前回のIFで無事告白に成功したゆーゆは修羅場時空に叩き込まれたりしましたがその時の記憶はなくなって、藤丸くんとの恋人生活に四苦八苦している模様。
そんな感じのお話です。
結城友奈にとって恋愛とはあまり縁がないものだった。
その理由としては、単純に出会いがなかった。もしくは探しに行かなかったというものがあるが、最大の理由としては彼女自身恋愛に興味がなかったというのが挙げられるだろう。銀が恋人探しに爆死しまくり、園子も跡継ぎ問題やらなにやらで結婚を迫られたが、結果的には二人とも爆死の連続で仲間内の笑い話にしかならなかった。
そんな風に恋愛を笑い種の一種としてみて、下世話な欲求も子供が欲しいという欲求もあまり強くなかった友奈は今が楽しければそれでいいと言って恋愛に興味を割くことはなかった。
しかし、それもついこの間からガラッと変わった。
藤丸という男にハートを射止められ、同時にハートを射止めて彼を見事自分のフィアンセにしたはいいものの、恋愛未経験。二十五歳にして恋愛をスタートさせた友奈にとってはいったい何をどうしてどうしたらいいのかがわからないため特に恋人らしいことはできずにいた。
何せ馬鹿みたいにヘタレな藤丸と、恋愛未経験の友奈がくっついたのだ。結果的に恋人らしいことと言えば友奈がせがんだキス程度で、それ以上のことは付き合い始めてから早一か月経った今でもできていない。
「と、いうわけなんだけどさ、夏凛ちゃん。どうしたらいいのかな?」
「恋愛処女で下の方も処女な人間にそれ聞くか、普通?」
「わお、夏凛ちゃんにしては珍しいド直球な下ネタ」
とある居酒屋。つい最近できたというそこの個室で友奈はもう十年来の親友の一人である夏凛と一対一で酒を飲み交わしていた。
あまり酒には強いといえない友奈だが、そこは飲み方次第。すぐにジョッキを空にするような飲み方はしていないので飲み始めてから一時間経った今でも友奈はあまり酔っていなかった。
とは言え、二人ともちょっとずつ酔ってきているのでテンションも言動も若干おかしな方向に振り切り始めている。
「で、なんだっけ。藤丸と付き合っているけど進展がないからどうしたらいいのか、だっけ?」
「うん。夏凛ちゃんならそこら辺を進展させる方法とか思いつくんじゃないかなって」
恐らく友奈に何もなければ彼女に相談するということはなかっただろう。
だが何故か友奈は、夏凛はこういう話を振ると真剣に乗ってくれるし、結構中立な意見を飛ばしてくれることもあるので恋愛相談をするのなら夏凛一択、というのを知っている。どこでそんな知識を得たのかは全くもって覚えてないのだが。
どこかで青いのから聞いた気がする。
「……まぁそういうのってアレじゃない? やっぱベッドに行って無理矢理一日しっぽりと」
「あはは。あんまりふざけてると奢るのやめるよ?」
「いやマジで」
友奈さんが華麗に毒を吐いたが、それに対して夏凛は至極まじめな顔をして言葉を返した。
確かにまだ中学生等の若い時期なら婚前交渉なんてあまり勧められないが、もう友奈も二十五歳。あと数年でアラサーに突入するいい年ごろだ。藤丸の性格からして確実に浮気はしないだろうし、面倒なことは一気に省いてしまって結婚まで一直線の最短コースとは知るのが手っ取り早い。そう夏凛は思ったからだ。
「っていうかこの歳で処女ってのもねぇ? あたしの大学の友人なんてみんな結婚してるし、初めてなんて中学か高校って言ってるし……」
「結構爛れてるんだねぇ」
「むしろあたし達が色を知らなさ過ぎただけよ。あたしは別として、勇者部の面々はみんな顔も性格もいい所はあるんだからどこかしらで男を引っかけていても全くおかしくなかったってのに」
言われて、確かにそうだと友奈も同意する。
風は色を知りたがった……というか色を知ったかぶりしていたが、他の面々はそんなの知ったことかと毎日毎日バカ騒ぎ。銀も誰かと付きあいたいとか言いながらバカ騒ぎに混ざって男を見つけてくるということもしなかった。
高校大学と進学して知り合った新たな友人はその殆どが誰かと付き合ったことがある。そういうコトをした事がある、と言っていたような気がしないでもない。
まぁつまり。自分たちが中学二年生の勇者として戦った日から殆ど成長することなく……というかその時点でほぼ成長しきった状態で進学をしていったがために色を覚えるという人として普通の過程を歩まなかったのだ。
つまるところ、全員結婚なんていつかするときゃするししないんなら今を馬鹿騒ぎして楽しんじゃえと呑気に笑っていただけなのである。
「学校……じゃなくて職場でもちょっと大変なのよ? まだ結婚しないのかとか、結婚はいいですよ、とか。そういうのばっか。友奈も周りから言われてるでしょ?」
「わ、わたしは一回結婚経験してるし……」
