ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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みんな大好きあの子の登場。

赤評価から即オレンジに低下してて草生える


落下ハゲ

 広がる樹海。その中を勇者部の五人の内四人は勇者の装束に身を包み立ち、ハゲは万が一に備えハゲを光らせながら待機していた。勇者達の強化された視力とハゲ丸が携帯のズーム機能を使ってようやく見える場所に五体目のバーテックスが浮いている。

 あれを倒せば、このお役目も折り返しが近い。そうすれば、この命懸けの戦闘ともおさらば。勇者部は晴れてちょっと前までの、日常の中にある部活とそん色ない部活へと戻る。日常が、戻ってくる。

 

「奴さん、もうすぐ来るわね」

「どうしよ……一か月ぶりだしちょっと戦い方忘れたかも……」

「それなら、このアプリの説明機能を見れば一発です!」

「あ、そういえばそんなのあったね!」

「あぁ……友奈ちゃん可愛いわ……」

「気を引き締めろよクソレズ……」

 

 だと言うのに、風以外はなんというか、呑気だった。

 だが、それも仕方ないかもしれない。風は元より勇者とバーテックスを知っており、それをどうにかしなければならないというお役目を果たすために生きてきた。対して他の勇者部員は巻き込まれただけとも言える。怒りたいが怒れない、なんて思っていたが、どっちにしろこの戦いは命懸けに加え、四国に残っている全人類の存亡をかけた戦いだ。

 

「ちょっとアンタら。少しは気を引き締めろっての」

 

 だからこそ、お小言を口にするのだが、こうして出てくる言葉がちょっと軽いのは、彼女らに毒されている証拠だろう。いつの間にかここまで絆されていた、とも言えるが。

 風ははーい、と間抜けな返事を返す部員たちを見て、全く。とため息を吐きながら呟く。

 さて、こんな部員たちだから、アタシが気張って無傷で全員生還させないと、と部長として。最年長として。このお役目に巻き込んでしまった原因として、大剣を握り直し、いつの間にか美森の射撃範囲内に入りそうになっているバーテックスを睨みつける。

 さぁ来いと。美森の牽制と同時に突っ込んで一瞬で封印してやる。そう意気込みながら足に力を込め――

 

「何ちんたらやってんのよ」

 

 第三者の声を聞き、足は動くのを止めた。

 誰、と聞き返す直前には既に第三者は勇者部達の背後から飛び立っており、小刀のようなものをバーテックスに投げつけ、何かされる前にいきなり封印の儀を一人で始めてしまった。

 

「封印の儀!?」

「まさか一人で!?」

「その通り!!」

 

 風達の叫びを聞き、それに応える程度の余裕はあったのだろう。飛び出した二刀を手にした少女はバーテックスの最後の抵抗であろうガスの中を飛び回り、そのまま勇者部の誰よりも俊敏で機敏な動きで御霊を切り刻んでいき、最後に小刀を何本か投げつけ爆破させ、そのまま御霊を消滅させた。

 慣れている、というよりもバーテックスとの戦いを。御霊を消滅させる戦闘方法を熟知している。そんな戦い方だった。

 件の少女が小さく「上手くいった……危なかったぁ……」なんて呟いていたのは誰も気が付いていない。最初の実戦だったので少しの不安はあったのだろう。だが、これで完全に自信が付いたのか、少女はそのまま勇者部の前へと飛んできた。

 

「何よアンタら。揃いも揃って阿呆面並べて」

 

 阿呆面。確かにその通りかもしれない。

 

「言われてるわよハゲ」

「言われてんぞレズ」

 

 そして阿呆というのはこの二人にはピッタリだった。

 はいはい喧嘩しない、と風が二人を引きはがし、樹が二人を拘束する。何してんの……と少女は引いているが、仕切り直しの意味を込めた咳払いをしてから少女は再び口を開いた。

 

「こんな連中が神樹様に選ばれた勇者? はっ。神樹様も見る目がないわね」

 

 怒涛の罵倒、というよりは小ばかにした発言。しかしそれにキレるような人物は風と芸人コンビくらいであり、今はその三人はフェードアウトしている。故に反論は飛んでこない、が。

 

