遊戯王VRAINS もう1人の『LINK VRAINSの英雄』 作:femania
・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。
これでOKという人はお楽しみください!
今回から本格的に『LINK VRAINS』攻略開始!
そしてこの作品がクロスオーバーである理由も明らかに!
【6】
遊介は目を覚ました。そこは自分が先ほどまでいたマイケルのカードショップの中だった。白の内装にガラスのショーケースが壁際に並ぶ。しかし、もちろん寝かされていたのは床ではなく。マイケルが休憩で使うソファの上だった。
「大丈夫?」
遊介は見知らぬ紫の髪の少女に面倒をかけていた事に気づく。
「俺……」
「良かった。目を覚まさなかったらどうしようかと思っていたの」
「君は……?」
「私は、『黒咲 瑠璃』。マイケルさんに助けて貰って、ここで厄介になっている一人です」
遊介は幼さが残る一方でおしとやかなその少女の姿に見惚れていた。
「てめえ、俺の瑠璃ちゃんに何色目使ってんだー」
それが気に入らないのか、マイケルはさっそく遊介に忠告らしきことをする。
「マイケル。この人は?」
「俺が最初にこの世界に来た時に組んでタッグで戦ったんだよ。いやあ、強いのなんの。おかげで死なずに済んだんだ。それ以来、俺はこの人の力になりたくて、せめてこの人がゆっくり休める場所を作ろうと思って。ゲーム初期で30000マネーポイントって高価な値段を意を決してこの店を購入したんだ。私有地は基本的に勝手にルールを決められるからな。決闘禁止エリアを早めに作れたのはありがたい」
「基本的にってことは例外があると?」
「ああ。ルールブレイカー。この世界で最初に行われた公式イベントの報酬だ。イリアステルの資格である、ハノイナイトレベル1を倒せば手に入る。先着十名。なんてアナウンスがこの世界が始まって六時間後に発表されたんだ。そしたら本当に出現しててよ。その報酬のルールブレイカーはキーアイテムっていう、譲渡不可能な重要アイテムの一つで、私有地のルール設定が無効化されるらしい。だから俺が設定した決闘禁止のルールも意味がなくなる」
「なるほど。だからブルームガールはあんなに焦ってたのか」
遊介は体を起こす。
「看病ありがとう」
「ううん。無事ならよかった。ライフが0になったときのショックで目を覚まさない人って多いから……」
遊介はそれを言われ、自然と意識を失う直前を思い出す。
己の存在というものが、まるで虫に食われる葉のように消えていく感覚。当然痛みをあったが、何より遊介を襲ったのは恐怖だった。
確かに二度と感じたくないものだと遊介は終わってから幾時間かたった今も思っている。
(松。彩。もしかしたらあの二人も……)
遊介は焦る。しかし、それをすぐ消したのは、外から帰ってきたブルームガールの一言だった。
「今君が焦ってもしょうがない」
「え……何を」
「あなたがこの世界に来た理由は分かった。だってあなた、寝込んでる間、ずっとお友達を心配する寝言言ってたもの」
「そうっすか?」
いかに必死とはいえ、寝言を聞かれていたことは、遊介にとっては恥ずかしいことだった。
「でも名前も分からないし、どこにいるかも分からないんでしょ」
「はい……」
「だったら、焦りは禁物。まずは今の状況を整理して、次にするべき行動を冷静になって決めましょう」
現実世界では生徒会長。下を纏めるリーダーとしての才はここでも順調に発揮されている。
「ところで遊介くん。ちょっと」
ブルームガールに手招きをされ、遊介は素直に誘いに応じた。店の中ではあるものの、マイケルと瑠璃からは少し離れた場所へ誘導される。
「遊介くん。彼女……」
「瑠璃さんのこと?」
「そう。見覚えあるでしょ」
あんな知り合いはいないと遊介は首を振る。
「違う!」
デコピンをされて、額が痛みを訴えた。
「なんすか……」
「あの子。テレビで見たことない?」
「うーん」
しばらく考え込んで、遊介は思い出す。
「黒咲瑠璃って……まさか」
「そう。あのアークファイブで出てた……」
「アバターが似てるだけとか」
「じゃあ、あのデュエルディスクは何て説明するの」
