ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回は前回のアンケートで夏凜IFのプロトタイプを見たいという意見が過半だったので夏凜IFのプロトタイプ版を投稿します。

大まかな話の流れはそのままに、ちょっと内容をグレーと言うかブラックな感じにした話です。本当に色々とガバガバですし、こんなんにぼっしーじゃないって意見もあると思いますが……まぁ、ご容赦を。それを自分で考えて書き直す前の話ですので。

あと、今までのIFと比べて短いのはご容赦を。ギャグ挟まないと結構短くなるんや、このプロット。


夏凜IF:夏凜の未練another

 歳を取ったら人間というのは自動的に大人に変わっていくものなのだと、夏凜は思っていた。

 十年前は絶対に吸わないと言っていた煙草を口に咥え、煙を吸って煙を吐く。

 既に中学校を卒業してから十年近い時が経った。高校、大学と上がっていく中で夏凜の中にあった完成型勇者としての誇りは徐々に薄れていった。

勇者としての戦いが完全に終わり、十六を過ぎた頃には勇者としてのお役目は二度と来ることは無いと、そう園子から伝えられ。

 それからと言う物、夏凜の中にはポッカリと穴が空いた気がした。

 大赦に選ばれ、勇者としての訓練を積んで、世界を救って、勇者としてのお役目が終わって。それからようやく分かった。

 自分はその先を見ていなかったのだと。向こう見ずの無謀だけで勇者を目指していた事を。

 

「……はぁ。仕事怠いわね」

 

 大赦の職員の一人として流されるままに就職した夏凜。それは、園子と銀のコネで相成った就職だった。夏凜のような者が部下に居れば、という園子と銀の頼みを真に受け大赦に就職し、そして一人のOLとしては中々にいい道を歩んでいるという自覚がある。

 給料も良く、残業は少なく、有休も取れて。しかしその金も休みも、夏凜自身は溝に捨てているという自覚があった。

 ――高校の時だったか。夏凜は何度か恋人を作った。

 普通の人間として生きる。だから、普通っぽい事をしようと。特に好きでもない男に告白されて、それを受け入れて。しかしその男とは波長が合わずに別れる。それを夏凜は高校の内に二、三度は繰り返した。

 風からは呆れられ、美森からは説教され、友奈からは次があるよと諭され。そうして次を作ればまた別れて。

 なまじ顔がいいだけに告白してくる人間はそこそこ居た。大学を卒業するころには別れた男の数は片手の指一杯程度にはなっていた。その半分とは体を重ねた仲にもなっていたが、結局は別れる羽目になった。

 

「……そろそろ銘柄、変えようかしら」

 

 今吸っている煙草も、確か大学生になって二人目にできた彼氏が吸っていたから真似したんだっけか。既に何度も変えた煙草のパッケージに目を落としながら、煙を吸う。

 そうやって、普通の人として生きようとして、どこか普通からは道を外れた夏凜は流されるままに生きていった。その結果が、大赦への就職だ。なんというか、自分で考えるのが面倒で。ボーっと生きて提案に頷き続けていたらこうなっていた。

 中学生の頃の自分が見たらなんと言うか。情けないと言うのか。完成型勇者として云々かんぬんと説教してくるか。何となくそれが想像できて夏凜は気が付けば短くなった煙草を灰皿へと押し付けた。

 

「……今日も頑張りますか」

 

 同僚から来ていた、交際を考えてほしいという旨のメッセージに断りを一つ入れ、夏凜は寝間着すら着ていない下着姿のままベッドから体を起こした。

 そういえば、最後にシたのっていつだったっけ。

 最後に恋人と別れた日が既に一年か二年以上前だという事にようやく気が付いた夏凜は、そろそろ結婚も考えなきゃ、なんて漠然と将来の事を思って。

 どうせなら結婚を視野にこの男と付き合っときゃ良かったかもなんて思い、スーツの袖に手を通した。

 三好夏凜、二十五歳は今日もまたいつも通りの毎日に身を置く事となった。

 

 

****

 

 

 自分がクール系でサバサバした感じの、大人っぽい女性だという評価をされている事に気が付いたのは、同性の同僚からの言葉だった。

 喫煙所で煙草休憩、何て言ってサボりを正当化しつつ携帯を見ていたら話しかけられ、そんな話にいつの間にかなっていて。へぇ、なんてその時は言ったが、デスクワーク中にふと思い返せばおかしいなぁ、と思ってしまった。

