遊戯王VRAINS もう1人の『LINK VRAINSの英雄』 作:femania
・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。
これでOKという人はお楽しみください!
番外編1です。
前回のあとがきで訂正しなければならないところがあるのでここで訂正します。正しくは以下の通りです。
レコンナイサンス・ワイバーン ドラゴン族 レベル6 ATK2600/DEF2600
①このカードは相手フィールド上に特殊召喚できる。②このカードが①の効果で特殊召喚した時、このモンスターのコントローラーは、以下のうち一つを選択してその効果を発動する。・セットしたカードを1枚選んで公開する。・相手はカードを1枚ドロー ・自分は手札のカード一枚をランダムに除外する。③このカードが特殊召喚されたターン、このカードは戦闘、効果では破壊されない。
彩ちゃんのデュエルがついに開始です。
三波に案内されて、アジトの中を歩く。
そこは、アジトというよりは、地下に広がる学校みたいな建物だった。神殿のような内装ではあるが、構造は本当に学校によく似ている。違う場所があるとすれば公共浴場があるくらいだ。
そう言えば、廃校をホテルに改装して、大繁盛というニュースを聞いたことがある。要はそれの住宅版だと考えればしっくりくる。体育館アリーナは全員集合をし集会を行う。職員室は作戦会議室に名称が変わっているところを見ると、私が向こうの世界で通っていた学校の校舎は、実は建物として可能性に溢れたところなのではないだろうかと思う。
すれ違う人は様々。しかし、その多くが何かを抱えている。
残り4000しか保有ライフがなく、恐怖で震えている弱者。
怪我をして動くのも厳しい人。
何か精神的ショックを受けて、情緒不安定になっている人。
それも、私の世界から来た人だけではない。デュエルディスクによって出身地が判別できるのなら、それこそ百種類に迫る数は、この建物内で見ている。
私はそんな人が、その運命が悲しく思えた。
可哀そうとは思わない。結局その人に必要なのは同情ではない。それでも私は同情しかできない。その人の苦しみに共感できるわけでもない。そんな私がそのような感情を持つのはおこがましい。
しかし、デュエルは本来は楽しいものだ。こんなひどい光景を生むのではなく、スポーツのように熱くバチバチに競い合い、その中にあるおもしろさを味わいつくす。そんな、遊びであり、エンターテインメントだ。それを知ってほしい、忘れないでほしいとは切実に願う。
デュエルが好きな私は、他の誰にもデュエルを嫌いになってほしくない。私と一緒に語らい、熱く戦い合えるようになってほしいと思う。
随分独善的かも知れないが正直な感想だ。
「実際にレジスタンスとして戦っているのは百人に満たないんです」
「三波ちゃんは?」
「私も……最初は戦えなかった」
三波と呼ばれる遊介の腹心らしき女の子は私とデュエルディスクが同じ。つまり、同じ出身世界ということだ。
その話に納得する。私たちの世界ではデュエルは命を賭けて行うものではなかった。安全安心なエンターテインメントとして発達してきたのだ。
しかしこの世界では、デュエルとは人殺しの手段だ。その手段をもってすれば相手の死を厭わずお金の強奪をすることが合法になっている。常識が違えば生き方も替えなければならない。私も慣れるまで苦労したものだ。
何とか人を殺さない手段はないか。それが無理だと分かった後は、なんとか罪悪感を感じない方法がないかを探した。
「でも、レジスタンスで団長に拾ってもらって、このアジトに来て、同じような仲間にいっぱい会えた」
「いっぱいかぁ。でも仲間ってのはいいよねー」
「はい。……もうすぐ作戦会議室になります」
その拾ったという偽遊介団長が三波の言葉に補足を入れた。
「俺はいい人間じゃないぞ」
それも、自分を悪人にする方向で。
「俺には、自分と同じ性質を持つ人間が分かる。三波にもそれを感じたんだ。だからレジスタンスがまだ100人にも満たない頃に、勧誘した」
「何よ。同じ性質って」
「なあに簡単だ。猪突猛進ってこと」
「イノシシねえ……」
「自分が正義だと思ったことに出会えれば、それに向かって自分すら顧みず突き進む。だっていいことだと考えるから」
「つまり三波はそういう子だから制御しやすいってこと」
「……否定はしない。結局俺がレジスタンスを率いているのは、慈善活動じゃないからな。レジスタンスの最終目標は、並みの人間には理解されないだろう。けど、ここに集まる連中は違う。それを知ったうえで、それでも俺についてきてくれてる。特に幹部に近い奴らはデュエルが死ぬほど好きで、最後の晩餐も飯よりデュエルないい奴らも多いんだ」
偽遊介の目には確かな信念が宿っているように思える。別の世界の存在とは言え、遊介をここまで突き動かしている最終目標とはいったい何なんだろうか。
「ついたぞ」
作戦会議室。プロジェクターで映し出された画面にはアトランティス全体の構造が描かれている図面があった。
外で戦っている部隊を除く、およそ五十名が集い何かを話し合っている。その中で急に参加するわけなので、『今忙しいんだから、余計なことを持ち込むな』と目で訴えられているのは仕方がないと思う。
しかし。そこはさすがレジスタンスリーダーの偽遊介。
「みんな。聞いてくれ。協力者ができた。バトルクイーンだ!」
と、不愉快な二つ名で私を紹介し始めた途端、全員が遊介に注目する。そして、三秒ほど、唐突に告げられた事実を飲み込めたころ、私に対する態度が急変した。
「おお。マジか」
「バトルクイーン。じゃねえ、バトルプリンセスじゃねえか。俺はてっきりおばさんが来るかと」
などなど、賞賛の声が届いてくる。これはなかなか悪い気分ではない。
歓声が落ち着くのまで約十秒と非常に短い気がするが、これは仕方がない忙しい間に割りこんで入ったのだから、すぐに作業に戻りたいとは思うだろう。
「そうだな……本当なら全員の紹介をしたいが。時間も時間だ。今は幹部だけにとどめよう。他の隊員は空き時間にでも挨拶してくれ」