「結婚未遂で終わったでしょうが。夫を消し去るっていう結果付きで」
「ここだけ聞かれるとわたしって相当酷い女の人だよね」
「その実はただの被害者だけどね」
二人して笑ってから杯を傾け中にある甘い酒を流し込む。
どこかまだ子供っぽい所を残す友奈はカクテルしか頼まないが、夏凛は飲み会に付き合っているからか生ビールを豪快に煽っている。
きっとこの光景を中学生の夏凛が見たら色々と難癖をつけてくるに違いない。そんなことを思いながら友奈はテーブルの上の料理を摘まみつつ、脱線した話をまた戻す。
「それで、話は戻すけど。やっぱり結婚最短コースを進むしかないのかな?」
「まぁそれが無難でしょ。それと、藤丸の家に転がり込んで同棲とかしてみるのもいいんじゃない? 友奈もいつまでも実家にいるわけにもいかないでしょ?」
「そろっそろお父さんとお母さんの視線もキツイのに代わってきたしそうしたほうがいいかも……わたしが変な男の人に捕まって金を貢がされそうになってるとか在らぬことを相談してたし……」
「なに? 紹介とかしてないの?」
「恥ずかしくって……」
「んなモン堂々とすりゃいいのよ、堂々と。勇者は度胸よ」
「中学生のわたしも多分そういうんだろうなぁ……とりあえず同棲の相談だけしないと」
とりあえず、今のところ作戦はそんな風に占めておいて、ここからは夏凛が高い料理を頼まないように安いおつまみで場を濁し続ける努力をしなければならない。
飲み代奢るから恋愛相談に付き合ってとか言ってしまったのだから金は持ってきた。だが、結構高い料理代に目をむいたのが一時間前なので、とりあえず何とかして出費は抑えなければ。
そう思っていたのだが、結局夏凛は一切の遠慮なくバカスカ料理を頼んでは食べていったので友奈のお財布は一時的に冬を迎えてしまうのであった。
****
「と、いうわけで今日から同棲しよ?」
「急だね君は。まさか荷物纏めて追い返せない状況でこっち来られるとは一切想像してなかったぞ」
翌日。友奈は自身の店を臨時休業にしてスーツケースとボストンバッグに自身の服やら何やらを詰め込んで藤丸の元へと転がり込んだ。
彼はこうやって相手を追い返せない状況に追い込んで交渉したら絶対に断らないとどこかの青いのが言っていた気がするので友奈はそれを即実行に移したまでだ。
店の表からではなく裏にあるインターホンで藤丸を呼び出し自分にできる最上級の笑顔で告げた提案に藤丸は困ったように笑いながら頬を掻いた。今現在シャルモン・ブラーボは絶賛営業中なのでどうしたものかと悩んでいるのだろう。
「てんちょー、このケーキのレシピってどこに……ってあれ? 友奈さん?」
「あ、亜耶ちゃんだ。おはよー、今日もシフトに入ってるの?」
「はい、今日もシフトです」
藤丸が固まっていると、店の中から厨房用の白い服を着ている亜耶が顔を覗かせてきた。一応今は仕事なので藤丸のことは店長と呼んでいるのだが、中学生のころから殆ど背が伸びず、強いて言うならば当時から長かった髪がまたちょっとだけ長くなっただけな上に雰囲気も未だに友奈と同等程度にはぽやぽやしているので、子供が親の仕事を手伝っているようにしか見えないとは常連さんの言葉だ。
そんな亜耶だが、どうもメニューのケーキのレシピがどこにあるのか分からなくなったようで、それを藤丸に聞きに来たらしい。
「友奈さんはどうしてここに? 店長に用事ですか?」
「うん。今日から同棲しよーって話に来たところ」
「今日から、ですか? 結構急なんですね」
「じゃないと藤丸くんって逃げちゃいそうだから」
「…………あー」
「おい亜耶ちゃん。そこで納得したと言わんばかりの声を出す理由を聞こうじゃないか」
「だって店長ってヘタレですし」
「まさか亜耶ちゃんからここまでのドストレートをぶち込まれるとは思わなかった」
ニコニコしながら軽い毒を吐いてきた亜耶だった。彼女だってもう二十四歳。立派な大人なので毒くらい吐いてくる。まぁ勇者部の面々が本気で吐いてくる毒と比べればまだ可愛い毒ではあるのだが。
毒を吐いてきた亜耶に対して藤丸は少し頭を抱えたが、まぁ周りの男と比べれば自分が彼女である友奈に対して大分ヘタレている……というか壊れ物扱いしてしまっている事実は変わりない。そろそろ青いのが自分を抹殺しに来るかもしれないし、悔いは残らないようにしたい。
「あー、分かった分かった。ここは友奈の提案を飲もう」
「あ、ホントにオーケーしてくれた」
「拒む理由も無いしな。ただ、今は仕事中だから……」
「今日はわたしもしずく先輩も居ますから早上がりで大丈夫ですよ? もしかしたらヘルプで呼ぶかもしれませんけど」
もう亜耶もしずくも一年近くはこの店で働いている。それ故に大体の事はもう頭の中に入っているし、藤丸が休暇を取って休んでいる時もこの二人が中心となって他のバイトと共に店を回している。