「あのー」

 

 と、友奈が質問でもしたかったのか口を開いた。

 

「なによチンチクリン」

「チン?」

 

 が、相手からの息をするような小馬鹿発言。しかしそれを気にしない友奈。

 

「あの女……友奈ちゃんを馬鹿にして……ぶっ殺してやるッ!!」

「ひぃっ!!?」

 

 そしてそれにガチギレする美森。驚く赤色少女。どうどうと落ち着かせようとする風。うるせぇレズ!! と罵倒するハゲ。もう滅茶苦茶である。折角満を持して出てきた少女も美森の迫真すぎる表情と言葉にビックリしてしまった。

 

「あ、あの……あなたは?」

 

 そんな空気の中、樹が質問を飛ばした。

 

「え、えぇ……あ、あたしは三好夏凜。大赦から派遣された、本物の勇者よ」

「本物の?」

「勇者?」

 

 それはどういうことなのだろうか。樹と友奈が首をかしげる。

 

「まぁつまり。あたしが本当の勇者だからアンタら用済み、ってこと。はい解散。こっからはあたしのヒーロータイムよ」

 

 ほら帰った帰ったと手を振る少女、改め夏凜。

 なのだが。

 

「夏凜ちゃんっていうんだ! これからよろしくね!!」

「は、はぁ!!?」

 

 コミュ力お化けこと友奈にそんな言葉は通用しない。彼女は都合のいい部分だけを切り取って理解した結果、夏凜は大赦から派遣された勇者としか認識できなかった。

 つまり、風と大体同じ。なので自己紹介から先の言葉は大体理解できておらず、そのまま笑顔で手を握りに行った。それに顔を赤くして困惑する夏凜。今まで特訓一辺倒で友達なんて作った事なんてまず無かったためかこういう事に慣れていない彼女は顔を赤くしながら友奈を振りほどこうとする。

 が、悲しいかな。勇者となって筋力まで強化された彼女の手を振りほどくことはかなわず。離しなさいよ! と叫ぶが友奈は笑顔で握った手をぶんぶん。彼女には今、都合のいい事しか聞こえていない。

 

「あはは……」

 

 それに苦笑する樹。それに気が付いた夏凜が助けを求めようとして口を開き、止まる。

 あれ? どこかで見たことがあるような……と夏凜が樹を見て思い、あっと思い出す。

 

「あんた、Youtubeで歌ってる動画出してなかった?」

「え?」

 

 それはつい先日、偶々夏凜が見た動画だった。

 その中で樹はかなり上機嫌に歌っていたのを、夏凜は覚えていた。まさかそんな彼女が勇者だとは思わなかった、というか気づけなかったため今気づいたのだが、樹にとってはそんな事知らないとしか言いようがない。だって樹じゃなくて風が動画をアップしたのだから。

 夏凜が全力で友奈の手を振りほどいてから樹を手招きして、三人で動画の鑑賞に入る。

 

「ほらこれ」

「……えっ、な、なんですかこれ」

「知らないの? 案外人気なのよ?」

「ほえー……樹ちゃん、歌上手いんだね!!」

「え、あ、いや、その……これ、いったい誰が……」

「あ、動画概要欄に妹が歌っている所ですって書いてあるわね」

「……おねーちゃん?」

 

 動画の中で歌っている樹。その存在を知るのは、風と、ハゲと、レズ。

 しかしレズは知らんぷり。ハゲ丸と風はそっと目をそらした。

 

「ちょ、何投稿してんすか犬先輩!!」

「だって仕方ないでしょ!? あんなに可愛い樹、もっと共有したいもの!!」

「だからって動画を投稿するとかあんた何考えてんすか!? バレたら絶対にロクなことにならないのに!!」

「バレないって思ったんだもん!!」

「思ったんだもんじゃねぇよ犬先輩ィ!!」

 

 そして喧嘩し始める風とハゲ。

 しかし、その喧嘩もすぐに終わった。何故なら、二人の近くまで既に樹が近づいてきていたからだ。

 彼女は武器のワイヤーを発現させ、その先端付近を左手で掴みながら、既に縛られているハゲと、まだ縛られていない風を見ていた。

 