文句は出ない。一通り周りを見渡してみたが、最年長の人でも二十代前半くらいの若い集団のように見える。しかし、偽遊介の言葉に対し、よくある男子学生のノリで、なんでだよーみたいな野次は飛んでこない。私が考えている以上には、統率のとれた集団なのだろう。
幹部は特に優秀らしく、偽遊介が呼ぶまでもなく、私の前にでて、自己紹介を始めた。
一人は私の世界では、古風の西の都に住んでいそうな大和撫子風の少女。着物があれば完璧な見た目だ。かわいい。
「私、レジスタンスの事務、生活面責任者をさせていただいてます。ミコトとお呼びください。クイーン」
そしてもう一人は、いかにもチャラ男予備軍の金髪男子。英国の美少年ならまだしも、数本染まり切っていない茶髪が見えるうえ、瞳の色や顔や体つき含めて、金髪は不自然なので、所謂見た目の『冒険』という奴だ。しかし顔のパーツはよく、アイドルをしても問題ないくらいには顔立ちも良い。
「俺は実働部隊の責任者ケインだ。先生の指導の下、レジスタンス団員のデュエルの腕を磨いて仕事に時に大暴れする役だぜ」
つまり働きアリということだ。
しかし二人とも私と同年齢くらいなのではないかと思う。最もこんな世界では年齢など関係ないか。
「先生っていうのは?」
「ああ。先生!」
ケインが手招きして呼ぶ先には、
「ああ。うちの最終兵器。俺がリーダーさせてもらってるけど、実力一番はあの人だ」
と偽遊介に言わしめ、私もそれに納得の人間が居た。
私は知っている。ていうかこの前彼のデュエルを見た。サイバードラゴンというだけでこの男ありと呼ばれる伝説のデュエリスト。
「丸藤亮だ。お前とはぜひ一度デュエルをしたいと思っていた。バトルクイーン」
握手を求められ、私は即座に応じる。こんな機会、おそらく生きていてもそうあるものではない。あのヘルカイザー亮と実際に会っているのだから。おそらく私はこの世界に来てよかったと初めて思っている。
「先生には、レジスタンス候補生と実働部隊を鍛えてもらっている。また、デュエル専門にばってしまうが、デュエルアカデミアというところで実際に行っていた授業を再現してもらいながら、ここに住まう人の暇つぶしを企画してもらっているんだ」
偽遊介が誇らしく説明するが、
「俺は……まあ、真似事だ。世話になったあの人たちの真似事をしているに過ぎない。過大評価はよしてくれ」
と、本人の自己評価は低いようだ。
「さて……それじゃあ、作戦の最終確認をしようか」
偽遊介はすぐに作戦会議の開始を始めようとする。私はまだ聞きたいことがたくさんあったのだが、こればかりは仕方がない。
レジスタンスについては聞きたいことがまだある。いや、むしろ、ここに来てから増えたと言うべきか。あの住人たちをどう養っているのか等の経営の仕組み、実働部隊の実力、内部情勢や、短い自己紹介だった二人を含め、明日ともに戦うことになるだろう人たちのこともよく知りたいという欲求はあるが、今は目の前の問題に集中した。
作戦ははっきり言って今の私に理解できないほど綿密に組まれている。残念ながら話の中で理解できたのは三割程度。
まず、堂々と正面突撃。そして五つのグループに分かれ、あれこれしながら全員でエリアマスターへ一直線。その途中戦闘はどうしても避けられない場合のみ戦闘を行う方針で可能な限りエリアマスターに近づく。
そして今回の突撃は、レジスタンスの命運も変える大一番であることも分かった。
それぞれ五グループでの競争となり、エリアマスターを最初に倒した者に新しいレジスタンスのリーダーとして最高決定権を与えるという話になってしまった。それはもちろん急な参加の私にも適用されるらしい。
まるで私がもうレジスタンスの一員みたいに扱われている。
さすがに私もこれにはもの申す。
「ちょっと、私は協力するとは言ったけど、勝ったからってレジスタンスに入らないわよ」
「なんだよノリ悪いな。アジトまで教えたのに入らないなんて……」
偽遊介の目が殺気を帯びたものに変わったのはその瞬間だった。
「どうなるか分かってるだろ?」
しかし、所詮は偽遊介。私にその手の脅しは効果がない。
「だったらあなたたち全員倒してでも脱出してやるわよ」
思いっきり喧嘩腰で答えやった。
「……ははは」
そしたら笑われた。偽遊介は全く思考回路が変なんじゃないかって本気で思う。
「何笑ってんのよ」
「いや……そのな。連れてきて正解だったって思って。彩、お前も相当変だ。こんな敵地になるかもしれないところで対象にメンチ切ったんだから」
「しょうがないじゃない。誰かに屈するなんてごめんよ」
「ああ。分かってるよ。そんなお前だからこそ、俺は一緒に戦いたいのさ。今回」
偽遊介は深呼吸をして、今度は真面目な顔で、私に語り掛けてくる。
「彩。俺達を助けてくれ」
「何よ唐突に……こんなおっきい組織なのに?」
「それがな。残念ながら、俺達の中でまともに戦えるのはここにいる奴ら程度しかいない」
「は?」
嘘だ。あんなに人がいたのに。
「居場所が欲しいだけの奴らも多いのさ。ただ生き残りをかけたデュエルが怖くて逃げた来たやつ。さらに悪いことに実働部隊でもほとんどがデュエル初心者なんだ。それでも一生懸命に戦ってくれているからいい奴らなんだ。でも、やっぱり俺たちの居場所を守るために強い奴が欲しい。俺のレジスタンスを守るために力を貸してほしいんだ。あんたほどのデュエリストなら、特別待遇全然ありだぜ」
「なんでそんな話になるのってことよ」
「だってお前、ここでショックを受けていた人たち見て怒ってただろ。それも、その人達にじゃなく。俺とあんたは同類だ。だからあんたが、デュエルは最も面白いものなのに、どうしてこんな人たちがいるんだって思ったんだ。違うか?」
エスパーじみた偽遊介の言葉に驚き、つい正直に頷いてしまった。
「リゼッタみたいに変なことに巻き込まれる奴らをこれ以上増やさないためにも、レジスタンスはもっと大きくなってこの世界の秩序を守る集団にならなくちゃいけない。もっとデュエルを自然に楽しめるような世界にこの世界を正していくんだ」
「正すってどういうことよ」
「ああ。ここはデュエルの世界だ。だったらもっとデュエルが面白いっていう世界に俺たちがするんだ。そのためにもレジスタンスはこの世界をみんな突破し、この世界のエリアをすべて支配する。エリアマスターになってな」
