まぁ簡単に言えば迷走しまくった後に作り上げた話です。園子、銀、美森、須美の誰とも違うテイストにするのに少し苦労していたり。
P.S RGエクシアをやすりまでかけて丁寧に組んだら右足だけで二時間半かかりましたわ。やっぱガンプラは時間かかりますねぇ……
「好きだ、付き合ってくれ!」
樹がそんな言葉を受けたのは今までの長いようで短い人生の内、初めてだった。
相手はいつも小馬鹿にしている……わけではないが、どこか気の置ける感じで触れ合っている先輩の一人。まぁ樹に異性の知り合いなんて藤丸しかいないわけだが。
彼の呼び出しに付き合ってホイホイと校舎裏へと行ってみればまさかの告白だ。まさか勇者部の中で姉の次に告白を受けるのが自分とは思っていなかった樹は文字通り開いた口が閉じず、ビックリとしていた。
は? と何ともまぁ告白の場にしては場違いな言葉が出てきてしまい、そのまま開いた口を閉じた頃には彼からの告白を受けてからたっぷり十秒は経過していた。
「……いや、ちょっと無理です」
フリーズしかけた脳をなんとか再起動させて口にした言葉は断りの言葉。
彼女自身、彼に対して異性としてのあれこれを感じていたわけではない。言ってしまえば仲のいい先輩後輩関係で居た、とでも言った方がいいか。
確かに先輩としては良い人だが、彼氏として見ろと言われれば微妙だ。樹自身、彼がカッコよく啖呵を切る所は何度か見てきたが、しかしそれでも普段の行いがアレすぎる。
というかやっぱハゲはちょっと……。そんな心情の元、彼女は藤丸が一世一代とまで言えるかもしれない告白を無為にした。
情で告白を受ける人間がそう何人もいたらこの世界はアベックばっかりになっている。
「……そ、そうだよな。ごめん、急にこんな事言って。迷惑だったよな」
「いえ、別に迷惑とかじゃないんですけど……」
そう、別に告白を聞くのは迷惑とかではない。特段自分が告白を迷惑と思う程され続けてきた訳ではないので迷惑という程ではない。
しかし部室に戻って今まで通りの距離感で……という風にはいかないだろう。いや、行くはずがない。何せ告白してきた人間とそれをフッた人間。それが今までの距離感であれこれをできるわけがない。
そんな言葉を含ませて言葉を口にしたら、彼は少しばかり痛々しい笑顔を浮かべながら大丈夫だと断言した。
「樹ちゃん後輩は何も心配すんな。俺からは気取られないようにはするから。最大限迷惑はかけないようにするからさ」
笑顔で告げる彼だったが、やはりその表情はどこか無理をしているようだった。
樹の中の良心が少しばかり悲鳴を上げたが、これは回避できなかった事態だ。彼自身もそれを承知の上でこうして行動に移したのだろうから、それについて樹が心を痛めるのは違う。そう自分に言い聞かせて良心の痛みをひた隠す。
「そ、それじゃあ俺は先に部室に戻ってるからさ。樹ちゃん後輩も早めに戻って来いよ」
彼はそう言うと、早足で樹の横を通りすぎてそのまま部室へと戻っていった。
暫く樹はどうした物かと頭を捻ったが、このままここで考えていても無駄だろうと思い、ここへ来る時とは正反対のかなり重い足取りで部室へと戻っていった。
藤丸が部室に戻ってきたのは、樹が部室に戻ってから約一時間後。目を赤く腫らした状態でだった。
勇者部員達から殺到する心配の声に心配いらないの一言で全て終わらせる藤丸を樹は尻目で見ながらも、タロット占いをしていた。
出たカードは恋人の正位置。果たしてこのタロットは誰を占った物なのか。樹はそれを忘れ、そっとタロットを纏めてケースにしまった。
****
光陰矢の如しとは上手く言ったものだと樹は思う。
気が付けば散華が全て戻り、藤丸からの告白を受けてから数か月。園子と銀の二人が転入と同時に勇者部に加入。毎日毎日わいわいガヤガヤ。飽きる事無く色々とやったしやらかした。
毎日が楽しいからか月日が経つのは相当な物。欠伸と共に授業を終えれば放課後はあっという間だ。
そのあっという間の放課後。藤丸に告白をされてからだが、ちょっとばかり彼からの様々な対応が変わった。
と、言うのも、樹の分だけ明らかに気合の入ったお菓子やスイーツを作ってきたり、量を少し多めにしたり。そして一緒に活動する際はかなり過保護っぽくなったり。簡単に言えばちょっとアピールが増えた。別に迷惑と言うほどではないのだが、果たして彼は恋心を隠す気はあるのか。というか玉砕した恋心をそのままにしておく気しかないのか。
