ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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はい、のわゆ編プロローグスタート!! 今回はまだ幕間扱いなので章はそのままです。

果たしてのわゆ編プロローグではどんなことが起こるのか……多分三話くらいでもっかい日常的な話になると思いますのでどうぞ!


おや? タグが変化したようですよ……?


過去とハゲの会合

「あったあった~。ここだよ、ズラっち~」

「ここって……あぁ、あの時の」

 

 あくる日。ハゲ丸は園子に連れられてとある林の中にある社の前まで連れてこられていた。その社はハゲ丸も見たことがある社であり、確か銀が拾ってきた犬を神樹館からわざわざ讃州の方まで数日かけて運んだ際に数回来たことのある場所だ。

 それ以外にも時々集合するときはこの社の前を選んだ事はあったが、それももう二年前。すっかり行き方などを忘れていたハゲ丸はその社を見るまで気づく事ができなかった。

 もう二年は来ていなかった筈なのに一切迷わずここまで来た園子の記憶力に感心しながら、二年の放置によってかなり汚れている社を見て、須美ならきっと見過ごさないんだろうなぁ、なんて思いつつ当初の目的を果たすべく一旦掃除道具を地面に置いた。

 

「しっかし、神樹様とか精霊とかを実際に見ちまうと、こういうちっちゃな社にも神様ってのが居るんだろうなぁって思っちまうよな」

「いるよ~? わたし達はその奇跡を一度体験してるし~」

「え?」

「さ、お掃除しよ~?」

 

 また園子お嬢様が意味深な事を言っているが、果たしてそれは冗談なのか実際に事実なのか。どっちにしろ神様の奇跡なんてもう何度も目にしているので園子の戯言だろうと気にしない事にして掃除を始める。

 神樹様のお陰で神様は居ると言うのは分かっているし、神樹様は樹の形を取るのをやめ神樹様を形成していた神は各地に散っていったのを知っているためきっとこの社に神様は今も居るのだろうと考えながら丁寧に丁寧に社を掃除していく。

 そして大体一時間くらいだろうか。社のついでに周りの掃除も行って汚れていた社はいつの間にか作られた当時とまでは言えないが考えれる限り綺麗になった。

 

「ふぅ。やっと終わったな」

「これであの時ゆーゆと会わせてくれた御恩は返せたかな~」

「え? 友奈と? お前本当に何言ってんの?」

「ふふふ~。いい女の秘訣は秘密を抱えている事、なんだぜ~?」

「はいはい。園子お嬢様は誰もが羨むいい女でございますよ」

 

 どこぞの名探偵が出てくる漫画から名言を取ってきた園子に特にツッコミを入れる事無く、ハゲ丸は掃除用具を地面に置いたまま背筋を一度伸ばし自分の財布の中を確認すると、ジュース二本は適当に買える程度に金があるのを確認してから園子に声を投げかける。

 

「園子、ジュース買ってくるけど何かいるか? 奢るぞ?」

「あ、じゃあわたしもついてく~」

「はいよ」

 

 そして二人は社から離れ鳥居を抜けて――

 

『お願い……みんなを助けて……』

「え? 今、ゆーゆの声が――」

 

 この時代から姿を消した。

 

 

****

 

 

 郡千景という少女のたった十一年の人生により構築された価値観というのは余りにも酷いものだった。

 四面楚歌。父は子供でありながら大人になったような、アダルトチルドレンと言える大人だった。母が高熱で魘されている時、千景がパニックになり電話した際、彼は薬を飲ませて寝かせていろとだけ言い、酒を飲んて深夜に帰ってくるようなどうしようもなく自分の事しか考えられない人間だった。

 母は水商売をしていた。ただ誰かから愛されたいという欲求を叶えるために。故に、熱で魘されている時に酒を飲んでくる父から逃げ出すのは時間の問題だった。千景はそれを歳の割には達観していた目線で見送った。

