今回は前回の続き。まだこの三人が会合してから二日目だという事を忘れてはならない。
あとぐんちゃんの口調難しすぎるんですがそれは
本当に来てる。千景は窓際の席で今日最後の授業に集中せずに外を見ながら思わずつぶやきそうになった。
千景の視線の先には園子とハゲ丸の二人が、自分達の学校の方が終わったらしく校門前で何やら駄弁りながら待っていた。
もしかしたら本当に来てくれるかもしれない。その程度にしか思っていなかったため、来なかったとしてもやっぱりそうなるよね、程度で終わらせる気だったのだが、こうして来られると少しばかりどんな反応を返したらいいのかが困る。
流石に授業中は他の生徒も消しゴムやら紙を丸めたゴミやらを投げてくる程度なので千景にとってはいい休憩時間なのだが、どうやら外の二人にとってはそうではないようで、窓の外から千景に降りかかっている苛めを見ておっそろしい笑顔を浮かべている。
特に園子の笑顔は普通の笑顔にしか見えないのに相当ヤバイと本能が察するほどだった。あれと比べればこの苛めなんて些細なほどだと思えてしまう程度には。思わず訝しんで話を聞きに行った教員は何も言わずにすごすごと退散していったほどだ。
それでいいのか教職員、と千景が内心でツッコミを入れたが、まぁ外から見ている程度なので無理に補導したりすることはできなかったのだろう。
気が付けば四十五分の授業時間は終わり、掃除の時間になる。その間も足を踏まれるわ転ばされるわと散々な目に合ったが先ほどの園子の笑顔を思い出すとこの程度の苛めどうってことなかった。あの怒気は自分に向いていたわけではないのに最早千景の中ではトラウマ級になっていた。
そんな事が中で起こっているとはつゆ知らない園子とハゲ丸は外で怒りながら暇な時間を過ごしていた。
「なぁ園子。教室内であんなんって事は……」
「間違いなく教師も見てみぬふりだろうね~」
これが神世紀なら園子が大赦仮面を引き連れて直々にその学校の教職員にクビを叩きつける所だが、この時代では園子にそこまでの権力はない。故に後で電話を使って教育委員会とやらに電話でもしてこの惨状を伝えるのが一番かもしれない、と考えていた。
ちなみに、どうして二人が結構早い時間にこの校門前に来れたかと言うと、どうやらこの時代と神世紀での時間の流れは少しばかりズレがあるらしく、二人は普通に放課後になったらここまで走ってきたのだが、現状はこっちの時間の流れの方が少しばかり遅いらしく、二人は結構早い時間帯にこの時代に到着してしまった。ちなみにハゲ丸は当初学校をサボってこっちに来る予定だったが、亜耶に見つかりサボるなんて言えるわけもなく学校に行かざるを得なかった。園子からはジト目で見られた。
一応、学校を出てすぐに着替えに帰り、そこからすぐにこの時代に来たのだが、その一旦帰って着替えた事が仇となったのかさっきも職員なのか警備員なのか分からない男性に声をかけられかけた。
私服の方が何しても怪しまれない、とか思っての行動だったのだがその要らない思考が裏目に出た結果であった。
「っと。どうも下校時刻になったっぽいな」
園子が色々と思考していると、ハゲ丸が昇降口から出てくる生徒たちを見てそんな事を呟いた。どうやらチャイムを数度聞き流していたらしく、園子は悪い癖にならないようにしないと、とすぐに先ほどまでの思考をいったん打ち切った。
後は千景が出てくるのを待つだけなのだが、放課後になってから十分ほど。千景の姿は現れない。
もしかしたら校舎内で苛めにあっているのかも。そんな事を考えてしまい、園子はポケットの中に忍ばせている護身用の伸縮警棒を握りこんだ。槍を主武器とする園子だが、何も槍しか使えないわけではない。例えば銀の斧を借りなければならない状況になった時のために斧を使う練習もしてきたし、弓の練習も、盾の練習もした。その中には木刀を使いもしも剣を使わなければならない状況になった時のために剣を練習した事も勿論あった。
なので警棒を剣のように振るえば園子は大の大人だろうが距離を縮められなければ全然戦う事ができる。
