遊戯王VRAINS もう1人の『LINK VRAINSの英雄』 作:femania
・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。
これでOKという人はお楽しみください!
番外編1です。
お待たせしてごめんなさい! いよいよ始めます!
番外編1 彩の覚悟 前編
【1】
リンクブレインズに入って6日。
私はさざ波の音を聞きながら、海を一望できる喫茶店の特等席で最近の楽しみの一つである、『特製アロハ(?)パンケーキ』の到着を待ちながら、落ち込んでいた。
さっきの話だ。
また目の前で人が死んでいくのを見た。
それは私が殺した人だった。
それでもデュエルは楽しい。相手と己で凌ぎを削っている感覚が私は好き。だからこそデュエルが始まってしまうと重要なことを忘れて夢中になってしまう。
この世界ではデュエルで人が死ぬ。それはこの世界を支配している何者かが決めたルール。デュエルは己の持つ保有ライフの内お互い同じ数値を賭け値ととしてデュエルを行い勝てば、賭け分のライフは戻り、保有ライフはデュエルの前のままになり、負ければ賭け値分のライフが失われる。デュエルに負け、保有ライフが0になった瞬間その人間は死んでしまう。
「はあ……」
しかし厄介なのは、デュエルで勝ち、お金の代わりになるマネーポイントを使って食料と飲料を買わないと私が死んでしまうということだった。だからこそこの世界では闘争は当たり前の文化であり、デュエルが弱い者は死ぬしかない。
それだけは嫌だった。デュエルは楽しいものだ。人が死ぬ賭けデュエルなんてそんなの楽しくない。
――違う。私は命がけでもデュエルは楽しい。どうせならここで死んでも構わないってくらいデュエルを愛している。しかし、デュエルの生で死ぬ人間を見るとどうしても罪悪感が生まれ、それがどうしても辛かった。
「一日一人……、このまま何度後悔すればいいんだろう……」
それでも食べないと、飲まないと、この体は死んでしまう。人殺しを拒否し、命を賭けた戦いを拒否し、そして飢餓で死んでいった人間を何人も見たことがある。自分もああはなりたくないと思い、一日一回は戦ってきた。
罪悪感を紛らわすために、私がいつもデュエルをしているのはカジノ。リゾート街の一番大きなホテルの地下で行われている賭けデュエル場。そこなら、自分が死ぬ覚悟がある人間が来ているのだから私がデュエルで相手を殺してしまっても文句は出ないし、罪悪感も少ないので、毎日通っている。もちろん全く罪悪感がないわけではなく、デュエルを楽しんだ後に、その人の後を考えると、悲しくなる。
カジノでは勝てば、相手からもらえる正規の報酬に加え、観客が私に賭けた分の掛け金の半分をカジノの運営から手に入れられる。初期のお金がない時期には、その儲けのシステムに大変お世話になった。おかげで、今は高性能Dボード購入、デッキ補強、デュエルディスクの強化を終えて、次のイベント戦に向けての準備が整いつつある。
しかしいつまで勝てるだろうか。これまでは無敗でここまで来たが、地下の賭けデュエルで敗北したものは別室行きという、考えるだけでも恐ろしい何かをされてしまうことが容易にうかがえる。私は女なので殺されはしないだろうが、カジノのバニーガールに話を聞くと、かつてここで負けてしまい、夜にセクハラありきの接客を永遠に続けなければいけないらしい。しかし、それはまだ軽い方で、男は行方知れずになるそうだ。
どうしてそんな怖いことをするのかは考えるつもりはない。しかし、十六の私から見て、同年代のリゼッタがそういうことをしているのは心苦しい光景だ。
いつまでこのような生活を続ければいいだろうか、もしくは永遠なのか。デュエルはもっと楽しくあるべきだと私は思う。
実は、今一番恐れていることがある。それはこの世界に慣れてしまう事。
この世界は私にとって楽しすぎる場所だ。デュエルをするだけで衣装住には全く困らない。デュエルがすべてのこの世界は、私にとってはたまらないパラダイス。なぜなら働く必要も学ぶことを強制されることもない。何かを学びたい、特別なことをしたいという欲求がある人は別として、普通に生活するには私が大好きなデュエルのことだけ考えればいい。