明らかに風や美森、銀といった勘のいい人間は気づきかけてる……というかかなり露骨なソレから、藤丸が樹に気があるという事に気が付いているし、友奈や夏凜でも最近疑問を覚えている。
特に園子なんてもう完全に気づいている。
「ああなったズラっちは結構しつこいと思うよ~?」
なんて言って。
なら止めさせてくださいとは言っても、迷惑ですとまでは言わなかった辺り、樹もそんな姫プレイにも似た境遇に少しばかり気を浮かしているのか。
そんな事を思い出しながら樹は珍しく帰り道を藤丸と一緒にしていた。
夕方の讃州を二人は並んで歩く。友奈のタタリの事を知り一日。風、夏凜、園子、銀が大赦へと情報収集に向かい、美森はタタリをおっ被っている友奈の身に何か起きないように監視と言う名のストーキング。
そしてそのどれもが得意ではない樹は万が一の時のために盾となる藤丸に送迎をしてもらっていた。
告白してきた人間と、告白された人間で、だ。
気まずいなんてもんじゃない。
「なぁ、樹ちゃん後輩や」
「なんです?」
あぁ何を話したらいいんだろう。勇者部に入った初期の頃はよく考えていたソレを改めて頭の中で考え始めたころ、藤丸の方から声を掛けられた。
助かったと思う反面、一体何を話してくるのか。それが少しばかり心配だった。
「その……今までごめんな」
「え?」
そして彼から切り出されたのは、謝罪の言葉。
正直どうして謝られるのか分からなかった樹は間抜けな声を返してしまう。
「迷惑かけないようになんて言っときながらさ、明らかに諦めきれてない感じの事ばっかしてて……フラれたってのに、女々しいよな、ホント。だから、その……ごめん」
確かにそれはそうだが、逆にフッたフラれたの関係なんて樹からしたらそんな物に落ち着く物だと思っていたため、この謝罪は意外だった。
そもそも相手の一言でキッパリ諦められる感情ならそれの一喜一憂で泣いたり笑ったりなんてできるわけがない。そんな事を勝手に思っていたからか今までのあれやこれを受け入れていたが、どうやらそれは彼にとって女々しい行動のソレだったらしい。
まだ恋心なんて抱いたことのない彼女はそんな風に他人事みたいに彼の言葉を受け止めて、すぐに言葉を返した。
「いえ、別に迷惑とか女々しいとか、そんなの思ってませんよ。一言で諦めきれない感情だから恋煩いなんて言葉も生まれるんでしょうし。別に気にしてません」
「……そ、っか。でも、やっぱ女々しいだろうしさ、これからは控えるよ。ほんと、ごめん」
「だから気にしてないって何度言えば……」
こういう所が彼の面倒な所で、同時にいい所なのだろうか。自分の非を認めてしっかりと謝る。そんな当たり前のことができない人間と言うのはやはり存在するわけで。
樹がそんな事をボーっと考えていると、横断歩道の前で彼は俯いた状態で立ち止まっていた。信号は青なのに渡らないという事は、それだけに自分を責めているという事なのか。
もしこうやってまた良心を苛むイベントをタタリが用意したと言うのなら、なるほど。確かに厄介の一言では済まないいやらしい呪いな事で。彼ももう少しタイミングを考えて打ち明ければよかったのに、なんて思う。
「もう、わたしが気にしていないのに藤丸先輩が気にしてどうするんですか? それこそ女々しいんですから止めた方がいいですよ?」
「……そう、か?」
「はい。別にわたしは迷惑なんてしてませんし、一人だけ豪華なお菓子を食べれる事も役得って思ってるわけですし。別にわたしは何一つ迷惑だなんて思ってないですから。愛が重いとは思ってますけどね」
「愛が重い……は、はは。確かにな。ちょっと俺の愛、重かったよな」
「まぁ愛されて嫌だと思う人なんて居ないので別に愛するだけなら勝手に愛してください。それに応えるか否かはわたしの勝手ですけど、想われるだけなら嫌な気もしませんから」
まぁ言ってる事が滅茶苦茶だ。
それに話しているのも自分は横断歩道の上。青信号とは言えとっとと退かないと色々と迷惑だろう。彼が歩き始めたのを見て樹は前を向いた。
その途中、こちらへ向かって走ってくる車が見えた。結構速度が出ているが、赤信号だ。気にする事も無いだろうとすぐに意識から省いて前へ向かって歩き始め――
「樹ッ!!」
直後、藤丸の声が聞こえた。
