fate/grand order ~caster of Ptolemy~   作:ドロイデン

2 / 2
第一節 星見の始祖

 キャスター、プトレマイオス。本名クラウディオス・プトレマイオス。古代ローマの天文、数学、占星学と数々の分野で業績を残した英霊。

 

 その功績は幅広く、有名なところでは星座の概念を最初に産み出した存在として、『トレミーの48星座』と名前が使われ、現在でもその多くが有名所として使われているほどだ。

 

 が、しかし……

 

「プトレマイオスが女性……」

 

 サーヴァントなんだから性別がずれるということはたまにだがあるらしい。故にそれは別にいいのだが、まさか自分と同年代ぐらいの少女だと誰が思ったことやら。

 

 しかも僕っ娘という、属性が組合わさりすぎて少しだけ頭が痛い。

 

「正確には僕は男性でも女性でもあったというべきかな?」

 

「?どういうことだ?」

 

「当時は学者ってのは結構命の危険と隣り合わせでね、権力者に目をつけられたら困るし、反論を掲げる学者からも命を狙われてた。故に、学者っていうのは性別や年齢を騙す変装の技術が不可欠だったのさ。処世術とも言える」

 

 なるほどと、俺は余裕の少ない頭をフル回転させながら納得する。確かに昔の学者ほど、権力者から敵視された者は数多い。

 

 かの地動説を唱えたガリレオも、権力者によって職を失い死んだ、さらに古い時代のプトレマイオスならばさらに酷いことになっていたのは考えるまでもない。

 

「さて、話をしてる間にこれまた大多数のお客さんだな」

 

 と、そんなこんなをしてるうちに再び骸骨達が群れをなして行軍してくる。

 

「……キャスター、全て倒せるか?」

 

「君は誰にものを言っているのかねマスター?」

 

 キャスターはそれだけ言うと、手元の本を開き見たことの無いサインを一つと、見覚えのあるサインを2つ浮かび上がらせる。

 

「……毒矢は全てを狙い打つ」

 

 その詠唱一説、たった一発の紫色の魔力弾が発射されたかと思うと、それは目の前にいた全ての骸骨を貫き、一瞬にして溶かしてしまった。

 

「これは……!!」

 

「なに、蠍座と射手座、そしてうみへび座(ヒュドラ)を使った、触れれば神霊ですら殺す毒の弾丸さ。あぁ、安心したまえ、マスターには事前に蛇使い座のサインを魔力で刻んであるから、一度だけなら耐えられる」

 

「ヒュドラ!?」

 

 なんて恐ろしいものを組み合わせたんだと愕然としながらも、ここまでできるキャスターに畏怖さえ覚える。

 

「なぁ、キャスター」

 

「トレミー」

 

「へ?」

 

 キャスターの突然の言葉に俺はぽかんと口を開ける。

 

「キャスターなんてクラスで呼んでくれるな。どうせすぐにキャスターなぞ増える、僕のことは戦闘以外では愛称で呼んでくれて構わないよ」

 

「……分かった。トレミー」

 

「いい弟子だ。流石は僕を召喚しただけあって、順応が早い」

 

 その言葉と自然な笑みにドキリとしながらも、俺は咳払いを一つついて目の前のサーヴァントに問う。

 

「それでトレミー、君の魔術はどこまでやれるものなんだ?」

 

「僕が関連する星座ならばなんでもできるよ。さっきみたいにヒュドラの毒や、星座になっている生物を召喚・使役することもできる」

 

 ペガサスとかなんかはその一例かな、と呟く彼女に頭がさらに痛くなる。

 

「じゃあもう一つ、お前のステータスはいったいなんだ?」

 

 彼女のステータスははっきり言って異常だ。筋力、耐久、敏捷の三項目が全て?。魔力と宝具はEXだしで異常が過ぎる。幸運がB+なのはどうかと思うが。

 

「あぁ、僕のステータスは変わり種というか、星座のサインによって変わるのさ」

 

「……具体的には?」

 

「そうだね、仮に僕自身に『ヘラクレス座』の魔力を刻めば、その三つはかの大英雄ヘラクレスのそれに僕自身の素のステータスをプラスした値になる」

 

「ちなみに素のステータスは?」

 

「筋力D-、耐久E、敏捷Cだ」

 

 なるほどというべき答えに納得すると同時に、魔力と宝具の謎が気になる。

 

「ちなみに魔力が判定なのは、スキルの一端というやつだ」

 

「スキル?」

 

「EXスキル『星の開拓者』……正確に言えば僕の場合は文字通り『星座という概念を産み出した』ことから、僕は今居る場所が夜である時に限り、星座からの魔力を直接自身の魔力として、ほんの少し使うことができるのさ」

 

 聞くところによれば星の開拓者のスキルはそれぞれでスキルの内容が若干異なるらしく、さらに言えば文字通り星を産み出した事から、他の同スキル持ちに比べて彼女のそれは若干だが優秀らしい。

 

「けど夜だけなら元に戻るんじゃ?」

 

「そこは僕の宝具であるこの本が、余剰な魔力を星のサインとして変換・保存することで溜め込んでるのさ。使って良いものを使わずに返すなんて、学者としてはこれほどもったいない事はないからね。研究資金とかは特に」

 

 さて、と彼女は再び本を閉じると目を1度閉じる。

 

「うん、どうやらマスターと同じ人間が二人、そしてサーヴァントが一人生き延びてるな……これは合流するのが吉だな」

 

「場所は?」

 

「ここからそう遠くない河川敷だな。しかしこれは不味い」

 

 不味い?

