やっぱ書いている最中、青いのとは別のキャラ書いている気分だったので東郷さんと須美ちゃんって完全に別人ですね。二年後の極限進化形態が酷すぎる件。
イチャイチャが足りねぇぞと言われたら続きで本当にいちゃいちゃするだけの話を書くかもしれません。
あと、この話の投稿を思いっきり誤爆して三十秒ほど投稿状態にしていたのですが、その間に見れた人はマジで運が良いと言っておきます()
人生とはままならない物だ。
何故なら折角二年越しに初恋の人と結ばれたと言うのに道のりはとてつもなく険しかった。まぁ、もしかしたら今までの道のりみたいに何か面倒事が起こるんじゃないかなーとは思っていたのだが、まさか本当にそれが起こるとは思ってもいなかった。
数か月もしない内に巫女数人を犠牲にして壁外の炎を鎮める奉火祭を須美が体と命を張って止める羽目になるとは思わなかったし、それすら止められるとは思わなかった。しかもそこから天の神との戦いに発展したり、それを友奈がワンパンで撃退するとも思いもしなかった。
もう予想外にも予想外。ちなみに須美が体と命を張った後、桂が入院する彼女に一日中抱き着いて離れなかったりする珍事件があったりしたのだが、まぁ須美と桂が絡めば大抵勇者部員が砂糖を吐く案件となった。
そして今日も。
「あー……須美ってやっぱ抱き枕の才能あるって……」
「全くもう……部室でくらい離れなさいよ」
「って言いながら東郷さん、すっごいニヤニヤしてるよ?」
「あらら、バレちゃった?」
須美と桂、それから友奈は部室に持参したコタツを置きまったりとしている、のだが、埋まっているのは四辺の内二辺。須美は桂の膝の上に座らされ、桂はそんな須美を後ろから抱きしめている。
当初は須美が甘える頻度の方が高かったが、桂が完全に記憶を取り戻してからは大体半々くらいになり、二人ともそれを文句の一つも言わずに受け入れる。
絵にかいたようなバカップルっぷりであり、そんな風にバカップルしている二人と普通に会話できるのは友奈位で、それ以外の部員はちょっと離れた所で椅子に座ってげんなりとしている。
「……まっさか東郷に恋愛で抜かされた挙句、こんなバカップルっぷりを見せられるなんて……」
「砂糖吐きそうです……」
「ねぇ、園子、銀。あいつら昔からあんなんだったの……?」
「んなこたねぇよ……ってかフラグ建ってるなんて思いもしなかったし……」
「まさかの最後にちゅーだったからね~。あれにはわたしもビックリだったよ~」
唯一ニコニコしているのが園子だが、笑顔の中にちょっとした渋みが見え、園子も実はあのバカップル共に飽き飽きしているのが目に見て分かる。
特に風に至ってはげんなりというかしんなりと言うか。二人のバカップルっぷりにやられて完全にダウンしている。
勇者部の中では銀と同程度にはそういう甘い事に憧れている風が、そんな二人のイチャイチャを見て平気なわけがなかった。一応シリアスする時はしっかりとシリアスするので助かっているのだが、そうじゃない時は基本的にずっと一緒なので、羨ましいと思いながら憎ましさがむくむくと。
そして銀は気が付いたらフラグが建っていた上にくっ付いていた親友達に砂糖を吐きそうになっている。いつフラグが建っていたのかなんて分からないし、そもそも須美が桂を選ぶだなんて思いもしなかった。
あの時ラブレターで笑える反応をしてくれた須美は一体どこへ行ってしまったのか。
「くっ……こんな事なら勇者部員は恋愛禁止って規則を作っておけば……!」
「お姉ちゃん、そうすると自分が彼氏作れないからって作らなかったもんね」
「うっわー。その結果抜かされてこうなるとかダッサ」
「んだとぉ!? 夏凜だって男っ気ないじゃない!!」
「あたしは別にいいのよ。そこまで色に飢えてるって訳じゃないし」
一応夏凜は色恋沙汰にはまだ興味がそこまで沸いていないので二人のバカップルを真正面から見てもダメージは少ないが、それでも何かこう、胃の奥から湧き上がってくる甘いものがある。胃液かな? いいえ、砂糖です。
それに最近友奈に攻略されかけているし、そもそも二人を見ても男と女だし……とか思っているのかもしれない。赤いクソレズの誕生は近いかも。
