電脳戦機IS 〈CYBER TROOPERS -Infinite Stratos-〉   作:魚狗

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Ver. 12.0 sweet tragedy of dreams

二日目の授業が終わり、剣道場へと向かった一夏と篠ノ之と別れてやってきたのはIS学園の校舎の一角。とある部屋の前。

 

『生徒会室』

 

「はぁ…」

 

入試の時に楯無さんに来いとは言われていたが、まさか二日目にして訪ねる羽目になるとは。気は乗らないが楯無さんと良い関係を保つのは悪いことじゃないと思い、ドアをノックしようとしたその時、

 

「あー、さわぴょんだ~」

「ん?布仏さん?」

 

後から思いもよらない人物に声を掛けられた。そう、ちょうど自分の後ろの席に座る布仏本音だ。彼女の特徴はおっとりとした性格や制服のだぼだぼな袖丈もさることながら、前述のような変わったあだ名を周囲に付けることだ。俺の場合は、大“沢”に飛んでるみたな“ぴょん”らしい。それは“跳ぶ”で“飛翔” じゃないという突っ込みはやめておいた。

 

「うちに何か用かな~?」

「うち?え、布仏さんって生徒会なの?」

「そうだよ~」

 

言っちゃ悪いが布仏さんは全然そんな感じの子に見えない。というか、既に生徒会に所属しているということは何らかのコネがあった?

 

「とりあえず中入ろー」

「あ、うん」

 

そう言われ、ガチャリと開かれた重厚な扉の向こうにいたのは、

 

「遅いわよ本音……あら?」

「いらっしゃい。待ってたわ、翔君」

 

眼鏡に三つ編みの三年生の先輩と、生徒会長である楯無さんだった。

 

「…失礼します。お久しぶりです、楯無さん」

「ええ、久しぶりね。でもこんなに早く来てもらえるなんて思ってなかったわ。お姉さん感激よ」

 

本当は来たくありませんでしたが、というのは飲み込んだ。用事があるのに、いきなり機嫌を損ねるわけにはいかない。

 

「お茶を出すわ、そこに掛けててちょうだい」

 

楯無さんに促され席に着くと、お茶を持ってきてくれた眼鏡の先輩と目が合った。

 

「初めまして、私は布仏虚。そこの本音の姉よ」

「こちらこそ…」

 

なるほど、容姿は確かに似ている。雰囲気はお堅い感じで全然違うけれど。

 

「お嬢様から入学試験のお話は聞いていますよ。相当な実力をお持ちのようですね」

 

それは黙っててくれるんじゃなかったんですか、楯無さん?まあ、生徒会内だけなら害はないからいいか…。

 

「…って、お嬢様?」

「うちはむかーしから、代々更識家のお手伝いなんだよ~」

「そうだったのか…それで生徒会に?」

「そうよ。生徒会長は学園最強でなければいけないけど、他のメンバーは定員になるまで好きに入れていいの。だから、幼馴染の二人をね」

 

布仏先輩に代わって布仏さんと楯無さんが疑問に答える。

 

「それで、私に用があったんでしょ?男の子は大変ね、入学早々目をつけられちゃうなんて」

 

にやにやと悪戯っぽい視線を向けてくる楯無さん。なんで知ってるんだ…「てひひ~」……そりゃ布仏さんが報告するか。

 

「そういうことです。訓練用打鉄一機、一回でいいので何とか確保できないでしょうか」

 

彼女の人脈なら予約の直前キャンセルを見つけて、そこに俺たちのをねじ込むくらいできるはずだ。機種は一夏の専用機が倉持技研の開発だから、同じ製造元の打鉄がいいだろう。

 

「友達思いなのね」

「中学時代からのダチなので、これくらいは当然です」

 

もちろんオルコットを付け上がらせたくないというのもある。が、それは俺たちにとってだけでなく、彼女の今後の成長のためにも必要なことだ。

 

「さすがにタダとは言わないわよね?」

「…できる範囲でお願いします」

 

こうなるよな…。こればっかりは楯無さんの気分次第、しかも今回はこちらが頼む側なのでどれだけ吹っかけられることか…。

 

「そうね……。来週部活動の予算審議があるから、その司会をしてちょうだい。あなた、部活入る気ないでしょ?それだと部活の皆から苦情が出るから、その分の埋め合わせね。こうゆう会議をまとめるの得意でしょ“開発主任”さん?」

 

つまり今後、その手の会議の場で俺を使うと…。というか男に飢えすぎだろ、IS学園…それとも女子校ってのはこんなものなのか?

