ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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ゆゆゆい二周年ドレスの高奈ちゃんの小悪魔チックな表情とブライダルのぐんちゃんとくっついてる高奈ちゃんが可愛すぎて何か色々とヤバイです。どうも私です

銀IFを先に書こうかな、と思ったら先に風IFが書き終わりました。という事で、これで神世紀側で藤丸と仲がいいメンバーとのIFは全員分書き終わった事になりますね。

という事で今回は風IF。はてさて、どんな感じで二人がくっ付くのか。本編をどうぞ。


風IF:風の隣

 犬吠埼風にとって、高校生活一年目というのは、中々に退屈な時間だった。

 友達は、居た。同じ高校に共に進んだ中学時代の友人や、新しくできた友人。部活には入らなかった事もあり先輩後輩関係ができあがる事は無かったが、それでも周りには恵まれた方だと、風は思っていた。

 だが、それでもそこには勇者部が。苦楽を共にした後輩たちがいなかった。

 だから、まるで胸の中に一つ穴が空いたかのように、風は高校生活が少しつまらない物に感じ、退屈と思った。

 それにも一年かけて慣れた時には勇者部が高校でもう一度結成され、そしてその一年後には愛しの妹もそこに加わり、風の高校生活は終わった。

 風は大学へと進学した。

 金ならあった。というか、大赦から園子の進言を聞きつつ毟れるだけ毟りとった。樹が将来困らない分と、自分が大学を卒業するまでには十分程度の金。

 それを使って大学に入り、既に芸能界で働く樹に負けないように社会勉強だ、なんて言ってバイトも始めた。

 だが、文系大学に進学したからか、授業がギチギチに詰まってる、なんてことは無かった。一年の内から全休もあり、バイトもシフトの融通が利く所だったので、暇な時間というのが存外多かったのだ。

 そんな予想外の暇を、風は後輩を呼んで遊ぶ事で消化していた。

 

「いやー、藤丸は誘ったら二の句も無しに来てくれるから助かるわー」

「俺は大学行きませんしね。園子んトコで就職っすよ」

 

 とは言っても藤丸以外の後輩達は受験勉強か、大赦の地盤固めに忙しいので来れないのだが。

 しかし藤丸は呼ぶとだいたい来てくれる。だから暇な時間を消化したい風にとっては助かる存在だった。

 今日も安いボウリング場でスコアを競いながら遊ぶ。風が投げたボールがピンを全て弾き、ストライクを叩く。

 

「っし! ストライク!」

「流石風先輩っすわ。でもあんま気合い入れ過ぎると明日筋肉痛になりますよ?」

「心配せずとも大丈夫よ。アタシはまだ若いし」

 

 なんて言いつつ、明日には筋肉痛に喘いでいる。比較的調子に乗りやすい風のよく見る光景だ。

 それに付き合わされる藤丸も樹からよくその事を聞いているので、明日の光景の想像は難しくない。無鉄砲な先輩の背中に笑いながら、ボールを手に取り、投げる。端にちょんちょん、とピンが残った。

 

「げー」

「あちゃー。残念」

「……まぁ、カッコいいトコ見せますかねっと!」

 

 だが、続けて放った藤丸のボールは端っこのピンへと転がっていき、見事片方のピンを弾いてもう片方のピンへとピンが叩き込まれた。

 スペア。よし、と藤丸が小さくガッツポーズをした。

 

「おぉ! やるじゃない藤丸!」

「どっすか、風先輩」

「カッコいいじゃない、藤丸。こういうカッコいいトコ見せたら彼女を作るとかできるかもしれないわよ? きゃー藤丸くんかっこいー、的な感じで」

 

 風の言葉に藤丸は少し反応したが、すぐに溜め息を吐いて首を横に振った。

 全くこの人は、みたいな感じの反応。風はそんな反応をされる事に若干の疑問があったが、藤丸ははいはい、と言わんばかりに手を振って風の疑問を無理矢理流した。

 スペアなので続いてもう一投、藤丸がボールを転がす。結果は、五本だけピンを倒すにとどまった。

 仕方ない。腰に手を当て結果にどことなく満足感を覚えつつ後ろに下がり、休憩中の風の隣に座れば、天井からぶら下がるモニターに自分のスコアが。

 風に負けている。が、まだまだ取り返せる程度の点差。

 

「これじゃあアタシが逃げきって勝ちかしら?」

「男としてンなみっともない結果にはしませんよ」

 

 水を一口飲み、軽口に軽口で返せば、風は笑いながら立ち上がり自分のボールを持ち構えた。

 そんな風の後ろ姿を見ながら、藤丸は声をかける。

 

「そう言えば風先輩。大学に入ってから、彼氏とかできました?」

 

 藤丸の言葉に風は背中を向けたまま、いいや? と声を返した。

 後ろの後輩はきっと揶揄い目的でそんな事を言ったのだろうと決めつけ、ちょっとムッとしたが、中学生の頃のアレ以来、色の付いた話とご無沙汰なのは事実。勉強が忙しいからー、とか。バイトがあるからー、とか。そういうのは抜きにしても風の色のついた話と言うのはそこまで降り注いでこなかった。

 ボールを投げ、半分ほどピンを倒した。ちょっとだけ力み過ぎたか。

 

「恋人を作るのってやっぱ難しいわ。特に、アンタと比べるとちょーっとレベルが足りない部分がある奴が多いと言うか」

 

