と、いう訳で今回は友奈IFです。いやー、あの天然人たらしにどうやってフラグを建てようかめっちゃ迷った結果、まぁ王道っぽいのでいいだろうと思い書いてみました。
実は樹IF以上にかなり迷った末の話だったり。あ、今回は美森IFと同じように本編から数年先の時間軸を使ったIFになります。
まぁこれ以上は前書きが怪文書になりかねないので本編どうぞ。
結城友奈は花屋である。
大学を卒業する前、何をしようかと思った友奈は花屋でバイト中、自分も花屋になってみたいという思考に至り、そうと決まったら即実行。バイトで貯めた資金と、中学時代に大赦から親に支払われていた大量の金を受け取り、見事花屋の開業に成功した友奈は街角でひっそりと小さな花屋の経営を始めた。
大赦から払われていた金と言うのはかなり莫大であり、美森の家が引っ越しの際にサラッと数段階グレードアップできるほどの金が払われていた程。
そんな金を友奈の親が友奈が大人になった時にと残しておいたため、友奈はそれを有難くもらい受けて無事花屋を開業させる事ができた。
まぁ、あれだけの事を中学生にやらせたのだ。花屋の一つや二つを開業するくらいの我儘、押し通らせるのにあまり苦労はなかった。
そうして開業した花屋はそこそこ繁盛した。
まずお得意様として園子、銀の大赦組。それから芸能界で花を贈ることが多い樹。そして店の内装として花を置くことが多い藤丸。この四人が友奈の店をよく利用し、美森や風、夏凜も部屋に飾るからという理由で季節の花を買っていく事が多い。
他にも友奈の人柄や彼女の育てる花が彼女の影響を受けたのか元気ハツラツと言わんばかりに元気に咲くことからお得意様も増え、二十四歳となった友奈の経営する『花屋・満開』は結構繁盛していた。
「今日もいい天気~。こんなにいい天気なら、店先にはこれとこれと~……」
友奈が市場で仕入れてくる花や、自分で育ててみた花を店頭にバランスよく置き、水をあげてから小さな店の中に入ってカウンターの後ろにある椅子に座って出費と利益を帳簿に書きながら、次はどんな花を仕入れようかと考えつつ、店の清掃やらをしていく。
花屋を実際に開業するとなり、バイト先の店長から教えてもらった事を実際にこなしながら働くのは充実していた。
どうにもこういう一人でコツコツと成果が出るように経営をしながらお客さんの笑顔に触れると言うのが性に合っていたようで、ストレスを感じる時もあるが、これを仕事にして駄目だったという後悔は一切していない。
今日もそうしてコツコツとどうやったら花が売れるかと試行錯誤しながら花の配置を変えたりしていると、店の前に車が一台止まり、そこから見知ったスーツ姿の女性が二人降りてきた。
「あ、園ちゃんに銀ちゃん! いらっしゃ~い!」
「おはよ~ゆーゆ。今日も元気だね~」
「アタシ等とは大違いだな……」
あははと力なく笑う銀に触れると愚痴が飛んでくるので友奈は意図的に彼女を無視して園子と話を進める。
友奈だってもう二十四歳。面倒な大人への対処法は身についているのだ。
「今日もお花を頼みたくてね~。大赦系列でお店を一個出すから~、そこのスタンド花を一個頼みたいな~って」
「スタンド花だね。じゃあこの中からどれかを選んでもらう事になるけど」
「うーんと……じゃあ今回はこれで~」
「これだね。お花の方はどうする? わたしの方で選んでおこうか?」
「じゃあおまかせで~」
その言葉にはいは~いと友奈が言葉を返し、店の奥へと走っていき園子からの注文をメモしてからいつまでに届ければいい~? という言葉に返ってきた言葉をメモして、更に幾つか質問を飛ばして必要な事を全て聞いてから注文を確定させ、領収書を園子に手渡す。
「それじゃあいつも通りの注文で、あとは色々とオプション付けてこんな感じだね」
「いや~、こうやって店頭で注文を受けてくれるのってゆーゆくらいだからホント助かるよ~。あ、これお金」
「毎度あり~。でも、なんで店頭だと助かるの?」
「……それを理由で外に出れるし休憩できるから」
「あぁ……」
園子の切実な言葉に友奈は思わず頷いてしまう。
未だに大赦のトップの席で毎日毎日血を吐きそうな程に胃を痛めている彼女の名声はよく聞いている。藤丸の店で時折飲んだくれているという事も。
主に彼女のストレス事情は彼から流れてくる事なのだが、本当に大変らしく今の園子の言葉からは切実さ以外にも哀愁が漂っていた。
友奈も社会の波にのまれている現状、そのストレスはよく理解できる。
とりあえず受け取ったお金をレジに収めてお釣りを手渡すが、ふとそこでいつの間にか銀が居なくなっているのに気が付いた。
「あれ? 銀ちゃんは?」
「ん? ……あれ~?」
どうやらそれには園子も気が付かなかったらしく、後ろを振り向いてすぐに首を傾げた。
「どこ行ったんだろ……? まさか逃げ出したとかじゃ……!?」
「そ、そんな事ないと思うけど」
大赦の激務に耐えきれず、この機を逃すまいと逃げ出した。
存分に考えられる事なのであり得ないと言い切れないのが悲しい大赦事情だ。園子はすぐさま銀を探しに走り出そうとしたが、件の銀は溜め息を吐きながら普通に戻ってきた。