何故だろうか。
偽遊介はいいことを言っているようには見えない。見えないのだが、不思議と、魅力的なような気がしてきた。
催眠術でもかけられたかとほっぺをつねったが、私には全く変化がない。
「支配って……まるで悪党の言い方ね」
「ああ。それが俺たちの最終目標だからな」
最終目標。先ほどから、ずっと気になっていたこの組織の最終目的地の話。このレジスタンスが良い組織か悪い組織かが決まると言っても過言ではない事項だ。
今、ちょうど訊くタイミングが来た。
私は容赦なくそのタイミングを利用する。
「何よ、最終目的って」
「ああ。俺達レジスタンスの目的は、この世界を終わらせないこと」
「終わらせない……?」
「ここはデュエルの世界だ。何もかもがデュエルで決まる。デュエルが好きな奴にとっての天国だ。そうだろ?」
確かに、とまた私は無意識に首を縦に振った。
「俺達は、……まあ少なくともここにいる幹部全員はデュエルが大好きだからな。この世界は楽園だ。そんな世界を俺たちが管理して永遠に終わらせない」
彼らの目的とは、つまり、この世界に永住するつもりだということか。
「どうだ。この世界にずっと暮らせるんだ。ワクワクするだろ!」
どうやら本気も本気、とても本気なようだ。言葉に熱が入って、まるで嘘をついている様子がない。
「……帰ろうとは思わないの?」
私は、向こうで叶えたい夢がある。友達と三人で、プロになること。そのためにもここで死んではいられないのだ。
「帰りたいのかお前」
「当然でしょ」
「なんでだよ」
「だって私には向こうで叶えたい夢がある」
「それはこっちでは叶えられないのか?」
無理だ。プロデュエリストという夢は叶えられる――。
――いや。不可能ではない。むしろこの世界はデュエルがすべてなら、厳しい価値観の中でプロを名乗れればそれはとても格好いい存在ではないだろうか。
「でも……」
どうして私の心はこんなにも揺れているのだろうか。普通なら帰りたい。帰らなければならないと考えるはずなのに。
デュエルの世界というのが私にってそんなに魅力的なのだろうか。
「彩。元の世界に帰還することが必ずしも幸せとは限らない。向こうでは望まない未来を押し付けられるかもしれないんだぞ」
偽遊介が語る。
有り得ない話ではない。私の世界ではプロデュエリストは弁護士や裁判官になるくらい大変だ。そのうえ完全歩合制。私は一度将来の夢を告白したことがあるが、その時は親も先生に猛反対された。お前は成績がいいんだから、普通に大学に行って、いい会社に勤めるべきだと3時間くらい説教されたこともある。
無論それが間違いだとは思わない。むしろ世間一般的には正しいと分かっている。
1度持っていたカードを全部捨てられたことがある。私に夢をあきらめさせるためだと言っていたので、その時は本気で喧嘩したが、親が折れることはなかった。お小遣いもその日からなくなり、新たにカードをそろえることもできなくなった。でも遊介や良助がデッキを再現したカードを私用に用意してくれた時は本当に嬉しかった。部長が私にアルバイトを紹介してくれたのも、ありがたかった。
(うぐ……これは、確かに……偽遊介にしては、的を射た発言ね)
――もっとも、この時の遊介が抱えていたものをまだ私は知らなかったのだ――
「デュエルが本当に好きなら、この世界は楽園だ。デュエルがすべての世界。生き死にの賭けをすべてのエリアで禁止すれば、そこはデュエルが狂うおしいほど好きな奴にとって、人生を賭けるのに十分ないい世界だろう?」
「何を知ったような口を」
偽遊介はそれににやりと笑って答えた。
「だってお前、俺と同類だ。さっきも言っただろ。俺には分かるんだよ」
へらへらした顔で言う偽遊介に私はどこか違和感があった。まるで、本音のような本音ではないような。そんな説明のできないような言い方に聞こえた。
【3】
アトランティスの頂上。
スノードームみたいな空間の中にいる。そこが戦いの場だった。
周りはすべて海。魚は縦横無尽に泳ぎ回り、たまにサメが通っているところから、ここは海の中なんだなと思う。
さて驚くべきことが起きた。
「お前が私の相手か。レジスタンスというが、その実力見せてもらおう」
私の目の前にいる白いスーツの青年が、私に向けて言った。
そう。なんと一番先についてしまったのは私なのだ。丸藤亮はアジト防衛の最終ラインなので不参加なのだが、まさか私が最初にここについてしまうとは思わなかった。
結局私がしたことと言えば、邪魔な奴を無慈悲にぶっ飛ばし続けただけ。作戦も何もない不良のならばリ争いと何ら変わりはない。
しかし、正直昨日の話についてで頭がいっぱいだった。ここに来るまでも昨日のレジスタンスの話が気になって何度プレイミスしたことか。
随分と偽遊介は面白いことを考えるものだ。確かに彼の言うことが本当に実現するとしたら果たしてどんな世界か興味がないわけではない。悔しいが、偽遊介に言う通り、私はそれくらいに狂ったデュエル好きらしい。
しかし、彼らが言っているのはデュエルがすべての世界で永住するということ。この人生全てとなるとそれはもはや異世界転生と同じことだ。それはそれで怖い。私だって向こうに残してきた友達も多いし、両親や、デュエルに興味がないだろう薫ちゃんも含めて永遠に会えなくなってしまうのは悲しいし寂しい。
逆に言えば、この世界でも夢がかなうのなら、あとはその寂しさ、悲しささえなければ私は全然大丈夫だ。でも、本物の遊介や良助は、それを聞いたらなんというだろうか。そんな私にドン引きするだろうか。
もうすぐ決めなければならない。ここでエリアマスターに会ってしまった以上、私はここで勝つしかない。そして勝ったら私がエリアマスターだ。
王様になるのは悪い気分ではないが。レジスタンスの作戦に乗ってここまで成り行きで来たのだ。最初は興味本位で始めた話だったが、いつの間にか大きな話に膨らんでしまった。私がエリアマスターになったら、そこで決断は迫られるだろう。
「皮算用だな」
どうやら私が勝った後の妄想をしているようで向こうは気に食わなかったらしい。
「あら、そうかしら」
