感想や活動報告へのコメント、ありがとうございます! 今回は銀IFの二話目、つまりはようやく二人がくっつく話となります。
いやー、前に銀IFを投稿したのが一年近くか一年以上前なので相当久しぶりですね。結構話の構成は色々とあったのですが、最終的にはこの形に落ち着きました。
という事で銀IFその2をどうぞ。
7/6追記
この話は乃木若葉の章のネタバレを含んでおります。その点を注意の上お読みください。
三ノ輪銀は恋する乙女である。
桂こと藤丸に恋心を抱いてからどれだけの時が経ったか。彼からも恋心を向けられているという事実を知り、この恋心は玉砕しない物だと理解をした。
したはいいのだが、ならばそれを実らせるとなると、銀は世間一般で言うヘタレであったが故に告白なんてできず。更には藤丸までもがヘタレであったが故に両想いなのに付き合えないという謎の期間が発生してしまった。
最も、藤丸はその事に気が付いてないので、彼は単純にフラレるのが怖くて告白をしていない、という可能性が大きいが。
バーテックス戦なんていう明らかに恋愛が進行しそうなイベントは既に終わっており、世界は平和。そんな中で想い人と付き合うには。
そんな事を考えながら今現在、銀は福引のガラガラを回していた。
偶々買い物をしたら偶々福引券のサービスをやっており、あるんならやって行こうと思い長いとも短いとも言えない列を並び、ガラガラと。
「どーせ当たらんだろ」
なんて言いながら苦笑しつつガラガラ。
数秒にも満たない時間回して出たのは、白色。ハズレだ。
既にハズレはこれで三つ目。残り回数は一回。四等辺りのティッシュ一箱でも当たれば儲けものだ、なんて思い四度目のガラガラ。
出た玉は、赤色。
「大当たりぃ! 二等、水族館ペアチケットです!」
「…………へ?」
どーせハズレだ、なんて思っていたら。
神樹様からのささやかな幸福か。それとも日頃の行いが良かったからか。
はたまたこれを切欠にでもして、とっとと付き合っちまえという周りからの怨念の集合体か。
しかし、銀は実際に水族館ペアチケットなんて物を入手してしまった。してしまったのだ。
****
「って事で父さんと母さんにこれ渡しといて」
してしまったから、とりあえず両親にプレゼントしてみる。
しかし、直接言うのはなんか恥ずいので鉄男に、使いたいんなら使ってもいいんだぞ? なんて言いながら手渡して。
「……俺さ、今姉ちゃんの事を真性の馬鹿なんじゃないかって思ってるよ」
喧嘩を売られた。
「ほう、鉄男よ。お前、アタシに対してよくぞ喧嘩を売ったな? 買ってやろうか? ん?」
「いやマジで。なんで自分で使わねーの」
鉄男の顔は呆れ100%。姉に対してマジで呆れている顔だ。
そして何で使わないのか、と聞かれたら。
「一緒に行くやついねーし」
美森はまぁ、誘えば来るだろうが水族館なんて柄じゃないだろう。園子も同じだが、彼女の場合はチケットをもう二枚程買ってきて先代組四人で、なんてことになりそうだ。
だったら鉄男か両親に、なんて思ったのだが。
「桂兄ちゃん」
「うっ……」
言われて、何も言い返せなかった。
そう。銀には既に想い人が居るんだから、その人に使えばいい。その発想は出ていたが、まぁ勿論ヘタレたわけだ。
鉄男からしてみたら鬱陶しいのだ。姉があの人が好き、って言ってそのあの人も姉の事が好き、って言ってるのにでもでもだってでヘタれている事が。
とっとと付き合ってもらって義兄ができる事が今の鉄男にとっては一番なのだ。
「いや、でも……デートなんてどうやって誘ったらいいか……」
「実の姉がもじもじしてる所見てもキモいとしか思えない」
ん? と言いながら銀が笑顔でアイアンクローを決めた。
ごめんなさい。姉ちゃんは可愛いです
次はないからな、弟よ。
「でも、俺としてはとっととくっついて欲しい。桂兄ちゃんを名実ともに兄ちゃんにしてよ」
だって鬱陶しいし。