「あーくそ……あぁ、すまん園子。注文終わった?」
「終わったけど……ミノさんどこ行ってたの~?」
「いや、ちょいと不審者がな……?」
「不審者? そんなの今時いるの?」
「神樹様が居なくなって十年経ってるから徐々に犯罪も増えてきてね~」
もう神樹様が居なくなってから十年。そう言われると中学時代のあの激戦がかなり昔の事のように感じる。
そういえば神様をワンパンで倒したんだよねぇ、なんて思いながら拳を握ったり離したりしつつ、ふと最近のニュースを思い出す。確かに最近は昔と比べてそういったニュースが増えてきているように思える。
芸能界に入った樹も徐々に芸能界の闇が復活してきていると言うし、美森も研究者の中でもちょっとずつきな臭いのが出始めていると言っている。
世の中は変わっていくものだ。だが、今は悪い方に変わっているのもまた事実。その不審者とやらもきっとその一環なのだろうと思う。
「とりあえずここら辺のパトロール、強化してもらうか。友奈になんかあったら大変だしな」
「って言うか逃げられたの?」
「アタシの視線に気が付いてすぐ逃げられて、路地を使ってそのまま逃げられた。男だったけど、どこかひょろい感じだったし、すぐに何か問題を起こすとも思えないからとりあえずはパトロール強化だな」
「じゃあそこら辺はミノさんお願いね~。わたしはちょっと大赦の膿をまた落とす作業に入るから」
「ほんと、あれって潰しても潰しても湧いてくるよな。なんとかできんもんかねぇ……」
徐々に二人の会話が聞いちゃいけない方向にシフトしてきたのであーあー聞こえなーいと耳を塞いで二人の会話を完全にシャットアウト。流石に大赦の黒い話とかは友奈が聞くには荷が重すぎる。そういうのは頭のキレる美森や殴られ役の藤丸の仕事だ。
一頻り黒い話をし終えた二人は友奈が居たことをようやく思い出し、耳を塞いで聞かざる、目を閉じて見ざるをしていた友奈の肩を叩いて黒い話は終わった事を知らせた。
「ごめんね~、急に黒い話しちゃって~」
「んじゃ、アタシ等はまだ仕事あっから戻るわ。…………どうする? ホントにこのまま帰るか?」
「冗談。適当な居酒屋行って今日はバックレるよ」
「流石園子様」
車に乗る直前に聞こえてきた二人の会話をまた聞かなかった振りして友奈は手を振って二人を見送った。その数時間後、友奈の花屋の前を黒い車が何台も通り過ぎていったという珍事が起こったのだが、まぁきっと友奈には一切合切関係の無い事だろう。
それはともかく、友奈の店というのはかなり小さい。店の奥に居住スペースがあるという訳でもなく、本当に小さな販売スペースがあるだけ。奥にあるのは在庫を置いておくスペースだけであり、友奈が住んでいるのは未だに実家だ。
故に友奈はお昼時になったら一旦店を閉めて適当に外食をしに行ったり持ってきたお弁当をカウンターをテーブルにして食べているのだが、今日はお弁当を作ってこなかったので何かコンビニで買ってくるかな、と一旦店を閉めて店の外へと出たのだが。
「……あれ?」
ふと友奈は視線を感じた。
誰かに見られているような。それもじっとりねっとりと。ちょっとした悪寒と共に振り返って視線の主を確認しようとしたが、見つからない。暫く振り返ったまま待ってみたが、誰かが出てくる気配もない。
気のせいかな、と思い当初の予定通りコンビニで食事を買うために歩き始めて暫く経った時だった。
「あれ、友奈か?」
「へ? あ、藤丸くん?」
丁度道先でばったりと藤丸と遭遇した。
普段はずっと店にいるので外出している藤丸を見かけるのはかなり珍しい。ばったり遭遇した彼からの言葉に友奈は暫く呆けてたが、すぐに珍しいね~、と笑いながら彼に近づいた。
「今日はどうしたの? お休み?」
「いや、昼休みだよ。店はバイト達に任せてる」
開店から暫くはワンマンで店を回していたらしい藤丸だが、どうやらもうそれも限界になったようで、一年ほど前だろうか。バイトを雇うことにしたという連絡を貰ったのを今思い出した。
二年前までは隠れた名店程度の扱いだったのでまだ一人で回せる程度の客しか来なかったが、最近は彼の腕と園子の声もありかなり有名な店となり、繁盛しているそうだ。
故に嬉しい忙しさを被ることとなり、アルバイトを募集。結果、フリーターをしていた常連の亜耶やしずく&シズク、他にも学生バイト等を捕まえる事ができたので店も何とか回っている状況だ。
特に亜耶としずく&シズクは結構な頻度でシフトに入ってくれているのでかなり有難い存在になっているとか。
「で、友奈は? サボりか?」
「そんなんじゃないよ~。普通にお昼ご飯食べようかな~って外に出ただけだよ?」
「なんだ、お前も飯食いに来たのか。じゃあ……うん、そうだな。敵情視察ついでに一緒に食わねぇか?」
「敵情視察? あ、そういえばこの近くに喫茶店があったっけ」
「喫茶店……うん、そうだな。そこに敵情視察をちょっとだけ。奢るからどうだ?」
「奢りなの? じゃあ有難く同伴しようかなぁ」
「よし来た。流石に男一人じゃ行けそうにない所だったから助かるよ」