それは私にとってとっても楽しいことだ。この世界はまるで私のために存在するんじゃないかと思うくらい、夢の世界だ。この世界に慣れるのはきっとそう遠くない。
だからこそ、デュエルで人を殺してお金を稼ぐという行為をなんとも思わない、本当のこの世界の住人になってしまいそうな気がする。
いつか遊介と良助含め三人でした約束。プロデュエリストになるという夢をかなえるためにも、私がこの世界に囚われてはいけないのだ。
――そう、いけない。
(……そうすると、いつかはこの世界が終わるのか)
ふと自然に頭によぎるその考えを無理やり消そうと、頭をブンブン横に振る。
「よう」
そこに来た一人の少年。
慣れ慣れしく呼ばれても私は無視するつもりだった。私はこの世界に来てから一人ぼっちだ。せめて、この世界にいるだろう、遊介と良助には会いたいと思っているのだが、リンクブレインズは思ったよりも広く、さらに容姿が変わっているのだから特定は困難だ。
だから今私を呼んだ声には心当たりはない。
昔学校で教えてもらったように、知らない人について行ってはいけない、を実行しよう。そう思った。
しかし、目の前に見えたその顔で私は一瞬それを躊躇う。
「遊介?」
私の親友にそっくりな顔の少年が目の前に居たのだ。
「ああ。……久しぶりだな」
たった六日しか空いていないのに、それでも懐かしすぎるその顔を見て私はとても嬉しかった。
「ええと、彩」
「ここでは私は『リボルバー』って名前」
「変な名前だな……。なんで」
「ええっと」
私はデッキの名から一枚のカードを取り出す。
実は初期装備のデッキとして私は非常にありがたいことにとてもレアなカードをスターターデッキに入れてもらった。特にそれを象徴しているカードを一枚出す、
「ヴァレルロードドラゴン……」
「そう。奇しくもあなたのサイバースデッキのライバルと言うべき強力なエースよ。それでせっかくだから、あなたがサイバースを使うなら私はそのライバルとして、リボルバーって感じで名づけたの」
目の前の遊介は、それにあまり反応を示さなかった。
「変だな。もっと可愛い名前にすればいいのに」
変だ。念のため言うが私の名前のことではない。ここで遊介がテンションが上がらないのは変だ。遊介はいつもはクールキャラだが、デュエルの話になると頭が小学生だ。私がライバル宣言したら、『いいじゃん。ならお前を倒せば俺はとっても格好良いかんじだな』とか、『すげーな! これで宿命の対決みたいなことすれば面白そうだ』とかノリのいいことを言わないはずがない。
「そう? 私、格好いいのが好きでね」
「……ああ。そうか。そうだったっけははは……」
目の前の遊介は目が泳いでる。やはり何か変。
そんな忘れるような話ではない。遊介とは小学校の頃からデュエルをしていた仲だ。私は男の子に憧れ、世間一般ではイケメンという存在を目指していた。だから制服も男子のものを頑なに履いては先生に怒られたし、男子と殴り合いをして勝った時には、『姉貴可愛い』と言った子分ををぶっ飛ばした。
別に女であることが嫌なわけではない。ただ、格好いいのが好きだった。
だから私は、昔はなよなよしていた遊介とも気が合ったのだろう。そして遊介がいつしか夢中になっていたデュエルを私は始めた。それが運命の出会いだったと今でも思ってる。私はどんどんデュエルに夢中になったのだ。
アニメももちろん視聴した。その時に画面の向こうにいる、いわゆる強キャラがとても格好よかったことを覚えている。落ち着いた雰囲気、しかし、一手一手は鋭く、最後に決め台詞や、背中で語る圧倒的強者のオーラ。たまらなく好きだ。いい。格好いい。
少し話が脱線してしまったが、とにかく昔からそんな子供だった。
それを忘れたということ自体があり得ない。
私とてこの六日間、デュエルだけをしていたわけではない。この世界に順応するためにいろいろなことを調べた。
この世界は不思議に満ちている。