なんにせよ、それぐらいなら高いとは思わない。

 

「…分かりました。それでお願いします…」

「よしよし。それから、この後予定ないわよね?もう少しお喋りしましょう」

「はあ?」

「それはいいですね。私も大沢君に宇宙のことやバイパー540SHの開発について聞きたかったですし」

「さわぴょんすごいよねー、主任さんだもんね~」

「俺はディレクター、アドバイザーにすぎませんよ…」

 

俺が通常ISも使えて、テスターもしていたことはもちろん言えないが。

バイパーの開発で俺がやったのは、結局のところパイロットの目線で最終的に機体をどんな形に仕上げるか示し、開発チームをまとめる役だ。そのためには皆のやっていることをしっかりと把握しなければいけないから、各分野の勉強は必死にやった。

 

「謙遜することはないわよ。それは実績が証明しているんだから」

 

楯無さんの言葉はバイパーを創り上げた皆への賞賛なので素直に嬉しい。戦術偵察型としてじわじわとシェアを伸ばしつつあるバイパーは、IS学園にも高速機動訓練機として一機が納入されていた。

 

 

「…なるほど、基本コンセプトはサイファーと同じなんですね。ただISとVRISでは基本性能が全く違いませんか?」

「ええ、特に機動面は苦労しましたよ…。慣性制御で誤魔化せませんからね」

 

布仏先輩は整備科に所属しているため、興味深げに色々な質問をしてくる。さすがは学年主席、知識の豊富さ、深さは群を抜いている。

 

「巡航モードでのスラスター配置も全然違うよねー。こっちも一から組んだんだね~」

 

逆に驚いたのは、その会話に布仏さんが普通に混ざっていることだった。人は見かけによらないとはまさにこのことだ。二人とも更識家の付き人じゃなかったらサッチェル・マウス(うち)にスカウトしたい人材だ。

 

「むー…。ちょっと翔君は私に会いに来てくれたのに、二人ばっかりずるいわ!」

「うお!?」

 

一人蚊帳の外になっていた楯無さんが、俺の頬に手を添え、首を自分の方に強引に捻る。グキリという音が聞こえたが気にしないでおく。

 

「た、楯無さん…ちょ、顔が近いです!」

「私を無視した翔君が悪いのよ!」

 

生徒会室での騒がしい時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

――――――

 

 

そして月曜日、クラス代表決定戦の日が来た。

試合順は一夏の連戦を避けるため、オルコットVS織斑、オルコットVS大沢、織斑VS大沢で、二日に日程を分けることになった。そうなると初戦は出なかった方が動きを見れて二試合目で有利だが、やる気満々のオルコットが進んで引き受けた。

そう言えばみんな頭文字が“お”だな、 オルコットはWだけど。>どうでもいい。

 

準備万端、試合開始と行きたいところだったのだが…。

 

遅れはしたが無事到着した一夏の専用機『白式』とそれを身に付けた一夏が目の前にいる。しかしどうしたものか、フォーマットとフィッティングの処理が中々完了しない。

しかも、高機動近接型とはいえ、武装が特に追加機能のないブレード一本しかないとは……ん、ブレオン?まさか…。

 

「ど、どうしますか織斑先生?大沢君に先に出てもらった方が…」

「いや、行け織斑。残りのフォーマットとフィッティングは実戦でやれ」

『えっ!?』

 

織斑先生の言葉にその場にいた篠ノ之妹と山田先生が戸惑う。相手は十分に訓練を積んでいるセシリア・オルコットと第三世代ISの専用機『ブルー・ティアーズ』。素人の扱う初期設定の機体ではあまりにも分が悪い。

 