 なんて、言い訳をしてみる。

 実際に彼はかなりの優良物件だ。勇者に選ばれるような性格の持ち主であり、そして将来も園子の直属の部下になるという点で有望。まだ高校生の彼がこれからどうなるかは分からないが、大成はする事だろう。

 それに彼が家事も子供の面倒を見る事も得意だという事は風もよく分かっている。一時期ハウスキーパーをしてもらったり、共に幼稚園に赴いて悪ガキ達の相手をしたりする中で、それはよく理解している。

 故にそれと比べると、男に求める最低条件が少しばかり高嶺に行ってしまったのは確かだ。

 だが、それ抜きにしても風に出会いというモノがあまり無かったのが一番か。

 

「……レベル、ですか」

「そそ。ちょっとアタシのお眼鏡にはかなわないかなって」

 

 言い訳と、強がり。

 年上としてのちょっとしたプライドだ。真に受ける事も無いだろうと思いながら、もう一投。スペア、とはいかなかった。だが高得点。

 よしよし、と頷きながら後ろに戻れば、そこには少しばかり真剣な表情をしている藤丸が。

 

「そのレベルってのは……どの辺が最低ラインなんですか」

「え? 何よ急に。自分の恋愛の参考にでもしたいの?」

「……そんな、所です」

 

 揶揄ってみた結果、どうやら藪蛇みたいなものを突いたらしい。

 間抜けな面を晒したという自覚をしつつ、数秒の間を置いてから慌てて表面を取り繕い、そうねぇ、と口を開いた。

 

「まぁ、優しくて、家事もできて、将来の事も考えてるって所ね。大丈夫よ、アンタも後数年経てば頭もスキンヘッドって言って誤魔化せるでしょうし、近い内にいい子を引っ掛けられるわよ」

 

 その結果、彼に恋愛方面で先を越されるのは少しばかり癪という物でもあるが、まぁこっちも人生の先輩だ。そういう時は揶揄うに留めて祝福するのが一番だろう。

 だが、藤丸はその答えに納得ができてない様子。

 ありゃ? と首をかしげると、藤丸は風の答えへの不満を口にした。

 

「風先輩的に、俺はどうなんですか。有りか、無しか」

「ちょ、いきなりどうしたのよ。まぁ、アタシ的には優良物件だとは思うわよ? それがどうかしたの?」

「……いえ、なんでもありません」

 

 急に突っかかってきて詰め寄ってきて。

 どうかしたのかと聞いても何でもないと返ってくるだけ。結局どれだけ聞いても分からなかったので、変な藤丸。と呟いてこの話題を終わらせた。

 結局この後のスコアは僅差で風の勝利であり、風は清々しい勝利を得る事ができた。無邪気に笑う彼女に藤丸は呆れたような笑顔を向け、しかし嬉しそうに声を漏らしたのだった。

 

 

****

 

 

 大学生活も二年目に入れば歳は二十歳になる。

 風は誕生日が比較的早めの五月上旬という事もあり、早いうちに大人しかしちゃいけないような事をしていい歳となった。

 酒もそうだし、煙草もそうだし。だが、煙草はやる気が起きなかったし、酒は妹共々勇者部から絶対に飲むんじゃないと止められた。特に藤丸からはかなり強い口調で止められたので宅飲みをする程度に留めると約束をした。

 そんな感じの後輩からの注意を受ける間に、注意をくれた後輩たちは無事それぞれの進路を進むことに成功していた。

 友奈、美森、夏凜は大学へ。園子、銀は大赦へ。藤丸はそんな園子の専属となり、ラブリーマイシスターである樹は大学への進学を目指しつつの歌手としての道を進んでいる。

 そんな中で風は高みの見物をしながらそれぞれの大学へ進んだ後輩たちを祝い、そして次の関門は二年後に迫る就職活動と決め、先んじてどうにかして手を打てないかと考え始めていた。

 だがまだ二年近い時間がある。風は結局二十歳を過ぎてからもダラダラと時間を重ね、気が付けば大学生活も二年生の前期の後半に差し掛かっていた。

 テストがもうすぐある。故に授業も今週で終わりといった時期。

 

「ねぇねぇ、犬吠埼さん。今度合コンやるんだけど、人数合わせに来てくれない?」

 

 ちょっと浮ついた話を授業で知り合った友人未満に近い女子から聞いた。

 恐らく狙いは本当に人数合わせ。成人済みの風を横に置いて、自分達だけ楽しんで風は横で料理でも食ってろとか、そんな算段。

 

「えー、いや、アタシはそういうのは……」

「お願い! どうしても一人だけ足りないの! 犬吠埼さんの分のお金は私達で出してもいいから!」

「ちょ、そこまで必死になる程……?」

 

 とか思ったら相手がちょっと必死過ぎる。

 とりあえず話を聞いてみると、どうやら件の合コンは彼女の、別の大学へ進学した友人が開く予定の物らしく、男子側のメンツには相当なイケメンが居るそうな。写真だけを見せてもらったが、まぁ確かに美形だ。

 だが、風はあまりその人に関心を抱かなかった。

 ふーん、とか。カッコイイね、とか、その程度。性格が分からないから、そうとしか言えないのだ。

 彼女曰く、性格も良くてお金もあって裁量良しな良物件らしいが。

 

「わ、分かったわよ……タダ飯食べれるんなら付き合うから……」

「ホント!? ありがと、犬吠埼さん!」

 