例えば、どこかで見たことがあるような有名人を見かける。この前はスターダストドラゴンに似た竜を使う少年を映像で見た。昨日はサイバー流などとほざく青年が街中で暴れているという噂を聞き、デパートの屋上から捜索したところ、サイバーエンドドラゴンを使う、とっても有名な人が敵をボコボコにしているところを見た。それらを筆頭に、この世界はどうやらただのゲーム世界ではなく、様々な世界から人が来ている。
実際、今まで倒した人たちのデュエルディスクを見ると、私が今つけているものと違うことが多い。その人たちがどこから来たのかを訊くと、それぞれ私では想像しえないような世界のを故郷として話てくれる。そこはさすが南国リゾート。人々の意識も解放感満載で、
そして分かったことは、デュエルディスクの種類によって、元の世界が違う。という事実だ。
「あなた誰?」
「ゆうすけだよ」
「でも私の事知らないよね」
「知ってる。彩のことは」
「私の名前を知ってるのは、たぶんカジノで見たからだとする。けど、そのデュエルディスク。私の世界の人がつけているものじゃない」
「……そんなこと」
返答に困る遊介もどき。あと一押し、と言ってもこっちも正直推測の域を出ない。
仕方ないので、残りの一押しは、よい子が真似をしてはいけない方法で行うことでした。
具体的に言うと。
パンチで。
「待ってくれ!」
私がその素振りを見せた瞬間、向こうが白旗を上げる。さすがに白旗を上げた相手を殴る趣味はないので、
「冷やかしはやめなさい。この変態」
と精いっぱいの冷めた目で相手を見下してみた。
しかし、相手は懲りないらしく、
「話を聞いてくれ。俺は、その、本当に遊介なんだ」
と言い始めたので、パンチの追加をしようとしたが、
「頼む!」
と、土下座をされてしまっては、仕方ないので、弁解の機会を与えることにしようと思う。
ちょうど今私がいるのは喫茶店で、二人掛けの席が近くに空いていたので、そこに移動することにした。
しかし、確かに遊介と言われて不思議には思う。あまりに似すぎている。いや、黙っていれば同一人物だろう。
早速二人きりの裁判開始。当然彼に発言の機会は与えない。残念ながら私はぶつぶつと言い訳をされるのが大嫌いなので、全部こちらのペースで話をさせてもらうことにする。
「早速だけど、名前は?」
「守屋遊介」
「殴っていい?」
「待ってくれ。それは本当だ。だが、君の知っている遊介とは違う。俺はその……端的に言えば、エクシーズ世界から来た遊介だ」
エクシーズ世界。そんな世界もあるのか。イメージとしてはエクシーズ召喚が有名になった、私たちとは違う世界ということであっているのか。
しかし、今まで立てていた仮説が急に真実味を出し始めると、心が躍り始めてしまう。世界の神秘というものに触れて心が騒ぐ感覚だ。
「もしかして私の名前を知ってたのは」
「俺の故郷にも、彩っていう幼馴染がいた」
「いた……って」
「もういないってこと。だからさ、俺は、別の世界のお前でも……その、生きている姿を見て感激したよ。デュエルが強いところもそっくりだ。まあ、可愛いもの好きだったから向こうは。だからお前も可愛いのが好きなのかなって思って」
念のため手を振りかぶってみたが、これ以上は勘弁してほしいというのが顔に出ている。おそらくこれに嘘はないと私は判断した。
「で。なんで貴方が私に用があるの」
「あの……お近づきになりたくて」
「じゃあ、もう二度と関わらないでね」
「どうしてそんな冷たいんだよぉ」
「私の知る遊介は貴方とは違う。私とあなたとは赤の他人。関わる必要はないでしょ」
ぐぬぬぬ、となぜか苛々し始める偽遊介。いや偽物ではないか。
「分かった。じゃあ、本当の目的を言う。俺はあんたをスカウトしに来た」
「スカウト?」
「ああ。あんたには俺達の仲間になってもらいたいんだ」
「やだ」
生憎と縛られる生活は、向こうの世界で十分だ。私は自由奔放にデュエルをして生きられる今の生活にはそれほど不満はない。たった一つ、人殺しの罪悪感を除いて。
「頼む。この水の世界を闇を打ち払ってほしい。一緒に!」
いきなり目の前の偽遊介が、ヒーロー気取りの言葉を言い始めたのは驚いたが、どうにも面倒ごとのように思える。