「織斑先生、ですが…!」

「織斑が先に戦わなければ意味がない。…違うか大沢?」

「……」

 

織斑先生に篠ノ之妹が食い下がるが、俺は言い返せない。

俺が先に戦えば、確かに俺をオルコットに認めさせることはできる。しかしその後、場合によっては本気になったオルコットに一夏が一方的にやられて、結局一夏は見下されっぱなしってこともありうる。

慢心しているオルコットの目を覚まさせる役は、3人の中で圧倒的に格下の一夏でなければならない。

 

「一夏、行けるな?」

 

平静を装っているようで無意識に名前で一夏を呼んだ千冬さん。

 

「ああ大丈夫、千冬姉」

「そうか…」

 

普段は超がつくくらい鈍感なくせに、今日はそれに気が付いた一夏。まったく以心伝心、仲のいい姉弟だ。

 

「翔」

「おう、うまくやれよ」

「ああ」

 

一夏と声を交わす。結局打鉄でできた訓練は簡単な飛行と近接戦のモーションの確認くらい。あとは相手の機体に対する対策を簡単に教えただけだ。後は本人のセンスに賭けるしかない。

 

「箒」

「な、なんだ?」

 

一夏の視線は篠ノ之妹に移る。彼女との竹刀での打ち合いの成果は確実にあった。打鉄での訓練で俺が不意に見せた踏み込みのフリに、一夏でいい反応で機体をステップさせた。相手が見えている証拠だ。

 

「行ってくる」

「あ…ああ。勝ってこい」

 

その言葉に頷いた一夏がアリーナへと飛び出していった。

 

 

 

「うおっ!?」

 

開幕、口上に夢中になりすぎた一夏は、不意打ち気味なレーザーライフル『スターライトmkⅢ』の攻撃を受け、シールドエネルギーが削られる。

 

(そうだ、まずは避けるんだ…!)

 

一夏が翔に言われたのは『とにかく序盤は回避』、相手の攻撃をよく見て攻め込める隙を見つけ出すことが最優先。武装がブレードしかない、つまり先に打って出て優位を取れる手がないとなればそれはなおさらだった。

 

「中距離射撃型の私に、近接装備のみで挑もうなんて……笑止ですわ!」

 

一夏はがむしゃらに動き回り、レーザーの射線から必死に体を逃がす。

対するセシリアの攻撃は中々に正確だ。一夏の動きがエネルギー供給不足で止まる瞬間や移動先を狙ってレーザーを放っていき、シールドエネルギーを削りにいく。

 

「ちょこまかと…!」

 

だが、それで白式を落とし切れないのは、一夏の荒削りで出鱈目な動きとセシリアの教科書通りな射撃が噛み合いきらないため。

 

そうして、先にしびれを切らしたのはセシリアの方だった。

 

「このブルー・ティアーズを前にして、所見でこうまで耐えたのは貴女が初めて手ですわ」

 

ブルー・ティアーズの背面にマウントされた4枚のフィン状のパーツが切り離され、宙に浮く。マインド・インターフェース兵器『ブルー・ティアーズ』。機体名ともなったそれは所謂『ビット』、操縦者のイメージのよって操られ、遠隔オールレンジ攻撃を行う独立ユニットだ。

今しがた切り離された4機はいずれもレーザー属性のビット。

 

(ついにきたか……ここからが本番だ!)

 

ビットに対する対策を翔は明言しなかった。正直言って分からないというのが本音だ。ビットの機動性、連射力、ビット間あるいは本体との連携性…そういった情報があってもこの手の特殊武装の真価は容易には分からない。『囲まれるな』としか言わなかった。

だから、ここからは本当に一夏自身の戦い。セシリアの攻撃に耐え、そして手に握られた剣を己の力で当てに行かなければならない。

 

「では、閉幕(フィナーレ)と参りましょう」

 

(やってやるさ!)

 

ブルー・ティアーズから飛び立ったビットが白式を上下に取り囲もうとする。ビットから放たれたレーザーを掻い潜り、一夏は包囲から抜け出そうとするが、セシリアもそれを容易には許さない。

 

被弾。また被弾。やはり避けきれず、白式にビットレーザーのダメージが徐々に蓄積していく。それでも安易な連続被弾で試合が終了しないのは、一夏がまだ決して諦めておらず、その目にしっかりと希望を見据えていたから。

 

(やっぱりだ…!)

