ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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なんか美森IFで感想がヤベーイ! くらい来た上にランキングにまた載るとか言うもう何か色々と凄い事になって草ァ!!

そんな状況ではありますが、実はもう一個天啓があったのサ! 具体的には前回の美森IFが投稿される数時間前には書き終わっていたのサ!!

美森とのIFが考えられないならまだ綺麗だったころの須美でIFを作ればいいじゃないかって思って、ついつい書いちゃったのサ!!

あんだけ好評だった美森IFの後に須美IFとかお兄さん、ちょっと色々と怖いゾ。おいそこ、おじさんだろォ!? とか言ったやつ。就活生ビームぶちこんじゃるわ。

まぁそんな茶番は置いておいて、前回前書き後書きでわっしーと書いて美森と須美をごっちゃにする事無かったという変なこだわりを見せて書き上げた今回の話。まぁ安定の一万文字。

これはもう本格的に五千文字で一話書く事とか不可能になってきたな?


須美IF:須美の呪い

 鷲尾須美にとって、気になる男の子は居ないの? という質問はあまり意味を成さない物だった。

 そもそも生真面目な性格が災いし、同性にも、異性にもあまり親しい同年代が居なかった彼女にとって、恋する相手、恋されてる相手というのは自分の知覚する限り存在しなかった。

 だが、一人だけ。一人だけ、違う意味で気になる男の子というのはいた。

 桂と呼ばれる少年は、自分と同じく勇者というお役目に就いた、歴代で唯一の男の勇者だった。歴代で唯一。その称号が少しばかりカッコよく見えて、どこか変に気になってしまった、というのが気になる男の子の内役だった。

 だが、それだけ。

 勇者と言うには少しばかり子供っぽくて、外で遊んで小学六年生にもなるのに仮面ライダーやウルトラマンと言った子供向けのテレビ番組が大好きで。とてもじゃないが勇者には見えなかった。それが、彼を深く知る前の須美の認識だった。

 そんな認識も、時が経って彼と共に戦ううちに変わっていった。歴代唯一の称号なんてかなぐり捨てるかのように自分達を守り抜き、そして攻撃を全て自分達に任せ。影の功績人となり自分は裏で攻撃しかしなかった自分達を持ち上げる。

 まるでヒーローみたいだ。それが、早いうちに須美が彼に抱いた感情だった。

 その気持ちも、三戦目。園子と銀、そして桂と真の意味で仲間となったあの日に少しばかり変化した。

 泣いて泣いて、泣きじゃくって。自分の能力を過信し、仲間を十全に信用せずに戦ってしまったせいで三人に無駄な苦労をかけて、自分は特に戦果も挙げる事ができず。情けなくて、申し訳なくて、ただただ泣いた。

 

「いいんだよ、その程度の迷惑、迷惑にもならないから。だからあんまり泣くなって。折角の美人さんが台無しだぞ?」

 

 だけど、その涙を彼は優しく笑いながら拭ってくれた。

 彼には一番迷惑をかけたのに。自分のせいでバーテックスの攻撃をあんなにも真正面から防ぐことになったのに。

 怖くないわけがない。あんな、一発でも当たれば即死するような攻撃を真正面から防ぐことがどれだけの恐怖を生むか、分からないわけがない。

 そんな恐怖に一番浸ったであろう彼が、この中で一番須美の事を慰めた。

 彼の中に居るヒーロー達が、彼の理想となったヒーロー達がその恐怖を消し、守る事を当たり前として。そして、目の前の女の子の涙を止めるためにらしくない言葉まで取らせた。

 本当に、らしくない。だから思わず笑ってしまい、されど心には熱い何かが静かに灯ったのを須美は未だに自覚できなかった。

 

 

****

 

 

 それからも須美は何度も桂や園子、銀と交流を深めた。共に休暇の日に遊びに行ったり、ふざけあってツッコミしあって。そんな風に毎日笑って、時々真面目な顔をして。そんな毎日を一緒に過ごしていたある日、あの運命の日が訪れた。

