遊戯王VRAINS もう1人の『LINK VRAINSの英雄』 作:femania
・小説初心者で、連載小説初挑戦です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品なので、遊戯王アニメシリーズのキャラが登場することもありますが、設定が違うので元と性格や行動が違うことがあります。
・過去にアニメシリーズで使われていたデッキを本人ではなくこの作品のオリジナルキャラが使うことがあります。また、使用されるデッキはエースモンスターはそのままにデッキをアレンジしたものになっていることがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・人物描写はスキップしています。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・オリジナルのカードも使ってます。
・作品はほぼオリジナル展開です。
これでOKという人はお楽しみください!
イベント戦2戦目です。
タイトルから分かるように遂に奴が登場?
「クロスオーバーなら融合、シンクロ勢も出せ」とこれを見た知り合いに言われてしまいました。
ちゃんと出てきます。もう少しだけお待ちください……。
【12】
(第1階層 天空の聖域 ヴァルハレミニア)
遊介とヴィクターの戦いは終わった。バトルシティの上空を走った2人の戦いはいつの間にか街を越え、エリアとエリアを繋ぐ道路の上を走り抜けた。そして終着点は標高1000メートル程度の山が見えるようになった麓。接続の道が緑豊かな農耕地区になっていたことと、そして白の石造りの町が見えたことから、遊介はここが天空の聖域エリアであると判断した。
リンクブレインズには、遊介が最初に降り立ったバトルシティの他にも6つの属性をイメージしたエリアが存在する。それらはバトルシティを囲むように隣り合わせで存在して、エリアの間には幹線道路が繋がっている。
炎の世界。生命が生きることが許されない灼熱の溶岩地帯。『煉獄の聖域ムスペル』
水の世界。広がる海と氷の大地。そしてその下に存在する都。『恩恵の聖域アトランティス』
風の世界。底なしの谷に吹く暴風が人の住まう大地を浮かせる。『飛翔の聖域ミストバレー』
地の世界。荒野と岩山が広がり、旧文明の足跡が各地に残る。『伝説の聖域ナスカ』
闇の世界。地上は黒い霧と彷徨う死霊、地下は地上に戻れぬ迷宮。『暗黒の聖域ネクロリンド』
光の世界。神や天使を振興する白の聖域と、天に住まう天使の共存。『天空の聖域ヴァルハレミニア』
この6つの世界に加えて、中央に存在するバトルシティの7つのエリアが『LINK VRAINS』第1階層と呼ばれる世界のすべてだ。
天使を信仰すると言われる、光の世界の玄関口。白や黄色の聖っぽさを表す神殿と、住民の白い家の家が混ざり合って共存しているこの町の名前は『ユグドミレニアス』。街並みはあまりに白く、日光の反射が凄まじい。当然このような争いが嫌いそうな町でも、決闘のルールは生きている。この町を拠点としているデュエリストが戦いを繰り広げていることに変わりはない。
大きな白い門の入り口で、遊介とヴィクターは一度地面に着地する。入り口は、これもまた純白の橋がかけられていて、靴の汚れがあれば目立って仕方がない。
「負けたな……」
しかし、ヴィクターの表情は清々しさを表しているように遊介には見えた。ディスクには勝利の報酬であるマネーポイントと、経験値という今まで見たことのない数値が上昇を始めている。
遊介はディスクの画面に経験値の説明欄を出した。
一般的なRPGゲームにある、レベル、経験値とほぼ同じだ。デュエルにをすれば経験値がもらえる。数値は相手のレベルによるものの、負けるより勝った方がもらえる。ある程度経験値をもらうとレベルアップができ、自分のスキルが増えたり、保有LPの最大値やアイテムが支給されたりするらしい。
(こういうところはゲームっぽいんだな……)
アルターの思惑が分からず首を傾げる遊介。しかし、そもそも精神異常者にしか見えない男の思考が理解できたらそれこそ自分も同類では、とも考え、それ以上考えるのをやめた。