「でも、須美って久々にあったらなんかクッソ美人になってたよな。やっぱ恋って女を変えるんかねぇ」
「くっ付いたから活き活きしてるだけだと思うよ~?」
実際は園子の言う通りである。
二人は今まで付き合えなかった二年間の鬱憤やら何やらを今ここで解消しているだけなのだが、傍から見てもどの尺度から見てもただくっ付いたから活き活きしているだけ。活き活きしたから今までの何倍も可愛く見えるだけ。
大体そんな感じ。そんな感じなのだが、実はこの二人、勇者部以外には自分達が付き合っている事を隠していたりする。
理由としては。
「不純異性交遊とか言われて色々とされたらたまったものじゃないから」
だ、そうで。
言われてもうるせぇ剣山にするぞと脅せば何とかなりそうではあるが、流石にそれをすると色んな面に喧嘩を売ることになりかねないので自重し、部室でイチャイチャしまくっている。
しかし、そうして活き活きして少女らしい可愛さも大和撫子らしい美しさも増して魅力が高まっている須美には少しばかり問題があったり。
「……わっしーってさ、気づいてないけど、最近すっごいモテてるよね~」
「アタシ等でラブレターとかは処理してるけど……見たらズラが喧嘩売りに行きそうだし……」
「まぁ、三年にも一年にも東郷に気をひかれてる奴、結構居るわよね。まぁあたし等に来そうなそういう視線を全部吸ってくれてるからありがたいけど」
「アタシ的にゃありがたくねーわよ。アタシだって彼氏くらい……」
「おねーちゃん……」
そう。須美が最近になってかなりモテ始めたのだ。
その中心に居る須美本人と桂は自分達の世界を作るのに夢中でそれに気づいていないし、園子と銀が率先して手を出しそうな人間に釘を刺しているので邪魔者は出てきていないが、それでもそろそろ面舵一杯の急カーブをして須美に告白なり何なりする人間が出てくるかもしれない。
園子と銀の二人は口ではあんなことを言っているが、内心では二人の事を祝福している。何せ世界を懸けた戦いを繰り広げ、更に記憶を失った二年間を乗り越えてやっと結ばれた恋だ。それを当事者ではない第三者に壊されるなんて我慢ならない。
言うならば二人の恋の成熟は世界が二人に与えた報酬だ。
それに、ともだちの幸せな時間に水を差すなんて許せるわけがない。
夏凜、風、樹もそれを理解はしているが、夏凜はまぁそこまで必死にならなくても大丈夫でしょ、と楽観的。風は自分もそんな感じにモテたいと悲観。そんな姉を見て憐れむ妹、な感じ。
「まぁ、わっしーって胸もメガロポリスで~、性格もいいからね~。それに、昔と比べて中身も柔らかくなったし~」
「二年前の悪い所が粗方無くなったからな。今まで告白の一つもされてないのが不思議なんだが。どうなんすか、風先輩」
「アイツ、友奈ガチ勢のレズって思われてたのよ。ってか思われてるのよ」
『あぁ……』
確かに須美の、友奈との距離感は色々と誤解しそうな部分がある。
須美自身、園子と銀以外にできた新たな友達。友達を失って、そして新たに得た友達。それと距離が近くならないわけがない。そもそも園子達も自分達の距離感、友達にしては結構近いよなー、と思っていた節があったし。
その結果、須美は友奈に恋する乙女と誤解され、それがいい感じに今まで須美の男避けになっていた。
だが、それを知らない男達からの視線が最近は増えてきた。
はてさてどうするべきか。
「……まぁ、園子とアタシで何とかしてやっか。そのくらいのお節介、許されるべ」
「もしわっしーを無理矢理襲う人が居たら~……………………」
「いやなんか言いなさいよ乃木!! アンタがそこで黙ると暗殺とか平気でやりそうで怖いのよ!!」
「……知ってますか、フーミン先輩。死って、偽装できるんですよ?」
「こっわ!? クッソこっわ!?」
園子のガチトーンに風がビビり散らし、それを面白がった園子が真顔で色々と怖い事を言って風を怖がらせる。
それを尻目に銀はふと炬燵の方へと視線を向けると、友奈がミカンを食べながら携帯を弄っており、須美と桂は互いに抱き合いながら炬燵に潜って横になり、そのまま寝てしまっていた。
風邪ひくぞー、と銀が笑いながら声を投げかけるが二人は夢の中。