 親権はどちらも手放さなかった。いや、手放す事を許されなかった。千景は邪魔な存在であり、互いに押し付けあった結果、離婚すら成立していない。

 そして父は田舎町で矢面に立たされた。浮気されるような男。水商売の女と結婚した男。そんな事実に尾ひれ背びれが付いて父は仕事に逃げるようになった。いや、仕事しかできなくなった。

 そして、千景も。そんな父と母のせいで学校では苛められ通学路では石を投げられ物を売ってもらえず。そんな彼女の心が擦れていくのは時間の問題だった。

 子は親を選べない。だと言うのに周りは千景が悪いと決めつける。そして父は助けてくれない。当たり前だ。彼は子供なのだから自分が守ってもらいたくて仕方ないのだから。彼は逃げるという行為すら、自分の意思一つで取れないのだから。

 最早逃げ道すらない千景はゲームに逃げ、現実に嫌気が差し。しかしそれでも死にたくないと死んだように毎日を過していた。

 そんなある日、千景は少しだけ遠出をした。何の気もなしに、ただ少しだけ森の中に入ろう。ゲームで森の中の空気がうんたらこうたらという話を聞いたから、それの実践がしたかっただけだ。

 結果は、変わらない。イマイチ。特に気も晴れない。時間の無駄だった。

 

「……帰りたくないけど……帰ろう……」

 

 こんな事ならゲームしているんだった、と思いながら千景は踵を返した。もうここに用はない。そう言いたげに。

 だが、用は向こうからやってきた。

 

「あ、第一村人発見だよズラっち!!」

「や、やっとかよ……おーい、そこの子。ちょっといいか〜?」

 

 声をかけられた。

 どうしてこんな森の中に、と千景は思ったが、自分に声をかける人間なんて碌でもない人間に決まっている。

 そんな決めつけと共に無視を決め込もうとしたが、ふと声色を思い出した。

 聞こえてきた男女の声は、あまり敵意……というよりも悪い事を考えている者の声ではなかった。本当にただ自分を見つけたから。そんな感じの声色だった。

 故に、千景は振り向いてしまった。無視しないと酷い目に合うと知っておきながら。少しだけ希望を持って。

 

「ねぇねぇそこの君。ここってどこかわかる? このハゲの迷子に付き合ってたら迷っちゃってさ〜」

「お前ズラ被ってんのにそういう事言うのやめてくんない!?」

「え〜、いいじゃんハゲっち〜。あと、わたしは将来の雇い主だよ?」

「あぁ分かりましたよお願いですから勘弁してくださいお嬢様!!」

 

 この二人は漫才バトルでも仕掛けに来たのか。そんな事を千景は思ってしまった。

 だが、この二人には悪意を感じなかった。常に感じていると言っても過言ではない悪意と敵意と、そしてそれに混ざる無邪気な視線。無邪気に自分を虐げる視線。

 そのどれでもない。本当に、初対面の人に対する……にしてはやや馴れ馴れしすぎるが、好意を持っての接触にしか思えなかった。

 

「えっと、俺達実は森に入って迷っちまってさ。ここがどこか教えてもらっていいかな? できれば案内とかしてもらいたいんだけど……」

 

 その瞬間、千景はどうせ案内とか言って適当な物陰に連れ込んで好き勝手やるつもりでしょう! エロゲーみたいに! とか思った。

 だがそんな事を表面上に出す訳もなく、千景はどうしようかと考える。

 流石にエロゲー展開になるのは嫌だ。というか絶対に避けたい。しかし、目の前の二人はどうしてか自分に対してなんの悪感情を抱いていない。人が良すぎるのだ。

 そしてこの二人が出てきた場所。この奥は山であり人が一切住んでいない。そんな場所から見たこともない制服姿の中学生らしき男女二人が出てきた。それに警戒しないわけがない。だが、もし二人が本当にここまで歩いてきたひょうきん者な余所者なら、自分に対して何もしてこない。してくる理由が存在しない。

 軽い博打だが、千景は本来優しい子だ。故に、荒んでいるとは言えこのまま何も言わずに去ったら……と考えてしまい、条件付きで彼の要求を全て受け入れることにした。

 

「案内……してもいい。けど……私の前を……歩いて。何かしたら……通報、する」

 