 断っても良かったが、ここまで必死だと断った後が可哀想だと思い、風は渋々ながらも了承してしまった。

 まぁ、居酒屋なのかバーなのかは分からないが、そういったお高い場所の食べ物をタダで食べれるんなら、文句はない。タダ飯食べて帰るだけ。それなら別に後ろめたい事だってない。

 

「けど、アタシ、お酒ダメだから、それだけ考慮してくれないかしら?」

「飲めないの?」

「弱すぎるのよ。昔、甘酒に酔って大暴れした事があって、身内からもう飲むなって言われてるの」

 

 最も、宅飲みでちょっとずつ慣らした結果、当時ほど酷くなる事は無くなったが、理性が緩くなるのはどうしても直らない。

 故にそういった席で酒を飲めば確実にその後、一人で帰れるか分からないので、断りだけ先に入れておいた。

 彼女はその言葉にしっかりとオーケーをくれて、テストが全部終わった後の休みの日に集まって合コンをする事となった。樹にそれを伝えると、樹は驚いたがすぐに何かを考えた後、楽しんできてね、と優しい言葉をかけてくれた。

 まぁ、タダ飯食べるだけなので楽しむも何も無いのだが。

 その後はテスト勉強を頑張り、学年トップクラスだー、なんて確かな手ごたえこそ感じなかったが、単位は確実に取れたし平均以上は取った、という確信と共にテストを終わらせることができた。

 そして約束の日が来て、合コンに。

 

「そんじゃ、かんぱーい!」

『かんぱーい!』

「か、乾杯……」

 

 件の合コンは学生主催という事であまり高くない食べ放題飲み放題が選べる居酒屋で行われたのだが、男女共に五人ずつ。十人というそこそこ多い人数での飲みとなったのでそこそこ広い個室で開催される運びとなった。

 既にテンションが上がりまくってる他九名と、ついて行けない風。

 愛想笑いだけしながら料理を摘まみソフトドリンクに口を付けるが、これなら樹と食べた方がまだ美味しいと感じるレベル。いくらタダ飯に釣られたとは言え、ちょっと思考が浅かったと思わざるを得ない。

 ドリンクを飲みつつ、視界を横にずらせば自分をここに誘った張本人と、その御友人一行らしき三人が男性側と笑顔で喋っている。あれ、あの子まだ未成年だった気が……なんて思考は面倒を呼ぶので早々に消し去った。

 盛り上がりまくったら静かに退室しようと決め、食べ物を口に運びつつ今度は男性側へと視線を移す。

 男性側のメンバーは、何と言うかチャラいと言うべきか。藤丸のようなタイプの人間は一人も居なかった。

 

「犬吠埼さんだっけ? ジュースなんて飲んでないでお酒飲もーよ!」

「いや、アタシお酒飲めないから……」

「えー、そんなん人生の半分は損してるよー?」

「お構いなく……」

 

 酒程度で人生の半分を損しているんなら後の半分はどうやったら損できるのか知りたくなる。少なくともこちとら人生を物理的に損する道まで進んでんじゃい、と心の底でツッコミながらも早々と酔っ払いになった初対面の子を押しのけ、もそもそと料理をむさぼる。

 勇者部でやった酒の無い似非宴会はもっと楽しかったのだが、ここだとあんまり楽しくない。このまま空気に徹して途中から携帯でも弄って頃合いを見て退室。そんな予定を決め、ジュースを飲んだ。

 さて、空気も徐々に風をいい感じの除外して盛り上がってきたところで、風は懐から携帯を取り出した。

 まだ腹八分目もいっていないが、あんまり空気を読まずに食べ続けるわけにもいかず、携帯を取り出したのだが、丁度そのタイミングで通知が飛んできた。

 通知を飛ばしてきたのは、どうやら樹。今どこにいるの? と連絡が飛んできた。

 

「今日合コンだって言ったでしょうに……」

 

 苦笑と共に声を漏らしながら樹に返事をすると、そうじゃなくて、と返ってきた。

 どうやら場所を聞きたいらしい。何故? と聞くと酔い潰れた時に迎えに行くため、と返ってきた。それなら、と店の場所を伝え、樹からお礼の返信を貰った所で風は携帯のゲームアプリを開いて適当にポチポチとし始めた。

 それを数十分程度。なんとなーく飽きた所で携帯を懐にしまい、残っている分の料理だけでも胃に収めてしまおうかと思った時、隣に誰かが座った。

 

「君、さっきからジュースばっかじゃん。こういう場なんだし飲もうよ」

 

 隣に座ってきたのは、先日、自分を合コンに誘った子が携帯の写真で見せてきた男だった。まぁ、確かに近くで見ても顔のパーツは整っているし体型も痩せすぎず細すぎず。だが、酒臭いのがちょっとマイナス。それに、わざと絡まないようにしてるのに空気を読まないのも。

 思わず苦笑が出てくる。

 

「い、いや、アタシは酒弱いんで……」

「大丈夫だって! これとかあんま強くないから、一口だけでも飲んでみたら?」

 

 強くないから、一口だけ。

 そう言われると何となく興味が出てくる。どうやらまだ口を付けて無いようで、風が間接キスを心配する必要はない。

 まぁ今さら間接キスの一つや二つでギャーギャー言う程純情でもないからそこは気にしていないのだが。藤丸となんて時々事故気味にしてたし。

 

「……じゃ、じゃあ一口だけ」

 

 そう言って、風はその酒を一口貰う事にした。

 見た目はオレンジジュース。匂いもオレンジジュースだがほんのりとアルコールの香りが。一口飲んでみればオレンジジュースと大差ない味が口の中に広がった。

 