色んなトコロがお盛んな中学生にしては結構プラトニックなお付き合いをしている二人に銀は笑いながら口の中の甘ったるさを自覚し、そっと立ち上がってコーヒーを注ぎに行った。
本日四杯目のブラックコーヒーである。
****
とある日、須美は自分の机の中に入っている手紙に気が付いた。
「……手紙?」
呟きながら須美は特に何も警戒せずに手紙を開き、中身に目を通した。
中に書いてあったのは、須美の事が好きだという文と、直接会ってそれを伝えたいから放課後に屋上に来てほしいという文。そして、差出人の名前。
名前を見ても特に誰か思い浮かばなかったが、クラスの女子が違うクラスにこんな名前のサッカー部のエースが居て、イケメンだと話していたのを覚えている。覚えているが、興味はなかった。何せもう心は一人の男に奪われていたのだから。
「わっしー、何見て……あっ」
「げっ……いつの間に……」
手紙を広げて読んでいる須美を珍しがって園子と銀がそれを覗き込んだが、文面を見た途端顔を顰めた。
自分達が検閲して百パーセントの確率でポイしているラブレター。それがまさか自分達の検閲を逃れてこんな時に現れるとは。園子と銀はどうしようと顔を顰め、須美は特に表情を変えていない。
これが二年前なら羅漢像とか言っている所だが、生憎今の須美はそんな事で狼狽えやしない。
「ラブレターみたいね。困った困った」
「そ、そだね~」
「なにそんな挙動不審になってるの? 別に断ってくるから影響なしよ?」
確かにその通りだが、園子達が気にするのは断った後、だ。
神世紀になってからも女子同士のいざこざというのは案外絶えない物だ。あの子があの人から告白された。妬ましいから無視してやる、とか。そういう陰湿な事を考える人間と言うのは一定数存在してしまう。
神世紀になっても犯罪を起こす人は一定数居た。つまり何かしら負の感情を持ち、それを実行する人間と言うのは神樹様崇拝でも消えることは無かったのだ。
そんな負の感情がこれをきっかけに須美に向けられてしまう事。無かったとしても、付き合っている事を隠している須美の事をフリーだと思ってアタックしてくる人間がこれから増えるかもしれない事。
フラれた腹いせに何か強引な手段に出る人間が居るかもしれないという事。
「そ、それは分かってるけど~……」
「私は彼みたいな人以外には靡かないわよ。彼に比べれば他の男なんて馬の骨よ」
言いきってしまう彼女に園子と銀は思わず笑いそうになる。
だが、彼女から見たら確かにそうかもしれない。何せ彼は須美の王子様役を立派に成し遂げれる程の男気を持っていたのだから。
「とりあえず、放課後にちゃちゃっと断ってくるわ。にしても、私よりももっと他に可愛い子なんて居るのに、どうして私なのかしら……」
身体測定結果と鏡見てこい、と叫ばなかった園子と銀は賢かった。
特に銀は自分の高尾山と須美の富士山を比べて泣きそうになった。おっぱいさえあれば男にモテるかもしれないのに、と。
もっとも須美の富士山と比べて銀の胸が高尾山と仮定できるほど存在しているかは謎である。
そして放課後。須美は友奈に部活に遅れると告げると、屋上へと向かって歩いて行った。園子と銀はそれを尾行し、桂は須美を尾行する旧友二人に首を傾げながらも見送った。彼に教えれば先んじて屋上に行って相手を脅すとかしかねないから教えていない。
屋上に続くドアを開けて須美が歩を進め、園子と銀がバレないように閉じられたドアをちょっとだけ開けて屋上の様子を確認する。
屋上には既に須美にラブレターを飛ばしたらしい男子生徒が。銀の目には確かにイケメンに見えるが、まだまだ。もうちょっと垢抜けて男らしくなってから出直してこいと言った感じに見える。そして園子は屋上には二人の気配しかない事を銀に伝えると、二人はそのまま息を殺して屋上のドアから屋上の様子を見守る。
何かされても須美なら即座に反撃できる程度の身体能力はあるが、万が一がある。その時は園子が突っ込んでスカラーガンナーやガードスキルでも使って相手をねじ伏せる予定だ。
暫くの間須美は男子生徒と何かを話していたが、恐らく名前の確認でもしていたのだろう。男子生徒はしきりに須美の言葉に頷いている。