 コミュ障も発症している千景は言葉を詰まらせながらも携帯を取り出し、110番を入力した状態で指をさした。

 警察にビビるのなら、やましい事を考えていたに違いない。何故ならこの村の警察は千景を助けてくれない。ビビらなかったとしても、それはこの村を知っている事となる。

 さて、二人はどう出るか。

 

「なんか警戒されてんなぁ……まぁいいや。じゃあ案内頼むよ。流石にこうも木ばかりだと方角分かんなくなっちまってさぁ」

「まぁ通報されたらズラっちを生贄に逃げればいいや」

「お嬢様、パティシエを生贄にするのはおやめください」

 

 どっちだこれ。

 ビビってないのかビビってるのか。というかこの二人はどういう関係なのか。本気で分からなくなってきた。

 が、二人は千景の指示を待っているらしく、一応村の方を指差すと二人は何も言わずに前を歩き始めた。疑う気はないのか知っているのか、それともこれすら計画通りなのか。

 千景は訝しみながらも一応の道案内を口頭でしながら二人を歩かせ、十分もしないうちに村に出た。その光景を見た二人は大きく息を吐き、本当にホッとしたと言わんばかりの表情をしていた。

 

「よかった〜……やっと人が居そうな場所に着いたよ〜……」

「社からここまで遠かったなぁ……」

 

 社。と言うと、この近くの小さな社の事だろうか。

 

「社……って、あそこ?」

 

 千景が指をさした方角には、古びた手入れされていない社がある。一応あそこは出入り口もしっかりあった筈だが。

 二人はえっ、と声を出してからその方角を見て、普通に見える位置にある階段と鳥居を見て、少女の方がそっと目を逸らした。

 

「おいお嬢様。あんた、目の前に森があるから森の中入ろうそうしようとか言って突っ走ったよな。あれ、反対に動いてりゃ……」

「ねぇ君! お礼にジュース奢るよ!!」

「聞けポンコツゥ!! ってそれ俺の財布ゥ!!」

「ズラっちの物はわたしの物! わたしの物はわたしの物!!」

「うっせぇ財布返せぇ!!」

 

 二人の態度に千景は呆気にとられた。

 こうやって千景が間違ってる事やら何やらに対して誰かに何か言えば殴られるか蹴られるか石を投げられるか。

 口答えも意見も許されていない。それが村八分されている千景の現状だった。だと言うのに二人は千景を会話に混ぜてくれる。それを当然と言わんばかりに。

 千景を中心に逃げる少女を少年が追い、気が付けば二人は千景から離れた場所で取っ組み合い……というか押し相撲的な物を始めた。互いに手を掴み合って力づくで押し退けようとしているのだが、何故か少年の方が押されている。

 そんな様子を目にして思わず千景は笑ってしまった。

 

「なぁ園子ぉ……! これ以上は見世物だから同時に離そうぜぇ……?」

「そう、だねぇ〜? じゃあ、いち、に、さんで離そ〜?」

「そう、だなぁ……!」

『いち、に、さん……ふんっ!! って離せよ!!』

 

 いち、に、さんで離さず力を入れる二人を見て千景は更に笑った。明らかに二人ともそういうネタを仕込んでやっているとしか思えなかったからだ。

 そんな千景を見て二人は余計にヒートアップ。笑われてんぞ? 笑われてるよ? と互いに煽っていつの間にか少年の方がバロスペシャルで手痛い反撃を食らっている。

 どうしてそうなるの、と余計に笑ってしまった千景。

 だが、この村はそれすら許さない。

 千景の頭に軽いとは言えない衝撃が走り、千景が倒れたからだ。

 

「淫売の子が笑ってんぞー!」

「ざまーみやがれ!!」

 

 投げられたのは手のひら大の石で、投げてきたのは小学四年生か三年生辺りの小学生だった。

 折角外で楽しい時間を過ごせたのに、現実に戻された。そんな思いが千景の表情を暗くする。きっと、あの二人もそれに乗じて……

 

