なんか急にお気に入り件数が伸びたからお兄さんちょっと怖くなってきたゾ
忘れているかもしれないが、風は受験生であり、ついこの間受験を終わらせたばかりである。大体千景と出会ってから翌週辺りには既に受験を終わらせており、結果を待つ身となっていた。故に、風は先日友奈の着せ替え会に参加したのだが、その受験の結果もいよいよ出ようとしていた。
幾つか滑り止めの高校も受けているが、やはり行くのなら自分が第一に考えた高校。ついでに言うのなら後輩たちに来年カッコつけれるように、カッコ悪い先輩とみられないように先輩としての意地、勇者としての意地、姉としての意地等々、様々な意地を張って受けた入試。
その結果は、高校の前に張り出されるという少しばかり前時代的な感じであったため、風は樹と共にキリキリと痛む胃を抑えながら見に行った。
「うぅ……落ちていたら協力してくれた皆に……特に乃木とハゲ丸に申し訳ないわ……」
「園子さんは家庭教師だったし、ハゲ先輩はハウスキーパーだったもんね」
後輩たちの中でも特に受験勉強を途中から最後の最後まで、入試問題の予測まで作って家庭教師という面では特に頑張ってくれた園子と、休日の殆どを費やしてハウスキーパーをしてくれたハゲ丸のために、この受験を滑るわけにはいかない。
そんな自分に課した緊張等々により発生している胃痛を我慢しながら二人は合格者の受験番号が張り出される掲示板の前に。
人でごった返しているそこに紛れ、必死に樹が風の受験番号を確認する。流石の風もここに来て緊張が限界を迎え、樹に確認してもらうしか心の安寧を保てなくなっていた。
そんな姉に苦笑しながら掲示板の、風の受験番号に近い部分を端から端へと眺めていく樹。
いつになく真剣な顔で掲示板を眺めていき、そしてある番号を見つけた瞬間、樹は顔を抑えて今にもストレスでぶっ倒れそうな姉の背中を思いっきり叩いた。
結構強めなので風がその度に声をあげるが、すぐに樹が掲示板の方を指さしているのを見て、掲示板の方を見た。そこに書いてあったのは、風の受験番号。落ちているのなら決してそこにあるはずのない番号。
それを見た瞬間、風は人ごみを樹と共に抜けて樹を文字通り放り投げながら第一志望の高校に受かった事を歓喜した。
風の努力は、無事報われたのであった。
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「と、いう訳で高校に受かったわ! いやー、確認の時はストレスで胃に穴が空いて死ぬかと思ったわ!!」
そんな吉報はすぐさま勇者部達に通達され、即座に……予め知っていたとでも言わんばかりのスピードで祝勝会が開催される運びとなった。会場は犬吠埼家……ではなく夏凜の部屋だ。
特に渋ることなく部屋を使う事を了承した夏凜は今現在、風の笑顔を見て満更でもない表情をしており、その視線は一瞬部屋の中の目立つ位置に下げられているプレートに向けられていた。
風先輩合格おめでとう会。そんな文字が書かれたプレートには紙で作った花や絵でめでたいめでたいと言わんばかりにデコレーションされている。
他にも紙のリングを幾つも繋げた物が部屋のあっちこっちに貼られ、プレートを作る際に余ったらしい紙の花もそこら中に貼られている。のだが、実は吊るされているプレートは一枚ペラっと紙を剥がすと風が受験に落ちた場合の慰め会用のプレートが相まみえるのだが、日の目を見なかったソレに夏凜はホッとした。
「いやー、乃木、ほんっとありがとう! 家庭教師助かったわ!」
「フーミン先輩が頑張ったからですよ~」
「そ、それもあるけど……乃木が作ってくれた模擬試験のプリントの問題が恐ろしい程に出題された問題と同じで……」
「統計取っただけですよ~」
来年の受験勉強の先生が園子に決定した瞬間なのだが、園子も全員分の受験は軽く面倒を見る気なのでニコニコしたままだ。
「しっかしまぁ、これで肩の荷が一旦下りたわぁ。暫く勉強はこりごりね」
「風先輩は特に大変でしたしね」
「全くよ。バーテックスもこっちの受験事情を考えてほしかったわ」