遊介のレベルはまだ2には上がらない。経験値は初戦の100に加えて今回400で合計500。そして最初のレベルアップに必要なのは1000。つまり残り2回戦えば上がると遊介は考える。ついでに自分のチームの成績を見ると、
(14人で現在13位……俺まだ1人しか倒してないのに)
ヴィクターと戦っている間義務を果たしていた仲間に頭が上がらない事実を突きつけられた。
「これで満足か、ヴィクター?」
不愉快な顔をして遊介は自分を襲撃した男に訊く。
「いや。満足はしてない」
と遊介にとっては胃が痛くなるような発言を発射する。遊介は理由を問おうとしたが、ヴィクターの方が少し口を開くのが早かった。
「だがまあ。今日のところはいい」
「俺は良くない」
「遊介。今日はお前の本気の顔を見られた。勝ちたくて勝ちたくてしょうがない感じの顔を見れた。短い間だったが、お前が完全に腐ってないことだけは確認できた。俺は手っ取り早くが好きだが少しづつ成長する地道さは嫌いじゃない」
「何が言いたいんだよ」
「なに。この世界はきっとお前を変える。勝利を至上とする決闘者へと変化させる。なぜなら、ここは戦いの世界だからだ。真のデュエリストになるお前の変化の動態を見るのも悪くないと思ってな」
ヴィクターはそこまで言うと、遊介のデュエルディスクを強奪する。もちろん腕からとれるわけではないので、遊介の左手は引っ張られ肩から、ボキュ、という体に良くない音が発生する。
「お前、リーダーなのか。そりゃ都合がいい」
そう言うと、勝手にディスクを操作し始める。ディスクは残念ながら自分の物しか操作できないというルールにはなっていないため、このように無理矢理操られることもあり得るのだ。最悪の場合LPの譲渡を勝手に行われ、殺されるという暗殺方法も可能である。
しかし、ヴィクターはそうはせず、チームメンバー認証画面に行くと自分の指紋を登録したのだ。
「お、おお前!」
「は! これでお前を監視できるぜ」
ヴィクターの力は強く引き離そうとするまでに、全ての工程は終了。晴れてということはないが、ヴィクターは遊介のチーム『players』の一員となってしまった。
「お前! 何企んでる!」
「何言ってやがる。さっき言っただろ? お前の変化を見るって。その約束を物理的にさせてもらっただけだ」
「何の関係があるんだよ」
「メンバーになれば通信できるだろ。それに他のメンバーが今どこにいるか、マップに表示されるようになる。安心しろ、慣れ合いはしねえよ。だが、いつかお前がサイバースを捨てて勝利を目指す瞬間を見逃したくないからな。ストーカーみたいにお前の戦いに巻き込まれてながら、お前が堕ちる瞬間を絶対に見てやるぜ」
「なんて自分勝手な! てか、俺が勝ったのに、なんの得もないじゃんかよ」
「そういうな。俺はお前が堕ちるための最低限度の手助けはしてやる。慣れ合いはしないが俺はもうメンバーだ。ポイントは稼げる。それに俺ももう残り4000だ。おれにとっても悪い話じゃないしな」
「結局お前の得じゃないか」
「なんだ。ポイント稼いでやるって言ってるんだ。それはお前にとってもいい話だろう」
遊介は急に遊介に対する当たりだ良くなったことを怪しく思いながらも、それ以上の追及はしなかった。
「まあ、一度登録した以上、リーダーでもメンバーの解除はできないからな。仕方ないって考えるしかないか」
と、自分に言い聞かせるように言葉として表す。
もちろんヴィクターも、急に態度を変えたのは理由があってのことだった。
(……自分から喧嘩を仕掛けて負けたからな……。あんなに罵倒しておいてこっちが負けてるんだ。後で蒸し返されると癪に障るから、せめて、ポイント稼ぎを手伝ってやっただろうという言い訳ぐらいは作っておかないとな。それに俺も保有LPが残り4000.死なないためにもここで失ったLPを取り戻しておいた方が身のためだ)
というのが本音である。ヴィクターこと山崎和樹は、遊介に対しては感情を大いにぶつけまくっているが、一方で自分の状況を分析して次の一手を冷静に考える慎重な一面も持ち合わせている。
「ったく。自分からしかけといて負けてるのに、減らず口を……」
「な……べつにノーリターンじゃないだろ。ほら、こうしてお前のチームに貢献してやろうって」
「だったらちゃんと貢献しろよ」
「くそ……勝ったからって言いたい放題言いやがって……」
顔を顰めながらも、