え? と声をあげて振り返れば、その最中に先ほど思考から省いた車がこちらへ一切のブレーキを掛ける事無く突っ込んでくるのが見えた。
そして一瞬にしてスローモーションとなった視界で見えたのは、運転手が居眠りを決めこんでいる運転席。同時に頭の中に浮かんだのはタタリの事。
人が一生のうちに交通事故にあう確率は35.8%。それが今来たのだと思えば不思議ではないが、明らかにタイミングが悪すぎる。これがタタリによって呼び寄せられた不幸なのだと、どうしてか冷静な頭で判断していれば、車はもう五秒もしない内に樹の体を跳ねるであろう場所にまで来ていた。
痛いの嫌だなぁ。でも精霊バリアが何とかしてくれるかなぁ。そんな事を思いながら感じた衝撃は、車による物ではなかった。
視界が見慣れた先輩のドアップで塞がれた。直後、その先輩越しに強烈な衝撃を感じ、樹と、彼女を包み込んだ先輩が吹き飛ばされ地面を転がった。
樹にはほとんど痛みはなく、強いて言うなら地面に叩きつけられた時の衝撃が息苦しかったのと、先輩が彼女を抱きしめる力が強すぎたがための痛みだった。
「いっつつ……だ、大丈夫か、樹ちゃん後輩?」
そして、件の先輩……藤丸は跳ねられた勢いが消えた頃にようやく樹を離した。
どうやら抱きしめて自分の体に車が当たるように動いたらしく、彼は相当苦しそうな表情を浮かべていた。そして、精霊バリアがあるはずなのに彼の額からは血が流れ、腕も樹を守りながら転がったためかかなり擦りむいてしまっている。
しかし、相当なスピードが出ていたはずの車に樹と言う重りを抱え込んで撥ねられたのにも関わらずこの程度で済んでいるのは彼が元から持ち得ている耐久力の高さが功を奏したか。
いや、そうじゃない。
「ち、血が……!? な、なんで……!?」
そう、血が流れている事だ。
精霊バリアが彼にはあるはずだ。それも彼の精霊バリアはリチャージ式であり、車に撥ねられる程度なら無傷でやり過ごして満開を温存できるはず。
だと言うのに彼は傷を負った。それが樹が驚愕に至った原因だった。
急いで彼の額にハンカチを当てようとするが、汚れるからと彼はそれを拒否しながら袖で額を抑え立ち上がった。
「どうもタタリとやらは精霊バリアの効果を減少させちまってるっぽいな……なんとか庇うのが間に合ってよかったよ」
彼は笑顔でそう言うが、樹の内心はそれどころじゃない。
「藤丸先輩、わたしの家に来てください! 治療しますから!」
「いや、大丈夫だよ……この程度、唾でも付けときゃ……」
「いいから来てください!! じゃないと許しません!!」
「わ、わかったよ……」
自分を庇ったせいで彼が怪我をしたのだ。
車は自分達を轢き逃げしていったが、今はそれどころじゃない。やはり傷が響いているのかフラフラしている藤丸の額に無理矢理ハンカチを当てて止血をしながら肩を貸して無理矢理彼を犬吠埼家に引き上げた。
そして家の中にある救急箱から治療に必要な物を取り出して彼を座らせてから樹自身が治療を始めた。
「突き飛ばす、とかそれ以外にもやり方はあったかもしれないのに、どうしてこんな自分を犠牲にする真似をしたんですか……」
額の治療は終えて、今は彼の手足の擦りむいた痕の治療をしている。
予想以上に深く擦りむいていたため念には念をと慎重に治療をしながら樹は彼に対してボヤいていた。
そう、ああやって自分を抱え込むことができるのなら、もっと簡単に自分を突き飛ばして自分は後ろに下がるとか、自分を下敷きにしてでも一緒に横に向かって飛ぶとか、もっと賢いやり方はあった筈だ。
咄嗟の事だった上に庇ってもらった恩義があるのでこれ以上の事を言えないのは確かだ。だが、それでももっと賢い選択を、と彼の傷を見ていると言わざるを得なかった。
彼は消毒が染みるのか時々小さく声を上げながらも樹の質問に解を出した。
「いや、なんかこう、さ。咄嗟に守らないとって思って」
やっぱりこの人馬鹿だ。
樹は自分の顔が少し赤くなるのを自覚しながらそんな事を思い。
「それに」
その言葉に治療のために伏せていた顔を上げ。
「惚れた女一人守れずに何が男だ。本当に、無事でよかった。樹が無事なら、俺はそれだけで十分だよ」
彼の笑顔を交えた安堵の表情に樹は顔が更に赤くなるのを自覚し、照れ隠しに思わず彼の手を思いっきり叩いてしまった。
あぁ、これじゃあ。
こんな風にして真っ赤な顔を隠しているのなら。
――この一件で惚れちゃったって思われちゃうかも――
