いたけど、俺は女っ気が一切なかったらしい……というかハゲを隠しているせいでちょっと交友関係が人様に自慢できない感じになってたし」

 

 ハゲ丸の記憶は、二年間飛んでいる。しかし、その中で何があったのか親に聞いても、あまり変わったことはなかったと親は言う。少し筋トレをしていたから筋肉は付いているとは言っていたが、本当にその程度。同じ病院で同じ症状だからと東郷の事は知っていたが、それだけ。

 二年間の記憶がないことが気にならないかと言われたら気になるが。しかし、失くしたものは仕方ないと割り切って今を生きているため、今さら過去がどうだったとか昔はなんだったとかを気にする気はない。ちょっと寂しいが、それだけだ。

 

「そうだよね。ごめんね、変なこと聞いて」

「いや、いいよ。俺も何度か疑ったことはあるし」

 

 しかし、結果は空振りだったわけだが。

 心の中にポッカリと穴が開いたような生活を送っていたからこそ、いろいろな事を疑い、知ろうとしてきたが、疑ったことは全部外れ。心の穴は多分、気のせいだろうと。そう思う。

 

「あ、そうだ。結城さんってぼた餅が好きだったよな?」

 

 そして唐突にハゲ丸は記憶喪失という点から思い出したことがあった。

 

「え? あ、うん。というか、美味しい物は大体好きだよ?」

「実は俺もさ、記憶喪失になってる間になんか料理に凝ってた時があったらしくてな。ぼた餅も作れるんだわ。だから、今度作ってくるから食ってくれないか?」

 

 この間の味噌煮込みうどん事件。あそこでハゲ丸は東郷と共に味噌煮込みうどんを作っていた。つまり、彼も料理についてはそこそこ自信があるのだ。今までは面倒だと一蹴して親に任せっぱなしにしていたが、勇者部に入ってからどうにも料理への意欲が高まってきたので、折角だし誰かに食べてもらいたいと。今思った。

 例え記憶を失っても、知識と技術は変わらない。ここをこうしたらこうなると分かっているから、その知識通りに作っていけば自分の記憶にない物も作れたりする。

 その中でもぼた餅とうどん、ジェラートは特に上手く作ることができる。どうしてかこの三つは、よく作れるのだ。何度も何度も、作ったかのように。

 

「いいの!?」

 

 そして、それに食いつく友奈。

 その光景にデジャヴを。昔にも、こうやって料理を披露すると言ったら誰かに詰め寄られた事があったようなと思いながら、それに頷く。

 

「まぁ、楽しみにしていてくれ。ジェラートも作れるんだが……それはまた今度な」

「うん、楽しみにしてるね!」

 

 花が咲いたかのような笑顔を浮かべる友奈を前に、藤丸は久しぶりに料理の腕を存分に振るってみようと。頭の中で材料を考え始める。

 

「あ、そうだ」

「ん?」

 

 そうして思考が完全に料理の方向にシフトし始めたハゲ丸ではあったが、友奈はそんな彼の思考に水を差した。

 

「わたしの事、結城さん、なんて硬い呼び方じゃなくて友奈って呼んで。だって、わたし達もう友達でしょ?」

「え? あ、あぁ……そりゃそうだけど……」

 

 部活仲間でもあり友達。なのではあるが、下の名前で呼ぶというのはどうにも恥ずかしい、というよりも抵抗がある。

 何も呼びたくないという訳ではなく、女の子を下の名前で呼ぶというのがどうにも気恥ずかしいのだ。既に風の事を名前で呼んでいるが、彼女は樹との呼び分けのためと思えば何とでもなる。

 だが、友奈は違う。そう思うと恥ずかしい。

 

「呼んでくれないと勇パンお腹に叩き込むよ?」

「え、バイオレンス過ぎない?」

「冗談だよ。あははっ」

 

 勇パン、と言えば彼女がしきりにバーテックスに叩き込んでいる勇者パンチだ。それが腹に飛んでくると思うと寒気がしてならないが、彼女の笑顔を見ればそれは本当に冗談だという事が分かる。

 だが、そう言われたからには。お腹に勇パン一発を受けたら死んでしまうからという免罪符を自分の中に張り付けて彼女の事を名前で呼ぶことができる。

 