そんな鉄男の内心は聞こえているのか聞こえていないのか。きっと聞こえていない。しかし、銀は名実ともに兄ちゃんにして、という言葉に若干照れているのか顔を赤くしている。
キモッ、と呟いた鉄男の頭に拳が刺さり、鉄男は頭を押さえてうずくまる。
だが、銀の顔は未だに赤い。鉄男はとっととデートして告白して付き合っちまえよ、とずっと言っているのだが、この姉は。ヘタレとヘタレってこんなにも面倒なんだ、と鉄男は学びながら、そっと銀の携帯を手に取り。
「おっと鉄男。お前にゃ弄らせん」
「いやいや、姉ちゃんの代わりに俺が桂兄ちゃんを誘ってあげようとしてるだけなんだけど?」
「余計なお世話だ!」
どこかの世界で見たような光景がもう一度再生されようとしていたが、銀はそれを拒み、鉄男は結局銀の携帯から藤丸にメッセージを飛ばす事を諦めた。
「とにかく! アタシは水族館なんて柄じゃないし、鉄男にやる! もう知らん!」
「このヘタレ!」
「うるせぇチビ!」
「ヘタレに言われても痛くも痒くもねぇ!」
「んだとこんちくしょう!」
こうして姉弟喧嘩が勃発。殴り合ったりはしないが、結局は銀が鉄男に関節技を仕掛け、それが極まった事により鉄男はギブアップ。
ゴリラめ、という鉄男の呟きで第二ラウンドが開催されたが、結局また銀の勝ち。
水族館のチケットを鉄男に押しつけ、ちょっとだけ惜しい事をしたかな、なんて思いながら今日の夕食の準備に入る。
恋する乙女がヘタレるとめんどくさい。鉄男はそれを学び、無事気絶したのだった。
****
「って事がこの間あったんだよ。いやー、鉄男も変な事言わずに受けとりゃいいってのに……」
「鉄男くんもミノさんの事を気遣ったんだよ~」
「んなわきゃねーっての。アレがンな事できるかっての」
鉄男と口論し、結局水族館のチケットを押し付けてから暫くしてから、銀は自分の恋心云々を隠しつつ、園子に件の話を笑い話として提供した。園子は自分の心を知っているが、それでもそれを絡めた話をしたくなかったのは、後ろめたさからか、それとも照れ隠しからか。
銀は喋りながら呆れたような表情を浮かべているが、園子の表情は笑顔なのであまり読めない。
しかし、園子の表情から内心を読めないのはいつもの事。笑顔がそのまま内心を表している事は園子でもよくある事だが、時には笑顔の下で何かえげつない事を考えている事もあるのが園子だ。故に、読めない。
参った参ったあはは、と銀は笑うが、園子は笑顔を崩さずに銀を見るだけ。
鉄男の手に渡った水族館のペアチケットは、鉄男がひっそりと思いを寄せていたらしい女の子とのデート権へと変わったのを銀は聞いたため、まぁあのペアチケットが無駄にならなかっただけいいだろう、とは思っている。
「ふーん。で、ミノさんはズラっちとデート行かないの?」
「い、行かねぇよ……アタシはそんな柄でもないってのはお前が一番分かってんだろ」
銀の照れながらの言葉にふーん、と再び呟く園子。
なんだかこの話題を振ってからの園子の様子がおかしい。おかしいというか、ずっと笑顔を表面上に貼り付けていると言うか、園子が要らん事を考えている時特有の笑顔を浮かべていると言うか、なんというか。
だが、そういう要らん事を思いついた園子は放っておくのが吉だ。無暗に触れてしまっては、思いっきり火傷する可能性がある。
「でも、ミノさんって恋煩いになるとこんなに奥手になるんだね~。ズラっちもだけど、見ていてもどかしいよ~」
「べ、別にお前にゃ関係ねぇだろが。りょ、りょうおもい……な、なのは分かってんだから!」
どうしてそこで照れるのか、と園子の溜め息が教室の一角に漏れる。
今は休み時間中なので、ほぼ全クラスメイトが教室内に居る。勿論勇者部三年生メンバーもこの場に居るが、ピンク青赤はちょっと離れた所で談笑しているし、話題に出ている藤丸も男友達と馬鹿な会話に華を咲かせている。
故に、銀と園子の会話が誰かに聞かれている、という事はない。なので、弄りたい放題もいい所なのだが。
「まぁ、いいや」
園子が笑顔でそんな言葉を切り出して。