「だ、大丈夫!? 血が出てるよ!?」

「このっ、クソガキ共! 人にいきなり石投げるとかどんな教育受けてんだオイ!!」

 

 そんな予想は外れた。

 少女の方は今にも泣きそうな顔をしながら倒れた千景の元に座り込み、少年の方は千景のために小学生達に怒った。

 それを見た小学生達は意味分からない、なんで、と口にしながら退散していく。少年はそれを今にも追いかけそうな表情をしながらも千景の元に座り込み、ポケットからハンカチを取り出して千景の流れる血を拭いた。

 

「あんなもん投げたらこんな事にもなるだろ……! 園子、俺の鞄に包帯があるからそれ取ってくれ」

「なんで今どき鞄に包帯なんて入れてるの……? まぁいいや。ちょっと待ってね」

 

 少年はお前らに何かされた時用だ、なんて言葉を返しながら千景の傷から流れる血を、ハンカチが汚れることすら構わずに拭き、その場でできる応急処置を施していく。

 意味が分からなかった。こんな事をしてくれることが。村八分の人間にこんな事をすることが。

 

「どうして……?」

 

 だから、思わず聞いてしまった。

 

「どうして……私を助けてくれるの? さっきの……聞いた、でしょ?」

 

 淫売の子。

 千景が苛められる理由の一つだ。それを聞いておきながらもこうまでしてくれる理由が、分からなかった。

 だから――

 

「目の前で血流してる子を放って置けるかよ。ってか淫売の子とか知ったこっちゃねぇよ」

「ホントだよ。この子には関係ないのに酷いことする子達だったね……」

 

 普通は石でも投げつけるはずなのに。

 二人は同情、とは言わないが静かな怒りを潜めたかのような表情で千景を治療していく。ハンカチをガーゼ代わりに包帯を巻いて、それを結んで。

 数分もすれば止まるであろう血を少しばかり大袈裟に治療した二人は手を取って千景を立たせ、少女は千景の服や足についた砂利を手で払った。

 

「思いっきり倒れたから手の方もちょっと擦りむいちまってるな……痛くないか?」

「え、あ、うん……」

「とりあえずこの子の親に事の顛末伝えよっか。石を投げられるなんてありえないよ」

 

 この村の正義は千景を村八分にする事だ。千景に対して親切という行為を行わない事だ。郡千景という少女をサンドバッグにする事だ。

 だが、二人はそれをしない。それを良しとしない。大衆正義という物を知らないのか、それとも今知っても関係ないとそっぽ向いているのか。どちらにしろ、二人は千景の味方をしてくれている。千景を、助けようとしてくれている。

 そのありえない事実に放心していた千景だったが、今も千景の手についた砂利を払っている少女の手をようやく自意識を取り戻した千景は振り払ってしまった。

 触れられることはトラウマだった。

 火を近づけられる。殴られる。刺される。様々な事を人の手でされてきたからこそ、意識が戻ってしまった今、してしまった。

 

「あ、ご、ごめんなさ……」

「あー、いいのいいの。気にしないで」

「拒否、っつーよりは反射だな。マジでつい、って感じだ」

「相当だよこれ……サラッと服の内側も見てみたけど、傷だらけ……」

「マジか……とりあえずこの子の親に全部言おう」

 

 本当に、ありえなかった。

 二人は触れられることがトラウマなのだとあれだけで判断すると、無理には触れないように少しだけ、けれどもすぐに守れるような距離を取って千景に家の場所を聞いた。

 それに千景が答えると、二人はそこへ向かって千景を連れて歩き始めた。

 

「ねぇ君、名前は?」

「……郡、千景」

「千景ちゃん……ならちーちゃんだね! わたしは乃木園子。讃州中学の二年生だよ。で、こっちの馬鹿はハゲ丸って呼んであげて」

「おいふざけんなお嬢。俺はこいつの同級生の藤丸だ。藤丸って呼んでくれ。頼む。マジで頼む」

 

 そんな風に自然と自己紹介を交わし、千景は何も言い返すことなく二人の後をついていく。時々道を間違えればそれを正し、二人はどうにかして千景の気を引こうと模索する。

 そして、道中ではいつものようにまた石を投げられる。しかし。

 