「はいはい、友奈さん。勇パンはくらいたくないからな」

「呼び捨てでいいんだよ?」

「思春期の男の子の気持ち考えてくださいよ……」

「じゃあ顔に勇パン?」

「わかった、友奈。頭が弾け飛ぶからやめてくれ」

「もう、そんなに力強くないよ! ……まぁ、ちゃんと名前で呼んでくれたから許すよ」

 

 流石に腹と顔に勇パンと比べれば、彼女の事を呼び捨てで、名前で呼ぶくらい安いものだ。思春期の男の子の思想はそんな彼女の冗談ではじけ飛んでしまったのだった。

 ただ、ふと思った。

 東郷は。あの友奈ガチ勢のやべーやつは、勇パンを喜んでもらいにいくのだろうか、と。

 

 

****

 

 

 とある日。ハゲ丸は勇者部の活動を終えて暇していた。そのため、適当に漫画でも買って帰るかという結論に至り、ハゲ丸は遠出したついでに適当な本屋へと足を運んだ。

 本屋のラインナップなんてどこも大して変わらないのにどうしてちょっと遠くの本屋に行くとこうもドキドキするのだろうか。なんて思いながらハゲ丸は適当に漫画を物色する。特に欲しいのはないが、ちょっと興味を惹かれる本は幾つかあった。

 そしてどうしてか足は小説の棚の方へ。ライトノベルと呼ばれるような物を物色し始めた。

 

「んー……まぁ適当に買ってみるのも……?」

 

 そうして美少女のイラストが表紙に書かれている、ヤケにタイトルの長いライトノベルを手に取ろうとして。ふと、ハードカバーの本が並んでいる場所に目を移すと、そこにはちょっと珍しい人がいた。

 左手で色々な本を手に取ってかごの中に入れて、そして時々携帯を左手で見てはそれを仕舞ってハードカバーを手にして、を繰り返す同年代くらいの少女。よく見てみると、彼女の服の右袖には腕は通っていなかった。

 隻腕、という言葉がふと頭を過った。そしてすぐにハゲ丸は無意識のうちに動いていた。

 

「大変そうだな、手伝おうか?」

「え? あ、あぁ。じゃ、頼める、か……」

 

 そして声をかけて、隻腕の少女がこちらを向いたとき、二人の間に流れていた時間が止まったような気がした。

 どこかで見たことあるような。ハゲ丸はそう思うが、しかしどこで会ったのか思い出せない。隻腕の少女は声を失ったかのように口を開いては閉じてを繰り返すだけ。

 なんとも奇妙な空間。それを破ったのはハゲ丸だった。

 

「え、えっと……取りたいのがあったら言ってくれよ」

「え、あ、うん……そうする」

 

 少女が少しどもりながら返事をして、二人の奇妙な買い物が始まる。

 ハゲ丸の持っているかごには既に大量の本が積まれており、一冊千円ちょっとはする本が十冊以上は軽く積まれていた。これ全部この子が読むのか? と思うと、外見のイメージとは合わないなとも思った。

 そんな彼女は左手で携帯を持って、これとこれ、と本を携帯を持った手で指さす。ハゲ丸はそれに従って本を取ってはかごの中に。時々文庫本もかごの中に入れられていく。

 

「……すごいな。これ、全部読むのか?」

 

 そんなわけない、と彼女が返してくるような気がした。

 

「いや、違うよ。これ全部友達の分。おつかい頼まれてさ」

 

 やっぱりと思った。

 そしてハゲ丸の言葉を否定した彼女の表情は、どこか寂し気に見えたが、ハゲ丸はそれに対して何も言えなかった。

 

「よし、普通のはこんなもんか。あとはこっちのやつだな」

 

 そうこうしている間に小説の買い物は終わったらしい。既にかごの中は色んなハードカバーの小説に埋もれており、ハゲ丸なら一年かかっても読み切れないかもしれないと思う程の量の本がそこにはあった。

 そして次に少女が物色に入った棚は、少女漫画のコーナー。しかも、俗にいうBL。ボーイズラブ系の物がたくさん積まれている場所だった。

 流石のハゲ丸もここに足を踏み込むのは少し勇気がいる。

 そうしてたじろいでいるハゲ丸に気が付いたのか、少女は一言謝った。

 

「あ、ごめん。男はこういうとこ入りにくいよな」

「い、いや……別にいいよ」

 

 だが、ハゲ丸は勇気を出して少女の隣を歩く。

 