遊介は彼女につけられたディスクを確認する。それはログインに必要なデュエルディスクの形ではなかった。プレイヤーに配布されたデュエルディスクはこの世界では完全耐水性で重さがほぼない代わりに取り外しが不可能。さらに外見はいじることができない設定になっている。
「ディスクの見た目を変える方法は?」
「ないわ」
「断言できるんですか?」
「だって、アルターって男が最初に言ったの。ディスクはある理由で見た目を変えられない設定になってるって」
「ある理由」
「私も正直飲み込めていない話も多いの。けど、異世界のデュエリストが己の願いを叶えるためにこの世界にやってくるとか、彼らは真にデュエルの世界からきたプレイヤーとは一線を画すデュエリストだとか。多分、私たちの世界から来た人は、このデュエルディスクを持っている。けど別の世界から来た人は別のディスクを持ってるんじゃないかしら」
「ちょっとストップ。別の世界とか言ってるけどさ。ここゲームの世界でしょ。そんなここが異世界だなんて」
「じゃあ何? あれは見事な再現度の偽物?」
「それは……」
「私が最初にアバターを作ったときに見たけど、彼女と同じ髪型や顔のパーツはなかった。体格は元々の体に合わせられるわけだし。彼女と同じ容姿のアバターは作れない」
「ええ……よく覚えてますね……」
遊介はそこまで聞いて、自分でも自分の考えを疑うような予測を立てた。
「まさか……本物?」
恐る恐るした質問に対し、ブルームガールの予想は、イエスだった。
「多分。もしかしたらそうかもしれない」
「でも正直信じられないけどなぁ」
「でも逆に、この世界がゲームの世界って証拠もないでしょ」
「でもなぁ……」
「異世界の可能性だってある。確かに私たちはデュエルディスクでこの世界に入っているけど、行く先がVRの世界なんて決まってたわけじゃない。……なんか自分でも馬鹿馬鹿しいような予想だけど。もしかしたら、もしかするとじゃない」
「なるほど……!」
遊介は目に映る紫の髪の少女を見る。
「確かに本物なら……マジか……!」
デュエルバカというほどに遊戯王を愛してきた遊介にとっては、信じられないほど嬉しい機会だった。テレビの向こう側でみた英雄と肩を並べられる日が来るとはまさか夢にも思ったことはない。遊介が自然に笑みをこぼすのは自然な心情変化だった。
しかし、ブルームガールの目は厳しく、遊介を凍り付かせる。
「遊介くん。もし彼女が本物だとしたら気をつけなくちゃ」
「何を?」
「私たちは初対面。知り合いみたいには話せない。テレビで見ましたとか絶対に禁止。あの瑠璃が本物だったら、そんな話をしたら私たちは精神異常者か怪しい奴扱いになる!」
「た……確かに」
「いい? 絶対に現実世界を連想させる言葉は言わないで」
「了解しました……」
ブルームガールのきつい説教により、急に盛り上がった遊介のテンションが落ち着きを見せる。
しかし、遊介はこの世界の神秘に触れたような気がして、決して悪い気分ではなかった。
遊介は再び瑠璃の近くに座り、マイケルの、なにやってるんだてめー的な視線を気に留めず、
「あの……」
と口を開いた。
「むこうで何を話してたの?」
先に瑠璃に聞かれ、遊介はとっさに、
「これからのこと。ブルームガールに相談を受けてたんだ」
と返答する。ブルームガールからは及第点の返答だと頷きによる許可を貰った。
「そうね。これからの事も考えるべきね」
瑠璃が乗り気になり、遊介に熱い視線を向けていた男もひとまず停戦の意思を見せた。
「まず。みんなの当面の目標を言い合いましょう。ここで折り合いがつかないと、私たちは一緒に居られない」
ブルームガールの最初の提案に意を唱える人間はなかった。
「じゃあ、言い出した私からね。私はヌメロンコードに興味はないわ。ただ、デュエルの相手を求めてここに来た」
それに乗じるように、
「俺もだ。まさかこんなおっかない世界だとは思わなかったぜ」
マイケルも口を開いた。
そして瑠璃が言葉を選んでいる様子を見て、遊介は我先にと話し始める。
「俺はデスゲームが始まってると知ってからここに来た。理由は先にここに入った俺の友達を見つけるためだ」
