遊戯王VRAINS もう1人の『LINK VRAINSの英雄』 作:femania
・小説初挑戦です。至らない部分はご容赦を。
・話によって一人称だったり三人称だったりします。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。
これでOKという人はお楽しみください!
1話 プロローグ
【1】
私立戸崎学園高等学校。そこは高校でありながら、課外活動に大きな自由を与えられ、様々な活動が生徒主導によって行われていた。
「よし……授業終わり……!」
『守屋 遊介』もその高校に所属する1年生。今日の授業がすべて終了し、放課後のチャイムが鳴った後、すぐに席を立ち、本校舎の中を駆けていく。おもちゃを前にした子供のように猪突猛進。
向かう先は、本校舎から少し離れたクラブ棟。全力疾走で5分、最後に階段を駆け上がることで目的場所にたどり着いた。扉を開けるとそこは別の世界のようで、戦いの気が風になり、遊介に襲い掛かってくる。
2階建ての2階をすべて占拠し行われているのはあるゲームだった。
遊戯王オフィシャルカードゲーム。世界で最も有名なカードゲームの一つと言っても過言ではない。
モンスターカード、そして魔法カード、罠カード、それらを使いライフを削り合う決闘を行う戦略型カードゲームだ。
カードの数も多く無限ではないが甚大な数の戦略を考えられる、奥が深いこのゲームは、年齢が高くなるにつれて知力が向上し、より高度な戦いができることから、高校生であっても虜になる人間は多い。
この戸崎学園高等学校にはそんな生徒がおよそ五十人近く在籍している。これは表向きにこの部活に参加している人間たちを指す。
戸崎学園公式デュエル部。在籍50名。1年生20名。2年生18名。3年生12名。
私立戸崎学園は、最近流行になりつつあるプロデュエリストの育成に前向きな姿勢を示している。国の教育方針的に学科には取り入れられていないものの、部活に対しては大きな援助がされている。
遊介もそんなデュエル部の新参として、毎日ここで腕を磨いていた。
日課になっているのは入り口に置かれている成績発表を見ること。部員同士のフリーデュエルで勝った回数が書かれているのだが、
「……0」
遊介は何度見ても覆らない悲しい結果に、涙を流しそうになっていた。
それは仕方がないという意見もある。このデュエル部は、プロを目指す者の修行場の1つであり、全員が勝つためのデッキ構成になっている。その一方遊介は、遊戯王アニメのキャラクターのファンとして、部内で唯一のファンデッキ。playmakerのサイバース族デッキを参考にしたデッキを使い、戦い方も真似ている。もちろん勝負にならないわけではないが、手札補充、展開、妨害、その他勝利への要素を考え抜かれたデッキと戦うと、一歩及ばないことが多かった。
「よー」
(うわ……あいつか)
それをあざ笑うかのような卑しい笑顔で向かってくる一人の同級生『松 良助』。遊介の自称ライバルであり、幼馴染でもあり、デュエル部において遊介の敗北の半分はこの男によって積み上げられている。
「デュエルしようぜー」
「お前懲りないなぁ」
「1日1回お前を潰さないとなんか調子でないんだよ」
「ふざけるなよぉ」
「ははは」
そして懲りるという言葉を知らない松は今日もまた、遊介をいじめにくる。しかし遊介も満更ではない。弱者である遊介はそこまで
「ちょっと、またやるの?」
それを制止するのは、遊介のもう一人の幼馴染『遠藤 彩』。こう見えて三人の中では一番強い。1年生で一番勝利を収めているのは松で、彼も十分な強さがあるが、彩は数が少ないだけで先輩との戦いを含めこれまで無敗。それゆえに最強と言われている。ちなみに本人にその自覚はない。
「なんだよ、お前、さっきからテレビにがっつり注目してたくせによ」
「あんたがまた遊介泣かそうとするから」
「してねえよ!」
そもそも雄介はデュエルで泣いたことはない。
「言い訳はいいわ、良ちゃん。デュエルで勝った方が正義よ」