大学時代は美森とルームシェアで大学近くのアパートの一室を借りた事があり、食事が馬鹿にならないという事を経験したからか、奢りで食事を言われるとついつい断れない友奈なのである。
まぁナンパとかじゃなくて最早幼馴染に近い十年来の友人と食事をしに行くだけだ。友奈の花屋は基本的に昼休憩は友奈の気が済むまでとなっているし、シャッターにもそう書いてあるので、帰る時間を気にする必要もない。
とりあえず友奈は世間話もそこそこに藤丸と並んで件の喫茶店へと歩を進めたのだが。
『……ん?』
藤丸と全く同時に変な視線を感じて振り返った。
しかし後ろには誰も居ない。
「……なんか変な視線を感じたんだけど、藤丸くんも?」
「あぁ。俺もだけど……勘違いか?」
「さっきも感じたんだけど、誰が飛ばしてきてるのか分からないんだよね。本当に気のせいかな?」
「それは分からないけど……友奈、最近
「してないよ? っていうか今サラッとストーカーって書いて東郷さんって読まなかった?」
「普通に東郷としか言ってないのにストーカーって文字まで理解できたお前も相当酷いという事を自覚しろ」
だって、ねぇ……? と言いづらそうに苦笑した友奈に藤丸も同意し、視線の事は一旦忘れて二人は敵情視察のために近くのお洒落な喫茶店へと向かったのだった。
だがその間、藤丸は笑顔を浮かべながらも何かが引っかかると言わんばかりの表情をずっとしていたのだが。
****
藤丸と食事をして別れ、店に戻った友奈はいつも通り夕日が落ちるまで本を読んだり携帯を見ながら客が来るのを待ち、仕事はしっかりとしつつも暇な時間を潰し、時計を見て就業時間が終わっているのに気が付き、帰りの支度を始める。
今日も花はそこそこ売れた。特に友奈の店は園子の他にも一部大赦職員から懇意にされているし、近所の人がよく買っていくので結構自由な事をしていても売り上げはしっかりとしている。なので今日の売り上げをしっかりと帳簿にメモしてレジのお金を確認し、店の外に飾ってあった花を店の中に引っ込めてシャッターを下ろした。
明らかに勇者をしていた頃よりも落ちている筋力にちょっとだけ溜め息を吐きつつ、いつか鍛えなおさないと、と最近ちょっとぷにってきた二の腕を引き締める事を誓い、不審者か何かに勝手にシャッターを開けられないようにシャッターの鍵をしっかりと閉めた。
「戸締りよし! お花の確認よし! カーテンと窓よし! エプロンよし! 結城友奈、一直線に帰宅します!! ……なんちって」
中学生の時のようにちょっと大袈裟に子供っぽく後片付けができているのを確認してから友奈は一人で何してんだろ、と笑ってからまた明日も見る事になるシャッターを軽く叩き、友奈は改めて帰路につき……
「っ!?」
また変な視線を感じた。
すぐさま振り向いたが、そこには誰も居ない。
「ほ、本当に何……?」
気味が悪い。それが友奈の心情だった。
流石に一日の内に何度も不審な視線を感じ振り向いても誰も居ないと言うのは気味が悪いとしか言いようがない。
友奈は嫌な直感が告げるままにすぐさま走り、一気に家へと帰宅した。
家に帰れば勿論その視線は無くなった。
だが、翌日の朝。
「それじゃあいってきまーす」
いつも通り親に一言言って私服姿のまま自分の店に向かおうとしている時だった。大体家から歩いて数分程度の所だろうか。
また、あの視線を感じた。
「またっ……!?」
振り返り、誰かこっちを見ていないか確認するが、誰かが居るわけもない。
昨日だけならまだしも今日まで。しかも今日にいたっては朝からだ。思わず友奈は走り出し、すぐさま自分の安寧の地でもある花屋に駆け込み、シャッターを開けるとそのまま店の中に駆け込んだ。
店の中ならあの奇妙な視線も感じることは無い。そう確信しながら駆け込んだ店内だったが、その確信通り店の中に入ればあの視線を感じることは無かった。
だが、その日も昼休憩や営業時間を終え帰る時の外に出る時間はいつもその奇妙な視線を感じ、しかし見えない視線の主に友奈の心は徐々に恐怖に染まっていった。
それが大体一週間ほど続いたころだろうか。露骨に巡回の警官が増えてきた今日この日も昼休憩のために見せの外に出るとあの奇妙な視線を感じた。一日二日だけならまだしも一週間もあの視線が続いている。
流石の友奈も精神的に限界が近づいてきたため、店に戻ってからすぐ友奈は藤丸に電話をかけた。
だが、彼は昼の間は電話に出ず、大体友奈の終業時間に近い時間帯でようやく電話を折り返してくれた。
『もしもし? 一体どうしたんだ、友奈』
「ふ、藤丸くん、実は……」
美森や夏凜に相談してもよかった。
だが、彼女達に自分が嫌な視線を感じる……恐らくストーカー的な物につけられていると言ってもまたまた冗談を、程度で済まされてしまうかもしれない。故に、友奈は視線を一緒に感じた事のある藤丸に電話を掛け、相談することにした。
藤丸は友奈の相談を聞き、暫く黙った後、少しだけ席を外してから友奈の相談に応えた。