藤丸が全幅の信頼を寄せているというのもあるため、ポジションとしては副店長に近い感じなのだ。
故に今から藤丸が抜けたとしても特に問題は無いのだ。
ついでに。
「後ろの方でバイトの子達がニヤニヤしてますし、早く友奈さんを連れて行かないと質問攻めにあうと思いますよ?」
「げっ」
亜耶が呆れた笑顔を浮かべながら後ろの方に手をやると、その先にはニヤニヤしながら藤丸と友奈を見ている学生のアルバイトの諸君が。その後ろではしずくが適当に仕事を片付けているが、果たして彼女はアルバイト達に仕事をしろと言ってくれるのか。
だがそうなると仕方がない。そこら辺の自由が利くのは店長特権と言うか経営者特権ではあるのでありがたく使わせてもらう事にする。
「じゃあ亜耶ちゃん、しずく、後は頼んだ。なんかあったらすぐ俺を呼んでくれ」
亜耶が苦笑しながらそれに答え、アルバイト達もニヤニヤしたまま顔を引っ込めた。そしてしずくはなにを考えているのか分からない顔で変なハンドサインをしてきたので胸ポケットに入っているボールペンを思いっきりしずくの額に投げつけて叩き込み、藤丸は裏口のドアを閉じた。
ニコニコしている彼女に藤丸は頭を抱えるが、まぁそこら辺も可愛いのが彼女。溜め息一つ吐いてからこうなった以上は仕方が無い気持ちを切り替えて友奈と改めて見合うことにした。
「んで、友奈。ホントに同棲すんのか?」
「うん、そのつもりなんだけど……だめ、かな?」
「い、いや、駄目じゃないけど……」
ちょっとあざといとも言える友奈の首を傾げて上目遣いというコンボに一瞬藤丸の心臓が高鳴ってしまうが、とりあえずは冷静を装って友奈を自分の家……すなわちシャルモン・ブラーボの二階へと案内する。
裏口近くにある階段から友奈の荷物を遠慮する彼女から預かってから上り、彼女を家へと招き入れる。既に何度か藤丸は彼女を家に入れた事はあるので友奈も軽い気持ちでお邪魔しますの一言で家の中に入っていく。
「んじゃあ友奈の部屋だけど……とりあえず三階部分は丸っと使ってないからその中の一部屋にしておくか。あと、車も出すから友奈のベッドを買いに行くぞ」
「え? ベッド?」
「あぁ。タンスとクローゼットとかはあるんだけど、ベッドだけは無いからそれを買いに……って友奈さん? 何でちょっと膨れっ面……?」
藤丸が普通に考えていた事を口にしてそれでいいかと友奈に確認を込めて視線を飛ばしたが、結果はどうしてか友奈が膨れっ面を見せるのみ。きっと夏凜がいたら溜め息の一つでも吐いた事だろう。
「……藤丸くんはいつまでプラトニックなお付き合いしか頭にないのかな?」
「い、いや、だってそれ以外に……」
「男女七歳にしてとは言うけど、わたし達もうアラサー間近で付き合ってるんだよ? それなのに同棲してベッドが別って、今時の若い子でももうちょっと進んでると思うんだけど」
少なくとも友奈と美森が同居している間は部屋が狭かった事と美森が言葉巧みに友奈を誘導していったがために一緒のベッドで寝ていた。
いや、それとはかなり状況が違うので比べるのは少しばかり的外れだが、それでも恋人同士で同棲を始めるのにベッドが別というのはいささか付き合い方がプラトニックすぎる。
もう友奈だってアラサーに片足を突っ込みかけている年齢だ。中学生の時のピュアだった自分とは違い色んなコトを色んな所で覚えてきている。
いや、自衛のため、何をされるのか理解する必要があったから覚えざるを得なかったと言うべきか。赤ちゃんを作る方法はキスだと信じていた友奈にあの衝撃は大きかった。一瞬タタリの事を言及された時の表情になった。
「そ、そりゃそうだけど……」
「……ほんっと、藤丸くんってこういう色恋沙汰にはヘタレだよね」
「……ごもっともです」
いささか彼は人を大事にし過ぎる傾向がある。大事にしてくれるのは嬉しいが、だからと言って飾り物を愛でるかのように触れられては友奈がしたいと思う事もできやしない。
頬を膨らませた彼女に藤丸は頬を掻き、一応ベッド以外の家具は使える状態なので友奈を部屋に案内した。
「とりあえず、この部屋は自由に使ってくれ」
「……ちなみに、藤丸くんの部屋は?」
「隣だけど」
「じゃあそっちに荷物置くね」
「なんで!?」
「恋人が同棲するのに部屋が別ってどうかと思うよ? 将来的には一緒の部屋になるんだし」
「……はい」
二人ともこのまま別れる気なんてなし。結婚前提のお付き合いなのだからそんな奇妙な同棲をするわけがない。別に着替えを見られようとも、すぐにそれよりもアレな事をするわけだし。
友奈に振り回される藤丸はとりあえず友奈を自分の部屋に案内……する前に、ちょっとだけ散らかっているのでちょっと部屋の中に入って一人で片づけをする事に。