そして。
「と、東郷さん! 俺と、その、付き合ってくれ!」
須美が告白された。
須美の表情は見えないが、告白を受けても微動だにしていないのが見てとれる。
桂がこの場に居たら即座に飛び出て男子生徒に飛び蹴りをかましたかもしれない。奴も何気に愛が重いから。
「ごめんなさい。私、もう好きな人が居るのよ」
そして須美は特に迷う素振りも見せずに断った。
須美の心は既に桂に奪われている。それを奪い返すのならバーテックス戦で彼女を守り通しながら心まで守ってみせるくらいの事をして見せてもまだ足りないほどだろう。
だが、男子生徒からしたら少し納得できない様子。須美が誰かと付き合っている、もしくは誰かに恋心を抱いているなんて噂、聞いた事が無いから。
「す、好きな人が……」
「えぇ、そうよ。もうとっくに好きな人が居るのよ」
「嘘じゃ、なくて?」
「嘘なんてつく必要ないじゃない」
須美は本心を告げている。
そして男子生徒もそれが二の歯もない事実だという事を須美の態度と言葉から理解している。理解しているが、きっと彼も自分の恋心に諦めが付けられないのだろう。須美にまだ言葉を投げかけている。
ちょっとした悪手とも言える言葉を。
「……もしかして、同じ勇者部の藤丸って奴か?」
園子と銀から須美の表情は見えない。
だが、須美の雰囲気が若干変わったのは見えた。
そして須美は何も言わない。まるでそれが事実だと言わんばかりに無言を貫いている。その理由は何となく分かった。
嘘でも彼の事を好きじゃないと言いたくなかった。それに尽きるのだと思う。自分の愛に嘘を吐いてまで今まで塗り固めた嘘をそのままにしておきたくない。そう思ってしまったから、須美は何も言わない。
「な、なんであんな奴を!? 確かに頭はいいけど……でもあいつ、言うほど顔がいい訳じゃないし、運動だって俺の方が!」
「そこまでにして」
聞こえた須美の声は、園子と銀もあまり聞いた事が無いような声だった。
いつもの温和な雰囲気ではなく、その百八十度真逆の声。
「別に彼の陰口を叩くくらいなら何も言わないわ。でも、それに近い物を私の前で言うのなら話は別よ」
「……」
「……ねぇ、あなた。私のために死ねる? 例えば私が拳銃を持った男達に囲まれた時、私の事を守るために動ける? 今から私が屋上から飛び降りる素振りを見せたら、私と一緒に落下してでも助けようとしてくれる?」
きっと、桂なら即答する。
須美を助けるためなら、その程度やってみせる、と。
だが男子生徒は言葉を詰まらせた。そんな彼を見て須美は屋上を囲っているフェンスの元へと歩いていき、そして下に誰も人が居ないのを確認すると、フェンスを軽やかに昇って二十数センチも無さそうな屋上の縁に立った。
即座に銀が走って屋上から降りていき、園子はいざという時に彼女を助けられるように構えた。
そして件の男子生徒は、今にも飛び降りようとしている須美の元へ行こうとするが、恐怖が勝って足が動いていない。
「無理でしょ? あなたは私の隣に立つ事すら」
それだけ言うと美森はすぐにもう一度フェンスを昇って屋上に戻った。
「彼ならそれができるわ。いや、やってくれたの。あれよりももっと危険な状況でね」
バーテックスとの戦い。
それを知らない彼が今の須美の心を射止められるわけがない。それを知らない彼が須美のためにそこまで動けるわけがない。
須美は一言、それに、と言葉を付け加えて。
「私の事を東郷美森としか呼べないのなら、それまでよ。私は強欲な女だから、私の恥ずかしくて弱い所も含めて全部知ってくれる人じゃないと好きになれないし、そう言ってくれたとしても心を入れ替えるような浮気性じゃないの。だからごめんなさいね」
全部知ってくれる人。
彼女の事を東郷美森としても、鷲尾須美としても見れる人でないと彼女は靡かない。それだけを伝えると須美は屋上を出るためにドアへと向かってきた。
そしてその内側には園子と銀が。園子は戻ってきた銀の腕を引いて即座に階段を下りるが、下りきってしまう前に須美がドアを開け、園子と銀を視界に収めた。
「まったく。盗み見なんて趣味悪いわよ?」
「え、えっと~……いつから気付いてたの~?」