「あ、美味しい……」

 

 もし、騙されていて酒精がかなり強い酒だったら一口飲んだだけで突っぱねる気だったが、飲んでみるとあまりアルコール感は感じず、口当たりが良かった。少しアルコールの香りがする、苦みが増したオレンジジュースとでも言うべきか。

 

「でしょ? それあげるから、もっと楽しもうぜ!」

「じゃ、じゃあこれだけ貰いますね」

 

 一応、昨日部屋でほろよいと銘打たれた缶を飲んだ時も、しっかりと合間合間につまみを挟んでゆっくりと飲めば酔いも酷過ぎるとは言えない程度には抑える事ができた。

 だからこのカクテルを飲んでも、きっとその程度で済むから、その後水を飲めば自分の意志で帰れるだろう。そう思い、軽く調子に乗った風はもう一口その酒に口を付け、一人料理と共に楽しみ始めた。

 だが、風は知らなかった。

 今風が飲んでいるカクテルの名前はスクリュードライバーと言い、異名として存在する名前は、レディーキラー。口当たりの良さとオレンジジュースを割るウォッカが無味である事。そして何より、度数が高い事から無知な女性を酔わせるには最適なカクテルだという事を。

 度数的には風が昨夜飲んだほろよい缶の役四倍から五倍程。そんな物をほろよい缶と同じ感覚で飲んでしまえばどうなるか。

 

「あー……どーしてこーなっちゃったんだか……」

 

 泣き上戸な風先輩、再びである。

 一人机の上に突っ伏し、今日の今日まで色気のいの字も無い青春を送ってきたこと。どうしてこんな合コンに参加しちまったんだという後悔。なんか知らんが泣きたくなる心情。これらが合わさり、風はジョッキ片手に泣き上戸を披露した。

 まだ良かった点を挙げるとしたら、かつてのように泣きながら大騒ぎするのではなく、静かに泣き始めたという点だろうか。テンションの持ちよう次第では泣き叫んだことだろう。

 そんな風の元に、スクリュードライバーを手渡した男が。

 

「あー、この子なんか酔い潰れちゃったみたいだわ」

 

 と、困ったような笑顔を男は浮かべた。

 

「あれ? 犬吠埼さん、飲んじゃったの?」

「多分こっちの事見てるうちに飲みたくなっちゃったんでしょ。ちょっとこの子を外でタクシーにでも乗せてくるから。あと俺もこのまま帰るわ」

「えー! なんでぇ!?」

「女の子一人で帰すのも可哀想だし、タクシーの運ちゃんと会話できるかも分かんないから家まで送ってくよ。そんじゃ、お疲れー」

 

 つらつらと理由を述べた男は自分の分の金を机の上に置いてから風の手を取って立たせ、そのまま肩を貸して風を歩かせ始めた。

 言うまでもない。ここまで彼の計画通りだ。

 スクリュードライバーを酒に弱い異性に渡した時点で最早悪意しかない。もし神樹様がまだ残っている世の中だったら、彼の言葉を鵜呑みにしても全く問題なかっただろう。風はこのまま無事家に帰され、彼も家に帰った事だろう。

 だが、それも薄れたこの世の中、汚い思考を持った人間というのは生まれる物。

 

「いやー、こんな簡単に酔い潰れるとかマジちょろいわ」

 

 なんて言いながら男は悪い笑顔を浮かべて店の出口へと向かう。

 そして肩を貸されている風は。

 

「いつきぃぃぃぃ……ゆーなぁぁぁぁ……のぎはなんでたいしゃなのよぉぉぉぉ……あたしんとこきなさいよぉぉぉ……」

 

 絶賛泣いている最中である。自分でも何を口にしているのか分からないレベルでの泥酔。明日には記憶まで飛んでいる可能性すらある。

 そもそも風は元々甘酒で泣き上戸となって酔っぱらうレベルで酒に弱い。そんな彼女が数か月酒に対する耐性を本格的に鍛えた所で雀の涙。度数が高い方であるカクテルを口にしてしまえば簡単にできあがってしまう。

 それを男は知らないが、酔い潰れたのだから丁度いいとこのまま風をお持ち帰りする算段だ。

 店員の視線を受けて店の外に出て、昼と比べてちょっと涼しい外気に肌が触れ――

 

「あぁ、風先輩、ようやく出てきた」

 

 第三者の声が聞こえた。

 男が横を向けば、そこには車の鍵とキーホルダーを繋げる紐に人差し指を通し、振り回して遊ぶ青年が。

 

「誰?」

「あんたの抱えてるその人の後輩っすよ。っつか、やっぱ飲んじまったのか……樹ちゃんの懸念通りだったって訳か」

 

 ため息交じりに風の手を取ろうとする青年……藤丸だったが、男は藤丸から距離を取る。

 

「いやいや、急に何? 俺はこの子を送り届ける予定なんだけど?」

「俺が送り届けますんで安心して飲みに戻ってください」

「いや、あのさぁ。そうじゃなくて……」

「あんた、風先輩の家、知ってるんすか? 知らないですよね。例えタクシーに乗せても今の風先輩じゃ受け答えできないでしょうし」

 

 振り回していた車のキーを握りこみ、近寄る藤丸。

 距離を取ろうとする男だったが、その前に藤丸が風の手ではなく、男の胸倉を掴んだ。

 

「もう一度言いますよ。俺が送り届けるんでアンタは戻るなり帰るなりしてください」

「はぁ? この子は俺が目ぇ付けたんだけど? っつか胸倉掴まないでほしいんだけど?」

「じゃあちょっと言葉を変えてあげますよ」

 