流石に彼とて一人暮らし故のちょっとした油断を見られたくはなかったのだろう。まぁそれくらいなら、と友奈は部屋の前で待つことに。
『とりあえず服だけでも……』
『ハゲ……コロス……』
『え? ……ヒィッ!!? と、東郷お前どっから!? ってか誰だ俺と友奈の関係教えた奴!!? ……ま、まさかコイツ、友奈の事をマジでストーキング――』
『ユウナチャンニヒッツクワルイムシ……シネェ!!』
『お、おまっ、どっから勇者時代の銃を持ってき死ぬゥ!!?』
待っていたら部屋の中からなんか聞き慣れた親友の声と銃声、そして想い人の悲鳴が聞こえてきた。これには流石の友奈さんも笑顔が消えた。
銃声が聞こえる部屋の中に友奈さん、何も言わずにエントリー。そのまま阿修羅と化し、顔を真っ青にしながら命乞いをする藤丸へと銃口を向けるクソレズの肩を叩き、振り向かせた。
そして東郷が笑顔で振り向いた瞬間、その顔面に勇者アイアンクロー。片腕だけで美森を持ち上げる。
「ゆ、友奈ちゃああああああ!!? 痛いわ、マジで痛いわこれ!! 潰れちゃう! ホントに潰れちゃうわ友奈ちゃん! でも気持ちいい!!」
「東郷さん。もうアラサーだっていうのに、まだやっていい事と悪い事の区別も付かないのかな?」
「え? い、いや、これはその、友奈ちゃんを汚す悪い虫を……」
「表出ようか。今回ばかりは本気でキレたよ」
友奈さん、マジギレ。能面のような表情で感情を感じさせない声で美森に処刑宣告をすると、そのまま顔面を右腕一本で掴んだ状態で美森を引っ張っていき、部屋の外へ。
そして外の方から恐らく勇パンらしき打撃音が何度も響き、美森の幸せそうな声が同時に響いてから数分後。黒塗りの高級車が店の前に止まり、ボロ雑巾となった美森が園子に引き渡された。恐らく数日は園子による説教が待っている事だろう。
そしてそれを見た藤丸は誓った。
友奈を怒らせてはならない。彼女、恐らく本気でキレると園子並かそれ以上に怖い人だから。
知り合ってから十年間、一度もマジギレしなかった友奈さんのマジギレ騒動は後にも先にもこれ一回……だったのかもしれない。ちなみに美森は三日後、ボロ雑巾状態で割とガチな養豚場の豚を見る目をしていた友奈に土下座をしていたそうな。
キレた友奈さん、きついや。
****
友奈マジギレ事件から一週間ほどが経過した。
今日も今日とて友奈は自分の店のカウンターでお仕事中。同棲をしたといっても日中の仕事は変わらず、互いに互いの店でお仕事をする毎日。そんな友奈の元に今日も一人の来客が。
「こんにちは、友奈さん」
「あ、樹ちゃんだ。いらっしゃーい」
訪れたのは、現在この四国でトップクラスの知名度を誇る歌手、樹だった。かつて短かった髪を伸ばした彼女はどうやらマネージャーの車に乗せてきてもらったらしく、店の前には車が一台止まっていた。
車はすぐに動き、近くの店と共有で借りている駐車場へと止まった。
伊達眼鏡をかけてマスクをしていた樹は店の中に入るとそれを外し、友奈に素顔を見せた。
「相変わらず、いい雰囲気ですね」
「ありがと。ちっちゃいのがどうしても難点だけどね」
「それがいいんですよ。こういうお花屋さんって、なんだかイメージ通りでいい感じですし」
会話をしながら友奈はメモ帳を取り出す。
樹がマネージャーの車でここに来たという事は、共演者やスタッフに送る花を買いに来たという事。
「それで、今日は? いつもみたいに花束?」
「はい。一つお願いしたくて」
「うん、じゃあ花束で……花の方は? いつもみたいにわたしが選んでおく?」
「じゃあ今回もそれで。友奈さんが選んでくれるとハズレ無しですから」
「本職ですもの」
まぁ、注文も大体こんな感じ。樹が花束を注文し、その花の内役は友奈が決める。在庫があるのならそれで花束を作ってしまいそのまま渡すかこちらで保管し、無いのなら取り寄せて花束を作ってから樹に連絡をして取りに来てもらう。
樹から世間話をしつつ、今回花束を渡す相手を聞き、頭の中でどの花とどの花を組み合わせようかを決め、そして世間話終了と同時に注文を確定させる。
「えっと、じゃあ花束は……うん、在庫で作れるね。もう作っちゃう?」
「そうですね……ならもう受け取っちゃいます」
「はいはーい」
メモに書いた花で注文を確約。値段は後で出すとして、とりあえず花束を作り始める。
最初は一つ作るのにも悪戦苦闘していたが、店を持ったあたりから花束を作るのはもう手慣れたものだ。友奈自慢の花をきゅっと纏めて見栄え良くしてから樹に手渡すと、彼女はそれを両手で受け取った。
「えっと、値段だけ出しちゃうね」
「はい。まぁ、いつも通り経費で落とすんで幾らになってもいいんですけどね」
「なら百万円っと」
「わたしの首が飛ぶやつですねそれ」