「最初からよ。万が一の時はそのっち達が助けてくれるって分かってたからあんな事したのよ。じゃないと流石にやらないわよ」
足でも滑らせるか、風で体が攫われるか。そんな時にきっと園子達なら機転を利かせて助けてくれるから、あんな真似をした。
その信用は嬉しいが、流石に落ちたのを見てから動いたんじゃ間に合いません。銀は少しは自重しろ、と溜め息を吐きながら須美を小突くと共に屋上の階段を降り、部室棟へと向けて歩き始めた。
「しっかし、須美も結構遠慮なしにビシバシ言うよな。あいつ、この世の終わりみたいな顔してたぞ」
「じゃないとしつこいって思っちゃったもの。仕方ないわ」
「でも、これだとズラっちとの関係がバレちゃうかもね~」
「別にバレたらバレたでいいわよ。大っぴらに抱き着けるし」
「……やっぱバレないでくれ。朝から何杯もコーヒー飲みたくねぇ」
銀の溜め息と園子の苦笑は須美の揶揄うような笑いに押されて結局いつも通りの笑い声に変わったのだった。
****
桂が今日任された依頼は、サッカー部の備品のチェックの手伝いだった。
サッカー部にはマネージャーが居ない。なのにサッカー部員は自分達の練習に必死なので、勇者部が備品の管理などを任される時が偶にある。それが今日であり、力仕事が得意な桂がそれを任されていた。
須美が遅れて園子達と笑いながら部室に入ってきたときは何かあったのか少し疑問に思ったが、彼女の笑顔を見ればそんな些細な疑問は消し飛んだ。
サッカーボールやゼッケンなどのサッカー部の備品のチェックは、渡された用紙に異常が無いかをチェックしていって終わり。案外早く終わる事だ。何せ部員たちにドリンクを配ったりタオルを渡したりとか、そういう事はしないのだから。
独特の臭いがする倉庫の中でせっせせっせと仕事をこなす桂だったが、倉庫のドアが結構乱暴に開けられた。
振り向けば、そこにはサッカー部のエースとしてそこそこ校内では名前を聞くことがある少年が。
「ん? あぁ、お前か。なんか要るモンあったか?」
一応桂はサッカー部の備品チェックには時々来るので彼とは顔見知りだ。なので普通に話しかけたのだが、どうも彼の表情は険しい。いや、一度泣いた後に見えるか。
桂がそれを不思議に思い声をかけるが、その前に彼が倉庫の中に足を踏み入れ、桂の胸倉を掴み上げた。
「お、おい?」
「どうしてお前なんだよ……! どうしてお前が東郷さんに……!!」
桂は急に胸倉を掴まれた事を不快には思わず、落ち着かせようと声をかけたが、直後に聞いた言葉に表情が消えた。
あぁ、そういう事か、と。
「俺さ、一年の頃、依頼を受けてくれた東郷さんに親切にしてもらって、応援もしてもらって……それに応えられるように一年間頑張ったってのに……!! エースになったら告白するって決めてたのに、どうしてお前なんだよ! どうしてポッと出のお前が!」
彼にも、須美に告白するまでの経緯があった。
この仕事は今、桂が主に請け負っているが、それまでは須美がやっていた事だ。あくまでもチェックするだけなら力は要らない。それを整理したり、散らばっているモノを片付けたりするのに力が必要で、桂はそれを親切心でやるからこそ、こうして仕事を受けている。そもそも繊細な作業は彼女の得意分野だ。
そんな彼女が汗を流して頑張る部員たちを見て、ちょっとした親切心を働かせた。桂も詳しくは分からないが、きっとタオルや水やらを用意して頑張って、と応援したのだろう。
彼は、そんな須美に心を奪われた。つまりそういう事だ。
桂もその気持ちはわからんでもない。あんな美少女が、自分に笑顔を向けて頑張ってと言ってくれて、親切もしてくれた。それに心を奪われる男が居てもおかしくは無いし、それで心に火が付くのも納得できる。
「……で? お前、それ俺に言ってどうすんの」
「…………」
納得できるが、同情はしない。
「ポッと出っつったな? 確かにお前からすりゃそうだろうが、俺にとっちゃお前がポッと出だよ」
「ん、だと……?」
「中学入学してからもう二年近くか? お前、その二年で美森……いや、須美がなにしてたか知ってんのか? いや、知らねぇよな?」
胸倉を掴まれた手を、桂は力づくで跳ねのけて、代わりに胸倉を掴み上げた。