 三体ものバーテックスが襲来したあの日。四人で立ち向かったものの、園子と須美は相手の攻撃をモロにくらい、たった一発。たった一発で再起不能となってしまった。

 全身から血を流し、もう意識も朦朧としている中、吹き飛ぶ自分の体を空中で受け止めたのは、桂だった。自分と同じく、攻撃をモロにくらい全身が動かない程に痛むはずの彼が、必死な顔をして自分を受け止めてくれた。

 だが、彼も限界だった。自分達を敵の来ない場所に降ろした後、彼は一人戦地へ向かう銀の後ろをついていけなかった。

 そんな自分を彼は責め続けた。

 こんな自分はヒーローじゃない。ここで燻ってしまっては心の中のヒーロー達に示しがつかない。

 そう叫び、吠え、そして彼は立ち上がった。

 

「満開ッ!!」

 

 満開。

 自分達には実装されていない新たなシステム、新たな切り札を彼は切った。

 その瞬間、彼はガクアジサイとタイムの花にその全身を包まれ、そして光と共に変身した。

 その様子を須美は見ていた。もう消えかけている意識の中、それでも何とか銀を助けないと。それだけを想い、何とか意識を保っていた。

 だが、彼が満開したその瞬間、その光に当てられた須美はどこか安心してしまった。

 彼が居るのなら。彼が戦ってくれるのなら、銀は確実に助かる。そんな確信を元に、安心した。安心しないわけがなかった。

 だって彼は自分が密かに『――』する男の子なのだから。

 その気持ちは須美自身も気づかない内に徐々に大きくなっていき。友のため、ヒーローとして、男として死地へと向かう彼を想い、彼女は意識を手放した。

 次に目を覚ました時、桂と銀は無事に、とは言えないがあの三体のバーテックスを倒し、世界を守っていた。銀の片腕と、桂の記憶を代償として。

 

 

****

 

 

 安芸先生の口から満開という新たな機能を告げられたあの日、須美は一人察していた。

 このシステムが、桂の記憶を奪ったのだと。

 エネルギーを溜めるだけで無償で強力な力を行使できる? そんなわけがない。強力無比な力には代償が伴う。等価交換というこの世界の摂理とも言える物が働くからだ。

 だから、須美は一人恐怖していた。

 また戦う事になって、満開を使わなければならない時が来たら。それは、桂や園子、銀との思い出を失う事になるのではないか。

 鷲尾須美という少女が紡いだ記憶は消えてなくなり、東郷美森として生きたあの日までの記憶だけが残ってしまうのではないか。

 鷲尾須美が想うこの心は、水泡の如く消えてしまうのではないか。

 そんな恐怖と、須美は一人戦った。戦って、戦って。

 彼女はこのシステムを自分に授けた安芸先生に真相を問う事とした。このまま記憶を失う事を分かって戦ったら、満開は一生使う事ができないから。だから、安芸先生にその確信を消してほしかった。

 園子にも内緒で一人安芸先生に聞いたその言葉は。

 

「……気づいてしまったのね。そうよ、満開には代償がある。それは体の部位や記憶といった何かが一つ、消えてしまうという代償です」

 

 呆気なく肯定された。

 だが、同時に安心もした。

 記憶が、想いが無くならなければ須美は鷲尾須美のままで居られる。鷲尾須美として戦い続ける事ができる。桂を『――』する事ができる。

 だから彼女は最終決戦前にて、園子に代償を告げた後に、共に満開をした。代償を承知の上で、満開した。

 その結果、最初の満開で須美は足を。園子は片目を散華した。

 記憶と想いが無くならなかったら大丈夫。そんな淡い気持ちは、その瞬間に砕け散った。

 

「もう、みんなと遊びに行けない……もう、桂といっしょにイネスに行く事もできないんだ……もう、いっしょに帰ることも、歩くことも……」

 

 足が動かない。これから一生、何十年もの間、ずっと足が動かない。

 園子と一緒に買い物に行ったり、銀と一緒に買い物したり、桂と一緒に馬鹿をやる事がもうできなくなってしまう。

 背伸びして桂と一緒に並ぶことも、もうできない。

 それが後悔を生んだ。もう戦いたくないという心を生んだ。こんな思いをしてまで戦うのなら、もう二度とこの銃を取りたくない。そんな精神的な迷いが発生し。

 彼女の勇者システムは強制的に解除された。

 

「わっしー!?」

 