『とりあえず今日はそのまま帰った方がいい。明日からは俺が送迎してやっから、今日だけは我慢してくれ。不安なら通話を繋げたままにしてくれていいから』
「そ、送迎って……そんなの、流石に悪いよ」
『いや、そうとも言ってられない事態っぽいしな。ちょっと今日はこの後用事があるから今日だけは我慢してくれ』
「……ほ、ほんとに送迎を任せて大丈夫?」
『こっちには優秀なバイトがいるからな。心配すんな』
藤丸の言葉に友奈は少しだけ口ごもったが、流石にこれ以上あの視線を受けていたら精神をやられそうなので大人しく彼の言葉に頷いておくことにした。
彼はその言葉を聞いてそれでいい、と一言言うと友奈が朝、家を出る時間を確認してから予定を組み立てた。
そしてこの後の通話だが、友奈は多分大丈夫だからと断った。流石に彼もここから仕事があるだろうからそこまで迷惑をかけられない。故に友奈は通話は遠慮し、いつも通り店を畳んで走って家に向かう。
店を出てからすぐにあの視線を感じたが、友奈は気にせず走った。最近は鍛えるのもやめてしまったせいですぐに息が切れ始めたが、それでも何とか家に向かって走った。
そうして息も切れて体力ももう僅かという所で、徒歩なら家まであと数分程度の距離まで来た。
「こ、ここまで、来たら……」
一旦立ち止まり、息を整える。
もう大丈夫。そんな安堵と共に一旦休憩して、すぐに家に帰ってしまおうと。
ある程度息が整い、体力も少しだけ戻ってきた友奈はすぐに家に向かって歩き始めて――
「お待ちくだされ、結城友奈様」
後ろから声を掛けられた。
知らない声だ。だが、同時に知っている視線を感じた。
背中に氷を入れられたような冷たい悪寒を感じ、友奈は恐る恐る振り返る。振り返った先に居たのは、中学時代に散々見たことがある大赦仮面だった。それが一人、そこに立っていた。
「な、なんで、すか……」
暗い道の中、ちょっとずつ後ろへ下がる友奈だったが、すぐに後ろからまた視線を感じた。
すぐに振り返れば、そこにはまた大赦仮面が。
挟まれた、と思った矢先、今度は全方位から誰かに見られているという感覚を覚え、すぐに視線を巡らせると、いつの間にか大赦仮面は友奈を包囲しており、簡単には友奈を逃がすつもりはないという意志をそのまま表していた。
「結城友奈様。あなたはかつて勇者として天の神を打倒し、この世界を救ってくださった」
「そ、それは……もう十年も前のことだし、みんなが居たから……」
大赦仮面は最近ではあまり見ない存在だ。
園子がトップに立ち、大赦の仮面は一般職員には着けないように指示し、一部の幹部のみに着ける事を許した仮面。その理由としては、かつての秘密主義の大赦を捨て、乃木若葉が目指した大赦を実現するという目的があったためなのだが、どうしてか自分を囲んでいる大赦の職員らしき人達は仮面を顔に着けている。
明らかに普通じゃない。きっとこれは中学時代の友奈でも同じように思ったはずだ。そして、どうにかして逃げないと、とも。
「しかしそれと同時に神樹様はお消えになられ、この世界から神はその姿を消した」
「……神樹様はわたし達人間を信じてくれたから。神じゃなくて人が作る未来を――」
そう、だからこそ神樹様はこの身に神すら打倒する天上の力を一瞬だけ授け、消えていった。
そうして得たこの今こそが人間が本来歩くべき道。神に頼らず自らで切り開く、人としての――
「ですが!」
友奈の言葉は大赦仮面にかき消された。
思わず友奈が一歩退いてしまう程の声。無意識の内に友奈はポケットの中から携帯を取り出したが、電波は圏外。
どうして、と言いたくなったが、それすら許さぬと言わんばかりに大赦仮面は言葉を発する。
「この世界は未だにかつての姿を取り戻していない。いや、むしろ人々の心から神樹様は徐々に消えていき秩序すら崩壊しようとしている! 乃木園子のやり方では神樹様が在りし頃の世界を維持できない!」
「そ、そんな言い方! 園ちゃんだって頑張ってるのに!!」
大赦仮面の言葉に思わず友奈は反論した。
その言い方では、園子がやっている事は間違っている。園子が身を粉にしてまで作っている人の道を否定しているように聞こえたから。
彼女があんな疲れた顔をして、ストレスを溜めて、ボイコットまでして、それでも自分のやっている事は正しい事で、人の未来を切り開く事だからと自分を使い潰す覚悟でこの世界を動かしているのに。
「故に私達は新たなる神をこの世に君臨させる事にした。神樹様に代わる新たな現人神をこの世界に顕現させ、神樹様が在りし頃の世界を取り戻す!」
「神樹様に代わる神様……? まさか天の神を!?」
「いや、あんな神はこの世にはいらない。だが、この世界には神樹様が残した神となり得る存在がいる」
もう神樹様関連の事を考えさせるのはは勘弁してほしいのに、大赦仮面は質問を投げかけてくる。
神に代わる神となり得る存在。いや、現人神。
それに近いのは、恐らく園子だろう。十幾度もの満開を繰り返しその体の殆どを神に捧げ、そして神に新しく権能を作ってもらい返してもらった。
だが、それに連なる上にそれよりも上の存在は? 神となれる程、神に染まった身を持つ人間は?