樹はその日、マトモに藤丸の顔を見る事ができなかった。
****
最終決戦は案外早くやってきた。
翌日、友奈の神婚やら何やらで揉め、彼女が逃げ、そしてそれを追って。襲来してきた天の神との戦いは藤丸に庇われて顔真っ赤にした翌日とは思えない程唐突で。
しかし、戦わなくてはならない。
戦う理由はこの手に、不屈の勇気はこの胸に、生きる誓いはこの心に。決して負けない覚悟の元纏った勇者の力は神の力により蹴散らされた。
代償を伴う程の強力な力はあっけなく散らされ、切り札たちは全てを封殺され、身を守るバリアはなくなり。全滅まであと数秒という所で彼は自分達の頭上を高速で飛び回っていた。
決して誰も死なさない。決してその攻撃を一つ足りとも通さない。その心を体現するかのように飛び回る彼と鏡は全ての攻撃を防いでいる。例え力負けしても技術だけでそれらを完全に防いで見せている。
そうして彼が時間を稼いでいる間に勇者達は撤退をしていた。一度体勢を整える。整えた所でどうなるかは分からないが、しかし一秒でも長く生き残り逆転の機会を逃さないために彼に殿を頼んで勇者達はどこか物陰を探しひたすらに走っていた。
神の追撃の悉くは限界を超えた彼によって防がれる。それを煩わしく思わないわけがない。
どこだ。
弱点は一体どこだ。
神は探す。今日この日まで見てきた勇者達の行動から彼の弱点を割り出す。
それは呆気なく見つかる。いや、この戦いを通してもすぐに分かった。
彼はその防御をできるだけ樹の方に割き、自分の方は二の次三の次に。樹、他の勇者、自分の順に優先順位を決めて戦っていることが分かった。
ならば、彼の心を折る事は簡単だ。
樹を殺してしまえばいい。
直後、勇者達に分散していた攻撃の全てが樹へと殺到した。
「一人ずつ殺りに来た!!?」
「みんな、イっつんを守れる用意をしておいて!!」
いつ攻撃を抜かれるか分からない。故に園子は樹を守れるように陣取るように言うが、攻撃の一切は飛んでこない。
「その程度で!! 殺れると思ってんじゃねぇぞッ!!」
槍を片手に持った藤丸が空中を飛び回り、槍と空中に浮遊させている鏡を巧みに使い、攻撃に攻撃をぶつけ相殺し、更には自分の体を守る精霊バリアすら受け流しに利用し空中で何度も回転し、吹き飛び、攻撃を防ぎながら樹を守り続けていた。
明らかに限界を超えた動きをしている。特に園子と銀はそれを嫌にも理解できた。
そしてそれをさせたのが、樹への愛の一つなのだと。ただ惚れた女を守り通す。傷一つなく守り抜く。
制御不能なまでに燃え盛る彼の愛がただただ昨日までの自分すら置き去りにして進化し続けている。一秒前よりも進化し、それより短かな時間で学習し、その学習を反映して一秒で進化する。それを繰り返し、彼は天の神の十二のバーテックスの能力を使った飽和攻撃を完全に防ぎきって見せていた。
だが、それでも神は手を緩めない。攻撃の片手間でチャージをしていたビームを。藤丸が防ぎきれず弾く事すら精一杯だったあのビームを、天の神は樹だけに向けて放ってきた。
駄目だ。あれだけは駄目だ。一瞬でも通せば樹どころか周りにいる勇者全員が余波で簡単に死ぬ。
わざと攻撃を受け流し損ねる事で相手の攻撃を利用した移動を行い、樹の目の前に着地した藤丸が満開の維持に回していたエネルギーを全て鏡につぎ込みながら園子から借りていた槍を投げ、時間稼ぎを試みる。
が、駄目。一瞬すら持たずに蒸発した槍は藤丸の希望に反し、彼は全くの余裕なく巨大化した鏡を地面に突き刺し、それを盾にした。
直後、直視していては目が一瞬で焼かれるような光が飛び散り、鏡を中心に裂けたビームが空へ、地面へと突き刺さっていき大惨事を巻き起こす。だが、それでも鏡は砕ける事無く勇者への攻撃の一切を通さない。
「とお、すかよ……!!」
踏ん張りながら鏡を抑え、真正面からビームを防ぐ彼だったが、徐々に鏡と彼の足はビームの勢いに耐える事ができず押しのけられていく。
このままじゃ確実に押し切られる。歯を食いしばりながらも堪えるが、藤丸は一瞬だけ後ろを見た。もしかしたら、このまま自分含めた全員で死ぬかもしれないから最後に樹の顔を……と思った結果なのかもしれない。
だが、藤丸の後ろで腰が抜けてしまったのか座り込み、泣きそうな顔でこちらを見ている樹を見れば、心を翳らせていたマイナス思考は消え去った。