「い、樹ちゃん後輩……?」

「い、樹……?」

「おねーちゃん、ハゲ……ちょっと頭冷やそうか」

 

 風はこの日、初めてガチギレした樹を見たのだった。

 

 

****

 

 

 場所は変わって勇者部部室。そこには夏凜が私服姿で立っていた。その正面には、樹、友奈、美森の三人。

 

「……まさか学校の屋上からここまで引っ張られるなんて」

「駄目だった?」

「い、いや……どうせ校内見学の途中だったし……」

 

 既に夏凜の攻略に入っている友奈と、夏凜を今にも殺しそうな目で見ている美森。

 しかし、夏凜の意識は別の場所にあった。

 窓の外だ。そこには、樹のワイヤーで縛られた状態で吊るされている風とハゲ丸の二人があった。ミノムシか何かかと勘違いするレベルで緑のワイヤーを全身に巻かれた二人は今も風に揺られて外で揺れている。何か叫んでいるようだが、窓を閉め切ってあるので二人の声は届かない。

 そんな二人を吊るしている樹は、戦いが終わったのにも関わらず勇者装束のままであり、右手からはワイヤーが伸びたままだ。しかも、笑顔が怖い。

 

「あれ、大丈夫なの……?」

「大丈夫じゃないですね。なのでこのままワイヤーを切って落としましょうか」

「止めてあげなさいよ……」

 

 二人は無事なのか? と聞く夏凜と、お仕置きはこの程度で大丈夫なのか、と頭の中で勝手に解釈する樹。会話がかみ合っていないが、そこまでかみ合わないレベルで樹はキレていた。友奈は、樹ちゃんの歌上手いね! と言うが、それも逆効果。言われるたびに二人を締め付けるワイヤーがきつくなっていく。もしも風がうどんを食べた直後だったら、口から女子力が垂れ流しになっていただろう。

 外見からは小動物系な感じがするのに、やることは鬼畜のそれである。初対面の夏凜は完全に引いてしまっている。だが、友奈は、この程度なら大丈夫でしょとお気楽。美森はそれ以前なのでもう夏凜は困惑しっぱなしである。

 

「……あの、あたし、もう帰るわ」

「えー?」

 

 そのため、落ち着きたいという願いも込めて帰ろうとするが、それに友奈は抗議する。

 どうにも友奈の言葉は断りづらい。そう思いながらも夏凜はなんとか頭の中で帰る口実を思い浮かべる。

 

「まだ編入手続きがあるのよ。だから帰るわ」

 

 そういって夏凜は友奈を振り切ってそのまま部室から出て行った。

 ふられちゃった~、なんて呑気にいう友奈。ぶっ殺してやろうかと殺意を高める美森。笑顔で外の二人をぶっ殺してやろうかと殺意を高める樹。

 

「ねぇねぇ、二人とも。ここにタロットがあるでしょ? これをこうして、こうじゃ」

 

 樹はそう言いながらタロット占いをはじめ、出たカードを二人に見せる。

 

「死神。ということでマストダイ」

 

 そして樹が左手の親指で首を掻ききるジェスチャーとその親指を下へ向けるジェスチャーを笑顔でした直後、風とハゲが地面に向かって落下していく。樹はやり切った顔で勇者装束を解いた。

 

「さて。うどんでも食べに行きましょうか!!」

「うん、そうだね!」

「友奈ちゃんが行くなら、行くわ」

 

 それを咎める者は、いなかった。

 なお、風とハゲの落下先には全速力で校舎を出たばかりの夏凜が居り、夏凜の上にハゲと風が落下した結果、三人そろって保健室に運ばれていたりするのだが、それは後の祭りである。




樹ちゃんガチギレ。そしてハゲ、フーミン、にぼっしーが大けが。わっしーバレない。精霊さんは呆れて声も出なかったためバリア張らない。ショギョームジョー。

ということでにぼっしーの変更点紹介

にぼっしー……だいたい原作と同じ。でも原作よりも素直度がちょっとだけ上がってる。ゆーゆガチ勢兼サプリのやべーやつ。

樹ちゃん後輩という呼び方、気に入っていたり気に入ってなかったり。それではまた次回。

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