 その様子にもう一度満開をした園子が声を上げた。

 だが、もう須美は戦えない。涙を流し泣きじゃくって、これからの未来を潰された後悔と、これからの未来への恐怖と、みんなと一緒に歩けない事実に、彼女の心は耐えられなかった。

 そんな須美にバーテックスの攻撃が迫った。全方位からの火球。それは生身の須美を焼き尽くそうと迫り、けれど須美は足が動かないため逃げる事ができない。

 こんな最後になってしまうなんて。そんな後悔が新たに生まれ、須美は無意識の内に顔を庇い、そのまま業火に焼かれ――

 

「満開!!」

 

 ――ることは無かった。

 その直前に割り込んだ第三者が、全ての火球を防いで見せた。

 

「かつ、ら……?」

 

 それは、記憶を焼却され続けている桂だった。この恐怖を一番分かっているはずの、桂だった。

 彼がどこかへ放り投げた携帯を拾ってきてまた満開をして、勇者として底上げされたスペックを存分に発揮して須美を業火の中で守り切って見せたのだ。

 でも、そんな事をしたらまたどこかの機能が不全になってしまう。

 

「構うかよ、その程度の代償」

 

 そう告げても、彼は恐怖しなかった。

 

「俺が戦って須美を守れるんなら、体のどこでもくれてやる。手だろうと、足だろうと、内臓だろうと、目だろうと、耳だろうと。須美が傷ついて泣くくらいなら、俺がその全てを背負ってやる」

 

 そしてまた、彼は須美の涙をその指で拭った。

 

「須美が戦えないんなら、俺が須美の分まで戦うよ。戦いは男の仕事、だしな。だから、あんま泣くなって。折角の美人さんが台無しだぞ?」

 

 そうやって笑う彼は、今まで以上にカッコよく見えた。

 もう、無理だった。自分の中でずっと灯されていた熱い物から目を逸らすのは。その熱い物を自覚しない事は。

 彼のカッコいいところを見続け、桂という少年の強さを見続け、彼を想い続けた須美の心は、もうどうしようもなく大きく熱くなり、目を背ける事はできなかった。

 戦えない須美の代わりに立ち上がる彼に、須美はもう一度だけ自分と目線を合わせてほしいとだけ告げた。

 きっとこの記憶も桂の中からは消えてしまう。だけど、自分の記憶に留めておきたかった。自分の心に刻み込みたかった。

 

「ねぇ、桂」

「ん、なん――」

 

 鷲尾須美という少女は、桂という少年に『恋』をしたという事を。

 その印に、彼女は桂と数秒だけ、その唇を重ねた。その後方で親友が一人ふぁっ!!? と叫んでたりしたが、そんな事は眼中から消し去って。

 唇を離した時に見えたのは、今までのカッコいい彼ではなく、動揺して呆けているちょっとだけ可愛い彼だった。そんな彼に、須美は呪いを刻み込んだ。

 

「絶対に、帰ってきて。絶対に、私の心に返事をしてくれるって……そう、誓って」

 

 ヒーローを目指す彼にとって、決して破る事のできない呪いを。

 きっと記憶を失ってもずっと心で覚え続ける呪いを。

 鷲尾須美を永遠に心に刻み続ける呪いを。

 

「……あぁ、約束する。全部終わったら、返事するよ」

 

 きっと、それが無理だと分かっていても、桂はそれを約束した。その呪いを受け入れて、心に刻んだ。

 例え頭で忘れていても心では覚え続ける。そんな呪いを彼は甘んじて受け入れたのだ。

 そして彼は飛び立つ。最前線で戦う仲間の元へと。

 須美はそれを見ながら、神樹様に祈っていた。せめて桂がこの時の記憶を失う事無く、彼の返事を聞けることを。

 自分の気持ちが実ってくれることを。一人の恋を知った少女として。

 ――だが、この日、桂は消えた。二年の記憶を失い、桂という少年は須美の心に恋心だけを残して消えてしまったのだった。

 

 

****

 

 