「じゃあ、この町にいるやつらを血祭りにあげてやるよ。それでいいだろ。ったく、勝ったからっていい気になりやがって」
ヴィクターは頭を掻きながら町へと入っていく。そして入れ違いで瑠璃が遊介の元に到着した。
「お疲れ様」
「ありがとう。何とか勝てたよ。他の人は?」
「思ったより襲撃が激しくて……4人だけじゃ手が足りないよ。あの中央街、好戦的な人が多すぎて。安心して、みんな強いわ。誰も負けてない」
「へえ……」
遊介が思ったことは、
(マイケルもそんな強いんだ……)
ということだったが、口に出すほどではないと判断し、口を閉じておいた。
「ごめん。俺だけ時間がかかった」
「大丈夫。彼、たぶん相当強い方だと思うわ。それよりも……メンバーが一人増えたのだけど……」
「えーっと……」
とても勝手に入られましたなどとは言えない。リーダーの責任問題について生徒会長経験者にひどく叱られる未来を遊介は見た。
「俺が勝ったら、メンバーに入ってポイント稼げって。ほら向こうも要求したわけだし。まあ、賭けデュエルだったんだ」
「そうなの?」
「ああ。そうそう……」
とりあえず嘘をついてこの場をごまかすことにする。ヴィクターが何も言わない限り、その嘘はバレることはないと遊介は高を括る。
「……怪しい」
「そな、怪しくないよー」
ジト目というのはアニメの世界だけかと思っていた遊介は、今まさに実際に出会い、冷や汗を流すことになってしまった。
【13】
光の世界は主に2つの領域で分かれている。遊介がたった今潜り抜けた門の先に広がるのが、そのうちの1つがこの町『ユグドミレニアス』。設定では、ここは天使や神の僕として生きる人間たちが、独自の文明を作り上げている町であり、ここに入ったら最後、神を信じずにはいられなくなるという胡散臭いうわさが立つほどに聖を信じる世界となっている。
そしてこの町の1番奥に存在する大神殿。その最奥から天空へと続く階段。それを昇ると2つ目の領域が存在する。『天空の聖域』と呼ばれる天使たちが住む世界。空に謎の浮力で浮く地面がいくつも存在し、その上に居城を構えている。神と天使は、幸運なことにこの世界では人間に慈悲を与える優しい存在であり、信仰を持つ人間たちに慈悲を与える。しかし、信仰心を持たない人間や、聖域に足を踏み入れた人間には容赦なく罰を与えるという一面も持ち合わせている。
「瑠璃、神を信じてる?」
「あなたもう、この空気に犯されたの?」
「いや……だって、襲われるらしいぞ?」
「もう。来るなら返り討ちにするだけ」
あの兄あってこの妹ありという反応である。
話を本筋に戻すと、天使たちが聖域を守る理由は、当然神を守るためなのだが、それは生物的本能によるものではない。
7つのエリアにはそれぞれセブンスターズと呼ばれるボス的存在がいる。それぞれのエリアにつき1人、そのエリアで挑戦者を待ち続けるイリアステルの社員である。しかし、社員と言ってもイベント戦で出てくるような雑魚ではなく、アルターが厳選した7人。その実力は歴史上に語られる本家セブンスターズよりも強いと言われていて、実際毎朝のリンクブレインズ速報というニュース番組では、ボスに挑んだプレイヤーのニュースが飛び込んでくるが勝った人間は1人も現れていない。
このエリアボスについては、存在が最初に語られただけで、倒したらどうなるかについてアルターは一切言及していなかった。ただ、ボスを倒すために努力する勇者というのもまた心惹かれるストーリーを生み出しそうだと楽しそうに笑っただけ。
それでも、アルターが存在をほのめかした以上、ボスを倒すと何かしらの利益があることは間違いないと誰しもが思っている。それもイベント戦ではなく、常に存在していることから、この戦いの最大の目的である、ヌメロンコードにたどり着くために何かしらの影響を与えることは間違いないと、多くのプレイヤーの共通認識だった。
この光の世界の天使は、ボスを守るための子分であると思えば、存在理由としては十分な価値がある。
(厄介なことの原因になるにはもってこいのような存在だけどなぁ)
遊介は天使を警戒しながら、きょろきょろ周りを見る。
白い家。白い家。白い家。白い神殿。白い道を歩きながら目に入ってくる。これだけ白ばかりでは色気のない不気味さを感じそうなものだが、今のところ遊介はそのような感覚はない。
「綺麗……ユートも早く来ればいいな」