ハゲ丸も同じように警棒を持っているので千景の苛めに巻き込まれ万が一、という事は確実にない。むしろ千景を助ける覚悟を持っている。それに、もしもの場合は――
「園子、そっちのポケットはあまり触んな」
「……うん、そうだね」
園子とハゲ丸はもしもを考えてソレを持ってきている。
液晶が砕けもう起動しなくなった勇者システムが搭載されていた端末を。この時代が神樹様が出現する前の時代ならば、もしかしたらこの勇者システムに対して神樹様がある程度力を貸してくれてまた纏えるようになるかもしれない。
園子は一瞬、この力を無理矢理に使ってでも……それこそ、大赦の方にある自分たちがかつて使っていた武器をそのまま持ってきたら、なんて考えてしまった、それをやってしまったら千景を助けるという目的は崩壊する。だから、これを使うのは万が一にもない。
そして更に暫く待ったが千景は出てこない。が、少し気になったのはくすくす笑いながら出てきた女子生徒達だった。その女子生徒を見た瞬間、二人はなんだか嫌な予感を感じたから。
「……ズラっち、中に入ろっか」
「そうだな。こっちから千景ちゃんを迎えに行こう」
もう下校する生徒も少ないだろうという事で園子とハゲ丸は学校の敷地内に入る。
だが。
「ちょっと君たち。さっきからずっとそこに居たから気になってたけど何してるの?」
敷地に入った瞬間、下校する生徒達を見送っていた教師が声をかけてきた。当たり前だ。中学生くらいの少年少女が授業の間からずっと校門前に居て、生徒の八割が下校し終わった辺りで敷地内に入ってくるのだから怪しすぎる。
でもそれは想定済み。園子はハゲ丸が今まで見た事ないような余所行き用の笑顔とでも呼べる表情を張りつけてその先生に対応した。
「あぁ、ごめんなさい。わたし達の親戚の子がまだ下校してないみたいだったので迎えに行こうかなって思ったんです」
お前誰だ。そんな言葉がハゲ丸の口から出そうになった。
もう口調からしてお嬢様だし。そんな口調で自分達に話しかけた事なんて一切ないし。
「親戚の子が?」
「わたし達、都会の方からこっちに来ていて、実は今日着いたばっかりで。今日の放課後からその子と遊びに行く約束をしていたんです。それで、数年ぶりにその子と会えるのでついつい気が急いで学校の方まで迎えに来ちゃったんです」
暗に自分たちはこの村のルールという物を知らない。外のルールを持っているのだから千景の苛めについてを外に密告する手段を、更には外の警察やら何やらにも動いてもらう準備はできていると予防線を張る。
例えこの村の中でのルールによって千景が虐げられているのだとしても、外の機関……この街の警察なら確実にアウトだが、外の警察や然るべき機関に言われる危険性あるの分かってるよな? と。千景を迎えに来たという事を知らない教員に向かってそう告げる。
「だったらこっちで呼んでこようか? その子の名前は?」
「ちーちゃん……郡千景ちゃんです」
その瞬間、先生の顔が歪んだ。
当たり前だ。この村での村八分の対象の名前なのだから。苛めをするしそれの隠蔽もする。知られたらマズい事を彼女はその身で受けているのだから。
「どうかしましたか? ちーちゃんは特に問題とか起こしてないって聞いてますけど」
「え、あ、そのぉ……」
「……まぁいいですけど。無理ならわたし達が自分でちーちゃんを呼んできますので。行こっか、お兄ちゃん」
「おにっ!? あ、あぁ。そうだな園子」
どうやら園子は自分達を千景の親戚の兄妹として騙す事に決めたらしい。それをいきなり言われたのでビックリしたのだが、すぐにお前がお兄ちゃんって言うなんて珍しいな、なんて軽口を叩きながらバツの悪そうな顔をしたままの先生をスルーして校舎の外を歩くことに。
後で千景にも伝えて話を合わせてもらわないと。そう思いながら二人はまず昇降口へ向かった。小学校の内は下駄箱にその子の名前が貼ってある物なので片っ端からこ、から苗字が始まる子を探していった。そして千景は案外早く見つかった。
「……上履きは、あるな」
「っていうか落書きだらけで傷だらけ……」
園子が本気でこの学校の教職員に対して嫌悪感を抱き始めているのを感じながらハゲ丸は昇降口に居ないという事は校舎外のどこかに居るという事が分かったためすぐに外へと飛び出した。