 戦いを終えた園子は、両手両足は動くものの内臓と片目を持っていかれ、入院を余儀なくされた。銀は、そんな彼女の代わりとして勇者に再び選ばれた。

 そして、足が動かなくなった彼女は二人のいる場所を聞くことすらできず、そして桂のその後を知ることもできず讃州へと引っ越した。手紙で園子と銀とはやり取りをしているが、場所を教えるのは禁じられており、しかも桂の現在を探ることもできていなかった。

 自分に初恋をさせた彼がどこに居るのか分からないまま、鷲尾須美は東郷美森へとその名を戻した。

 だが、それでも心は鷲尾須美のままだった。あの日、恋を自覚した鷲尾須美のまま、彼女の心は成長をしていた。だから、彼女は東郷美森という名前……いや、美森という名前が自分の物じゃないように思えた。

 だから、須美は新たにできた親友、友奈には東郷と苗字で呼ぶことを強いた。美森と呼ばれると、あの日恋を自覚した須美としての気持ちが消えてしまいそうだったから。

 そうして迎えた讃州中学への入学式。須美は同じクラスに所属する一人の少年を見つけ、目を見開いた。

 藤丸と名乗る少年。彼は名前こそ変わっていたが、しかしその顔は忘れる事もない。桂のままだった。記憶を失い、勇者ではなくなった彼は一人の少年として、小学四年生から六年生までの間の記憶を失ったちょっと珍しい少年としてこの学校に在籍していた。

 彼を見つけたその日、思わず泣いてしまいそうになった。

 友奈には心配されるし、藤丸はよく分からないからか話しかけてこないし。だから思わず須美は面と向かって誰も自分達の会話に注意していないのを確認してからこう言ってしまった。

 

「気づいて約束くらい果たしなさいよ、このハゲ!」

 

 ついでと言わんばかりに放った拳は、彼の腹筋に邪魔されマトモなダメージを与えられなかった。

 だが、彼にとっていきなりクラスメイトからハゲ扱いされた事は結構メンタルに来たようで、しきりに頭を触ってズラがズレていないかを確認していた。

 その様子に須美はすっかり毒気を抜かれ、気が付けば彼に挨拶代わりにハゲ関連で誰にも気づかれない程度に揶揄う事が毎日の楽しみになっていた。

 実らない恋心をそのままに。

 

 

****

 

 

 再び勇者という任に就いたのは、その翌年だった。

 何故か藤丸が勇者部にハゲを告白し、なんでそんな自爆すんのよと須美が笑い転げ、そしてサラッと昔みたいにハゲと呼ぶ口実を手に入れた。

 彼が入部したその日、風からは結構色々と探られたが、さぁ? の一言で全部跳ね返した。ここで実は記憶を失う前の彼に恋してましたなんて言ったらややこしい事になる事間違いなしなので迂闊には言えなかった。

 友奈との距離感を間違えてしまい、レズ扱いされているのもいいカモフラージュだった。流石に彼女の自分も知らないであろうほぼ全てを頭にぶち込むのはやり過ぎたと若干反省したが。

 そうして藤丸が入部してから暫くして、自分達はまたあの樹海へと誘われた。

 当たり前だ。風からインストールするようにと言われたあのアプリは勇者システムであり、藤丸も自分も、二年前に勇者として戦っていたのだから。特に須美は、その資格を完全に手放したわけでもないのだから。

 また大赦かと呆れる側面、彼女は恐怖した。

 また満開によって友達を失う事になるかもしれない事を。あのシステムによって悲劇が生まれてしまう事を。

 それ故に、初戦は変身できなかった。しかし、その次はしっかりと戦った。流石に一度戦っているだけあって一度変身してしまえば後は蹂躙するだけ。強化された勇者システムにはその程度造作もなかった。

 だが、須美は知っている。壁の外には未だにバーテックスはうじゃうじゃ存在していることを。十二体倒しただけじゃどうしようもない事を。

 それを風に告げようとしたが、それを実行に移す直前、大赦からメールが来た。

 もしも真実を告げれば分かっているよな? という簡単な脅しと共に、勇者部の写真と東郷の家の両親、そして鷲尾の家の両親の写真が貼られたメールが。

 そうされてしまっては須美は動けなかった。ただ恐怖しながら毎日を笑い、心の底から楽しめない毎日を送る。何度かコミュ力モンスターに気づかれかけたが、その度に何でもないのようふふで済ませた。