嫌な予感が突き抜ける。まさか、と思い、思わず構えてしまう。
「そう、結城友奈様。あなたがこの世界を統べる新たな神となり、人類を導いていくのです」
「そ、そんな事できるわけが!」
「神との結婚、神婚まで可能なこの世界で体の大半を神に作られた存在を神に召し上げる事ができないとでも? 確かに神樹様と比べれば神格は幾分か落ちましょう。ですが、私達に必要なのは人を守り上に立ち続ける新たな神なのですよ」
直後、友奈の両手が左右からいつの間にか接近していた大赦仮面に掴まれ、拘束された。
世迷言を聞いていたせいで反応が遅れてしまった。必死に抵抗する友奈だったが、大赦仮面は友奈の手を一切離さない。
「さぁ、行きましょう、結城友奈様。あなたはこの世界を統べる神となり我等が崇め奉る神としてこの世に再誕を果たし――」
駄目だ、逃げられない。必死に抵抗するがこのままでは連れていかれる。
脳裏に過るのは、かつての園子のような自由を奪われた生活。一生を暗い部屋の中で暮らすと言う拷問に近い生活。それを強いられる残酷。
せめて声を出そうと口を開いたが、すぐに後ろから新たな大赦仮面が友奈の口を塞ぎ、声すら出ないようにする。
助けて、と叫びたくても叫べない。だがどうにか抜け出そうと目を閉じて必死に抵抗をし始めて、しかしそれは一切の効果を出さず、右手を掴んでいる大赦仮面が何か注射器のような物を取り出し友奈に刺そうとして――
「悪いがそんなナンセンスな話、友奈に代わって俺が断らせてもらうぞ、過激派」
つい数分前、通話越しに聞いた声が聞こえた。
直後、友奈の右手を掴んでいた大赦仮面が乱入してきた男に殴り飛ばされ、そこから更に流れるように飛んできた拳が左の大赦仮面を殴り飛ばした。
そして最後に友奈の口を抑えていた大赦仮面の腕を力づくで引き剥がすと、一瞬の隙をぬって顔面を殴り抜き、そのまま大赦仮面の拘束から友奈を一瞬で解放した。
解放された友奈は先ほどまでの恐怖からか立ったままでいられず、その場で座り込んでしまった。
「き、貴様は……!?」
「ったく、どうしてストーカーの処理に来たらこんな風になってんのやら。友奈、お前最近悪い事したか?」
そんな友奈は、自分を助けてくれた男の背中を見つめていた。
どうしてここに居るのか。そもそもどうやってこの包囲のど真ん中に突入できたのか分からないが、それでも彼は。いつも自分達を守ってくれた彼は、今もこうして自分を守ってくれた。
「ふじまる、くん……?」
「おう。助けに来たぜ、友奈」
「勇者藤丸……!? どうして貴様が!!」
「流石に友奈の事が不安だったから、とりあえず友奈のストーカーに先手を打とうと思って車を超特急で走らせたんだよ。で、そうしたらお前らがいたんだよ」
ポケットから罅割れた携帯を取り出した彼だったが、数的には多数に無勢。相手が何人かも分からないのに彼は余裕綽々と言わんばかりの表情をしている。
「だが勇者と言えど神樹様が居ない今ではただの人間! 貴様を処分して結城友奈を神へと召し上げ……」
「自分がそのまま友奈を傀儡にして実質的な世界の主導権を握る、か。このまま友奈を拉致って薬漬けにして自分の好き勝手にしようなんざ、まさにゲスが考えそうな事だなぁ、過激派さん共よ?」
「えっ、なにそれ怖い……てっきり連れて行かれて昔のそのちゃんみたいにされるのかと……」
「んな生易しくねぇよ。薬漬けにして快楽責めして自我壊して絶対服従させて神に召し上げて神婚でアイツが世界の実権握るルートだ。まぁ友奈を拉致って何かしようとした瞬間に園子が吹っ飛んできたから万が一もなかっただろうがな」
ちょっと想像できない地獄を彼の口からサラッと教えられてしまい、先ほど以上の恐怖が友奈の背中を通り抜けていった。
そんな欲望に塗れた計画を実行に移すなんてどんな教育を受けたら考えられるのか。
思わず藤丸に抱き着いた友奈だったが、彼はちょっと待っててくれ、と優しく友奈に声をかけると、罅割れた携帯の電源を入れた。
「お前ら、友奈に手ェ出しておいて無事に帰れると思うなよ」
そして藤丸の口から放たれた言葉は、友奈も今まで数回しか聞いたことが無い冷酷無比な声色だった。
彼の堪忍袋の緒が切れて本気でキレた時しか出てこない声色。友奈自身それを真正面から受けた事なんて一切ないが、しかし彼の声色から感じる恐怖は普通ではない。園子程では無いが、彼の発する圧はかなりの物だ。
「くっ……くくっ。生身の元勇者が来たところでこの状況をどうにかできるとでも!」
「元、じゃねぇよ。俺は現役だ」
罅割れた携帯の画面。十年以上前に最新だった機種の画面に映るのは、友奈の思い出で未だに色褪せない画面。
勇者システムの画面だ。
「神樹様っていう力の供給源は無くなった。だけど、この世界にはまだ神様が存在している。その中でも人間に友好的な神様達からちょっとずつ力を分け与えてもらえば、不完全ながらこういう事だってできんだよ!」
彼が携帯の画面をタップすると、携帯から光が発せられた。
そして次の瞬間、彼が身に纏ってたのは男物の和服の所々にアーマーを付けたような服装。そして、右手には十年前に彼が愛用していた鏡、神獣鏡。
「出力は初代勇者にすら劣る劣化勇者システムもいい所だが、お前ら人間をボコる程度なら十分すぎるスペックはあるんだよ!」
「へ、変身しただと!? そんな情報、どこにも!!」