もしかしたら係か何かの仕事をしているのかもしれないが、一応声を出して千景を探す事に。
「おーい、千景ちゃーん。居るんなら返事してくれー」
「ちーちゃーん、どこー?」
あまり大声を出したら色々と迷惑になるだろうと思ったので普通に会話する程度の声量で声を出していたのだが、千景の姿はない。
本気で嫌な予感がしてきたので一度ぐるっと校舎の外を見終わったら手分けして探そう、と決め校舎の裏に行った時だった。生徒が帰ってすぐ程度の時間なのに焼却炉が何かを燃やしているのが分かった。普通こういう焼却炉はこんな時間に一人でに物を燃やさないし、燃やしているとしたらゴミなのだが、そのゴミを燃やす時間としても今の時間は結構不自然だ。
それに目敏く気が付いた園子はすぐに焼却炉の近くの、子供一人なら屈めば何とか隠れる事ができる程度の草木が生い茂る場所へと向かった。
「ちーちゃん、ここにいるんでしょ!?」
そして自分の服が汚れる事なんて度外視で園子は草木の中に入っていく。ハゲ丸もすぐにその後を追ったが、草木の中に入って暫くした園子はハゲ丸が後ろに来た瞬間思いっきり振り返り。
「見ちゃダメ!!」
と言いながらハゲ丸の両眼に右手の人差し指と中指を突っ込んだ。
「いっでぇ!!? 目がアァァァァァ!!?」
まさか眼球に直接攻撃をされるとは思っていなかったハゲ丸は目を抑えたまま後ろへと下がっていく。そしてハゲ丸の視界を完全に封じた園子は草木の中で身を屈ませて隠れていた千景と目線を合わせるために屈んだ。
衣服を燃やされ下着だけしか身に付けていない千景に。
「大丈夫、ちーちゃん。服は……」
「……あそこ」
座り込んでいる千景は園子の問いに焼却炉の方を指さした。
焼却炉は今もその中にある物を燃やしている。もう千景の服をあの中から救出するのは確実に不可能だ。これなら放課後になってからすぐに千景を迎えに行けばよかったと園子は後悔し、歯を食いしばった。
楽観しすぎていた。村八分を受けている子が、抵抗できない子がされる事を。まさかこんな外道にも程がある苛めをしてくるなんて、神世紀という苛めとは無縁な時代に産まれた園子には想像もできなかった。そのせいで千景は心にまた一つ傷を負った。
「ごめんね……本当に、ごめんね……!!」
園子は自分の着ていた服の上着を千景に着せ、その上から彼女を抱きしめた。触られるのがトラウマだとは分かっているが、今はどうしても千景を抱きしめたかった。何もできない代わりに、せめて抱きしめてあげて少しでも安心させてあげたかった。
「……どうして、謝るの……?」
「わたしがもっと早くちーちゃんを探しに来てたら、ちーちゃんに辛い思いをさせなかったのに……!!」
「……その、程度で?」
「その程度じゃないよ……!! わたしはちーちゃんを助けたいからここに居るのに……これじゃあ居ないのと同じだよ……!」
園子は泣きながらそう言っていた。
千景はどうして園子が泣いているのか、一瞬理解できなかった。だが、その涙が自分のために流されている物だと理解すると、千景はどうしてか嬉しい気持ちになった。
園子のように、自分のために泣いてくれる人は今までで一人もいなかった。泣けば喜ぶか、罵声を浴びせるか、無視するか。その三種類程度しか今まで見てこなかった。だから、こうして誰かに泣いてもらう事は初めてで、その初めてが嬉しかった。
そして、こうやって自分のために泣いてくれる人を少しでも疑っていた自分が恥ずかしかった。この人がもしかしたら自分を陥れようとしているのかもしれない、なんて考えてしまった事が。
「いででで……おい園子、ちーちゃんは服着てないって事でいいんだよな」
そうこうしている間に目つぶしをされたハゲ丸がようやく復活した。だが、まだ目を抑えている辺り相当強烈な目つぶしを受けた事だけは千景にも理解ができた。
この二人友達なんだよね? と千景が少し不安を抱いたが、扱いが雑なだけでしっかりと友達である。戦友である。
「そうだけど……今のちーちゃんを見たら殺すから」