「手がかりはあるの?」
瑠璃の質問に首を振る。
そして瑠璃は未だとても言いにくそうにしながらも、口を開いた。
「……今から言うことは。もしかしたら信じてもらえないかもしれないけどいい?」
異論をはさむ人間はこの場にはいなかった。
「私。別の世界から来たの」
「別の世界?」
「この世界とは別の世界。この世界はデュエルが命がけだけど、そうじゃない、デュエルがエンタメとして普及している世界。アクションデュエルっていうフィールドを縦横無尽に走り回って、各地に落ちてるアクションマジックカードを拾って戦う凄いデュエル」
遊介はそれを聞き、ますますこの瑠璃が本物の『黒咲瑠璃』のように思えてきた。
「ある日、アルターってやつが目の前に現れて私に言った。喜べ少女よ。君の願いは間もなく叶う。ヌメロンコードの力をもって君の兄も生き返り、君の故郷も修復され、真に平和な世界を君という一人の人格が歩くことができる。そんな世界が再び来るのだ。とか言われて」
「で……来たのか?」
「うん。私たちの世界では、少し前にとても大きな戦いがあった。その傷痕は大きかった。私も兄を失い、故郷は修復不可能なくらいに破壊されてしまった。だから、もしそれが治せる可能性があるならって思うと。いてもたってもいられなくなったの」
遊介はその戦いを知っている。
それはあくまでテレビの画面で見ただけだったが、壮絶な戦いだったことに違いはない。五つの次元を駆け、覇王龍の因縁に導かれるように戦った次元戦争。結果的に死んだ人間もいたものの、ほとんどが存命のまま終結。榊遊矢陣営に良い結果で終わった。それが遊介の知る遊戯王アークファイブ世界における次元戦争の結末だ。
しかし。今の瑠璃の話の中で一つ遊介の知る結末と違うことがある。
(もしこの黒咲瑠璃が本物なら。黒咲隼は命を落とした……? でも……確かアニメでは生きてたはず……)
それに、黒咲瑠璃も次元戦争が始まってからは無事だったことは一度もないはずである。
幸運にも頭が冴えていた遊介は、一つの可能性を悟った。
(この瑠璃さんは、違う形で次元戦争を終わらせた世界の住人とかかな…)
そう。この黒咲瑠璃は少なくとも、アークファイブ世界とは違う運命を辿った黒咲瑠璃なのだ。
遊介はその可能性を考え、少し話のスケールの大きさにビビりそうになった。もしこれまでの遊戯王世界に『もしも』の数だけのパラレルワールドがあるのならと考えると、頭がパンクするほどの可能性の広がりを感じたのだ。
もうすぐで違う次元へと夢見の旅に向かうところだった遊介の目を覚ましたのは、マイケルの一言だった。
「いやあ。あんたも違う世界から来てたのか。実は俺たちもなんだよ」
「そうなの?」
「ああ。俺達も違う世界からここに来た。おんなじ境遇なんて運命感じるねぇ。俺達が出会ったのはもしかすると必然だったのかも」
「ああ。そうかもしれないわね。でも……」
「でも?」
「私だけじゃなくて……ユートも助けたい。ヌメロンコードは最終的な目標だけど。しばらくは彼を探すのが目標ね」
「ユー……」
マイケルが凍り付きそうになっているのは、遊介にもブルームガールにも明らかだった。ユート。その名前を口にした瞬間、一瞬ではあるが真面目な表情が綻んだところを見る限り、ユートという男は明らかに瑠璃の恋人的立ち位置にいる男だ。
「そうか。なら手伝うよ」
「そうね。瑠璃ちゃんの彼氏でしょ。きっと強いわ」
遊介とガールがおだて半分で言うと、瑠璃は嬉しそうに、
「うん。強い。そして笑顔が素敵ないい人だから。きっとみんなも気に入ると思う」
と、言い切ったのだ。
【7】
女子二人は一度席を外すと、傷心で心ここにあらずのマイケルに代わりに、女子二人は一度席を外すという言伝を瑠璃から遊介は受け取った。女二人の秘密の話がどうとか。
一方立ち直りが遊介が思ったより早かったスキンヘッドは、すぐに新たな作戦を立てていた。遊介は気乗りしないながらもそれに耳を傾ける。
「一週間後に次のイベントがある」
「本当か?」
「ああ。これは信憑性が高いぜ。何せオープニングトークでアルターがアナウンスしてたからな。一週間に一回はイベントをやるって」