桂の力は訓練を受けていないただの中学生にとっては強すぎる、とまで言える物。故に振りほどこうとしても振りほどけない。完全に力負けをしているのが彼も分かった。
「まぁ、それは知らなくてもいい。知らないのが普通だ。けど、お前は須美のために何ができる? 今ここで何ができるって宣言できる?」
「なにがって……」
言葉に詰まる。
須美のために何ができるか。そう言われても、パッと思い浮かばない。
だが、桂は思い浮かぶ。
「俺は俺の全部をあいつにやれる。全部だ。自分の地位も、金も、名誉も、何もかも。命だってあいつのためなら惜しくはない」
「そんな事、言うだけなら簡単だろ! できるわけが」
「したよ。俺は、した。須美を助けるためにいつ死んでもおかしくない場所に飛び込んでんだよ、俺は。生き残ったのが誤算ってレベルの地獄にな」
平行世界……須美と桂が付き合っていない世界線では、ブラックホールと化した彼女を助けるためにブラックホールに飛び込んだのは、友奈だけだった。
だが、この世界では違う。彼は、友奈と共に飛び込んだのだ。友奈を守り、そして須美を絶対に助けると誓い、そのためなら自分が死ぬ事すら構わないとまで言って。
最も、それは園子と銀に思いっきり説教されたので生きて戻ってくると約束はしたが。
それでも彼はやった。須美を助けるために、ブラックホールという領域にまでその体を放り込んだ。
「意味わかんねぇか? なら須美に聞いてこい」
「っ……」
彼の脳裏に浮かんだのは、須美の行動。
死ぬかもしれない状況でも隣に立つ事を最低条件とした彼女の行動。
「だ、だったらお前、屋上のあの縁の上に立ってみろよ! さっき、東郷さんはそれをやったんだ。そこまで言うんなら、お前だって!」
「……須美は、立ったんだな?」
「あぁ、立った! お前なら一緒に立つって言って!」
「なら待ってろ。見える場所に居ろ」
そう言うと、桂はチェックを軽く済ませて仕事を終わらせると、倉庫を出ていきそれを先生に押し付け、校内に戻っていった。
できるわけがない。そう思いながら彼は屋上の縁が見える、人気のない場所に向かい、数分間待った。
きっと来ない。そんな確信があったが、携帯が震えた。
着信は、桂からだった。
「もしもし」
『上、見てみろよ』
桂の簡素な言葉に従い、彼は上を向いた。
そこには確かに、居た。臆することなく屋上の縁の上に立ち、こちらを見下ろす桂が。自分が恐怖ゆえに踏み出せなかった場所に簡単に立って見せている桂が。
『この通りだ。何なら飛び降りてやってもいいぞ? あ、マットは用意してくれ。じゃないと流石に怪我する』
「……い、いや、そこまでは」
『そうか。ならいいや』
きっと、飛び降りろと言えば本当に彼は飛び降りる。
そんな気がして、そこまでは要求できなかった。いや、する気にもなれなかった。
『これで須美への愛が見せれるとは思わねぇよ。それに、お前が須美の事が好きなのも、理解している。でもな』
桂は彼を見下ろしたまま、告げた。
『須美は俺の女だ。あいつが泣いた所も、あいつが弱さを吐き出しちまった所も、あいつが可愛かった所も、あいつが綺麗だった所も知らないお前には、やるわけにはいかない。二年も放置しちまったのは情けないが、それでもだ。俺は須美を愛しているし、須美は俺を愛してくれている。奪い取りたいんなら好きにしろ。けど、お前に須美は靡かない。あいつが苦しかった時や辛かった時を知る事ができないお前にはな』
それだけ言うと、桂はフェンスを昇り、そして屋上から去っていった。
言い過ぎたとは思ったが、それでもああやって言われたんなら立ち退くわけにはいかない。桂は軽く溜め息を吐いてから仕事の報告のために部室に足を踏み入れた。
部室内では須美が友奈と一緒にお茶しており、風は園子から勉強を教えてもらっている。なのでまずは部長である風の元へ……
「あ、桂。戻ってきたのね」
「おう。戻ってきたぞ、須美」
行こうとしたがそれよりも愛情が大事。
足はそのまま須美の方へと向かい、報告なんて二の次三の次。須美の横にある椅子に座るとそのまま須美に抱き着いた。
須美はなんとなーく彼が抱き着いてきた理由を察すると、そのまま抱き返し、部室内は一気に甘い雰囲気に。笑顔なのは友奈だけ。