「ああ。みんなにも見せてあげたいね」
男女二人で観光地を歩いている光景はまさにそのような仲を意識させるが、残念ながら瑠璃にはすでに他の男がいる。遊介は別にそれが嫌なのではなく、そうでありながら、道すがらすれ違う人間がニヤニヤしながら自分達を見ていることに悶々とする気分を味わっている。
「それにしても今すれ違っているのは……?」
プレイヤーであれば警戒は少しぐらいしてもいいはずだと不審に思う。
「もしかしたら、この世界に住む一般人なのかしら?」
「ノンプレイヤーキャラかぁ」
通常のゲームとしては当たり前にいるその世界の住人。しかし戦いの世界でそのような者の存在意義があるのか。遊介はそれを問うたが、すぐに首を振った。
遊介の頭の中に思い浮かんだのは、あの男。
(「ここはデュエルの世界だ。当然原住民がいるに決まっている。この世界の人間と絆を結んでできる物語もまた、面白そうなドラマを生み出してくれそうじゃないか。それもまたエンターテイメントになるかもしれないだろう」なんて言いそうな気がする)
不必要なものを削るのではなく、可能性があるすべてを受け入れる。アルターの謎に包まれた思考回路に遊介は一歩踏み込むことができた瞬間だった。
「リーダー、ここからどうするの?」
「ああ……、とりあえずここでもポイントを稼ぎたいと思うけど……」
「そうね。でも……」
十字路の交差点の中央で足を止める瑠璃。
「でも?」
「なんか妙な感じがするの」
「妙?」
「だって、さっきから30分くらい歩いているのに、誰にも襲われない」
「それはヴィクターが血祭りに?」
「だとしても狩りつくせるほどの時間はたってない。しかも今はイベント戦の真っ最中よ。なのに30分も歩いているのに1人も戦いを挑んでこないし、だれもデュエルしてない」
「そんなもんか?」
「遊介くんは知らないかもしれないけれど、私たち、倒しても倒しても、次が来るって感じだったよ」
イベント戦の怖さが分かる一言で遊介は一瞬凍り付きそうになったが、なんとかフリーズを避ける。
「バトルシティは中央にあるから、その分、人が集まりやすいとか?」
「だとしても、1人もデュエルしてないのはあり得るかしら?」
「さあ……」
右手にカード屋を見つけて、現実世界からの癖により自然に中に入ろうとしたところを瑠璃に引っ張られて軌道修正を掛けられる。瑠璃は、後でと遊介を諫め、遊介はしょんぼりとうなだれた。
しかし、遊介もカード屋に誰もいないことを確認した。建物の中でチーム全員で待ち構えて、デュエルという罠を使っているのかと仮説を立てていた遊介はそれが否定され、瑠璃の指摘に不安を覚える。
それから5分。10分。町中を歩き、初めて訪れる光の世界の町を見回ったが、その間、自分たちが襲われることも、誰かがデュエルをしているところを見ることもなかった。
ブルームガールからの連絡を受け、街にたどり着いたとの報告を受けたリーダーは、町の中でも標高が高く見えやすい。最奥の大神殿の待ち合わせをすることにして、その旨を伝えた。
「あの!」
一人の少女が、話しかけてきたのはその時だった。
瑠璃はすぐにデュエルディスクを構えて警戒をしたが、それを見て怯えてしまったことから、瑠璃は遊介に対応するように暗にメッセージを送る。仕方なく遊介は口を開く。
茶のしなやかな髪と物腰穏やかそうな顔のおかげもあって、遊介は声を掛けるのに特別勇気を出す必要はなかった。
「どうした?」
「助けてください!」
この手の問題は面倒なことになるのが定石である。今はイベント戦の途中でそんなことをしている暇はない。
しかし、その一方で、ここで人助けを逃すと後で理不尽なペナルティを受けたり、ここで助けなかったことで本来貰える救済アイテムをもらえず、残念な結果になるという未来も存在する。
遊介はとりあえず内容だけでも聞くことにした。
「なにをすれば助けられる?」
「大神殿で、私たちの仲間が襲われているのです! あなたたちはデュエリストとお見受けします。どうかお助けください!」
「どんな奴だ?」
「不思議な竜を使っていました。ぎゃらくしー……?」
その言葉を聞いた瞬間。瑠璃の表情が一変する。
「どうして……?」
とだけ言うと、すぐに大神殿へ向かって走り出した。大神殿は先ほど待ち合わせをしようと約束した場所である。
(瑠璃の知り合いか……?)