さすがに相手はエリアマスター今だけはデュエルに集中しよう。難しいことは後で考えればいい。
深呼吸する。
スイッチが入った。
「だって私負けないからね」
自信満々に笑って見せた。絶対に挑発に見えただろう。それでいい。
「なら、少しは楽しませてくれよ」
どうやら向こうは長々と語らうことは苦手らしい。すぐにデュエルディスクを構え、私のデュエルディスクに、ルールが書いてあるデュエル申請が送られる。
ルールは4000のマスターデュエル。
つまり、スキルによる奇跡を起こすことは認めないらしい。私は私で、ストームアクセスでリンクモンスターガチャをやるのはやぶさかではないのだが、マスターデュエルも嫌いではない。そもそも私に嫌いなデュエルなんて存在しないが。
「いいわ。受けましょう」
私はその申請に許可を出した。私の保有ライフはまだ8000。安全圏内であるわけでなんの問題もない。そもそもたった一週間でライフが4000になるとかありえない。そんな弱者はおそらくすぐに死ぬだろう。
悪口はそこまでにして私はデッキから初期手札五枚をドローする。
「完璧な手札ね」
「ほう。ならば俺を楽しませてくれプレイヤーネーム『リボルバー』。今までの挑戦者は弱くて退屈していたんだ」
「ええ。楽しみましょう」
せっかく意義のありそうなデュエルができるのだ。私も興奮している。せっかくのこの機会、このデュエルを味わい尽くしたいものだ。
そして私のデュエルが始まった。
水マスター LP4000
彩 LP4000
「レディファーストで」
「構わない」
私に先攻を譲ってくれる辺りなかなか紳士の適性がある。
最も私は淑女らしく戦う気はない。
ターン1
「私のターン」
引き寄せた手札を一通り見る。それで、私の中に二つの戦術パターンが出来上がる。一つは安定して戦う方法。すぐには決着はつかないが、延命には十分な戦力が手札にある。しかし、こちらは使わない。エリアマスターが相手なのだ。何をしてくるか分からない以上、下手な延命は考えるべきではない。
ならば徹底的に攻撃を行う宵越しのマネーは持たないぐらいの特攻で行く。
彩 LP4000 手札5
モンスター
魔法罠
(水マスター)
□ □ □ □ □ 魔法罠ゾーン
□ □ □ □ □ メインモンスターゾーン
□ □ EXモンスターゾーン
□ □ □ □ □ メインモンスターゾーン
□ □ □ □ □ 魔法罠ゾーン
(彩)
「私は魔法カード『トレードイン』を発動。手札のレベル8モンスターを一体捨てて、カードを2枚ドローする!」
「早速ドローか」
「私欲張りなの」
私は早速使おうと思っていた自分のエースモンスター1体を墓地へ捨て、新たにカードを2枚ドローする。
さあ、ここからだ。
「私はさらに魔法カード、『死者蘇生』を発動。墓地のモンスター1体を特殊召喚する。私はクラッキングドラゴンを特殊召喚!」
1ターン目から死者蘇生という幸運なカードが来てくれたので、私がこの世界に来てからずっとお世話になっている強力なドラゴンを呼ぶことができる。もっともこいつはなぜか機械族。ドラゴン族であればもっと融通が利くのだが、効果が効果なだけに、ドラゴンサポートを受けさせるわけにはいかないという事情だろう。
クラッキング・ドラゴン レベル8 攻撃表示
ATK3000/DEF0
「いきなり攻撃力3000か……」
「驚いた?」
「いいや。さすがバトルクイーンと名乗るだけはある」
向こうはクラッキングドラゴンを見ても自信満々だ。次のターンでどのように攻略するかお手並み拝見と行こう。
「私はカードを3枚伏せて、さらにもう1体召喚するわ」
「欲張りだな」
「そう言わないの。召喚するのはあなたのフィールド上なんだから」
「何……?」
こればっかりは驚くだろう。私もこの世界で初めて見た時、珍しい効果だと驚いたものだ。
「私は、レコンナイサンス・ワイバーンを相手フィールド場に特殊召喚!」
私と相対するように私が呼び出したのは、まるでカメレオンのドラゴン版とも言うべき存在。レコンナイサンス。偵察をするにはとてもいい性質だ。
レコンナイサンス・ワイバーン レベル6
ATK2600/DEF2600
「偵察したからには私に利益をもたらすもの。その竜はあなたの味方の振りをする代わりに、貴方は、セットカードを一枚公開するか、私にカードをドローさせるか、自分のカードを1枚ランダムに墓地へ送らなければならない。さあ、どうする?」
水のエリアマスターは迷わず、私にドローさせる効果を選んだ。
「いいの?」
「ああ。別に困ることはないさ。その効果には驚いたが、むしろ利用させてもらうことにしよう。しかし、この竜、特殊召喚したターンに自分に破壊に対する耐性をつけるが……さすがに1ターンでは意味をなさないな。君が攻撃をしてくるわけでもない」
「そういうこと」
私はカードを1枚ドローする。ちょうど来たのは罠カード。これで私の憂いもさらに晴れるというものだ。
「今引いたカードではなにもしない、ターンエンド」
最初のターンはこんなものだろう。クラッキングドラゴンを使うこの状況なら理想的ともいえる。まあ、私がデッキを作ったのだ。理想的な状況にならないことはない。
だんだん楽しくなってきた。自然と唇の端が吊り上がる。
「レディにしては悪い笑みだ」
「あら、不快にしてしまった?」
「いや。むしろ、この状況。なかなかにワクワクしてきたよ」
その台詞を最後まで聞けることを願っている。私も、エリアマスターなどとたいそうな名前が飾りではないことを祈っている。
彩 LP4000 手札1
モンスター ①クラッキング・ドラゴン
魔法罠 伏せ3
(水マスター)
□ □ □ □ □ 魔法罠ゾーン
□ □ ② □ □ メインモンスターゾーン
□ □ EXモンスターゾーン
□ □ ① □ □ メインモンスターゾーン
□ ■ ■ ■ □ 魔法罠ゾーン
(彩)
ターン2
水のエリアマスターは語る。
「このデッキはここではない別の世界で、戦った英雄が使っていた水属性デッキを参考に作ったデッキだ」
「へえ」
おもしろそうなデッキだ。相手にとって不足はないというところか。
「あまり舐めない方がいいぞ。俺のターン!」
水のエリアマスターはカードをドローする。
水マスター LP4000 手札6