「ミノさんがそんなんなら、わたしにもチャンスはありそうだな~」
なんて、言い出した。
園子の言葉は、銀の思考回路を一瞬フリーズさせるには十分すぎる言葉だった。
チャンスの意味。今までの会話と文脈と、園子の今の言葉を照らし合わせれば、出てくる答えはただ一つ。
つまり、そういう事だ。
「……な、何言ってんだよ園子。じょ、冗談なら、その、アレだぞ? 趣味悪いぞ?」
「だってわたし、ミノさんとズラっちの間には入れないな~って思って、諦めてたんだよ~? でも、ミノさんがそんなんだし、わたしにもチャンスはあるって思うの、当然だと思うけどね~?」
園子は先ほどの言葉にも、銀の言葉にも、言葉を返さない。
自分の意見をニコニコしながら告げるだけ。
恋敵であるという事実を、目の前で突きつけてくるだけだ。自分よりも遥かに女の子らしいとも言える彼女が恋敵であるという事実を。
先ほどまでの笑いが完全に消え去り、現実を直視したくない故に出てくるか乾いた笑いが数回出てくるだけ。
「は、はは……じょ、冗談キツイって。お前、ほら、アレじゃん。腐ってんじゃん。性癖違うじゃん? 騙されねぇからな?」
「性癖はアレでも、好きになる男の子は普通の子っていうのは、本当に不思議だよね~?」
否定の言葉が飛んでこない。
つまり、園子は本気で。
「まぁ、これからはレース相手って事だね~?」
ニコニコゆったりと、いつものように語りかけてくる園子に銀は言葉を返せない。彼女が先ほどまでの言葉を冗談と否定しないという事は、つまりそういう事で。
まさか、この恋心にタイムリミットが生まれるなんて思ってもいなかった。いや、そもそもこの恋心をしっかりと実らせる事を競う相手が出てくるとも思っていなかった。
「お母さんから、えっと……ぼ、房中術だっけ? そういうのを聞かされたりして……あ、これやっぱなし。思った以上に恥ずいしそんな事実ないし……と、とにかく、ミノさんも頑張らないと、わたしがズラっちを取っちゃうよ~? それじゃっ」
顔を赤くしながら何か言っていた園子だったが、すぐに席を立ってどこかへ歩いて行った。後五分で授業開始ですよ。
しかし、そんな事を気にする事ができる程、今の銀に精神的な余裕はなかった。
フラフラと自分の席に戻って寝たふりをしながら考える。
どうしようと。
どうしたらいいんだろうと。
だが、それでも答えなんて出るわけがなく、銀はその日、ずーっと上の空状態で授業を受け、ずーっと上の空状態で部活に参加したのだった。
****
「ノリと勢いでやるもんじゃないね、この立場!! 罪悪感が凄いんよ!!」
「いやいや、園子先生。案外ノリノリだったじゃないですか」
そして一方その頃。園子は西暦の時代にお邪魔し、今回の案を出してくれた心の友とも言える腐った後輩、杏と合流していた。
何故杏と、と言われればそのトリックはいたって単純。とうとう痺れを切らした園子とその話を聞いていた杏の手により、銀と藤丸をくっ付けてしまおう作戦が決行されたのだ。
その作戦内容とは、園子が藤丸に好意を持ち奪い取ろうとしている所を見せつけ、銀には奪われるくらいならと告白させてそのままくっ付いてもらおうという至って単純なモノ。発案は杏で、細かい部分は園子が案を練った。
練ったのだが。
「この立場、予想以上に辛いよ……! えっ、なに、これわたし恨まれないよね? 後ろからミノさんの斧に心臓ぐっさーされないよね……?」
「女の嫉妬は醜いとは言いますからね……あり得ない話じゃないかも……」
「変な作戦立てた結果逝きますよー逝く逝く……じゃなくて! 確かにそれも心配だけど、それ以上にわたしの心が辛い! 二人ともめちゃくちゃショック受けてたよ! 滅多な事じゃ傷つかない二人が相当ショック受けてたよ!! あとついでに言うとミノさんの前で房中術とか言うの恥ずかしかった……ごめんねお母さん濡れ衣着せて……」
もう園子のキャラが迷子になってしまった。