「またかよ! マジであぶねぇなおい!?」

「大丈夫。ズラっちはわたし達に傷一つ付けないから安心してね」

 

 それをハゲ丸が弾き、園子は何も心配せずに笑顔で千景と共に歩く。

 まさか飛んでくる石を素手で払うと思わなかったのか石を投げてきた小学生達は訝しげな表情をしながら去っていき、藤丸はそれを追わない。

 そうやって歩いている内に、千景の家に到着した。到着してしまった。父の車が止まっていることから今日は早めに仕事が終わったのだろうということだけが分かった。

 

「ねぇ、ちーちゃん。お母さんとお父さんはこの事、知ってるの?」

「……知って、る」

「知っててなお……クソかよ。まぁいい。園子、俺が話しするから千景ちゃんの方頼んだ」

「うん、わかった」

 

 どうせ無駄なのに、という千景の呟きは聞こえたのか聞こえなかったのか。千景がドアを開けてただいま、と小さな声を出せば二人はそれよりも大きくお邪魔します、と声を上げた。

 千景の父は一切それを出迎えず、ビニールを漁る音がするだけ。おかえりなさいの一言すらなく。

 

「千景ちゃん、親は今どこに?」

「……お父さんが、その部屋」

「わかった。園子、多分叫ぶ」

「うん」

 

 ハゲ丸がかなり乱暴に千景の父がいる居間への扉を開け、酒を飲んでいる千景の父の元へと近づいていった。

 園子はそれを見て千景を少し遠ざけようとしたが、千景は動かない。

 どうせ何を言ってもあの父は動かないと知っているから。

 

「なぁ、あんた。千景ちゃんの親父さんだよな」

「そ、そうだが……何だ急に」

「千景ちゃんが苛められてんの知ってんだろ。なんで助けてやらない」

「……どうして俺が助けるんだ。面倒事はゴメンなんだよ。助けてほしいのは俺だ」

 

 その瞬間、千景の隣から何かが千切れる音がした。そっと隣を見ると、園子が額に青筋を浮かべながらも笑顔を浮かべていた。

 怖い。まさに人間に恐怖を与えるためだけの顔とでも言わんばかりの園子の表情に千景は気圧された。

 

「あんた今なんつった!? 面倒事っつったのか!!?」

「そうだと言っただろうが。なんだ、また千景は怪我でもしてきたのか。あれほど面倒事を持ち込むなと……」

「娘への苛めを面倒事で済ます気かアンタ!!」

 

 藤丸の怒声が響く。

 見てみぬふりはあると思った。だが娘のヘルプを、見て取れるヘルプを面倒事だと言い切ったこの大人への怒りは藤丸のほぼ切れない堪忍袋の緒を切るには十分だった。

 親が娘を助けるのは当たり前だ。何歳にもなって親離れしないのならその限りではないが、千景はまだ子供。大人を頼って生きていかなければならない年齢だ。

 そんな子供の……それも我が子への苛めを面倒事だと言い切ったこの腐った根性を持った大人がハゲ丸には許せなかった。

 

「言っただろう! こっちはこっちで……大人には大人の方で色々とあるんだよ! 助けてもらいたいのはこっちの方だ!!」

「それが子持ちの大人の言葉かっつってんだよ俺は!!」

「ああそうだよ!! こっちは千景よりも苦しいんだ!!」

「それ全部引っ括めて子供を安心させるのが親の仕事ってモンだろお前ェ!!」

 

 藤丸が座りながら叫んでいた千景の父の胸倉をつかみあげる。

 しかし、千景は動かない。今にも親が殴られようとしているのに動かなかった。最早親にも捨てられないゴミ扱いをされている彼女が、親のために動くはずが無かった。

 それを見たハゲ丸は信じられないと言わんばかりの表情をして、そのまま千景の父の胸ぐらをさらに掴みあげる。

 