 かつての自分は、例えるなら情熱の赤。勇者という使命に情熱を燃やして毎日を必死に生きて、世界を救うために戦い続けた。そんな、情熱の赤。そんな自分がクール系でサバサバした女、なんて言われる訳がない。

 変わったなぁ、と溜め息が漏れる。

 

「にぼっしー」

 

 頬杖ついて自分の作成した書類に不備が無いかを確認していると、後ろから声をかけられた。

 振り向けばそこには何時しか自分の上司になった親友の姿が。

 

「あぁ、乃木様。どうかしましたか?」

 

 大赦は会社ではない。だから園子の事は乃木社長とは呼ばず家柄故に乃木様と。周りが言っていたから夏凜もそれを習って、プライベート以外では乃木様、と彼女を呼ぶ。

 もっとも、彼女はそれをあまり好いてはいないようで、乃木様と言うたびに面白くなさそうな顔をする。

 十年前から変わらず可愛い人だ。自分とは違って、しっかりと芯が通った、可愛らしい人。

 

「ちょっとお仕事の事なんだけど、追加で頼みたい事があって」

「残業ですね。分かりました」

「ごめんね。代わりに明日は休みでいいから」

「やる事も無いので大丈夫ですよ」

 

 園子の差し出してきた書類を受け取れば、見るだけで面倒な仕事だというのが分かった。

 これは終電近くまで残ってやっと終わり、というレベルか。やっぱり面倒だから、と言いたくなったが園子はこれよりも更に面倒な仕事を何十件も抱えて毎日深夜まで仕事をしている。

 そう思うと突き返す事なんてできなかった。

 それに、合法的に明日は休んでいいという許可も得た。明日の分の仕事を今日やるのだと思えばまだ精神的には耐えられる。

 合法麻薬(タバコ)もまだある事だし。

 

「……煙草、体に悪いよ?」

 

 とりあえず気付けに一本、と煙草とライターを片手に立ち上がると、園子が小さな声で告げた。

 こういう時は上司と部下ではなく、園子と夏凜としての会話だ。

 だから、夏凜も普段通りの口調で返す。

 

「分かってるわよ。分かってるからこそ、よ」

 

 あぁ、本当に変わったな。

 今も昔も変わらない彼女と比較して、改めてそう思った。

 ――結局、この日の仕事は夜中の十一時まで続いた。残業代が楽しい事になっている事間違いなしだ。

 

 

****

 

 

 仕事はとてもとてもくたびれた。

 やりがいなんてモノは感じず、ただ金が貰えるからと仕事して。そうして終わった仕事の報告だけを簡単にして返ってこない返事を待つことなく帰る。既に居酒屋やコンビニ以外の店は閉まっており、夜食を食べるような時間になった今現在、夏凜は帰り道にこの時間からでも食事ができる店が無いかと記憶を漁っていた。

 しかし記憶にそんな店はなく。強いて言うならコンビニだけ。

 今日もコンビ二飯か、と財布の中の現金を確認しようとして、胸ポケットの煙草が目に付いた。今日だけで十本以上は中身を減らした煙草は、そろそろ新しいのを補充しておかないと明日の仕事中には無くなってしまいそうだ。

 丁度いい機会だし銘柄でも変えてみるか。数年前の彼氏が吸っていた銘柄を吸い続ける意味も無いし。

 そう思いつつ夏凜の足は近場の喫煙所に。

 先客のいる喫煙所で夏凜は煙草を一本咥え、息を軽く吸いながらライターで火を付けようとする。が、ライターの調子が悪く、小さな火の粉が散るだけ。

 イライラ。そんな擬音が出てきそうだった。

 

「……よかったら、使います?」

 

 そろそろ癇癪を起してライターを地面に叩きつけたくなってきた所で、喫煙所の先客が声をかけてきた。

 

「あぁ、ごめんなさい。使わせて……」

 

 親切を断る理由もない。それに、たかがライター一回分。遠慮するほどの親切でもない。

 だから夏凜は視線を上げてライターを借りようと、相手をその視界に収めて間抜け面を晒した。

 なんてことはない。そこに居たのが顔見知りの知り合いだったからという簡単な理由だ。

 

「……って、藤丸?」

「ありゃ、お前夏凜か。気づかなかったわ」

「奇遇ね、あたしも」

 