「通す、かよ……!! この程度のビームで……お前みたいなクソみてぇな神のクソみてぇな攻撃でッ!!」
鏡と藤丸がその場で止まった。
意地と根性と愛で今まで押されるしかできなかった攻撃を、彼は受け止めて見せた。更に鏡を纏う光は徐々に強くなっていき、周囲に拡散していたビームはいつしか消えていた。
「神如きが俺の惚れた女を殺せるなんて思ってんじゃねぇッ!!」
直後、光が逆流した。
流れ続けるビーム。それが藤丸の手元で反転し、神のビームを裂きながら天の神へと突き刺さり、確かにその体に傷を残した。
「へっ。俺を抜こうなんざ二万年はえぇんだよッ!!」
神に指をさしながら笑う彼を、樹は見ていた。
自分を守るためにその身を賭し、そして限界を超えて守り抜いた彼を。必死な顔で自分を守るために全力を費やした彼を、樹は見ていた。そして、今の彼を見た樹の心臓はこんな場だと言うのに不相応に高鳴っていた。
「イっつん」
そんな彼女の肩をそっと園子が後ろから叩いた。
そっとそっちを振り返れば。
「愛されてるねぇ?」
にまにまと笑っている園子さんが。その言葉に樹は少し赤かった顔を茹蛸のように赤くして彼女をぽかぽかと叩いた。
そして天の神は直後に現れた大満開友奈の手により打倒され、消えていった。
樹の胸にタタリとは違う炎を残しながら。
****
最終決戦以降、樹は露骨に藤丸から距離を取っていた。
別にあの戦いで藤丸の事が嫌いになったわけじゃない。むしろ樹的には好感度が上がったのだが、どうしてか彼の顔を見ると顔が熱くなり直視する事ができず、ついつい彼から距離を取ってその熱を冷ますようになってしまっただけだった。
それが一か月程。天の神との戦いから大きな問題は起きず、樹は一人学校の屋上で寝転がって空を眺めていた。
校内だとどこかで鉢合わせてあまり好ましくない空気を作ってしまうかもしれないから。そんな思いで空を眺めていたのだが、生憎今の空は灰色。もうすぐ雨でも降ってしまいそうな天気だった。
どうしたものか。あの日勇気をくれた端末はもう罅割れて使い物にならず、今はお守り代わりにポケットに入っているだけ。木霊だけでも出せればもう少し気は楽になったのかもしれないが、生憎精霊も神樹様が消えると同時にその姿を消してしまった。
もう勇気とは程遠い生活を送る羽目になるかもしれない。そんな事を思いながら起き上がろうとして。
「イっつんはロマンチストさんだね~? それともただの中二病なのかな~?」
目の前に園子が現れて目を見開いた。
が、この人が突飛な事をしてくるのはよくある事なので特に驚く事無く起き上がった。園子は特に驚かれなかったことに少し気を落としたのかあらら~、と口にしていたが、果たしてそれでどこまで落胆したのか。
一つ伸びをして樹は少しだけ暗くなっていた気を晴らし、改めて園子と会話をする事に。
「もう、急にどうしたんですか? 何か問題とかありました?」
「特に起こってないよ~?」
今の時間は放課後。特に勇者部達にやることは無かったので自由な時間にこの時間を割り当て、帰ってもよし残って何かしてもよしという時間にした。
問題があれば自分を呼ぶように、とだけ言って樹は屋上に居たのだが、どうやら園子が来たのは特に問題が起こったからではないらしい。
「改めてズラっちに返事とか~、しないの~?」
その言葉に表面上だけ貼り付けていた余裕が剥がされた。
「……な、なんのこと、ですか」
「あそこまで露骨だと誰でもわかると思うけどな~」
樹自身が分かっていない感情の正体を彼女は分かっている。
いや、樹が気づいておきながらも気づかない振りをしていた感情の正体を。園子から目を逸らし問題を直視しないために一歩だけ退くが、園子はそんな樹を抜かして彼女の後ろに回り込んだ。
「好きになっちゃったんでしょ? ズラっちのこと」
あぁ、どうしてこの人はそんな残酷な真実を改めて突きつけてくるのだろうか。
どうして見ない振りしていたソレを叩きつけてくるのだろう。あの日、最終決戦の日に自分にその態度で、その動きで、その言葉で自分の心を奪い取っていった彼へ抱く事となった感情の名前を。
背中合わせで真実を突きつけてくる彼女に樹は何も言い返せなかった。
「だってあそこまで顔を赤くして距離を取ったら、ね~?」
「……そ、そこまで露骨でした?」
「もうズラっち以外は全員気づいてるよ~? ゆーゆですら気づいてるんだし~」
その言葉を聞いて樹は額に手を当てた。