「お前今娘にすら見放されてんだぞ!? 今にも肉親を殴りそうな人間がここに居るのに娘は何も言わねぇんだぞ!? それが普段からどんな態度をあの子に取っていたのか分からない筈が無いだろうが!!」

「だからこっちはこっちで……」

「大人のあれやこれに子供を巻き込むなこのボケが!!」

 

 そしてハゲ丸は千景の父を突き放した。傷害罪? 知ったことではない。この大人は腐りきっている。

 中身がガキだ。クソガキなんだ。まだ誰かに助けてもらえると思い込んでいる大人未満の子供なのだ。たかが十四、五歳の子供ですら分かる事が分かっていない。

 

「あの子が淫売の子だって言われてんの聞いたぞ。あの子が淫売じゃなくて、その子供だって理由で苛められてんだぞ」

「そ、それが……」

「別に母親の仕事や過去を馬鹿にする気はない。アンタら夫婦がどんな将来を考えて千景ちゃんを産んだかってのもどうでもいい。俺が言いてぇのは自分達が原因なのにそれで起こった問題を子供に処理させようとか思ってんじゃねぇぞダボが!! せめて千景ちゃんを守る努力くらいしろよ!! 親が子供を守らなかったら誰があの子を守るんだよ!! 大人か? お前以外の大人か!? じゃあなんで今もあの子は傷を作り続けてんだ!! 頼れる人が居ないからこうやって傷を増やし続けてるってのすら分かんねぇのかよアンタは!!」

 

 ハゲ丸の言葉は、たった数分間話しただけの千景から分かる現状を叩きつけただけだ。

 もし彼女が頼れる大人に頼っていたのなら、今日も一人で下校することはなく、傷を作ることも無かっただろう。学校にだって行かなくていいと言って行かせることは無かっただろう。人に触られることを拒絶するほどのトラウマを持っているのだからカウンセリングにだって行かせただろう。

 だが、それが無いのなら。本来親がやる筈のそれを誰もやらないのなら、子供なんて一年もしない内に壊れてしまう。

 そんな事誰にも分かるのに。

 

「う、うるさい!! 俺はあんなガキいらなかった!! 娘なんて居なければ俺は自由になれたってのに!!」

「このっ……!! それが親の言葉かよテメェ!!」

「ズラっち!!」

 

 最早我慢ならない。そんな気持ちで拳を握った藤丸を、園子の声が止めた。

 声の方に視線を向ければ、俯く千景の姿が。親のあんな言葉を聞いてしまった千景が。

 藤丸は拳をおろし、行き場のない怒りを溜め込んだままに園子に一言だけ謝った。

 

「ちーちゃん、一度わたし達と話そっか。お父さん、あなた、自分が最低な事言ってるって自覚はありますか? あるんだったらもう二度とあんなこと言わないでください。ないのなら、あなたは大人どころか人として失格だってこと、理解してください」

 

 園子はそう言うと、千景を連れて外へ出ていく。藤丸もそれについて行き千景の家を後にした。

 千景の家を後にした二人は近くのコンビニを千景に教えてもらい、藤丸がそこでジュースを買ってきて千景に手渡した。千景の父に乱暴を働いてしまい、不快な思いをさせてしまった事へのお詫びだった。

 

「確認してきたけど、年号は西暦2014年だった。こっちきてすぐに園子が言った通り過去に行ってたみたいだ。まさかマジでタイムスリップするとはな……」

「2014年……!? そんな前に……」

「なぁ、園子。なんでお前は過去に行ったなんてすぐに……」

「その辺は後で。今はちーちゃんの方を何とかしないと」

「そうだな……でも、西暦か……そうか、神樹様崇拝がないからあんな大人や子供が……」

 

 二人は何やらブツブツと話していたが、すぐに話を終わらせると買ってきた飲み物に口をつけていない千景に声をかけた。

 

「ちーちゃん。ちーちゃんはこれからどうしたい?」

「……どう、って?」

「わたし達ができるのは、ちーちゃんにこれから頑張ってねって言って家に帰す事か、ちーちゃんをわたしの家に避難させることだけだよ」

「避難って……園子、お前!」

「大丈夫。三百年くらい誤差だってば」

「くらいっておま……まぁいいけど。園子の言葉なら俺は何も言わずに従うよ」

 