 自分の中学校からの知り合いの中では唯一の異性、藤丸。彼が煙草を咥えながら間抜け面でこっちを見ていた。

 そういえば、顔を合わせるのは久しぶりだ。大学を出てからは用事が合わなかったりしたので年に数回会えればいい方だったが、まさか喫煙所で会う事になるなんて。

 ライターを受け取り煙草に火を付け煙を吐けば、彼ももう一本、なんて口にしてわざとらしく煙草を口に咥えた。銘柄は、女性の喫煙者が多いタバコ。ピアニッシモ、だったか。

 

「久しぶりだな、夏凜。調子はどう?」

「まぁまぁ。そっちは?」

「こっちもだ」

 

 園子の専属となった彼だが、どうも園子専用の部屋で時折仕事の手伝いをさせられているらしく、パティシエとしての仕事以外にも色々とさせられていると銀から聞いたことがある。

 今日もそれに付き合わされて大赦に残っていたのだろう。彼の顔には若干の疲れが見える。

 

「……ってかあんた、煙草吸ってたのね。意外だわ」

「元カノが吸っててな。付き合って吸ったら止められなくなった」

「へぇ。彼女いたんだ、あんた」

「もう別れたけどな。夏凜は元カレが吸ってたんだったか?」

「そうよ。あんたと同じ動機」

 

 身長差は大体二十センチ。軽く見上げないと目が合わない彼と目を合わせるのはどこか億劫で、夏凜は下を向いて煙を吐きながら久しぶりに会った友人との会話を楽しむ。

 ピアニッシモ。その煙草を吸っている理由が分かった夏凜は何となく彼のイメージが変わった。そういう体に悪そうなことはしないと思っていた彼のイメージが。昔から子供っぽく大人っぽい事はしていなかった彼が煙草を吸っているのは、意外で。

 どこか自分と照らし合わせてしまった。

 

「夏凜は今日残業だったか。お疲れだったな」

「大したことじゃ……いや、大したことだったわ。正直めんどくさかった」

「園子もお前にそんな仕事押し付けた事、ちょっと気に病んでた」

「気にしなくてもいいのに。あの子が気軽に大事な仕事任せられるのって身内しかいないんだし」

 

 園子は今も昔も、言ってしまえば身内贔屓が激しい。

 自分や藤丸のような昔からの交友を持っていた人間にはかなり甘い彼女だが、それが他人になれば彼女はかなり厳しい。そんな彼女が面倒な仕事を身内に押し付けて気に病むのは何となく目に見えていた。

 しかし、そんな彼女だからこそ、時折身内に面倒な仕事を頼むときがある。

 他人にこの仕事を任せたら嫌な顔をされないか。この大事な仕事をミスした時、この人を庇いきれるのか。庇うだけの価値があるのか。

 なまじ優しい彼女はそう考えてしまい、結局は面倒な仕事や大事な仕事は身内や自分に回す。

 彼女の悪い癖だ。なまじ優しいから自分で嫌な事を抱える時がある。それを押し付けてしまい、気に病むときがある。

 

「最近友奈達とは会ってる?」

「あぁ、会ってるぞ。この立場だし、時折伝令係として走る時がある」

 

 一度話し始めると案外次々と会話の種は出てくる。

 特に自分達の共通の知り合い……つまりは友奈達、元勇者の事。

 彼女達はそれぞれ違う職種に就きながらも大赦所属の肩書を背負っている。友奈は教員として働き、美森は学者として働き、樹は歌手として働き、風はデザイナーとして働き。それぞれがそれぞれの業界の裏を探って膿を見つけ、園子に報告している。

 言うならばスパイ。それが今の勇者達の職業だった。

 その中で、普通に大赦でOLをしているのは自分だけ。

 だって怠かったんだもん。仕方ない。

 

「どうよ、あいつら。元気してた?」

「あぁ、元気だよ。なんつーか、人生エンジョイしてる感じだな」

 

 翳ったのは自分だけか。

 そう思いながら煙を吸えばちょっとは気の持ちようが変わる。

 

「けど、婚活したいとか言ってたな。俺も親にそろそろ孫の顔を、とか言われ始めたし」

「何よそれ。面倒ね」

「けどそろそろいい歳だしな」

 

 もう二十五歳。結婚して子供が居てもおかしくはない歳。

 現に高校、大学の同級生には既に結婚している者が数人は居る。子供を産んでいる者だって居る。

 なのに自分と来たら。結婚なんて考えず、まるで別れる事前提で何人も男と付き合っては別れて。

 