流石に花束で百万円はヤバい。友奈は笑いながらも使った花の値段やらを纏めて、なるべく安く、こちらに利益が出るような感じで値段を出そうとするが、その間に樹が再び世間話をしてきた。
「そういえば友奈さん。藤丸先輩と付き合い始めたんでしたっけ?」
「ん? そうだよ? でも樹ちゃんに話したっけ?」
「この間、園子さんと会った時に聞いたんです。お姉ちゃんも一緒だったんですけど、すっごい驚いたと同時に泣いてましたよ。先越されたって」
「風先輩も大概行き遅れ確定してるよね……」
「その言葉、わたしにも効くのでやめてくれません……?」
犬吠埼樹。現在、事務所の方針で恋愛禁止状態の、あと数年でアラサー歌手である。悲しいかなそろそろ行き遅れ確定である。
貰い手が見つかった友奈は余裕綽々。樹は遠い目をしながら時々あの社長め……とボヤく。このご時世、子供を生めや増やせや未来に繋げやと言った感じなのにも関わらず事務所が恋愛をNGにする辺り、芸能界に未だ根深く存在する西暦の遺産を感じる。
とりあえず友奈は値段を出し、樹がカードで払って領収書を貰い、売買は完了。樹はこの後すぐに移動……の予定だったが、外を見た樹はあっ、と声を漏らし、携帯を見た。
「……なんかマネージャーさんに用事が入っちゃったっぽくて、ここで待っててくれって連絡来ました」
「そうなの? でも樹ちゃんって忙しいんじゃ」
「流石にそこまでカツカツじゃないですよ。早めに移動してスタッフさんに挨拶して回ろうってだけでしたし、少し遅れても全然問題はありません」
ただ、時々カツカツにはなるらしい。苦労がにじみ出る樹の言葉に友奈は苦笑しつつ、一旦花束は預かって椅子を一個取り出し、カウンターの内側で樹と談笑する事に。いい暇つぶしになるだろう。
そして話は、先ほどの続きで友奈の交際状況についてだった。
「っていうか友奈さん、よく藤丸先輩と付き合おうって思いましたね」
「まぁ、そこにも色々とありまして……」
「一応聞いてますよ。藤丸先輩が友奈さんを大赦の人から助けたって」
「うん。実はわたし、誰かに守ってもらった事ってあまりなかったからそれで……」
「え? でも……あ、確かに。友奈さん、いつも前線でしたからね」
友奈はどんな時も前に居た。
バーテックスと戦う時も、天の神と戦う時も。守ってもらう事は確かにあったが、守ってもらえば同時に仲間を守って戦った。ああやって、守られ続けて守られ通されるという経験は、なかったのだ。
だからこそ、それでポッと吊り橋効果。友奈は安っぽいよねー、なんて言っているが、樹からしたらそうじゃない。
友奈は未だ純粋だから。勇者部のメンバーの中でも一際純粋な心を持っているからこそ、そういうお約束めいたことで靡いたのだろう。きっとその時、友奈の目に藤丸は正義のヒーローに見えたに違いない。
「でも、いいじゃないですか。あの人、何気に優良物件ですよ?」
「確かにそう思う。わたしなんかよりも立派なお店持ってて、一軒家まであるしね」
「しかも藤丸先輩のお店って芸能界でも結構有名なんですよ?」
「園ちゃんが紹介してたもんね」
「だから、結構な割合で変装した芸能人があそこに居るんですよ? 探してみるとテレビの中のあの人が見つかるかも」
「へぇ~。今度探してみよっかな~」
まぁ、その芸能人の一人に樹も勿論入っているのだが。
彼女の場合は藤丸とは同じ部活の先輩後輩関係であることを結構オープンにしているので、彼女のサインと藤丸と写った写真が何枚か壁に貼られていたりする。
芸能人が懇意にして四国一の権力者が優先的に引きずり込むほどの菓子作りの腕。確実に彼はどんな状況になろうと職を失うことは無いだろう。
「まぁそれは置いておいて、ですよ。同棲生活、どうなんですか?」
「そこも聞いたんだ……」
「夏凜先輩から」
「夏凜ちゃん、口緩すぎない……!?」
まぁ知られても困る事ではないのだが。
大人になってもやはり女というモノは色恋話が好きらしく、樹はニヤニヤしながら友奈の言葉を待っている。流石にこういう状況でのろけたことは無かったので自然と友奈の顔が熱くなるが、きっと言わないとこの視線からは解放されない。
視線を逸らしつつ、ちょっとずつ友奈は話し始めた。
「そ、それは……まぁ、普通だよ? 一緒のご飯食べたり、一緒のベッドで寝たり……」
「ふむ。つまり友奈さんはもう初めてを済ませたと」
「…………」
ド直球で下ネタを叩き込んできた樹だったが、友奈は何も言わない。
言いづらい、のではなく。苦笑しながらソノトオリダヨー、と。ありもしない事実を何とか事実にしようとしているような感じで。
それを樹が理解できないわけがない。
「……ちょっと待ってください。マジですか? あの人の理性硬すぎません?」
「樹ちゃん。藤丸くんって、中学の頃からずっとわたし達と一緒に居たんだよ? 距離が近かった事もあったし、一緒に海行った時もあったし、変なハプニングも極偶に起こってたし、藤丸くんは数年間亜耶ちゃん達と同居してたし……」