遊介はすぐに追いかけたい衝動を抑えて、仲間にチームメンバーに向けて、集合場所にで何かが起こっているというテキストメッセージを送った。
目の前の少女に再び話しかけようとしたところで肝心なことを聞いていなかったことに気づく。
「君、名前は」
「エリー・フォン・ユグレイ」
「なんて呼べばいい?」
「エリーで構いません」
自分の妹と同じくらいで、およそ14歳程度の少女。現実世界では薫と同じくらいの少女にお願いをされては、妹の面倒を見るのがまんざらでもない遊介にとっては断り切れない事柄である。
「じゃあ、行こう。大神殿で良いんだよね?」
「はい! お願いします!」
遊介は彼女の案内を受けて、走り出す。
大神殿に向かっている最中も、戦っているデュエリストは1人も見ることはできない。
「ここのデュエリストは……」
その答えを教えてくれたのはエリー。
「今大神殿を襲撃している人間が、全員殺しました」
「な……そんな」
驚くべきは全員ということだと遊介は考える。
(全員。つまりそこにいるのは、誰が来ても倒せるほどのデッキを技術を持ったデュエリストということか)
自分が行ったところで勝てるかどうかも分からない。もちろん遊介はそう考えもしたが、瑠璃が、そして遅れて到着したチームメイトも大神殿で向かっている中で、幼気な女の子のお願いを無視する事はなんと格好悪いだろうと考えると、逃げる事はあまり考えなかった。
【14】
大神殿にいち早くたどり着いた瑠璃。
正確には大神殿の前に広がる広場である。本来であれば荘厳な歴史を感じさせる石像や柱、建物が立ち並んでいるはずだった。
しかし、今はそのすべてが破壊されて瓦礫が広がるのみになっている。
大神殿にはまだ被害が出ていないものの、避難祖したと思われる子供リーダー格が、地面に倒れ、ごみのように散らばっている光景は、そんな子どもたちには目に悪い光景だろう。
そして、その主犯は、黒い外套を羽織った男だった。
瑠璃はその男を見て、愕然とする。なぜなら自分が思い描いた人間とは違う人間がそこにいたからだ。
「あなたは……」
水色の髪をした中学生くらいの少年は振り返った。そして、瑠璃を見た瞬間。死んだような目で倒れている死体を見ていた少年の瞳に光が戻った。
「瑠璃!」
「あなた……ハルトくん……?」
「嬉しいな。ようやく知っている人を見つけられた……!」
嬉しそうに笑った少年は何の警戒もせずに瑠璃に近づく。しかし瑠璃は自分の知っている彼にはあまりにも似つかわしくない光景が広がっていたことを不審に思い、警戒を解かなかった。デュエルディスクを前に臨戦態勢に入る。
「どうしてそんな警戒するの?」
「カイトは……?」
「ああ。兄さんのこと?」
「貴方は、『天城 ハルト』くんよね……?」
「そうだよ。見て分かるじゃないか?」
瑠璃は見違えるはずがない。兄であるカイトと次元戦争でともに戦ったからこそ覚えている。カイトが使っていた衣服と同じものを着用し、デュエルディスクも同じものを使っている。
「ハルトくん。これは……?」
瑠璃は恐る恐る、死体の1つを指さした。
「この先の天空の聖域に行こうとしたんだけど。それをこの人たちは邪魔したんだ。天空の聖域には何人も入ってはいけないって言ってデュエルで僕を排除しようとした。だから僕は挑んできた最初の5人を倒した。僕は言ったんだ。これ以上は無駄だから僕にこの先に行かせてくれって。でも、是が非でも止めるっていうから、納得するまで僕はデュエルを受け続けた。ここの住民なかなか頑固なんだよね。結局全員僕に向かってきちゃうし……」
「じゃあ……」
「僕だよ。ここのみんなを倒したのは僕だ」
「そんな……」
瑠璃には衝撃は走る。そしてたった今到着したユートもまた、言葉を失っている。