「お前からストレートな殺害宣言受けたの初めてじゃねぇか……? まぁいいや。ちょっと待ってろ」
ハゲ丸は今の千景の惨状を今までの会話で察し、立ち上がってから上に着ていた服を脱いで上半身裸になった。
「えっ、ズラっち!?」
ハゲ丸の奇行に思わず園子が顔を赤くしたが、ハゲ丸の次の言葉を聞いて園子は何も言わずにハゲ丸の脱いだ服を千景に着せることにした。
「とりあえず俺の服とズボン着とけ。園子をこの場でストリップさせるわけにもいかんし俺の服着せるのが一番だろ」
そんなワケでハゲ丸が着ていたシャツを千景に着せれば、体格差でミニのワンピースのような感じになる。更にハゲ丸のズボンも履かせればサイズは合わないがしっかりと男物の服を着た千景のできあがりだ。
そして対照的にハゲ丸の方はまだプール開きには早い季節の中パンツ一丁になった変態のできあがりとなってしまった。
「さみぃ……」
「だ、だろうね……その、服買ってこようか……?」
「その前に千景ちゃんを家に送ろうぜ。ぶぇっくしょん!」
流石の園子もこれは読めなかったのか普通にハゲ丸の心配をしている。これ、もしかしたら捕まるんじゃないかなぁ、なんて思いながらも普通に校門の方へと歩き始めるハゲ丸を、上着を普通に着た園子と普通に服を着ている千景が追う。
「……藤丸、さん?」
「ん? どうした?」
「……その、服。これだとただの変態……」
「いいんだよ。男が変態で何が悪い。それにブリーフやボクサーならまだしも今日はトランクスだ。クッソ短い短パン履いてるって感じだから心配すんな。もし通報されたらすぐ逃げるし」
「……そういう、問題?」
まさか服とズボンを脱いで渡してくるとは思わなかった千景は服を返そうとするが、ハゲ丸はなんやかんや言ってそれを全部拒む。
今のハゲ丸はズラを被ってこそいるが、上半身裸で下半身はパンツ一丁、それでいて靴は履いているというただの露出狂として通報されても全くおかしくない格好だ。もしかしたら動画を撮られてどこかに馬鹿出現と言った感じで投稿されるかもしれない。
それでも構わない。ハゲ丸が一時の恥を被って千景を助けられるのならこの程度の恥辱、ハゲ丸にとっては無いも等しいから。
そもそもこの程度で恥ずかしがってたら芸人としてやっていけない。やっていくつもりもないけど。
「ちーちゃんは何も言わずに親切を受け取ってくれ。俺はそれさえしてもらえれば何も言わねぇよ」
傍から見ればパンツ一丁の中学生が小学生の女の子に迫っていると言う何とも言えない絵面なのだが、千景にとってはそうじゃない。
園子とハゲ丸は示したのだ。千景の事を本当に助けたいと思っている、そんなお人好しだという事を。本気で千景の事を助けたいと思っているだけの少年少女だという事を。その行動を以って示した。
その行動は千景の信用を勝ち取るに値した。まだ会って二日だが……それでも、今から陥れようとする人間のために泣き、恥を被るのを覚悟で服を全部渡してくるなんてするわけがない。
だから、千景は本当に二人の事を信じることにした。心の底から、今一度信じてみる事に。
「……でも、ズボンは」
「もう上脱いだら下脱いでも変わんねぇかなって」
「い、一応警察に通報されたらそういうプレイ中ですって弁明はしてあげるから~……」
「園子、それトドメになりかねないからな? 後こっち見ろよ。今さら俺のパンツ程度で照れる程ピュアじゃねぇだろ」
「そりゃそうだけど~……」
「ちなみに服とズボンを脱いだ感想としては、なんか開放感が凄い。この世のしがらみから解放されたみたいだ。清々しい気分でなんかこう、明日のパンツと少しのお金があれば生きていけるっていうのが体で理解できたよ」
「小説のネタにもならない感想はいらないよ!! っていうかネタになっても書かないよそんな最低なネタ!!」
「イっだぁ!!? おまっ、素肌に警棒は駄目だろぉ!!?」
「うるさいズラっち! やっぱズラっちは二年前から変態のままだよ!!」
「あの時のは場を和ませるためだって説明しただろぉ!!?」