 握りこんだキーをポケットに入れ、藤丸が片手ではなく両手で男の胸倉を掴み上げ、全力で絞め挙げる。

 身長は同程度。だが、圧倒的な力で胸倉を掴み上げられ、男の表情が変わる。

 ここで喧嘩に発展したら、男の方が先に手を出されたので正当防衛を主張できる。だが、そんな思考は既になく、目の前に居る藤丸からの圧を正面から受け、酔いが一瞬で冷めていた。

 

「俺の女に手ェ出すな。この人はお前みたいなのとは釣り合わないくらいには立派な人なんだよ。分かったらとっととどっか行け」

 

 藤丸のその言葉に男は怯み、気圧され、風の手を握る手を離した。

 藤丸がぶつけたのは、単純に威圧に近い物。だが、実践を潜り抜けた勇者の一人である藤丸の本気の脅しは一般人には少しばかり重すぎる。

 掴んでいた胸倉を離し、ヘロヘロとその場で座り込んだ風の手を握り、肩を貸して風を無理矢理立たせると、藤丸は自分の車の元へと歩き始めた。

 

「んじゃ、ここまで風先輩を連れてきてもらってありがとうございました」

 

 あまり感情のこもっていない声で礼を言った藤丸はそのまま店の駐車場へと歩き始めた。

 男は暫くの間呆然としていたが、すぐに舌打ちを一つしてから店の中へと戻っていった。きっと、風は自力で帰ったとか言って恥は隠す事だろう。

 そして藤丸は泣きながら暴れようとする風を抑えつつ、溜め息と独り言を漏らしていた。

 

「ったく……樹ちゃんめ、さては分かってたな。なんでこんな早い時間から風先輩を迎えに行けって言ったのか分かんなかったが、お持ち帰りされかけるだろうからって理由とは……まぁ、今度何か作ってやるか……」

 

 藤丸がここまでタイミングよく居酒屋に訪れたのは、樹からの連絡があったからだった。

 きっと風はなんやかんや言って酒を飲むだろうから、藤丸を呼んでお持ち帰り対策をした。どうして藤丸がこの時間帯暇だったかと言われれば、前々から樹に家事をしてほしいから来てくれ、と言われていたから。

 樹が携帯を弄り、藤丸に命令し、逆らえずに来てから待ってみればまさかのお持ち帰りされかける風を発見、という感じ。

 別に風を迎えに行く事は当初から予定に入っていたので文句は言わないし、結果的に風を助ける事になったので樹のファインプレーに称賛したいところだが、事情を説明せずにここへ向かわせたことにはちょっとムカッとしている。

 でもファインプレーには変わりない。今度何かしら作って食べさせてやる、と決めて風を助手席に乗せてシートベルトを締める。

 

「ふじまりゅぅぅ……どーしてあたしのとこにこなかったのよぉぉぉぉ」

「普通の自分の進路を考えた結果ですから……ってかそろそろ運転しますから離してくださいよ」

「ふじまりゅぅぅぅぅぅぅ!」

「くっ、触ってくれるのは嬉しいけども……!!」

 

 泣き上戸の絡み上戸。泣きながら引っ付いてくる風を何とか宥めながら運転開始。大体車で十分から十五分程度の距離走れば犬吠埼家に到着した。

 泣きじゃくる風に肩を貸して疲労感を感じつつ犬吠埼家のインターホンをならせば、樹が藤丸を迎えた。

 

「あ、お疲れ様です藤丸先輩」

「お前、こうなるの分かってただろ。だったら先に言えっての」

「言ったら確実にわたしが酔っ払ったお姉ちゃんの相手をしなきゃいけないじゃないですか。面倒なんですよ、そのお姉ちゃん」

「俺もよく分かってるよ。いいから家の中上げてくれ。お前の姉ちゃんを部屋に叩き込むから」

「はいはい」

 

 未だに泣きじゃくり樹に絡みつこうとする風を引っ張るように動かし、そのまま風の部屋へと入り、風をベッドの上に座らせる。

 これで一安心、と思ったのも束の間。酔っぱらった風はそのまま藤丸の手を放そうとはせず、まだまだ泣きじゃくったまま。これはもう酒をもっと飲ませて潰した方がいいんじゃないか、とまで思ってしまったが、流石にそんな事をするわけにもいかず。

 

「ふじまるぅぅぅぅぅぅぅ!! なぁんであたしにはかれしができないのよぉぉぉぉ!!」

 

 風の号泣。部屋の外からは樹の溜め息が聞こえてきた気がした。

 しかし、それを気にせず藤丸はそっと風の手を力づくで引き剥がし、そのまま風の手を握ったまま風をベッドの上に押し倒した。

 手を握り、風が抵抗できない状態にして、そのまま顔を近づける。

 

「じゃあ俺が彼氏になりましょうか?」

「えっ……? あ、あれ……?」

 

 先ほどまで号泣していた風だったが、急に顔を近づけられ、更に聞き捨てならない……というか、藤丸から聞くにはあり得ない言葉を聞き、酔いと恥ずかしさから顔を真っ赤にしながら硬直した。

 が、すぐに藤丸は顔を離し、風の手を押さえつけていた手を離し、軽く風の額を小突いた。

 

「早く寝てくださいよ。じゃあ、おやすみなさい」

 