 

回避に追われながらも一夏はビットとセシリアから目を離さなかった。箒との打ち合いで刃だけでなく、相手そのものにも意識を配る勘を取り戻していた。だから、そのことに気付けた。

 

一夏は自分の予想を信じ、そのまま直感的に、一直線にセシリアに突進した。

 

「うおおおおおっ!!」

「なんですって!?」

 

そして、読み通り進路に現れたビットを狙い澄まし、レーザーを食らいながらもブレードで斬り落とした。

 

「お前はビットを使うと他の行動ができない!」

「くっ!」

「だから、自分の身もビットで守るしかないんだ!」

 

ビットと本体の制御を両立できないセシリアの弱点は、真正面からの高速突破だ。

相手の直進を迎撃するのであれば、自分と相手の間にビットを引き戻して攻撃するのが最も確実。だがそれは必然的に本体とビットの両方を相手の視界の正面に入れることになり、読まれていればこうしてビットを破壊されることになる。

相手を後ろから撃つという選択肢がないこともないが、もし躱されればそれは一直線上の自分を撃つことになり、リスクが高すぎる。

一夏はそこまで考えていたわけではないが、結果的にその弱点を突くことに成功した。

 

離脱したセシリアを追い、一夏がさらにもう一機迎撃にきたビットを破壊する。

そのまま踏み込んだ間合いは、もう取り回しの悪い大型レーザーライフルを撃てる距離ではない。

 

(獲った!)

 

ブレードで斬りつけようとしたその時、

 

「―かかりましたわね」

 

腰部にあった砲門が白式を捉える。それは一夏の頭の中から今まで抜け落ちていた2機のミサイル属性ビット。

 

「「馬鹿が…」」

 

ピットの翔と織斑先生が溜息をつくと同時に白式を爆風が包んだ。

 

 

 

「一夏…!」

 

ピットからその様子を見つめていた篠ノ之が思わず声を上げた。

 

「ようやくか…」

 

一方でサイファーのハイパーセンサーを起動していた俺だけが、爆炎の中で起こったことを捉えていた。

 

「機体に救われたな、馬鹿者め」

 

続いて状況を理解した千冬さんも安堵の表情を浮かべた。

 

黒煙の中から現れた、白い機体。中世の鎧のような装甲に、羽のように広がった背中のスラスター。

一次移行(ファースト・シフト)を完了した『白式』がようやくその真の姿を現した。

 

そして、どこかで見た覚えのある形に姿を変えたブレード。

 

『俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』

 

白式の武装がブレード一本と知ってまさかとは思っていたが、一夏の言葉にその正体を確信する。後で聞いたが、その名は『雪片弐型(ゆきひらにがた)』。

千冬さんの専用機『暮桜』の持つ刀の名を継ぐ一振り。

となるとあの白式は、やはり篠ノ之束の手が加わっていると考えるのが妥当だろう。

 

『おおおっ!!』

 

雪片弐型に光の刃を創り出しブルー・ティアーズに斬りかかる一夏。再び放たれたミサイルは白い装甲に届くことなく、雪片弐型に斬り落とされ爆発する。

反応速度が一気に向上した白式。それはただ単にフォーマットとフィッティングが完了したからではない。

パイロットが機体を知り、機体がパイロットを知っている。伝わってくるその一体感。製作者に思うことはあるが、今は悔しいが認めよう。

 

「いい機体だ…」

 

そして、一夏。やっぱりお前は俺たちと同じ、“ISと繋がること”のできる人間、ということか…。

 

 

【試合終了。勝者―セシリア・オルコット】

 

 

だから、シールド無効化攻撃『零落白夜(れいらくびゃくや)』で自分のシールドエネルギーを使い果たして、あと一歩の所で自滅した、って落ちは大目に見てやるよ。

オルコットも、これで十分目が覚めただろうしな。

 

 

――――――

 

「いい顔になったじゃねえか、オルコット」

 