「お前、良ちゃんはやめろ」
「逃げるの?」
「まさか……いいだろう受けて立つぜ。13連敗の記録をここでストップする」
「遊介、私に任せといて。この馬鹿は私が潰すから」
喧嘩もデュエルで行うほどにデュエル脳の2人に、遊介は苦笑いしながら、
「まあまあ……、俺なら松とやっても問題ないから」
と、理由としては底辺な決闘を止めることしかできなかった。
いつもはこんな些細な喧嘩程度では、怒られはしない。皆デュエルに夢中になるからだ。しかし今日は、ほとんどの人間がデュエルをしていなかった。それゆえに、
「うるせえよー!」
とこちらに怒鳴ってくる人間がいるのも仕方がないことだ。
「なによ山崎」
「今みんなでテレビ見てんだから、静かにしろよ」
「何よ偉そうに」
『山崎 和樹』。遊介達と同じ高校1年生。
「まだ辞めてなかったのかよ。お前」
「なんだよ」
「1回も勝てないような雑魚は邪魔だ。さっさと辞めてくれよ。迷惑なんだよ」
「やだね」
山崎は遊介を非常に厄介視している。山崎にとっては、この部活は研鑽の場であり、基本的に弱肉強食を信じているので、弱者は死ねという過激思想にも賛同するような性だ。ゆえに、客観的に見て弱者である遊介を彼は厄介視していた。
遊介は苦虫を踏み潰したような顔になり、ただならぬ雰囲気がこの場を支配する。それを打ち破ったのは、部室の奥から現れたもうもう一人。
「まあまあ諸君。そんな怖い顔をしてはいけないよー」
『阿久津 快』。遊介より歳は2つ違い高校3年生。すでにプロデュエリストであり、異例の現役高校生デュエリストとして参戦しては、四大大会の1つを優勝したこともある実力者。そしてデュエル部の部長も務めている。
「山崎君。ここはいい感じにデュエルを楽しみ研究する部活だ。やる気さえあれば誰でもウェルカム。勝敗が決まるゲームである以上、敗者はつきものであり、それは悪いことではない。前にそういったこと、忘れたかな?」
「でもこいつは勝つ気がない。俺はそれが気に入らないだけだ」
遊介は山崎のこの言葉に、苛立ちを覚えた。
「俺はいつだって勝つ気で戦っている!」
「はぁ? あんなふざけたデッキでかよ。勝ちたかったらそんな手札消費の激しいサイバースなんて使ってないで、もっといいデッキ使えよ」
「俺が何を使おうが勝手だ」
「勝てなきゃ面白くねえだろ。やる気がないなら」
再び始まりそうな喧嘩に、部長は、
「山崎くん」
と一喝を入れた。山崎は不満そうにしながらも、これ以上はまずいと判断し、その場を後にした。
(なんだよあいつ……何度も何度も)
遊介もあまり納得のいかない結末だったが、
「大丈夫かい?」
自分をよく助けてくれる恩人を前に、それ以上悪態をつくことはできなかった。
「ありがとうございます」
「何かあったらいつでも僕に頼ってくれよ?」
阿久津は、そのままテレビの方に戻っていく。
部室入り口の戦いがひとまず終わり、遊介はようやく部室に入ってずっと気になっていたことに話を持っていくことができた。遊介はテレビの方を指さし、
「みんな何見てるんだ?」
と言いながら、話題に挙げた場所へと近づく。その答えは松が口にした。
「知らないのか。『LINK VRAINS』」
「何それ?」
「まあ見れば分かる」
松に薦められるまま、遊介は部室にただ一つ置かれたテレビの画面を凝視した。
「我ら株式会社イリアステルが皆さんにアニメのようなデュエルの世界を提供します! 実際に目の前に現れるモンスター、臨場感のある熱いデュエル。デュエリストがだれしも夢に見たあの世界は今現実のものとなるのです!」
テレビに映し出された画面を見て遊介は驚いた。そこはテレビ画面の中で紹介された通り、まるでアニメの世界と言うべきものだ。モンスターが実際に動き、火を噴いたり、尾を振り回したり、クリボーと戯れたり。
そこは本当に夢のような世界だった。