どうやらこの状況はいつ起こってもおかしくない秒読み状態の状況だったらしい。きっとここで園子が来なくても他の誰かがこうして真実を突きつけてきただろう。
勘弁してほしい。折角顔を逸らし続けてきたのに。悩んでもいないのだから放っておいてほしかった。
「ズラっちね~? イっつんに嫌われたんじゃないか~って、すっごく怖がってるんよ~?」
「え? 嫌われ……?」
「ズラっち、変な所で鈍感だから~。それを言うたびにみんな溜め息吐いてるけどね~。フーミン先輩は殺害予告飛ばしてるし~」
とりあえず暴君となりかけている姉を後でとっちめなければならないらしい。この胸に熱を刻んだ彼を葬り去る前にかの暴虐なる姉を葬ることで守らなければ。
だが、そうやって彼に不安を刻んだのも自分のせいだ。自分があんな態度を取っていたからこうなってしまった。
「ズラっちなんていつまでも待たせておけばいいとは思うよ~?」
酷い言い草だなこの人。
「でも、いつズラっちの気がイっつんから他の人に向くか、考えた事はある~?」
その言葉に樹は何も反論ができなかった。
そう、今の樹と藤丸の関係は告白された人とした人。しかもその末の恋人関係が成立しなかった関係だ。そんな宙ぶらりんな関係のまま何か月もこうして彼は自分に恋心をずっと抱いてくれていた。
でも、その恋心にいつ諦めを貼り付けてしまうかなんてわかった物じゃない。
もしかしたら今日この日、彼は自分の恋に本格的に終わりを貼り付けてあの日神に向かって叫んだ言葉を過去の物とするかもしれない。
それを考えた瞬間、胸が痛んだ。
「今ね~、ズラっちとフーミン先輩以外のみんなが部室から出ていっちゃってるんだ~。ほら、ちょっと雨も降ってきちゃったから帰る準備しなきゃ~って」
園子の言葉に空を見上げれば、空が少しだけ泣いていた。
このまま五分もすれば雨は本格的に降り始めてしまうだろう。
「フーミン先輩もイっつんを見たら教室に行って荷物とか纏めると思うし~。チャンス、だと思うんだけどな~」
その言葉を聞いた瞬間、樹は何も言わずに屋上から走り去っていった。
あらら、と園子は樹を見送ってからそっと懐からメモ帳とペンを取り出した。
「ふっふっふ~。新鮮なネタゲットだぜ~」
どうやら園子はどこまで行っても園子のままらしい。
そんな事はつゆ知らず、樹は走って屋上の階段を降りると、そのまま勇者部の部室の前まで走った。今しかない。いや、今じゃないと駄目だ。彼の気が移ってしまってからではもう遅いのだから。
走って、走って。そして途中でそれを歩身に変えて高鳴る鼓動を深呼吸で抑えながら、樹はようやく部室の前に到着した。
残り時間が見えない現状、普通に告白するよりも時間制限があるだけ難しいこの告白を果たすために。樹はそっと部室のドアに手をかけて。
『――付き合ってほしいの』
風の声を聞いてその手が止まった。
手が震える。手の末端から冷えていく感覚がする。
なんで。なんでお姉ちゃんが。
そんな思いが頭の中を支配して、でも藤丸なら断ると思っているから変に笑ってしまう顔を抑えようとして。
『いいですよ。断る理由もないですし』
表情が消えた。
『ほんと!? いやー、よかった~。もし断られたらって思うと気が重くって……』
『俺が断るわけないじゃないですか。それを知ってて言ったんでしょうに……』
『まぁね~』
もう聞いていられない。
気が付けば樹は二人に気付かれないようになんて考える事もなく駆けだしていた。
息が切れようと足がもつれようと、先生から注意されようと、ただその場から離れたくて。もうこの現実を見たくなくて。
「あれ? イっつん?」
その道中で園子とすれ違ったが、そんな事もお構いなしに樹は昇降口へ向かって走っていった。
それを見届けるしかできなかった園子は嫌な予感を感じ、樹の来た方へ、つまりは部室へ向かって走っていき、そのまま乱暴に部室のドアを開けた。
そこにはお茶を飲んで和んでいる風と藤丸の姿が。
「うわっ。どうしたの乃木。そんな急いで乱暴に」
「さっきイっつん来なかった!?」
言葉を取り繕う事無く叫ぶ園子に二人は首を横に振った。
「そういえばさっき誰かが部室の前を走っていったような……」
「まさかそれが樹だって? 樹がそんな意味もなく走るワケ……あっ」
そこまで口にした所で風の口からやっちまったと言わんばかりの声が出た。