だが、そうなっても仕方ないだろう。何せ自ら親友の想い人を狙う恋敵を演じ、これから先あの二人がくっつくまではそれをアピールし続けなければいけないのだから。
そう、親友の想い人を。
「ま、まぁ、レズアピールは要らなかったかもしれませんね……」
実は園子さん、銀と話した後にこんな事を藤丸と話していた。
「ねぇねぇズラっち~。ズラっちってミノさんの事好きなんだよね~?」
「はっ!? はぁ!? い、いや、その、いや、あの……す、好きじゃ、ないが!?」
「うっわ分かりやす……ごほんっ! でも、それならよかった~。それなら安心してアタックできるよ~」
「……は? アタック……?」
「そうだよ~。わたし、実はミノさんの事が好きなんだ~。もしもズラっちが競争相手だったら嫌だったんだけど~、そうじゃないなら安心してアタックできるよ~」
「………………えっ。いや、その…………そ、そういうのは、ほら、あれだ。クソレズとかあっちの巫女ンビで十分だろ……?」
「好きになったからには仕方ないでしょ~? それじゃ、わたし帰るね~」
「あっ、そ、園子!? おい!?」
こんな事を。
つまり、園子は銀からしてみれば同じ男を狙う恋敵であり、藤丸からしてみれば同じ女を狙う恋敵なのである。
流石に属性過多というかその場の勢いで発案したものをその場の勢いで決行するのはやりすぎた。というかこれだと完全に園子が悪役と言うか悪女と言うか。下手すりゃ今後二人との関係がぶっ壊れるまである。
いくら焚き付けるためとは言え、流石にそこまでやる必要はなかった。精々ソレっぽい事を匂わせて後から勘違いだよ~、で済ませればよかった。それもこれも園子&杏が深夜テンションでやらかしたせいなので自業自得なのだが、やっちまったことに対する後悔はどうしても付きまとう。
「確かに男の子は男の子と、女の子は女の子と恋愛すべきだとは思ってるけど~……親友の恋くらいは応援したいじゃん……? なのにやった事って……」
「そ、園子先生! もうこうなったら飲みましょう!! グイっといきましょう!!」
「こ、これは……ストロングゼロ!」
「苦痛に耐えれなかったら飲むといい」
「酒! 飲まずにはいられない!!」
「わたしも!!」
この後滅茶苦茶酒盛りした。なお記憶は飛んだ。
****
こうなったらもうなりふり構っていられない。それが銀の考えだった。
園子から藤丸を狙っていると言われてから丸一日、銀は考えていた。何故か欠席している園子にどうやったら勝てるのかを。
考えて、至った。
無理だ。
園子は確かに腐っていて暴君な所があるが、普通にしていればお淑やかで、可愛くて、綺麗で、スタイルもよくて、お金持ちで、暴君な所を除けば性格もよくて、家事もできる。もし園子が乃木家の令嬢ではなく、どこか別の。鷲尾家や三ノ輪家の女の子だったら、間違いなくモテていただろう。彼女は美森のようにクソレズではなく、銀のように男勝りでもないのだから。
そんな園子から、家の格なんて気にしない彼がアタックされたらどうなるか。もしかしたらヘタレている自分とは完全に見切りをつけて新しい恋を始めるかもしれない。
それが容易に想像できてしまうから、なりふり構っていられない。そう考えた。
だが、どうしたらいいのか。どうやって彼に告白したらいいのか、そこに至るまでの道が分からない。
故に銀はとある人物にヘルプを求めた。
「頼む、若葉! アタシにそこら辺の度胸を出す方法を教えてくれ!」
「は?」
多分、人選ミスしている。
「いや、それはいいが……何故私なんだ? 私よりも杏や千景の方がいいんじゃないか?」
「杏は見つからなかった。千景は……なんか、恥ずい」
「私なら恥ずかしくないのか……?」
丸亀城で鈍らない程度に生太刀を手に素振りしていた若葉は汗をタオルで拭き、軽く水分補給をすると改めて銀の言葉を聞いた。
銀が欲しいのは、度胸だ。
藤丸に向かってアタックするための度胸。それさえあれば、告白できる。きっと、この恋を成熟させる事ができる。