「今回。この記念すべきの実現に伴って、『LINK VRAINS』対応の新しいデュエルディスクを全世界のデュエリスト全員にプレゼント致します! サービス開始は明日の0時! それまでに全世界のデュエリスト諸君。具体的には、デッキを持っている諸君に配送していきます。早速サービス開始直後から、各個人に合わせたスターターデッキプレゼントキャンペーンを開始いたしますので、皆さん振るって参加してください! では、皆様の参加をお待ちしています!」
「面白そうじゃん」
「だろ? 先輩とも話してたんだけど、明日はさっそくデュエル部も向こうで活動しないかって。部員は明日の12時までにログインして初期設定やって、向こうのマップを頭に叩き込んでから、明日の放課後にお互いこっちでアカウント名と見た目を報告してから、ログインして集合。という流れらしい」
「なるほど」
「もちろん、アカウントバレが嫌って人もいるだろうから、先輩がそんな人に有料の別アカウントを用意してくれるらしいぜ」
「太っ腹だね……」
「いやあ、楽しみだなぁ。アバターもいじり放題なのかな。とっておきのイケメンに変身して、キャッキャウフフタイム――」
「何言ってんだよ……」
そういう遊介も『LINK VRAINS』の発表会見の最後を見るだけで、すぐに飛びつきたくなっている。自分の使ってきたデッキを使う事はできないことを差し引いても、デュエルの世界という響きが遊介にとってはたまらない世界観だ。
もちろん、騒いでいるのは遊介だけではない。デュエルをこよなく愛するデュエル部諸君には、この世界観はご褒美以外の何物でもない。デュエル部はいつにもまして子供がギャーギャー騒ぐのにも劣らない喧騒を見せた。
それ故に、段ボールを抱えて、ちょうどデュエル部に押し掛けた一人の女が怒りを露わにするのは当たり前のことである。
「うるさい!」
男子の応援団長の本気の絶叫をしのぐすさまじい一喝がデュエル部の入り口から聞こえた。
はわわ……。
今まで騒ぎに騒いでいた連中は黙った後、急に弱弱しい草食動物になり果てる。それもそのはず、デュエル部への訪問者は、2年生でありながら、鬼の生徒会長と呼ばれる恐ろしい女番長。ヤンキーを喧嘩で黙らせ、教員からは信頼厚い優等生、そのくせ精神攻撃まで得意な悪魔のような女なのである。この女に喧嘩を売って今まで無事に帰ってきた人間はただ一人。その名も『花園 麻里』
「ははは、今日も元気だね」
「阿久津先輩! 勝手に生徒会のテレビを持ち出さないでください! そして、なんですかこの段ボール。内容物はデュエルディスク? イリアステルから? くだらない! 学校生活にこのようなものは必要ありません。すべて破棄しますからね!」
やめろー! そんなひどいことを! ふざけるなー!
デュエル部全員から飛ぶ怒号。しかし、
「何か異論でも?」
王様でもやった方がいいのではないかという威圧的な目に、勝てる部員は誰も存在せず、だれしもが再びリス程度の震える存在に成り下がる。
「怖いわー……」
彩のつぶやきに、遊介もただ頷くしかない。この場で動けるのは、常ににっこりとした笑顔を崩さない阿久津だけだった。
「まあまあ、後で使用料は払うよ。それに、それもそのまま捨てたらそれもったいないからさ……。個々は僕の部活の功績に免じて一つ」
以前デュエル部は廃止になりかけた。それもまさしく花園の企みによるもの。学校は遊びに場にあらず、勉強、運動や文化に貢献する部活に生徒は集中し、清く、正しく、美しい学校生活を送るべし。その思想のもと彼女が生徒会長になってから娯楽系の部活はほとんどが廃止され、デュエル部も部費の支給量をかなり削減された。本来であれば全力でデュエル部を潰す予定だったところを阻止したのは、学園長の意向と、確かな成績を上げているデュエル部部長阿久津の力。阿久津の成果により、学園のスポンサーになった企業もいくつかあり、食堂の改善、学校の清掃、果ては、大学、就職の推薦枠の設立など、私立学校には嬉しい恩恵を数多く受けられている。それゆえに彼が部長を務めるデュエル部をないがしろにすることはできないのだ。
「阿久津さん。私はあなたを認めたわけではありませんから!」