「いやぁ、アタシも最初は恥ずかしかったけど、何度も買ってる内に慣れちまってな。あ、これとこれ頼む」

「何度もって……そんなにおつかいに行かされてるのか?」

「まぁな。あいつ、歩けないし」

「歩けない……?」

「事故で全身ミイラ状態なうえに体の機能も一部駄目になっちまってな……」

 

 そう言う少女の表情は寂し気だった。

 ハゲ丸はそれ以上追求せずにそのまま少女の言うとおりに本をかごの中に入れていき、そして会計を彼女が済ませた後、送っていくと言って彼女の荷物を持ち、隣を再び歩く。

 

「ありがとな。荷物持ちしてもらって」

「いや、別にいいよ。困ったときのなんとやらだ」

 

 それ以降、二人の間に会話はない。

 そうして無言のまま歩いていると、彼女は足を止めた。そこはここら辺では一番大きな病院だった。

 

「ここだ。ありがとな、荷物持ってもらって」

「どうせなら中まで持っていくけど?」

「いや、いい。そこまで迷惑かけられないしな」

 

 病院の入り口で少女はハゲ丸から荷物をひったくり、そのまま一言礼を言って病院の中に入っていこうとして、足を止めた。

 どうしたんだ? と思いながら少女の様子を観察していると、彼女はいきなり振り向き。

 

「銀」

 

 名前を口に出した。

 

「三ノ輪、銀。それがアタシの名前だ」

「三ノ輪銀……?」

 

 少女の名を再び口にする。

 三ノ輪銀。どうしてだろうか。その名前をハゲ丸は知っているような気がした。いや、その名前こそが記憶喪失になってから自分の心に空いた穴を埋めてくれるような。そんな気さえした。

 

「せめて、名前だけでも憶えていてくれないか?」

 

 そういう少女の顔は、先ほどまでずっと見せていた寂し気な表情そのものだった。

 それを向けられていやだと言えるわけもなく。ハゲ丸はそっと頷いた。それに銀は笑顔で頷く。

 

「……なら、安心できる。じゃあな、桂……じゃなかった。藤丸」

「え?」

 

 そして銀は、知らないはずのハゲ丸の名を口にした。

 どうして、と聞く前に銀は病院の中へと消えていく。

 

「須美にも、よろしくな」

 

 最後に、銀のそんな言葉が聞こえ。

 銀の姿は他の患者や医者の中へと消えていき、見えなくなった。

 ハゲ丸は一瞬、病院の中に入って彼女を探してしまおうかとも思ったが、どうしてかそれは止めておこうと思った。多分、また会う日が来ると。そう思ったから。

 そっと、病院に背を向けて、歩き出す。

 

「……銀、か」

 

 どうしてだろう。この名前を忘れてはいけないと思えてしまうのは。

 

 

****

 

「園子。さっき、ズラと会ったよ」

「え? ズラっちと? 偶然だね~」

「……やっぱ、アタシ等のことは忘れてるみたいだ」

「仕方ないよ。わたしのこれが治らないんなら、記憶は戻らないだろうから……」

「そう、だな……」

「……さみしい?」

「そりゃな。また四人で馬鹿出来たら、って思うよ。思わないわけがないよ」

「……うん、そうだね」

「……ってか園子。お前両腕動くんならついて来いよ。車椅子乗れば動けるだろ」

「え~。だってわたしはここで小説書いて読んでるのに忙しいし?」

「だぁもう……お前の監視役兼ご機嫌取り役として学校にも行けず夜にならないと帰れない暇なアタシの事をもう少し考えてくれよな!」

「あはは~。じゃあ、喉も乾いたからミノさんにはもう一回買い物に行ってもらおうかな~」

「このっ……! 二年ですっかり味占めやがって……!! こっちだって片腕だし大変なんだかんな!?」

「あはは~」




というわけでわすゆ組がチラッと登場したのでミノさんと園っちの変更部分紹介

ミノさん……生存ルート。けど右手欠損している。お役目で小学校中退して園っちの監視兼ご機嫌取り中。日中は園っちとお勉強。

園っち……原作よりも満開回数少な目。両手動くよ。実は右足も。腐ってる。日中はミノさんの家庭教師。

……なんかしんみりムードであとがき書くとふざけられない……というかこの二人は一言二言で説明できる崩壊してないから……

まぁ、そんなわけでミノさん生存ルートな今作。果たしてわすゆでどこまでふざけられるのか……というかわすゆ時代の話は書くのか……!
それではまた次回
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