「そりゃ園子様が裏で作ってるモンだからな。元防人達を始めとする適合者に対して極秘裏に配る予定の壁外地域探索用システムって名目だから本来はこういう所で見せちゃいけないやつだが……誰かさんが妨害電波を出してくれたおかげで機密が漏洩する可能性も無いしな」
「ど、どうしてそんな物を貴様が!」
「俺が体張ってテスターしてんだよ。だから特別に貰った」
友奈の脳裏にはわたしが作りましたというセリフと共に疲れた笑顔を浮かべる園子とその後ろでぶっ倒れている銀が浮かんできた。
園子からは最近四国の外も徐々に開拓していく予定とよく聞いていたが、まさか劣化勇者システムのような物を使って捜索するつもりだったとは。
だが、勇者システムを使って探索するのであれば限られた燃料資源などを使わなくても済むし、最悪の場合、食料や水は現地調達が可能だ。そう考えれば勇者システムを壁外調査に使うと言う園子の案はかなり画期的で素晴らしいものかもしれない。
そんな画期的な考えは、今、ちょっとした暴力に使われようとしている。
しかし、止める必要なし。過激派とやらばこの世で一番相手にしてはならない人間の友人を相手にしてしまったのだから。
「精霊バリア搭載の劣化勇者システムを相手にお前らがどこまで耐えられるか性能実験といこうかぁ!!?」
「くっ、なにをしてもいい! あの勇者を止めろ!!」
「友奈に手ェ出した時点で慈悲なんてねぇんだよ! コンクリ詰めにされて海に沈められる未来を夢想して散れやゴルァ!!」
そして友奈さんはそっと目と耳を塞いだ。
見ざる聞かざる。塞いだのにも関わらず聞こえてくるヤバい音を無視して時折近づいてくる気配が一瞬でぶっ飛んでいくのをなんとなーく理解しながら待つこと一分ちょっと。肩を突かれたのでちょっとだけ目を開けると、視界の先には藤丸にぼっこぼこにされたのであろう大赦仮面たちがゴミのように散らかっていた。
やはり精霊バリア持ちの勇者相手に一般人がどうこうできるわけがなかった。
「終わったぞ、友奈」
「よ、よかった~……」
助かった。彼の笑顔を見てようやくそれを理解し、友奈は胸を撫でおろした。
システムを解除しここに来た時に着ていた普段着に戻った彼は笑いながら友奈に手を伸ばし、友奈は彼の手を掴んだ。
そして友奈は立ち上がろうとしたが、手を取り起こされた直後、どうしてか足に力が入らずその場で尻もちをついてしまう。
「あ、えっと……安心したら腰が抜けちゃったみたい……」
「まぁ、命というか尊厳の危機だったしな。仕方ないよ」
とりあえず友奈の事は一旦置いておき、藤丸はどこかに電話を掛けた。
過激派を潰したから回収ヨロシク。そんな言葉を向けたのは恐らく園子だろう。彼の電話口から聞こえてきた園子の悲鳴にも似た声がちょっとだけ友奈にも聞こえた。
「……実は居酒屋に居た銀から友奈にストーカーがついてるかもって連絡受けてさ、先週は実際に居るかどうかを確認するために友奈と偶然会ったふりをしたんだよ」
「偶然会ったふりって……あのお食事の時?」
「あぁ。でも、ストーカーにしちゃちょっと変な視線だったもんで、園子と銀に裏で色々と調べてもらったら過激派連中がヒットしてな。俺は園子と銀から許可貰って過激派をどうにかするために動いてたんだよ。裏で結構数減らした筈なのにまさかあんなに残ってなんてな……いや、減らしちまったから強硬策に出たのか……? 何にせよお前に内緒で色々やってた。すまん」
「べ、別に謝らなくてもいいよ。助けてくれたんだし。……でも、そうなるとストーカーは? 本当は居なかったの?」
「いるぞ? 今もあそこに居るし」
と、藤丸が指をさした所には確かにカメラを手にした、あまり荒事には向いてなさそうなかなり細い男が一人、呆けた感じでこっちを見ていた。どうやらアレがストーカーだったようだ。
そういえば銀がひょろい男の不審者が居たと言っていたのを友奈は思い出した。あとついでに一か月程前だろうか。あんな感じの男がかなり挙動不審な状態で花を買いに来たというのもなんとなーく思い出した。
「ちなみにお前の感じた視線は全部過激派のだ。あのストーカーの視線はお前さん、一切感じてなかったぞ。まぁ俺も気が付いたのは過激派の一部を仕留めてる最中だったんだけどな」
「そ、そうだったんだ……」
「ただ、過激派も二週間前から動いてたっぽいし、友奈が不審者が居るってのに気付いたから視線にも気づいたんじゃないか? 視線に敏感になったとかそんな感じで」
「そういうものなのかな?」
「そういうもんさ。さてっと」
藤丸が語る真相に思わず友奈がへぇ~、と間抜けな声を出していると、彼は件のストーカーの元へと歩いていき、目の前で止まった。
「ストーカー君。そのカメラ寄越せ」
「ひっ!? そ、それは……」
「今すぐカメラを渡して二度と友奈のストーカーをしないって誓って、ついでにさっき見た光景も全部忘れるってんなら通報は止してやる。だが、その中のどれか一つでも断るってんならお前はあの連中の仲間入りで明日にはコンクリ詰めで海の底だ」
「そ、んなこと、できる、わけ……」
「俺のバックには乃木園子が居るんだぞ? 人一人消した程度もみ消せないとでも思ってんのか? で、今すぐ約束するか海の藻屑か、どうすんだテメェオイ!!」
恐喝+愛情たっぷりの壁ドン☆をくらったストーカーの男は泣きながら藤丸にカメラを手渡した。