「そう怖い顔しないで。眉間に殺意が寄っていない君はすごく可愛いのに」
花園は軽蔑するような目で阿久津を見る。しかし、阿久津のぶれない表情に花園はさっそく諦めて、
「……貴方さえいなければ……。こんなところ……くぅ」
悔しそうに部屋を後にする。
「あの女、まだ潰すの諦めてないのか……」
普段は険悪な仲の山崎にも遊介は今回ばかりは同意した。
場が静まり返り、多くの人間が困惑している中で、阿久津は段ボールの中を確認する。中には、先ほどテレビで紹介されていたイリアステル特製、『LINK VRAINS』対応型のデュエルディスクが入っていた。
「みんな喜べ! 来たぞー!」
再び部のデュエリストたちは、頭に血を昇らせ興奮の叫び、喜びの舞を披露し始める。さすがに上下関係のある部活なので、最初は3年生、次に2年生、最後に1年生の順に配られる。この部活のルールで差し入れは強い順。1年生の中でも最後に取ることになった遊介。
「何取ってんだよ」
「いいだろ。人数分あるんだし」
「どうせ向こうでも勝てないよお前」
「別に楽しめればいいんじゃないか?」
「……馬鹿じゃねぇの」
遊介は、やはり山崎とは相性が悪いと自覚する。いずれは対等に話せるようになるのだろうか。そんなことはないだろうと一瞬思ってしまった。
デュエル部は今日はこれで解散となった。本来であれば自由解散後も完全下校時刻までデュエルを続けることはできるものの、それを行う人間はいなかった。『LINK VRAINS』への参加を心待ちに、その興奮に耐えきれずいち早く帰ってしまう者が全体の十割を占めたのだった。
「遊介は今日入るのか?」
松の問いかけに、
「もち」
遊介は肯定の言葉を返す。
「じゃあ、良ければ今夜、さっそく向こうで会えるといいね」
「ああ」
遊介は、彩の提案に素直に了解の返事をして、二人と別れる。
それが――平和な世界で、親友二人の顔を見た最後の瞬間だった。
【2】
いつの間に眠ってしまったのか。遊介は覚えていなかった。今日の12時から始まる『LINK VRAINS』に参加するために、開示されている情報をネットで確認していたことは覚えている。
今遊介は悪夢の中にいた。
知らない街、しかし現代のような世界であることは間違いないその街は、とても平和とは言えないもの。そこではデュエルが行われている。しかし楽しそうではない。天井に浮かぶ青い光を、まるで麻薬を求める廃人のように見つめ、そしてゲームをやっているとは思えない殺気をたてて、相手のライフを削る。まさに命を賭した決闘のような雰囲気だった。
そしてライフが0になった人間は、その場で倒れ、二度と動くことはなくなった。その相手はさもそれが当たり前のように見つめると、デュエルディスクに書かれた数字に4000が加算されるのを確認し、そのままどこかへ消えていく。空に浮かぶ星を、渇望するように見つめながら、息を荒立てて、次の得物を探しに行った。その姿はまるで獣である。
街は至る所が破壊され、ところどころに炎が上がっていた。
遊介にはその場所が戦場に見えたのだ。そして、夢にも関わらず現実味に溢れているような感覚を得ていた。
「喜べ少年」
後ろから、自分を呼ぶ声がする。遊介はそのほうこうを向く。そこには、金髪で白いスーツが不思議とよく似合う一人の青年が立っていた。
「この世界で君の願いは叶う」
何が言いたいか遊介には分からなかった。
「あなたは?」
白スーツの男は、不敵な笑みを浮かべると、自己紹介を始めた。
「私はアルター。イリアステルの総帥で、この世界を作ったエンターテイナーだ」
「この世界を?」
「美しいだろう? デュエリストの決闘ですべてが決まるこの世界。まさしくテレビアニメで見た世界と言うべきじゃないか。興奮しないかい?」
遊介はもう一度その世界を見える限りで見渡した。幸いにも遊介が立っていたのは高台の上で、その景色はよく見える。遊介の目に飛び込んできたのは、多くの死体が光となって消えていくところ。それをなんとも思わない人々がいるところ。それがたとえ子供でも容赦がないこと。