だが、この会話を聞くとなんか本当に信じても大丈夫なのか不安になってきた。多分信じても損はしないのだろうが、信じるだけ無駄という言葉がどうしても頭の中を過ってしまう。こんな外でコントを始めるような二人だからそう思ってしまうのはどうしても仕方のない事だが、しかし同時にこうやってマイペースに事を進める二人を見ているとこのまま長い物に巻かれれば大抵何とかなるかもしれない。そんな風に思えてしまう。
そんな二人の後ろをついてランドセルを背負って歩けば、校門前に立っている先生が千景たちを見つけて駆けよってくる。
「ちょ、君!? 服はどうしたんだ!?」
「あぁ、俺の服ならちーちゃんが着てますけど」
その先生はハゲ丸がちゃんと服を着て入ったのを見ていたため、数分間目を離した隙にパンツ一丁になっているハゲ丸を見て驚いていたが、ハゲ丸の言葉を聞いてからすぐに千景の方を全ての元凶を見るかのような目で見てきた。
もう慣れた視線だ。だがその視線を感じとった園子はそっと自分の体で千景の事を隠した。
「まさか郡さんが何かしたのか?」
「いやいやまさか! ちーちゃんは何もしてませんよ!! ただ、焼却炉の側の草木の所で下着だけの状態で座ってたんで俺の服を貸しただけで!!」
わざと通りがかった第三者にも聞こえるようにハゲ丸は声を荒げた。
もうそれはわざとっぽく。千景は悪くないという事を証明するため、噂に尾びれ背びれが付かないように。
「ちーちゃんの服もどっかいっちゃってますし俺の服着せるしかないなって思いましてね! いやー、ちーちゃんの服ってばどこにいったんでしょうか? そういえば焼却炉が何かを勢いよく燃やしていたような気がするなー!! まさか千景ちゃんの服を燃やすような生徒がこの学校に居るとは思いたくないなー!!」
「い、いや、それは……」
「もしそんな生徒が居て学校が匿っているんなら村の外に戻って警察や教育機関に話をしないといけなくなるんですよねぇ!! まぁでも苛めを隠蔽するなんてあり得ない事ですしまさかそんな事起こっているわけがないですよねぇ!!」
もう煽る煽る。こっちが余所者な上にいつ居なくなるか分からない立場だからそれはもう思いっきり煽ること。だがハゲ丸の言っている事は全部正論であり言い返そうものなら確実に聞かれてはいけないような事が出てくるのは間違いないためロクに言い返すこともできない。
園子は何か暴言を吐かれてもいいように携帯で録音をしていたのだが、どうやらその心配はなさそうだった。
「もし俺が通報されたら今日起こった事説明するんで俺の釈放手伝ってもらえません? まさか学校側の不手際で服を着てないのにそれで捕まって親呼ばれるとかたまったもんじゃないんですよ!!」
「そ、その時は学校側で何とか……」
「言質取りましたよ! もう二度とちーちゃんにこんな事起こらないように注意だけお願いしますね!! もし俺達が居なかったらこの子、下着だけしか着てない状態で帰る事になったんですからね!!」
言いたい事全部言ったハゲ丸は良い笑顔で園子と千景を連れて学校を出ていった。内弁慶の先生は外から来た子供向かって威張り散らす事はできなかったようで。
暫くして学校が見えなくなってからハゲ丸は思いっきり唾を吐き捨てた。
「あークソが!! この村の奴ら頭イカれてんじゃねぇの!!?」
「ず、ズラっちがマジギレしてるよ~……」
ハゲ丸がマジギレするのも無理はない。
彼はヒーローを心の目標として生きてきた人間。つまり清く正しい正義を憧れてとして生きてきたのだ。だが彼だってダークヒーローや怪人、悪役にも好きなキャラは居る。正義と一貫性を持ち己を貫くような生き方をしている者も彼は好いている。
だが、この村の人間はそんな物はない。ただ弱い子供を殴って蹴って苛め抜いて壊そうとしている。そんな胸糞悪い事しかできない大人とその子供に対しハゲ丸は嫌悪感しか抱けない。故に、彼は今回ばかりはかなりキレていた。それこそ美森が勝手に色々やらかした時とは別次元の、その人を想っての怒りではなくムカつきから来る怒りで。
ハゲ丸がこんなキレ方をするのを園子は見たことが無いし、勇者部の誰も見たことが無い。それどころか彼の両親だって知らないだろう。そこまでこの村の現状はハゲ丸にとって嫌悪を抱くものだった。