藤丸はカメラのデータを確認し、SDカードを抜き取ると目の前でそれを粉砕。カメラ本体を返して何度もあの光景を忘れる事、友奈のストーカーを二度としない事に対して釘を刺すと、ストーカーを解放した。
ちなみに、通報しないと言ったが、実は既に通報済みである。園子&銀の権力に物を言わせた調査でこの男が余罪たっぷりなのは既に割れているので明日の今頃にはきっと取調室か留置所にぶち込まれている事だろう。
通報しないとは言った。だが通報済みとは限らない。汚い大人である。
走って逃げていくストーカーを見送ってから藤丸は改めて友奈の方へと戻った。
「さて、これで全部何とかなった」
「藤丸くん、なんかヤクザみたいだったね」
「シャルモンのオッサンならあれくらいするだろうなって思って恐喝を身に付けてみた。まぁ滅多にしないけどな。疲れるし園子に悪評が付くし」
あははと笑い飛ばした藤丸は改めて友奈に立てるか? と言って手を差し伸べたが、友奈は未だに腰が抜けっぱなしのようで手を貸してもらっても立ち上がる事ができなかった。
だが立たなければ帰れない。仕方ない、と藤丸は手を引っ込めると、背中を向けて友奈の前で屈んだ。
「ほら、背負って運んでやる」
「えっ……で、でも……」
「お姫様抱っこ、フェイスハガー、縦抱き、米俵、小脇、おんぶ。さぁどれがいい」
「種類豊富すぎるしフェイスハガーってなに……?」
だが人一人を運ぶとなるとそれぐらいした手段は無いだろう。友奈は暫く葛藤したが、お姫様抱っこ状態や米俵状態で運ばれるのはちょっと恥ずかしい。小脇に抱えられたり縦抱き、フェイスハガー状態はほぼ論外。そうすると一番マシなのがおんぶだ。
流石にこのまま立てるようになるまで彼にここに居てもらうわけにもいかないので友奈は大人しく彼に背負われる選択肢を取った。
友奈を背負った藤丸は特に苦も無く立ち上がると、友奈の家の方に向かって歩き始めた。
「軽いな、友奈は。これなら背負ったまま四国一周できちまいそうだ」
「もう……調子いいんだから」
友奈を背負う藤丸は人一人を背負っているとは思えない程に軽い足取りで歩いている。友奈は人を背負う事はあれど背負われる事はここ数年なかった。いや、おふざけで背負ったり背負われたりはあったが、こうして背負ってもらって運んでもらうと言うのは年単位でなかった。
それをしてくれている彼の背中は中学生の時のような子供らしさは残しておらず、がっしりと大人のソレになっていた。
そんな彼の背中はとても安心できた。人肌を直接感じられるからだろうか。それとも先ほどの恐怖からの転換故にだろうか。
「……けど、本当に友奈に傷一つなくてよかった。間に合って、本当に良かった」
「……あの時の藤丸くん、本当にヒーローみたいだった。ううん、わたしにとってはヒーローだったよ」
「ヒーロー志望の身としてはありがたいお言葉だ」
「うん。本当に、ヒーローみたいだった……」
そして思い返すのは、あの時助けに駆けつけてくれた彼の顔。彼の背中。
絶対に守り抜く。その意思が込められた彼の表情と背中を思い返すと、友奈の顔には徐々に熱がこもっていった。
端的に言えばカッコ良かった。自分のためだけにその表情を浮かべる彼が。自分を守ると宣言した彼が。そんな彼の背中が。とてもカッコ良かった。
気が付けば友奈の顔は茹蛸のような赤くなり、彼の肩に顔を埋める結果となった。
だが藤丸は何も言わず、友奈が安心しつくしてそのまま寝てしまったのだと思い込み、彼女を背負ったまま一人友奈の家へと歩く。その間も友奈の心は変なままで、背負われているだけなのに異常なまでに恥ずかしい。
そして数分ほど歩いたところで、あと一分か二分もしない内に友奈の家が見える所まで来た。
「友奈、起きろ。もうすぐ家に着くぞ」
「ん……」
「……ったく。もう少しだけな」
彼の優しい声色を聞き、どうしたらいいのか自分でも分からない友奈はそのまま背負われるがままの状態で結局家の前まで運ばれた。
その頃には抜けていた腰も何とか元通りになり、立てるようになっていた。
玄関前で下ろしてもらい、改めて友奈は藤丸と対面する。
「それじゃあ友奈。俺は帰るから」
「う、うん……」
「……怖かっただろうけど、もうストーカーも過激派もいないから安心して寝てくれ。なんかあったら電話してくれれば出るからさ」
友奈の、どう返事していいか分からないがとりあえず返事だけはしておこうという感じのうん。は怖さから来るものだと曲解した藤丸は最後に優しい声をかけると、そのまま自分が乗ってきた車を回収して帰るために走って去っていった。
それを見送ってから友奈は家に入ったのだが……そこからは自分が特になにをしたのかは覚えていない。
ぼーっと夕食を食べて風呂に入ってベッドに潜り込んで。気が付けば朝になっていた。
普通に快眠したので寝覚めはよかったし、いつも通りの時間に自分の店へ向かって出勤を始めたが、どこか心は浮ついたままだ。
あの視線はもう感じない。ボーっとした頭でそれに安心しながら店を開き、またボーっとしたまま昨日と同じ配置で花を並べ、カウンターに座って時計を見つめる。
そうしていると先週と同じような感じで店の前に車が止まり、同じようにスーツを着たぼろっぼろの園子と銀が降りてきた。
「やっほーゆーゆ~……」
「あ、園ちゃん、銀ちゃん」
「昨日の事後処理がやっと終わったんで報告だけしに来た……」