思えたのだが、その時店に入ってきた一人の少女を見て、少し気が変わった。
「あ……あなたは」
私を恐々して見るその顔に私をとても見覚えがある。
「リゼッタさん」
「……バトルクイーンにそんな言われ方は困ります。リゼッタで結構ですよ」
ストップ。七秒待ってほしい。バトルクイーンなんて初めて聞いた。まさかカジノではそんな呼ばれ方をしていたのか。
確かにカジノで結果を出す人間に二つ名がつくのは珍しくない。現に、珍しいデュエルディスクをつけた闇属性の人形デッキ使いのイケメンが、『ファンサービス』という嬉しくなさそうな呼ばれ方をしていたのを聞いたことがある。
まさか自分がそのような呼ばれ方をしているとは思わなかった。
「ご飯? 今から」
「はい。夜からまた仕事なので……」
「またバニーでしょ。全く、ふざけてるわよね。ここのエリアって」
「……すぐに食べて仕事の準備をしなければいけないので、すみません」
目にすでに活力が灯っていないのは見て取れる。
「仕事……辛い?」
「……失礼します」
リゼッタはその場を去ってしまった。どうやらひどい心の傷になるようなことをさせられているようだ。
もしもリゼッタのような、やりすぎなペナルティを受けている女の子を救うことができれば。そう考えると、今は水の世界の闇を払うという言葉に少し興味が出た。
「話を戻しましょう。具体的には、何が貴方の言う闇だって?」
「例えば彼女のような、やりすぎペナルティを受けている人間をなくすことができる。実はあのペナルティ、あのカジノに限った話じゃない。水の世界では至る所でペナルティを受ける可能性がある。あんたも結構危ないぞ」
「私負けないもん」
キリっと言い切ったことに驚いた偽遊介。しかし、すぐに反論は飛んできた。
「そりゃ負けなきゃ普通の方法じゃあんたを攫えないけどさ。けど、この世界は結構闇が深いぞ。この世界の各地にはエリアマスターの手下がいるらしくてな、エリアマスターが気に入った人間はどんな手を使っても手に入れる。例えば人目の少ないところところとか、ホテルの部屋に強引に侵入して拉致したり、何かと冤罪をでっち上げてその人間を連行したりする。拉致した人間の恥ずかしい秘密を握って、脅すことで水の世界の」
「何それ。ただの権力暴走じゃない」
「なんで人を集めてるかは知らない。そもそもイリアステルがあのアルターとかいう奴の手下だ。何を考えてるかは分からないが、もしかすると、そういう権力暴走そのものを楽しんでるのかもな。実際そこのリゼッタちゃんみたいに勝手に攫われて、脅しに屈してあいつらの言いなりになってる奴も多いんじゃないか?」
「彼女について詳しいのね」
「初期の被害者だからな。むしろ彼女のような未成年の女の子があんな仕事させられてるんだ。それは治安的に良くないだろ。だから俺たちは、この水のエリアを解放するために戦っている、いわばレジスタンスさ」
レジスタンス。なんと格好いい響きだろうか。そこで先攻を上げ、救国の英雄に――。
なんてことを考えるから、母親に妄想逞しいのねと嫌味を言われるわけだが。
それはともかく、急いでご飯を食べるリゼッタを悲し気な目で見る目の前の偽遊介が悪い人間ではない事は分かる。しかし、私とてもう子供ではない。ここまでの情報ではまだ手を貸す事はできない。
少なくとも、どうやって水のエリアマスターにレジストするのか、それが大切だ。さすがに自殺行為に手を貸すのは御免だ。
逆に言えば、勝ち目があるのなら手を貸すのはやぶさかではない。元より、生きる目的が欲しかったところだ。たとえいいことでも悪いことでも、この世界で生きる原動力になれば、今まで意味もなく、ただ私が生きるために殺してきた人にも申し訳一つは立てられる。
私が訊くまでもなく、答えを偽遊介は言ってくれた。
「エリアマスターを倒して、この水のエリアを俺たちのものにするんだ」
「倒せば自分たちの者にできるの?」
「ああ。この水のエリアのルールも決め放題。晴れて王様さ」
「倒すのはもちろん」
「ああ、デュエルだ」
ちょうど私の近くをため息をつきながら通っていくリゼッタの姿を見た。よく見ると、ちらりと見えた二の腕に痣のようなものがある。
