電脳戦機IS 〈CYBER TROOPERS -Infinite Stratos-〉   作:魚狗

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Ver. 10.0 ミステリアス・レイディ

着工から早10か月、ついに居住・IS整備・各種実験設備を備えた史上初のIS対応型宇宙ステーション『フィリアル』が落成した。

“フィリアル”とはロシア語で“枝”のこと。地球から飛び立った(IS)たちが一旦羽を休めて力を蓄え、本格的な渡りに備える止まり木。翔にこの名前を教えたら「ダァーイレイヴォォォン!」とか言っていたがどういう意味だ?

それから僕らの『IS宇宙開発機構』には先日の件で借りが出来たドイツ、ようやく重い腰を上げたアメリカが加わり、このフィリアルから月を目指した人類とISたちの次なる挑戦が始まった。

 

 

~~~~~~

 

「寒~い!!」

「マイナス5℃か…てかお前、寒さ感じるんだな…Vアーマーでも張れば?」

「めんどくさい~」

 

俺、大沢翔は通いなれたロシア・プレセツク宇宙基地にフェイと共に降り立った。ここに来るのにスエズ・黒海経由ならエジプトとトルコの領空しか通らないので、これらの国に許可をもらって普段からサイファーで行き来をしている。今日は人前で定位コンバート(ワープ)するわけにもいかないフェイを乗せて2時間半ほど掛けたが、本気なら一時間少しだ。

 

さて、今回ここに来たのは宇宙開発の関係ではなく…そう、IS学園への入学試験のためだ。

俺は新アラブ連からの推薦とバイパー開発の実績のおかげで筆記は免除で実技だけ。一方のフェイは、推薦はもらっているが残念ながら両方だ。

 

「ぶー、なんであんただけテストないのよ…」

「IS学園の入試じゃ筆記免除はかなり異例なんだってよ。うちに登録されて数か月のお前じゃいくらなんでも無理だって」

「納得いかない!」

 

フェイは不満に頬を膨らませるが、こればかりは仕方ない。さすがにオリジナルVRであるフェイの頭脳に問題はないのだが。

 

「はぁ…じゃ、行ってくるわ」

「おう、また後でな」

 

筆記試験の会場に向かうフェイを見送って、俺も実技試験の会場である基地に併設されたアリーナに歩き出した。

 

 

 

「はあ~い、お久しぶり翔君」

「…………すいません試験官の方はどちらでしょうか?」

「もうっ、つれないわね!」

 

サイファーを装着してアリーナに出たら楯無さんがいた。何を言っているのか分からねえと思うが(ry。

 

「……それでまさか楯無さん、貴女が試験官っていうんじゃ…」

「ピンポーン。さすが翔君、理解が早い子は好きよ」

 

…IS学園…お前それでいいのか…?

 

「大丈夫よ、ちゃんと依頼されて来てるんだから。それに合否は私だけで決めるわけじゃないしね」

「まあ、それならいいんですが…」

「それに私、来年度からIS学園の生徒会長をすることになったの」

「…なるほど…おめでとうございます」

 

初めて会ったっときに感じた彼女の只ならぬ雰囲気。帰ってすぐに調べておいてよかった。

更識楯無。日本に脈々と続く対暗部用暗部の家系『更識』、その17代目当主。日本人でありながら自由国籍権を持ち、厳しい競争を勝ち抜いて今やロシアの代表になった彼女。

そして、今言ったIS学園の生徒会長というのが“学園最強”と同義だということも。

 

「貴方こそ、新アラブ連の代表就任おめでとう」

 

一方の俺もいつの間にか代表になっていた。秀郷さんはいい歳だし、アレクさんはそんなガラじゃないしってのはあるけど…まあなったからには精一杯やるだけ。

 

「ありがとうございます。…それから改めて、日本を動かしてくれた件についてはお礼を言わせていただきますよ」

 

日本のやや不自然な宇宙開発への参加は彼女によるところが大きいのは明白だ。日本とどんな取引があったかはわからないが、一先ずは感謝すべきかな。

 

「何のことかしらね。私は面白そうな話だったし、折角だから親しい人たちとも一緒に仕事をしたいと思っただけよ」

「…そうですか」

 

ふふふと口元を隠す楯無さんの言葉には、何かまだ含みがありそうだが…。

 

「そろそろ時間だし、始めましょうか大沢翔君」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

改めて翔は楯無の機体に目をやる。

 

(機体名『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』?楯無さんの新型専用機か…)

 

モニターに表示される情報がそれ以外ないは治外法権地帯であるIS学園で作製され、アラスカ協定の情報開示義務を免れているためだ。

しかし、ベースのグストーイ・トゥマンは知っている。そして、そのコンセプトはサッチェル・マウスからもたらされたVRISの力場拡張技術を独自に発展させた“ナノマシンによる媒質の遠隔制御”。先に完成していた同型のアナスタシア専用機『虹の光輪(プリズマ・アウレオレ)』は、電磁場ナノマシンによって周囲の光を収束・位相を揃えることでレーザー化する特殊兵装『バロールの魔眼』を持つ。

その姉妹機であるミステリアス・レイディも類似した能力を持っているはずだ。

 

(にしても、なんか似てるなぁ…)

 

ゆったりと湾曲したスカート状の装甲、大型のランス…。その出で立ちはどこか今頃筆記試験を受けている少女の“姉”、そのバリエーションの一つを思い起こさせる。

 

【それでは両者…】

 

(さて、お前(ミステリアス・レイディ)が操るものは何だ…!)

 

【試合を開始してください】

 

 

 

開幕、一旦距離を取ったのはサイファー。まずは中遠距離からの射撃戦で相手の手の内を炙り出すつもりだ。機体を振って相手の死角に回り込みながら、バルカンの牽制、さらに5本のダガーに2発のトレースビームを基本セットとした弾幕をミステリアス・レイディに対して繰り返す。