 それだけ言うと、藤丸はそのまま部屋を出ていった。

 部屋に残されたのは顔が真っ赤な風。彼女は暫くベッドの上で押し倒された状態のまま硬直していたが、その内もぞもぞと動いて顔が赤いままベッドの上で横になった。

 そして藤丸はと言うと。

 

「いやー、大胆にいきましたね、藤丸先輩?」

「止めてくれって……柄じゃない事したって自覚はあるから……」

「それじゃあわたしは、明日になったらお姉ちゃんを焚き付けちゃおうかな」

「ったく……生意気な奴め」

「将来の妹かもしれませんよ? ほら、義妹ですよ、義妹」

「お前じゃ興奮しねぇっての……夜食くらいは作ってやるからもう寝ろ。明日も早いんだろ?」

「はーい」

 

 樹とそんな会話をしていたとかなんとか。

 しかし風は自分の事に精一杯でそこまで気が回っていなかった。

 

 

****

 

 

 結局風はその後、酔っていた事もあってか熟睡してしまい、気が付けば翌日の朝だった。

 欠伸をしながらベッドから起き上がり、自分の服が昨日、合コンに出掛けた時の物と同じだという事を理解し、先に部屋着に着替えてしまおうかと思ったが、風呂すら入っていなかったのを思い出し、先に朝シャンでもしようという気になり、その格好のまま部屋を出た。

 

「あぁ、風先輩。おはようございます」

「おはよー、お姉ちゃん」

 

 部屋を出たら樹が居たが、なんか藤丸も居た。

 どうして? と聞く前に風の頭には昨夜、眠りに就く前の記憶がよみがえった。彼に押し倒され、告白紛いの事をされた記憶が。

 

「ふ、ふじまっ!? ど、どして!?」

「昨日は夜中にお姉ちゃんを呼びに行かせちゃったし、お姉ちゃんがずっと寝てるとわたしも起きれないし、そのまま帰すには遅すぎる時間だし、失礼だと思ったから泊まってもらったんだよ」

「いやー、すみませんね風先輩」

 

 一応樹もある程度の家事は紫を生むことなくできるようにはなったが、世間一般的には下手を越える程ではないのは確か。故に樹に任せるよりかは藤丸に頼んだ方が後の事も考えて楽ではあるのだが。

 あるのだが、起きたら自分に告白紛いの事をしてきた男がいつも通りの表情でそこに居るのはちょっとばかり心臓に悪い。

 

「朝飯できてるんで、食べてください。俺も樹ちゃんも、もう食べましたから」

「それじゃあわたしはもうすぐお仕事だから、行ってくるね、お姉ちゃん。それと、この後はよろしくお願いします、藤丸先輩」

「はいはい。頑張って来いよ」

 

 顔を赤くし硬直する風を差し置き、樹が小走りで家を出ていった。

 それから暫くして藤丸が樹の部屋に入り、溜め息を吐きながら樹の寝間着を回収して洗濯物の集まりの中に叩き込んだ辺りでようやく風の思考回路が現世に復帰した。

 

「あ、あんた!? き、昨日は!!」

「……あー、覚えてます?」

 

 藤丸は風の言葉に苦笑しながらも風との距離を詰めていく。

 しかし風はそれをどうでもいいと判断して口を動かす。

 

「お、覚えてるに決まってるじゃない! 急に押し倒されてあんな!」

「あんなって……こういう事ですか?」

 

 そのまま藤丸は風を壁に押しやっていき、風を壁に押し付けそのまま風の顔の横に手を付いた。

 俗に言う壁ドン。それをされた風はまたまた顔を赤くして近づいてきた藤丸と目を合わせてしまう。少しばかり複雑な内情を持っていると言わんばかりの藤丸の目を。

 

「俺、風先輩の事、ずっと好きだったんですよ」

「はっ……? へ? え?」

 

 その状態の藤丸の口から出てきたのは、風が一切想像していない言葉だった。

 好きだった。ずっと、好きだった。この言葉は、つまり。

 

「風先輩っていつか誰かと付き合うとか言うし、俺の事なんて特に意識してないみたいでしたし、ちょっと諦めてたんですよ。それでもチャンスはあるかもって足掻いてはいたんですけどね。不思議に思いませんでした? 俺が風先輩の誘いは一切断らない事。アレ、風先輩からのお誘いが来たときはその日の予定、全部を予めキャンセルかドタキャンしてたからなんですよ」

「ふ、藤丸……?」

「でも、昨日、合コンでお持ち帰りされかけてて……もう見てるだけなのは嫌になりました。風先輩がよく分からない男と一緒に居るの、耐えられなかったんです。だから、言います。あなたの事が好きです。愛してます。結婚を前提に付き合ってください」

 

 つまり、昨日のあの言葉は、こんな藤丸の内情から来ていた言葉で。

 そして、今この状況は藤丸が勇気を出して頑張った結果であって。

 ここからなら風を力づくで、なんてことはきっと簡単だ。だが、それをしないのは、単純に藤丸がそんな事をする男じゃない事。そして、そんな事を許さない男だからという事。何より、風を愛しているからこそ、決定権を完全に風に渡しているという事。

 無言で顔を赤くしたまま藤丸と目線を合わせ続ける風。言葉は、中々思い浮かばなかった。そもそも断るか、受けるか。それすら風は自分で理解していなかった。

 

「……まぁ、駄目ですよね。ごめんなさい、急にこんな事言って」

「あ、ちょっ……」

 