モンスター ② レコンナイサンス・ワイバーン
魔法罠
早速悪だくみをしている顔を私に見せてくれているエリアマスターさん。しかし残念ながら、攻撃は私が先だ。
「トラップ発動」
「な……」
「『破壊輪』。相手ターンに相手のLP以下の攻撃力を持つ相手フィールド上の表側表示モンスター1体を対象に発動。そのモンスターを破壊して、私はその攻撃力分のダメージを受ける。その後、あなたは私が受けたダメージと同じダメージ分ダメージを受ける」
まずは一撃。そしてこのデュエルととってもスリリングに楽しめる状況になる一手。
「正気か……ライフは4000しかないのに……」
レコンナイサンスワイバーンの攻撃力は2600。これだけでもうデュエルはクライマックスになってしまうだろう。さすがにこの速さでLPが半分以下になるのは予想外だったらしい。
とっても驚いている。可愛い表情だ。体がゾクゾクしてきた。
「私は本気よ。さあ、楽しいデュエルにしましょう!」
私の宣言と同時に、レコンナイサンスワイバーンには爆弾が取り付けられる。彼には申し訳ないがこのデュエルを盛り上げる礎になってもらおう。
大爆発が起こった。
爆炎を浴びる。熱い。とっても熱い。しかし、それよりも興奮が私の中で勝っている。
「ぐあああ!」
対して向こうは、なかなか痛そうだった。
彩 LP4000→1400
水マスター LP4000→1400
さすがエリアマスターと言うべきか、そこからの展開は早かった。爆炎が収まる前に最初の一手を出してきた。
「セイバーシャークを召喚!」
煙を斬り裂くように現れたのは、頭から牛を両断できそうな怖い刃を伸ばしているサメだった。
セイバー・シャーク レベル4 攻撃表示
ATK1600/DEF1200
私は誰のデッキを参考にしたものかすぐに察する。
しかし、残念だ。クラッキングドラゴンに対し、召喚は悪手だ。最もそれでも止めるわけにはいかないだろう。モンスターの召喚はデュエルにおいて避けても通れない基本である。
まあ、だからと言って容赦をするつもりはないが。
「召喚?」
「何か?」
「この瞬間、クラッキングドラゴンの効果。相手がモンスターを1体のみを召喚、解く召喚した時発動できる効果がある。そのモンスターの攻撃力をそのモンスターのレベル×200ポイントダウンさせて、下降分の数値をダメージとして与える」
「なんだ、その効果は!」
「文句は言いっこ無しよ。クラックフォール!」
クラッキングドラゴンから己のエネルギーの放出による暴風が発射される。これによりセイバーシャークは元気がなくなったようだ。
セイバー・シャーク ATK1600→800
そして、
「ぐう……」
水のエリアマスターは、ダメージを受ける。この感覚が最高だ。この世界ではダメージが目に見えて分かる。相手が痛がっているのを見ると、いけないとは思いつつも、その背徳感がなんとも言えない快感を私の中に生む。
水マスター LP1400→600
「まさか……」
「分かった?」
「貴様の戦術は……ぐ……」
ここで説明を入れるのが、私の策に嵌った相手に対する責任だろう。何より私が言いたい。
「召喚を制限されるのは厳しいでしょ? あなたはレベル3のモンスターを出した時点で敗北決定。それを避けるにはモンスターを伏せるしかない。でも、クラッキングドラゴンはもちろん攻撃もできる。セイバーシャークがこのままだと――」
「負けるか……」
水のエリアマスターは苦しそうに息切れをしながらも、心は折れていないようだった。
それでいい。ほとんどの奴はここで戦意を喪失していて私もがっかりだった。これは期待できそうだ。彼ならば、クラッキングドラゴンを超えて、私にリンク召喚をさせられるかもしれない。私と楽しいデュエルをさせてくれるかもしれない。
「俺はシャークサッカーを特殊召喚」
相手が召喚したのはレベル3の魚族。またサメである。
シャーク・サッカー 攻撃表示
ATK200/DEF1200
「このカードは魚族、海竜族、水族モンスターを召喚した時、特殊召喚できる」
「クラッキングドラゴンの効果は忘れてない?」
「そう思うなら使ってみるといい」
というので私は効果を使った。
「クラックフォール!」
「受けるダメージは攻撃力が下がったぶんだけだ。俺が受けるのは200ダメージのみ」
その通り。自殺行為でなくて安心した。
シャーク・サッカー ATK200→0
水マスター LP600→400
水のエリアマスターは、続いて迷いなくカードの効果を使う。どうやら私を倒す算段は付いているようだ。楽しみだ。私をどうやって倒すのか。
「セイバーシャークの効果。自らを選択し、レベルを1分変動できる。俺はセイバーシャークのレベルを1下げる」
セイバーシャーク レベル4→3
なるほど。さすがエリアマスター。やはり、クラッキングドラゴンだけでは止められなかったようだ。私はますます、相手の策が楽しみになった。
「俺はレベル3になったセイバーシャークとレベル3のシャークサッカーでオーバーレイ!」
サメ2体が青い光となって地面に現れた黒い渦に吸い込まれていく。
「2体のモンスターでオーバーレイユニット構築! エクシーズ召喚! 現れろ! ナンバーズ47! ナイトメアシャーク!」
現れたのはヒレが鎌のようになっている趣味のいい狂暴そうな巨大サメであった。
No.47 ナイトメア・シャーク 攻撃表示
ATK2000/DEF2000
「攻撃力が足りないわね」
「いいや。こいつで良い。お前には負けてもらう」
「へえ……」
水のエリアマスターは、私を指さし、勝利の一手となる効果を宣言する。
「1ターンに1度、オーバーレイユニット1つを使い、効果発動。自分フィールド上の水属性モンスター1体を選択し、選んだモンスターはこのターン相手に直接攻撃ができる。他のモンスターは攻撃できなくなるデメリットはあるが。ナイトメアシャーク自身を選択することもできる。問題はない」
つまりクラッキングドラゴンは相手にせず、私を倒す手段に出たということである。これも一つの立派な戦術。ずるいなんて言う者じゃない。むしろ、素晴らしい対応策と賞賛を送るべきだ。
やっぱりデュエルは自分の思い通りにならないところが面白い。