「特撮を産みだした時代だからちょっと色目使ってたけどこんなんが普通にあるならマジでクソじゃねぇか! おい園子、神樹様崇拝だけはこの先何があっても絶やすなよ!!」
「ず、ズラっち、落ち着こう?」
「落ち着いてられるかってんだ!! この村の人間全員に神獣鏡の角叩き込みてぇくらいだ!!」
「ズラっち!!」
「こんな村必要あるぅ!? 園子、帰ったらこの村滅ぼさねぇ!?」
「ズラっち!!?」
「っていうかもうすぐバー」
「本当に落ち着こう!? そろそろ暴言もヤバい所に入ってるから黙ろうか!?」
そろそろ三百年後の世の中で口走ったら不謹慎オブ不謹慎な事を言い始めそうだったので園子がハゲ丸にヘッドロックをかまして物理的にハゲ丸を黙らせた。しかし、園子にも思う所はあるので手心は加えて抵抗したら簡単に外れる程度の力でヘッドロックをしている。
が、ハゲ丸も流石にあったまりすぎたと感じたのかヘッドロックされたまま大人しく連行されている。その様子を千景は軽く俯いたまま視界に収めていた。
「……やっぱり、私と関わると」
「ちーちゃん」
関わるとロクな事にならない。そう言おうとした千景の言葉を園子が己の言葉で遮った。
それ以上は言わせないために。
「わたし達はちーちゃんの事が好きだからこうやってるの。だからその結果何が起ころうと後悔なんてしないよ~」
「好き、って……まだ会って二日……なのに……」
千景はどうしてこんな事を言っているのか、自分でも分からなかった。
心の表面ではこのまま助け出してほしい。一緒に居てほしい。そんな事を想っているのに口から出てきてしまう言葉はそれを否定するような言葉だった。
その真意が、心の奥底でこの優しい二人にはもうこれ以上傷ついてほしくない。自分のせいで迷惑をかけて苦労してほしくない、悲しんでほしくない、傷ついてほしくない。そう思っているとは自分でも理解できずに。
「一緒に居た月日は関係ないよ~。もうわたし達はともだち、でしょ~?」
「とも、だち……」
産まれてこの方親からのアレな扱いのせいで根暗になりコミュ障まで併発して友達なんて存在は最も遠い存在だと思っていたからこそ、言われてから思わず聞き返してしまった。が、園子は笑顔でハゲ丸をヘッドロックしながら千景の言葉に対して言葉を返し続ける。
「そもそもこの程度でともだち止めてたらキリが無いよ~」
「この、程度って……」
「まずわたしは数か月前まで二年間入院してたしその間友達にBL本買ってもらったでしょ? あとズラっちを校舎の窓から投げ捨てたり埋めたり、BL本を買ってもらって友達の腕がわたしが気絶したせいで無くなったし、世界滅びかけたし、わたしと一緒に居たからズラっちもつい最近まで記憶喪失だったし一度冷蔵庫に閉じ込めたまま数時間放置したし、友達の一人がブラックホールになったせいでわたし達全員が危険な所に飛び込む羽目になって」
「待って。ねぇ待って。意味が分からない」
そう、今さらハゲの服を剥ぎ取られた程度で友達止めてるようじゃ園子なんて友達の数が片手で数えられる程度にまで減ってしまっている。脱いだのハゲだけだし。
自分が原因で起きたこともあれば友達……ほぼ美森の事なのだが、彼女のせいで起こった事件もあるし、勇者として戦った際の事もあるし、八つ当たりで普通の人間なら死んでいるようなことを仕掛けたり、なんかいきなりマッサージで喘がされたり。ボケればその数倍のお返しがぶつかってくる中、笑顔で笑いあっていただけあり、石を投げられる程度ではもうなんてことないとしか思えないようになっている。
しかも勇者達は生身でも普通に強い。特に先代組と赤信号コンビはそれぞれの武器の扱いが達人級なので見知らぬ大人に囲まれようと返り討ちにだってできてしまう。
だから千景に巻き込まれる事なんて問題の中に入りはしない。
「まぁそういう事。わたし達を迷惑で遠ざけたかったら世界が滅びる以上の案件持ってこないとだめだよ~?」
「それ以上の案件……この世に存在しない、と思う……」
「うん、だから実質わたし達の方から友達の元を離れる事はまずないよ~」