 理解し、答えを出す前に、藤丸は悲しそうに笑ってから風から距離を取った。

 沈黙を否定だと受け取ったのだろう。藤丸は風から距離を取ってからそのまま玄関の方へと歩いていき、靴を履いていた。

 それを追った頃には既に遅く、藤丸は靴を履いてドアノブに手をかけていた。

 

「朝ご飯、もう冷めてますけど、温めたら食べられますから。それじゃあ、また」

 

 藤丸は今にも泣きそうな顔でドアノブを引き、外へと出ていった。

 最後まで涙を見せなかったのは男としてのプライドか。風はそれを見送ってしまってからゆっくりと自室へ歩いていき、携帯を手に取った。

 電話をかけるのは、仕事に出ていったばかりの樹。きっとまだマネージャーの車で事務所へと向かっている最中だろう。電話には、出てくれるはず。

 そんな希望を持って電話を掛ければ、樹はすぐに出てくれた。

 

『お姉ちゃん? どうかした?』

「あ、樹……その、なんというか。藤丸に、告られたんだけど」

『ふーん。やっぱり? 昨日、寝る前にそう言ってたし、予想はできてたよ』

 

 どうやら藤丸が告白を決めたのは、昨日の夜中、風が寝てからだったらしい。

 

『それで? どうしたの? 受けたの? 断ったの?』

「いや、よく分かんなくて……黙ってたら藤丸が断られたって思って、そのまま出ていっちゃって……」

『……はぁ』

 

 樹から可愛らしい溜め息が聞こえた。

 それもそうだろう。キッパリと断るか、キッチリと受けるかなら樹だってもう何も言わなかった。だが、その結果は何も言わずに黙った結果、相手側が脈無しと判断して出ていった。

 あれだけ彼氏が欲しい恋人が欲しいとか言っていた姉が告白をされたと思ったらコレだ。溜め息の一つや二つ、吐きたくなる。

 

『藤丸先輩、かわいそー。折角勇気を出して告白したのに』

「うっ……」

 

 断ったら、どちらにしろ彼は同じような感じでここを出ていったことだろう。

 だが、風自身は断っていない。沈黙を断ったと思わせてしまった。少し考えさせて、とかまた今度答えを出す、とか。そういう感じで時間を貰っておけば、ゆっくりを考える事はできたのに。

 

『で、お姉ちゃんはそれでいいの? このままでいいの?』

「そ、れは……いい訳じゃない、けど」

『それはどっちの意味で? 藤丸先輩にしっかりとした答えを出せなかったから? 受けたかったのに受けなかった事?』

 

 いい感じに樹に誘導されているような気がする。

 だが、どっちの意味で、と言われると言葉に詰まってしまう。

 藤丸の事は、よくできた男だとは思っている。だが、長い間後輩の一人として見ていたせいか、恋愛的に好きかと言われたらよく分からない。

 

『お姉ちゃんも、恋に恋するお年頃はもう卒業してるでしょ? 少女漫画みたいな恋なんて一生のうちに起きる人の方が少ないんだよ?』

「そんなの分かってるわよ」

『わたしは良いと思うけどなぁ。お姉ちゃんと、藤丸先輩が付き合うの。お似合いだと思うよ? っていうかそもそも、お姉ちゃんって誰かに恋したことあるの? わたしの記憶だと無いようにしか思えないんだけど』

 

 樹に言われて、あっ、と声を漏らした。

 確かに、風は告白をされた事はある。された事はあるのだが……その際に恋心を知ったかと言われれば、違う。なんかその時も相手側で勝手に自己完結していたし。

 少なくとも、風は今までの二十年にも及ぶ人生の中、恋というモノをした事が無い。常に受け身で、誰かから告白されたいなー、誰か告白してくれないかなー、どーして誰も告白してこないんだろー、とか。そんな甘ったれた事を言っていた。

 姉の沈黙に妹が溜め息を吐いた。

 

『だーめだこりゃ』

「言い返せない……」

『しばらく考えてみたら? 藤丸先輩、もう何年もお姉ちゃんの事好きなんだし、暫くは心変わりもできずに引きずると思うよ』

「いや、そう言われても……っていうか、藤丸っていつからアタシの事好きだったのよ」

『中二の頃からだよ。初めて会って、一緒に居て、気が付いたら惚れてたって言ってた。って、なんで姉の恋愛事情に妹の方が詳しいのやら……』

 

 そんなにも前から、と驚いたが、言われてみればそうだったかもしれない。

 なんやかんやで藤丸は優しくしてくれてたし、風といる間は笑顔も増えていたような気がする。そして高校、大学と歩を進めて、彼を遊びに誘うと大抵彼はそれに付き合ってくれた。

 これは彼がさっき言った通りだ。

 

『わたしは付き合ってもいいと思うけどなぁ。藤丸先輩なら絶対にお姉ちゃんを不幸にはしないと思うよ。っていうか、何の制約もないのに今日まで誰とも付き合っていない姉が、これを機に結婚を前提にしたお付き合いルートに入ってくれると、妹としても姉の将来が安心です』

「……それを言ったら樹だってそうじゃない」

『わたしは事務所の方針のせいで暫くは恋愛禁止だもん。それに、歌手してるとモテるんだよ? 将来はそんなに苦戦しないと思うけど』

 

 ちなみに、数年後、この緑は行き遅れルートに足を突っ込む事となるのは当時誰も予想していなかった。彼女は立派な風の妹なのである。

 

『ほらほら、どうするの? もしかしたら藤丸先輩、駐車場で一人泣いてるかもだよ? 今ならまだ直接言えるかもしれないよ?』

 