「これが……美しい?」
「君たちが望んだデュエルの世界がここにある」
遊介は吐き気すら催すほどの悲惨な光景を見て、その青年に賛同できない心境であり、さらに白スーツがかなり嫌いになった。
「何が……望んだ世界だよ! こんな、なんの楽しくもない世界!」
「だが、彼らは楽しんでいるだろう?」
「あんな殺気だっているのにか?」
「言ったはずだ。願いが叶うと」
白スーツは天に輝く星を指さした。
「ヌメロンコード。この世界を管理する神が持つ力。それは自分が望んだ事象をそのまま発生させるまさに神の力。彼らはそれを求めている。今はまだ届かずとも、その星へ手を伸ばすために神が与えた試練を乗り越えようとしている」
「そんな……」
「おとぎ話だと思うのならいい。だが、人間は欲を動力に生命を食って生きる側面を持ち合わせるだろう。デュエルの世界はそれがまさに表に出た仮想空間。誰が死のうと生きようと、自分の願いを叶えられればそれでいい。なぜなら君たちにとってこれはゲームだ。他人を傷つけても犯罪じゃないし、ヌメロンコードがゴールとして設定されているのだから、ゴールを目指すのは当たり前のことだろう?」
「……ゲームなんだな?」
「そう。ただ一つ違うとすれば、ゲームオーバーには本物の命を代償にしてもらうだけだ」
「何! そんなのゲームじゃないだろ!」
アルターは遊介の言葉に、狂ったように笑いだした。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「何が可笑しい!」
「可笑しいとも! デュエルはライフを、己の命を削り合うのだろう? ならば0になれば死んでも当然じゃないか!」
「なんだと……!」
「まさかデュエルが楽しい遊びだとでも思っていたのかい? デュエルとは決闘。それは争いだ。勝者は全てを手に次へ、敗者はただすべてを失うのみ」
「じゃあ、下で倒れている奴らは死んだのか?」
「信じられないなら、今から見せてやるまでのことだ」
この男は狂っている。遊介は、とんでもない存在と話しているのではないか、という不穏な想像をしてしまう。
「すべてはヌメロンコードを手に入れるため。それが『LINK VRAINS』という世界の真実だ」
「LINK VRAINS……!」
「君はヒーローになりたいんだろう? なら、こちらの世界に君はふさわしい」
アルターは遊介へ手を伸ばす。まるで、この世界に来いと言うように。
「ヌメロンコードは、君を呼んでいる。君こそがこの世界のヒーローにふさわしいと」
「ふざけるな……! こんなの……間違ってる! 命を賭したゲームなんて」
「間違っていると思うのなら……それを正す正義の味方が必要なんじゃないのかね?」
遊介はその言葉に何も返すことはできなかった。ヒーローになるのはやぶさかではない。しかし、命を賭ける覚悟が本当にあるのか。そう問われたら、肯定することはできないだろう。
「最初の戦いに乗り遅れたのはまさにこの選択のため。ヒーローとして戦うか、自分の命を取るか。それは君の自由だ。だが、憧れていたのだろう? テレビの向こう側のヒーローに。この世界に来い。君の願いは間もなく叶う」
地面にひびが入る。この手の悪夢は、自分が死ぬことで抜けられるのは定石である。遊介はそれを知っていたから、もはや時間がないことが分かった。次が最後の問答になる。遊介は訊いた。
「目的はなんだ!」
「目的。すでに達せられているよ。デュエルの世界の創造。そして私はそれをついに実現し、十分なデュエリストがあらゆる世界から集まった。後は彼らが巻き起こす物語を、エンターテイメントとして楽しませてもらう。今から胸がドキドキするほど楽しみなんだ」
「イカれてる」
「エンターテイナーは人々に驚きを与えるものだ。尋常な精神など、持ち合わせているわけがないだろう?」
足場が崩れた。遊介は下を見る。急落下するその先は見果てぬ闇が広がっている。
「うおあ!」
「待っているよ。ヒーロー!」