樹が走るとしたら、先ほどの会話。
「……じ、実はさ。藤丸にさっき、付き合ってほしいって言ったのよね……樹の家事スキルアップの練習に」
そう。先ほど樹が聞いた言葉。それは告白などではなかった。
本来の文章になおせば、こうなる。
「樹の家事スキルがアレだから……その……ね? 樹の特訓に、その……付き合ってほしいの」
「いいですよ。特に断る理由もないですし」
と、なる。
つまり樹が聞いたのは、丁度タイミング悪く付き合ってほしいの! の部分だけ。ここだけを聞けば確かに告白に聞こえてしまう。
断られると気が重いと言ったのは、単純に樹のアレを風一人で矯正できるとは思わなかったから。藤丸が断る理由がないというのも、想像の通り。
つまるところ、完全にタイミングの問題だ。恐ろしい程にタイミングが悪い方向で噛み合ってしまった結果起こった事故だ。
「ズラっち、ちょっとこっち!」
額に手を当てて大きく溜め息を吐いた園子だったが、そうなるとあの樹の逃亡にも納得がいく。
畜生と呟きたくなる口をなんとか閉じて藤丸の手を引っ張って無理矢理部室の外へと連れ出し、その背中を樹が走っていった方向へと向かって押した。
「ほら、イっつんを追いかける!!」
「え? いや、追いかけるって……」
「イっつんはズラっちがフーミン先輩の告白に応えたって思ってんの! それをここで聞いて耐え切れずに逃げちゃったの!!」
「は、はぁ!? 俺が、風先輩と!? ってさっきの溜め息の理由ってそれか!?」
「それ以外ある!?」
「っていうか何で樹ちゃん後輩が風先輩と俺が付き合うと逃げるんだ……?」
「それぐらい自分で考えてよハゲ!! 分からないなら明日から鈍感系ラノベ主人公って呼び続けるよ!!?」
と、叫びながら園子は藤丸の背中を蹴った。
もうヴァイオレンスな癖が付いてしまっているのだが今さらだ。
「ひっでぇ!?」
「今までイっつんが顔を赤くしてズラっちから距離取ってた理由、まだ分かんないの!? ここまで露骨なんだよ!?」
「露骨って言われても………………え? いや、そんなこと……」
流石の藤丸もここまで言われるとその理由に思い至ったようで。でも、その理由が本当なら、自分の勇気を出した告白をフッた彼女は一体何だったのかと。
「そんなもん明らかに天の神戦で落ちたに決まってんでしょ!? 分かったらさっさと行く!! 惚れた女の子泣かせんなハゲ!!」
「わ、分かった!!」
もう園子から思いっきり答えを出されたので口ごなしに否定する事叶わず。園子からもう一度思いっきり背中を蹴られて藤丸は走り出した。
それを見送ってから園子は改めて溜め息を一つ吐いた。
どうしてこうなるのかなぁと。
「……あ、あの、乃木さんや?」
園子の叫びが聞こえなくなったからか風がそっと部室から顔を出してきた。
屋上に行く前、とりあえず樹を藤丸に焚き付けてやろうと画策して二年生組を教室に追い返したはいいが、風だけは樹が戻ってくるまでと駄々をこねたので送り返す事を諦めたのだが、まさかそれがこう作用してしまうとは。
そして風も、妹が藤丸に想いを寄せているのは分かっていたが藤丸からも想いを寄せられているとは思っていなかったようで、もしかして自分は相当やらかしてしまったのではないかと思った。
そのためかなり申し訳なさそうに部室から顔を出したのだが。
「……チッ。人生上手くいかないものですよね~?」
「……うっす」
恐らくこれ以上口を挟むと自分の心をいたずらに傷つけるだけだと知り、そっと顔を引っ込めた。
最近の園子さん、きついや。
****
樹は自分の荷物すら置き去りにして校舎の外へと走っていった。
どこを目指しているのかなんて自分にも分からない。でも、今はとにかく走り去りたくて。どこかに消えてしまいたくて仕方がなかった。
もう彼の心は自分以外に移ってしまっていた。
あれだけ時間があったのだからそうなっても仕方のない事だ。仕方のない事だと分かっているのだが、叶わないと知った恋心は今にも樹の心をへし折らんとしてくる。
天の神を相手にした時よりも心は簡単にへし折れて、もう戻ることは無い。泣きながら走ればいつしか降り始めていた雨は樹の涙を流しながら彼女を濡らしていく。
すれ違う人たちが樹を見て目を見開いているが、そんな事知った事じゃない。
ただ今は逃げたくて、逃げたくて、逃げたくて。