「どんな内容になるんだ?」
「それが……口の軽いハノイナイトを脅迫して聞き出した奴から情報を買ったんだが、どうやら次はライフ回復イベントになりそうだ」
「保有ライフが増えるのか?」
「どうもそうらしい。クリアすれば特典として保有ライフを増加できるそうだ」
遊介はてっきり、瑠璃に振られたから、ユートを一緒に倒してー! と頼まれるかとばかり考えていたので、意外に興味のある話が出てきて注意を向け始めた。
「確かに。保有ライフが増加なのはありがたいな」
「しかも。次のイベントはチーム戦だとも聞いたぜ。五人一つのチーム」
「……つまり俺達で出ようぜって?」
「そうだ。せっかくだからあのユートって奴も探し出して俺らのチームに入れてさ」
「入ってくれるのか?」
「彼女がこっちにいるんだ。あいつだってこっちに来るさ」
「どうだろうな。スキンヘッドに警戒されて、瑠璃が捕まってるとか思われたら速攻交渉決裂だぞ」
遊介は冗談でマイケルに言った。
しかし。
「知ってるか? チーム対抗で、現れるイベントエネミーデュエリストを倒し続けるんだ。何人倒したかを競い合うらしい。一番倒した奴が優勝。個人優勝と優勝チームは名前も各地の掲示板に載るらしい」
「へえ」
「俺はそこで。ユートという男の二倍は倒し、男ととして勝利を飾るぜ」
「はいはい。頑張れよ」
「なんだよ。乗り気じゃないな」
「確かに保有ライフを回復できるのはいいけどなぁ」
イベントには興味があるが、今のデッキで無理に一位を手に入れに行くほどのメリットは感じない。
当然イベント中もデュエルは命を賭ける。命大事にのスタイルならば、エネミーとの連戦はむしろリスクを負うことになる。参加するにしてもノリノリになるには、ライフの回復以外にもう一つくらいはメリットがないと釣り合わない。
「そうだな。別に1位になって名前を売りだしても、むしろ注目の的に……注目の的」
注目の的なんてはっきりって論外なデメリットだ。
しかし、遊介は例外である。
彼は名前はそのままだ。その名前が広まりを見せれば、彼を知る人間であればアプローチをとってくる可能性は高い。
特に、松や彩くらいに親しい仲であれば、可能性は大いに高い。
(その分狙われることも多くなるだろうけど。それは器用に逃げればいい)
先ほどボコボコにやられたというのに、遊介の頭にはまだお花が咲き誇っている節がある。しかし、手立てがない今、新たな進歩のために賭けをするには十分なメリットがあった。
「遊介?」
「いや。やろう!」
「どした?」
「マイケル。やろうぜ。せっかくなら一位を目指そうぜ!」
「あ? あ? お前急にどうした?」
「細かいことは気にするなよ。漢だろ?」
「お、おうよ。やろうぜ」
いつになく興奮していた。
しかし、噂をすれば影。
その瞬間は急に訪れる。
店の外に黒を基調とした服とマントを身に纏った少年が現れた。その少年は迷いなく店の中へと足を踏み入れると、カード屋であるにも関わらず、カードを見るわけでもなく、まっすぐと店主であるマイケルのところへ近づいてきた。
「失礼する」
髪の毛も紫と黒というダークカラーながら、逆立ってツンツンしているところは遊戯王キャラの特徴である。
「ここに紫の髪をした女の子が来なかっただろうか?」
大いに身に覚えがあるのですぐにでもそのことを言おうとしたが、二人はすぐに躊躇った。
(怖い……)
既に何匹かを仕留めた後の肉食獣のように鋭い目つきである。
そして本物の戦いを一度経験した遊介にはそれが殺気の類であるものが明らかだった。
「答えてくれ」
物言いは穏やかで戦意は感じられないが、少しでも怒らせたらまずいことになってしまう。遊介はそう思い言葉を慎重に選んでいくための準備をした。
「……知ってます」
ここからは一つ一つが重要な選択なる。
「あ、ユート!」
はずだったのだ。
しかし、マイケル店の二階から降りてくる瑠璃の存在が、大いに黒の少年の神経を刺激した。
「瑠璃! 良かった。無事だったんだな!」
「ユート!」
「待ってろ。今こいつらを倒して君を助ける!」
この場にいるすべての人間が、恐ろしい結末へ歯車が動き出したのを感じとる。
(どうしてそうなる……!)