「そう言われるとあの人の理性おかしすぎません……? えっ、自惚れじゃないですけどわたし達、ガワはかなりいいですよね……? えっ、そんな状況下であの人、手を一切出さなかったんですか……?」
「時々セクハラ的な言動はあったけど、それだけだったよね……」
時々セクハラはあった。しかしそのどれもが場を一旦仕切りなおしたり盛り上げたりするような、おふざけのセクハラで友奈達も全然許せるタイプのギャグ的なセクハラだった。それに本気の下の話題は基本的に自分達の前では出してこなかった。
同性の友人と話す時はそういう話題を出す時があったが、自分達と居る時はそういう下関連の話題は基本出さないし、嫌らしい視線も飛ばしてこなかった。いや、飛んでくると思った瞬間に自分達が目潰ししていた事が過半なのだが。
そもそも彼は友奈のゴッドハンドにより抵抗不可能になった夏凜や園子などを見ても笑っているだけで嫌らしい視線などは飛ばしてこなかった。性欲盛んな中学生高校生なのに、だ。
そう考えると樹はちょっと怖くなった。あの人本当に男なのかと。
「……でも、芸能界に出て色んな男の人と会うと基本的に嫌らしい視線飛んでくるんですよね。藤丸先輩は飛ばしてこなかったのでそれが普通だと思ってたから、最初の方はこんな男の人ばかりの業界、嫌だなーって思ってましたし」
「まさか下着姿で抱き着いても爆睡されるとか思わなかったよ……」
その時、樹に藤丸ED説が浮かんだ。
だが、そんな友奈の誘惑を跳ね返す程度には彼の理性は硬いのだろう。ちょっと考えられない程度には。
そんな所まで防御力高くなくてもいいのに、と樹は天井を見上げた。今は樹も男とは下半身に脳が付いているのとほぼ同等な生き物なので嫌らしい視線を向けてくるのも仕方ないと割り切っているが、普通ならその例外にあった藤丸の理性がおかしいのだ。
「ゆ、友奈さん。もうこうなったら全裸しかありませんよ! 穴空いたゴム持って全裸で襲いかかるしか!」
「………………」
「ねぇ嘘でしょ?」
「藤丸くんってね、次の日に仕事があるとお風呂入るとすぐ寝ちゃうの。わたしがお風呂入る前に先寝るわーって言って」
友奈は忘れない。きっと暫くは起きているハズ、とシャワーを浴びて体を吹いて髪を乾かしてから全裸で突撃したら爆睡していた藤丸の事を。そのまま発展してゴムを使われたとしても大丈夫なように、針で穴をあけたゴムを持っていたのに。
彼が仕事がある日。つまりほぼ毎日。
これ、友奈が愛想尽かせて破綻するんじゃ、とか樹は思った。
「わたしってそんなに魅力ないかなぁ……」
「友奈さん! そう思ったら終わりですよ友奈さん!!」
樹は割と本気で藤丸ED説を提唱したのであった。それと同時に藤丸が何考えているのか割と本気で分からなくなった。
まさか小学生が考えるようなプラトニックなお付き合いがしたいわけでもなかろうに。
****
「……流石にさ、結婚前に手ぇ出すのは駄目だと思うんだよ、俺は」
「あはははは。藤丸先輩、ちょっと頭打ってきたらいいと思いますよ? 割と本気で」
「俺、亜耶ちゃんの能面みたいな真顔、初めて見たよ……」
一方その頃。藤丸は昼休憩中の亜耶と同じような事を話していた。
「で、でもさ。流石に結婚前に手を出すのはちょっとアレなんじゃないかって思うんだよ」
藤丸は決してEDなんかではない。むしろ友奈のアピールにそろそろ理性が限界を迎えようとしていたところだった。
しかし、彼はその主張を胸に友奈の誘惑を何とか跳ね返していた。
結婚を前提とは言えど、そんな簡単に手を出したらマズい。そんな事を思って何とか夜中は早く寝たり、下着姿の友奈を抱き枕にして自分にできる全力の早さで寝付いたり。
だがそれを聞いた亜耶は割と本気で呆れかえった。
確かに彼は立派だ。中学生高校生と多感なお年頃に自分としずくの二人と一つ屋根の下で住み、手を出す素振りすら向けなかったのだから。
だがその時と今とは話が別。流石の亜耶も友奈が可哀想に思えてしまった。
「藤丸先輩って馬鹿なんですか? いや馬鹿ですね、ごめんなさい」
「あ、亜耶ちゃんや……?」
「多分友奈さん以外の人だったら喧嘩別れ待ったなしですよ? まだ友奈さんが優しいから何とかなってますけど……」
多分、この場に酒があったら思いっきり煽っていただろう。カクテル一杯で顔真っ赤になるくらいにお酒弱いけど。
だが、そう思わざるを得ない位には彼の主張は馬鹿らしいと言うか友奈が可哀想と言うか。同性として亜耶は本当に友奈に同情していた。
「ハッキリ言いますけど、この歳になって婚前交渉は無しとかありえませんよ」
「いや、でもさ」
「じゃあなんですか。藤丸先輩は友奈さんと結婚する気もないのに付き合っていると」