 うっさい、と樹に返事を返し、思い出す。

 昨日、お持ち帰りされかけた時。風には理性は無かったが、少しは覚えている。迎えに来てくれた藤丸が、風をどこかに連れていこうとした男の胸倉を掴み上げ、真剣な顔で風を守ってくれた事。風の事を真剣に考え、風のために動いてくれた彼の事。

 そして、先ほどまでの真剣な顔で告白してくれた彼の事。

 確かに風は恋心が分からない。だが、思い出して顔を赤くするような事をしてくれた彼の気持ちは、嘘ではない。そんな彼に答えたくない、とも思わない。答えてやってもいい、とは思う。

 顔を赤くしながら額に手を当て、女は度胸! と一つ叫んだ。

 

「樹! あんたの義兄ができるかもしれないって事で一つよろしく!」

『はいはい。今日はお祝いにケーキでも買って帰るから楽しみにしててね』

「で、駐車場チェック! ……まだ車がある! んじゃ、そっちも仕事頑張りなさい!」

 

 駐車場をチェックし、彼の車がまだあることを確認した風は通話を切り、携帯をポケットに突っ込んでから外へと飛び出し、そのまま階段を駆け下りて駐車場へ。

 そして車の中でハンドルに額を押し付けて俯いたままの藤丸を発見し、そのまま車へと駆け寄ると、窓をノックして藤丸に自分の存在を気付かせた後、ドアを開けて藤丸の手を掴み、無理矢理車から彼を下ろした。

 

「ちょ、ちょっ!? 風先輩!?」

 

 彼はどうやら絶賛号泣中だったようで、目尻は赤く、涙が流れている。驚きによりある程度は引っ込んだようだが、泣いていた事には変わりない。

 右見て、左見て、後ろ見て、前見て。誰も居ないのを確認してから風は藤丸の肩を掴んだまま口を開く。

 

「アタシ、実はまだ誰かに恋した事とか無いのよ。だから、恋心とかよく分かんないの」

「は、はぁ……」

「でも、アンタみたいな奴は好きよ。アタシのためにこんなにも色々としてくれる奴の事、嫌いになんかなる訳ないでしょ。少なくとも好感度は他の誰よりも高いわよ」

 

 急に色々と捲し立てられて藤丸の目が点になっている。口も半開きだ。

 だが、構わず風は自分の気持ちを藤丸にぶつける。

 

「ま、まぁ……簡単に言えばアタシが惚れるような男はこの世界にゃアンタくらいしか居ないって事! 愛してるとかよく分かんないけど、アンタは好きよ! きっと……いえ、絶対、アンタ以上に好きになる男は出てこないわ! だから、アタシん所に来なさい! さっきあんな事を言ったんだから、NOとは言わせないわよ!」

 

 風自身、自分で何を言っているのかは分からなかった。

 だが、藤丸にしっかりと気持ちは伝わったようで、彼は今の間抜け面を止めると、小さく笑い始めた。

 

「なんすかそれ。言ってる事、ちょっと滅茶苦茶ですよ」

「滅茶苦茶で結構! で、どうすんの。さっきの言葉撤回する? それとも撤回せずにアタシん所に来るか、どうすんの?」

 

 笑いながらそう言えば、藤丸も笑いながら答える。

 

「んじゃ、風先輩のトコ、行きますよ。あなたと一緒に、これからずっと居させてください」

「それでいいのよ、それで。互いに互いの所で永久就職。これでいいのよ」

 

 過程はどうも風の理想通りとはいかなかったが、結果良ければ全てよし。風は藤丸の肩に手を回してそのまま藤丸を自分の家へと連れ込み、藤丸もそれを笑いながら受け入れる。

 恋人関係というモノにはなったが、暫くは今までと同じような関係を続けて、徐々に徐々にそれっぽい事をしていくような、ゆっくりとした恋愛にはなると思うが、互いに受け身が似合う身なのでそれでいいや、なんて思いながら、風は藤丸が温めた味噌汁を飲み、毎日作りなさい、なんて横暴を言い。

 彼はそれを受け入れ、また互いに笑うのであった。




風IFをどんな感じの話にしようかな、と思った時に考え付いたのは、樹の時のように藤丸が惚れているという前提を作ってから話を作ろうという考えでした。

わすゆ組が小学生時代~中学生時代の間に話が完結し、犬吠埼姉妹を除く勇者部員が大人になってからの恋愛(?)、くめゆ組が高校~大学の間の話だったので、犬吠埼姉妹はどれにも属さないようで属している、藤丸が惚れていたという前提がある話にしようと思いました。

その結果、今回はわすゆ組に藤丸が惚れているという前提を混ぜ込んだ感じの樹IFとはちょっと違った、ゆゆゆ組とくめゆ組の中間辺りに藤丸が惚れているという前提を混ぜ込んだ感じの話となりました。

まぁ、上記の事は風IFの構想が完成した辺りでこんな感じでやってみっかぁ! とか思っただけなんですけどね()

という事で風IFでした。残りは銀IFその2を残すのみ。
実は修羅場時空を今度は全キャラ交えた状態で、ちーちゃんをツッコミ役に据えた状態でやりたいので、既にのわゆ編の導入は八割方書き終わってますが保留状態としております。
そして最後にアンケートの乗っけておきます。このアンケートの結果は反映するか分かりません。この話を見たい人いるのかなー? って確認だけです。
では、また次回お会いしましょう!
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