「あたしもそろそろ結婚した方がいいのかしら」

「しようと思ってできる事でもないだろうに」

「それもそうね。付き合うだけなら簡単なのに」

「そういやお前、高校に入ってからは結構彼氏作ってたよな。何人?」

「今までで五人ね。けど就職してからは一度も彼氏作ってないわ」

「作る暇も無いと」

「断ってるだけよ。面倒だし」

 

 今日も一人朝にフッたし。

 気が付けば煙草はまた短くなり、息を吐きながら灰皿に短くなった煙草を叩き込んだ。

 さて、これからどうするべきか。明日は休みだしどうせなら酒でも買って帰って酒盛りなんていいかもしれないと思ったが、一人で酔って一人で部屋で騒いでも寂しいだけだ。

 とか思い隣を見ると、丁度いい相手が居た。

 

「ねぇ、これから飲みに行かない? あたし、明日休みなのよ」

「今からか? 別にいいけど」

「なら行きましょ」

 

 久しぶりに会った事だし今日は飲み明かそう。

 喉の渇きを何となく覚えながら夏凜は彼を隣に立たせ、自分の知っている中では一番近くて喫煙席もある居酒屋へと歩を進めるのだった。

 

 

****

 

 

 溜め息を吐きながら、夏凜は自分のガードの薄さにあきれ果てた。

 何故なら夏凜は今、一系纏わぬ姿でベッドから上半身を起こしており、隣を見れば昨日共に飲みに行った友人の姿が。記憶がないが、まぁそういうコトだろう。

酒って怖いわー、と呟きながら今日も寝起きの一服。今日も元気だ煙がうまい。

 一本吸い終わって、この部屋が自分の部屋でもホテルでもない事から恐らく藤丸の住んでいるアパートの一室であることを何となく理解しながら、シャワーでも浴びるかと立ち上がろうとすると、隣で一夜を共にした友人が呻き声をあげながら起きた。

 

「う゛ぅぅ……かりん、いまなんじ……」

「朝九時」

 

 いつもなら遅刻確定の時間だが、生憎今日は園子様から休みを頂いている。この男は知らないが、まぁ自分だけなら問題なし。

 いつからかハゲもスキンヘッドとして見たらそこそこ似合うようになっていた彼は自分の携帯を探り当てると、メッセージを軽く流し見して携帯をぽいっと投げ捨てた。画面割れるぞ、と言っても彼は呻き声しか上げない。

 

「ってか仕事は」

「きょうやすみ……」

 

 まぁ、そうでもなきゃあんな時間から飲みに付き合ってはくれないだろう。

 暫く枕を抱いて眠気を隠そうともしなかった彼だが、夏凜の視線を十分独り占めしている事にようやく気が付くと、かなりスローペースで起き上がった。

 

「はぁ……学生みたいに盛るもんじゃねぇな……」

「そんなにシたっけ」

「お前が恋人記念日だー、なんて言って襲いかかってきたんだろうが……」

 

 その言葉に夏凜が間抜け面を晒した。

 そういえばそんな事言いながら襲いかかったような襲い掛からなかったような。というかシャワーも浴びずに襲いかかった気すらする。

 学生時代、五人と付き合って別れたとか言ったらビッチとかふざけて言われて記憶があるが、今言われたら否定できない。というかサラッと付き合い始めてることになっているのはこれ如何に。

 ペロちゃん人形のように目を逸らす夏凜に藤丸はジト目を向ける。

 

「覚えてねぇの?」

「……まぁ、人間は過ちを犯す生き物よ」

「いつから記憶ねぇの」

「……居酒屋入って一時間程度」

「お前なぁ……」

 

 藤丸の呆れた声に夏凜は久しぶりにテヘペロした。

 思いっきり頭に手刀を叩き込まれた。

 

「あうち。ちなみに、昨日あたし何言ってた?」

「結婚考えている者同士付き合った方が早い、とか付き合わなきゃ殺すとか、宅飲みに切り替えたら今度はヤらせろー、とか」

「あー……知能クッソ低そうな事言ってる……」

「実際終始アホ面だった」

 

 まぁ、でしょうねと返す。

 しかし、言われてみれば確かにそんな記憶が出てくる出てくる。居酒屋でダイナミック告白紛いをした記憶も、好き勝手言った記憶も、コンビニで酒買いながら彼の腕に抱き着いていた記憶も。

 そんな歳でもなかろうに、と思いながら酔いの限界を超えた自分に呆れる。理性の枷外れすぎだろ。

 

「お前、そんなんだとお持ち帰りされるぞ……」

「普段は記憶が飛ぶまで飲まないわよ」

「それならいいけど」

 