家に帰っても姉がいる。学校に行ったらあの辛い現場を思い出す。もうどこにも行く宛はない。宛はないが、それでもどこかに逃げるために。そっと消えてしまうために。
「樹ッ!!」
だが、それを邪魔する者がいた。
同じように全身を雨で濡らしながら自分の手を掴んだ想い人が。いつから追ってきていたのか。どうして宛もなく走っていた自分の姿を見つけられたのか。その理由は分からないが、そんな事はどうでもいい。
今この人に会っても苦しいだけだ。
「離してッ!!」
「離さない! 絶対に離さない!!」
手を振りほどこうともがくが、彼はそれを許さない。
そのまま樹の手を引き、彼女を抱きしめ落ち着かせようとして、樹はそれに抵抗して抜け出さんと全力で彼の体を押しのけようとする。
が、結局は体格や力の差で彼を押しのける事はできず、彼の胸を枕に涙を流すだけ。
「なん、で……」
抵抗する力すらなくなった樹はか細い声で呟いた。
「なんで……追ってっ、きたん……ですかっ……」
嗚咽交じりの声でやっと捻りだせたのはそれだけだった。
だが、今の彼にはその言葉だけで十分だった。
「そんなもん、惚れた女が泣いて飛び出していったって聞いたからに決まってんだろ」
「……うそ」
「嘘じゃねぇよ」
「おねぇ、ちゃんの方っ、が……好き、なのに……」
「それは違う。俺は今も樹の事が好きだ。愛してる」
「……告、白は?」
「勘違いだよ。あの人は俺に樹の家事スキル向上特訓に付き合ってほしいって言っただけだ。もしかして樹には何も言ってなかったのか?」
「……うん」
「なんだそりゃ。事後報告する気満々だったのかよ。困った人だよな、ホント」
「……ぐすっ」
藤丸の呆れたような声に樹は彼に抱きしめられながらも頷いた。
雨は今も冷たく降り注いでいる。が、胸の内にある炎は未だ熱を発している。いや、先ほどよりもより強く、その熱を発していた。
「なぁ、樹。俺はまだお前のことが好きだ。お前の可愛らしい笑顔が、綺麗な声が、明るい性格が、何もかもが大好きだ。この世のどんな人よりもお前が大好きだ、愛してる。だから、俺と付き合ってくれないか?」
未だに泣く樹の背中をそっと撫でながら、囁くように藤丸は二度目の告白をした。
一度目の時の様に緊張感に溢れた物ではなく、慰めるように、言い聞かせるように。自分の中にある愛を、彼女に惚れた理由を一切の嘘無く彼女へと囁いた。
それを聞いてから彼女は暫く嗚咽をあげるだけで。だが、暫くして彼女は口を開いた。
「わた、しも……だいすき、です……! 変にカッコいいとこ、とか……無駄に、あかるい所とか……! ぜんぶ、ぜんぶ大好きです……!! だから……付き合って、ください……!!」
「……喜んで」
樹は藤丸を強く強く抱きしめ、藤丸は樹を優しく抱きしめた。
最初は一方通行の状態から始まった愛だったが、その愛はやがて双方向性を持ち、そして成熟した。
雨はどうも軽い夕立だったらしく、雨は止んで空から光が刺した。
二人を祝福するかのように降り注ぐ光は抱きしめ合う二人を温かく照らし続けていた。
文字数、どのIFよりも最多の一万四千文字。話の始まりからアレでしたし、そこから惚れるまでの事も書いたので、まぁ多少はね?
なんか最近IFしか書いてないなぁとか思ったんですけど、致し方なし。美森IFとか園子IFのPVの伸び方を見るとこれで大丈夫かと不安にはなりますが、まぁいいでしょうという事で。
今回はハゲが最初から樹ちゃん後輩に惚れていて、告白するも玉砕という所からのスタートで最後はゴールイン。多分この後は勇者部の皆さんに煽られながら姉は首吊り自殺する勢いで祝ったりとか色々とあった事でしょう。特に園子さんからのあれこれは激しかったと思われます。
一応ゆゆゆ組のIFは美森と樹が終了して、次は夏凜かなーとは思っています。多分彼女も惰性な感じになるとは思います。
ゆーゆとフーミン先輩は……思いつくまで保留で。
それで、IFのその後の話とかって需要ありますかね? そこら辺も誰かのIFのその後が見たいとかがあれば活動報告の方へ。
次回は夏凜IFか、恐らく活動報告にありましたロリぐんちゃんと安芸先生のお昼事情とか、三ノ輪さんちに遊びに行ったりという話になると思います。もしくはゆーゆがどこまで漫画、アニメの技をトレースできているかとか。
とりあえず後書きはこの辺にして次回に続く!
P.S 精霊親授の儀のSR樹ちゃんが可愛い。+15でフィニッシュですけども