「しかし、まさか銀と園子が藤丸に気があったとはな。ようやく勇者の中でまともな恋愛をする奴が現れて少しほっとしている」
「そ、それは……他の奴が異常なだけというか……」
「……まぁ、否定はしないさ。だが、千景とか杏とか水都とか東郷のキャラが強くてな……あとひなた」
「……そっか。っていうか、ひなたの事を自覚はしていたのな」
「そりゃあ、ここ数か月でレ〇プ未遂を五回くらいされたからな……夜中に気配を感じて起きたら発情している幼馴染が跨ってるのは最早恐怖だぞ……」
「うわぁ……」
「あいつ、もう自分達は自由の身だからってとうとう実力行使に出やがった……!!」
それでも貞操を守り抜いている当たり、流石若葉と言うべきか。
しかし、銀達の時代に繋がる初代勇者の家系図は、悲しい事に若葉の横とひなたの横には人の名前が書いていない。そして、園子の存在。
つまり、そういう事なのだ。彼女は恐らく、ひなたに食われる運命にある。というか、それでも普通に仲良くできる辺り、もしかしたら若葉にもその気があるのかもしれない。今は押し退けているだけで。
「で、なんだったか。告白するための度胸を出す方法、だったか」
「お、おう。なんかないか? 若葉って、人前に出て演説したり鼓舞したりしてたんだろ? それなら何かいい案が……」
「ないっ!!」
知ってた。
だって若葉も好きな異性なんていないんだもん。
「マジかぁ……」
声高らかに告げられたその声に、銀が肩を落として落胆する。
園子は頼れない。他の勇者部メンバーもポンコツばかりなので恐らく駄目。芽吹達防人組はしずくと亜耶以外は頼りにならないだろうし、その二人も多分頑張って案は出してくれても、恐らくそれはどっちにしろ度胸がいるものになる。
じゃあ西暦メンバーはどうかと言えば、ひなた達同性愛者は却下。そうすると若葉、高嶋、球子、歌野、雪花、棗となるのだが、この中で度胸を出すためのアドバイスができるとしたら、恐らく若葉か棗。棗は海に居る時間の方が多いので、すぐに会える若葉の元に消去法で来たのだが、どうやら無駄足だったらしい。
溜め息を吐き神世紀に帰り少女漫画とか読むかぁ、とか思った銀だったが、そんな銀の背中を若葉が止めた。
「ないが……そうだな。少し、乃木家の伝統的なまじないを教えてやろう」
確かに、恋のための度胸を出すための方法は知らない。
だが、まじないならある。
彼女はそう告げ、懐から財布を取り出し、その中に入っていた勾玉を一つ取り出し、銀に握らせた。
「これは……?」
「乃木家に代々伝わる勇気を出すための勾玉だ。こいつを握り祈ればどんな時だろうと勇気が出てくる。度胸を出す方法ではないが、勇気を出す方法だって今のお前にピッタリだろう?」
勾玉とは言うが、それは透明で小さな勾玉だ。神社で一個数百円のお守り代わりに売っていそうな、どこか安っぽい勾玉。
だが、若葉が代々伝わる勾玉だというのなら、そうなのだろう。
「私だってあんな演説や鼓舞が自然とできた訳じゃない。これを握って、大丈夫だと祈ったからこそできたんだ。だから、告白だってできる筈だ」
だから、頑張れ。
そう告げて肩を叩く彼女は、同い年だと言うのに凄く頼りになった。
勾玉を握り込み頷く銀を見て、若葉はその調子だと笑う。
「じゃ、じゃあ、これ持って告白を……!」
「その調子だ。あっ、だからと言って往来の場で告白なんてするなよ? そうしたら告白がトラウマになるぞ」
「わ、わーってるっての! 適当にどっかに呼び出すから!」
「うんうん、そうやってなるべくいつも通りをキープしながら告白してこい。お姉さんはいつでも応援しているぞ」
「同い年なのに姉さん気取りかよ……」
「子孫の親友なんだから、お姉さん気取りしたっていいじゃないか。ほら、私と話している暇があるのか? 園子に想い人を取られるぞ?」
「ぐっ……! わ、わかった! じゃあ行ってくる!」
「おう、行ってこい若者。吉報を待っているぞ」
走り去る銀を見送り、若葉は息を吐いた。
なんというか、慣れない役は疲れるものだ。素振り百回よりもかなり疲れた。