 そして一度バーテックスを全部倒した。みんなが満開し、レオ・スタークラスターを友奈が一人で倒して見せて、そして自分と夏凜を除く全員が散華した。

 藤丸のアレ(頭部完全脱毛)には爆笑させてもらったが、それでも彼が二年ぶりの変身をして切った啖呵を聞いた時は、まだ自分は桂に恋をしているのだと改めて自覚した。

 その後、お役目は終わりだと告げられ端末を回収された勇者部は、世界を救ったんだと浮かれた。だが、須美だけはこの役目は誰かに引き継がれるだけなのだと理解していた。だから、表面上は喜んでも心の奥底では沈んだままだった。

 そして、神樹様は残酷な奇跡を残した。

 

「……なぁ、東郷。お前は、須美なのか?」

「え……?」

 

 ある日、唐突に彼は須美に向かってそんな事を聞いてきた。

 まさか、思い出したのか。そんな淡い思いを胸に抱き。

 

「……いや、違うよな。ごめん、なんかお前を見てると須美って名前が出てくるんだ。あと、なんかこう、大事な事を約束したような、気がして」

 

 彼の満開は、プロトタイプだ。

 だからこそ、彼は不完全に須美の事を思い出していた。あの日の呪いを未だに胸に残したまま、自分に淡い期待だけを残して、藤丸は桂としての記憶を取り戻さなかった。

 あぁ、この世はなんて残酷なのだろう。

 この世はどうしてここまで人間に試練を与えるのだろう。

 神は、どうしてこれほどにまで無常で人を理解しようとしないのだろう。

 ――もう、須美の心は限界だった。

 もう二年も彼を想い続けた。彼に刻んだ呪いは今もその効果を発揮している。けれど、彼は決してあの日の事を思い出すことは無い。彼は自分の刻んだ呪いのせいで変に自分に対して余所余所しくなり、そしてついぞ自分との約束を思い出すことは無いだろう。

 そんな現実に、たった齢十四歳の少女が耐えられる訳もなかった。

 彼女の胸の内の熱い物の裏側に、黒い物が生まれた。

 こんな世界。こんな残酷な世界、本当に必要なのか。自分に淡い希望だけを見せて絶望を叩きつけ、そして破滅から延命しているだけのこの世界。何度命を燃やせば誰も勇者なんていう生贄をやらずに済むのだろうか。

 そんな黒い気持ちを抱いたまま、延長戦だなんて題して勇者システムはもう一度自分たちの手に収まった。

 彼女の手に、力が戻ってきた。

 神に匹敵する超常の力。それを須美はもう一度手にしたのだ。

 だから、彼女はそっとこの世界を終わりに導くことにした。

 こんな残酷な世界。誰かを傷つける事でしか延命できない世界なんて、もういらない。

 桂を消してしまったこんな世界、もう終わらせた方がいいから。

 二年前、桂に刻み込んだ呪いは、いつの間にか須美自身を戒める呪いとなっていることに、彼女は気が付けなかった。

 須美は風と友奈に勇者としての真実を告げた。そして、自分の真実も告げた。精霊バリアは例え何があろうと自分達を守り殺すことは無い。満開の後遺症は治る事はない。自分はかつて鷲尾須美と名乗っていた先代勇者の一人であり、その際に散華した足はこうして治っていない。

 普通なら信じられないだろう。だが、友奈が園子と銀に呼び出され、真実を聞いていたのが追い風となり、風は須美の想像通り絶望した。

 シスコンな風の事だ。どうせ暴走する。

 そんな予想は見事的中。風が暴走したのを知ってから須美はゆっくりと壁の側へ行き、そして壁を破壊しようとして――

 

「須美!! 馬鹿な事はやめろ!!」

 

 大急ぎで飛んできた藤丸がそれを阻止しようとしてきた。

 知っていた。彼がこんな馬鹿な事を止めようとしてくることくらい。彼はヒーローだから、こんな悪の権化みたいな事をしようとする自分を止めようとするくらい。

 分かっていたのに。

 どうして、どうして彼はその名で自分の事を呼ぶのか。

 どうして全てを思い出してもいないのに、呪いの解呪方法も分かっていないのにそんな事を言ってくるのか。どうして、悪である自分の名を、そんな悲しそうに呼ぶのか。

 