 

「ふむ、どうやらそこはランサーの餌場のようだ、数秒で接敵するだろうな」

 

「な!!急ぐぞトレミー!!」

 

「案ずるなマスター。マスターにはここから瞬時に移動できる術があるだろうに」

 

 瞬時に移動できる……その事に首を傾げると、

 

「あ……うお座のカード」

 

 そう、あの時彼女に渡した瞬間移動用のカードを、俺は彼女に渡したままだったことに今更ながら気付いた。

 

「けど、アレを使うにはあちらからも魔力が必要で」

 

「安心せい、丁度今日の星座にはうお座がある。ならば僕の魔力をマスターとのパスに繋げば……」

 

 そう言って彼女は俺の背中に触れると、とてつもない魔力が体の中を駆け抜ける。

 

「彼方も戦闘中だし、これだけあれば此方からの魔力だけで移動できる」

 

「助かる。……行くぞ、キャスター」

 

「了解した」

 

 そして俺は彼女に渡したカードの対となるカードを取りだし、

 

「双魚よ、番の元へと移動せよ」

 

 その詠唱と共に風景が一瞬にして変化する。目の前には盾を構える……ってアレは。

 

「なんでマシュが!?」

 

「うわ!!」

 

「え!?ルセ!!アンタなんでここに!?」

 

 俺の驚きに気付いた二人の女性……藤丸立香とオルガマリー・アムニスフィアが振り返りながら俺に声をかける。

 

「立香の持ってる俺のカードを伝って来ました。それよりランサーは?」

 

「デミサーヴァントになったマシュが懸命に戦ってくれてるわ。それより貴方も生きてるってことはサーヴァントが」

 

「ハイハイ、言われずとも居ますよカルデアの所長さん」

 

 と、妙に口調を変えながら空からキャスターがやって来ると、目の前で鎌のような槍を振っているランサーとその回りを訝しげに観察する。

 

「石化した人間像に、鎌のような槍……なるほど、ランサーはメドゥーサと見るべきかな」

 

「メドゥーサ……ギリシャ神話に出てくるゴルゴーンの三姉妹の1体か」

 

「その通り、そしてペルセウス座の光星の一つのアルゴルのモチーフでもある」

 

 となると、あの槍は恐らく不死殺しと呼ばれる『ハルペー』だろう。結構厄介な相手だ。

 

「キャスター、援護できるか」

 

「安心したまえ。まだ夜中だからね。魔力の量はそれなりに余裕だ」

 

 そう言ってキャスターは本を開き、また見たことの無いサインを2つと見覚えのあるサインを……って、

 

「キャスター?いったい何を」

 

「安心しろマスター……縛れ、純血の破壊者よ」

 

 2節詠唱で現れたのは帯状の魔力の鎖、それはランサーの周りを縛ると同時に、ランサーはまるで力が抜けたかのように崩れ落ちる。

 

「……弱点であるペルセウス座、縛るアンドロメダ座、そして強固にするための蟹座を組み合わせた対ランサー用の封印魔術だ。暫くはまともに立てないし、動けないよ」

 

「なら今のうちに倒すべきだよな……」

 

 俺の質問にキャスターはコクりと頷く。

 

「――ならその役目、俺がやらせてもらおうか」

 

「っ!!誰だ!!」

 

 ホルダーからカードを取りだし構えていると、それは廃ビルの上から降りてきた。

 

 青いフード付きのローブに、丈夫そうな樹の杖、青い髪に紅いイヤリングをした男……サーヴァントが諸手を上げて近づいてくる。

 

「近くから見せてもらった。ランサーをこうも簡単に倒すたぁかなりの強者だ、もし俺がキャスターじゃなくて本職なら少しは楽しめたんだがな」

 

「……敵対するわけじゃ無さそうだな」

 

「寧ろお前さん達の味方だよ。俺としてもこの状況は何とかしなきゃならんからな」

 

「証拠は?」

 

「あのランサーに止めを刺す役目を任せてくれれば、すぐに分かるさ」

 

 俺はジッと男の目を睨むが、サーヴァントはそれを軽く受け流す。

 

「……良いだろ、その代わりあとで真名を教えろ」

 

「ま、教えるもなにもすぐわかるだろうけどな……アンサス!!」

 

 その一言の直後、まるで炎の槍が現れたかのような火焔がランサーの足下から噴出し、数分と経たずに焼き付くし、粒子と変えた。

 

「さて、それじゃあ名乗らせて貰おう。俺はキャスター、真名はクー・フーリンだ。1度くらいは名前を聞いたことあるだろ?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。