若葉は一度伸びだけすると、再び生太刀を持ち素振りを始める。
平和な世界でポン刀握って素振り。野武士は今日もいつも通りだった。
****
讃州中学の屋上に来てください。待っています。
そんな質素な文を藤丸にNARUKOで届けた銀は、勾玉を強く握りしめてただひたすらに藤丸の事を待っていた。
これから告白する。それを考えると今にも頭が茹だって沸騰して気絶してしまいそうだった。
だが、こうでもしないときっと藤丸は園子に取られてしまう。それが分かっているので勇気を出すしかない。
こうやって勾玉を握りしめていると、ほんのりと勇気が沸いてくる気がする。
この勇気を告白に変えて、思いの丈をぶつけるんだ。
両想いなのは、分かっている。あっちは分かっていないが、こっちは分かっている。だから。
握りしめた勾玉に祈りを込めて待っていると、屋上のドアがゆっくりと開いた。
「よっ、ズラ」
放課後の夕日を背に受けながら笑顔でいつも通りに挨拶すれば、彼は赤い顔のまま頷いた。
それはこの後に起こる事を想像しての赤面か、それとも夕日の赤が顔を染めているだけか。どちらかは分からないが、藤丸は少し緊張した表情で銀の傍まで歩いてきた。
「ぎ、銀。急に呼び出して、なんの用だ?」
「い、いや、その、話がな、あってな……」
自分でも顔が赤くなっているのが分かる。
でも、きっとあっちは分からない。そのために夕日を背負い逆光で話しているのだから。
分からない、はず。
「話って? 部室じゃできないこと……なのか?」
どこか不安げな彼は、銀と同じように少ししどろもどろしている。
その様子を見てちょっと可愛らしいと思うが、銀の口から次の言葉が出ない。
好きです。付き合ってください。
文字に起こせばたったそれだけの言葉が、口から出てこない。
ただ彼の言葉に頷き、気まずい空気が流れるだけ。そわそわとする藤丸と、俯いて次の言葉を考える銀。どこか青春の一ページのように微笑ましいその光景を見学する第三者は居ない。
ここに居るのは、銀と藤丸の二人だけだ。
「…………い、いや、やっぱり」
そんな中で、銀が俯いた顔を上げてそんな事を口にした。
やっぱり何でもない。
そう言って、逃げようとした。
だが、それを言おうとしてぎゅっと握りしめていた手をもう一度握りしめて、ようやくそこにある勾玉の存在を思い出した。
勇気をくれる勾玉。
若葉が貸してくれた、勇気を出すための伝統の勾玉。
それを持っていながら告白できなかったのなら、きっともう二度と告白できない。園子に取られるのをただ傍目で見るだけになってしまう。
だから。
ここで。
この場で。
「……ごめん、嘘」
告白する。
「…………なぁ、ズラ」
「なんだ?」
息を吸って、吐いて、勾玉をもう一度握りしめて。
「いいか、一度しか言わないからよく聞けよ。聞き逃したは無しだかんな」
「お、おう。絶対に聞き逃さないさ」
「絶対だからな。絶対、一度しか言わないからな。いいか、ズラ。アタシは……三ノ輪銀は! お前の事が――」
この後に続く言葉を記すのは、きっと無粋だろう。
だが、その後に起こった事は、単純な事だ。
夕日のせいか、それとも違うのか。顔を赤くした彼がその言葉に頷き、勇気を出して彼女の言葉に応え、ずっと恋心を抱いていた彼女はようやく初恋を実らせたのだから。
****
その後、銀は勾玉を若葉に返しに来た。
借りたのだから返さなければならない。助言を貰いに来るときよりもかなり上機嫌に西暦の時代へと向かい、若葉の部屋を訪れれば、彼女は銀の様子から事態がどうなったのかを察し、笑顔で彼女の事を祝福した。
「おめでとう、銀。よく頑張ったな」
「いや、全部若葉が貸してくれた勾玉のおかげだよ。こんな貴重なもの、貸してくれて本当にありがとな」
「ん、そうか。まぁ、実はこれ、この間引いたおみくじにおまけで付いてきた二百円ちょっとの勾玉なんだがな。というかあげたつもりなのだが、返すというのなら受け取っておこう」
えっ?