「あぁぁぁぁ……須美の抱き心地マジで最高……しかもいい匂い……」
「全くもう。いつからこんな甘えん坊さんになっちゃったのかしら」
大体奉火祭辺りからである。
須美が消えた事で半分廃人みたいになり、須美が帰ってきてからはその反動で須美を求める頻度が増えた、というのは須美本人は知らない事である。知らない事ではあるがなんとなーく察しは付いていたり。
うげー、と友奈を除く部員たちが砂糖を吐き出しそうになっているが、そんなの須美と桂には関係の無い事。
「……ほんっと、あいつら部室に入った途端イチャついてからに」
「っつかアタシに依頼の報告すんのを優先しなさいよ、藤丸!」
「任務、完了……」
「雑ゥ!!」
風のツッコミはどこへやら。桂はそのまま須美に抱き着いたまま。
お熱いね~、なんて呑気に言う友奈だが、お熱すぎて見ている側の体調が悪くなってくる。主に腹の内に甘いものが溜まるという体調不良によって。
銀がブラックコーヒーを口に運び、園子もそれに続き、風も同じようにブラックコーヒーを飲む。夏凜は煮干しを齧り、樹はブラックコーヒーが飲めないので夏凜から煮干しを貰って齧っている。
「あ、東郷さん。今度勉強教えてもらいたいから泊まっていいかな?」
「お泊り? いいけど……今週はちょっと用事があって無理なの。来週からなら大丈夫よ」
「え、そうなの?」
「えぇ。私が泊まりで居ないのよ」
泊まりで居ない。
須美が泊まりに行ってまで遊ぶような人と言えば、園子、銀程度。夏凜、犬吠埼姉妹宅に泊まる時もあるが、頻度は園子宅、銀宅、友奈宅と比べれば少ない。
五人は視線を合わせて確認するが、五人全員が首を横に振った。
と、なると。
「……わっしー。その、避妊はしないと駄目だよ……?」
「そのっち!?」
「ふ、不純異性交遊なんて当人が黙ってりゃ問題ないからな、うん……」
「銀!? 一体何を言ってるの!?」
「だってアレでしょ、東郷。藤丸ん家に泊まるんでしょ?」
「違うわよ! 家族で泊まりがけの旅行に行くだけよ!」
須美の声を聞いて園子と銀、ついでに犬吠埼姉妹の顔が赤くなった。
変な勘違いして恥ずかしくなったのだろう。全くもう、と須美は呟き、未だに抱き着いてきている桂を抱きしめる。
変な勘違いも甚だしい。別に妄想するのは勝手だがそれを口にしてもらいたくはないものだ。
「そうそう。だって東郷さんって藤丸くんを泊める事はあっても泊まりに行く事はないからね」
そして友奈さんからの会心の一撃が飛んできた。
そう、桂の家には現在防人と巫女が一人ずつ居候している。須美は独占欲はそこそこあるがあの二人が桂に気が無いのは知っているし、桂も浮気なんてしないと分かっているから須美もそれを受け入れている。
だが、流石に年頃の少女二人が居る家に泊まると言うのはちょっとばかり気まずいと言うか、翌日が絶対にアレな事になる。なので須美が桂を泊めるという事が基本だ。
そして友奈はお隣さん故にそれを知っている。友奈はピュアなので避妊の言葉の意味とか何で泊まり込みが恥ずかしい事なのか分かっていないので特に気まずくも思わないが、ここでの一撃は会心にも程があった。
「ねぇわっしー。資料がてらちょーっとお話を~」
「逃げるぞ、須美」
「勿論」
先ほどまで抱き着いていたアベックが一瞬にして部室から飛び出して行った。いいクラウチングスタートだった。だが資料に使えるからと吹っ切れて、ついでに部室内でのイチャイチャを恥ずかしがって自重するようになってしまえという捨て身の思考からびゅおおおおおおモードに移行した園子が二人を追った。
この後園子がどんな話を聞いたかは……ご想像にお任せする。
という事で須美IFその2でした。実は桂の方も結構愛が強かったというお話。そして互いに互いを抱き枕にするという。
須美ちゃん……というか東郷さんは絶対に抱き枕性能高い(確信)
まぁそんな感じの話でお送りしましたはまともに恋愛している方の青いののIFの続き。次回のIFはなんとなーく銀のIFの続きを書いて、その次に風先輩のIFを書こうかなーと思っています。
という事でまた次回お会いしましょう!