 千景は二人の言っている事がよく分からなかった。しかし、確かに分かったのは会って数分程度。道案内を適当にしただけの村八分を受けてる自分を助けようとしているという事だけだった。

 だが、だからこそ余計に千景にとっては不可解だった。

 

「どうして……どうして、そこまで……しようと思うの?」

 

 そう。こんな厄ネタの塊で、愛想も良くなくて、根暗な自分を。一から十まで知らない人を助けようだなんて思ってくれるのか。それが不可解で不可解で。だからこそ、千景は聞いた。

 たった数十分の付き合いしかない自分にそうまでしてくれる理由を。

 

「そんなん俺達がそういう人間だからだ」

「困ってる子は見逃せないんだよ〜」

 

 二人は、それを当然だと思う善人。ただそれだけ。千景を助けたいと思ったから助ける。そんな当たり前のようで当たり前ではない動機。

 訳がわからないと一蹴するのもよかった。気の迷いだと手を振り払うのは簡単だった。でも、父に対して他人事であそこまで怒れるこの二人を、千景は信じてみたくなった。何年かぶりに人を信じてみようという気になった。

 

「……数日、考えさせて」

 

 だから、まずは本当に気の迷いではないか、下心がないかを確認すべく少しばかり失礼な事を言った。

 信じてみても、試さないとは言っていない。そんな屁理屈を自分に刻んで放った言葉への返答は。

 

『うん、わかった』

 

 肯定の言葉だった。

 まぁ、そうだろう。問題は明日からだ。

 

「じゃあそうだね……ここに泊まってちーちゃんの面倒みたいんだけど……」

「俺達も学校がなぁ……」

 

 園子とハゲ丸はそのすぐ後に困ったように首をひねった。

 彼等には普通に学校がある。千景も明日は平日で登校しなければならないからこそ、彼等も学校に行かねばなるまい。

 どうしようかと二人が首を傾げていると、千景は貰ったジュースを大事にまだ背負っていたランドセルの中に入れた。

 

「……家に、帰る」

 

 千景が選んだ選択は、家に帰るという極当たり前の事だった。

 あんな父親の居る場所に帰したくない。そんな二人は言葉を濁しながらも千景の言葉を再確認する。

 

「え? でも、ちーちゃんの家って……」

「あんなのでも……親だから……」

「あんなのって……」

 

 あんな親、あんなので十分だ。そう言いたげな千景の言葉にハゲ丸は何も返せなかった。

 自分もあれだけ言いたいこと言い尽くしてしまった手前、その言葉を撤回する気にはなれなかった。

 

「……ちゃんと答えは……出す、から」

 

 千景は、このお人好し二人を信用してみようという気になった。裏切られてもいつもの事だと諦められるがためにとりあえずで信用してみる。

 裏切られたらこの二人の面の皮はそこら辺の人間よりも厚かったというだけだ。もう人生を半分以上諦めている彼女にとって、その程度の博打は最早デメリットが無いにも等しかった。故に、信用する。

 二人はその言葉を聞いた以上、それ以上言うことはできず困ったような表情で頷いた。

 

「……うん。わたしは待ってるから」

「それと、毎日千景ちゃんを迎えに来るから学校が終わったら真っ直ぐ校門まで来てくれよ」

「……いいけど。学校、わかる?」

『……な、成せば大抵なんとかなる!!』

 

 大口叩いた二人だったが根拠無しだったらしい。千景は溜め息を吐いてから二人に学校の場所だけを教えると足早に自分の家へと戻っていった。

 二人はそれを手を振って見送り、千景に教えてもらった社のある神社の入り口で溜め息混じりに現状を確認する事にした。

 

「まさかお前の社掃除に付き合ったら過去に飛ばされて、過去の子を助けるどころか未来に連れて行こうとするとか。園子、お前ちょっといつもよか冷静じゃなかったな?」

「あはは〜。駄目だった〜?」

「俺は今そういう顔してるか?」

「ううん。なんだか嬉しそうな顔〜」

「やっぱ園子は優しいなって改めて確認できたからな」

 