全く、いつの時代もどこの世界も、嫌な奴はいるものだ。
「で、私たち二人でやるの?」
それが問題だ。アトランティスはイリアステルの守護兵が多く、居住区以外に足を踏み入れようものなら100%イリアステルの兵士に攻撃を受けることになる。
「いいや。仲間がいる。アトランティスで今戦ってるよ」
「そう。何人くらい?」
「千人くらいか……?」
「嘘ぉ、そんな大規模な軍団なの」
「ま、まあ、俺達の目的はレジスタンスとして、イリアステルに囚われ働かされる可愛そうなやつらを助けて、脅しに使われてた社会的に抹殺されるような情報をバラされても過ごせる居場所を用意する事が最初の目的だからな。それでどんどん人は増えるわけだが……」
水の世界の闇に飲まれる人が日を追うごとに増え、きりがない。ということだろう。
「明日、俺達はエリアマスターに攻撃を仕掛ける。あんたにそれを手伝ってほしいんだ」
「分かった」
「おおそうか……は?」
私が二つ返事で請け負うとは思っていなかったのだろう。しかし、私も一応良識はあるつもりだ。間違ってないことを否定するつもりはないけれど、間違ったことを否定しないつもりは毛頭ない。
私が気に入らない相手をぶっ潰す。それはそれで爽快なのではないだろうか。
「いいのか?」
「いいよ」
「本当に?」
「本当」
偽遊介がとっても嬉しそうに笑った。それが私も嬉しかった。
「じゃあ、さっそく、俺の仲間に会ってほしい。すぐに行こう。もう時間がないから、打ち合わせもしないと」
と言って、私の手を引っ張っていこうとする偽遊介。
本物の遊介にもそんなことされたことないのに、こいつなんて生意気なんだ、等と思いパンチをしようとしたが、それはさすがにやめておく。
何を言おう、今から私は初めて自分の意志で、この世界で初めての戦いに行くのだ。
この興奮を余計な事で覚ましたくない。
素直に偽遊介の手に引っ張ってもらうことにした。
【2】
水の世界。海上沿岸に広がる南国風味のリゾート街と海の下に広がる神殿世界アトランティスの二つで構成される世界。
リゾート街は南国リゾートそのもの。言うなればハワイみたいなところだ。
一方アトランティスも説明はほとんど必要ない。外観はフィールド魔法の『伝説の都 アトランティス』そのままだ。そして内装もまた自分が想像した通りの荘厳な感じ。
説明すべきは、その二つを繋ぐ方法と二つの街の違いについてか。
リゾート街は常に誰でもウェルカムな明るい都市である。本当に観光目的としか思えない建物や設備が充実し、賭けデュエルは当然行われるものの、その数はバトルシティに比べれば大して多くない。デュエルに負ければ死ぬかもしれないという危ない世界でも、この地だけはにぎやかで、先ほどハワイみたいなところだと言ったが、それは間違いではないだろう。
アトランティスまでは驚くなかれ、イルカが連れて行ってくれる。なぜイルカなのかは現地住民の人には聞いてもよく分からなかったが、海の守り神がどうとかと言っていたのを覚えている。
そしてアトランティス。アトランティスは謎のバリアみたいなもので覆われていて、中に入れば空気がある。溺れる心配はひとまずない。
神殿づくりの街、その一番標高が高い場所にある御殿の中が、水のエリアのボスであるという。そこに至るまで、距離的にはさほど遠くには感じない。
本来であればとてもいい感じの景色が入り口からでも見られるのだろう。
しかし、今は違う。
これは地上の地獄か何かだろうかと勘違いしそうだった。
至る所で戦いが起こっている。そこらじゅうで爆発が起こり、吹っ飛ぶ人間が後を絶たない。そして、LPが尽きて死んでしまった人も少し見られた。
よく見ると、戦っているのは二種類の人間。偽遊介が来ている服によく似た服を着た人間と、白スーツの男ども。
よく見ると、その中には私が三日前くらいにカジノで倒してしまった男の姿もある。
私は一つの恐ろしい結論に至った。
別室行きという恐ろしい結末を辿った人間の成れの果ては、イリアステルの操り人形になるよう洗脳されることだったのだ。
(これは、思った以上の悪党ね……)
嫌悪感を抱くことを禁じ得ない。