風は三年生になった春からついこの間、受験間近の一月まで勇者として戦い続けてきたのだ。バーテックス襲来の合間合間の時間こそあったが勉強よりもバーテックスという状況だったが故に勉強にもあまり身が入らず。
迫る受験と先生からのお小言。そしていつ来るか分からないバーテックス。二方面からの攻撃が一方面になったと思ったら美森のアレだ。それが終わってやっと、と思ったら今度は天の神。何度勉強中に風の心は折れそうになった事か。きっと園子が居なかったら折れていた。
持つ者はできた後輩だという事を改めて認識し、ハゲ丸が作った風お祝い用の特製超特盛うどんと、美森の作った鍋、そして先代勇者組が共同で作ったみんなで食べるための様々な料理が四人+千景の手によって運ばれてきたのを皮切りに、風がどこから持ってきたのかオリーブサイダーが入ったワイングラスを掲げ、音頭を取る。
「こういう時ってアタシ以外の代表者が音頭取るモンだと思うんだけど気にせず、とりあえず皆に感謝って事でかんぱーい!!」
『かんぱーい!』
そしてテーブルの上でコップとワイングラスがガラス特有の音を立てながらぶつかり合い、後はワイワイと食事会だ。
「しっかし、凄い量ね……机の上に隙間なしとは」
箸を片手に料理をつまむ夏凜だったが、そんな彼女の目の前の机はそこそこ広かったのにも関わらず隙間なく料理が並べられている。
一人当たりどれだけ食べればこの量を消化できるのだろうか。
「まぁ風先輩はよく食うしこんなんでいいでしょうという事で」
その説明をハゲ丸がした。
ご存知の通り風はうどんをよく食べる。そんな彼女が他の料理を人並みにしか食えないわけがない。故に、料理を任された先代勇者組はこれでもかと言わんばかりに料理を用意したのだ。
余ったら夏凜の部屋の冷蔵庫に入れればいいのだし。
「まぁそうだけど……特に肉。どんだけあんのよ」
「オリーブ豚、オリーブ牛、オリーブ鶏、オリーブハマチを20kg程」
「それは各? それとも合計?」
「さぁ……」
ここではぐらかす辺り、結構やらかしたという自覚はあるのだろう。流石の風もこれは……と思いながら夏凜が風の方を見ると。
「うどんと肉は飲み物よ」
と言いながらどこぞの次郎系の如くチョモランマ盛りだったうどんを完食した風が肉を高速で消化していた。
きっと彼女はどこか大食い系の世界からやってきた異世界人なのだろう。女子力も何もあったもんじゃねぇなと言いながら夏凜は何も考えないようにして骨付き鳥をかっ食らった。
「でも、もうすぐ風先輩も卒業かぁ……寂しくなるね……」
そんなめでたいムードの中、友奈がそんな事を呟いた。考えないようにはしていたが、風が高校に入学するとなれば讃州中学勇者部からは部員が一人減ることとなる。風というムードメーカーが消えてしまうのだ。
故に少しばかり重苦しい空気が流れたが、当人である風は肉を飲み物のように吸い込みながら首を傾げた。
「あれ? 言ってなかったっけ。アタシ、卒業しても部室には行くわよ?」
「あー、うん、なんか分かってたよ」
さも当然のように言う風と、なんだかそんな予感はしていたので苦笑する樹新部長。
確かに風にも高校が始まればそっちの生活が待っているのだが、まだ風は大赦所属の勇者と言う肩書がある。それがある以上、大赦としての立場を考えれば勇者部室へ毎日行くのが一番手っ取り早い。
そんな免罪符を言いつつも、本心ではまだ勇者部のツッコミを夏凜だけに任せるというのは中々に酷な上に、自分自身まだ勇者部から離れたくないと言う心があったため、樹が讃州中学を卒業するまでの間は勇者部の部室へ赴くことを既に決めていた。
そんな事はつゆ知らず、風の表面上の言葉を聞いて、ちょっと暗い顔をしていた友奈はなーんだ、と言いながら笑顔を浮かべた。
「でも、それなら一年留年した方が都合が良かったんじゃ……」
「地獄みたいなこと言わないでほしいんだけど?」
流石に病気等の理由が無いのに留年なんて流石に将来に響きそうなので笑顔で末恐ろしい事を言う友奈に風は真顔で言葉を返したのだった。
やはり友奈はいつまで経っても人に対して無自覚に言葉の矢をぶっ刺してくる残酷な天使なのであった。