「バトル! 俺はナイトメアシャークでダイレクトアタック!」
これを受ければ私は負ける。
私の命を奪うために、巨大な鎌の死神は影の世界に入ったかのように姿をふっと消した。次の瞬間。その鮫は私の後ろに。そして鎌は私の首に迫ろうとしていた。
まあ、この程度では負けない。
「罠カード。『ガード・ブロック』。私への戦闘ダメージを0に。そして私はカードを一枚ドロー」
鎌の切っ先に光の壁が現れ、鎌を弾く。そして私は説明通り、カードを一枚ドローした。
「さすがにこれでは仕留めきれないか……」
「残念ね」
「ああ。できればこのターンで倒したかったが……、仕方がない」
その目にはまだ、希望が見える、つまり私を倒す方法はまだ存在するということだ。
「どうするの?」
「このターンで倒そう! 俺は速攻魔法『RUM(ランクアップマジック)-クイック・カオス』を発動! フィールドのナンバース1体を素材に、ランクが1つ高い同ナンバーのカオスナンバースをエクシーズ召喚する! 俺はナンバース47、ナイトメアシャークを素材に、ランクアップ、エクシーズチェンジ!」
ランクアップマジックを天に掲げ、それに呼応するようにナイトメアシャークは咆哮と轟かせる。
「すごい……鳴き声!」
後ろを見ると、二番手で到着した三波と偽遊介が観客になってデュエルを見ていた。
「なるほど……ここから先は私の知らない領域なわけね!」
ナイトメアシャークは青い光になり、空中にできたブラックホールへと身を投じていった。そして、
「海に潜む悪夢よ、その混沌の力を宿し、今こそ死神となりて地上に浮上せよ! 現れろ、カオスナンバーズ47! ナイトメア・シャーク・フォアデス!」
現れたのは鎌を四本に増やし、海を連想させた青のボディが、禍々しい黒に変わった鮫の悪魔。悪夢現れたら間違いなくなくレベルの凶悪な姿をしている。
CNo.47 ナイトメア・シャーク・フォアデス 攻撃表示 ランク4
ATK2800/DEF2800
「このカードは相手プレイヤーに直接攻撃ができる! そしてオーバーレイユニットを2つ使うたびに追撃もできる。今、デスシャークがもつオーバーレイユニットは2つ。よって俺はあと2回、このモンスターで攻撃できる!」
「なるほどね……」
確かに凶悪なカオスナンバーズだ。こうなってしまうとクラッキングドラゴン戦法の限界だろう。このようにエクシーズやリンク相手だと、クラッキングドラゴンの効果に引っかかってくれないのだ。
さすがにそろそろデッキのコンセプトを変えるべきだろうか。
「さて、観念してもらおう」
「それ、あなたのエースモンスター?」
「ああ。このカードこそ、アルター様が俺に授けてくださった水のエリアマスターとしての力だ。神代凌牙を倒して妹を拉致した時に戦利品として、神代凌牙から抜き取ったカードらしい。……あ、この話は勝ってからのご褒美とか言ってたな。後で怒られる……」
向こうも自分の勝ちが見えて興奮しているようだ。その気持ちは分かる。勝ちが目の前に来た時の興奮はまた、楽しいデュエルをした後に来る幸福感そのもの。
しかし、残念だ。その幸福はすぐに消してもらうことになる。
「永続トラップ『デモンズチェーン』。フィールド上のモンスター1体を対象に発動できる。このカードが表側表示で存在する限り、対象となったモンスターは攻撃できない」
「な……」
「残念」
水のエリアマスターもこれには驚いたことだろう。私を仕留めるにはまだ足りない。私も、さすがにあのカオスナンバーズの効果には驚きを隠せないが、モンスターの効果を無効にするカードはこのご時世、思ったよりも有効的に使うことができる。
「さあ、どうするの、次は?」
と言っても何もできないだろう。顔が今度こそひきつっている。
しかしそこはさすが水の世界のマスター。手はあるらしい。
「魔法カード、アクアジェットを発動。フィールド上の魚族、海竜族、水族モンスター1体を選択。攻撃力を1000アップする」
クラッキングドラゴンの攻撃力を上回ることで、攻撃ができずとも壁にする。堅実な手だ。これではこの後にクラッキングドラゴンで攻撃して終了ということはできなさそうだ。
「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
しかし、今回も面白かった。まさかダイレクトアタックで戦術を立てるとは。やはり策と策をぶつけ合っているこの感覚。これこそがデュエルの真骨頂だ。
「あはははは!」
「なぜ笑う。レディ」
「だって、楽しい。とっても楽しいから。楽しいときは笑うって決めてるの。この世界ではね」
水マスター LP400 手札1
モンスター ③CNo.47 ナイトメア・シャーク・フォアデス
魔法罠
(水マスター)
□ ■ ■ □ □ 魔法罠ゾーン
□ □ □ □ □ メインモンスターゾーン
③ □ EXモンスターゾーン
□ □ ① □ □ メインモンスターゾーン
□ □ □ ④ □ 魔法罠ゾーン
(彩)
ターン3
「私のターン」
カードを引いた。そのカードを見て、私は次を考える。
「いいわ。それで行きましょう」
ついつい笑ってしまう。先ほどのダメージで体が痛いけど、だからこそ味わえる戦っている実感。向こうの世界でもデュエルをしている時はバッチバチに戦っている感覚が楽しかったけど、こっちのデュエルを味わったら向こうの戦いでは物足りなくなりそうだ。
「なんて……私、なんかヤバい」
自分に対して独り言を言ってしまう。頭がおかしくなってきている気がする。これ以上行くと私の中の何かが壊れそうだ。
でも今は、勝ちに行く。
彩 LP1400 手札3
モンスター ①クラッキング・ドラゴン
魔法罠 ④デモンズ・チェーン
こうなった以上、クラッキングドラゴンを場に残しても仕方がない。
「私は魔法カード『アドバンスドロー』を発動! 私のフィールド上のレベル8以上モンスター1体リリースして、デッキからカードを2枚ドローする。私は当然クラッキングドラゴンを選択。カードを2枚ドロー」
「クラッキングドラゴンを捨てるのか?」
「安心してマスターさん。私はなにもプレイングミスはしていない」
まずは下準備。カードをドローした。
(……来た!)