翌日、アリーナで対峙したオルコットの目は、思った通り見違えるものになっていた。俺を見つめる目に昨日までの見下したような色はなく、対等な対戦相手を見る真剣な眼差し。

 

「ええ……この前のことはお詫びさせていただきますわ」

「それは俺より一夏に言っといてくれよ。俺はまだお前と戦ってない」

「そうですわね。ですから全力で行かせてもらいますわ」

「そうか…なら、こっちも敬意を払わないとな」

 

そう扱ってもらえるなら本気で行く。この勝負で手を抜くことは、彼女への最大の侮辱になる。

 

「そんじゃ…セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ」

「大沢翔、VRISサイファー…」

 

「いくぞ」 「いきますわ」

 

 

 

試合開始と同時に既に構えていたレーザーライフルをセシリアがサイファーに向けて連射する。

相手は機動戦に適したビーム兵器を多数搭載した超高機動型。一旦間合いに入られれば機動力にかき回され、火力で押し切られてしまう。

 

翔もまずはセシリアの作戦に乗る。まずは相手を知るのが定石。一夏との試合を見てはいたが実際に撃たれる感覚は違うものだ。

銃口の向きと体の捻り方から射線を読み、舞うような柔らかい最小限の動きで回避していく。

 

「やりますわね。それなら…!」

 

レーザーライフルが当たらない見るや、後手に回るわけにはいかないセシリアは惜しみなくビットを射出する。

それに呼応し翔も動きを一変させる。サイファー本来の速度とVターンを組み合わせた機動にシフトし、ビットから発振されるレーザーの火線を振り切っていく。

 

「やっぱ、簡単にはいかないな…」

 

翔はビットによる苛烈な攻撃に晒され合間を縫ってダガーを放ってはいるが、ビットの動きを止めて攻撃の糸口を作るには至らない。見た目にはサイファーの方が劣勢。だが、この程度で折れたりするような翔でもない。

 

 

「すげぇ……」

 

その様子を見ていた一夏は言葉を失っていた。

訓練では見ることのなかった本当のサイファーの動き。それを操りレーザーを一本も掠ることなく潜り抜けていく翔。

セシリアの動きも昨日とうって変わってキレのあるものになったが、動作の節々に無駄が見受けられる。しかし翔の動きにはそれがない。

一夏は自分と翔の一年半の差の大きさを痛感していた。

一方で、

 

「何でもっと攻めないんだ…」

 

それだけの実力がありながらセシリアを攻めきれない翔が、一夏にはもどかしく見えていた。

 

「大馬鹿者」

「いてっ!」

 

そんな様子に呆れた千冬が一夏の頭を出席簿で叩く。

 

「お前は何故大沢が攻めないか解らないのか?」

「なぜって…」

「あの機動力のためにサイファーが何を犠牲にしているか、想像が付きませんか?」

 

山田先生の言葉に一夏がはっと思い出す。それは以前から翔がゲームで好んで使っていたキャラの特性。

 

「……まさか、防御力…?」

「その通りです。サイファーはシールドバリアが薄くて絶対防御が発動しやすいんです」

「あれはお前の白式のように気軽に攻撃を食らえない、ミスは許されない機体なんだ」

 

「翔……」

 

そんな無茶な機体を使っている翔が一気に心配になる。

 

「安心しろ。そろそろだろう」

「え……」

 

その言葉の通り、一夏が視線を戻した途端、サイファーは再び動きを変えた。

 

 

ビットの攻撃を回避しなら、連射力や発射パターンの中に生じる穴を見つけた翔。横方向への長い移動にビットの包囲が解けた一瞬を付いて、白式と同じく正面突破を掛けた。

だが、その突撃は囮。昨日の失敗でビットを読まれていると感じたセシリアはレーザーライフルでの迎撃を選択したが、翔は横にVターンして回避、そのままトレースビームとダガーを連続して撃ちだす。

誘導性の複合弾幕の回避に集中力を奪われたセシリアとビットの動きが完全に停止するのをついて本命の接近を掛ける。

 

「させませんわ!」

 