一方のミステリアス・レイディはランス『蒼流旋(そうりゅうせん)』に内蔵された四連装ガトリングガンで応える。

 

「流石VRIS最速の機動性ね……それに火力も」

 

ガトリングの火線はサイファーをしつこく追うが、その速度とVターンについていけずミステリアス・レイディは特性の違うビームが合わさった弾幕に押されていく。しかし、この程度で被弾する楯無でもない。

互いに様子見を含んだ丁寧な射撃戦。翔はその膠着の水面に波紋が生じるのを静かに待つ。そして、

 

「そこ…」

 

ダガーに追われたミステリアス・レイディの直線的な回避というさざ波。翔が自然な反応で軌道の先にバスターを置く。どんぴしゃのタイミング…だがそれは…、

 

「残念」

 

3個のアクア・クリスタル(ビット)の間にできた流体の透明なベールによって防がれた。

 

「……っ、水か…!?」

「ご名答。このミステリアス・レイディが持つのは『アクア・ナノマシン』。水にエネルギーを伝達して自在に操るナノマシンよ」

 

(面倒だな……どうする?)

 

翔は水の防壁の厄介さにすぐ気が付く。実弾には摩擦、ビームなどのエネルギー粒子には気化熱、レーザーなど光には屈折と散乱…使い方次第だがどんな攻撃も防げる。しかも、水のバリアを形成する3個のビットは1組ではなく2組、さらにスカートアーマーからも水のバリアが展開されていて、これを破らなければ本体へ攻撃は通らない。

 

(なら、干上がらせる…!)

 

攻撃で水の供給・冷却性能を超えて加熱し気化、ナノマシンごと破壊する。単純だがサイファーの火力なら十分可能性がある。

搭載する多彩なビーム兵器を途切れることなくミステリアス・レイディに叩き込もうとするが、

 

「そうはいかないわよ♪」

「ちっ…!」

 

水のシールドにものを言わせたミステリアス・レイディに、逆にガトリングを連射される。射撃のみ集中できる楯無の攻撃は正確性と密度を増し、翔の攻撃頻度を奪っていく。

 

(…遠距離装備はガトだけ?不自然だ……)

 

ダガーを壁にした引き撃ちに転じ、再び拮抗状態に戻した翔がミステリアス・レイディの武装を訝しむ。集弾性に難のあるガトリングの有効距離というのは決して長くない。その割に遠距離の相手に対処する武装を取り出しては来ない。それはつまり…、

 

「鬼ごっこは飽きたわね……これはどうかしら?」

 

嫌な汗が頬を伝い、楯無がパチンと指を鳴らすと同時に、

 

「ぐっ…!?」

 

サイファーの直近で突然の白い爆発。弾丸やその発射モーションは何も見えず、火薬の臭いもない…つまり、

 

(これは……水蒸気爆発か…!)

 

清き情熱(クリア・パッション)』。一瞬で1万倍に体積膨張した水蒸気の衝撃波。本来なら閉所で生きる攻撃でダメージこそ高くないが、安定性に劣るサイファーには十分な衝撃。そこを狙って突進した楯無が超高周波振動の水を螺旋状に纏ったランスを突き出す。

 

だが、翔も冷静だ。PICと共に体を巧みに捻って姿勢を回復、すぐさまイグニッションブースト&Vターン。背後に抜けて振り向きの連射ダガー、さらにホーミングビームを撃ち下ろす。

攻撃はミステリアス・レイディの水のベールに受け止められたが、慣性とホーミングビームの反動を合わせてサイファーは大きく離脱した。

 

再び距離を空けた二人。戦いは射撃戦に戻るかと思われたがそうはならなかった。今度は翔が戦法をがらりと変え、サイファーの機動力にものを言わせた近距離戦を仕掛けてきたのだ。スピードに乗り慣性を無視した旋回をするサイファーが楯無の視線とガトリングの射線を振り回し、弾丸の隙間からダガーやトレースビーム、すれ違いにホーミングビームを放つ。突っ込む分リスクは高いが、手数でクリア・パッションを封じに行く。

 

「やるわね……でも!」

 

これくらいで集中を乱されたりはしない。襲いかかるサイファーをいなし、楯無はクリア・パッションのタイミングを計る。この近距離で動きを止められれば、一撃で勝負は決まる…そう考え、側面を抜けようとしたサイファーの目の前に予め設置してあった湿度の高い空気の塊を霧へと凝縮し、炸裂させた。

 

(…うそ…なんで……)

 

だが、サイファーはそこで爆発が起こることを知っていたかのようにそれを回避した。

 

「赤外線って、便利ですよね!」

「…っ、赤外分光(IRスペクトル)…!」

 

物質から出る赤外線はよく見られる熱以外にも、分子構造の情報を含んでいる。翔はISのハイパーセンサーを水から出る近赤外にフォーカスして、空間の水の分布を監視していたのだ。

そのまま、翔はマルチランチャーからロングビームソードを形成してミステリアス・レイディに斬りかかる。

 

「くっ…!」

 

その発想力に舌を巻きながらも、近接戦は楯無も望むところ。再び蒼流旋に水を纏わせ、サイファーの居合のような高速の斬撃を受け止めた。

それでサイファーの攻撃は終わらない。防がれると同時にQS近接にシフト、背後に回り込んで斬りつける。楯無はこれをビットによるシールドで防ぎ、そこにランスの突きを見舞うが、翔は軌道を見ながらバックステップで回避した。

けれど…、

 

(これで終わりね……)

 

よく粘ったと楯無は思った。翔の実力はアナスタシアなどから聞いた噂以上のものだった。健闘を讃えながら、楯無はサイファーに向けてイグニッションブーストで踏み込みランスを突き出した。

人の動きには“呼吸”がある。古武術にも長ける楯無は人が乗るISでもそれは同じであることをよく理解していた。そして翔の動きを読み、次の突きは躱せないタイミングだと確信していた…。

 

(え……?)

 

だが、突然目の前からサイファーが消え、激しい衝撃と共に体が宙を舞い絶対防御が発動、シールドエネルギーが0になったことで楯無は思い知らされた。

 

ISを従えるだけでなく、ISに身を委ねることのできる“ISと深く繋がった人間”の呼吸はその限りではないのだと…。

 

 