勝利への道が見えた。
わざわざクラッキングドラゴンを使った大仕掛けになる。当然このターンで決める!
「そしてマジックカード。『おろかな埋葬』。デッキからモンスター1体を墓地へ送る。私はバックグランドドラゴンを墓地へ」
邪魔は入らない。いや、タイミングを計っているだけか。現段階では測りかねる。
「私は今墓地へ送った、バックグランドドラゴンの効果を発動! このカードが墓地に存在し、私のフィールド上にモンスターが存在しないとき、このカードと、手札のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。バックグランドドラゴンとともにスニッフィングドラゴンを守備表示で特殊召喚!」
私は2体の可愛い僕を呼び出す。
バックグランド・ドラゴン レベル5 守備表示
ATK1600/DEF1800
スニッフィングドラゴン レベル2 守備表示
ATK800/DEF400
「さらにスニッフィングドラゴンの効果! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから同名モンスター1体を手札に加える」
まだ邪魔は入らない。私はそのまま続けた。
「そして私は、トリガー・ヴルムを通常召喚!」
それは銃の引き金のような形をしている竜。このカードこそ破滅を誘う引き金となる3体目のモンスター。
トリガー・ヴルム レベル2 攻撃表示
ATK600/DEF600
「さあ、行くよ。現れろ、我が道を照らす未来回路! アローヘッド確認。召喚条件は効果モンスター2体以上! 私は、バックグランドドラゴン、スニッフィングドラゴン。トリガーヴルム3体をリンクマーカーにセット!」
3体の竜は現れたサーキットに吸収されていく。そして、そこから現れるのは、このデュエルのフィニッシャー。
「現れろ。リンク3! トポロジック・トゥリスバエナ!」
これは正直竜ではないが、最初に私がストームアクセスで引き当てた私のリンク3のエース。何度もお世話になっている、遊介ときっとお揃いのサイバース族モンスター。
トポロジック・トゥリスバエナ
リンクマーカー 上 左下 右下
ATK2500/LINK3
「罠カード、『神の宣告』。ライフを半分支払い、そのモンスターの召喚は無効にさせてもらう!」
水マスター LP400→200
ここで水のエリアマスターからの反撃。新しいモンスターの対策をしたカード。ここまでで逆に彼が伏せたもう一枚は私のモンスターの攻撃に備えたカードと予想できる。
ちょうどいいつかいどころだ。この勝負、この一枚でもらう!
「手札のカウンタートラップ。『レッド・リブート』を手札から発動!」
「手札だと……!」
「このカードはライフを支払い発動する。相手が発動した罠を無効にして再びそこにセットさせる。そして、あなたはデッキから好きなトラップを1枚伏せられる」
「く……」
一見なかなかのデメリットだが、レッドリブートにはさらに効果がある。これが手札から発動できるので使い勝手がいい。
「さらにレッドリブートを発動したターン。あなたはこれからトラップを発動できない!」
「何……」
これで相手の防御は麻痺した。水のエリアマスターは、表情に余裕がない。やはりもう一枚も罠であるようだ。
これは勝った。間違いなく。
「トリガーヴルムの効果。このカードが闇属性リンクモンスターのリンク素材に使われて墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを召喚した闇属性モンスターのリンク先に特殊召喚する!」
墓地への扉が開く。そこから現れる引き金。それは今度こそとどめの引き金だ。
トリガー・ヴルム レベル2 攻撃表示
ATK600/DEF600
水のエリアマスターは、緊張の面持ちこちらを見る。どうやら私が攻撃力2800を超えるモンスターを引かないことを祈っているらしい。
それは無駄だ。そもそも――。
この時点で、勝負はついているのだから。
「この瞬間、トゥリスバエナのリンク先にモンスターが特殊召喚されたことにより、トゥリスバエナの効果を発動する! 特殊召喚されたカードと相手フィールド上の魔法、トラップをすべて除外し、除外した魔法、トラップ1枚につき、500のダメージを相手に与える!」
「何……」
私のエースモンスターは変形を始める。第2変形。大きな爪をどこからか出し、そこから撃ち放たれる衝撃波によって、このターン封じた罠全て裁断する。
その数3枚。1500の相応のダメージが襲い掛かるのだ。
水のエリアマスターに。
「まさか、戦闘を1回も行わずに……!」
「残念がることはないよ。だって、楽しいデュエルだったからね」
「……敗北の痛み知らぬ戦乙女か……これは、ぐあ!」
水マスター LP200→0
衝撃に吹き飛ばされ、水のエリアマスターは失神。
『おめでとうございます。新たなエリアマスター』
「やったー! 勝ったー!」
勝利に酔いしれ、思いっきり叫ぶ。デュエルはやるだけでもいいものだが、勝ったときの勝利の気分は格別だ。最高!