白スーツは、悪そのものが持つとは思えない曇りない眼を遊介に向ける。
その夢は、最後まで悪夢だった。
【3】
「にい! にい!」
助けを求めるような声で、遊介は起こされた。遊介は悪夢を未だはっきりと覚えている。それゆえにぐっすり寝たような感覚にはなっていなかった。
「なんだよ……薫」
遊介を起こしたのは『守屋 薫』。遊介の妹である。
「にい! すぐリビング来て!」
「なんだよ。ママとパパが出張から帰ってきたのか?」
「違う! すぐニュースを見て!」
言うなり、すぐに部屋を出て行ってしまった妹を、寝ぼけ眼をこすってから追いかける。
リビングに入り、毎朝朝食を食べているテーブルに遊介は座った。
「朝飯はお前が当番だろ?」
「それどころじゃないの! 寝ぼけてるなら殴るよ!」
「どうしてそんな怖い顔して……」
遊介の眠気は、テレビから流れてきた音声によって一瞬で飛んで行った。
――『LINK VRAINS』にログインしたプレイヤーと思われる多数の人々が、謎の不審死を遂げています――
「え……?」
「にい! 松の兄貴も彩さんもログインするって言ってなかったっけ?」
「あ……ああ」
ニュースには続きがあった。
――ログイン中の人々は、ゲーム内から意識が戻ってきていません。デュエルディスクは電源を落とすことができず、ディスクを強制分離すると爆発する仕組みになっています。警察が意識を戻す方法、戻らない原因を調べていますが未だ不明です――
(まさか……)
口ではそうは言ったが、既に気づいている。もはやすべてが手遅れである事。松や彩、一応山崎を含め、自分の知る多くの友が、その世界に行ってしまったことを。
遊介は今朝見た悪夢を思いだした。あれはまさに地獄。その中に友がいるかもしれない。その恐怖が遊介を襲う。もちろん、今朝の夢が真実であるとはまだ決まっていない。しかし、今朝のタイミングでその夢を見たことには何か意味があるように遊介は思った。
「にい! これ」
「すぐ電話する」
持っているスマホですぐに松と彩に電話をかける。
(だめか……)
返ってきた反応は留守にしているというもの。遊介は嫌な予感を含まらせていく。
家の固定電話に電話がかかってきた。学校からであった。
内容は遊介が想像した通りだった。『LINK VRAINS』の事件で生徒の7割が巻き込まれ授業を行うことが不可能のため、事件解決するまでは可能な限り生徒は自宅待機。そして例のゲームには手を出さないようにという注意。以上2点。
電話を切り、先ほどまで座っていた場所へと戻る遊介。その頭に浮かぶのは今朝の悪夢だ。
(もしもあの夢が現実に起こっている事だとしたら……?)
もしも悪夢が現実の『LINK VRAINS』を表すのであるならば、その世界で、松が、彩が、その他の知り合いがひどい目に遭ってしまうことが遊介には怖い。
遊介にとってそれほどのあの二人の存在は大きい。元々、親が出張ばかりで家は遊介と妹しかいない日が多かった。さらに遊介もバイトで週三日は夜いないため、薫を1人にすることは多い。しかし、薫が寂しくなかったのはよく二人が泊まりに来てくれたからだ。松は賑やかしにしかならなかったが、それでも元々ムードメーカー気質であり、いるだけで場が明るくなった。彩は積極的に家事の手伝いや妹の面倒を見てくれていた。若干妹は彩好みの性格と髪型に寄ってきているが、遊介は妹が寂しがらないだけでも、2人には本当に感謝している。もちろん友達としても、いい遊び相手だとおもっている。
そんな二人がどもしも死んでしまったら、また家が寂しくなるだろう、妹に寂しい思いをさせてしまうだろう。何よりたった二人の大切な友を失えば、とうとう友達がいなくなってしまう。そのような生活は、遊介には考えが及ばなかった。
(それは嫌だ。そんなの辛いに決まっている。このまま死なせていいはずがない)
しかし、遊介に今できる事はない。たった一つを除いて。