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受験が終われば三年生のゴタゴタは徐々に大人しくなってくる。それに伴い学校の方も雰囲気が落ち着き始めた。
風の受験合格おめでとう会が終わってから数日。勇者部室は園子と銀が入部する前の雰囲気にその二人+千景を混ぜただけの何とも言えない安心感のある雰囲気に戻っていた。
「いやー、やっぱ部室内はこうじゃないと安心できないわ~……」
「最近は結構遊び惚けてた気はしますけどね」
「主にお前らのせいだと思うんだが?」
なんやかんやで特に実の無い日々が多く、その代わり実がある日、風は部室内で勉強なんてしていなかったので美森からするとどうしてか最近は勉強なんてせずに全員で遊び惚けていた気しかしないのだが、風の気のせい気のせいの言葉でそんな気持ちを流した。
実際、風は部室内でもかなり頑張って勉強していた。時折芸人たちがそれを邪魔するときもあったが、それでもほぼほぼ風は勉強に時間を費やしていたのを美森は知っている。
机の上に女子力の欠片もなく上半身を伏しながら気の抜けた言葉を放つ風と携帯を弄る銀の前に美森がお茶を出す。
今日、依頼が無いのは風と美森、そして銀の三人だ。これまた珍しい組み合わせだが、最近はこんな珍しい組み合わせもそこそこあるので特に美森は何も言わず風の隣に腰かけた。
「そういや千景は? こっち来てないけど」
「千景ちゃんなら友奈ちゃん、夏凜ちゃんと一緒にボランティアに行ってますよ。そのっち曰く体重を気にしていたみたいですし、運動したかったんでしょうね」
「それ標準体型に戻っただけじゃないの?」
風の言葉は正解なのだが、如何せん本人が標準体型というものがどんなものか知らないので仕方のない事だ。
三人でお茶を啜りほっと息を吐きながら異色信号機トリオは暇な時間を持て余す。
暇なら帰ってもいいのだが、勇者部室の居心地が良すぎるが故に特に用事が無くてもこうして集まってしまうのが勇者部員の性だった。
「そういや園子と樹と、あとズラか。あの三人は何してんだっけ?」
「ハゲはかめやの厨房で臨時アルバイトね。そのっちと樹ちゃんは校内の委員会の手伝いね」
「サラッと言ってるけど中学生で店の厨房の手伝いって中々よね」
そんな事今さらなので全員気にしないが、そんな感じで他の部員は仕事を割り振られて今も忙しく動き回っている事だろう。
園子と樹は校内に居るのでヘルプがあれば部室に居る誰かを呼ぶ算段となっているが、そんな事はそうそう起こらないので、暇な三人は荷物を取りに戻ってくる部員を迎える係となるだけだろう。
「そういやさっきの千景で思い出したんだけど」
「なんでしょう」
「最初の歓迎会以降はちょっとだけ借りてきた猫状態だったけど、今は結構明るくなったわよね」
「むしろあれで借りてきた猫状態から何とかなった事に驚くべきじゃないっすかね」
今話題に出た千景は最初と比べてかなり心を開いてくれた。
かなり早いうちから樹と話が合ったというのもあるが、最初はどこか距離を置いていた千景が徐々にその距離を自分から詰めてくれたので、後は勇者部が汚染すればあら不思議。最近の千景は大分汚染が進み図太くなった。
それを明るくなったと言ってしまう辺り、勇者部員の価値観は相当崩れているのだが、ツッコミが居ないので話は進んでいく。
「確か千景って今小学五年生よね。来年で小学六年生だから……樹が中三の時にようやく正式に勇者部員って事になるのよね」
「それまで千景が今の性格を保っていられるのか……」
ボソッと呟いた銀の言葉は無視された。
「まぁ、千景の事はその時その時で考えていきましょ。あ、東郷、ぼた餅あったりしない?」
「ありますよ。どうぞ」
「サンキュー。やっぱ東郷のぼた餅は最高ねぇ」
もっちもちとぼた餅を食べる風。そんな風を見て思わず自分もぼた餅を、と手を伸ばす銀。
結局三人でぼた餅を食べながらお茶を飲んで中学生にしてはお婆ちゃん過ぎる夕刻を暫し過ごしていると、音を立てて扉がスライドした。
三人の視線が無意識にそっちへ向けば、一秒も経たない内に友奈が千景を背負って夏凜と共に入ってきた。
「たっだいま~」
「今戻ったわ」
「ぜぇ……ぜぇ……」