「須美、一度冷静になろう。こんな事したって誰も幸せにならない」

「分かってるわ」

「なら」

「だからこそよ」

 

 こんな残酷な事実を、どうしてこんな時に突き付けるのか。

 

「えぇ、そうよ。私は鷲尾須美。私の心はあの日からずっと鷲尾須美のまま。東郷美森って名前も、本当は受け入れられていない」

「す、須美……?」

「だからこそ!! こんな残酷な世界、もう終わらせたいのよ!! 私から親友と、初恋の人を奪っておいてのうのうと存続しているこの世界が気に食わない!! ほんの少しだけ光を見せておきながらその光を奪ってみせるこの世界が嫌い!! 勇者なんて生贄を使って生きながらえているこんな世界、滅びてしまえばいい!! 私はもう二年も我慢したのよ!! 二年もずっと我慢して、我慢して……ずっとあなたに恋焦がれて、それでもずっと我慢して!! どうして私がこんな目に合わなきゃならないの!! どうしてそのっちがあんなミイラ状態にならないといけないの!! どうして銀が片手をなくさなきゃならないの!! どうして……どうして私の初恋の人は思い出を奪われなきゃいけないのよ!!」

 

 もし、彼女も記憶を失っていたのなら、こんな事は起こらなかっただろう。

 鷲尾須美としての感情は消え、東郷美森としてこの場で対峙していた事だろう。

 だが、今ここに立っているのは東郷美森ではない。鷲尾須美だ。桂という少年に恋したまま時間が止まった少女だ。

 そんな彼女の慟哭は、彼女の我慢が決壊した証だった。

 大人たちにいいように扱われ、初恋すら叶う事を許されなかった少女の慟哭だった。

 その言葉に思わず気圧された藤丸は、それ以上動けない。直後、須美は俯きながらも銃口を壁へと向け、そのまま引き金を引いた。

 それだけで壁は崩壊し、外からバーテックスが雪崩れ込んでくる。

 

「……もう、疲れたのよ。私は世界がある限り、この苦痛に苛まれて生きていく。友奈ちゃん達も、あなたも、これからずっと満開を繰り返して戦っていく。恨んでくれていい。殴ってくれてもいい。だから、もう……休ませてよ……」

 

 それは、この二年間我慢し続け、そして絶望を受け続けた少女の心だ。

 どうして大人たちの勝手でこんなに苦しまないといけないのか。どうしてこんなにも悲しい思いを繰り返すのか。

 こんな苦しみを一生味わうのなら。この苦しみを誰かに押し付けてしまうのなら。こんな世界、もう滅んでしまえばいい。彼女の愛情は、彼女にそんな選択をさせてしまう程に燻り続けた。

 彼女を勇者という生贄として利用しようとした大人たちの起こした、彼女の心というイレギュラーが起こした事態だった。

 

「……須美。お前は、ずっと戦ってたんだな」

 

 銃を下ろし、その場で蹲る須美の元に、藤丸は歩を進めた。

 そして、そのまま蹲る彼女をそっと抱きしめた。

 

「ごめんな。きっと、二年前の俺はお前と何か約束したんだろうな。いや、きっとしたんだ。お前の言葉を聞いてりゃ分かるよ」

 

 彼もまた、自分にかけられた呪いをようやく自覚する。

 記憶が無くても心で覚え続けていたあの日の呪いを。あの日、何があっても応えようと誓った約束を。

 頭で覚えてなくても、胸で覚えている。だから。

 

「須美。俺も、お前が好きだ。全部は思い出せてないけど……それでも、俺の中の桂としての心が、取り戻した桂としての記憶がそう叫んでいる。だからさ」

 

 彼はそっと彼女の瞳から流れる涙を、あの日と同じように拭った。

 優しく、慰めるために。そっと。

 

「あんまり泣くなって。折角の美人さんが台無しだぞ?」

 

 あの日、泣きじゃくる須美へと向かって投げかけた言葉を今、もう一度投げかけた。

 その言葉を聞いた瞬間、須美は無意識の内に藤丸を抱きしめていた。彼に飛びつき、受け止めてくれるかくれないか、そんな事すら頭から弾いて、ただただ無意識の内に彼を抱きしめていた。