しかし、セシリアもそうはさせじとミサイルをサイファーに向かって発射した。が、

 

「そんなっ!?」

 

イグニッションブーストVターンにミサイルの追尾は完全に振り切られてしまう。

そのまま、クロスレンジに突入したサイファーがビームソードを発生、左からの横薙ぎでブルー・ティアーズを斬りつけた。

咄嗟に体を庇ったライフルを切断されながらも、ここで終わるセシリアではない。

 

「インターセプター!」

 

格納されていたショートブレードを呼び出し、続けざまの右薙ぎをしのぐ。

だが、近接戦は圧倒的にサイファー有利。さらに翔はQSで回り込み三合目を狙う。

 

(なんて軌道!?…ですが!)

 

セシリアもハイパーセンサーでしっかりとサイファーを追っている。そして次の斬撃も横薙ぎと見定めて、さらにトップアタックを警戒し機体を上方に飛ばせた。

 

「もらった」

「え…」

 

その動きを待っていた翔が、後ろ向きにイグニッションブースト、トレースビームを4発撃ち出す。

それは一瞬四方へ拡散したした後、剃刀のような誘導でブルー・ティアーズに囲い込んで収束、すべてが直撃した。

遠距離戦用の通常弾とは違う、至近距離での誘導だけに特化した対空用のトレースビーム。

 

そして、衝撃に吹き飛ばされ制御を失ったブルー・ティアーズを止めのバスターが貫き、試合終了のブザーが鳴った。

 