「そんな訳じゃない! じゃないけど……ほら、友奈が心代わりするかもって」
「……しずく先輩、ちょっとこの人殴ってください」
「バッター、四番。フルスイング」
「えっ……ごっふぅ!!?」
どうしてか休憩室に入ってきていたしずくが洗いたてのフライパンで藤丸の頭部をフルスイング。いい音が鳴った。頭に何も詰まって無さそうな軽い音だが。
藤丸の言葉はさしもの亜耶も笑顔で受け止められない程だった。二十四歳、恋愛経験なしという行き遅れルートに乗りかけてはいるが、故に亜耶とてもう立派な大人だ。かつてのようにコウノトリが赤ちゃんを運んでくるとか、そんな幻想はもう捨てている。下ネタだって言おうとしたら言える。流石に恥ずかしいので言わないが。
だからこそ、だ。そんなナメくさった事を言っている藤丸にちょっとイラッと来た。だけど人を殴るのには慣れていないので丁度そこにいたしずくに殴ってもらった。
「友奈さんがそう簡単に浮気する尻軽女とでも?」
「い、いや、そういう事じゃ……」
「言ってる事、同じですよ」
亜耶から今まで聞いたこと無いような冷たい声が聞こえる。しずくも溜め息が止まらない様子。
「そもそも、ですよ! 友奈さんは藤丸先輩が好きでこんなにも色々してるんですよ!? なのに藤丸先輩はその好意の事如くを不意にしてるの、分かってます!?」
「い、いや、でも、流石に嫁入り前の体に……」
「藤丸先輩に嫁入りするんですから同じじゃないですか! だったらもう指輪をとっとと買ってきて婚約したらいいじゃないですか! じゃないと友奈さんの事ですから自分に魅力がないとか、好かれていないとか、満足されていないとか、自己嫌悪し始めますよ!?」
亜耶の言葉がバッチリ当たっているのは誰も知らなかった。
だが、そう言われて確かにその通りだと思った。自分の態度じゃまるで友奈に魅力が無いとか、そういう風に捕らわれてもおかしくないと。
「っていうか嫁入り前とか言うんならいつ結婚する気だったんですか!」
「そ、それは……こう、お互いに色々と落ち着いて……大体一年くらい先を予想してまして……」
「それまで手を出すつもりはなかったと。しずく先輩、もう一発」
「第二打」
「いっでぇ!!?」
この男は。本当にこの男は。
まさかここまでヘタレだとは思わなかった。亜耶は少し幻滅した。
まぁ確かに、今まで誰とも付き合ってこなかったのだから距離感を間違う程度なら仕方ないとは思うが、まさかそんな甘ったれた事を考えていたなんて。本当に彼は男なのだろうか。普通、男ってもうちょっとがっつく生き物なのではないだろうか。
「もういいです。藤丸先輩、明日……っていうか今日から三日間はわたしとしずく先輩で店を回しますから、友奈さんの所に行ってください」
「み、三日間って……」
「真昼間からでもいいからラブホなり何なり行ってこいって言ってるんですよ。それとも防人の皆さん使って押し込まれたいですか?」
「……疑似的にセ〇クスしないと出れない部屋を作るのも有り」
「最悪の場合はそれです。三日後に何も無かったらマジでやりますからね? その程度のコネ、わたしにもありますからね?」
「お前らマジか。マジか」
もう包み隠さなくなった亜耶としずく。もしこれが藤丸以外の男からの相談だったらこんなに言わない。
彼には恩義があるし、友奈にも恩義がある。だからこそ二人が幸せに居られるルートを歩めるように最大限のお節介をしているのだ。そしてそのためのルートは、もうそれぐらいの事をして彼の変に固まった理性を殴り壊す程度はしないといけない。
藤丸はでもでもだってと言ったが、マジギレ寸前の亜耶が藤丸の頬を片手で掴んでつべこべ言わずに行け☆と言い聞かせた結果、彼は逃げるように友奈の花屋へと走っていった。
「はぁ。藤丸先輩ってなんでああなっちゃったんでしょうね」
「……多分、わたし達が原因」
「誘惑が逆に多すぎて理性がカッチカチになっちゃった……って事ですね……」
彼の交友関係の九割近くが異性なのに気が付き、亜耶は溜め息を吐いた。
「……わたしも誰かと付き合って結婚したいです」
「国土。今はIPS細胞が」
「黙らないとIPS細胞でしずく先輩とシズク先輩の子供産ませますよ」
「……うっす」
国土亜耶二十四歳。一年前、同居していた芽吹という名のクソ緑にレ〇プされかけ、現在しずくと同居中である。一応仲は修復して今も時々会ってはお茶する仲だが、亜耶のトラウマのトップは同性からのレ〇プ未遂なのであった。
なお芽吹当時こう語ったという。
「手を出しちゃ駄目だと叫び続けていたけど、内なるリビドーが我慢できなかった。この世界が生み出した天使であり神聖の権化である亜耶ちゃんに手を出した事を本当に反省しているし、死ねと言われれば死ぬ所存である。寧ろ死刑になるべきだと思っている」