 千景はかなり二人を警戒していたが、二人の言っていた事全ては二人の本心から来た言葉だ。

 勇者という清く正しい子供故に、千景という虐げられる存在を許しておけなかった。恐らく千景を本格的に救うにはこの村そのものにメスを叩き込まないといけないので断念せざるを得なかったが、千景を避難させることはできる。

 過去の人間を未来に。タイムパラドックスが起こってもおかしくないが、郡千景という少女は未来のあらゆる文献……勇者というこの世界を守護すべき存在が描かれた文献に『記されていない』のだ。

 故に、千景は恐らく2015年のバーテックス襲来により……そうじゃなくても、今の千景を見たら彼女は真っ当な最後を迎えることができないのは体の傷を見ればすぐに理解できた。

 それを園子はハゲ丸に話すと、彼は口を開いたままだったが、すぐに頷いた。

 

「そこまで考えてたのな……じゃあ、もし時間が来たら……」

「ちーちゃんだけでも未来に避難させる気だよ〜。戸籍とかその他諸々はわたしが全部なんとかできるから〜」

 

 流石太赦の最高権力持ちの一人となった園子様だ。言葉に頼りがいがある。

 だが、言っている事は未来を見据え一人の少女の命と将来を預かるという事だ。その責任は言葉とは裏腹に重い。特に、彼女だけを助けるという事は助けられるかもしれない命を見捨てると言ってるも同義なのだ。

 園子はその判断を既に済ませた。大を時の流れに任せるか、任せないか。小だけを救うか、小すら見捨てるのか。その判断を。

 園子は小だけを救うことを選んだ。自分にできる精一杯を助ける道を、千景一人だけを助ける道を。千景にとっては残酷かもしれない道を。

 

「だってさ〜? ちーちゃんはもう十分に苦しんだんだよ〜? なら、苦しんだ分と苦しみを与えた人の分、幸せになっても誰も文句なんて言わないよ〜」

「言わせないの間違いだろ?」

 

 有無を言わせず。その言葉に園子は頷く。

 少なくとも園子はその一心で千景にウチに来ないかと告げたのだ。あんな闇の底を見続けているような目をしている少女に光を与えるために。

 千景より可哀想な子はいるかもしれない。だが、園子の手は目の前の千景を助けるだけで精一杯だ。だから、園子は後悔をしないように千景を助ける事を決めたのだ。

 既に手は伸ばした。後はその手を掴むのを待つだけ。

 

「帰ろっか、ズラっち。明日からイっつんには部活の欠席、伝えないとね〜」

「俺は……とりあえずサボって朝からこっちに居るよ。園子、口裏だけは合わせてくれ」

「あいあいさ〜」

 

 二人のこの行動は、未来を大きく変えることとなる。

 二人の未来へと繋がるこの道を断ち切り、この世界を独立した未来へと動かす第一歩が、二人の知らないうちに始まっていた。




という訳でまさかの2014年、ロリぐんちゃんサイドでスタートしましたのわゆ編。ぐんちゃん助けるならここからやらないとなぁという事で。
あと、もしかしたらこの2014年というのは後で2015年に変えるかも。実はのわゆ編、結構行き当たりばったりだったり。

ぐんちゃんを村内で助けようとすると数的有利作られてフルボッコにされるので神世紀に連れて逃げるという案を採用しました。最初はハゲとゆーゆかクソレズを連れて行こうと思ったのですが、そのっちなら権力とかあるし未来に連れて行ったあとの処理も楽という事でそのっちを連れてきました。なんだかメインヒロインがそのっちの小説みたいだぁ……

ぐんちゃんみたいないい子を苛めるとかこの村本当に終わってるし、よくあんな両親からこんないい子が産まれたよなぁと思いながら書いていました。マジでぐんちゃんの両親、色々と終わってんだろ……子供見捨てて何してんねん。

次話もできていますが、一万文字超えてます。まさか二万文字以上になるとは思わなかったゾ
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