「……あ、あれ? こ、これって乃木家に代々伝わるって……」
「あぁ、それは嘘だ。そんな都合のいい物を偶々持ってるわけがないだろう。しかもそんな貴重なものなら財布に入れずにもっと厳重に保管している。これは偶々財布の中に入っていただけの安物だ」
乃木家に代々伝わる勇気を出すための勾玉。
そんなもん最初からありゃしない。
あの言葉は全部若葉がその場で適当にでっち上げた嘘だ。何かいいものないかなーと財布の中を探してみたら勾玉があったのでそれに適当な嘘を塗りたくってただあげただけだ。
その事実を何度も頭の中で反響させて、嚥下して、ようやく理解した頃には銀の顔は真っ赤になっていた。
「わ、若葉お前えええええええええええええ!!」
「はっはっは。甘酸っぱい少女漫画みたいな恋愛話ありがとう! いやー、青春とはこうでなくてはな。告白成功したと聞いて胸がきゅんきゅんしたぞ」
「おまっ、おまっ、おまああああああああああああああ!!」
「じゃれるなじゃれるな。そんなに藤丸と付き合えたことが嬉しいか? 嬉しいだろうな。分かったからそんなにじゃれるんじゃない」
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」
その日、西暦勇者の女子寮には銀の嬉しいけど釈然としないと言わんばかりの、ちょっと色んな複雑な心情が混ざった叫びが響きましたとさ。
「……そう言えば、園子の件はどうなったんだ? 急に銀の話からはフェードアウトしているみたいだが」
「はぁ……はぁ……へ? いや、アタシは知らないけど……って、そういやアタシって園子の好きな奴を奪い取ったんだよな……うわっ、なんだか罪悪感が……」
「本当にそうか……? 園子が今さらアレに惚れるとは思わんが……」
なお、この心配が完全に杞憂であり、自分が園子にハメられたことに気が付くのは藤丸と会話をしていく中で判明していくのだが、それは余談である。
****
「ふわぁ……よく寝た~。あれ? ここどこ……って、あんずんの部屋……?」
「うみゅぁ……そのこせんせい……おふぁようごじゃましゅ……」
「おはよ~。っていうか、わたし達っていつ寝たっけ……? ストロングゼロ飲んだ辺りから記憶ないんだけど……」
「わたしもにゃいです……ん、んん……あれ? なんかさむい……」
「へ? あっ、言われてみると………………あ、あれ? あ、あんずん? 服どうしたの……?」
「ふく、ですかぁ? ふつうに着てる…………あれ? っていうか、園子先生も服……」
「………………着てないね~。ついでに言うと全裸だね~」
「そうですね。わたしも園子先生も全裸ですね」
「服、すっごい散らばってるね」
「しかも布団が湿ってますね」
『………………う、うわあああああああああああああああああああああああああ!!?』
それから暫く、顔を両手で覆ってこの世の終わりみたいなオーラを出す金色と白色のふわふわコンビが居たとか居なかったとか。
ちなみに金髪コンビは酒を飲んだ結果何故か二人とも脱いでそのままベッドにダイブし酒を零しながら寝ただけだった模様。
という事で銀IF2でした。コンセプトとしましては園子IFと似ているようでコメディ色多め、という物でした。なので途中から色んなキャラが本性現したね状態になってます。
え? そのっちとあんずんの飲酒? 知らんなぁ。
銀とその周辺を書いたのでハゲはちょっと空気気味。あくまでも主役はミノさんでした。ちなみにハゲは園子からの衝撃告白をくらった後にゆーゆ&にぼっしー&メブに相談していたりもします。ハゲの中でこういう時頼りになるのがこの三人という扱いだったり。
え? 風先輩? 知らんなぁ。
この話も一週間経ちましたら上の方へと移動させます。移動させるの結構ダルイ……
それでは、またご機会がありましたらお会いしましょう。でわでわ