ハルトの兄であるカイトは間違っても優しい性格とは言いにくい。友人に対する義は厚い男だが、自分に関係のないことや、敵には容赦がない。対して弟のハルトはそんな兄を見てどうやってあんな性格なったのかと疑いたくなるほどに優しい。誰かを傷つけることに苦しみを感じ、それを平然と行うことができる兄に対して畏怖している一面も持っていた。ちなみに道端のアリや、自分の血を吸っている蚊にすら手を出せずに、噛まれたり刺されたりで大変だという話を、ユートや瑠璃は、カイトからよく聞いていた。
だからこそ。平然と屍を積み上げる目の前のハルトを見て驚愕を隠せないのも無理はなかった。
「ユート、久しぶりだね」
「ハルト! お前、自分がしたことが分かっているのか!」
「分かっている。僕は殺した」
「どうしてそんなことを……!」
「ダメなの?」
悪気もなく訊くハルト。ユートの眉間に影ができる。しかしそれ以上は何も言えなかった。自分たちも同じことをしているからだ。結局誰かの命を威張って生きながらえようとしているのは事実だ。
結局イベント戦で自分たちが行っている、相手から戦いを挑まれるのを待つという作戦は、正当防衛なら相手のLPを奪うという罪の意識も少しは軽くなると全員が思っていたからに過ぎない。
「ダメじゃないよね。だってここはデュエルをすれば、命を奪ってしまう。瑠璃やユートだってそうしてきたでしょ? 自分を守るために。自分の願いを叶えるために」
「ああ……」
「ならいいよね」
「何のためにここを通ろうとしている」
「この先にいるボスを倒してヌメロンコードに近づくためだよ。当たり前だろう?」
「そこまでヌメロンコードが欲しいのか?」
「欲しい」
ハルトはデュエルディスクを見る。三日月形に広がるディスクにはところどころに傷がついていた。
「兄さんは僕のために戦ってくれた。そのせいで兄さんは、もう目を覚まさなくなってしまった。ヌメロンコードを手に入れれば、兄さんの負った傷を治すことができる。今度こそ兄さんと二人で過ごすことができる。瑠璃。君なら分かるだろう? 隼を失ってしまった君なら、分かるはずだ」
瑠璃は黙ってしまった。ユートも、これ以上何も言わなかった。
そこに遊介とエリーが到着する。遊介は凄惨な光景に驚いたが、それ以上に、恐れなく主犯の少年に近づいていく。しかし、目的はハルトではなく、大神殿の前に立つ子どものところに向かうことだった。階段のふもとにたどり着き、
「みんな大丈夫?」
と叫ぶ。エリーの声を聴いた子供たちは、彼女の帰還を喜んだ。
「君は?」
ハルトの問いに、エリーは答える。
「私は、天空の聖域を守るデュエリストの娘です」
「君も邪魔をするの?」
「それが、使命ですから……」
しかし、エリーは震えている。彼女は、大人たちが殺されていく場面を目の当たりにしている。それでも心が折れていない。
(凄いな……)
遊介のその感想はこの光景に対する者でもあり、それでも心が折れていないエリーに対してだった。
「じゃあ、君も僕と戦うの」
「貴方は子供も倒すのですか?」
「邪魔をするなら」
「この町には、天空の聖域を犯そうとする敵に、町の誰もが立ち向かわなければならない決まりがあります。逆らえば今度は神の罰で子供も死んでしまう!」
「なるほど。だからあんな必死に戦いに来たのか……」
ハルトは納得したように頷くが、
「でも、僕は止まるつもりはない。君たちが邪魔をするなら倒して先に進む」
「え……」
「ごめんね。僕にとっては関係のない誰かが何人死のうと生きようと、それよりも、兄さんを確実に助けることが大切なんだ」
ハルトはデュエルディスクを構える。穏やかに笑いながらも、その目は確実にエリーの命を狙っている。
「う……」
「さあ、構えてくれ。その覚悟があるのなら」
「うぐぅ……」
エリーは動かなかった。いや、動けなかった。戦えば確実に殺される。それは間違いのない事実である。