~~~~~~

 

「もう!最後の“あれ”はいくらなんでも卑怯よ…」

「まあ…自分でも異常な性能だとは思いますがね…」

 

試合後、映像を見た楯無さんがサイファーの最後の攻撃に物言いをつける。どこからか取り出した【審議中】と書かれた扇子を広げて。

 

「う~ん…スロー映像でもこのスピード…恐るべしVRIS……」

 

VRISというか…“これ”は今のところ俺とサイファーにしかできないんだけどね。それでも秀郷さんには下手打つと対処されるし…。

 

「でも、これで翔君がIS学園最強ね」

「……別に嬉しくありませんが」

「というわけで、私に代わって翔君が生徒会長ね」

「ええっ!いくらなんでもそういう訳には…」

 

普通に宇宙のことで忙しいのに…!

 

「仕方ないわね…私に勝ったこと黙っててあげるから、たまには生徒会に手伝い(あそび)に来てね♪」

「はぁ…分かりましたよ…」

「よろしい…ふふふ…」

 

あ、扇子の文字が “熱烈歓迎”なってる…。これは面倒なことになった…。

 

「終わりましたね。フェイが戻ってきたら食事でも行きますか?」

「そうしましょ。あの子のことも紹介してほしかったしね」

 

ちょうど窓の外のアリーナでは、フェイが筆記試験でたまったフラストレーションを乗せたレイピアで教官を殴り飛ばしたところだった。




VS会長。戦っておきたかったのでやった。反省はしていない。
戦術構築するとミスレは遠距離攻撃終わってたので水蒸気爆発機雷を追加してみました。試合だと流石に分身は本体ばれるでしょうし。

アナさん専用機はミストルティンの槍で思い出したARMSのマーチ・ヘアから。出番あるかな?

サイファーの決め技は分かると思いますが、子供の一人のあれです。
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