悪夢の中で出てきた男が言っていた言葉。『ヒーローとして戦うか、自分の命を取るか。それは君の自由だ。だが、憧れていたのだろう? テレビの向こう側のヒーローに。この世界に来い。君の願いは間もなく叶う』。まさか本当にヒーローになりたいとは思ってはいないが、それでも、確かに遊介は正義の味方には憧れていた。
格好いいから。単にそれが理由である。遊介は一般人。特別な境遇など何もない。それでも、その憧れは本物だった。明確に言葉に表せないほどの単なる子どもが見る夢物語でも、プロデュエリストを目指す十分な理由だった。
逃げるか。それとも助けに行くか。
究極の選択をこのような形ですることになるとは遊介は微塵も思っていなかった。しかし、決めるのは今しかない。迷って時間を使えば使うほど、向こうの死人は増えていく。その中に親友2人が混ざるのも時間の問題だ。見捨てるなら見捨てる。助けに行くなら助けに行く。それは今決めなければならない。
(悩むな……)
死ぬのが怖くないわけがない。その生存欲求が遊介を止める唯一の要素だった。逆に行かなければいけない理由はたくさんある。
その時に、その言葉を思い出したのは偶然とは言えない事象であったかもしれない。
――俺達3人、プロになってチーム組もうぜ。そして世界で一番じゃなくても、世界でトップクラスに輝くエリートチームになる。みんなから羨望の眼差しを向けられる。そんな将来良くないか?――
言い出したのは松だった。それに賛同したのは彩だった。遊介は面白そうだったから乗っかった。しかし、その約束は確かに、遊介の生きる希望になっていた。誰に馬鹿にされても、遊介はずっとプロを目指していたのは、この約束があったから。
(……もしあいつらがいなくなっても、同じように生きられるかな?)
答えが分かりきった自問に返す言葉はない。
遊介は決意する。
(ヒーロー……のつもりはないけど。もしなれたら、夢に一歩近づける。だったら戦うべきだ。松、彩、まずは大切な2人を助ける格好いいヤツになるんだ)
死地に飛び込むにはあまりにも子供っぽく、愚鈍な考えだった。しかし、遊介は本気だった。憧れを目指す覚悟は本気だった。
「薫。出かける準備をしといてくれ」
「なんで?」
「今からばあちゃんの家に行こう」
「え?」
「ほら、ばあちゃん。会いたいって言ってただろ? せっかくだし会いに行こうぜ」
「うん……分かった……」
薫は兄の急な提案を怪しんだものの、素直に言うことを聞き、準備のために自らの部屋に戻った。
(ごめん薫……行ってくる)
唯一の心残りは、薫のことだった。遊介は薫へ、謝罪の置き書きを手紙一枚分程度に残し、祖母へと電話する。内容はしばらく薫を預かってほしいという旨。遊介の祖母は孫を溺愛する気質なので、断られるということはなかった。唯一自分が祖母に会えない理由として、海外留学という嘘をついた。
(全く……今のところ格好悪い最低な奴だ俺)
頭の中で独り言を言ってから、向かったのは自分の部屋。そこにデュエルディスクが置いてあるからだった。
緊張や恐れがないわけではない。
しかし、止まるつもりはなかった。
遊介はより早くなっていく心臓の鼓動を、過剰にならないように深呼吸で押さえながら、死を伴う拘束具になるであろうデュエルディスクを腕につける。
デッキは必要ない。残念ながら自分が持っているカードは使えず、ゲーム内ではゲーム内専用のカードが支給される。
「向こうのサイバースのカードあるかな……? サイバースじゃないと練習必要だしな……」
一抹の不安を感じつつも遊介は目を閉じた。
そして。
「イントゥ・ザ・ブレインズ!」
遊介は異世界へと旅に出る。友を救うための旅へ。
ここまでのご閲覧ありがとうございました!
今回はプロローグです。世界観を少しは知ってもらえたらと思って書いた内容です。残念ながらこの回に最初のデュエルを入れることができなかったので、それは次回へと持ち越したいと思います。
次回はついに初デュエル。次はこの作品のデュエルの雰囲気を知ってもらいたいので、長めになりますが、一つのデュエルをすべて入れてしまう予定です。
次の話もお楽しみにお待ちください。