だからこそ助けを求めに行ったのだ。自分で倒せないから、助けてほしいと見知らぬ人間に頼んだ。
しかし、本当にそんな希望も奇跡だとエリーは分かっている。なぜなら、この街のデュエリストをたった一人で全員倒した事実を突きつけられるだけでたいがいのデュエリストは戦おうなどと思わない。誰だって自分の命が大切だから。
客観的なデータで語るのなら、ハルトはポイント126でトップを独走している。それだけで実力は明らかである。
エリーはそれほどの実力を持つことを理解している。だからこそ、この場で誰も助けてくれなくても構わないと思っていた。
しかし。
「え……!」
「俺が相手になる」
エリーは驚くことはなくただ嬉しくて涙を流す。自分の祈りは届いたことに、そして、自分の盾として戦おうとしてくれるデュエリストがいたことに。
「君は?」
遊介は名乗りもせず、
「助けてくれって言われたから助ける」
と堂々言い切った。
「……物好きだね。いや、きっと君は遊馬みたいに優しい人なんだね」
「どうかな。実際、ここで助けないと格好悪いだろうって思っただけだったりするんだ」
「でも。ここで盾になれるのは、やはりいい人だと僕は思う。けれど、邪魔をするなら君は倒す」
遊介は前には出たものの、ひしひしと感じる強者独特の覇気に気圧されている。
(うわあ……、山崎とはまた違った感じだな……。セイトの数倍怖い感じがする)
しかし、ここで退けばそれこそ前に出た意味はなく、そもそも格好悪い。遊介はもはや戦う以外の選択肢はない。
――ところを救ったのは、意外な人物だった。
遊介の前に、さらにかばうように立ったのは瑠璃。
「遊介。ここは私にやらせて」
瑠璃は迷いなくディスクを構える。
「天城ハルト。貴方はあの子供までも殺そうというの?」
「うん」
「それは、私たちを襲ったあいつらとやってることは同じよ」
「でも、兄さんの為なら僕はどれほどの罪も背負うよ」
「貴方が誰を殺しても、私たちは同じことをしているから文句は言わない。けど、私も助けてって言われた。だから私はこの子を助けるわ。子供まで殺すなんて絶対にだめ」
ハルトから笑顔が消えた。
「似ている……」
ユートはその後のハルトを、カイトの写し鏡だと評する。それほどの剣幕で瑠璃を見つめているということだ。
「なんでよ。瑠璃なら、ユートなら分かってくれると思ったのに」
「私はあなたにそんな怖いことしてほしくない」
「瑠璃。君だって隼兄さんを助けたいんだろう? なのにどうしてそんな他人が大切だっていうの?」
「確かに私も兄さんを蘇らせたい。けど、だからと言って、自分を墜としてしまったら、それはきっと喜ばれない」
「きれいごとだ。結局それは願いが叶った後考えられることだ。この戦いにまだ勝つ可能性すら持たない僕らはそんなことを考えていられないだろう!」
ハルトの声のボルテージが徐々に上がっていく。
「どうでもいいじゃないか! 僕たちにとって1番大事なのは家族だ。仲間だ! あの次元戦争で僕たちは誓ったはずだ!」
「覚えてる。覚えているけど! それでも、私はあなたの行為は間違っている。人の生きたいという気持ちを踏みにじるなんてことは絶対に許されないわ!」
話は平行線のままだった。
瑠璃の言葉は正しい。それは多くの人間に賛同を得られる倫理観であるだろう。しかし、ハルトの事情をよく知っているユートは、一方的にハルトのことを責められなかった。
「……瑠璃。僕を従わせたかったら、方法は分かっているよね?」
「デュエルね」
「そうだ」
「受けて立つ。私はスピードデュエルを要求する。マスターデュエルで、兄さんはカイトに勝ったことはない。けどスピードデュエルならまだ未知数だから」
「いいよ。ならば、このエリアの上空を周回しながらで行おう」
戦いが始まろうとしている。
ハルトは、Dボードに乗りいち早く上空へと駆けあがる。
それを追おうとする瑠璃。遊介は、