しかし、本当にエリアマスターになってしまった。
私が後ろを振り返ると、幹部二人が追加され合計4人が私のデュエルを見ていたという事態に今気づく。
「おめでとうございます!」
三波の素直な賞賛は嬉しかった。他の人も私をたたえてくれた。てめえよくも先にやりやがったなと因縁をつけられることを覚悟していたので、少し安心した。
そして偽遊介もまた私を褒めてくれた。偽物でもやはり知り合いの顔に称えられるのは悪い気分ではない。
しかし、それもつかの間、偽遊介は訊いてきた。
当然それは私がエリアマスターになったから、ついでにレジスタンスに入ってくれという旨の話だ。
後で決めようと思ってたが、その後ではもうないようだ。ここで即決しなければならない。この4人をまとめて相手して巨大組織を敵に回すか、それとも、この世界に革命を起こした後永住するという馬鹿げた話に付き合うか。
全く、なんでこんな話に巻き込まれてしまったのか。やはり知らない人について行くべきではなかった。
しかし、元々リゼッタを助けたくて、水の世界のエリアマスターになりに来たわけだし、レジスタンスという組織を味方につければリゼッタみたいな、この世界で不当に苦しめられている人も救えるかも知れないと考えると、決して巨大組織を牛耳っておくのは悪いことではない。
それに、完全なデュエルの世界を、なぜ偽遊介が、レジスタンスの幹部のみんながこだわるのか、訊いてみたい。なぜ、元の世界ではなく、この世界に移住して暮らし続けることを目的とするのか。
そのためにも私は、この話に乗ることにした。
「いいわ。レジスタンスのリーダー請け負ってあげる」
「本当か?」
「あなたたちに興味があるし、それに、私もそろそろ生きる目的が欲しかったの。この世界でレジスタンスとして多くの不当にペナルティを負わされている人とか、この世界に馴染めない人を助けるっていうのは格好いいでしょ。それに私もデュエルですべてが決まる本当の意味でのデュエルの世界。少し興味があるわ。ちょっと魅力的かもって思ってる自分もいる」
「本当か?」
「もちろん見限るかも知れないけど興味がある限り付き合ってあげる」
「俺たちに付き合うってことは、元の世界を捨てる事になるんだぞ」
「それはだめだってわかったら、私は抜けるわ。でも今はそこまで実感ないし、それにどうしてあなたたちがこの世界にこだわるのか、きっと理由があるんでしょう? まだ私みんなと話してないから、勝手にあなたたちをヤバい連中だって思うのは良くないしね」
「いい奴だな。お前」
「あら知らなかったの?」
「いいや。知ってた。……んじゃあ、まあ」
偽遊介が、いやしばらく付き合う事になるので、エクシーズ遊介に改名して、エクシーズ遊介が握手を迫ってくる。
「これからよろしく」
「ええ。しばらくお世話になるね」
私は握手に応じた。これで私も、エクシーズ遊介くんの設立した怪しい組織の仲間入り。そしてリーダーなのだ。まあ、いろいろ迷惑をかけるかもしれないが、私は責任を負わないことにする。
「それじゃあ、さっそく仲間たちに報告しないとね。それに、すぐに上の世界の悪い奴ら潰しに行くわ」
「お前……今日ぐらい祝杯を」
「ダメ。私をリーダーに仕立て上げたんだもの、働きアリにはブラックに働いてもらうわ!」
なんだか楽しくなってきた。しばらくは退屈しなさそうだ。
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エクシーズ遊介は、戦いが終わった後とは思えないハイテンションな彩の背中を見る。
「頼もしそうですね」
「ああ。まったく。調子狂うぜ」
「ブラックだって」
「……人選間違えたな。まあ、いいけど。あいつはそれを我慢してでも引き留めるに十分な俺たちの切り札になる」
「もう……元団長は言い方が悪党なんですよぅ」
三波の言葉に、確かに、と頷きを返した。
やがて三波も新しいリーダーの後ろに走ってついて行く。幹部2人も、お疲れさまとだけ言って歩き出した。
独りになったその後、エクシーズ遊介は言った。
「彩。俺達のレジスタンスのほとんどの人はね、故郷がもうないんだよ。もう、滅びたんだよ。その世界に未来はないんだ。だからこの世界が、まだ生きているこの世界が希望なんだ。人間ではアルターに絶対に勝てない。だからあいつに屈服することになっても……俺たちは最後の、俺達が生き残れる楽園を作る。たとえアルターの遊び道具であるこの世界でも、死になくない奴のために」
しばらく黙った後、
「さて、このことをどう……新しいリーダーに言おうかな……」
と空を見上げた。もっとも、見えるのは海だけだった。
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ある日。
水の世界のリゾート地は大きな混乱を招く事件が起こった。
「おらぁ! カチコミじゃあ!」
と言うバトルクイーン。そしていつの間にか存在した手下たちが暴れ始めたのだ。
地下のカジノの囚われているリゼッタを含め、多くの不当労働をしていた人を救い出し、その原因となっていた人間を全員拘束した。しかし、拘束された人間の行方は、この世界で自発的に新聞社をやっている記者達がいくら調べても分からなかったらしい。
チームの実装が発表されたのは、ちょうどレジスタンスがこの事件で有名になった直後だった。
レジスタンスは表舞台に出るにあたって、名前を変える。
チーム『エデン』、いずれ巨大組織になるその団体の名前の由来は、この世界に『楽園』を作ることだと噂されている。
(番外編1 終)
番外編1終了です。
長い! と思われた方もいるでしょう。ごめんなさい。字数的には2話並みです。
前回のあとがきで前後編でやっていくなんて言った挙句の果てにこんなことになってしまいました。次回はもう少し展開を考えて執筆しますので、ご安心ください。
さて今回の話はいかがだったでしょうか。今回もまた本編とは違ったテイストの文章になっています。番外編はこのような1人称視点を中心に進めたいと思っていますが、前の方がよいという声が聞こえれば元に戻したいと思います。
ここまで読んでくださった方は分かる通り、彩ちゃんも明るい性格の中になにか危ういものを持っています。それが完全に目覚めてしまうと危ない方向に行きそうです。デュエルの内容はリボルバーという名の通りドラゴン族使いですが、彩ちゃん自身は勝つためにはどんなカードも入れる容赦のない性格をしているので、そこまでアニメの本人に似せてはいません。しかし、それでも遊介のライバルと自称するにふさわしいカードを使うことにちがいはありません。当然、ヴァレルロードを出すのは□□□□□時です。
この話を機に彩ちゃんのことが少しでも好きになってくれるとありがたいです。本編の第2シーズンでは積極的にかかわってくるので。
さて、番外編2は遊介の妹さんが登場です。
お兄ちゃんに裏切られ、薫はどう思っているのか、なぜ兄を追いかけてきたのか。その辺を語りたいと思います。お楽しみに!