そう、彼女たちは世界の前に友達を取って戦った勇者なのだ。そんな彼女たちが友達を見捨てるなんて真似、例え世界が滅びようとするわけがない。
それを千景は知らないが、おっとりしつつも言葉と心にはしっかりと一本の芯が通っている。例え何があろうと友達を見捨てないという、例え世界の危機を相手にしようと絶対に折れる事のない鋼よりも固い芯が。それは、ハゲ丸も……いや、彼女達の仲間である勇者達も同じだ。
「だからちーちゃん。わたし達の所に来ない? わたし達なら、ちーちゃんを助けられるから」
「……園子、さん」
「ちょっと騒がしくなるけど、楽しいよ~? あとこのハゲを埋める遊びもできるよ~?」
「遊びで埋められる人の気持ちにもなってください」
「ドMだから嬉しいでしょ~?」
「なんかムカついたから後でちーちゃんにマッサージ受けてる動画をぐえぇ!!?」
「見せた瞬間殺す」
「ま、マジトーンっすか……」
もう既に騒がしいんですが、という千景の言葉はどうやら二人に聞こえる事はなかった。
それに、まだこの二人とは会って二日目。互いに互いの事を全部知らないというのに、園子は親切心だけで千景に手を伸ばしている。
お人よし過ぎる。
「私……園子さんに助けてもらうほど……いい子じゃない……」
「ん? 八つ当たりでズラっちを冷蔵庫の中に収納したり窓から投げ捨てたり友達を木の下に埋めたり窓から吊るした上にBL小説で友達を題材にしたわたしに言う~?」
「ごめんなさい。格が違いました」
「待って園子、その題材ってまさか。ちょっと後で話しよう?」
悪い子的なムーブなら常人なら確実に死んでいる事をハゲ丸に叩き込んでいる園子に特に悪い事は何もしていない……それどころか人を本気で殴った事もない千景が勝てるわけがなかった。
というか園子も自覚しているのならやめてあげればいいのに。
一体なんの勝負をしているのだろうか。
「……でも、まだ会って二日で……お互いのこと、知らない……」
「わたし達の友達の東郷美森って子は友達の家に不法侵入しているやべー人なんだけど、多分今のちーちゃんよりもその子の事理解できてないよ~?」
「その人本当に友達……?」
アレの思考回路やら何やらよりも今の千景の方が十分に理解できていると言う自覚が園子にはある。というかアレを理解する事なんて不可能だという事が友奈を除いた身内の見解である。
友奈は人たらしなのでそこらへん気にしていないだけで、多分彼女も美森の事は理解しきれていない。
「そこら辺の言葉でわたし達を押しのけようとしても無駄だよ~?」
「特に園子はな。こいつに言葉で勝てるやつ、多分この世のどこにもいねぇから」
「それは言いすぎだよ~」
実際、交渉事などがあれば園子をポンっと置いておけば園子が勝手に全部こちらのいい方にもっていくレベルで彼女は頭と口が回るので園子を相手に言葉で勝負しようとしたところで全部無駄だ。ついでに言えば腕っぷしでも彼女が棒状の長物を手に持った瞬間、武術の達人を持ってこないといけなくなるので実はほぼ隙が無かったりする。あるとしたら弱みを握られた時くらいだろうか。
もっともその弱みそのものを消しにかかるムーブができる部員が数名存在するので勇者部が揃えばできない事を探す方が難しい程なのだが。
「でもね、ちーちゃんがこのままずっと苛められる事が大好きで快感を覚えているから邪魔しないでって言うんなら、わたしは何も言わないよ~?」
「そんな性癖……ない」
「でしょ~? だから、一緒に来よう?」
「……そうしたら学校とか」
「別に行かなきゃいいんだよ~。勉強ならわたしが教えるし~」
「……家とか」
「あのお父さんが気にするとでも~?」
「ちょっと悲しくなる……からやめて……」
だが、実際今こうして千景がここに居る理由は、学校があるからという理由と千景の父が引っ越しをしようとしないからだ。もし千景の父が引っ越しをすると決めて行動に移せば千景は助かるのだが、彼は逃げる事が嫌なのかそれとも職場の問題なのか分からないがそれをしない。
千景は自分一人じゃお金も稼げない小学生だ。だから現状を受け入れるしかなかったのだが、外部から手を伸ばされたのならその限りではない。