偽遊介はこの光景の何を見ても動じない。おそらく彼にとって、この光景は当たり前だったんだろう。
多くの命が消えていく光景。
「あなたは怖くないの?」
「何が?」
「だって、人がこんなに……」
「それの、何が問題なんだ?」
「だって死んでるんだよ……。争って、それで」
偽遊介は私をとっても不思議そうな目で見ている。まるで私の考えが可笑しい、分からないとでも言っているかのように。
「だって、デュエルは決闘だろ。なら死ぬのは当たり前じゃないか?」
「決闘って……」
「もちろん。人が死んだら悲しい。けど、俺達はデュエリストだ。死ぬのも、そして殺すこともあるだろう。だってお互いのライフを削り合っているんだから、戦っているんだから、そこには生きる覚悟もあれば、死ぬ覚悟もある。だから、俺達は命賭けて、大きなことを成そうと必死に立ち向かっていける」
私には理解が難しい。私にとってデュエルは楽しいものだ。命の取り合いの道具ではない。私の住んでいた向こうの世界でも、この世界でもそれは変わらないはずだ。
しかし、偽遊介が間違っているとは言えない。人の考え方は人それぞれ。
それに、
「大切なのは生き死にか?」
「それは……」
「俺は違うと思うんだ。どう生きたいか、どう死にたいかだと俺は思っている。常識は人を縛る。だから時に大切なものを奪われる。倫理を否定はしないよ。けど俺は、生きることが正しいから人を生かす、死ぬのはだめだから殺さない、なんてものは……ただの与えられた命に対する怠慢だと思うんだ」
この言葉には、私が反論できないほどの本気、信念を彼が乗せているように思えた。
「遊介団長!」
アトランティスに戻った偽遊介を見つけて、その名を呼びながら走り寄ってくる少女。彼女も偽遊介と同じ服を着ているので、おそらくは偽遊介の仲間なのだろう。
歳は私と同じくらい。ただしツインテールがよく似あっている可愛い女の子だ。
「三波! 無事だったか」
「はい。……そちらはもしかして……」
「ああ。バトルクイーンだけだが仲間に引き入れた。これで百人力だ」
「おお。それはすごいですね!」
三波と呼ばれた少女は私に握手を求めてきたのでそれに応じる。
「よろしくお願いします!」
「え。ええ、よろしく」
「アジトがこの先にあるので、詳しい話はそこで! 団長行きましょう!」
三波はそれだけ言って走りだしてしまった。おそらく行く先は五階建てくらいの神殿っぽい建物。旗も看板もないのは当たり前だが、アジトと聞いて、一瞬地下迷宮的なものを想像した私は非常に恥ずかしい。
「行こうか?」
「うん」
未だ謎の多い偽遊介に連れられて、私はアトランティスを歩く。
番外編1前編でした。
本当ならデュエルを入れたかったのですが、長くなりそうだったのでいったんここで区切りたいと思います。基本的には番外編5を除き前後編で何とかまとめていくつもりです。
さて今回は彩ちゃんの話をしましたが、この話の振り返りは後編が終わったらにしたいと思います。
今回は前回までと作風を一変して、スピード感を意識した一人称視点の物語です。最近は一人称の小説を書いていなかったので、執筆は少し難しく感じました。何より作者の暴走具合がすごいですね。一応抑えるだけ抑えましたが、それでも読みにくいところがあったらすみません。
さて、後編ではいよいよ彩ちゃん初デュエルです。相手はさっそく強敵である、水のエリアマスター。今回は先行して使う本作品オリジナルカードの1枚だけなので公開します。どんなデュエルになるか想像しながら、お楽しみにお待ち頂けると幸いです。
彩の使用カード
効果モンスター レコンナイサンス・ワイバーン ドラゴン族 レベル6 ATK2600/DEF2600
①このカードは相手フィールド上に特殊召喚できる。②このカードが①の効果で特殊召喚した時、このモンスターのコントローラーは、以下のうち一つを選択してこの効果を発動する。・セットしたカードを1枚選んで公開する。・相手はカードを1枚ドロー。手札のカード一枚をランダムに除外する。③このカードが特殊召喚されたターン、このカードは戦闘、効果では破壊されない。