どうやら二人は昨日の夜からついさっきまでずっと仕事をしていたらしい。
これは二人の胃に穴があくのも近いかもしれない。そろそろ無理矢理にでも止めた方がいいのかなぁ、なんて思いながら友奈は一応銀からその後どうなったかだけを聞くことにした。
「とりあえず過激派連中は全員檻の中か解雇だ。もう友奈には手出ししないだろ。あと件のストーカーは今朝しょっぴかれた。これで友奈の周りはもう安全だ」
「その甲斐あってわたしとミノさん、今日明日明後日が休みなんだ~。やっと休めるよ~……あの老害共もっと働けっての。休んだら現場が動かないじゃねぇっての」
なんか園子様の黒い一面が垣間見えているが友奈さん、それを華麗にスルー。というかほとんど聞いていない。
ぽけーっとしたまま銀の言葉を適当に受け入れて園子の言葉は華麗に聞き流していた。
流石に寝不足疲労困憊の二人でもそんな友奈の異常に気が付いたのか目の前で手を振って友奈の関心をこっちへ引いた。
「どしたのゆーゆ。そんな間抜け面して」
「うーん……なんかね~。昨日藤丸くんに助けてもらってからこう……なんか変で」
「なんだなんだ、吊り橋効果で恋しちゃったとかか?」
ニヤニヤとしながら銀がふざけたが、恋と言う言葉がヤケに友奈の中に引っかかった。
今までは彼が恋人とか考えても論外論外と笑い飛ばせていたが、今はどうだ? 論外と言いたくなるが、言おうとするたびに昨日の彼が脳裏にチラつく。しかも思い出すたびに顔が熱くなるオプション付きで。
もし藤丸が最初から間に合っていて友奈を普通に助けたのではこうはならなかっただろう。だが、彼が友奈の助けに入ったのはもう詰みとすら言える場面。抵抗は無意味でもうどうしようもない時だった。
その瞬間に助けてくれた彼の顔が、背中が、優しい顔が、優しい声色が、自分のために怒ってくれた彼がどうしても脳裏から離れず……
「……えっ、マジ?」
「あ、あの天然人たらしのゆーゆが……?」
「園ちゃん、その天然人たらしってなんなの……?」
顔を赤くしたままツッコミは入れたが、もう友奈の態度からは一目瞭然。彼にホの字な感じだ。
園子と銀は顔を見合わせあり得ないと言わんばかりの表情を浮かべたが、すぐに先ほどまでの疲れた表情を一変させ、にや~っと笑うと、携帯電話を取り出した。
「それじゃあズラっちにデートの約束でも取り付けよっか。わたしの命令なら絶対だから確実にスケジュール合わせるよ?」
「その日にアタシ等の有休も組み込んで観戦を……」
「わー!? なんでそんな大事にするの!?」
『面白いから!!』
「最低だよこの行き遅れ確定組!!?」
わーわーぎゃーぎゃーと女三人寄れば姦しく。その日は結局営業にならずぎゃーぎゃーと自分達の事のように騒ぎ立てる行き遅れコンビをどうにか宥める友奈なのであった。
****
ある日の喫茶店。一人の女性が窓から離れた所にある二人用の席に座り、一人胸を抑えながら甘いコーヒーを口に運んでいた。
それから暫くして、喫茶店のドアが音を立てて開き、そこから入ってきた男が女性の前に座ると注文を頼む前に口を開いた。
「待たせちまって悪いな。ってか、まさかお前から食事に行こうって誘われるなんてな」
「そ、そう? 意外、だったかな?」
お洒落に化粧までした女性に男は笑いながら話しかける。
顔を赤くする彼女に彼は首を傾げながらもとりあえず会話を続ける。
「ちょっとだけな。で、今日は何か用があるのか? どっか行きたい所でもあるのか?」
もう十年以上女友達とは遊びに行くくらいしかしていない彼はいつも通りどこかに遊びに行くのだろうと思い笑いながら彼女に問いかける。
が、彼女から返ってくる言葉は少し違った。
「そういうのじゃないけど……あの、そのね?」
「うん、どうした?」
どこか煮え切らない彼女。彼はそれでも特に何も言う事無く、彼女からしっかりと要望が飛んでくるのを待つ。
そして。
「えっと、その……あの……わ、わたしは、ね? わたし、結城友奈は、藤丸くんが――」
彼女からの言葉は、予想だにしていない言葉だった。
聞き返す事すらせず彼は顔を赤くして一言だけ謝ってから数分ほど時間を貰って。そうして出た返答は、首を縦に振る行為。それを見た彼女はテーブル越しに彼に抱き着いて――
と、いう訳で友奈IF、いかがだったでしょうか。まぁストーカー被害から助けられて吊り橋効果的なので……みたいなお約束とも言える展開でした。
ちなみに最初はストーカーから友奈を守ったハゲが刺されて……みたいな感じにしようと思ってましたがそれじゃあちょっと薄いなーと思ってこのようになりました。まぁ大赦の腐った奴らならこういう事しそうだしね。
あと、この前に友奈IFとして書いていた話があるんですけど、そっちはゆーゆが保育園勤めの末に鬱になってハゲが介護していく末になんか互いに意識しあって……的なのを書いてたんですけど、ゆーゆが鬱になるとか考えられねぇやって事で一万文字くらい書いたのを没にしました。
これで残るIFは風先輩と夏凜ちゃん程度ですけど……書くのか分かんないっす。ただ、案で貰ったそれぞれのIF時空のヒロインズとそのIF時空全部の記憶持ってるハゲによる修羅場時空とかやってみたいなーって思ってたり。でもその前に銀のIFをもう一本上げて二人をくっ付ける?
そんな感じで怪文書を今回も書き上げた所で、次回は本編かIFかは未定。待て次回。