いつも通りな赤コンビと息を切らしている千景。体調が悪いという訳ではなくただ疲れているだけだというのが顔色を見れば分かった。
一体どうしたの? と美森が優しく聞けば、友奈が千景がこうなるまでのいきさつを簡単に説明する。
「ぐんちゃんが頑張りすぎちゃって、ボランティアが終わってすぐ虫の息になって座り込んじゃって」
「本人は大丈夫って言ってるんだけど思いっきり息切らして疲れ切ってたから友奈が背負って運んできたのよ」
友奈の説明に補足を入れた夏凜は、今もなお背負われている千景の両脇に手を入れてそのまま持ち上げると、美森の横に座る銀を退かせてから銀の座っていた場所に千景を座らせ、そのまま美森の膝に千景の頭を乗せた。
「暫く東郷の膝の上で休んでなさい」
「ちょっと、夏凜ちゃん。これじゃあお茶とか……」
「あー、それならアタシがやっとくよ。それにこの中じゃ一番優秀な枕を持ってるのは須美だろうしな」
「銀まで……まぁいいけど」
サラッとセクハラされた美森ではあったが、いつも友奈に対してセクハラしていたりするのでまぁ今回ばかりは甘んじて受け入れることを決め、膝の上で寝る千景の頭をそっと撫で始めた。
「ご、ごめんな、さい……」
「いいのよ、これぐらい」
ボランティア終了後に思いっきり足を引っ張った挙句、美森にまで迷惑をかけてしまったため千景がかなり申し訳なさそうな表情をしていたが、まだ千景は小学五年生。初めて会った樹よりも年下なのだからこの程度、迷惑にもならないというのが美森の持論。
まだ未熟だった二年前の自分をふと思い出しながら美森は前で動き回る友奈を心のカメラで撮り頭の中のアルバムに保存する。
しばらくすれば千景の体力もある程度戻ってきたようで美森の膝の上で息切れをする事はなくなった。が、美森がずっと頭を撫でてくれているので千景自身、あまり動きたくはない様子。それを見てか他の部員は余り美森を動かすような事は言わず、話しかけこそする物の動いてもらわない。そんな時間が続いた。
「その……東郷、さん……」
「なぁに?」
「……ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
これが園子ならとっとと起こすのだが、小学生に対してそんな気になるわけもなく、美森の膝の上は暫くの間、千景に独占されるのであった。
ちなみに園子が帰ってきてから。
「へぇ~。わっしーの膝枕かぁ~。ちーちゃん羨ましいなぁ~」
「そ、園ねぇ……あんまり、からかわ……ないで……」
「わたしもわっしーに膝枕してほしいなぁ~ちらっちら」
「お断りします」
こんな感じのやり取りが行われたのだが、これに関しては完全な余談である。
そして、このせいで美森との距離を縮めた千景が美森に汚染され始めるのだが……それも完全なる余談である。
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「園子の言う通りに西暦に来てみたが……もう2015年になってるのか。前は2014年の後半だったから……もしかして、徐々に俺達の時代に日付に追いついてきている? それとも時間の流れがやっぱり違うのか……? とりあえずこれは園子に相談して……ついでにちーちゃんは暫くこっちに連れてこないようにしないと。七月三十日は特にそうしないと。バーテックスとかち合ったら流石に今の状態じゃ死ねるしな……」
最早ぐんちゃんを恥ずかしがらせる事がノルマになってきているような気がする。そして周りのキャラが濃すぎるせいでゆーゆとかフーミン先輩とかミノさんが空気になりかけている気がしないでもない。個性強すぎる奴が多すぎるんだよ。
そしてぐんちゃんが……なフラグ発生。対象は勿論西暦のあの子になることでしょう。純粋だったぐんちゃんが徐々に頭勇者部になる光景をどうぞお楽しみに。
とりあえず暫くはハゲ丸の代わりにぐんちゃんの出番を増やしつつ空気になりかけているゆーゆとかと絡ませていきたい所。ロリぐんちゃんとゆーゆ……癒しの権化かな?
そして最後のハゲ丸は……まぁ不穏なフラグという事で。一応多少は時間のズレが生じてるんよ~とだけ。決して自分のガバを補おうとしているわけじゃないデスヨ?