 

「桂……かつらぁ……!」

「半分以上思い出せてんだ。きっと全部思い出せるさ。だから、あんまり悲観すんな。まだこの世界には楽しい事も綺麗な事もいっぱいあるんだ。二年間、苦しみ続けた代わりにこれからずっと、楽しみ続けよう。これからは俺が、ずっとお前の側に居るからさ」

「うん……うん……!!」

 

 あの日の呪いは、この瞬間に解呪された。

 いつの間にか呪いは須美を苛むものへと変貌していたが……しかし、それでも彼はそれを解いた。あの日から時が止まっていた少女の心が、やっと動き出したのだ。

 世界が樹海へと変わる中、二人は呪いが解かれた印としてそっと唇を重ねる。あの日のような、たった数秒の短いキス。それでも今の二人にとってはそれだけで十分だった。それだけで、二年間大きくなるだけだった愛は、満たされた。

 世界が樹海へと切り替わる。その瞬間、銃声が何十発と連続で轟き、その全てが神樹様へと向かっていた星屑とバーテックスの間を一瞬で跳弾していき、それらを何百体も撃ち抜いていく。

 

「気が変わったわ、バーテックス。お呼びしておいてなんだけど、この世界を守る理由ができたのよ。だから、もう帰ってもらうわ!」

「悪いが今の俺達は最初からクライマックスだ。心火を燃やした俺達の愛をそう簡単に止められると思うなよ!」

「……で、それは何のネタ? 仮面ライダーだったかしら?」

「正解だよ。やっぱ須美には分かっちまうか」

「あなたのためにちょっとは勉強したもの。好きな人と会話を合わせたいって思うのは間違いかしら?」

「いや、んなこたねぇさ。俺も小六の時に日本史をめっちゃ勉強したしな」

「……え?」

「お前は難聴系主人公か。ったく、最後まで言わせんなよ、恥ずかしい」

 

 桂の言葉にそれもそうね、と須美が笑い、二人は再び己の武器を構える。

 かつての最終決戦のような……いや、恐らくそれ以上の戦力差。それでも、二人は負ける気がしなかった。

 何故なら遠方には既にバーテックスと戦っている仲間たちの姿があり、二人の手には武器がある。一発の銃弾で十体以上の敵を屠るコンビネーションを可能とする青の弾丸とそれを受け止める鏡が。

 二年越しの愛を実らせた二人に敵はいない。例え満開が無くても、二人はこの程度の敵、確実に倒す事だろう。

 手を繋いで笑いあう明日を確信し、二人は武器を構え、吠える。

 

『人の恋路を邪魔する奴は、勇者に撃たれて死んじまえ!!』

 

 二人の恋路は、まだ始まったばかりだ。




と、いう事で。今回はもしも須美が恋をして、そのまま記憶を失う事無く二年の時が経過したら、というIFでした。なので彼女の表記は一貫して須美のままとなっております。なおこのIFルートでは桂くん、須美ちゃんに惚れていたり。分岐条件は強いて言うなら、本編ではそっと外野に回っていたあの場面で須美を慰める……でしょうか。

さて、須美は原作通りの暴走を見せましたが、それも全部自分が疲れてしまったため。そして桂を消したこの世界への恨みが藤丸が穴食い状態で記憶を思い出してしまうという残酷な現実から来たものでした。しかしそれも恋を実らせたことにより手のひらクルー……みたいな感じです。

一応東郷さんの如くゆーゆに対して若干距離感間違った事をやらかしてはいますけどその心は桂くんの物。そのっちやミノさんみたいな甘い感じではありませんが、まぁこんな感じの恋物語もいいよねって。

この翌日から甘々な光景を勇者部内で披露してお仕置きされまくる須美ちゃんと桂くんが居たとか居なかったとか。多分ゆーゆは笑顔で喜ぶけど他三名の信号機が思いっきり攻撃すると思う。

さーて、次回からは本当にわっしーはクソレズ化してハゲもただの芸人に戻りますぞ。
なお美森としてハゲにデレるのを書いたら違和感凄かったけど須美として書いたらあんまり違和感なかった模様。やはりこの二人は別人だな?
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