その時、芽吹は首にロープを括って今にも台から飛び降りそうだったとか。
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もうじき樹のマネージャーが戻ってくる。故に樹はそれまでの短い間に何とかして友奈を励ましたかったが、恋愛経験皆無な樹にそんな重大な仕事をできるわけもなく。徐々に友奈がアレコレ嫌な事を思い出して目からハイライトが消えかけている。
ヤバイ。このままじゃ確実にヤバい。いくら生意気後輩を貫いてきた樹でもこの状況はどうにかしないと、と思う程度にはヤバかった。
「……やっぱ同棲止めた方がいいのかな。本当は迷惑で……」
「ゆ、友奈さん! 自分にもっと自信を持ってください! 友奈さんはちゃんと魅力的ですから!」
あのハゲ、やらかしてくれたな。
樹の中にはそんな怒りにも似た感情があった。
友奈の精神にここまでダメージを与えるとか結構な物だ。会ったら一発殴って説教するのが必要かも。
そんな事を思っていると、スピード違反ギリギリの車が店の前で急ブレーキをかけて止まった。
「友奈!」
そしてそこからは今すぐ殴りたい男ナンバーワンの声が。
「えっ……? 藤丸くん?」
運転席から顔をのぞかせた彼の顔は大分焦燥感に包まれている。
一体何があったのやら。
「デート行くぞデート!」
「いきなり!? で、でもお店が……」
「樹ちゃんに任せりゃいい!」
「おい。ハゲおい。こちとら芸能人だぞおい」
このハゲ勢いに任せて何言っているのやら。
「いいからいいから! 明日の朝まで遊びまくるぞ!」
「あ、明日の朝!? 何でそんな急に……」
「いいから! 夜中に帰れるとか思うなよ!!」
なんかもう色々と勢いがヤバイ。というか勢いしかない。あれよあれよという間に車から降りてきた藤丸が友奈の手を握り、そのまま彼女を助手席に乗せるとどこかへと走り去って言ってしまった。
そして残ったのは樹一人。
マジ? と呆然とする樹。そんな彼女の肩を誰かが叩いた。
「大丈夫よ、樹ちゃん。片付けとかは私が全部分かるから」
振り向くと、そこには青いのが。
「……いつの間に?」
「樹ちゃん達の会話を盗ちょげふんげふん。偶々聞いていたのよ」
「じゃあ何でここのあれこれが分かるんですか?」
「そんなの隠しカげふんげふん。愛の力よ」
美森の返答に樹はそっと笑顔を向けた。
直後、とある番号に電話をかけ、数コールで出てくれたその人に対し樹は何の遠慮もなくありのままの現実を教えた。
「もしもし園子さん? レズが友奈さんのお店に隠しカメラと盗聴器仕掛けてたみたいなんですよ。とっ掴まえてください」
「ちょっ」
「へいわっしー? オハナシがまだ足りなかったようだね?」
「げぇっ、そのっち速すぎぃ!? ち、違うの! これには訳が……」
「今度は海の底三日間コース、しよっか。ズラっちも耐えられたからわっしーも耐えられるよね?」
「こ、コンクリ詰めだけは許してそのっちぃ!!」
そのまま青いのは紫のにドナドナされていき、店の片づけはオープン直後に数回手伝ったことがある銀が引き受けてくれた。
とりあえずあの二人、上手くいけばいいんだけど。樹は片づけを手伝いながらそう思っていた。
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三日後。
「じ、実はその……ラブホ行って、いざ本番って時に恥ずかしくなって藤丸くんを突き飛ばしちゃって……そのまま休暇が終わっちゃって……」
「俺、友奈にもう愛想尽かされたのかも……そうだよな、こんなヘタレ男、願い下げだよな……」
『このヘタレ先輩達ほんっとめんどくさい!!』
樹と亜耶が全く同じ時刻に同じ叫びをあげたとかなんとか。
どうやら二人が大人っぽい事をするのはもう少しだけ先の事らしい。なお、亜耶は真面目にセ〇クスしないと出られない部屋の構築を検討したとか。
藤丸:相手が積極的になるとヘタレ
ゆーゆ:相手が積極的になるとヘタレ
そんな事が判明して結局ヘタレ同士のお付き合いは周りを巻き込んでドタバタしています……的な話でした。多分ここまでマジギレした亜耶ちゃんを書いた話はここくらいな物でしょう。それに偶にはIFでカッコ良くないハゲを書きたかった。こいつの本質こんなもんやぞって。
多分IFでこれだけキャラが出てくるのは初めてですね。多分風先輩以外は出てきたと思います。ごめんなさい風先輩、あなたの出番思いつかなかったんや……!!
ゆーゆIFは告白の後こそが一番の難関でしたとさ、という話でしたが、まぁこの後は流石に後輩たちに尻を蹴られてヘタレ共も覚悟を決めたでしょう。
IFの投稿が続いていますが、許してヒヤシンス。とりあえず銀IFと須美IFのその2だけは投稿しちゃいたい感あるので付き合ってクレメンス。