 

~~~~~~

 

クラス代表決定戦3試合目。

 

「やっぱつえぇな、お前」

 

一夏は翔の強さをゲームで知っていた。それは卓越した戦術眼と劣勢でも決して腐らない精神力。それに、

 

「伊達に代表はやってないさ。それにこれは俺だけの力じゃない。サイファーとこいつを創った博士とうちの皆の力だ。お前もそうだろ?」

 

加えて今はその力を振るうことへの誇りがある。

 

(まずは、翔に追いつかないとな…!)

 

それに並ぶことは、千冬を目標として進む一夏にとっては避けて通れない、もう一つの目標になった。

 

「こっからはエキシビションマッチだな」

「確かにそうだな」

 

元はセシリアとのいがみ合いで始まった決闘。クラス代表も翔は宇宙開発関係が多忙ということを理由に辞退するつもりだったので、セシリアに決まったわけだ。もう翔と一夏が戦う理由はなかった。

 

だが、こうして二人は対峙している。それは、

翔は同じVPを持つ織斑一夏と白式を知りたいと、

一夏は新たにできた目標である大沢翔と自分との差を確かめたいと、

そう思ったため。

 

「だから、近接縛りにしようぜ。その方がギャラリーも沸くしな」

 

翔がビームソードを展開して提案する。

 

「わかった。胸を借りるつもりで、本気でいくぜ!」

 

一夏もそれに応え、雪片弐型を正眼に構える

 

「ああ、来い!」

 

 

 

試合開始の合図と共に、二人は一直線に加速し刃を交えた。白式の逆袈裟斬りとサイファーの居合いがぶつかり合い火花を散らす。

 

一夏が鍔迫り合いから翔を弾き一旦間合いを取るが、すかさず翔は機体を連続QSで振り側面から踏み込み横薙ぐ。それをかろうじて受ける一夏

 

(速い…!)

 

次から次に先手を取られて繰り出される斬撃。機体も、斬撃の速度も完全に白式がサイファーに負けている。だが、

 

(パワーは負けてない…)

 

サイファーの斬撃は鋭い反面、それほど重くはない。チャンスがあるならそこだ。それに

 

(エネルギーの刃なら零落白夜で無効化できる!)

 

再び鍔迫り合いになったサイファーをスラスター出力全開で押し返す。

 

「うおりゃぁ!」

 

体勢を崩した翔に向けて、零落白夜を発動した雪片を振り下ろす。

刃を消されると解っているビームソードで受けようとしている翔に、違和感を覚えながら。

 

「がっ!?」

 

一夏は何が起こったのか理解できなかった。ビームソードで雪片を受けることを途中でやめて、横にイグニッションブーストした翔を見たのと同時に体を横からの衝撃が襲った。

ダメージは高くなかったが、零落白夜の分と共にかなりのシールドエネルギーを消耗してしまう。

 

「今のは……?」

「『真空』。簡単に言えばビームの残り香さ」

 

力場によって形成されたビームソードは解除するとその終点に一瞬“振られた刃が残る”、設置攻撃のような状態を作れる。タイミングはシビアだが、回避機動と合わせて相討ちを一方的な攻撃に変えることもできる。

 

再び打ち合いになった二人。

 

それをピットから見つめているのはセシリア・オルコット。

二人との試合、そしてこの試合。ただひたむきに、強い意志を持って己の剣を振るう二人。

母と共に今は亡き父―名家に婿入りし、母に負い目を感じていた父を見て育ったセシリアにとって一夏と翔、二人の姿は衝撃だった。

 

(織斑一夏…大沢翔……貴方たちは一体……)

 

セシリアは二人を知りたいと思った。

全くの素人でありながら自分を追い詰め、偏見から目を覚まさせた一夏には、甘く切ない気持ちを持って。

本気の自分を打ち破った翔には、そのどこか得体の知れなくも感じる強さに自分も近づきたいと願って。

 

 

 

(どうすりゃ…)

 

一夏は追い詰められていた。零落白夜を見せれば回避に徹され無駄にシールドエネルギーを消耗してしまう。

 

(“あれ”が俺にもできれば…)

 

それは翔が時折見せるイグニションブースト。一瞬で間合いに入れば対応させずに斬ることもできる。

 

(こうなりゃ一か八かだ!)

 

完全に見よう見まね。何の根拠もない。ただ、一夏は白式ならできると、そうなぜか思えた。

そして零落白夜を発動、それ見て距離を取ろうとしたサイファーへ、ただ疾くとだけ念じて白式を跳ばした。

 

「おおおおっ!!」

「何っ!?」

 

完全に翔の予想の上を行った一夏のイグニションブースト。袈裟斬りに体を逸らし本体への攻撃はぎりぎり免れるが、ビームソードと共に肩のトレースビームランチャーを斬り落とされる。

 

「このっ!!」

 

ビームソードを消されながらも、返しのサマーソルトキックで一夏を弾き飛ばす翔。

距離を取った二人が再び睨み合う。だが、

 

「一夏、取って置きを見せてやる。来い」

 

一夏と白式の力を目の当たりにした翔は、今の自分の全力をぶつける決心をした。再展開したビームソードを正面斜めに構える。

 

 

 

「あれをやるか…」

『え?』

 

楯無との対戦の映像を知っている千冬だけが理解しているその攻撃。真耶や箒、セシリアは当然何のことか分からないでいる。

 

「瞬きしている暇はないぞ、よく見ておけ」

 

 

 

一夏も零落白夜を使えるのはこれがおそらく最後。待ち構える翔の手に乗るしかない。

 

「行くぞ、翔!」

 

一夏は零落白夜と共にイグニションブースト、飛ぶような景色の中でサイファーを真正面に捉え、上段から雪片を振り下ろす。

 

(捉えた――)

 

しかし、雪片が切り裂くはずだったサイファーは、その瞬間視界から姿を消した。

同時に後ろからの衝撃と共に絶対防御が発動し、力の源を失った光の刃は空へと霧散した。

 

白式を捉えたのはただのしゃがみ下段突き。

しかし、その速度は神速であり、機動はVRISでも翔とサイファーだけにしかできない “イグニッションブースト速度での回り込み”。

それは受ける方にとって、発動と同時に背後から突かれるのと変わりない。

 

『邪神突き』

 

サイファーの後継機、第三世代VR『マイザーΓ』の代名詞ともなった近接攻撃。

苦心を重ね一年近く掛けてようやくVRISで再現、いやそれ以上の完成度で創り上げた、彼らだけの技(オンリーワン)だった。




戦闘3つで6000字予定で書いてたら、8000超えるっていうね…。

BT=バルという安直な発想。それを殺るにはやはりバックスラCWしかない。
そして、回り込みTLW近。
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