ユートの目があからさまな敵を見る目に変わった。
「お前たちは絶対に許さない」
と、デュエルディスクを構える。幸いここは決闘禁止エリアで保有ライフは減らない設定だが、穏やかに事が済むとは思えない事態に、遊介とブルームガールは焦り始める。
「待ってユート。この人たちは、行き場のない私を助けてくれたの!」
「瑠璃。何かあってからじゃ遅い。この世界に来てからも襲われただろう。この世界は危ない。信用できない人間と一緒に居て君をまた失うわけにはいかない」
「でもこの人たちはいい人」
「今は俺の言うことを聞いてくれ。頼む」
彼女のお願いも通じないユートは、気持ちの余裕があまりない状態だと遊介は分析した。
このような相手はまず落ち着かせるのが大切である。生徒会長として様々な人々と話をしてきたブルームガールが判断して前に出る。この場で話術が長けているのはブルームガールであり、ここまでは最良の手をうつことができた。
「用があるなら私に。まずはあなたの言い分を聞かせてください」
「黙れ。お前らも瑠璃を殺すつもりだろう。その前に俺がお前たちを倒す」
「ユート!」
瑠璃の言葉すら届かない今のユートは完全に頭に血が昇っていた。
ブルームガールはすぐには戦闘状態にならず、
「私たちは、彼女とともに行動している。いわば同盟関係です。今のところ、この世界を知らなすぎる状態。協力を先ほど約束しました」
きちんと事実を伝えていた。
真摯な眼差し、そして毅然とした態度。
ブルームガールの態度を見たユートの様子が少し変わった。
「俺の目的は瑠璃だけだ。もし引き渡してくれるのなら、君たちを悪いようにはしない」
「私からすれば、彼女をこのまま今の貴方に渡して良いかも迷います。せめて瑠璃の仲間である証拠を見せてください」
「彼女と同じデュエルディスクを持っている」
「それは仲間であるという証拠にはなり得ません。もし、あなたが瑠璃を騙そうとしている変装の類をした敵であれば、私たちは容認できない。その可能性がつぶれない限りは、引き渡しには応じられない」
「なら奪うまでだ」
「ユート。この建物から出ず、瑠璃本人に確認を取らせるというのはいかがでしょう?」
「俺を罠に嵌める可能性を否定できない」
「しかし、このままでは瑠璃は渡せません。貴方が他人を警戒するのと同じように私たちも外敵を警戒している」
「……そうだな。確かにその通りだ。だが折り合いがつかなければ無理矢理通るくらいの覚悟はあると思ってくれ」
「でも荒事は避けたい」
「それはこちらも同じだ」
未だ油断はできないが、ブルームガールはユートを駆け引きに落とし込むことには成功した。
今、
「どうしよう……」
とユートを止める方法を考えている瑠璃が妙案を思いつけば話も変わる。
遊介は油断はしなかったものの、一応ことはまだ荒立たないことに安心のため息をつこうとした。
事件はそのため息をついた瞬間に起こる。
「ユートとか言ったなてめえ!」
マイケルが暴走を始めたのだ。
「瑠璃ちゃんを探してたとか言ったがなぁ? だが実際俺が瑠璃ちゃんに会った時は一人だったんだぞ! お前彼氏のくせに守れてないじゃないか!」
唐突にユートを煽り始める。
(マイケル!)
心の叫びは形になって出そうなほどに、遊介の中で絶叫が反響する。
「あのバカ……!」
ブルームガールに至っては声に出ていた。
「違うのマイケル。ユートは私を守るために敵五人同時に相手をしてて……!」
瑠璃が必死に事態の悪化を防ごうと言い訳をするが、その言葉を制して、マイケルは瑠璃の前に立つ。
「お前に瑠璃は渡せねえ。漢ならな、大事にするってもんを見捨てた時点で負けてんだ! 負け犬は帰りやがれ!」
ユートの目に再び殺気が灯ったのはその時だった。
「確かに。そういう意味では俺は二度負けた。エクシーズ次元で攫われる所を守れなかった」
「ユート……それは、私があなたに迷惑かけたくなくて勝手にしたことよ」
「いいんだ瑠璃。遊矢達の力を借りてようやく取り戻したのに、俺はこの世界に君を連れてきてしまった。そしてまた敵の襲撃を受けて離れ離れになった」
「それもユートのせいじゃない。あの時は仕方なかった!」
「だが。それでも俺は、瑠璃が生きている限り守る続けると決めた。それが隼との約束だ。そのために、邪魔する者は容赦できない!」
ユートのデュエルディスクは既にデュエルモードになっている。
そしてやる気を見せられて闘争本能を掻き立てられたのか、
「いいだろう。来いよぉ。俺達マイケルブラザーズが相手になるぜ」