「なんでかばってくれたんだ?」
と質問する。その答えは、遊介には厳しい事実を示した。
「理由は3つ。1つはリーダーを庇うのはチームメイトの役目でしょ。私も仲間よ。だからリーダーを守る。2つ目はこれは私の正義を貫きたいから。さっきあなたがヴィクターに示したようにね。そして3つ目。あなたじゃおそらく勝てない」
「なんで?」
「あのデッキは恐るべき攻撃力を持っている。今の貴方ではおそらく防ぎきれないほどの猛攻が来る。あなたでは勝てない」
「瑠璃なら勝てるのか?」
「分からない……。けど多分相性は1番いいと思う。だから私を信じて!」
遊介は仲間を負けるかもしれない戦いに送り込むか決断を迫られている。当然個人的な感情としてはNOと言いたい。しかし、可能性があるのなら、チームメイトを信じるのもまたリーダーの役目である。
「……分かった。頼む!」
「ありがとう」
瑠璃はにこりと笑ってから、Dボードに乗ってハルトを追いかける。
「リーダーらしい決断だね」
ブルームガールに褒められて、遊介は悪い気分ではないが、その一方でぬぐい切れない不安に押しつぶされそうでもあった。
上空で待ち構えていたハルト。瑠璃が上昇してきたのを確認すると、自らもまた戦闘態勢に入る。
「デュエルモード! フォトンチェンジ!」
羽織っている外套は白く染まり、目の近くに刻印が刻まれる。デュエルディスクが反応し、光り輝いた。
「始めようか。お互い保有ライフは8000残っている。いくら賭けるかは決めていい」
「私はあなたを殺す気はないわ。4000でいい?」
「構わない。先攻か後攻か。それも決めていいよ」
「私は後攻をとる」
「決まったね。なら、始めよう! 」
同じ故郷の2人が争うことはないだろうとユートは思っていた。しかし、現実は上空の2人が教えてくれている。互いの正義。妥協や折り合いがなければ味方と戦うことだってあると。
「瑠璃……どうか無事で」
ユートはただ、瑠璃が無事に戻ることを祈る。本当ならば自分が代わりに戦いたい。しかし、瑠璃が目で『私がやる』と強い要求をしてきた以上、彼女の決心を止めるのもまた失礼に当たるとユートは思った。だからこそ、この祈りだけでも瑠璃の味方になってほしいと願う。
瑠璃は己の中の魂に話しかける。
「みんな。今回は私たちの問題だから、私が戦う。けど、もし気絶しちゃったら、誰か代わりに」
(任せて! 私が出る!)
(な……柚子。ずるいぞ!)
(いいじゃないのよセレナ。柚子お願い。セレナは私が止めておくから。瑠璃、しっかりね)
「ありがとう……」
己自信との交信も負え憂いがなくなったこの瞬間。
二人の熾烈な戦いの幕が上がる。
「行くぞ」
「私はあなたを止める。ハルト!」
瑠璃とハルトは向かい合い――告げた。
「スピードデュエル!」
「スピードデュエル!」
???「ハルトォォォォォォォ!」
ということでハルト君です。なんか年齢がおかしい。というツッコミはこの小説は無視します。
今後のネタバレ無しの範囲で解説をすると。今回の世界観はこんな感じになっています。
(遊介の世界)
↓
(エクシーズ世界)→『LINK VRAINS』←(ペンデュラム世界)
↑
(その他の世界)
このように、クロスオーバーの作品ですが、それぞれの作品ごとの世界があるわけではありません。
ユートとハルトが知り合いなのも、ともにエクシーズ世界の出身であるので不思議ではないのです。
10000文字越えの長い文章をお読みいただきありがとうございました。
50話で一区切りをつけたいので、長い時もあるかもしれませんが今後ともよろしくお願いいたします。
次回はいよいよ瑠璃の初デュエルです!
どんなデュエルになるのか、作者も現在考え中ですが、実力者同士の戦いなので長くなりそうです。また前後編に分けると思います。
次回は8話『進化する戦い』。お楽しみに!