 実際、夏凜は飲みに行ってもそんなに飲むことは無い。

 精々ソフトドリンクや水の代わりに酒を飲む程度。部屋で酒盛りをしてもそんな記憶が飛ぶほどの酒を買い込む事なんてない。

 酒を愛しているほど好きではないというのもあるが、単純に酔った時の体の怠さがあまり好きではないという理由で夏凜はほろ酔いになる程度にしか飲まないのだ。最も、昨日は疲れもあってかそれを忘れてカッパカパと酒を胃に流し込んだようだが。

 

「で、どうすんの。昨日の言葉と今のコレ、無かった事にするか?」

 

 体を伸ばしてさてどうするかと悩んだ所で藤丸から言葉が飛んできた。

 彼の提案は、この現状に繋がる全ては無かったという体にしてこの現状も消し去る事。まぁ、言う事もやる事も簡単だ。彼がそう言っているのだから後はその提案を受け入れればそれで終わる話。

 確かにそれは良い提案だ。その方が両者の後腐れはなくなる。

 けれど、夏凜が昨日言ったこともある。婚活やら結婚やらをこの状況を無かった事にしてまでする意味はあるのか。自分の全てを知らない人間に好意を寄せる必要があるのか。

 今、全裸の自分を極力目にしないように壁を見る彼に視線をやると、なんだよ、と彼は軽く悪態づいた。

 

「いや、別にいいわよ」

「いいって……」

「まぁ丁度いい機会だし。結婚前提の付き合いしましょ?」

 

 言葉こそ軽いが、それでも夏凜はしっかりと考えた。

 確かに酔った自分が強引に取り付けた事ではあるが、今のクール系でサバサバした自分しか知らない男よりも、昔の情熱的だった自分を知る男の方がいい。

 付き合って、結婚して、自分の素を見せて幻滅されるよりかは自分の全部を知っていてそれで尚付き合う事を了承してくれている彼の方がまだマシだ。

 

「……夏凜がいいって言うんならいいけどさ。でも、そんな簡単でいいのか?」

「いいのよ。それに、こんな歳だし大恋愛の末の結婚なんかよりもこういう惰性の結婚の方がそれっぽいでしょ?」

「まぁ、それもそうか」

 

 所詮お見合いや合コンでひっかけた男と結婚するとしてもこんな軽い感じで付き合う事になるだろうし。

 そんな夏凜の内心は露知らず、彼はそれじゃあ。と一言告げると廊下の方を指さした。

 

「あっちに風呂あっから、入ってこい」

「二回戦でもする気?」

「馬鹿言え。事後に風呂も入らず着替える気かよ」

「冗談よ。んじゃ、お先にシャワー借りるわ」

 

 大人になって変わっていった自分の内心と、変わっていった代償として空虚な穴だけを残して消えていった子供の頃の自分が熱中していたモノ。それを埋めるために色々としてきたが、どうやら彼女の人生は親友達の手で色づき、親友達を巻き込んで完結していく。

 きっと、楽しい事を楽しみたい気持ちは子供のまま。でも、それを取り繕う外観は大人になっていって。

 でも結局の所、子供の頃のように馬鹿出来る奴と一緒に居るのが好きらしい。

 ――とりあえずこれからは勇者としてのお役目に情熱を注ぎこんでしまったが故に空いてしまったポッカリ空いた穴を女としての幸せを模索しつつ埋めていこうと、三か月後に彼から渡される指輪と共に夏凜は何となーく誓ったのだった。

 

「お前、クールでサバサバって言うか、ただ色々と緩くなっただけじゃね?」

「誰の股がガバガバよ」

「言ってねぇよ」

 

 でも彼の言った事は的を得ているのかも。

 貞操観念も、結婚への志も、仕事への情熱も、ぜーんぶゆっるゆるに。それでも人生楽しい時があるのだからなかなかどうして面白い。それが分かる人は多分後にも先にも彼だけに終わるのだろう。

 そういうお話。




まぁ、そういうお話でした。

書き直した理由としては、単純に夏凜が幾ら怠さに負けてもこうはならんやろってのが一番です。なので夏凜っぽさを残すのを一番に書き直したらああなった。どっちにしろガバガバというね。

あとは最後らへんの話の整合性整ってないかもー、とか。そのっちの出番ー、とか。ハゲの出番―、とか。そういうの全部込みで書き直した方がいいなと思って書き直したらああなった。

とりあえず変わんないのはガバ理論はそのままって事です。
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