と、謎の固有名詞を使って臨戦態勢になるマイケル。その雄姿はなんと猛々しく、そして愚鈍だろうか。
最早戦いは止められない状況になってしまった。遊介は苦笑を浮かべながらも覚悟を決めるしかなかった。
「ようし、遊介行け!」
「なんで俺なんだよ! 煽ったのはマイケルだろ!」
「これやるからさぁ。たのむよぉ」
そこにはサイバースのリンクモンスターが一枚。
「お前。なんでこんなカード持ってんだよ」
「お前がくたばっている間に、店に来た奴と取引で手に入れた」
「案外繁盛してるんだな」
「で、どうする?」
「断る」
「なんだよ」
「マイケル。お前がこうしたんだぞ。お前が責任取れ」
「ええ。今俺デッキ持ってないんだよ。部屋に置いてきてる」
自分で喧嘩を売ったにもかかわらず。喧嘩道具を持っていないという状態に、遊介は苦笑を浮かべるしかない。
(何だったら私が相手をしてもいいぞ)
(セレナ。今はまだ駄目)
(柚子の言う通りよ。今は瑠璃に体を貸すって約束なんだから。出しゃばり禁止)
(なんだ。つまらん)
「セレナ。我慢してね」
独り言を放つ瑠璃に遊介が気づく。
「どうしたの?」
「ごめんなさい……その……ユート。いつもはこんなんじゃないの。だから」
「ああ。まあ、大事な人を救いたいって気持ちは分かるよ。その焦りも」
「ごめんなさい」
「君が謝る事じゃないって」
瑠璃の辛そうな顔を遊介は見た。
(このままじゃいけないな)
遊介は穏やかに終わらなくなってしまったこの場を収めるために、前に出ようとした。
しかし。
「遊介。止まって」
ブルームガールが遊介を制止する。
「俺がやります」
「あなたはまださっきの戦いの傷が癒えていないわ」
「それは会長だって」
「それに……」
ブルームガールは自分のデュエルディスクに腰のデッキケースからデッキをセットする。
「私が生きているのは君のおかげ。あんな満身創痍でもう一回ブルーアイズと戦う気力は正直なかった。だから君に助けられた分。ここで返すわ」
ブルームガールは強く宣誓する。会長の行動力、鉄の意思、一度決めたことを曲げない姿勢は、現実世界で遊介もよく知っている。そこに何者も入る余地はなく、遊介は戦いを見守る決心をした。
しかし、素直に引き下がった理由として一番大きい要素として、ブルームガールのデッキがどんなデッキか興味があったことがある。
「悪いがここは通させてもらう。ここは保有ライフは減らずとも、デュエルの衝撃は痛みとして来る。少し倒れていてもらうぞ」
ユートの宣戦布告を、
「そうはいかないわ。デュエルとなったら私だって容赦はしない」
ブルームガールは堂々と受けて立った。そして無邪気な子供ような笑顔を浮かべる。それはいつもの冷酷な女王から発せられているとは思えない陽だまりのような温かさを帯びていた。
「それに、遊介くんよりは、貴方に勝てる可能性は高いもの」
そうして、望まずして始まった、実力者ユートとブルームガールのスピードデュエル。
Dボードがなくともスピードデュエルはできる。ルールは同じ。ただしここは決闘禁止エリアのため、保有ライフポイントから賭けは起こらない。そしてライフはお互いで4000から始まることになっている。
「スピードデュエル」
「スピードデュエル!」
瑠璃はそれをなんとも言えない表情で見守る。
遊戯王アニメシリーズ登場キャラのうち、参戦1人目は黒咲瑠璃です。アニメでは出番がほとんどなかったけど、僕が展開する話では一杯活躍してほしいという個人的な願いがあります。そして次の対戦カードはユートVSブルームガール。クロスオーバーものっぽくなってきましたね。二人のデュエルがどうなるかは次回に持ち越しです。
そろそろこの話の『LINK VRAINS』のルールも増えてきたので、一度、ルールを整理する話を書きたいと思います。それまではしばらく読みにくいと思いますがご容赦ください。
前回までの2話は、この作者の今の実力をフルに使って頑張って書きましたが、今回からはなるべく1話ずつの文字数を削れるだけ削っていく予定です。できるだけ本文の文字数が10000を下回るようにするので前に比べて短めになっていきますが、それでも話が薄くならないように頑張っていきたいと思います。
(イメージとしては、アニメ1話分の量を目指す感じです)
ここまで読んでくださりありがとうございました。感想を頂けると嬉しいです。
ではまた次回第4話『舞い輝く花 VS反逆の牙』。お楽しみに!