学校だって行かなければならない義務などは存在しない。行きたくなければ行かなければいいのだ。特にこういう苛めがある以上、本来学校側が解決しなければならないのにそれを解決しないのならわざわざ学校に行く理由もない。家で家庭教師でも雇って勉強していた方が精神面でも勉強面でも数百倍マシだ。
「わたしは強制はしないよ。でも、手は伸ばし続けるから、いつでも手を取っていいんだよ? わたしの方はいつでもちーちゃんを迎え入れる準備はできてるから~」
「というか、こいつは頷かない限りストーカーの如くついてくあだだだだだだ!!」
「だからちーちゃん。一緒に来ない? わたし達は絶対にちーちゃんを裏切らないから」
最早千景の心の奥底にあった二人に迷惑をかけるかもという考えは消えていた。というかこの二人のペースに乗せられていつの間にか消えていた。
だから、手を取りたい。助けてほしい。そんな気持ちが千景の中にはあった。
「ちーちゃんは頑張ったんだよ。だから、もうこんな理不尽に対して頑張らなくても、いいんだよ?」
父は助けてくれない。周りの大人は見ているだけ。友達はいない。同級生は苛めてくる。学校は見ないふり。四面楚歌の状況下で千景は頑張った。本来頑張らなくてもいい事を、頑張った。
そして今、こうしてこんな自分に親切にしてくれる人が手を伸ばしてくれている。
裏切られるかもしれないと言う恐怖はある。だが、そんな事は最早今さらだ。裏切られたところでまたこの生活に戻るだけ。失う物は大きくてもまたいつも通りが再開されるだけだ。
もう、疲れた。だから、この暖かい手を千景は取ることにした。
「……そこまで、言うのなら」
「うん! そこまで言うから一緒に行こう?」
ちょっと照れくさくて生意気な事を言ったのにそれに笑顔で返してくる。
こんな事を言う人が裏切るはずがない。そんな確信めいたものが千景にはあった。だから、千景は園子から差し伸べられたその手を取り、共に行くことにした。
「でも……荷物纏めたい、から……明日まで待って……」
「あ、そうだよね……あ、あはは。ちょっと先走り過ぎちゃった~」
「あの~……園子さん? そろそろヘッドロック止めてもらえませんかね? さっきから俺の頭部には幸せな感触があることにはあるんですが」
その瞬間、ハゲが丁度隣にあった田んぼに落とされた。
「何すんじゃテメェ!!?」
「すっごいナチュラルにヘッドロック受けっぱなしだったと思ったらそういう事だったの!? もう今回ばかりはあったまきた!! その記憶消えるまで頭ぶん殴る!!」
「あ、ちょ、警棒はやめっ、助けてちーちゃん!! お兄さん殺されるゥ!!」
「……女の敵」
「そんな事言わずに助けてちーちゃんんん!!」
「死ねェ!!」
「あんぎゃあああああああああああああ!!?」
そしてハゲ丸のヘッドロックを受ける直前からの記憶は見事に消されたのであった。めでたしめでたし。
ちなみにハゲ丸は泥だらけの状態で頭にタンコブを作った状態で道端に放置されており、服は着替えてからわざわざ戻ってきた千景がその隣にそっと畳んで置いておいたため神世紀に帰った際にパンツ一丁という事はなかった。
ロリぐんちゃんの言葉に片っ端から自分達の濃すぎる体験をぶつけていくそのっち。
こうやって無理矢理にでも神世紀に拉致しないとぐんちゃんを救えないと思ったのでかなり無理矢理にそのっちに靡いてもらいました。
ぐんちゃんが悪い子? こっちは八つ当たりで常人なら死ぬ事をしとるわい。十分に分かり合えてない? こっちには分かりたくても分からない分かれない分かりたくないクソレズがおってじゃな。迷惑かかる? ぶっ飛んだ挙句存在が消失したクソレズとかそのクソレズのせいでタタリと世界の危機の中心にぶち込まれた子とその子のために世界投げ出そうとしたお人好し集団がおってじゃな。
そんなワケで次回、のわゆ編プロローグとは名ばかりのロリぐんちゃん拉致編終了です。そして次回が終われば神世紀勇者部+ロリぐんちゃんのドタバタな日常をお送りする予定です。
そう、前から散々言っていたゲストとはロリぐんちゃんの事だったのだよ!!